ダンジョンで受け継がれる絆と出会うのは間違っているだろうか 作:逢奇流
a-とある団長の悩み事
「…………」
息をひそめて隙を伺う。
ベルの視線の先には黄緑色の
冒険者ならば知らぬものはいないそのモンスターは、巧妙に気配を消した第二級冒険者に気がつかない。
ジリ…………ジリ……、と距離を詰めていく。
そして
「はっ!」
「コケェ!」
刹那の静寂の後、ぱたりと軽い物体が倒れる音がする。
黄緑色の
宙にふわふわと浮かぶ羽毛も灰と消える中、ポトリとドロップアイテムが落ちた。
「…………ッ!! やりました!」
「お見事です! ベル殿!」
今まで共に息を潜めていたみんなが歓声を上げる。
現在僕たちがいるのは1階層。
レベル3の僕が倒せて当たり前の相手しかいない階層で、何を大喜びしているかと言うと……
「あの『ジャック・バード』を見つけられるなんてついてます!」
ジャック・バード
滅多に姿を見せないそのモンスターにはある特徴がある。
このモンスターを倒した時、必ず手に入るのだ。
「相変わらずお前は運がいいな、ベル?」
「そうなのですか?」
「ええ、この前もリリ殿とヴェルフ殿が何度
みんなの口調も心なしか軽やかだ。
宝くじを当てるより入手困難なドロップアイテムを手に入れたのだから当然だろうけど。
今日は資金稼ぎのためにダンジョンに来たわけじゃないけれど、今は素直に喜んでおこう。
事の発端は妙な噂を耳にしたところだ。
曰く、
曰く、18階層に奇妙な人型の岩を見た
18階層に関する噂が活発になる中、渦中のリヴィラの町から撤退する冒険者が続出していて、町のまとめ役のボールスさんは悲鳴を上げているらしい。
この
なにか、関係があるのではと小遠征を行うことになったのだ。
「贅沢を言えば【タケミカヅチ・ファミリア】とまた合同パーティーを組みたかったのですが、仕方ありませんね」
なんて、リリは言ってたっけ。
何が起こるかわからない場所に行くんだから戦力は万全にしたい、でも光のことは極秘事項だ。
これがジレンマっていうのかな……
僕の事情で選択肢を狭めてしまうことに罪悪感を感じる。
僕は【ファミリア】の団長なのにそれでいいのかな。
「っ! みんな、気を付けて! ミノタウロスが来る!!」
思考を中断し、もう何度も聞いてきた足音のする方向を睨む。
腐れ縁、と言うほどに何度も戦っている人牛のモンスターの姿にナイフを握る手に力が入る。
ミノタウロスの中層の中では断トツと言っていい身体能力はレベル1のリリや春姫はもちろん、ランクアップした命やヴェルフでも脅威だ。
素早く周りを確認し、ミノタウロス以外の脅威がないことを確認したベルは兎のごとく飛び掛かった。
「お疲れさまでした、ベル殿」
瞬く間にミノタウロスを撃破したベルに命が称賛の声をかける。
ベルは少し照れ臭そうにありがとうございます、と言うと再び難しい顔で何事かを考え始める。
……相変わらず分かりやすい方だ、と命は思う。
レベル3以上の冒険者は、大なり小なり得体の知れなさを持つが、ベルは良くも悪くもそれがない。
「ベル殿……何か気になることでも?」
こうした時はしっかりと聞いたほうがいい。
ベルは一人で何でも背負うところがある。周りの自分たちがしっかりと聞きに行くべきだろう。
命の問いに、ベルは少し考えた後、話し始めた。
「僕は【ファミリア】の団長になったのにこのままでいいのか、って不安になっちゃいまして……」
ベルの言葉になるほど、と納得する。
未だ数か月の経験しかない14歳の少年が団員の命を預かる団長になったことによる重圧は相当なものだろう。
「僕はフィンさんや桜花さんのようにみんなの信頼に答えられる団長だって、胸を張って言えないんです」
フィン・ディムナ
都市最強派閥の一つである【ロキ・ファミリア】の団長。
武勇はもちろん、その知略は他を寄せ付けずに、侮られやすい
カシマ・桜花
命が元々所属していた【タケミカヅチ・ファミリア】の団長。
仲間の命を第一に考え、そのために泥をかぶることも厭わない偉丈夫。
どちらもベルの知る、【ファミリア】を率いる団長らしい団長だ。
こうした人々の姿を見ているからこそ、尚更自信を失っているのかもしれない。
「僕は自分の都合で【ファミリア】を振り回してばかりで、こんな僕で本当にいいのかって思っちゃうんです」
かつて【タケミカヅチ・ファミリア】は危機的状況に陥った時、桜花の指示のもとにベルたちにモンスターの擦り付け、
それは決して褒められたものではないが、仲間を守る団長としての決断だった。
自分が同じ状況になった時、同じように決断できるだろうか。
子供じみた綺麗事に囚われて、判断を誤るのではないか。
そんな思いがベルからにじみ出ていた。
しかし、
「ベル殿、常に正しい判断をすることが団長である、と言うわけではないと思います」
「え?」
【ファミリア】を決して危険にさらさない。時には冷徹な判断で他を切り捨てる。
それも、団長に求められるものだろう。
──だが、それでは救われないものがいる。
「それが正しいのなら、あの日、救った春姫殿はどうなるのですか」
あの時、【イシュタル・ファミリア】から春姫を救うことに【ヘスティア・ファミリア】としては何の意味もなかった。
むしろレベル5や多数の上級冒険者を有する【ファミリア】を敵に回すだけで、リスクしかなかっただろう。
これを団長失格と責める声もあるかもしれない。
だが春姫を損得勘定で見捨てるベルならば、
「【ヘスティア・ファミリア】の団長は《ベル殿》です。《ベル殿》だから、皆納得したのです」
団長の重責は命では計り知れないだろう。
しかし、勝手な願いだと知りつつも命は思うのだ。
ベルらしさを失ってほしくはないと。
「……僕だから、団長」
それはきっと、今のままでいいということではないだろう。
今の自分が頼りない団長であることは事実なのだから。
ベルらしくありながら、団長としての役割も身に着ける。
それは雲を掴むように曖昧な話で、ベルにはまだ自分の目指す団長の姿は輪郭すら見えなかった。
『嘆きの大壁』を通過し、洞窟を抜けるとダンジョンにあるまじき明るさに思わず手で目を庇う。
「まだ慣れないな、この階層の明るさには」
ヴェルフの言葉通り、この階層は天井に華のように夥しい量の白と蒼の水晶が生え渡り、それらが発光して空の様な暖かな光を生むのだ。
ダンジョン=暗い所の図式ができていた当初はこの階層の明るさに面食らったものだ。
目的の階層で『エボルトラスター』を抜くと刀身が淡く点滅している。
怪獣か宇宙人がいるのはこの階層で間違いないだろう。
「この感覚は……東、かな?」
「では、東部の小川に拠点を作りましょう」
リリの指示で拠点を作り出す。
ここで活躍したのが、意外にも春姫だった。
『
『
おかげで、さほど労せずに準備を終えた僕たちは、
そんな時、春姫の尻尾がピクリと反応する。
「?」
「春姫さん? どうかしましたか?」
「いえ、向こうのほうから物音がしたような……」
自信なさげに小川の反対側を指さす。
モンスターや
僕と命さんが様子を確認しに行くと……
「うぅむ、この世の神秘を内包するというダンジョンに来たものの……いまいちピンとこない。ヤプールが妙なことを企んでいて、きな臭い今、素直に撤退するべきだろうか?」
黒い仮面に赤い目、マントをたなびかせながらぶつぶつと呟く宇宙人の姿があった。
最初に出てきた『ジャック・バード』は特典小説で出て来たモンスターです。