原初の火   作:sabisuke

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6 気になる女性

 

 「ねぇアル、どう思う?」

 「詳細は一切不明です。しかし先日彼女は私にルセットでパンケーキをおごってくれました。悪い人ではないと思います。」

 「そうよね~。リィン教官が連れてきたってあたり、ただの旅行者じゃなさそうだけど…。

 でもそれ以上にやっぱり気になるのよね。」

 「同感です。対象はここの所頻繁に分校に出入りしています。調査の結果、蔵書室における書物の閲覧が入校理由で、それ以外の区画には立ち入っていないようです。

 不審な点はないのですが。」

 

 「でもそういうところが余計気になるのよ!悪人じゃないんだろうから友達になれたらいいのに、全然捕まらないし……」

 「パンケーキのお礼もまだ言えていません。」

 

 「よーし、こうなったら二人で協力してあの女の人を探して話しかけてみるわよ!」

 

 えい、えい、おー!

 

<隠しクエスト「気になる女性」を開始した!>

 

 

 帝都近郊、トールズ第Ⅱ分校のあるリーヴスの地にて、こぶしを突き上げ掛け声を発する女子士官学院生が二人。

 一人はユウナ・クロフォード。クロスベル出身の活発な少女であり、所属するクラスにおいてはムードメーカー的存在である。

 もう一人はアルティナ・オライオン。冷静で合理的な判断と特殊な武装から状況を読み取り器用に立ち回るオールラウンダー型のサポーターだ。

 二人はこの時胸から湧き上がる使命感からとあるミッションを開始しようとしていた。

 

 これは哨戒任務ではない。ある日リーヴスに突然やってきてそれから滞在している女性。旅行者にしては世慣れていないというか、素直過ぎてどこか幼い印象を受ける人。

 二人はその女性とお近づきになりたいと思っていた。

 特に理由はないが、強いて言えば女のカンが叫ぶのだ。「気になる!」と。

 

 「まずは聞き込みよね。滞在先のバーニーズからにしましょう。」

 「はい。宿にいなければ対象がいそうな場所を回ってみるとよいと思います。」

 「それだと、本屋と、分校の蔵書室と、ルセットとか?案外すぐ見つかるかもしれないわね!」

 

 二人は知らない。これがリーヴス全体を舞台にした壮大な鬼ごっこの開幕になることを。

 

 

<宿酒場「バーニーズ」 バーニーの証言>

 「長期の滞在を希望しています。1か月分の宿泊費を一気に払ってくださっていますのでもう少しリーヴスに滞在するはずです。とても優しい方で先日デイジーが体調を崩した時には店の前の掃除を手伝ってくれました。

 お散歩をしていらっしゃる日もあれば、部屋から一歩も出てこない日もありますね。今日は朝からお散歩に行ったみたいですよ。帰ってくるのは夕方になるとおっしゃってました。」

 

 

<ベーカリーカフェ「ルセット」 リーザの証言>

 「最近滞在してるヴェールをかぶった女性について?とても礼儀正しい人よね。先週は3回ほど午後2時くらいに小型のパンを一つ買っていったわ。天気のいい日に窓に面した席でパンケーキを食べることもあったわね。

 今日は見てないから、明日はいらっしゃるんじゃない?たまに製パンのことに関して質問されるけど回数を重ねるたびに質問内容が専門的になっていくの。とても勉強熱心な人なんじゃないかしら。

 

 名前や年齢ですか?うーん知らないなぁ……そこまでおしゃべりするわけでもないし。年齢もわからない。成人、しているのかな……」

 

 

 

<本・遊具「カーネギー書房」 レイチェルの証言>

 「最近よく来るね。買っていくのは文具と原稿用紙が多いかな。書籍だと帝国時報や社会に関する本をよく見てるね。あとは雑誌なんかも好きみたい。

 それ以外の事?うーんリィン教官とは前々から仲がいいみたいだけど、最近はトワ教官とも楽しそうに話してたよ。あとは毎回服が黒い。

 今日?来たよ。店を出たら広場を歩いてったけど」

 

 

<セレスタンの証言>

 「ニクス様についてですか?

 え、ああ、彼女のお名前です。苗字はないと聞いています。よく蔵書室を利用しにいらっしゃいます。最初のうちは朝から夕方までずっと本を読んでいらっしゃいましたが最近はほとんどの本をお読みになったようで少し頻度が少なくなりました。

 本日も蔵書室にはいらっしゃいましたが午後にはお帰りになりましたよ。リーヴスの街を探索するとおっしゃっていましたからまだ広場のあたりにいらっしゃるのではないでしょうか?

 彼女自身のことについてですか?のんびりとした方でマイペースでいらっしゃいますね。」

 

 

 

 「……うーん、いないわね」

 「今日の行動はバーニーズを出た後に蔵書室で読書、その後カーネギー書房にて買い物。それ以降は町を散歩したとのことですがルセットにはいなかった、と。」

 リーヴスはそう広くはない街だ。歩いていれば鉢合わせることもあるかもしれないと思っていたが行方すらつかみきれないとは思わなかった。

 

 「ほんとにね。でもトワ教官とか、セレスタンさんとか彼女のこと知っている人はいるみたいだし、こうなったらみんなに聞き込みしていくわよ!」

 幸いまだ夕食の時間までには少しある。せっかくだし心ゆくまで探してみることにしよう。

 気合を入れなおした2人は手当たり次第にすれ違う人々に『ヴェールをかぶった女性』について話を聴いて回り始めた。

 

 

***

 

 「い、いない……」

 「リーヴスにいることは確かなのに、なぜ見つからないんでしょう」

 

 結論から言うと、二人はニクスを見つけることができなかった。教会では日曜学校に参加しているという証言や、村長宅でフランキーの家庭教師をたまにやっているという情報、駅のベンチで列車を眺めていたという目撃情報まで得られたのに、肝心の本人が見つからないのだ。

 正直なところ、ヴェールをかぶった人なんてシスター以外にはそういはしないのだから目撃情報もすぐに集まるだろうと思っていたが、情報が集まっても本人が見つからなければ意味がない。

 

 

 「ユウナにアルティナじゃないか。何をしているんだ?」

 

 そこに声をかけてきたのは、自分たちの担任である男性教官だ。

 今探しているニクスをリーヴスに連れてきたのはほかでもないこの人だと聞いている。どんな経緯があってそんなことになったかは知らないが、あの日は何かおかしかった。自由行動日なのにトワ教官もリィン教官も町に姿を見せなかったのだ。

 いつもなら生徒や町の人々の困りごとを聞いて解決するために朝から走りまわているというのに、だ。

 

 そしてクロウさんがリーヴスに来ていた。クロウさんは≪黄昏≫のあと表立って処理しにくいことを一手に引き受けているらしくほとんど休みなんてないと言っていた。たまにトワ教官やアンゼリカさん、ジョルジュさんと会っているらしいが、それでもリーヴスに来たことはなかった。

 

 思えばおかしなことはあったが、教官に聞いてみても「もう丸く収まったから。あ、この女性は今日からリーヴスに滞在するそうだ。困ったことがあったら助けてやってくれ」とだけ言われた。そんな少ない説明で納得できるはずもないのに。

 

 まるで自分たちのことを幼い子供か何かだと思っている教官にここらで文句の一つでも言ってやろうと意気込み、振りむいた。

 

 「リィン教官!私たち、教官が連れてきたニクスさんっていう女性を探してて―――って」

 「こんにちは。初めまして。」

 

 振り向いて疑問を叩きつけようと思ったら、リィン教官の斜め後ろには今日探し続けていた女性が立っていた。

 

 「あーーーっ!」

 「対象、発見しました。」

 「「???」」

 

 分校から出てきたリィン教官とニクスさんは何が何だかわからないといった様子だ。しかしこれは逃せないチャンスである。呆けている担任教官をアルティナがどかして隙間を作り、ニクスさんの両側を二人で固める。

 自分がニクスさんの両手を取れば簡易包囲網の完成である。

 

 

 「うぉっ」

 「退路を遮断しました。」

 「もう逃がさないんだから!」

 

 「私はユウナ・クロフォード!リーヴスに最近来たって聞いてずっとあなたのこと気になっていたの。」

 「アルティナ・オライオンです。ユウナさんの同級生です。」 

 「ニクスと申します。リーヴスに来てから1週間と少しくらいが立ちました。お世話になっております。」

 「え、?ああ、はい……」

  独特な言葉遣いの女性だ。彼女のお世話をした覚えはないし、アルティナはどっちかと言えばパンケーキをおごってもらってお世話になってる方だ。

 

 「先日はパンケーキをご馳走していただいてありがとうございました。」

 「どういたしまして。おいしいものはいいですよね。」

 「同意します。甘いものはよいものです。」

 

 どうやらアルティナとは波長が合うようでぽんぽんと言葉を交わしている。

 ニクスさんの様子は落ち着いていて、大人の女性と言われても違和感はないが、どことなく顔立ちが帝国人らしくないというか、雰囲気が独特だ。

 化粧っ気のない素朴な格好をしているし、案外自分と年が近いのかもしれない。

 

 「ユウナとアルティナはニクスさんを探していたみたいだけど、何か用があったのか?」

 「大した用事じゃないんですけど、ぜひ友達になれたらなぁって思って。」

 「甘味を愛する者同士、おそらく話が合うかと。」

 「まぁ……ありがとうございます。クロフォード様にオライオン様、ですね。私はこれからしばらくリーヴスに滞在しますから、ぜひよろしくお願いします。」

 「そんなに畏まらないでよ!私のことはぜひユウナ、って呼んで。」

 「わかりました、ユウナ。」

 

 友達なのだから敬語も必要ないのだが、そういう性分なのだろう。

 アルティナもうずうずとしている。ピコピコと揺れる側頭部の髪の毛を見てそれを察したのか、ニクスは

 「オライオン様のことはどのようにお呼びすればよろしいでしょう?」

 「どのように呼んでもらっても構いませんが、私はユウナさんの同級生です。彼女と同等であるべきかと。」

 「それもそうですね。アルティナ、これからもよろしくお願いします。」

 

 ほのぼのした空気に心が和む。

 苦労してリーヴスの町を駆け回った甲斐があったというものだ。

 

 

 コホン

 

 

 そんな空気に水を差したのは教官だ。

 「仲良くなるのはいいことだが、そろそろ夕食の時間だろう?学生寮に戻らないと夕食を食べ損ねてしまうぞ。」

 「えぇ~~っもっとニクスとお話ししたいです!今自己紹介したばかりですよ?」

 「夕食のことが気がかりであれば皆さんでバーニーズで夕食を食べるというのはいかがでしょう?私もユウナやアルティナから士官学院という場所についてお聞きしたいですからご馳走しますよ。」

 「名案です。夕食まではもうすぐですが門限まではまだ時間があります。親睦を深める良い機会かと。」

 

 「だ、だが、アルティナはこの前パンケーキをごちそうになったところだというのにまたお世話になるわけにも……」

 「ふふふ、実は臨時収入があったんです。それにこの前から気になっている大皿料理があって、一緒に食べて下さる方がいないかなぁと思っていたのですよ。」

 「うっ……」

 

 「そもそも、リィン教官はあの時ニクスさんの名前知っていたはずですよね?どうして教えてくれなかったんですか?気になるのも仕方ないじゃないですか!」

 「ぐっ……」

 

 「終戦以降多忙を極める士官学院生には適宜効果的な休息をとることが推奨されています。」

 「そ、それは……」

 

 (あと一押し……!)

 (ですね。)

 (さぁお二方、シュバルツァー様に()()()()()()()()でとどめを刺しましょう!)

 

 

 じ~~~~っ×3

 

 

 「……さすがに申し訳ないので俺にも半分持たせてください。専任教官として夜間の生徒の活動を監督する必要もありますし。」

 「イェーイ!」

 

 リィン教官は教官として生徒の指導を行っていく中で徐々に父性が目覚めつつある―――という噂がまことしやかにささやかれている。

 正論で説得するよりも年下というアドバンテージを活用したほうが無茶を聞いてくれるというのも、アルティナの検証により明らかになっている。

 そのことに対して旧Ⅶ組の先輩方は何か言いたげな様子だが、これはこれだ。

 交渉には有利な材料を揃えて勝てると思ったタイミングで仕掛けるというのはミュゼの教えである。

 

 そんなこんなで陥落したリィン教官をよそに、私たち3人のハイタッチの音が空高く響いたのだった。

 

 

***

 

 「へ~~文章を書きながら旅してるんだ。どんな文章を書いてるの?」

 「いろいろですよ。詩や短編小説、児童向けのおとぎ話を書くこともあればミステリー、フィクションを書くこともあります。依頼によってはコラムなども書きますね。」

 「そういえばペンネームはなんていうんですか?ニクスさんの文章、少し興味がありますね。」

 「あ、私も気になる!本は出てるの?あそこの本屋においてあったりする?」

 

 「さぁどうでしょう。恥ずかしいので内緒です。」

 

 「……とても気になります。」

 「なんか最近大事なことに限ってはぐらかす人多くない?」

 「そういう性分なんだろう。」

 

 似たようなノリの人を知っている気がするんだけど、誰だったっけ。

 話が通じているような、どこかすれ違っているような。

 本質を避けた曖昧な言葉で流されている気がする。

 

 出身地、年齢、リーヴスに滞在するようになった理由。

 何かあるんだろう。もしかしたらリィン教官も知らないような何かが。

 聞きたい。気になる。

 

 ニクスは、にっこり微笑みながらのんびり自分のペースで魚料理をちびちび食べている。

 時折手を拭いたり、水を飲んだり、リィン教官やアルティナと、そして私と話をする。

 何でもないような、当たり前にあり得るワンシーンだけど、どこか違和感があるのだ。

 さっき会ってから数時間しかたっていないが、確かに感じる違和感が。

 

 

 「ユウナ?どうかなさったのですか?このお料理、とても美味しいのになくなっちゃいます。」

 「……ニクス。」

 「はい?」

 「私、私は今日ニクスの友達になったわ。こうやって楽しく食事できてよかったと思う。

 でも、私は欲張りなのよ。だから私、ニクスの親友になりたい。」

 「……」

 

 ニクスは微笑んでいる。きれいに唇の端を引き上げて、不思議な色をした目を細めて、私の言葉を待っている。

 

 「ニクスがリーヴスを出発して他のところに旅をしても、連絡を取り合って、たまにはこんな風に一緒にご飯を食べて。

 そしてあなたに信頼してもらえるような存在になりたいの。」

 「私は人と関わるのが上手な人間ではありませんけれど、ユウナのことも、アルティナのことも、信じているんですよ?

 その、表現が下手かもしれませんけれど。」

 「ありがとう。そう言ってもらえてうれしい。―――私はね、ニクスに知っていてほしいの。

 友達っていうのは支え合う存在だっていうことを。

 ただ与えるだけじゃない。守るだけじゃない。

 ぶつかったり、仲直りしたりして、決してほどけない絆を結ぶの。

 だから私は、ニクスにもっとぶつかってもらえるくらいの女になりたい。

 

 それだけ、知っていて。」

 

 ニクスは目を閉じて俯いた。

 3人の視線が、ニクス一人に集まって少し可愛そうにも見えてきたがニクスはその緊張を気にすることなく顔をあげた。

 

 「ありがとう。本当に、お優しい人。

 あなたの眩しさこそは≪人≫が持つ光なのでしょう。喜ばしいことです。」

 

 「??どういうこと?」

 「意味がわかりません。」

 「あら、このデザートとってもおいしい。」

 (露骨に話反らされたわね……)

 (これ以上は聞き出せなさそうです。)

 

 胡乱な目で彼女を見ると彼女はスプーンをくわえながら首を少し傾げた。

 ……本当に、よくわからない子だ。

 口調は丁寧なのに、食べ方がぎこちなかったり、食事は丁寧なのに所作がちょっとぞんざいだったりする。

 貴族の子女ならスプーンをくわえたまま、なんてありえないだろう。

 

 「そういえば、リィン教官はリーヴスの方のお困りごとを聞いていらっしゃると耳に挟みました。」

 「ああ、自由行動日のあれですね。」

 「私も今度何かお願いしてみましょうかね。」

 「何か困りごとでもあるんですか?

 「それがなんにもないんです。皆さん本当によくしてくださっていて……せっかく楽しそうなのに、それが残念な程度です。」

 「ははは……トラブルがないのは何よりじゃありませんか。些細なことがきっかけで危険なことに巻き込まれてしまいかねませんからね。」

 「確かに、ニクスってちょっと危なっかしいところあるかも。ふらふら~って街道に出ちゃいそうだし!」

 「……本当に、そのとおりだよ。」

 「まさか、もうすでに?」

 

 教官はアルティナの問いに対して頷いた。曰く初めて会った時にニクスは一人でケルディックから自然公園まで行こうとして教官に保護されたのだとか。

 正直自分の予測なんて当たっていてほしくなかったが、もう何も言うまい。ニクスのことは日ごろから気にかけておくようにしよう。

 

 「あ、それです!」

 「はい?」

 珍しく強い語気で何かを思いついたニクスは、手を打って楽しそうに何かを考えている。

 

 (嫌な予感がする)

 

 教官は面倒ごとの気配を察知したのか眉が心なしか下がっていた。

 それを不思議に思うアルティナと、デザートを皆に勧めるニクス。美味しい食事と、珍しくて面白い話と、新しい友人。私たちは心からこの食事を楽しんだ。

 この夜4人で囲んだテーブルからは笑顔が絶えることがなく、思っていた以上にお腹いっぱいになって食事会の後は腹ごなしにニクスも一緒に学生寮まで歩いた。

 ちなみに、彼女が興味を持って注文した大皿料理は少しピリ辛の味付けで、ニクスはあまり多くを食べることはできず、通りがかったランディ先輩の胃袋に大半がおさめられることとなった。

 

 

 

***

 

 お腹がいっぱいになってしまって苦しそうなニクスさんを連れて、俺たちはゆっくりと学生寮への道を歩いていた。

 まだ食事に慣れておらず、どの程度食べればよいのかがわからないのだろう。

 日ごろから運動をしているユウナとアルティナはサクサクと歩いているが、ニクスさんの歩みはいつも以上に遅い。

 

 「大丈夫ですか?」

 「ええ、そろそろ楽になってくると思います……お恥ずかしいところをお見せしてしまいましたね。」

 

 先行する二人が噴水を通り過ぎたあたりで、彼女はやや曲がっていた背中を伸ばして、小さな手持ち鞄から一通の手紙を取り出した。

 

 「これは……」

 「こちらのお手紙を、()()の方にお願いいたします。」

 「!」

 

 差出人の名前は書いていない。自分がすぐに連絡を取れる教会の人間は3人いるが、彼女は誰のことを言っているのだろうか。

 

 「どなたでも構いません。それが届けばそれでよいのです。」

 「急ぎですか?」

 「いいえ。わかり切ったことしか書いてありませんから。」

 「いつ教会がコンタクトを?」

 「昨日駅で電車を眺めていたら声をかけられてしまって。最初はシスターに間違えられたのかと思っていたのですけれど。」

 

 そんなわけがない。しかし駅のホームで話しかけられたということは、本人はリーヴスにはいないだろう。

 

 「確かに預かりました。そういえばお腹が苦しいのは演技ですか?」

 そんな風には見えないが、初めて会った時のことを考えるとこういうことが得意なのだろうか。

 どこまでが計算かはわからないが、涼しい顔をして随分手の込んだことをするものだ。

 

 「まさか。辛いのが嫌いなことも、食べ過ぎてしまって苦しいことも、ユウナやアルティナとお友達になることができて嬉しいのも本当です。

  私は演技が下手ですから。」

 「……そうですか。

 あの、危険なことに巻き込まれそうになったらすぐに言ってくださいね。」

 「お気遣いいただいてありがとうございます。私の手に余ることがあればそうさせていただきますね。」

 

 今日は月が出ている。

 細い月の光は彼女のヴェールと、瞳を清かに照らしている。

 

 彼女はいつも微笑んでいる。

 取り乱さず、驚かず、怒らない。悲しむ姿も、そういえばあの時以外に見たことがないかもしれない。

 いつもと寸分たがわぬ微笑みを顔に浮かべて自分の斜め後ろをゆっくりと歩く彼女の目は、前を歩く二人を見つめている。

 まるで生まれたての子どもを見るような、慈しみのこもった視線だ。

 その瞳の色は言葉にできない不思議な色をしているが、そういえば月の光の色に少し似ていると思った。

 

 




 身喰らう蛇以外にも教会やエプスタイン財団、オーブメントまで怪しく見えてきた最近ですが、そういえば導力って何なのでしょう。

 現行の戦術オーブメントやクオーツは『七耀石から属性に応じた現象を引き出す』という古代文明のオーバーテクノロジーを現代に再現したものだと考えていますが、そもそも七耀石って何なんでしょう。
 空の軌跡のころはアーツは魔法なんだろうなーというふんわりした理解でしたけれども、空の女神が七耀を司るところを考えると魔法というよりは神の奇蹟の一種なのかもしれませんね。

 ≪外の理≫は蛇に伝わるものである、という発言がⅡでされていましたが≪塩の杭≫を騎士団が回収していることを考えると一定数は古代遺物と解釈されて教会が保有しているのでしょう。
 ここから作者は本来≪外の理≫の管理は結社の管轄だったのではないかと推測していますが本当のところはわかりません。
 可能世界云々についても、果たしてただ事象の分岐だけが起こっているパラレルワールドなのか、それとも異能の存在や地理など世界の前提から全く異なる世界が存在するのか。疑問は尽きません。
 空の軌跡をPC版で遊んでいたころはここまで風呂敷が広がるとは思っていませんでした。
 軌跡シリーズの主人公と言えるオリビエの戦いはオズボーンが死亡して帝国が一致団結し始めたことで一応の終わりを迎えたといえますが今後軌跡シリーズはどのように展開されるのでしょう。

 わからないことだらけですね。
 変に引っ張られると作者はつい出来の悪い頭で愚考してしまいます。
 結社と騎士団についてはまた考察をだらだらと言語化する機会が持てればいいと思います。

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