こんだけチート選べたらガチの異世界だと思うじゃん!? 作:哀しみの向こうにあった謎の隕石
「そういえば鈴木君の能力ってどういう原理で動いてるの?」
「へ……?」
「いやだからその能力。
ファンタジーらしく魔力とかそういうので稼働してるなら、もしかすると私にも使えたりするのかなー、って」
能力の仕組みについて、和香が問い掛けて来る。
そういえば何が出来るのかについては少しだけ確認したことがあったが、どうやって発動しているのかについて考えることは無かった。
「んー……」
魔力については、選択肢にあった幾つかの
MP切れの類が怖くてほとんど取得はしなかったが。
感覚を集中させるために目を瞑って、『第六感強化』や『魔力探知』辺りの知覚に関する
これらに何らかのフィルターが掛かっていて
空気を大きく吸い込んで、吐き出して、深呼吸。
机に突っ伏すようにして身体全体から力を抜いて、自分の内側へと意識を向けてゆく。
すると、朧気ながら脳裏に魔力と思わしきエネルギーの存在のイメージが浮かび上がってきた。
心臓の辺りから魔力らしき力の波が生まれて、体温が伝わるのと同じような感覚でじんわりと身体全体に広がってゆく。
爪先から頭の天辺までを魔力的に把握することが出来たので、試しに『鉄爪』を発動させてみた。
しかし、『鉄爪』が発動しているはずの指先に反応はなく、眼の部分と魔力探知によるものらしき魔力以外には、それと思わしき力は感知出来なかった。
強化した第六感の方も特には反応しない。
ちなみに恐らく、眼の部分の魔力反応は
名前に魔と付くだけあって、魔力的なものとはそれなりに関係しているのだろう。
しかし、御目当ての反応はそれではない。
「無いっぽいな……」
「そっかぁ……」
落ち込んだという程ではないが、和香のテンションが目に見えて若干だけ下がる。
雨の日に窓から外を眺めるときのような体勢で机に肘を突いて、指先をくるくると回して見せた。
「こういう魔法っぽいのは私には使えないわけね?」
そう言って、小さく口を尖らせる。
それを見て居た堪れないような気持ちになったので『魔力探知』を外側にも向けてみると、教室内に転々と魔力の反応が幾つか感じられた。
その中でも比較的大きめの反応が和香にあった。
「ああでも、魔力自体はこっち生まれの人間にもあるみたいだぞ?」
「そうなの?」
「魔力が探知出来る能力がある。
それで確認してみた」
そう告げると一転、和香は目を輝かせた。
期待とやる気に満ち溢れた表情でこちらを見つめる。
この熱意が勉強にも活かせれば、なんて考えたことはあるが、情熱のみなもとがその対象にある以上はそれを別のことに活かせなんていうのは野暮でしかない。
「ね、ね、それって私にも使えるの?」
「あー……、使えるような、使えないような?」
「煮え切らない返事するね?」
「魔力自体は和香の中にも存在するんだよ。
だが、それを利用するとなると……」
言葉を切って和香の方に向き直り、その双瞳をじっと見つめる。
和香は真剣な顔をして、こくりと唾を飲んだ。
そしてドリンクバーのコーヒーとコーラを混ぜた謎の飲料を紙ストローで啜る。
いつも思うのだが、彼女はこんな変な組み合わせを作って本当に美味しいのだろうか。
「こう、内に秘めたる力を求めて瞑想したことのある奴ってたぶん少なからず居るだろ?」
「実際見たことはないけど……まあ、地球から見える星の数より多いくらいには居るんじゃないの」
「ああ」
夜の帳に浮かぶ星の数なんて数えたことはないが、少年だった頃にそういう経験がある人間なんて、それこそ掃いて捨てるくらい居るだろう。
そういう人達が超能力的な力を発現させた、なんて話題が流れてこないということは。
「その努力が実っていないということは……」
「保有している筈の魔力を扱うすべは確立していない、ってことなの?」
「まあ、偶然に目覚める切欠が極端に少ないってだけかも知れないが。
恐らくはそういうことだと思う」
少々大袈裟なリアクションを伴って、和香がため息を吐き出した。
此方も肩を竦めて見せると、今度は小さな笑いが吹き出した。
「そこにあるって解ってるのに触れられないって、何だか残念な感じね」
「動かないものは仕方ない。
生命力とかと繋がってたら、下手に触れるのも危ないかもだし」
「それもそうかー……」
あっ、と何かを思い出したような顔をして、和香がガバッと身体を机から起こした。
「ねえ、明日提出のレポートってもう終わったの?」
「あっ」
すっかり忘れてしまっていた。
慌ててノートパソコンを立ち上げて、ファイルを生成してタイトルをぽちぽちと打ち込む。
「大丈夫?」
「なんとかする。
教えてくれてありがとう」
和香に礼を言って続きを作成する。
真面目に書いていても間に合わないので、適当にそれらしい文章を書いて乗り切ることにした。
そこそこのペースでキーボードを鳴らしながら指を滑らせる。
勢いで書いた変な言い回しの文末はシフトキーで一気に選択して新しい文章で上書きする。
書いては消して、書いては消して、時折消したところを書き戻して、レポートを進めてゆく。
おおよそ数十分掛けてそれっぽい雛形が完成したので、パソコンの向きを変えて和香に見せてみる。
「ちゃんとそれらしい文章になってるか?」
「ええと……。
これなら何とかなるんじゃない?
先生達も学生のレポートなんてそんなに真剣に見てる訳じゃないだろうし」
「よし」
腕を揃えて小さくガッツポーズ。
もう一度読み返した上で、付け加えても蛇足にならない程度に文字数を水増しした。
正直ちょっと後ろめたいところはあるが、時間的余裕が余り無いので、そこは諦めることにする。
表紙を作成してファイルを保存し、USBメモリへとコピー移す。
あとはプリントアウトしてホチキスで留めれば完成である。
マグカップを引き寄せて、勝利のホットココアをこくこくと飲んだ。
最後の書き上げのために放置していたココアが程よく冷めて、猫舌の口に丁度いい温度になっている。
「ふぅー……終わっ、たぁ!
教えてくれて感謝だ。助かった」
「いえいえ。
ほんとに訊いただけだし」
レポートをやり遂げた達成感に浸りながら、まったりとココアを啜る。
ココアはいつも通りにまろやかな優しい甘さだった。
和香の作ったコーヒーとコーラの混合物には未だ沢山の気泡が残り、更にはその気泡が弾力でも持っているのか、紙のストローが泡に支えられて真っ直ぐと直立している。
「それ、美味しいのか?」
「美味しいと思えばそこはかとなく美味しいような所もあるよ?」
「つまり、基本的には美味しくないと」
「そうとも言うかも」
コーヒーとコーラの織り成す深い褐色を眺めていると、深淵を覗き込んだような気分になって少しげんなりした。
変に魅入られてしまわない内に視線を外す。
「うーむ……」
「ちょっと飲んでみる?」
「やめとくよ」
その飲料に注目していたのが気になったらしく勧められたが、強化している筈の第六感が反応したので遠慮しておいた。
和香は何度かに一回はこの組み合わせを選んでいるから、命に関わるような不味さではないと思うのだが。
そんなことを考えながら、またココアの入ったマグカップに口をつけた。
やっぱりシンプルが一番だと、改めて心に感じた。
その後、好奇心でコーヒーとコーラを混ぜて後悔した。