こんだけチート選べたらガチの異世界だと思うじゃん!?   作:哀しみの向こうにあった謎の隕石

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作者なのに主人公の行動がいまいち読めない…。


パッケージのフィルムってたまに変な風に剥がれるじゃん?!

 何もする気が起きず、だらだらと炬燵の中で過ごしていたら、いつの間にやら昼になっていた。

 時刻は正午を少し過ぎた頃。

 正直なところ食欲はあまり無いが、こんな状況である。

 食う気が無いにしても、無理矢理にでも何か口に入れておいた方がいいだろう。いざというときにお腹が空いて力が出ないなんて事があったらどうしようも無くなる。

 

 冷蔵庫の扉を引いて何かないかと探すと、卵やら生野菜やら調味料やらが並ぶ中に何故かもずくが入っていた。

 食材はそれなりにあるが、調理が出来るほどの気力は無い。

 疑問を抱きつつももずくを冷蔵庫から取り出した。

 

 幸い賞味期限は切れていないようで、少し安心する。

 カップに圧着されたフィルムの端を引っ張って開封を試みる。

 

「硬いな」

 

 もう一度試してみるが、やはり開かなかった。

 スキルを併用して開けることにする。

 意識して身体強化系スキルの一つである『握力強化』を発動させ、力を込めてフィルムの端を引っ張った。

 

「うわっ!?

 なんか変な風に剥がれた!」

 

 ジッパーを開け閉めするときのそれに近い音を立てて、フィルムの縁の部分だけが細い帯のようになって剥がれた。

 しかし、内側のフィルムは無事のままで、肝心のもずくは空気に触れることなく四角いプラスチック容器の中に鎮座している。

 

「やっちまったか……」

 

 剥がれた帯状の部分を摘み上げて眺めると、なんともいえない感情が心の中を満たした。

 理由がしょうもないだけに、憂鬱とも言い切れない負の感情を抑え込みながら反対側を向けて、今度は身体全体を満遍なく強化する『身体強化』を発動させる。

 

 慎重に引っ張ったフィルムは、今度こそはとペリペリと綺麗な音で剥がれた。

 もずく特有のツンとした酢の匂いを感じる。

 これぞもずくというような細長い酢漬けの海藻を啜ると、想像通りの食感と味が口の中に広がった。

 

 もずくを箸で掬い、ズルズルと音を立てて啜る。

 そうして何度か掬っていると、もずくが無くなって残りは酢の部分だけになった。

 この酢の部分、美味しいには美味しいのだが、塩分やら糖分やらが結構沢山入っていると聞いたので最近は直に飲むのは避けていたのだが、今日はなんだか無性にその酢の部分が飲みたくなった。

 

 静かにカップを持ち上げて、一口だけもずくの酢を飲み、そして戻す。

 誰かが見ている訳ではないのだから、もっと堂々と一気飲みしても、それこそチートがあるのだから栄養バランスなどの類は多少無視しても構わない。

 

 けれども染み付いた癖と言うのは中々抜けないもので、いけない事をしているような気がして謎の罪悪感を感じてしまうのだ。

 その結果がこの一口飲みという訳だ。

 

 残りは置いといて、後でご飯にでも掛けて食べることにする。

 人によって好みは分かれるところではあるが、個人的には結構美味しいと思っている。

 冷蔵庫の扉を引いて、何かにぶつからなさそうな場所に置いておいた。

 

「ご馳走さまでした!」

 

 手を合わせて祈る。

 幾つになっても抜けない子供の頃からの風習だ。

 今は子供の姿になってしまっている訳だから、誰かに言っても微笑ましいと笑われるだけだろうが。

 

「さてと。

 そろそろステータスを確認してみるか」

 

 さっきのような暴発を繰り返さないためにも、と心の中で付け加える。

 白い世界で取った特殊技能(アビリティ)の中に『ステータス解析』があった。

 どこまで見えるか分からないが、いや、分からないからこそ調べておく必要がある。

 

「『ステータス解析』を発動……」

 

 口に出す意味はないが、様式美を守って小さく呟いてみる。

 すると、見覚えのある黒い板が再び現れた。

 艶消しの質感は相変わらず。けれども今回のものにスライダーや入力欄の類は無い。

 

 名前、鈴木ヒナタ。

 年齢、0歳(19歳)。

 性別、年齢、賞罰と続いて、その下に位階(レベル)という項目が並ぶ。

 そして特殊技能(アビリティ)と続き、選んだ能力がずらずらと羅列されていた。

 

 よく見ると特殊技能(アビリティ)の名称の横に黒い逆三角形があった。

 大方の予想はつくが、何かあったときのためにひとまず安全策として、耐性系特殊技能(アビリティ)の一つである『斬撃耐性』の横の逆三角形を選んで触れてみる。

 

「『斬撃耐性』、斬撃に対する耐性。

 対象に斬撃として分類される一切の攻撃に対しての高い耐性を与える、と。

 なるほど、こういう感じなのか…」

 

 特殊技能(アビリティ)『斬撃耐性』、その説明文が表示された。

 形式としてはwikiなどで使用する#regionなどの特殊タグと同じようなもので、その他に何か変化があったりするような感覚はない。

 

 特殊技能(アビリティ)の構成を考えていたときにはこのような詳細説明などはなく、名前から推測して考えていたのだが、『ステータス解析』では解析の名の通りに細かいところまで知ることができるようだった。

 正直なところ、もう少し早く欲しかったとは思うが、無かったものは仕方がない。

 これから先、前提となる知識を持って特殊技能(アビリティ)を活用できることだけでも良かったと思うことにした。

 

 さて、ここからは実践あるのみだ。

 黒い逆三角形をポチポチと順番に選択して、全ての詳細を開いてみた。

 五十音順に並ぶ特殊技能(アビリティ)達の説明文を一から全部読み込むことにした。

 

 元より読書の類は割と好きな方だった。

 暗記は得意で無いが、その代わりというかなんというか、速読には、とりわけ興味のある文を速く読み込むことにかけてはそれなりの自信がある。

 その作業は意外にもあっさりと終わった。

 

 『ステータス解析』の言うことには、主に強化系、耐性系はその名称に含まれる範囲を強化、耐性を与え、その範囲が小さいほど強化の倍率が上がるらしい。

 『身体強化』や『物理耐性』などよりも『握力強化』などの範囲が限定されたものの方が強く、逆に『強化』なんていう何にでも適用されるような能力は比較的小さな影響しか与えない。

 まあ、それでもチートというだけあって、僅かなんて言葉で表すには些か大き過ぎる力ではあるけれど。

 

 試しに『身体強化』を発動した状態でちょっと跳んでみたら、想像以上に身体が軽くてびっくりした。

 頭が天井に近づいてビクッとなったのはここだけの秘密ってやつだ。

 

 それから、単純な強化系にも耐性系にも含まれない特殊技能(アビリティ)の内で、用途として破壊が含まれない物を色々試してみることにした。

 一番手として選んだのは、爪術セットの内の一つである『新陳代謝活性化』である。

 

 想定以上の効果が出て爪が壁を貫通、なんてことがあると怖いので、『アビリティ制御』を使って効果を抑えつつ発動させる。

 すると、子供らしい大きさの形の良い爪が、少しづつ少しづつ伸びてきた。

 

「やばっ!?」

 

 やってしまった。

 爪の伸びてゆく過程がまるでテレビで見る早送り映像のようで、思わず見入ってしまっていた。

 普通に扱うには長過ぎる程に伸びた爪の成長を慌てて停止させる。

 

 爪の長さは定規一本分くらい。

 明らかに伸ばし過ぎていた。

 

「あちゃー……。

 やっちまったな、どうすりゃいい?」

 

 頭を掻こうとして、長い爪に阻まれた。

 掌を開いたり閉じたりして己の爪が残像を描きながら触れるのを眺めていると、不意に格好つけてみたくなった。

 

 爪の向きを並行に揃えて、写真映えしそうなポーズで構えてみる。

 この身体でそのポーズをやっているんだな、と思い爪を構えてポーズを取る薄墨色の髪の少女を想像してみると、なんとなく心が滾った。

 

 しかし、いつまでもこのままで居る訳にはいかない。

 何か手は無いかと考えていると、自らの爪がアビリティによる物であることを思い出した。

 

 『爪術』、『新陳代謝活性化』、そして『鉄爪』。

 これらはセットとして選んだものである。

 

 『鉄爪』と『爪術』、ついでに『身体強化』も加えて、自分の爪に攻撃してみると、割りかし呆気なく爪は滑り落ちた。

 足の爪も切って、後は爪切りで形を整えれば完成だ。

 

 人間万事塞翁が馬。何事もなるようになるんだと思うと、じんわりとした元気が湧いてきた。

 立ち上がって大きく伸びをして、玄関を見据える。

 

「よし、ちょっくら出掛けてみるか!」

 

 転生してからほとんど丸1日が経過している。

 これまでは閉じ籠っていたが、ずっと太陽の下に出ないというのも健康に悪いだろう。

 そう思って外出することを決めた。

 

 まずは衣食住の内の一つ、衣類の購入を目指す。

 他はそれなりに揃っているから、今はこれが一番大切だ。

 ぶかぶかでも着られない事はないが、快適さと外観に於いて問題がある。

 

 電気とガスを点検して消せるものは消す。

 そして財布と鍵を持って、玄関の扉に手を掛けた。

 

 突っ掛けたスニーカーは服と同じぶかぶか。

 足のサイズに合わない靴は少々心許なかったが、今の家にこれよりも小さな靴というのは存在しない。

 

 新しい子供サイズの服と、ついでに足に合った靴を心の中の手帳に書き留める。

 ドアノブを捻って、油の切れた蝶番が鳴らす音を感じながら外へと一歩踏み出した。

 

 風は冷たくとも陽射しは少しづつ暖かで、確かな春の訪れを感じた。

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