ダンジョンで受け継がれる絆と出会うのは間違っているだろうか   作:逢奇流

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b-モンスター・ウォー

 黒い宇宙人を見つけたベルたちは油断せずに背後から忍び寄る。

 ヴェルフの話だと、前に戦った宇宙人は宇宙人には巨大化する能力がある事を仄めかしていたらしい。

 目の前の宇宙人もそうかは分からないが用心するに越したことはない。

 

「あまり気乗りはしないが、この世界に来て何も盗まないのも勿体無い。近くにあった街でも盗むとしよう。」

 

 ほかの宇宙人のように彼も侵略が目的なのだろうか? 

 余り穏やかではないことを言っている。

 

『どうしましょう?』

 

『一先ず身柄を抑えたほうがよいかと。良からぬことを考えているようですから』

 

 ベルと命は考えがまとめると同時に宇宙人が妙な動きをし始める。

 それが何を意味するかは分からずとも不味いことが起きると直感したベルは手を突き出す。

 

「【ファイアボルト】!!」

 

 炎雷は火の粉を散らしながら宇宙人に直撃した。

 

「どわああぁぁ!?」

 

 ……なんか思っていた以上に吹き飛んだ。

 プスプスと焦げ臭い香りが立ち込める中、想定外の光景に動揺するベル。

 命も思わず硬直してしまった。

 

「ぼ、冒険者がこんなところにいるとは!? 不覚だった!」

 

 転がった状態のままそう叫んだ宇宙人の姿が消える。

 前に戦った怪獣と同じ能力(瞬間移動)に驚くベルの背後から宇宙人の声が聞こえた。

 

「あははは、どうかね冒険者君? この瞬間移動能力は? どこから現れるか分かるまい」

 

 咄嗟に回し蹴りを放つが何の感触もない。

 パチン、とフィンガースナップの音がすると、宇宙人はいつの間にか命の背後に回っていた。

 

「自己紹介が遅れたね。私は怪盗ヒマラ。この世のあらゆる美しいものを盗む怪盗だ」

 

 パチン、パチン、とベルたちを翻弄するかのように瞬間移動を繰り返す宇宙人ーヒマラは余裕綽々と言った様子で自己紹介を始める。

 

「君たちにはとても悪いがあの町は頂くよ。そこまで食指が動くわけじゃないがせっかくこの世界に来たからには、何かコレクションに加えなくては、怪盗の名が泣くのでね」

 

 落ち着け、と命は自分に言い聞かせる。

 瞬間移動は恐るべき能力だが、これだけ見せられれば発動のタイミングを見切るのは容易い。

 

(話の始まりには必ず自分かベル殿の背後に来る。そこを狙って……)

 

「君たちには我が光線で眠ってもらおうか。安心したまえ、私は野蛮なことが嫌いだからね、少し眠ってもらうだけ……」

 

「そこぉ!」

 

 ヒマラの姿が消えた瞬間、命は裏拳を放つ。

 

「グアアー!?」

 

 拳はヒマラの胸部に直撃し、ヒマラが木の幹に激突する。

 目を白黒させて悶絶するその姿は、道化師のように滑稽でベルと命を戸惑わせた。

 

「た、倒したんですか?」

 

「そ、そのはずですが……?」

 

 とりあえずヒマラを拘束した二人は仲間たちに相談するために拠点に引き返すことにした。

 

 

 

 

「つまり、侵略目的でオラリオに来たわけではないと?」

 

「何度も言っているが私は野蛮なことは嫌いだ。美しいものさえ盗めばそれでいい」

 

 拠点に戻り、リリの尋問を受けるヒマラ。

 最初は瞬間移動能力を警戒していたベルたちも、逃亡する様子がまるでないヒマラの姿につい気が抜けてしまう。

 先日に襲撃してきた宇宙人は邪悪な気配をプンプンさせたものだが、このヒマラはどこかのほほんとした雰囲気なのだ。

 いや、泥棒は悪いことなのだが。

 

(こんな宇宙人もいるんだ……)

 

 なんとなく怪獣・宇宙人は、モンスターのように凶暴だというイメージがついていたらしい。

 よく考えれば世の中にも色々な種類の怪獣・宇宙人がいるわけだし、決めつけるのはよくないかも?

 モンスターとは違って話せばわかってくれるようなこともあるのかな、なんていうのは楽観的過ぎるだろうか? 

 

「では最近18階層が騒がしいことと貴方に関係はありますか?」

 

「それは私ではない。最近ここに来た怪獣とモンスターの縄張り争いのせいだ」

 

 か、怪獣とモンスターの縄張り争い? 

 大きさが違いすぎてモンスターに勝ち目がなさそうだけど……

 

「そうでもない。ダンジョンのモンスター生成速度は凄まじい。気を抜けば怪獣とて鼻や口から侵入されて食い破られると思うよ。」

 

 モンスターも大概だった。

 怪獣の力ばかりに注目してたけど、人間にとってはモンスターの無限とも思える数も脅威だと改めて思い知る。

 18階層に集結したモンスターだけでも縄張り争いできる程度には戦力は拮抗しているらしい。

 

「まったく、この世界の生き物は凶暴すぎる。ヤプールの超獣にも負けていない」

 

 ふと、ヒマラが零した単語が気になった。

 ヤプール? 

 前の宇宙人たちも言っていたような? 

 

「それはともかく、そこの白髪の少年」

 

「ぼ、僕ですか?」

 

 急に話しかけてきたヒマラに緩みかけていた警戒を張り直す。

 前回のように僕がウルトラマンだと気づかれたかもしれない。

 注意して……

 

「何か美しいものを持っていないかい?」

 

「ふぁ?」

 

 やっぱり、この人の前だと真面目な空気が長続きしない。

 本当に唐突すぎて頭の悪い反応をしてしまった。

 

「いや、怪盗の勘がね?君が貴重なお宝を持っていると告げているのだが」

 

 何言っているんだろうこの人。

 状況が分かっているのだろうか。

 瞬間移動で逃げられるのかもしれないけれど、拘束されているのに自由すぎる。

 

「お宝って……あ」

 

 ホルダーの中から先ほど入手したドロップアイテム・『ジャック・バードの金卵』を取り出す。

 するとヒマラがこれまでにないほど声を弾ませた。

 

「おお! 美しい……高貴な金の輝きもそうだが、何より滑らかなその造形がいい。まさに黄金律の美しさだ」

 

 凄い生き生きとドロップアイテムの評価を始めるヒマラ。

 これはもしかして……

 

「あの、良かったらこれいりますか?」

 

「ベル様!?」

 

 最低100万のレアドロップを変質者(ヒマラ)に譲渡すると言う暴挙にリリが声を上げる。

 しかし、それ以上に、

 

「是非っっ! 是非ともいただきたい!!」

 

 ヒマラは興奮して前のめりになりながら大声を上げた。

 そんな彼の様子を見て、僕はこう告げた。

 

「だったらこれを上げますから、オラリオではもう悪いことはしないと誓ってくれますか?」

 

「むぅ? むううう……仕方ないか」

 

 かなり渋ったが何とか受け入れてもらえたようだ。

 

「『美しいものはすべて自分のもの』と言うポリシーには反するが、最近は物騒だ。ヤプールが動く前にこの辺りで妥協して撤退するか……」

 

 交渉成立。

 僕は拘束を解くと、金の卵をヒマラに渡した。

 ヒマラがそれに赤い光線を打つと、金の卵はどこかに消えてしまう。

 ……まだ、こんな能力を持っていたんだ。

 軽い態度に惑わされそうだが、ヒマラの能力は人間にとって十分脅威になる。

 本格的な戦いになる前に交渉できてよかった。

 

(でも、みんなには後で弁解しよう……)

 

 分かってくれるとは思うけど100万は大金だし、勝手に使ったことは謝らないと。

 

 

 

 

「……それで、少し確認したいんだが、その縄張り争いをしている怪獣ってどんな奴なんだ?」

 

 色々言いたそうなリリを制してヴェルフがヒマラに質問する。

 

「そういえば、私たちの調査とヒマラ様は無関係のようでしたね……」

 

「色々起きて忘れそうでした……」

 

 春姫さんと命さんの言葉に一件落着した気分だった僕はハッとさせられる。

 よく考えたら何も解決していない。

 ヒマラはただの不審者だ。

 

「うむ。怪獣の名はホロボロス、大きさは……この世界の単位だと56M(メドル)くらいかな? 青い体に白い体毛が特徴的な怪獣だ」

 

 お宝が手に入ったからかヒマラはスラスラと情報を口にする。

 

「オオカミやライオンに似た姿で、一匹で行動している。特に特殊な能力はないが身体能力が凄まじい。人間が相手にするのは自殺行為だと忠告しておこう」

 

「まぁ、あくまで偵察のつもりですから。案内していただけますか?」

 

 いいだろう。とヒマラが言うと視界が切り替わる。

 どうやら僕たち全員で瞬間移動したらしい。

 天井の水晶の様子を見るに拠点からさらに東へ進んだ地点らしい。

 

「ベル様! モンスターと怪獣の声が聞こえます!」

 

 春姫さんは狐耳をピクピクさせると、縄張り争いの音を捉えたと知らせてくれた。

しばらくすると、ヒューマンである僕の耳にも音が聞こえた。

 様々な雄たけびが入り混じって良くわからないけど、複数のモンスターと怪獣が争っているようだ。

 モンスターは基本的に同族同士でもなれ合わず、他種族だと争ってばかりだ。

 それなのにいくつものモンスターが協力し合うのは、人間を殺すときか、共通の敵が強大な場合。

 

 ドォン!! 、と爆発音が鳴り響き、吹き飛ばされるモンスターの姿を確認する。

 ミノタウロス、サーベルタイガー、バグベアー。

 どれも冒険者にとっては強敵ばかりなのに嘘みたいに空中に浮かんでいた。

 

「冗談だろ……」

 

 ヴェルフが引き攣った笑みを浮かべた。

 この先にいる怪獣の強大さを改めて思い知る。

 等身大の宇宙人を上手く撃破したことで知らず、浮かれていたのかも知れない。

 怪獣は生ける災害。

 そのことをヴェルフたちは思い出させられた。

 

「見えました!」

 

 リリの声に、木々の合間から見える闘争に目を凝らす。

 そこには無数のモンスター相手に橙色の凶爪を振り回す四足歩行の怪獣、ホロボロスの威風堂々とした姿があった。

 ホロボロスの咆哮が地下の楽園(アンダーリゾート)の豊かな木々を震わせる。

 泡立つ肌が、目の前の怪獣が規格外の脅威だと告げていた。

 

 しかし迷宮の怪物たちは怯まない。

 上層・下層から殺到するモンスターの足音は空気を揺らし、殺意が圧力を伴ったかのような錯覚を起こす。

 互いの闘志が際限なく高められていき、冒険者たちから滴る汗が大地を濡らした瞬間、状況が動いた。

 

「グオオオオオオ!!!!!!!」

 

 先に動いたのはホロボロスだった。

 雄叫びとともに突進し、その凶貌(きょうぼう)をモンスターの群れに突っ込ませる。

 肉食獣を思わせる強靭な牙はミノタウロスたちを分断し、大質量が大地に激突したことによる衝撃で周囲の木々はへし折れていた。

 しかし、モンスターたちも負けてはいない。

 同胞を喰らうために近づいたホロボロスの頭部に向かい、攻撃を仕掛ける。

 一体一体の攻撃は白い(たてがみ)に防がれるが、数十もの物量に任せた怒涛の攻撃網が少しずつ、だが着実にホロボロスに傷をつける。

 

 人類の天敵たちによる縄張り争いは苛烈を極め、春姫はその凶暴な空気に尻尾を丸めた。

 

「このまま突っ込んでしまっては、最悪怪獣とモンスターを同時に敵に回します。リリたちは東北に見える大木の地点までモンスターを分断。誘導します」

 

 この状況でもリリは即座に作戦を提案し、パーティーのリーダーであるベルに方針をまとめさせようとする。

 ベルも圧倒されかけていた思考を無理やりにでも切り替えて、今パーティーができる最適な行動を模索する。

 

「なら、僕は怪獣を隔離するためにここに残って……ヴェルフと命さん、リリはモンスターの方だけど春姫さんはどうする?」

 

「リリたちと一緒に行動します。レベル2が2人いても、あの数相手では不安が残りますから。それと、ヒマラ様はここで別れましょう。戦いに巻き込まれます」

 

 リリはそう言ってヒマラを見るが、ヒマラはこちらを見ていない。

 彼は怪獣とモンスターの激闘を見て何やら焦ったようすだった。

 

「まずい、モンスターの数が多すぎてホロボロスが苛立ち始めている……!」

 

 ヒマラの言葉にベルたちはホロボロスを再度注目する。

 確かにホロボロスは苛立たしげに首を振り、唸り声を上げていた。

 その時、蜂型モンスターのデッドリーホーネットの針が首元に突き刺さった。

 それが我慢の限界だったのか、ホロボロスは目を血走らせると怒号を上げる。

 風圧すら伴うそれにモンスターたちの勢いが止まると同時に、変化は起きた。

 

「た、立った!?」

 

 これまで四足歩行の獣らしい挙動を行っていたホロボロスがその両足で立った。

 そしてベルはその光景に既視感(デジャヴ)を覚える。

 そう、あれはミノタウロスとの一騎打ちの時、突如姿勢を変えたミノタウロスは必殺の一撃を持ってベルに……

 

「まずい!」

 

 突如変化したルーチンは凶兆の合図だ。

 これまでの冒険者経験からそう学んだベルは、怪獣とモンスターの直線状であるこの位置が最悪だと勘づく。

 少年が警告を発するより早く、ホロボロスは必殺の一撃を放った。

 

『メガンテクラッシャー』

 

 両爪から発せられる()()()()

 紫の光を発するそれは、モンスターたちをバターのように切り裂いても止まることはない。

 まっすぐと冒険者たちのほうへ向かってくる。

 凍り付く冒険者たち。

 その中でベルは真紅(ルベライト)の瞳を吊り上げて、懐から『エボルトラスター』を取り出す。

 

(ヒマラさんがまだいるけど、四の五の言ってる場合じゃない!)

 

「うわああああああぁぁぁぁ!!!!!」

 

 ベルは『エボルトラスター』を居合のように抜刀、斬撃を受け止めると共に変身した。

 突如発生した眩い光に目をくらませるホロボロス。

 そんな怪獣に、銀の弾丸となったウルトラマンが強烈な右ストレートを見舞う。

『マッハムーブ』と『アンファンスパンチ』の重ね掛けに吹き飛ばされたホロボロスを見据えながら、アンファンスからジュネッス・ホワイトへ転身。

 純白を纏った強化形態になったウルトラマンはすかさず『フェーズシフトウェーブ』を展開。

『メタフィールド』に怪獣とモンスターたちを閉じ込めた。

 

「このままモンスターの掃討にかかります! ヴェルフ様は前衛、命様は弓を装備して後衛に、春姫様は魔法の詠唱をしてください!」

 

 リリがすかさず指示を出すと、景色が変わり混乱するモンスターたちに大刀と弓矢の雨が降り注ぐ。

 体勢を立て直される前に、少しでも数を減らせと冒険者たちが突貫した。




 強大な個を誇る怪獣
 無尽蔵な群のモンスター
 どっちも、違うヤバさがありますね。
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