ダンジョンで受け継がれる絆と出会うのは間違っているだろうか 作:逢奇流
迫りくる巨体が生む空気の圧を肌で感じた瞬間、止まっていた時間が動き出した。
傍にいる
「すいません! 乱暴で!」
「あ……、あぁ……」
乱暴な回避の仕方だったことを謝るがパルゥムの冒険者は突然変わった景色に目を白黒させている。
レベル3になっていろいろな相手と戦ってきたからなんとなく分かる。この人はランクアップをしていない、下級冒険者だ。あんな攻撃に当たったら一溜りもないだろう。
「僕が時間を稼ぎます。その隙に逃げてください」
「……っ! あんな奴相手に一人で戦うなんて無茶だ! 俺も一緒にっ!」
僕の言葉に彼は一瞬躊躇した後、勇気を振り絞るように言った。
実際、僕だけで戦ったところであんな化け物には敵わないだろう。同じ神様を信仰する
だからこそ、この人は守らないと。
「大丈夫です。こんな見た目でもレベル3ですから、逃げ足には自身があるんです」
だから気にしなくていい。
僕の言葉に彼はその小さな肩を震わせた。そして、悔しそうに唇を噛むと覚悟を決めた表情で、「必ず応援を呼ぶ」と声を震わせながら言った。
「ギャアアアァァァ!!!!」
「走って!」
再び僕たちを襲おうとする怪物の足にナイフを一閃する。
神様から頂いた【ヘスティアナイフ】は、鍛冶の神であるヘファイストス様が自ら槌を振るった
あまりの巨体故にそのダメージは微々たるものであろうが、その鋭い眼光がこちらに注がれる。それに怯むことなく僕は9階層に続く階段とは逆方向に走った。
同時に階段に向かって駆けるパルゥムの冒険者の姿を視界の隅で確認しつつ、万が一にも、彼に
「【ファイアボルト】!」
照準を合わせた腕から炎雷が怪物の顔面に着弾する。
僕の魔法【ファイアボルト】には詠唱が存在しない。魔法は、詠唱文が長いほど効果が高いと言われる。その法則に従えば僕の魔法は最弱といってもいいだろう。だが、この魔法は無詠唱故に、本来は不可能なはずの魔法の連射が可能になる。
今みたいな囮のための牽制にはもってこいの特性だ。
僕は間髪入れずに炎雷の8連撃を叩き込む。
「ガァァァ!!!!!」
威力は低いとはいえ、あまりにもしつこい弾幕に苛立ったのか。
怪物は首を大きく振りながら凶暴な咆哮をベルにぶつける。
そして、咆哮とともに、角から光線を放った。
「!? 遠距離攻撃!」
咄嗟に光線を躱すとベルは魔法による攻撃をやめ、より木々が生い茂る場所に飛び込んだ。
戦う上で相手の情報を知ることは冒険者の生命線だ。既知のモンスター相手ならば、これまで必死に詰め込んできた知識がものを言うが、未知の相手と戦うときは、戦闘中に情報収集を行わなければならない。
(僕のこれまでの戦いで、完全な未知だった相手との交戦経験は数える程度)
1か月半という前代未聞の速さでランクアップを果たしたベル・クラネルであるが、そのキャリアは3か月程度と、駆け出しといってもいいほどに足りていない。
歴戦の戦士とは到底言えないその経験は、未知の存在との戦闘において致命的な隙をさらした。
それまで雨あられのように降り注いできた光線が突如として鳴りやんだのである。それが何を意味するのか考えた瞬間、ベルは自身の体の異常に気づいた。
(!? 体のバランスが取れないっ、平衡感覚が狂っている!)
立っていられず崩れ落ちるベルの姿に怪物はほくそ笑んだ。うっとおしい兎を確実に仕留めるために、彼は戦い方を切り替えていた。当たらないショック光線による攻撃を止め、その眼から催眠光線を照射したのである。
変化した戦い方に対応できなかったベルは、怪物の狙い通りに大きな隙をさらしてしまった。
(まずい!)
ランクアップしたばかりの頃、18階層で戦った極彩色のモンスターを思い出す。怪音波で立てなくなったベルめがけてモンスターは鋭い一撃を……。
既視感に青ざめる。あの瞬間をなぞるように大木のように太い尻尾が迫る。
違うのはあの時のように盾が手元にないこと。レベル3とは言えあの一撃を無防備に食らうのは致命傷になりかねない。せめてもの足掻きでもう一本のナイフを抜き防御の姿勢を無理矢理とるがどうにもならない。
ベルはボールのように勢い良く吹き飛ばされた。
(…………………………………………)
思考が纏まらない。
ただ全身が焼けるように熱く、串刺しにされているかのような痛みに声が出ない。
視界に使い手の手を離れ、光を失う
「ぁ……ぅ……………………」
ああ、負けたのか。
色んな言葉が壊れた魔石灯のようについては消えていくなかで、その言葉だけがずっしりとのしかかってきた。
なんてことはない。ベル・クラネルは突如現れた
刹那を生きる冒険者らしい。どうしようもない、理不尽な最期だ。
逃げたパルゥムの冒険者は大丈夫だろうか?
彼が生き延びてくれたら、この僕の死にも多少は意味があったのかもしれない。
(あぁ…………意識が遠のいていく…………)
先ほどまで苛んでいた痛みも、もはや鈍化していく。あるいは、許容量を超えて認識できなくなっているのかもしれない。
意識が拡張されていく、緩慢にすら感じる時間の中で、ベル・クラネルがこれまで見てきた情景が再生されていく。
大好きだった祖父の死、失意の中で見た流星、
14年という短い人生の中でも、特に僅かなオラリオの思い出が、こんなにも自分の中で大きなものになっていたのかと苦笑しようとして……もう笑う力すらなかった。
そして、命の灯と共に消えゆく意識の中で最後に思ったのは……
世界の冷たさに打ちのめされる中、出会えた僕の神様だった。
「ッッ!!」
霞がかっていた意識が晴れる。
さっきまでピクリとも動かなかった手を握り締めた。
「何、諦めてるんだよ…………ッ!」
約束したはずだ。自分の無様に気づき、無謀な突撃の末に死にかけたあの日。
子どもの我儘そのものだった僕の意思を、尊重してくれながらも、瞳を潤ませて言ったあの言葉。
『……お願いだから、ボクを一人にしないでおくれ』
本当は止めたかったはずだ、憧憬に追いつこうと躍起になる僕は傍から見れば危なっかしかったはずだ。それでも、僕の背中を押してくれた。あの
絶対、神様を一人にしないとそういっただろう……!
「ぎっ……が…………あぁぁッ」
絶望する暇があるなら拳を握れ。
諦める言い訳を考える余裕があるなら覚悟を決めろ。
神様との約束は、何が何でも守り抜け!
「!」
怪物が目の前の人間がまだ戦意を失っていないことに気づく。
どうでもいい。
近くの木に倒れこむようにもたれかかり、無理やりにでも立つ。
どんなに惨めでも、無様でも最後に生きていればそれでいい。
―リン、リン
鈴の音が鳴る。白い光の粒が腕に収斂していく。
冒険者には基本的な身体能力を強化する【ステイタス】とは別に、ある条件のもと、特殊効果や作用を肉体にもたらす能力である『スキル』がある。
僕の持つ唯一のスキルは
「ギャアアアァァァァ!!!!!!!!!!」
しかし、狡猾な怪物はそんな時間を与えなかった。
口から人一人なら簡単に呑み込めてしまう熱線を発射し、死にぞこないにとどめを見舞う。
―30秒の
僕は目を強く吊り上げて砲声した。
「【ファイアボルト】!!!」
同名の魔法。しかし、白い光粒に縁どられたそれは、先ほどまでとは比べ物にならない轟雷となって怪物へ
ぶつかり合った二つの光は
「くっ……あああああああぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」
声を振り絞る。
神様が与えてくれた
それでも、死はベルを逃がしはしない。着実に最期の時が近づいてきた。
(畜生、畜生、畜生っ!)
再び絶望に心が支配されそうになる。
目の前の光景を否定したくて、目を背けたその時──
────────―諦めるな
「……………………………………………………え?」
威厳に満ちた声とともに、魔法を発する手の先にありえないものを見た。
まばゆい光を放つ刀の様な宝具。
その名は『エボルトラスター』。ベルは引き寄せられるようにそれをつかむと、刀を抜刀するように、勢いよくそれを抜く。
「うわあああああああああ!!!!!!!」
少年を赤い光が包み、水の波紋のような光が霧の迷宮に広がった。
結局ウルトラマン出てない!
後、書き終えて気が付いたけど怪獣の名前も出てない。