ダンジョンで受け継がれる絆と出会うのは間違っているだろうか   作:逢奇流

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第5話「夢想-ナイトメア-」
a-会議のちサポーター


『怪獣や宇宙人をこの世界に連れてきた存在、ヤプール……』

 

 『ストーンフリューゲル』の中、真っ暗な空間でベルは宇宙人たちやヒマラが示唆した黒幕について考えていた。

 

『僕の使命はヤプールを倒すこと……?ヤプールはどこに?どうやって倒せばいいんですか?』

 

 目の前の巨人、ウルトラマンに問いかけるが、答えは帰ってこない。

 

『……どうして僕なんですか?』

 

 ここは冒険者の街オラリオ、ベルより強く賢い者など幾らでもいたはずだ。

 その中から自分が選ばれた理由がどうしても分からない。

 そう問いかけてもウルトラマンはなにも言わない。

 静かにベルを見つめているだけだ。

 

 静寂の中でふと、この巨人のことも考えた。

 不思議な存在だと思う。

 ベルは与えられた力に恐怖することはあっても、その力を与えた存在であるウルトラマン自体には恐怖を感じたことはない。

 

(どうしてだろう?この光は悪いものじゃないって神様が言ったからかな?)

 

 彼が僕に語り掛けてきたのは『エボルトラスター』を授けたあの時だけ。

 その後は何も語り掛けては来ない。

 ふと、おじいちゃんの言葉を思い出した。

 

──ベル、他人に意思を委ねるな

 

──これはお前の物語だ。

 

 思い出と目の前の巨人が重なる。

 もしかしたら、この光は見守っているだけなのかもしれない。

 決して僕の選択に干渉せずに、僕の信じる道を歩ませようとしているのだろうか。

 だとしても、もう少し融通を利かせてほしいが。

 

 意識がこの空間から離れていく。

 現実で『ストーンフリューゲル』による治療が完了したようだ。

 目覚めの時を待つ。

 そんな僕をウルトラマンは最後まで静かに見つめていた。

 

 

 

 

 

 僕が変身してから、【ヘスティア・ファミリア】ではオラリオで流れる噂を報告し合うのが日課になっていた。

 人のうわさと言うのは馬鹿にできない。

 これまで戦ってきた怪獣や宇宙人、その多くは人々に知られていないが、類似した噂はいくつもあるのだ。

 

「千草殿から聞いたのですが、最近起きた竜巻の中に大きな鳥の影を見たという話が増えているようです。」

 

「竜巻っていうと壁外か。ダンジョンだと上層から最近モンスターが減っているらしいな。掲示板の前で冒険者たちが稼ぎが少ねぇって嘆いてたからな。」 

 

 このような情報収集だと僕は無力だ。

 この町に来て日が浅いから人脈作りが不十分だし、そもそもコッソリ相手から情報を抜き出すなんて高度なことできない。

 シルさんなんかにはいつもしてやられているし……

 

「私の気のせいかもしれませんが、壁外の噂は減っている気がします。」

 

 春姫さんの言葉に僕も同意する。

 『セオロの密林を徘徊する怪人』こと、ワロガやウルフ星人を倒してから壁外の噂は激減している。

 皆無というわけではないけど、ダンジョンの噂が増加している今、壁外に目新しい噂は少ない。

 

「ヤプールという黒幕がこれらの元凶と考えると、噂の多いダンジョンに潜んでいるのかもしれません。」

 

 リリはこの騒動はヤプールの尻尾を掴むきっかけになると睨んでいる。

 そうなると、どの階層にいるのかが問題だ。

 【ヘスティア・ファミリア】単独で潜れる階層はそう深くないのだから。

 

「ヘファイストスのところでボクも色々探っているけど、そろそろ限界だ。眷属(こども)たちも神々も何かあるって勘づき始めた。いつ、ウルトラマンのことがばれても不思議じゃない。」

 

 神様の言葉は僕たちも薄々感じていることだ。

 今はまだ、闇派閥(イヴィルス)の策略だとか言われていて都市伝説扱いだけど、面白いこと好きの神様たちによる捜査も始まっているらしい。

 普段は軽いノリの神様たちだけど、彼らには下界の住人たちの嘘を見破る力がある。探りを入れられたらお終いだ。

 

「ボクたちは他の【ファミリア】が怪獣に気が付く前に、ヤプールなる黒幕を見つけ出し、撃破する必要がある。」

 

 神様の言葉に僕たちは頷く。

 そして、リリは地図を広げて今後の行動を説明し始めた。

 

「今後は顕著な変化がある6階層から9階層を中心に調べていきます。」

 

「大丈夫かな?僕たちのいつも活動している階層より浅いから違和感を持たれるんじゃ……?」

 

 僕たち【ヘスティア・ファミリア】は戦争遊戯(ウォーゲーム)から良くも悪くも注目の的だ。

 不自然な行動でほかの【ファミリア】から気づかれるのではないだろうか?

 

「名目上は春姫様やリリの育成のための経験値稼ぎ(レベリング)とします。春姫様が【ファミリア】に加入してからまだ日が浅いですから、波長合わせだと思われるはずです。」

 

 リリは僕の質問にスラスラと答えた。

 ……やっぱり、リリは凄い。

 こんな右も左も分からないような状況なのに道筋を示してくれる。

 

「怪獣の大きさを考えても。ダンジョンで攻撃を仕掛けてくる可能性は低いでしょう。ほとんど被害がなく、怪獣の存在が未だに噂で留まっていることが、黒幕が目立ちたがってないことの証拠だとリリは考えます。」

 

 そこで、リリの表情が僅かに曇った気がした。

 

(リリ?)

 

「万が一、襲撃があったとしてもパーティ全員で行動します。変身したベル様を援護するには十分でしょう。」

 

 次の瞬間にはリリの表情は普段通りのものになっていた。

 ……気のせいだったのかな?

 釈然としない気持ちでいるとリリが僕を見た。

 

「ベル様は『エボルトラスター』による敵の探知をお願いします。ヤプールを早期に見つけるにはウルトラマンの力が必要です。」

 

「う、うん。分かった。」

 

 結局、明日のダンジョンに備えて、今日は体を休めるように神様がまとめたことで、今日はお開きとなった。

 

 

 

 

「ベル君。ちょっといいかな?」

 

 夕餉(ゆうげ)の後、部屋に戻ろうとした僕は神様に呼び止められた。

 みんなが思い思いに過ごす中、僕は神様の部屋で二人で話し合う。

 

「ベル君も気が付いていると思うけど、サポーター君が色々考えこんじゃっているみたいなんだよねぇ」

 

(!神様もリリの様子に気が付いてたんだ。)

 

 僕の一瞬だけしか分からなかった違和感じゃ確信出来なかったけど、神様がそう言うなら間違いじゃなかったんだろう。

 でも、それならなんでそれを僕に話したんだろう?

 二人きりになるならリリを呼んだほうが良かったんじゃ?

 

「『なんで僕が呼ばれたんだろう~』って顔だね。相変わらず鋭いのか鈍いのか分からないなぁ……」

 

 はあああ~とため息をつかれた。

 ぼ、僕なにかしちゃったかな……

 

「ボクが行くよりベル君が話したほうがサポーター君のためになるからだよ。」

 

 敵に塩を送るみたいで気は進まないけどね!と、頬を膨らませながら神様はそっぽを向きながら言った。

 確かに僕は団長だし、なんでも神様に頼る前に自分たちでやるべきなのかも。

 

「あ~分かってないなこれは……安心すべきか、ガックリするべきか……」

 

 神様の反応に首をかしげる。

 結局、善は急げだ!と神様に部屋を追い出された。

 

 

 

 

 リリの部屋の前まで来たけど、なんだか緊張するなぁ……

 でも、いつまでもオタオタしてたら日が暮れる。

 腹を括ってドアをノックした。

 

「リリ?今いい?」

 

『ベル様?えぇと、どうぞ……』

 

 リリの部屋に入ると、リリは不思議そうに僕を見た。

 まあ、僕は女の子の部屋に気軽に遊びに来たことないし、不思議に思われても仕方ないけど。

 

「えっとね、神様がリリのこと気にしてる。みたいだったから、何かあったのかな……って」

 

 何とかリリの悩み事を聞こうと口を開いたけど、難しい。

 僕は相談事とかしてあげることがないから上手い聞き方が思いつかない。

 ダメだなぁ、僕。

 

「………あぁ、またヘスティア様に気を使わせてしまいましたか……」

 

 やっぱりお節介ですね、とリリは苦笑した。

 どうやら、部屋に来る前の僕と神様のやり取りを察したようだ。

 

「こんな時間にごめん……僕も気になったから来ちゃった。」

 

「いえ、リリこそ心配をかけて申し訳ないです。困ったら頼ると言う約束を忘れてました。」

 

「うん、あのときも言ったけど僕、馬鹿だから言ってもらわないと分からないんだ。……だから、遠慮なく言ってよ。」

 

 本当に情けないけど、話して貰わないことには何を言うべきかも分からない。

 リリは、本当に大したことじゃないんです、と前置きして語りだした。

 

「怪獣との戦いが激しくなるにつれて不安になって来たんです。リリは何の役にもたたないと」

 

「ヴェルフ様は魔剣を打てます、命様には斥候(スカウト)としての技能、春姫様にも強力な魔法があります。」

 

 【ヘスティア・ファミリア】はレベルこそ低いが、リリ以外はある分野においては髄を許さない技能を持つ。

 それに対してリリは荷物持ち(サポーター)だ。怪獣との戦いではあまりにも無力だ。

 

「リリが()()なのは仕方のないことです。ですが……」

 

 羨む心がどうしても出てくる。

 ……正直、考えたこともなかった。

 これまで、リリには何度も助けられたから、リリが言うように怪獣との戦いで頼りにならないなんて考えたこともない。

 

(たぶんこれは、リリのずっと持ってた本音だ。)

 

 リリの幼少期はお世辞にも恵まれていたとはいえない。

 過酷な盗賊時代の経験が、みんなに対する劣等感として表れたのではないだろうか。

 そして、それは怪獣という未曾有の危機を前に漏れ出てしまっている。

 

(今、安易な言葉を口にしてもリリには届かない気がする。)

 

 心の問題は根深い。

 今必要なのは理屈立ててリリを諭すことじゃない。

 辛いときに傍で寄り添うことだ。

 

「リリ、大丈夫だから。」

 

 そう言って彼女の小さな手を包み込む。

 彼女はなにも言わずに、ぎゅっと手を握り返した。




 終わりが見えてきました。
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