ダンジョンで受け継がれる絆と出会うのは間違っているだろうか 作:逢奇流
『みんなが……!?』
突如意識を失った【ヘスティア・ファミリア】の団員たちの姿に動揺する
勢いが削がれた巨人に、ファイブキングは反撃とばかりに頭部から光線を発射しつつ、鋏で袈裟斬りに切り裂いた。
「ヘアァァァァ!!!!」
ウルトラマンの胸の傷から光が吹き出す。
このままではまずいと、ウルトラマンは距離を取るとジュネッス・ホワイトに変化した。
敵に勢いを取り戻させないように、
『なんだ……?薄い?』
ウルトラマンの展開する結界はいつもの力強さはなく、オーロラの先には覆い隠されているはずのダンジョンの光景が透けていた。
『それにメタフィールドにいるのに力が沸いてこない!?』
度重なる変身
生命力を削るジュネッス・ホワイト
幾多の怪獣たちとの死闘の中で、ベルの体は既に限界に近づいていた。
二大怪獣に追い詰められる。
彼の命運を暗示するように、オーロラのカーテンが揺らめいた。
夢を見る。
父がいて、母がいて、暖かな笑顔のある、ありふれた家庭。
リリの服はいつの間にか可愛らしい少女服に変化していた。
夢の中の景色はとても温かい。
何でもないその光景に思わず涙が溢れた。
大丈夫か?と父が心配そうに顔を寄せる。
怖くないよ、と母が慈愛に満ちた笑みを向けた。
──あぁ、これは夢ですね
上手く回らない頭がぼんやりと答えにたどり着く。
突如出現した怪獣、ギジェラ。
百合の花のような姿の怪獣は、ある特徴がある。
その体から放たれる花粉を吸った者を幸せな夢に閉じ込めるのだ。
人間は苦しみに耐えることはできても、幸福には抗えない。
かつてギジェラが出現した世界では、穏やかな夢にすべての人が囚われ、穏やかな破滅を迎えたという。
そんな、悪魔の夢に気づくことができたのは、一重に
(でも、もうこのままでいい……)
それでも誘惑には抗えない。
かつて願った幸せ、手に入らなかった家族がここにいる。
この世界の両親はリリを見てくれる。
この世界のリリは綺麗なまま、自分を嫌いにならなくていい。
溺れてしまう。
脳をしびれさせる偽りの温かさが、リリの心を侵していく。
泣き虫の少女がこの世界に引き込まれる。
卑怯者の少女が警鐘から目を背ける。
塗りつぶされていく思考。
抗う気力をそがれ、痛みの記憶が遠ざかる。
心が、何も知らない少女に回帰していく。
優しい世界に完全に取り込まれそうになった瞬間、泥だらけの少女が、あの日の願いを忘れたのかと叫んだ。
「────────」
思い出すのはあの日の涙。
誰も必要としなかった泥だらけの少女に、差し出された手。
『サポーターさん、サポーターさん、冒険者をお探しですか?』
『混乱しているんですか?でも、今の状況は簡単です。半人前の冒険者が自分を売り込んでいるんです。』
きっと、その言葉は彼にとってはそう大したことではなかったのだろう。
彼は自分の中の思いをそのまま伝えただけ、でも、その言葉だからこそリリは救われた。
自分自身にすら認められなかった少女は、彼にだけは求めてもらえたのだ。
『また僕と一緒にダンジョンに潜ってくれないかな、リリ』
リリルカ・アーデは卑怯者、盗賊めいた悪行でその身を汚し続けた薄汚れた
それが彼女がこれまで歩んだ半生だ。
今のリリにはそうした汚れた面がある事実は言い逃れようのない事実だ。
しかし、ベルはそんな彼女を受け入れた。
ならばこの夢に逃げて、現実を捨てるのは違う。
(リリは……誓ったんです。どんなことがあっても、リリだけはあの人を見捨てないって!)
熱く、背中が発熱する。
あの日の思いを再び燃やせと自分に叱咤する。
気が付けば、リリは
耳を澄ませば微かに戦いの音が聞こえてくる。
リリは今も戦う少年を目指し、暖かな光景に背を向ける。
夢の中の優しい両親は、戻ってくるように必死に叫び続ける。
だけど、リリは足を止めなかった。
「………さようなら」
最後に、振り向かずにかつての願いに別れを告げて、彼女は現実に帰還した。
目を覚ますと、鈍い頭の痛みと全身を覆う気怠さに呻いた。
まるで麻薬の様なものだと舌打ちしたい気持ちを抑えて、近くの仲間たちを確認する。
昏睡する彼らが目覚める気配はなさそうだ。
まずは仲間たちの目を覚ます。
今は緊急事態、起こし方が手荒なことには目を瞑ってもらう。
リリはバックパックから袋を取り出すと、それを一人ずつ嗅がせて回る。
「うおぇ!!!!」
「ふぎゅっ!?」
「こんっっ!!?」
目を覚ました仲間たちは
あまりの臭さに、先ほどまでの夢も忘れて悶絶していた。
「うぅ……こ、ここは……?」
真っ先に正気に戻ったのは耐異常のアビリティを持つ命だった。
自分が幻覚を見せられていたことに気づき、緩んでいた気を引き締める。
ヴェルフと春姫も徐々に状況が理解できたのか、落ち着き始めていた。
「どうやら状況を説明する必要はないみたいですね。リリたちはこれから、あの花を対処します。」
一足先に現実に戻っていたリリは、仲間たちが悶絶している間に作戦を考えていた。
自身の考えをパーティーに伝えると、ヴェルフたちは彼女の指示に従い行動を開始した。
コアが赤く点滅しだす。
ファイブキングだけでなくギジェラまで攻撃に参加し始めると、いよいよウルトラマンは追い詰められる。
ファイブキングの光線を『サークルシールド』で防いでいるが、その足は徐々に後退していく。
『このままじゃっ……!』
もう時間はない。
一か八かの賭けに出るべきだ。
ベルは腹を括ると、残る力をすべて【
体力と
「ギャアァァァァ!!!!」
ギジェラは痛みで叫ぶと、風を起こした人間たちに殺意を向ける。
(リリたちが起きた?でも危ない!)
目標を変えたギジェラの様子に、ベルは焦る。
「────────」
力強く
なら、信じよう。
拳を握って沸き上がる不安を押し殺す。
ギジェラをリリたちに任せて、ベルは間違っても流れ弾が行かないように、ファイブキングとの戦闘を再開した。
ドスン、ドスン、と馬鹿みたいに大きな足音が近づく。
下手な建物より巨大な体を揺らしながら、ギジェラが迫る。
ランクアップを果たしていない矮小な体が泣き言を言いそうになるが、精一杯の勇気を振り絞ってリリは風の魔剣を振るった。
「ヴェルフ様にレベルブーストを! 」
しかし、魔剣という強力な遠距離攻撃の手段があるリリはまだましだ。
ランクアップにより高いステータスを誇るヴェルフと命は、あの巨体相手に接近して
一瞬のミスが生死を分ける。
リリはヴェルフの技量では危険と判断し、春姫による強化を指示した。
「【ウチデノコズチ】‼」
たが、それでも一時しのぎに過ぎない。
針の穴を通すようなギリギリの戦いはいつ崩れてもおかしくない。
(それでも、あの場所に行けばこの植物型怪獣は簡単に倒せるはずっ……)
あたりの花々が再び花粉をまき散らす。
先ほどのような生還劇を何度もできるとは思えない。
パーティーが花粉を吸わないように、風の魔剣を持つリリたちは麻薬じみた粉を吹き飛ばす。
(この魔剣もそろそろ耐久限界が近い。なら
目標の場所まであとわずか。
ここからが正念場だと、リリは怪獣の側面に回り込む。
そして、
狙いは頭頂部。
ヴェルフと命を潰すために姿勢が不安定になった瞬間がチャンスだ。
人間たちの必死の抵抗に苛立ったギジェラが姿勢を低くしたことを確認し、リリは魔剣を射出した。
黄緑色の魔剣は怪獣の皮膚に突き刺さると自壊し、暴風を生み出した。
あまりの勢いに倒れるギジェラ。
「ベル様‼今です‼」
リリの掛け声に
ふと、エイナに教わった座学の知識が脳裏をよぎる。
10階層のある地点に湧き出る液体、すぐに気化するそれは火をつけると爆発する。
油のような性質を持つそれに気付かずに魔法で引火させるパーティーも多いと、炎の魔法を使う僕に注意してくれたことを。
瞬間、リリの策を理解したベルは砲声する。
『【ファイアボルト】‼』
炎雷がギジェラに着弾すると、空気中で気化したガソリンに引火して炎が爆発的に燃え上がった。
「ギヤァァァァ!!!!?」
瞬く間に炎に包まれるギジェラ。
苦しむように身を捩らせ、せめて人間たちだけても殺そうと腕をあげるが、
『うああああぁぁぁぁぁっっ!!!!』
ベルはファイアボルトの連射可能という利点をいかし、行動を封じる。
魔法の勢いでギジェラは花弁を散らしていき、やがて絶叫すら爆発の音で掻き消された。
「……ァ……ァァァ……」
息も絶え絶えといった様子のギジェラに、ウルトラマンは必殺の『クロスレイ・シュトローム』を繰り出し止めを刺した。
「グガアアアアァァァ!!!!」
背中を見せたウルトマンにファイブキングは光線を放つが、ウルトマンはそれを『アームドネクサス』で打ち払う。
しかしファイブキングはそれに構わず、五つの怪獣の力をすべて活用した一斉射撃・『カタストロフィススパーク』でウルトマンも人間たちもまとめて葬り去ろうとする。
(みんなはもう限界だ。今度は僕が頑張らないと‼)
仲間の奮闘を受けて心を震わせるベルは、最期の力を振り絞ってファイブキングに突撃する。
乱れ撃たれる光線は一撃でも人間数人を蒸発させるには十分だ。
一発たりとも通さない。
手を手刀の形に構え、迫りくる光を右手のみで切り裂き進む。
やがて、『アームドネクサス』は受けた光線を纏い始めた。
闇のエネルギーが徐々に青白い光に変換されていく。
その輝きにファイブキングが目をくらませた瞬間、ウルトマンは渾身の打突を繰り出した。
『スピルレイ・ジェネレード』
本来は受けた光線を光弾として跳ね返す技を、
ベルの技の一つである【ヴォーパル・ファング】をなぞって放たれた一撃はファイブキングの体を
『!?なに、この感触……っ』
その時、ベルは怪獣の感触に違和感を覚えた。
ドロリ、とスライムのように崩れるファイブキングの体。
あまりに不自然な出来事にベルはヒマラの言葉を思い出した。
(ヤプールは強力な怪獣を再現しようとしている……こいつらはその成果ってこと?)
5体の怪獣を結合した何かが死滅したことで活動ができなくなったのだろうか、ファイブキングの顔が虚ろな瞳でウルトマンを凝視する。
異様な光景にベルもリリたちも動けなくなるが。
「ッグ…アァァァ……」
限界が来たウルトマンは片膝をつき、変身が解除される。
耐え難い疲労感にベルはその場に倒れこんだ。
「ベル様!?」
リリが慌てて駆け寄る。
ちょっと疲れただけだからと、すぐに立ち上がるベルだったが誰もが気づく。
──もう、ベルは限界だと。
『フハハハハハ……やはりそうか!』
戦いの一部始終を見届けた影……ヤプールは配下が倒されたというのに上機嫌だった。
『力を感じぬわけだ!
変身者の【スキル】で上手く誤魔化していたが、これまでの戦いを分析した上で気づけた。
力の上限が低すぎるのだ。
『奴がノアになれないのであれば恐れる必要はない。他のウルトマンが合流する前に叩いてくれるわ!!!!』
ヤプールの背後には無数の怪獣たちがひしめいている。
遂に最後の戦いの幕が上がろうとしていた。
次回からいよいよ最終決戦!
このエピソードは気に入ってもらえましたか?
-
はい
-
いいえ