(仮題)社会人貞操観念逆転もの   作:社会から取り残されてる感じ

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されど、その種が蒔かれたことには気づかない。


世界は変われども、自らの変化に戸惑いはなく、マーキングな4話

 

 

 

 

 「…………」

 

 「…………」

 

 タクシーに乗って十数分。時友と大滝の間に会話はない。しかし二人の手は重ねられ、大滝の手の小ささが妙に女性であることを意識させた。

 

 大滝がチラチラと重ねられた手を見ながら何か言おうとし、そして辞める。その視線を感じつつも時友はその度握る手に力を入れた。

 

 そうして、大滝を焦らすように揶揄う。昨日までなら全てが許されないだろうが、今ならそれは何も問題ない。

 

 もし仮に、未だ夢の中ならば、もう覚めなくてもいいかもしれない。時友はそう思いつつあった。

 

 そんな無言の、だが以前と違い決して悪くない、ゆっくりとした時間が流れていく。

 

 「とっ時友、そのっ、手をだな」

 

 曲がり角に差し掛かり、大滝がようやく口を開いた。

 

 「手をどうすればいいんですか?」

 

 「その、離してもらいたいんだ。いっ嫌という訳ではないぞ決してっ」

 

 「ならギリギリまで、いいじゃないですか。もうすぐですから」

 

 「あっ」

 

 時友はその手を引っ張ると、力なく大滝は時友の肩に倒れこんだ。首筋に大滝の髪が当たり、擽ったい。

 

 「そこで降ります。金はこれで」

 

 「あっおい私が」

 

 「いいからいいから」

 

 家の前に着いたタクシーを停め、用意していたお金を払う。これまで飲み会があれば大抵タクシーで帰っていた時友は、最寄駅から自宅までのタクシー料金は凡そ分かっていた。

 

 恐らく端数の分少し多く支払っているだろうが、そのお釣りを貰うよりも先に、大滝の腕をとってタクシーから降りる。体勢を崩していた大滝は時友に引っ張られ、タクシーから降りたことを確認すると、時友は強引にドアを閉めた。

 

 「行ってしまった……」

 

 茫然と行ってしまったタクシーを見ている大滝をよそに、時友はその手を引き、オートロックのカギを開ける。

 

 「おっおぃ時友っ、どこに」

 

 「もう分かってるんじゃないですか?」

 

 「私は女だぞっ、やろうとしていることの意味、分かってるのか?!」

 

 「ここです俺の部屋」

 

 「聞いてるのかっ!」

 

 大滝を無視してカギで扉を開けると大滝を玄関に強引に引っ張る。中に入ったのを確認し、カギを閉めた時友は、大滝の肩を掴み、扉に押し付ける。

 

 そうして混乱をしている大滝に強引に唇を重ねた。大滝の薄い唇に数度、リップノイズがわざとするように。

 

 「んっ、んぅっ、はぁ、はぁっ、なっ何を──」

 

 「さっきできなかったし、それに」

 

 したかったでしょ? と妖しく笑う時友に、大滝はゴクリと喉を鳴らした。

 

 その反応を見た時友は、今度は舌で唇をチロリと舐めると、唇が重なるか重ならないか、ギリギリの距離で大滝を焦らす。

 

 息遣いが徐々に荒く激しくなる大滝の目をジッと見つめる。目に見えて大滝の顔が欲望に満ちてきているのが分かる。まるで熱で融ける氷のように、大滝の本能が理性を揺さぶっているのだ。

 

 ふぅっ、と大滝の唇に息をかける。さっき舐めた時の唾液が冷たく、それがより大滝に現状を理解させた。

 

 「もうっ、我慢できるかぁ!」

 

 時友に掴まれていた手を外し、大滝は右手で時友の顔を寄せキスをした。興奮で理性を失っているようで、強引に舌を入れると、時友の口内を蹂躙する。

 

 「んぅぅ、ふぅ…っ、はっあぁ」

 

 くちゅ、くちゅと舌が絡み合い、お互いの唾液が混じり合う。そのうちに口端から唾液が溢れたが、そのことにすら気付かないほど、キスに没頭している。

 

 いつの間にか何もせず固まっていた大滝の左手は時友の体を撫でている。

 

 「んぅぅぅ……っ、あぅ、はぁはぁ」

 

 ズズズ、と音を立てて大滝の舌を唇で挟み吸うと、ビクンと大滝の体が揺れ、ようやくキスで近づいた距離が離れた。ねっとりとした唾液の橋が、真ん中から重さに耐え切れず下に垂れていった。

 

 時友はこれまで離れていた距離を埋めるかのように、再び大滝の肩を掴み引き寄せた。

 

 「まっ待って──んっ、ふぅ……っ」

 

 軽く達したのか大滝の抵抗はゼロに近く、時友は行為を続けた。舌で歯列をなぞり、上あごを優しく撫でる。その度震える大滝を強く抱きしめた。腰の細い大滝には簡単に腕が回り、女性らしい柔らかさをジャケット越しに感じる。

 

 やがてそのジャケットでさえ邪魔に感じ、器用にそれを脱がしていく。真っ白なシャツには垂れた唾液でポツポツと濡れた跡があり、黒い下着の色が僅かに、いやらしく透けている。

 

 大滝の豊かな胸で押し出され、前に弧を描くネクタイは時友を興奮させた。結び目を左右に引っ張り緩めていく。そうして緩まったネクタイを強引に外すと、片手で上から2番目までボタンを外していく。

 

 「──はぁっ…あっ、あぁぁ……っ」

 

 絡み合っていた舌が離れた。呼吸が満足にできないほどに濃厚な口づけは、名残惜しそうに舌をギリギリまで合わせて、ゆっくりと顔を見合う。視線を下げれば、白い首筋が露わになり、見え隠れしている鎖骨は時友を麻痺させた。

 

 「あぁぁっそこはだめだぁ……っ」

 

 甘い蜜に誘われた蝶のように、時友は大滝の首筋に顔を近づけ、そうして口をつけた。舌で大滝の首筋を舐め、時に甘く歯を押し付け跡をつける。

 

 「んぅぅ……っ」

 

 荒い息遣いで大きく揺れる大滝の体は、時友が強く抱きしめると、ピンと張った糸のように固まった。

 

 その間にも器用にボタンは外され、パンツの中に仕舞われていた白シャツがだらしなく引っ張り出されると、やがてすべてのボタンが外された。

 

 「あっくぅ、こらぁっはぁはぁ、いつの間にぃ……んぁぁっ」

 

 黒いブラジャーで支えられた豊かな胸が、上下する肩に呼応するかのように、柔らかに揺れている。お腹にはうっすらと縦線が走り、興奮で熱くなった谷間から垂れていく汗が艶めかしい。

 

 その汗を舐めとっていく。わずかにしょっぱいが、気にせず胸に向かって舐めていく。

 

 「ときともぉ、はっああ……ときともぉっ」 

 

 そのざらついた舌の気持ちよさに我慢できず、熱っぽい視線で時友を見つめる大滝は、無意識のうち快楽を求め、時友の太ももに腰を預け、擦りつけた。

 

 愛しさを感じて、時友の頭を抱きしめている。

 

 時友はその反応を見ると、胸元に舌を這わせた。そうして片方のブラ紐を肩からおろすと、思い切り吸い付いた。

 

 「はぁはぁっんぅっ、ああああああああああああっ」

 

 抱きしめる力をコントロール出来ないほど蕩けた大滝は、胸にうずまる程時友を力いっぱい抱きしめた。

 

 そうして、力がすべて抜けた大滝はドアを背に座り込むと、荒い息とともに気を失った。

 

 

 

 ◇ ◆

 

 

 

 久しぶりによく寝た。  

 

 カーテンから漏れる日の光が、大滝を心地よく目覚めさせた。しかし、目を開けるには勿体ないほどの心地よさ。二度寝ができるかもしれない。大滝は珍しくそんなことを思った。

 

 ここしばらく大滝は軽度だが睡眠障害を患っていた。原因は時友の件だ。自分を責め続けている大滝にはあの時の後悔が脳裏から離れなかったのだ。

 

 「しかし、あんな夢を見るとは……情けない」

 

 目を閉じながら思い起こす。夢の中で大滝は性行為をしていた。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 その相手は、時友だった。

 

 夢の中では舌で攻めている時友の頭を押さえていた。

 

 「ちょうどこの位の重さだったか」

 

 腹部に感じる重さが夢の時友を思い起こさせる。まるで夢がまだ続いているかのような感覚だ。大滝は夢のように手を伸ばすと、毛に触れた。

 

 「そうそうこんな感じの髪の毛で」

 

 「にゃあ」

 

 「……にゃあ?」

 

 目を開け首を起こすと、そこには猫がいた。真っ白な。腕を舐めながら、大滝の腹に座っている。

 

 「ねこ?」

 

 グルーミングをしていた猫は満足したのか、大滝が寝ているベッドから飛び降りると、尻尾を揺らしながら歩いて行った。

 

 体を起こして見回すと、テーブルの位置からすべてが自分の部屋と違っていることに気づいた。

 

 「どこだここは。というか昨日私は……どうしたんだったか」

 

 定時で帰社して、居酒屋で時友に退職願を渡され、タクシーに乗って。

 

 ゆっくりと昨日あったことを思い出していく。そうしていくうちにハッとすべてを思い出し、青ざめていった。

 

 そうしてようやく、思考が加速していった。微睡んでいた間隔が恐怖とともにクリアになっていき、五感がはっきりとしてくる。

 

 「とっ時友と私が……なんてことをしてしまったんだ私はっ」

 

 夢だと思っていたものは夢ではなかった。頭を抱え四つん這いに蹲る。

 

 そんな時、扉が開かれる音が聞こえた大滝はその方向を見ると、

 

 「おーツムちゃん朝から元気だな。今ご飯だすからちょっと待っててなー」

 

 湯気とともに現れたのは時友だった。シャワーを浴びていたのだろう。濡れた頭をタオルで拭きながら出てきた。

 

 「とっ時友」

 

 「あ、起きたんすね。すみません昨日は」

 

 笑いながら近づいてくる時友は、腰にタオルを巻きつけただけで、胸部を全く隠していなかった。

 

 「なななななんて格好してるんだ!」

 

 「? まだ寝ぼけてんすか?」

 

 不思議そうな表情でこちらを見ていた時友は、台所に仕舞っていた猫のえさを皿に入れていた。カリカリという音が何だか不思議と耳に心地よさを感じさせるが、その恰好は心臓に悪い。

 

 「いいから服を着ろっ」

 

 朝から刺激的すぎる光景に、大滝は掛布団を被ると目覚めた五感を封じた。しかし、それは全くの悪手であった。

 

 (この匂いは……まずいっ)

 

 女を興奮させる男の匂い。視覚よりも深く興奮させる男の匂い。その匂いが布団には染みついていた。

 

 今は掛け布団で密閉空間だ。大滝の周囲360度全て、男の匂いに包まれている。

 

 (わっわたし匂いだけで……っ)

 

 徐々にせりあがってくる快楽にうずき始めた大滝は、先ほどのことなど忘れて、布団を放り投げた。

 

 「……何やってんすか?」

 

 「はぁはぁ、……何でもない」

 

 情けなさ過ぎてその視線を受け止め切れなかった大滝は、再びベッドに倒れこんだ。

 

 

 

 「じゃあ、その……帰るな」

 

 「駅の場所分かりますか?」

 

 「あっああ、問題ない」

 

 朝食を食べ終えた大滝は、昨日のスーツ姿に着替え帰りの用意をしていた。ちなみにスーツ上下と白のワイシャツは昨晩大滝が気を失った後、時友がしっかりと脱がし、ハンガーにかけておいた。ワイシャツとネクタイはスチームアイロンで伸ばし、しわがなくなっている。

 

 玄関に向かう大滝を見送りに行くと、やけにソワソワした様子の大滝がちらちらと時友を見ていた。

 

 何となく大滝の心理状態が分かった時友は、にやりと口元をつり上げ、大滝の頬に軽くキスをした。

 

 「なっ何を」

 

 「今度は最後までしましょうね」

 

 「ばばばっ、ばかなことを言うなっ!」

 

 「ハハハッ、それじゃあまた月曜日」

 

 「…………」

 

 右手で手を振ると大滝は忙しなく出て行った。最後にこちらを振り返り、少しだけ名残惜しそうな表情をすると、それを振り切って行ってしまった。

 

 「……さてと。ある程度想像はつくが、ぼちぼち調べるか」

 

 ドアを閉めた時友は背中を伸ばしながら、部屋へと歩いて行った。

 

 

 

 




居酒屋にて


店員「お客様大丈夫ですかー? なにやら大きな音が」

大滝「だっ大丈夫だ何も問題ないぞ!?」

時友「…………ハァ」
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