原初の火   作:sabisuke

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Q.オレドってそんな農業盛んだっけ?
A.3rdでちらっと名前が出てきたときは工業が盛んという描写もなかったし特に市場が拡大してる様子もなかったので農業やってるんだろという予想。(レインズ兄弟もオレドで農業をやっていることになってるし)
ただゼムリアの北端みたいなところなので温室とか使ってるんじゃないかなぁ…


農業している方のファッションのセンス、狂おしいほど好き



16 豊穣の恵み

 「んぁ?アンタもう出ていくのか?」

 「ええ、おはようございます。チェン様にお昼には戻るとお伝えいただけますか?」

 「んー」

 

 午前5時半。

 太陽が出るころに私は宿を出た。冬の冷気がひんやりと立ち込める外にはうっすらと霧がかかっている。白っぽく薄布がかけられたような街に、東側から朝日が差し込んで光が虹色の帯になっている。

 まるで空から手が伸びているみたいだった。

 

 冬の空は高くて、手を伸ばせば透けてしまいそうなほどにまっすぐだ。

 東の空の少し低いところ、夜明けで空の色がだんだんと変わっていくところに一つだけ星が取り残されている。

 

 あの星は夜の名残。夜空の終着点。

 神様が藍色の夜空の布を引き払うと、真っ白になってそのあと朝がやってくるのだ。だけどあの星が空と星空の布をボタンみたいに留めてしまって、夜明けまで夜空が少し残ってしまうのだろう。

 

 太陽が顔を出す。

 宙に舞う塵がきらきらと光って、妖精みたいだ。

 

 「おう、おはようさん。ご婦人、寒くないかい?」

 「おはようございます、おじさま。オレドに取材に来たのですけれど、朝の姿も素敵だと思いまして、日向ぼっこをしていたのです。」

 

 ベンチに座って朝日を眺めていた私に声をかけてきたのは白髪交じりの老紳士だ。農作業に向かうのだろうか、麦わら帽子をかぶって軍手をはめている。

 緑色の上着にオレンジ色のズボン、黒のゴム長靴と紫のマフラー。カラフルで素敵なおじさまだ。

 

 「おじさまなんて歳でもねぇや。おいらは農作業があるってんで早起きもするが、最近の若いのは勤勉なのが多いねぇ」

 「農作業ですか。何を育ててらっしゃるんです?」

 「温室で果物を育ててんのさ。もう冬だから、ベリーの収穫をしねぇと。倅にも手伝えってんだが、これが全然手伝わねぇもんでな。」

 「あら、少し寒いですからお布団が恋しいのかもしれませんね」

 「かぁーーッ!新しく礼拝堂に来たあんちゃんはもう身支度して聖典読んでくれてるってのによ……」

 「お困りでしたら何かお手伝いいたしますよ?農業に明るくはありませんが荷物運びくらいならできるかもしれません。」

 「いーっていーって!気にすんな!オレドはいい場所だからよ、ゆっくりしてってくれや。」

 「ありがとうございます。それではよきご縁のありますように。」

 

 おじさまは家屋の裏手に向かっていった。どうやらそちらに温室があるらしかった。この辺りでは冬場にベリーをたっぷり使ったケーキを食べる習慣があるようで、商品作物を多く作るオレドの農家の方にとって大切な時期だ。

 

 私は原稿用紙を取り出す。

 星の神話を少し書き足してしまおう。

 夜と朝の境目、空が一瞬白くなる時。私たちはまっさらになる。罪も悲しみも忘れて、夜明けを待つだけの気持ちになれる。

 

 空が真っ白になると、私も真っ白になれるのだ。

 

 

 

『星はその命を燃やし光を放っている。

 その光は蛍のように冷たいが、遠く離れた私たちのもとに届く。

 

 獅子の瞳。

 サソリの心臓。

 乙女の涙。

 戦士の槍の穂先。

 

 天に召し上げられた神の召使たち。

 命の清かな光が夜空に灯っている。

 濃紺の薄布を飾る光。

 

 そのすべてが、愛と冒険の物語を持っている。

 

 私はそれを綴ろう。

 夜にあたたかな火の灯るランプの掲げられた家の中。

 その物語が語られることを願ってーーー』

 

 

 

 「金星は、太陽を守る星。

 夜のさきがけでありしんがり。夜空を縫い留める大きなボタン……と。

 何か良い言い回しはないでしょうかね…」

 

 「おばさん何してんの?」

 

 「あら?」

 

 顔を上げると、そこに太陽を背負って立っている誰かがいる。

 赤色の頭巾をその頭に巻いた、若い男の子だ。

 

 「あんた、観光客だろ?早起きしてるってのに市に行かなくていいのか?」

 「市?市場が開かれるのですか?」

 「ああ。オレドの農作物は全部そこに集まるんだ。オレドに来る観光客はみんなそれを見に行くぜ。なんなら案内してやろうか?」

 「あら、よいのですか?何かご予定があるのでは……?」

 「いーっていーって!俺には特に大事な用事なんてねーから。」

 

 そう言って大通りのほうに歩きだす赤い頭巾の少年を急いで追いかけると、彼は曲がり角をいくつか回って広場に案内してくれた。

 広場には鮮やかな色のテントが張られていて、農家の方々が作物を並べていた。小麦粉やポテトなどの寒い場所で作られるような作物だけでなく、温室で栽培された色の良い果物や野菜も多い。

 山岳地帯で作られるコーヒー豆も名産品の一つだ。行商人がコーヒーの試飲を勧めてくれる。それを受け取ると別の商人が竹の串にさしたリンゴの試食を渡してくれて、向こうでまた誰かが私のことを呼んでいる。

 

 にぎやかな場所だ。

 ヒトの活気に満ち溢れている。

 いつの間にか男の子とはぐれてしまっていたけれど、右を向いても左を向いてもおいしそうな食べ物と元気な人がいて、目があちらこちらへと移ってしまう。

 朝靄の冷たい静けさなんて嘘だったのかと思ってしまうほど、市はあったかくて、人の声であふれている。

 

 私は果汁の滴る甘いリンゴをかじってコーヒーを一口飲み、両手がふさがりながらも人の波をよけて声のする方に向かった。

 

 私を呼び寄せていたのは、なんとチェンだ。

 会うのはお昼になるだろうと思っていただけに驚いた。

 

 「チェン様!」

 「ハァイ、ニクス。やっぱり市に来たのね。来ると思ってた。

 せっかくだから一緒に回ろ?母さんに買い物頼まれてるんだ。」

 

 エプロンと三角巾を外して身軽な少女は、私の両手を見て笑っている。人の波を避ける途中にもいろんなものを渡されてしまって、私はもう何をどうやってこの手に持っているのかすらわからなかった。

 

 「ありがとうございます。でも私、男の子に案内していただいたんです。まずはその方にお礼を言わないといけません。」

 「男の子?それってどんな子?私知ってるかも。」

 「そうですか?えっと…赤い頭巾を頭に巻いた子でーーー」

 「これはバンダナ、って言うんだぜ。おばさん。」

 

 声をかけられて振り向く。そこには先ほど私を案内してくれた赤い頭巾の男の子がいた。

 

 「あら、先程の。」

 

 ちょっと傷のついたズボンのポケットに手を入れて佇んでいる彼に案内してくれたお礼を言おうと思ったのだが、チェンがやけに顔を苦々し気にゆがめてた。そばかすのある鼻筋にはたくさんのしわが寄ってしまっている。

 

 「げぇっ。アンタだったわけ?道案内なんて殊勝なことしてるとは思わなかった。」

 「ばぁか。サボりに決まってんだろ?」

 「そんなんだからいっつもおじさんに怒られるんでしょ!」

 「うるさい赤毛。」

 「違うもん!もう茶色いから!」

 「染めただけで変わったって?」

 

 「もう知らない!ニクス、行こ!」

 「え、あ、あの……あ、ありがとうございました。よきご縁を!」

 

 口をはさむ暇もないほどの口論の応酬が落ち着いたと思ったら私はチェン様に手首をつかまれた。私の手を引きずんずんと進んでいく彼女に従って、私も前へ前へ進もうとする。

 男の子は、ただそこに立っていた。

 私がお礼を言うと、彼は器用にポケットに手を入れたまま肩をすくめ、そして振り返ってどこかへ去って行ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ああ、本当に腹が立つ~……どうしてあんなこと女の子に言うの!?

 ニクスのこともおばさんって言ってたし、ほんと信じられない!」

 「チェン様、私が若くないのは本当ですから、お気になさらずに……」

 「本当だとしても言っちゃダメなの!」

 「は、はい……」

 

 白いクロスのかけられたテーブル。彼女は自分で用意したハムと瓜のサンドイッチをバリバリかじっている。

 市で買い込んだコーヒーを少しストロングに淹れて、私はアップルのマフィンをお供に朝食の時間を楽しんでいた。

 

 気に入らない、気に食わないと言いながら彼女はクランチチョコレートの小さな袋を開ける。ガリッと音をさせながら犬歯で砕く姿が彼女の素なのだろうか、一連の動作は随分と手慣れて見えた。

 

 「ねえ、そう思わない!?」

 「私はあの方のこと何も知りませんから、何も言えませんねぇ。あの方にもあのように言った理由がおありなのかもしれません。」

 

 そう言うと彼女は少し考えこんで、チョコレートを呑み込み、コーヒーを呷った。

 

 

 「………あいつはね、私が髪を染めてるのが嫌なの。髪を染めるくらい自由だと思わない?それに私も母さんも、お金がかかるのを我慢して染めているのに。自分はブロンドだからってバカにして!」

 「髪の色、とっても似合っていますよ。気を落とさないでください。」

 「ありがと。―――私もお母さんも、もともと赤毛なの。

 でもね、私たちが元々住んでたところでは赤毛ってちょっと怖がられてて。それで居心地が悪くなってオレドに来た。似合わないってわかってたけど髪も茶色に染めて、宿を開いて母さんと二人で頑張ってるのに、アイツはよそ者が気に食わないの。

 自分はちっともおじさんの農作業手伝わないくせに。」

 

 コーヒーの苦みか、それ以外の理由か、彼女の眉間のしわは取れない。

 

 「……きっと二人もわかり合える日が来ます。彼はあなたの赤毛が好きだったのかもしれません。だから茶色になって少し残念に思っているのかも。」

 「そんなわけない!赤毛でいていいことなんて何にもなかった!」

 「私は赤い髪をしたあなたにもあってみたいですよ。素敵に決まっています。」

 

 チェンが私を見た。

 私もチェンを見る。彼女の眼はペールブルーだ。まるでパステルの絵の具みたいにきれいな水色をしている。よくよく見ると確かに睫毛はイチゴの色をしている。前髪から透ける眉も、髪より赤っぽい。

 

 チェンは、ため息を一つついた。

 

 「……考えとく。オレドでは偏見も薄いから、決心がついたら赤毛にしてみる。」

 「私はこれまでしばらく帝国にいましたけれど、あんまり赤毛の人への偏見はありませんでしたね。これも地域差なのかもしれません。」

 「ほんと?オレドじゃなくて帝国に行くべきだったかなぁ……でも帝国人って怖くない?」

 「いいえ。お優しい方ばかりでしたよ。オレドの方と同じくらい。」

 「へー。」

 

 「そういえばニクスの故郷ってどんな場所?旅に出る前はどんなとこにいたの?」

 「海の近くです。いつでも海が見えるところに家があって、よく泳いでいました。

 サンゴでできている家具もあったんですよ。」

 「へー。サンゴってどんなの?聞いたことはあるけど見たことはないや。」

 

 本当のことだ。私が多くの時間を過ごした神殿は海の近くにあったし、なんなら神殿自体が半分沈んでいたので私はずっと水の中を揺蕩っていた。

 階段はサンゴと大理石でできていて、貝殻や真珠がわずかに入り込む光を反射してぼんやりと光っていた。

 

 「いろんな色がありますよ。赤や黄色、青いものもあります。けれど私の家にあったのは大半が白かったですね。」

 

 そう。白かった。

 私がいた神殿のサンゴはもうずっと前に死んでしまって、真っ白になっていた。

 

 「へー……以外かも。黒い服ばっかり来てるから、黒い色が好きなのかなって。」

 「私、一番好きな色は赤ですよ。」

 「え、どうして?」

 「私では絶対に似合わないですから。赤い色の似合う人は、すごいと思います。」

 

 そう。

 赤い色の似合う人は、強い人だ。

 

 

 

 

 「今、絶対誰かのこと考えてたでしょ。」

 「え?」

 「絶対今私じゃない誰かのこと考えてた!わかるんだから!」

 「そんなことありませんよ。チェン様にはきっと赤い髪も似合うだろうなぁって……」

 

 「ほんとにぃ?」

 

 「ええ。ほんとです。」

 「ふーん」

 

 

 朝が溶けていく。

 ひんやりとした朝が、太陽の光にぬくめられて、こわばった靄もほどけていく。

 人々が起きたときのあくびの息。暖炉についた火。子どもを起こす母の声。

 

 人々の営みが、朝の訪れを祝福する。

 今日を迎えられた喜びを、彼らは言葉以外の方法で祝っている。

 

 そうして夜は、ため息のように去っていくのだ。

 まるであの星が人知れず見えなくなっていくように。

 

 

 

 

***

 

 少し前に空の高みに達した太陽の光が、ステンドグラスの向こうから礼拝堂に降り注いでいる。

 礼拝堂というのはたとえ小さくても光の入る方角を考慮して作られていて、太陽が南中するとステンドグラスの影が礼拝堂の床に映る。まるで女神が降臨したかのようなその虚像を人々は好むため、先程のミサにもたくさんの人が集まった。

 

 そして人々が帰路についたあと、俺は司教の執務室にてオレドの文化について尋ねていた。

 

 「それでは、オレドには豊穣を司る遺跡があるということですか?」

 「ええ。山や泉などの自然に寄り添うように、小さな祠ですけれどもそう言ったものがいくつも存在します。」

 「帝国で異変が起きていた時期、何か平時と違うことは起こっていたでしょうか?」

 

 遺跡や古くからある施設には至宝や古代遺物にまつわる何かがあると考えていいだろう。そしてそれを嗅ぎつけた≪結社≫の人間がそこに足を運んでいる可能性も、また十分に考えられるものだった。

 

 「さぁ……住民には外出を控えるように促していましたから、何とも言えませんな。」

 「成程。ありがとうございます、司教。時間が空きましたらそちらを見に行ってみます。」

 

 「そうなさるとよいでしょう。

 ……その若さで騎士としての重責を背負うには辛いこともあるかもしれません。しかし女神はいつもあなたを見守っています。くじけずに、精進するのですよ。」

 「はい。自分には支えてくれる仲間がいますから、彼らとともに邁進する所存です。」

 

 司教は近隣の村へ日曜学校に行く俺を見送ってくださった。

 オレドの方は騎士団の行いにも理解があると聞いていたが、予想以上に手厚いサポートをしてくれる。遺跡に行きたいと申し出れば近隣の村への出張を言づけて下さるし、礼拝堂教典もいい状態のものを読める。

 情報収集の滑り出しは順調と言っていいだろう。

 

 ニクスは大丈夫だろうか。オレドの方は温和な方が多いから揉め事に巻き込まれることはないだろうが、どうにも心配だ。

 さすがの俺も、彼女が≪蛇≫の調査に駆り出された理由くらいはわかる。

 

 火焔魔人へのカウンターだ。

 異能には異能で対処せよ、との考えだろう。ただ本人の言葉が本当であるならば、彼女の異能には火焔魔人ほどの“出力”がない。出くわしたら昔なじみの誼で手加減してくれることを期待するしかない、と彼女は言っていた。

 

 全く不安になることを言ってくれるものである。

 当人は『嫌な予感がしないから大丈夫だろう』と楽観的だった。彼女にとって気がかりなのはちょっかいをかけてきた総長の方なのだろう。

 あのお方も過剰なまでに忙しいはずだというのに、いつの間にか『管理者』である俺の目を盗んでニクスに接触しているのだから恐れ入ったものだ。

 

 何だか二人の間にただならぬものを感じるのは、きっと俺の気のせいだろう。なんというか、どことなく心臓に悪いから総長の気まぐれも程々にしてほしいと思う。

 

 

 

 

 

 ふと、視線を感じた。

 

 

 

 ニクスだろうか。行動範囲が被らないように事前に打ち合わせをしていたとはいえ近くを偶然通ることもあるか。

 

 いや、あり得ない。

 ここはもう街道、街の外だ。彼女には間違っても一人で街の外には出ないように厳命している。だとしたら、誰だろう。知らない気配であるように感じられたがもう薄くなってしまっている。

 

 勘付いたと思われるのもまずい。

 ここは気にせずに通り過ぎるしかないようだ。

 

 

 「ゼオ!」

 

 

 だが同行者のことを考えると、保険は掛けておくべきなのだろう。

 

 

 

 

***

 

 今日の私の仕事は『街での観光』だ。人々に話を聴いて、何か困ったことがあればそれを手伝いそれとなく一日を過ごすこと。

 何でもないように思えて、案外この方法が一番情報が集まるらしい。

 

 そう言っていたのはかの士官学院の専任教官だが、彼に相談するべきだろうか。

 オレドの人は気前がよすぎて、ただお話の相手になっただけで薬やリンゴ、果てには本まで譲ってくださる方がいるのだ。

 いただいたのは『人形の騎士』という本の増刷版だが、これが中々面白い。

 いつもはインスピレーションを湧き上がらせるために雑誌などの本を読むことが多いが、物語も面白いかもしれない。人間が大きな人形を自在に操るだなんて、実に夢のある話だ。ハーレクインの扱う不思議な術も現実離れしていて面白い。

 酒場で上機嫌に飲んでいた男性が、適当に買ったけど難しかったからと言ってくださった。彼は今私の真向かいで上機嫌にお酒を飲んでいる。

 

 オレドの人は随分あたたかい。

 オレドは本来寒い場所だ。ゼムリア大陸の北の端に位置し、農作物もあまり実らない痩せた土壌だったという。それが導力革命が起きて、温室の運営コストが下がり、オレドの農夫たちは商品作物を作れるようになった。

 彼らは量を作らずとも単価の高い農作物や嗜好品を作ることで他の国家と十二分に渡り合えるようになった。農業への強い誇りと経済的余裕が、彼らに笑顔をもたらしているのだ。

 

 チョコレートも、コーヒーも、果物も。全てこのオレドの名産品だ。この酒場でも近くの農場から収穫されたそれらを使ったメニューが沢山提供されていた。

 

 

 「おじさま、素敵なご本をありがとうございます。とても面白いですから宿でもゆっくり読ませていただきますね。」

 「ねーちゃんが気に入ったならよかったよかった!俺も荷物が減って一挙両得ってやつよ!」

 「ええ、本当に。オレドには聡明なお人が多いのですね。」

 「勿論だ!なんたって農業先進国だからな~。」

 

 上機嫌にワインをお替りする彼も、農夫であるという。農業というのは実のところ考えることが多い。農薬の成分、肥料の配合、品種改良、そして適切な販売戦略……それらのノウハウは彼らにとって必要不可欠だ。

 オレドの日曜学校ではそういったことも教わるらしい。

 子どもにとっても難しい話も中にはあるだろうが、そういった教育を行うことがオレドを支えていることに違いはない。

 

 古びた扉を開けてさて次はどこに行こうかと通りに出ると、通りの向かいの街路樹に一羽の鳥が留まっている。茶色い羽をもつ大きな鳥だ。

 

 「ゼオではないですか。」

 

 守護騎士の友である彼は、どうやら私に届け物があるらしく、足をクイクイと私のヴェールに引っ掛けてくる。その足には紙が括りつけられていて、どうやらウォーゼル卿からの手紙のようだ。

 

 「これを私に?ありがとう、ゼオ。」

 

 その手紙を取って頭を撫でる。程々でやめてベンチに座るとゼオもひじ掛けに留まった。なるほど、返事をもらって来いと頼まれているのか。

 手紙を開く。小さな紙に書かれているのは単語の並び。

 

 『ラム酒 卵 肉 リンゴ アイスクリーム (ナッツ入り) ゴマ』

 

 「あらあら、買い物のメモですか。」

 

 届け先は教会でいいのだろうか。

 卵や肉はいいとして、ラム酒は聖職者としてどうなのだろう。この世界の聖職者には食の制限はないのだろうか。それにアイスクリームだなんて。いくらオレドが寒いとはいえ溶けてしまったらどうするつもりなのか。

 

 しかし書いてあるものは全て雑貨屋で揃うもののようだし、アイスクリーム以外を買っておこう。ゼオには了解したと伝言を頼んだ。

 雑貨屋は居酒屋にほど近いところにある。飲食店に物品を卸しているからだろう。

 

 ドアを開けると、呼び鈴がカランカランと音を立てた。

 その音に反応して、カウンターに肘をついていた若い店主がこちらを向く。

 長い金髪が特徴的な青年だ。

 

 「あの、ごめん下さい。」

 「はい、何かご入用?今日はキャベツが新鮮なの入ってるよ。」

 「まあ素敵。ではこのメモにあるものとキャベツを一つずつお願いします。

 あっアイスはまた後で買いに来ますから、結構です。」

 「はいよ。ラム酒とリンゴと…肉と卵ね。えーっとあとは……これで全部かな?

 876ミラだ。キャベツはおまけだよ。」

 

 「ありがとうございます。あの、おまけついでに聞きたいのですけれど……」

 「ん?何だい?」

 

 私は店主から袋を受け取るついでに気になっていたことを尋ねた。

 

 

 

 「この町の近くに遺跡ってありますか?

 私、観光でオレドに来たのですけどそういったところを見るのが好きなんです。」

 




ニクスの肉体は「25歳に見える三十路」。
最近の若い女性にありがちな年齢の分からない感じ。

詩人として働いているということでニクス視点の時は彼女独特の言語を使ってもらっています。

あとニクスに対しての周囲の話し方ですが
ニクスに対して敬語→ニクスを人間だと思ってない(神様っぽい何かだと思ってる)
敬語じゃない→人間だと思ってる
という基準で分けてます。
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