原初の火   作:sabisuke

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 マクバーンさん、一人称が「俺」と「オレ」で揺れてるんですがⅣで「俺」だったのでそちらで統一します。
 最終形態かっこいい…



序章 リーヴス編
1 旅行者の捜索依頼


 

 原初の火があった。

 その時にはまだ生命の気配がない荒野に唯一存在する明かりがそれだった。

 それは後世においては世界を創造した超次元的な存在によってもたらされたものであると言い伝えられている。

 

 大地と呼ばれるべき場所は橙色に輝き、触れたものすべてを溶かしながら流れていく。

 ゆっくりと、確実に、どくんどくんと鼓動を打つような流体の炎。

 今では揺らめくものとして知られるそれが、確かな質量と形をもって存在していたのだ。

 

 原初の火は、空が突然涙を流し始めたことによってその形を失ったといわれる。

 荒野を流れる溶岩が黒く固まり、冷えていった。

 山と谷ができて、涙がそこを伝って川になっていった。

 瞬く間に海ができた。輝きを秘める石は海の中で空の恵みをその中に蓄えていった。

 

 空から降り注ぐ涙を受けて、大地をなめるような焔はやがて天に向かってゆらゆらと揺らめくものに変わった。

 戸惑うような、踊るような無数の腕を持つ炎が誕生したのである。

 

 涙の雫と炎の腕が幾度となく逢瀬を交わし、何に妨げられることもなく幾年月もの時を共にした。

 

 

 

 そうして、世界はできた。

 

 やがて火は涙が作った海の中の大地に生命の火をともした。

 まるで親しい友の戯れのようにいくつもの火がともされていった。

 生命の火は合わさり、まじりあい、分かたれ、そして数を増やしていった。

 

 海がかき抱く生命たちに火は文明と勇気と力を与え、火の眷属たる生命に海は慈愛と情緒と知性を注ぎ込んだ。

 炎と雫が初めて交わってから気の遠くなるような年月が流れたとき、そこには文明があった。

 柔らかく、温かく知性体を照らすのは希望という光である。

 

 海が与えた知性によって炎の力による庇護を生命が必要としなくなったとき。

 炎が与えた勇気によって海の慈愛によらずとも知性体が他者を愛することを知ったとき。

 

 火と水は新たなる形を得たとされる。

 

 

 

 

 

 

 王。炎を体現するもの。火を宿すもの。力。勇気。熱。闘いと勝利。

 

 そのような名前で私の友は呼ばれていた。いくつもの意味がその音節の連なりに宿されていた。

 民衆に活力と力を与えそして羨望と尊敬と憧憬を捧げられるもの。

 それが私の友であり、王だった。

 

 守るもの。戦うもの。

 そういう存在だった。何よりも強かった。

 光の先祖である彼が私にとって尊くないわけがなかった。

 私は彼と逢瀬をかわすために空から飛び降りてきたのだ。

 

 私の原初の火。生命の灯。あなたは今どこにいるのだろうか。

 あの時の私のように星のあわいを彷徨って、銀河を踏み越えているのだろうか。

 それとも力強い山の中で熱く岩を溶かして、飛び出る時を今か今かと待っているのだろうか。

 あなたのことだから、どことも知れぬ天のどこかで、痛いほどの熱の放ちながら、歩んでいるような気もする。

 

 

 不確かな意識と、周囲と一体になったような感覚が心に満ちて、そうして私は瞼を閉じた。

 

 

 世界。いとしい命で満ちた私の故郷。どうかひび割れないで。

 しかし天と地に何条にも走るいびつな線から白い光が漏れている。

 夢の終わりのような、見るだけで心が締め付けられるようなそんな光だ。

 花が。魚が。蜥蜴が。鳥が。人が。なくなっていく。その中で私だけはただそこに在る。

 

 

 どうして、どうして終わってしまうのだろう。

 どうして私は生きているのだろう。

 どうして命たちが終わらなければならなかったのだろう。せめて私をどうか、命たちと同じ死の旅路に送り出してほしかった。

 

 彼らをもっと幸せで輝かしい未来に導きたかった。

 

 どうして。どうして。

 

 胸に去来する後悔と悲しみとさみしさが混ぜ合わさって緑色になって、最後には生ぬるい闇色になっていった。

 すべてがそこから出てきそうなのに、いつまでたっても闇は闇。

 命の火は、例外なく冷たくて白い光に溶けていった。まっさらな場所に、私だけが「個」として存在していた。

 

 

 さみしい。こんな感情を感じるのは久しぶりだ。

 ただそこにあるのがつらくて、今すぐに消えてしまいたかった。

 こんな時にあの炎がそばにあれば。いや、そばでなくたっていい。

 

 何よりもあたたかくて清らかで、懐かしい炎。

 私はあなたがどこかにいるとわかってさえいれば、どこへでも行けるのに。

 なんだってできるのに。

 

 星よ。私を導いてくれ。その揺らめく腕の中に、私を落としてくれ。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 あの世界大戦が終わり、瞬く間にも時は過ぎていこうとしている。戦争と黄昏がもたらした被害は甚大であり、人々を復興に駆り立てた。

 一日も早く、これまでの日常を取り戻そうとする社会の中にはまだ混乱があり、関係者からの手厚い支援が必要であるという皇帝陛下からの声明を受けて、第二分校も事態の収拾のために帝国各地を駆け回っていた。

 大規模な施設が必要になる土木作業は軍隊に、細やかで密な活動はフットワークの軽い遊撃士たちに任せ、自分たちは鉄道と人員の数を最大限に活用した物資の運搬や広域的な支援活動に取り組んでいた。

 

 学生たちも特別カリキュラムで座学・実践を詰め込みながらこの支援にあたり、特別実習は各地への定期巡回として行われていた。

 

 混乱も少し落ち着き、大きな都市ではこれまでの生活を取り戻しつつある冬の日、俺たちはクロイツェン州へと広域支援に赴くことになった。

 先の内戦でケルディックが甚大な被害を受けてからまだ完全な復興をとげていないうちに今回の混乱が経済市場を直撃し、アルバレア公爵家のあわただしさもあってクロイツェン州には重点的な支援が求められていたためだ。

 

 

 「おや、これは……リィンさんではありませんか。先日は魔獣を退治してくださってありがとうございました。」

 「いえ、当然のことをしたまでです。ほかに何か変わったことなどは?」

 「ここの所は特に騒ぎも起きていませんし、平和なものです。ありがたいことに観光客の方もたくさん来てくださっていますし治安も保たれています。本当に皆さんと遊撃士の方のご協力のおかげですよ。」

 「それは何よりです。自分はこれから見回りをさせていただきますね。終わりましたらまた報告に来ます。」

 「ええ、ではお願いします。」

 

 

 広域的な支援といってもやることはこれまでと変わらない。人里に近づく魔獣がいれば退治し、もめ事があれば仲裁し、軍や遊撃士協会との連絡をとりながら人手の足りないところに行く。

 忙しいことには忙しいし、学業と支援任務の両立は学生たちにとっても大きな負担であるだろうが、大きな騒ぎがあったあとで民衆は騒ぎを起こす気力もないのか、案外平和なものだ。

 むしろ外交や内政など頭痛の種の絶えないオリヴァルト皇子殿下やアルフィン皇女殿下のほうがおつらいだろう。

 

 いつか、平穏が取り戻されるのだろうか。この町にも以前の活気がよみがえってくるのだろうか。いや、きっと優しい彼のことだからやり遂げてみせるのだろう。彼を支える人々も彼のそばにたくさんいるから。

 

 小規模ながらも商品を軒先に陳列する大市の様子を見ていると、ひとりの男性が慌てて走ってくるのが目に飛び込んできた。

 

 「リィンさん!」

 「あなたは……風見亭の。」

 

 ずいぶん慌てた様子で駆け寄ってきたのは宿酒場を手伝っている男性だった。

 復興が進むにつれて観光客の足が戻ってきていることを喜んでいたが、今はその顔は汗でびっしょりと濡れている。ずいぶん急いで走ったようだ。

 

 「お忙しい中すみません。先日からとあるお客様が宿泊なさっているのですが、その方がどうやら街道に出てしまったみたいなんです…!」

 「その方は何か武装をしていましたか?」

 「いえ…若い女性で、護身用の武具ももっていないようでした。そ、それにやけに世慣れしてない様子で……なんというか、危ういというか、何かに巻き込まれそうというか……」

 「なるほど。状況はわかりました。その方の行き先に心当たりはありませんか?」

 「多分自然公園だと思います。西口のあたりで彼女を見たという人がいたんでね。そのお客様はヴェールを被っていて黒いワンピースを着てらっしゃるので、すぐにわかると思います。」

 「了解です。ありがとうございます」

 

 

 

 そのまま西口から西ケルディック街道に出て、走って自然公園まで向かうが、道中には人影がない。少し前に人が行き来した形跡があって、それだけだ。

 特に凶暴な魔獣もいないが、その旅行者が負傷していないとも限らない。

 そう長い道のりではないから自然公園まではすぐにたどり着くことができた。

 まさか中に入ってしまったんだろうかと出入り口を確認したが、しっかりと施錠されている。ということは旅行者は街道にいることになる。

 

 

(どこだ……?)

 

 

 来る途中まではどこにもいなかったのに。もしかすると分岐しているところで道を間違えてトリスタのほうに行ってしまったのかもしれない。

 急いで引き返すと、自然公園のそばにある民家から、話声が聞こえてきた。

 そういえば特徴のある服装だと言っていたから、農家の方が見ていたらきっと印象に残っているだろう。

 

 「ごめんください」

 

 そう思って家に立ち入ると、正面すぐのテーブルには一人の若い女性がこちらに背を向けて腰かけていた。

 服装は黒のワンピースに黒のストッキング。そして頭には精巧なレース細工の施されたヴェールを被っている。

 間違いなく、宿の主人が言っていた人だろう。

 

 「おや、今日はお客さんが多いね。どうしたんだい?」

 「突然すみません。リィン・シュバルツァーと申します。ケルディックの宿の方がそちらの女性が街道に出てしまったと心配なさっていて、探しに来たんです。」

 

 

 

 「あら、私のことですか?」

 

 

 

 のんびりと振り返った女性は、穏やかな顔つきをしていた。服装に乱れもなく、魔獣に追い掛け回された様子もない。

 

 「お怪我がないようで何よりです。何か危険な目にあったりなどはしていませんか?」

 

 一応、と思いその女性に尋ねるとその女性は柔らかな色をした目をやや見開いてぱちくりと俺を見つめ返してきた。薄い唇が半開きになっており、なんだか驚いている様子だ。

 

 「……あの?やはり何かあったのですか?」

 

 彼女は何に驚いたのだろう。不審に思い尋ねてみると、彼女はいたって平静な様子で声を発した。

 

 「あ、すみません。ご心配をおかけしたようですね。自然公園があると耳に挟んで足を延ばしたのですけれど、閉まっているとは思いませんでした。それ以外には、何も。」

 

 動揺している様子には見えない。いたって平常で、普通だ。動揺したことを隠そうともしないし取り繕っているようでもない。

 

 「そうでしたか。宿の方が心配していらっしゃいましたよ。帰りはご一緒させていただいてもよろしいですか?町まで送ります。」

 「シュバルツァー様、でしたね。本当にありがたいです。よろしくお願いいたします。」

 

 

 農家の方と歓談していた様子の彼女はのんびりとお茶を飲んでいる。もう少し楽しんでから帰るらしく、農家の方にケルディックの名物について聞いていた。

 なんというか、マイペースな人だ。

 

 「そんなにかしこまらないでください。自分はただの教師をしている身ですから」

 「先生なんですね。何を教えていらっしゃるんです?」

 「帝国の歴史ですよ。」

 

 

 機甲兵の取り扱いや武術教練なども担当しているが、帝国史を教えているのも事実だ。ふんわりとした事実をそれとなく答えると彼女はそうなんですね、とのんびりうなづいた。

 女性はどうやら帝国にきて日が浅いようだ。農家の方は自分がケルディックにきていることを先日から知っているからともかくとして、自分のことを知っているようでもない。

 もし彼女が数か月前から帝国に滞在しているとなれば自分の名前くらいは聞いたことがありそうなものだが、自意識過剰というわけでもあるまい。

 

 女性は紅茶の入ったマグカップをテーブルに置くと、これまたのんびりと立ち上がってのんびりと農家の女性に礼をした。

 

 「マダム、おいしいお茶と素敵なお話をありがとうございました。何も返せるものがなく心苦しい限りではありますが、しばらくはけるでぃっくに滞在しておりますので、何かあれば力にならせてくださいね。」

 「いやいや、あたしも楽しかったから気にしないでくれ。」

 「別の町に移るときにはご挨拶に伺いますね。それでは失礼いたします。よき縁のありますように。」

 

 成人女性の落ち着きと礼儀を備えた女性だが、どこか風変りだ。宿の男性が「世慣れていない」と評したのもうなづける。

 動作がゆっくりとしていて、歩くのも、しゃべるのもゆっくりだ。いや、話し方に関しては舌足らずというべきか。

 いずれにせよ、なんだかちぐはぐな印象を受けた。だというのに不審な印象は受けないのだから不思議なものだ。街道の風景にはまるで絵画の一部であるかのように溶け込んでいる。

 

 

 

 「そういえば、お名前をうかがってもよろしいですか?自分はリィン・シュバルツァーといいます。」

 街道をゆっくりと、しかし確かに一歩ずつ歩みながら尋ねると、彼女はにこりと微笑んで答えた。

 「ニクスです。」

 「ニクスさん、ですか。ケルディックには観光で?」

 「ええ、それももちろんあるのですけれど、」

 

 そして彼女は不思議な色の瞳をこちらに向けてつづけた。薄い唇はきっちり対称のほほえみを形作り、そしてまた声に合わせてゆったりと動く。

 

 

 

 「人探しを、しているんです。」

 

 

 

 「人探し、ですか。」

 「はい。これまでは小さな地域を回っていたんですけれども、大きな国のほうが人が多いってことに気づいてそれで帝国に来ました。」

 「どんな方ですか?自分は帝国の各地に行くことがあるのでお手伝いができると思います。」

 

 帝国は広いが、世間は案外狭い。知人の知人が恩師だったり、父親の部下の息子が親友になったり、果ては父親の前世での恋人が自分の母のような存在であったりするのだ。

 知り合いに聞いて回れば何かわかることもあるだろうと思い聞いてみると彼女は困った顔をした。

 

 「それが困ったことに、最後に会ったのはずいぶん前のことでして。加えてとても気まぐれな人ですから髪や目の色ですらわからないんです。」

 「えっと……それって……」

 

 要は外見がわからないというのだ。所在や仕事などがわかっていないならばともかく外見までわからないとさすがに探しようがない。

 

 「でもきっと見つけたらその時はわかると思います。」

 「そうなんですか?」

 「ええ。とても浮世離れした人なんです。常識が通用しなくて、型破りで、とても信じられないような。だからきっと見つけられると思っています。」

 

 こののんびりした女性が浮世離れというくらいなのだから、その人は相当なのだろう。

 

 「えっと……手掛かりはほかにありませんか?あればそれを頼りに自分も知り合いに聞いてみますが。」

 「そうですねぇ、たぶんそんなに老けてはいないはずです。私と同い年ですから。あとは男性で、楽しいことが好きで活動的な方です。」

 昔そうだったというだけなんですけれどね。

 

 街道をゆっくりと歩いていても、彼女の話す速さもゆっくりだからなんだかんだと情報を聞き出しているうちに町の礼拝堂が見えてくる。

 個人を特定できるような情報は何も聞き出せなかったが。

 

 

 「あら、つきましたね。本当にありがとうございました。旅をしていてお返しなんて何もできないのですけれど、せめてこちらを受け取っていただけますか?」

 

 

 そう言って彼女は不思議な宝石を差し出してきた。通常の宝石とは何かが違う。

 七耀石の結晶は属性に応じた色の光を放つが、これはそうではない。しかし黒ゼムリア鉱などの濁った色をしているわけでもない。

 それが持つ色は透明というのが一番近いだろうか。白でもなく、青でもなく、紫でもなく、しかしそのすべてであるような色。

 なんという名前の石かはわからないが希少価値の高いものであるということだけはわかる。

 

 「そんなに価値の高そうな宝石、いただけません。自分はこの辺りの見回りをしていて、ニクスさんをお送りするのもその一環でした。それに危険な魔獣と戦闘をしたわけでもありませんから……」

 「これ、価値が高いんですか?」

 「え……」

 

 

 彼女はきょとんとしている。

 そしてまるで砂浜に転がった貝殻であるかのようにそれを太陽の光にかざした。

 

 

 「あ、あまり強い光を見つめないほうが…」

 「う、まぶしい……」

 

 忠告もむなしく、光は収束して彼女の網膜を焼き、彼女は持っていた石を取り落として目をかばう。

 

 「だ、大丈夫ですか?」

 

 ふらふらと揺れる彼女の状態を確認するために石を拾ってから彼女の顔を覗き込むと、ぎゅっと閉じられてしわの寄っていた瞼から力が抜けていく。やがてゆっくりと瞼が開かれた。

 

 「ま、まぶしかった……」

 「俺の手が見えますか?」

 「はい…指が二本……お騒がせしました。見え方には問題ないのですけれど、まだ少しくらくらするので今日はもう宿で早めに休むことにします。」

 「そうしてください。宿までですが送りましょう。」

 

 足取りがふらふらとしていて、このまま放置していたら通行人にぶつかるかもしれない。風見亭に彼女を保護したことを報告しなければならないのだからどうせ行先は一緒だ。

 

 「ニクスさん!お怪我がなくてよかった。心配しましたよ~」

 「ご心配おかけしました。シュバルツァー様も、改めてありがとうございました。」

 「いえ、当然のことをしたまでです。ですがどうか次に街道に出るときは誰かを連れて行ってください。」

 

 骨格や手のひら、視線の動かし方を見る限り何か武術をたしなんでいるわけではないようだし、銃や導力器を持っている様子もない。彼女は完全な手ぶらだ。せめて薬くらいは持ち歩いてほしいものだが。

 

 「ええ。心得ました。それでは皆様おやすみなさいませ。」

 

 そうして彼女が上階の部屋に入ると、手伝いの男性は少しはしゃぐような様子を見せた。

 

 「リィンさん、ありがとうございました!彼女、うちに泊まりはじめてからまだ3日くらいなんですがちょっと心配になっちゃうんですよね~」

 「気持ちはわかります。なんだかふらふらしているというか、地に足がつかないというか。」

 「そうなんですよ!やっぱり貴族のお嬢様なんでしょうか?言葉も丁寧ですし。」

 「さぁ……」

 

 貴族にしてはやけに身軽だ。服装も質素だし、何より貴族の令嬢だというのなら街道を武装なしで歩くとしてもっと警戒をするのではないだろうか。

 ポケットのない服でカバンやポーチも持たずに本当に身一つで未知の場所に飛び込んでしまう人間がいるだなんて、本当に今が終戦後でよかった。

 

 「ん……?」

 

 元締めへの見回りの報告を済ませて列車の止まっている演習地に帰投するために街道を走っていて、ふと思った。

 彼女はあの石をどこに持っていたのだろう?

 気づいたらあの石は彼女の手の中にあって、差し出されていた。

 やはりその輝きと同じように、あの石には不思議な性質があるのだろうか?不審なところはないがやはり上の人間に確かめてみるべきだろうか。怪しくはないがどことなくハラハラする。

 これが落ち着いた情勢下での出会いであれば何も気に留めないのだが何分今は世論が世論だ。混乱の種はないに限る。

 とはいえ太陽の光を覗き込むような行為をする人間が工作員だとは思えないが……

 

 

 

 

 

 「あ。」

 

 あの石を持ち主に返していないことに気が付いたのは、もう日が暮れかけた時のことだった。

 

 

 

 

<透明な宝石を手に入れた!>

<クエスト「旅行者の捜索依頼」を達成した!>

 

 

***

 

アクセサリ:透明な宝石

ATS+250 SPD+5

ほぼ透明な色をした不思議な宝石。なぜか導力器と相性がいいようだ。

 

 

***

 

 


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