こんだけチート選べたらガチの異世界だと思うじゃん!?   作:哀しみの向こうにあった謎の隕石

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一発ネタ。


こんだけチート選べたらガチの異世界だと思うじゃん!?

 バチッ!

 また弾かれた。

 ここに来てからもう数百回目だ。

 

 何も無い虚空へと手を伸ばす。

 静電気のような感触と共に跳ね返される。

 何も無い虚空へと手を伸ばす。

 静電気のような感触と共に跳ね返される。

 何も無い虚空へと手を伸ばす。

 静電気のような感触と共に跳ね返される。

 

 幾ら繰り返しても変わらないその感触を確かめて、俺は溜息を吐いた。

 一切の凹凸が無い純白の大地の上で、地平線さえも見つけられないまま、俺は一人、不可視の壁に囲まれて座り込んでいた。

 

「仕方ないか……」

 

 壁に背を向けて、見たくなかった現実を直視する。

 意匠の無いシンプルな黒いプレートが一枚。

 

『あなたの名前を設定して下さい』

 

 一切の光を反射しない純粋な黒地に、明朝体の白字で書かれていた。

 それを指先でこんと小突いて、同じく白と黒で構成されたキーボードを呼び出す。

 身体に染み付いた癖を頼りに、カタカタと片仮名三文字分のローマ字を入力した。

 

『ヒナタ』

 

 これまで10年近く連れ添ってきたネット上での名前だ。

 由来は何だったか。確かパソコンを買った日の帰り道に、路端の日向で白猫が気持ち良さそうに眠っていたから、とかいうのがそれだった筈だ。

 明るくも暗くもない、ただただ白いだけの大地を横目で見ながら、エンターキーを叩いた。

 プラスチックが奏でる乾いた音が高らかに響いた。

 

 その途端に、一枚きりだったプレートが一瞬にして分裂し、大小それぞれの黒いプレートが狭い壁の中を覆い尽くした。

 

「うおっ!?

 何だ何だ!?」

 

 肝臓、筋繊維、爪、右腕、鎖骨、骨密度、体質、嗅覚、左足首、三半規管、小腸、肋骨、エトセトラエトセトラ。

 全てのプレートの上部にこれらの単語が比較的大きな文字で記載され、その単語の関連性によって分類されながら並んでゆく。

 そして最後に一枚目のプレートは、脳に関連するプレート群の近くに、特殊技能(アビリティ)と書かれた特別大きなプレートと、のっぺらぼうの人体模型のようなものを吐き出して消えてしまった。

 

「なんだこれ……。

 ゲームか何かなのか……?」

 

 特殊技能(アビリティ)のプレートを掴み、引っ張ってみると、プレートは動いた。

 先程の名前のプレートは動かなかったので、もしかすると名前を入力したのが切っ掛けでこの空間を構成している何かが本格的に動き始めたのかも知れない。

 特殊技能(アビリティ)のプレートをよく見ると、細かな文字でアビリティの名前らしきものが羅列してある。端の方には0/100という記載があり、試しに便利そうな名前の『亜空間収納』に触れてみると、左側の数字が1だけ増えて1/100になった。

 どうやら特殊技能を100個まで選べるということらしい。

 もう一度『亜空間収納』に触れると、左側の数字が0に戻った。

 戻せなくなることは無いらしいので、プレートの表面に指を滑らせて端から順に全て選択してみようとすると、一番端の列の半分も行かないくらいのところで左側の数字が100を超えて数字が赤くなった。

 

「全部持っていく訳には行かないか……。

 けど、これはちょっとやばいな」

 

 指を滑らせている途中で、『運命操作』という特殊技能を見かけた。『運命操作』というからには、運命を操れるのだろう。

 神の御技の如き万能な物なのか、それともサイコロの出目を偏らせる程度なのかは分からないが、それと同程度のものが100個だ。

 こういうのは、いわゆるチートと呼ばれる部類に入るのだろう。

 そして、チートを貰った後は、人類にとっての脅威が跋扈するような危険な世界に身を投じて、その世界の民を救いながら生きるものと物語では相場が決まっている。

 

「どうするかな……。

 元の世界に戻るっていう選択肢はないよな……」

 

 ガシガシと頭を掻きながら顔を顰めた。

 無数に浮かぶプレートを眺めながら、行先の世界で生き残るすべを考える。

 これだけのチートだ。もしかすると何の苦労もなく生きて行けるのかも知れない。

 しかし。

 

「死にたくねえ」

 

 逆に、必死に足掻いても尚、明日が見えないような世界に落とされるのかも知れないのだ。

 生きられたかも知れない未来を自分の手で棒に振るのは少なくとも御免だった。

 これだけ選択肢があるのだから、せめて最大限生きやすい身体が欲しいと思った。

 

 ふと、人体模型のようなものが目に止まる。

 瞳と書かれたプレートを引き寄せて、適当に弄ってみる。

 すると、人体模型に歪な色をした目が現れた。

 

「……そういうことか。よし」

 

 方向性が決まった。

 ここにあるプレート群は総て、生まれ変わった先の自らの身体がどんなものか決めるためにあるのだ。

 そして、人体模型がそれを視覚的に現す。

 

 ならば、それを利用して生きやすい身体を作るのだ。

 思い返せばそのときは変なスイッチが入っていたのかもしれない。

 この空間の特性の一つであったらしい、不眠不休で動けるという性質を使い寝る間も惜しんでプレートを弄り続けた。

 

 そうして長い時間をプレートを弄って過ごした。

 短くとも数日、長ければ一ヶ月はそうしていただろう。

 やっとのことで、理想的な身体が完成した。

 

 非力な少女を装うための低い背丈に、細い手脚。

 人攫いを警戒して、肌の色は程よく日に焼けたくらいに、けれども活発そうな印象は抱かない程度で留めた。

 肩口まで伸びた髪の色は黒に近い灰色で、それほど目立ちはしないように。しかし、容姿が良いというのはそれだけで長所である。

 近くで見れば可愛く見える程度の風貌を心掛けた。

 特殊技能(アビリティ)の影響で翡翠色に染まった透き通るような瞳がチャームポイントだ。目立つのが怖いので前髪を伸ばした。

 臓器などの内側に関しても全力で取り組んだ。

 

 そして、特殊技能(アビリティ)の面に関しては、見た目では判らないので、思う存分に強そうな物を選び抜いた。

 こちらを選ぶのにはセンスが必要無いので、容姿を決めるときほどの時間は掛からなかったが、それでもかなり悩んだ。

 何しろ、どれもこれもがとても強力そうな名前なのだ。不要と判断した物も、組み合わせ次第ではかなり有用であることに気付いたりして、一度決めた後にも何度か選び直した。

 

 情報面で有利に立つための『ステータス解析』と『ステータス隠蔽』。

 爪が早く伸びる『新陳代謝活性化』と爪を鉄にする『鉄爪』、それに『格闘』と『爪術』で素手でもそれなりに戦えるように。

 視界内に転移できる『短距離転移』を『三半規管強化』と『反射速度強化』で扱い易くして回避も万全にした。

 それらを安定して扱うために『アビリティ制御』も入れた。

 『身体能力強化』や『腕力強化』なんかを始めとする単純な強化系も粗方選択したし、強化した身体能力で困らないように『力加減』も選んだ。

 『炎熱耐性』や『斬撃耐性』なんかの耐性系はほぼ全部選んだ。

 『不老』と『高速再生』で擬似的な不老不死を成した。

 

 しかし、これだけ選択しても枠はまだ残る。

 どれだけ危険な世界なのか、とは思ったが、これ以上は考えられなかった。

 当たるも八卦、当たらぬも八卦と、残りの枠を使って便利系の特殊技能(アビリティ)に充てた。

 最初に見つけた便利技能『亜空間収納』、柔軟な身体を得る『軟体』。『千里眼』に『透視』に『鑑定眼』、『未来視』そして視覚系特殊技能(アビリティ)を強化する『魔眼』。『念動力』、『治癒』、『空中浮遊』などなど。

 

 完成した身体を前にして、ゆっくりとその胸に手を乗せると、また新たに一枚のプレートが現れた。

 

『身体の構築を終了し、転送を実行します。

 よろしいですか?』

 

 ゆっくりと深呼吸。

 二つ並んだ選択肢から『はい』の方を選ぶ。

 

 すると、構築した身体に今の身体が吸い込まれるような形で、一瞬にして視界が切り替わった。

 真っ白だった世界が黒い線で切り分けられる。

 まるでリバーシの駒が裏返るが如く切り分けられた部分が順々に反転して行く。

 

 それが終わるとそこには、見慣れた自宅の風景が在った。

 一人暮らし用の小さな冷蔵庫、シンプルな木目調の狭いクローゼット。

 無機質なキャラメイクの癖に、拠点を用意するくらいの温情はあったのか。それにしたってもっと良い拠点が欲しかった。などと考えながら玄関へと向かう。

 小さくなった足には合わない大きな靴を突っ掛けて、冷んやりとしたドアノブを掴む。

 

 ガチャリ。

 ドアを開けた先で目に入った景色はいつも通りの日常で、なんというか、不安半分ながら少しは期待していたファンタジーな世界は見渡す限り何処にもなかった。

 

「あら、鈴木くんの姪御さん?

 肉じゃが余っちゃったから、鈴木くんに渡しといて貰えるかしら」

 

 偶然来ていた隣の大家さんが、肉じゃがの入ったタッパーを持ち上げて見せる。

 飴色の玉ねぎに、程よい大きさに切り分けられたジャガイモ。そんな、なんとも美味しそうな肉じゃがが、詰められていた。

 

「ど、どうも。

 有り難うございます……」

「どう致しまして!

 それじゃあ私、これから買い物があるから。

 鈴木くんによろしくね」

 

 ガチャリ。

 肉じゃがを持って部屋へと逆戻りして、炬燵の上にタッパーを載せる。その辺に脱ぎ捨ててあった半纏を羽織って、炬燵に脚を入れる。

 電気の入っていない炬燵でも、それなりの保温効果はあったのか、じんわりと肌が暖かくなった。

 

「はふぅ……」

 

 小柄になったせいか、それとも男性から女性へと性別が変化したせいか、思ったよりも冷えていた身体に炬燵の温もりが心地よいが、まだ少し寒い。

 スライド式のスイッチをいつもの位置まで押し上げて、炬燵の天板に突っ伏した。

 

「……じゃなくて!

 なんで異世界じゃないんだよ!」

 

 身体を起こして天板を拳で叩く。

 痛くはなかったが、特殊技能(アビリティ)の影響か予想外に大きな音がしたので少し驚いた。

 拳を解いて、炬燵の天板が割れてはないかと優しく摩る。

 どうやらこの程度の衝撃には耐えられるようだった。安心した。

 そして、大きく息を吸って。

 

「こんだけチート選べたらガチの異世界だと思うじゃん!?」

 

 近所迷惑にならない程度の大きさで、そう叫んだのであった。




思いついたら続き書きます。
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