こんだけチート選べたらガチの異世界だと思うじゃん!?   作:哀しみの向こうにあった謎の隕石

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期待に応えられる出来になったのか…?


現実って思ってるほど悪くなかったりするじゃん?

 何が何だかよく分からなくなったので、その日は肉じゃがを食べて歯を磨いて寝た。

 大家さんの肉じゃがは美味しかった。

 

 翌朝、車が砂利を踏み締めて発進する音で目を覚ますと、炬燵に入ったまま寝てしまっていたことに気づいた。

 いつもの習慣で炬燵の電源は切っていたので電気代の心配はないが、照明が付きっぱなしだ。

 以前蛍光灯が切れたときに取り換えたLEDの光が、寝惚け眼に眩しかった。

 

「ああ、気が動転してあのまま寝ちゃってたか」

 

 欠伸をしながら大きく身体を伸ばして、のそりと起き上がる。

 炬燵の上には洗い忘れた空っぽのタッパー。いつも通りに洗って返そうと思った。

 

 朝の寒気の中で肌蹴た半纏の紐を結んで、体温で温まっていた炬燵からゆっくりと脚を出す。

 ぞわりとした寒さが肌を襲う。

 

「うわ。やっぱ朝は寒いな」

 

 身震いしながら炬燵布団の中に身体を戻し、その中を経由してクローゼットのある側から顔を出す。

 狭い炬燵の中を、小さくなった身体は易々と潜り抜けた。

 子供の頃はよくやっていたが、成長して以来出来なくなっていた行動。それが簡単に行えたことに、自分の身体が変化しているということを実感を持って感じることが出来た。

 

 冷たいクローゼットの扉を開けて、普段から部屋着として使っているスウェットの上下を取り出す。

 ハンガーから降ろしてそのまま炬燵の中へ引きずり込む。

 そのままでは冷たいので、少し温めてから着るのだ。

 

 炬燵の電源を入れて待つこと数分。

 ようやくスウェットに温もりが戻った。

 

 暖かい炬燵の中から這い出て、自分の姿を確認する。

 身体が変化してからは混乱していて確認できていなかったが、実は白いワンピース服を着ていたことに気づく。

 麻か何かの生地で織られたそのワンピース服はかなり薄手で、しかも袖無しだった。

 春先にこの恰好では、寒くても当然といえるだろう。

 

「まじか。

 なんかちょっと透けてるな。

 見てたら余計寒くなってきた」

 

 鳥肌が立つ感覚を感じながらワンピース服を脱ぐと、一層寒くなった。

 スウェットのトップスに袖を通し、ズボンを穿くと肌が外気から遮断して、じんわりと体温が戻ってくる。

 しかし、その弊害というかなんというか、元との体格差によって袖や裾の余りが生じてしまい、かなりダボダボで動きにくい。

 

「やっぱりこうなるよな……」

 

 ひとまず袖を二重、三重に折り込んで可動域を確保しつつ大きく溜息を吐く。

 まともに動けるようにはなったので、タッパーを持ってキッチンの前に立つことにした。

 スポンジを泡立ててタッパーの内側を擦る。

 タッパー全体が泡塗れになった辺りで蛇口を捻り、洗剤の泡を綺麗に洗い流した。

 

 適当に水切りをして水切りかごに立て掛ける。

 これだけの短時間で綺麗になるのだから、洗剤というのは凄い発明だと思う。

 洗剤に限ったことではないが、このように便利なものを作っている人たちには頭が下がる思いだ。

 

「さてと、そろそろ現実にも目を向けないとな」

 

 お風呂場のドアを開けて洗面台に向き合う。

 鏡に映ったのは、自ら作り上げた顔面。

 かなりの時間と労力を注ぎ込んで組み上げた、いわゆる美少女と呼ばれるような顔立ちの少女がこちらを覗き込んでいた。

 

 薄墨色の癖っ毛は長く伸びて、梳かされないままに肩まで垂れ、更に前髪は目元を半分ほど覆い隠している。

 その奥から覗くのは、仄かに耀く翡翠色の瞳。

 こちらが口許を弛めてみると、鏡の中の少女もまた悪戯っぽい表情を浮かべて微笑んだ。

 

 作ったのも自分なら、今見ているのも自分の顔。

 完全な自画自賛ではあるのだが、彼女は、つまり自分は、完全に自分好みの美少女となってその双眸で以って鏡越しに此方を見つめているのであった。

 

「かなり頑張っただけあって、流石に可愛いな」

 

 チートやらハーレムやらが定番の異世界転生で、まず自らを少女にしようとしただけあって、枯れていると言われるようなところもあるが、健全な男子ではあったのだ。

 少女の身体を自らの手で作り上げる中で、可愛さや美しさを求めた結果、趣味趣向が混じるのは当然とも言えよう。

 

 頬の下辺りに拳を持ってきて、えへっ、なんて巫山戯てみると、それがまた可愛くて。

 しかし、その美少女の中身が自分自身であること。そして、いい歳した男がそんな風にやっているところを想像してみると、無性に恥ずかしくなってしまった。

 

「何やってんだ俺は……!」

 

 水道の蛇口を捻り、夜の間にキンキンに冷えていた水を顔に掛ける。

 赤く染まった顔の熱気を冷水が奪ってゆく。

 

「冷てぇな!?」

 

 蛇口を閉めて鏡を見直すと、前髪が濡れてぺたっとしていた。幾らかの水滴が鼻の頭の辺りに乗っている。

 水を被ったときに耳元にもそれが届いてしまっていたのか、耳が痛くなる程冷たくなっていた。どうやら空気に触れる度に熱が奪われているらしく、どんどん冷たさが増してくる。

 

 慌ててタオルに手を伸ばして、顔周辺についた水滴を拭う。

 乾いたタオルのゴワゴワとした生地が何故だか暖かく感じて、なんだか幸せな気持ちになった。

 

 バスルームから出て炬燵に直行し、そのまま飛び込むような勢いで炬燵へと潜り込む。

 反対側から顔を覗かせて、ほっとひと息。

 タオルで髪を拭きつつこれからのことについて考えることにした。

 

「まず家賃は親が出してくれてるから、これはとりあえず大丈夫」

 

 アパートの契約更新も数ヶ月前にしたばかりだから、暫くは大丈夫だ。

 実際に対面するまでになんとかして現状を説明する必要はあるが、お盆までは実家に帰る予定も無いし、まあなんとかなるだろう。なると思いたい。

 

「生活費の方も光熱費とか食費とかはおーけー。

 強いて言うなら衣類がネックか…?」

 

 大学に上がってから少しは増えたとはいえ、一人前の衣服全部を揃えようとなると、お小遣いでは頼りない。

 ひとまずは一着分だけ揃えて、それから少しずつ増やしていくことにする。

 

「あとは大学とか人間関係とかだが……」

 

 うちの大学では、未だにICチップなどが導入されておらず、出席表で管理されている。

 今の身体に鈴木拓也の面影が残っていない以上、卒業するのは難しいだろうが、それまではなんとか通うこともできるだろう。

 むしろ問題はその後だったりする。

 

「身分が証明できるものが無いな」

 

 これまでの自分、鈴木拓也としての身分証は幾つかある。

 主なところで言えば、取れる年齢になって直ぐに取得した免許証がそれだ。

 しかし、ヒナタとしての身分証を作った覚えはない。

 何しろ昨日この世界に生まれ落ちたばかりの身体だ。

 

「いや、待てよ……?」

 

 始まりの始まり、この身体を作り始める前に名前を入力したのを思い出した。

 何から何まで現実に反映されたあの白い世界での出来事に、無意味な物など何ひとつないのではなかろうか。そんな思いが湧き出てきた。

 

 財布を求めて、最後に履いていたズボンを探す。

 床の上、クローゼットのハンガー、炬燵の中。

 狭い部屋の中をひっくり返してもズボンは見つからなかった。

 

「なんで無いんだよ」

 

 諦めて床に突っ伏したそのとき、さっき脱いだ白ワンピの一部が変な風に盛り上がっているのを見つけた。

 もしやと思いワンピース服を調べてみると、そのポケットには探していた財布と、更にはこの部屋の鍵までもが入っていた。

 

「ここに有ったのか……」

 

 自分の立てた仮説を確かめるため、恐る恐る財布のジッパーを引いて中を見てみる。

 カード入れの部分をめくって見ると、そこには二枚の運転免許証があった。

 

 一枚は鈴木拓也の分。

 そしてもう一枚の免許証には、先ほど鏡で見たのと全く同じ顔の写真。

 そして名前の欄には、鈴木ひなたと記されていた。

 

 二枚を見比べて見ると、その内容は名前と顔写真、そして性別の欄以外は全く同じだった。

 但し細かな傷が付いた拓也の方とは違い、こちらはまるで新品のような見た目をしている。

 

「やっぱりか……。

 あれ、こういうアフターフォローも含めてのやつだったんだな。

 調子に乗ってちくわ大明神だとかの変な名前書かなくて良かったぜ」

 

 改めて見詰めると、微妙に変な風に見える。

 日本ではあまり見ない色彩の少女の写真が運転免許証に載っているのだ。

 風貌としては完全に小学生。多く見積もっても精々が中学生くらいの少女がコスプレして写っているように見える。

 

「大丈夫かこれ。

 偽造だと思われないか?」

 

 怪しい免許証を訝しそうな目で睨んでみる。

 けれども狐や狸なんかが化けている訳ではないので、特に変化はなかった。

 

「残る問題は、大家さんにこの身体になったことをなんて説明するかだな」

 

 大家さんは、大学に入学したのを切っ掛けに一人暮らしを始めた自分を気に掛けてくれている。

 風邪を引いたことにするのも一つの手だが、ずっとそれで誤魔化すわけにはいかない。

 

「どうしようか……」

 

 天井を見つめてみたが、それで答えが出るはずも無く、結局は炬燵に足を入れて床に寝転がってしまった。

 頭の後ろで腕を組んで、なるようになるさ、なんて現実逃避をしてみた。

 

 答えは出ないまま、問題を先延ばしにする。

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