ダンジョンで受け継がれる絆と出会うのは間違っているだろうか   作:逢奇流

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最終話「英雄-ウルトラマン-(後編)」
a-One Hope


 その姿を見た瞬間、思わず呼吸を忘れた。

 何度も夢に見た凛とした女神。

 きっと死んでも忘れられない、守れなかった彼女の名前は──

 

「アルテミス様……?」

 

 僕の口からこぼれた名前に、彼女は穏やかな微笑みを返す。

 その微笑みは彼女の命をこの手が奪った瞬間のままで、ベルの頬に涙が伝った。

 

「なん、で……」

 

 分からない。

 彼女は命を失い、その魂は転生の輪に還ったはずだ。

 あり得ない再会に混乱するベルを見ると、アルテミスは少し困った様子で話し始めた。

 

「さぁ、何故だろうな。死んだ私が、私のままここにいる理由は分からない。」

 

 表情も、口調も記憶のままだ。

 なによりも、彼女がそばにいることで感じる胸の温かさは嘘とは思えなかった。

 

「………っ‼」

 

 途端、感情が爆発した。

 ずっと、ずっと謝りたかった。

 僕じゃなければ、僕が上手くやっていれば、僕が強ければ。

 貴女は助かっていたのかもしれないのに。

 

「ごめんっ!……ごめんなさい‼僕は、僕じゃなければ……!!!」

 

 溢れる激情に振り回されて、想いを上手く伝えられない。

 馬鹿みたいに大粒の涙を流して、嗚咽をこぼすその姿はきっとみっともないのだろう。

 ただごめんなさい、と繰り返し膝を落とす僕を女神は静かに見守っていた。

 

 

 

 

「ぐうっ!!?」

 

 命の刀、虎徹が弾き飛ばされる。

 終わりの見えない襲撃に集中力が乱れた。

 隙を見せた獲物にモンスターたちが殺到する。

 

「ふざけろおおお!!!」

 

 ヴェルフが太刀を縦横無尽に振るい、命を狙うモンスターを薙ぎ払う間に刀を拾いなおす。

 しかし、その表情には疲労が見えた。

 モンスターの大群を食い止める命とヴェルフは既に肩で息をしている。

 体中に傷ができ、致命傷こそないが流れる血が徐々に思考を蝕んでいく。

 

(自分とヴェルフ殿では食い止められない……!春姫殿っ、早く詠唱を……)

 

 本来ならば、抗うことすら出来ずに圧し潰される戦力差をどうにか均衡させているのは、リリの指揮とヘスティアの神の力(アルカナム)だ。

 他の神々に気取られないギリギリの力で、敵の【ファミリア】に対する認識をずらし、攻撃しにくくしている。

 それによって消極的になっているモンスターの攻勢と、リリが要所要所で使用するアイテムで【ヘスティア・ファミリア】は生きながらえていた。

 

『ええい、往生際が悪い……集えドビシ共‼カイザードビシとなって神と人間に止めを刺せ!』

 

 ヤプールの声に呼応して、ウルトラマンを苦戦させた怪獣が姿を現す。

 カイザードビシは近くの岩山を砕き、岩雪崩を引き起こした。

 

「やばいっ、防ぎきれねえ!!」

 

 神の力(アルカナム)で認識をずらされていても、辺りをこうして無差別に攻撃されては意味がない。 

 迫る岩を砕いても砕いてもキリがない。

 周囲のモンスターたちごと圧し潰そうという、その容赦の無い殺意はまさに悪魔だ。

 

「ヘスティア様!」

 

 破片の一つがヘスティアに飛んでくるのを春姫が【ゴライアスローブ】で防ぐ。

 かつて、中層の冒険者たちを圧倒したイレギュラーのドロップアイテムは岩の破片程度では貫けない。

 しかし、衝撃は別だ。

 春姫は大質量の岩によろめき、詠唱を中断してしまう。

 霧散する魔力。

 だが、春姫は気力を振り絞って詠唱を(うた)い直す。

 

「【──大きくなれ】」

 

 彼女の魔法が一縷の希望になっていることに気が付いたヤプールは怪獣・モンスターたちに特攻を指示する。

 仲間たちも最後の希望を守らんと懸命に守るが、防御を通り抜けてしまった僅かな攻撃が春姫を襲った。

 

「【()の力にっ、()の器。数多(あまた)の財……に、数多(あまた)……の願いっ。鐘の()が告げるその時まで、どうか栄華(えいが)と、幻想(げんそう)を!!──大きく、なれ……!】」

 

 だが、今度は詠唱を途切れさせない。

 咄嗟のことだった先ほどとは違い、春姫は()()を決めていた。

 痛みも恐怖も乗り越えて、望む未来を掴むための覚悟。

 それは、あの日に少年が決めたものと同じ。

 

「春姫様の詠唱完結まで死守してください!」

 

 リリがボウガンでモンスターやドビシの目を潰しつつ、指揮を出す。

 体はとっくに悲鳴を上げている。

 それでも、その背にある少年の存在が少女の力を奮い立たせた。

 

「やってやるさ……!俺たちも冒険者だからな!」

 

 ヴェルフの唇は弧を描く。

 放っておけない弟分のために。

 神々に与えられた【不冷(イグニス)】の二つ名の通りに、心の火を燃やす。

 

「自分も、最期まで……!」

 

 命が残るすべての苦無(クナイ)を投擲する。

 かつて弱さゆえに侵した罪。

 それを許し、自分たちと絆をはぐくんでくれた少年に少しでも報いるために。

 

 未だ未熟な【未完の少年(リトル・ルーキー)】。

 だが、彼の数か月の冒険は様々な人々を惹きつけた。

 その証こそ【ヘスティア・ファミリア】。

 彼に人柄を慕って集う、構成員のほとんどが他派閥からの移籍という異色の【ファミリア】。

 

 誰よりも彼の冒険を見守ってきたヘスティアは確信する。

 彼らの想いがベルに届かないはずはないと。

 なら、それを届けるのが神である自分の務め。

 今も戦う彼らが待つ鐘の音に、もう一度立ち上がる力を。

 

「聞こえているかい?ベル君。みんなが君を待っている。確かに敵は強大かもしれない。でも、君には仲間がいてくれる。いざという時に支えてくれる【ファミリア】があるんだ!だから────」

 

 

 

 

 ベルはアルテミスにずっと押し殺してきた想いをぶちまけた。

 それは心にずっと引っかかっていた棘。

 仲間たちがその存在に気づきながらも、どうすることもできなかった罪。

 

「あの日、守ると約束したのに……!僕は何もできなかった……僕は英雄になれなかった……」

 

 月夜に照らされた泉で彼女に語った夢。

 英雄になりたかった。

 悲劇のヒロインなんてどこにもいない、みんなを救って見せる。そんな英雄に。

 その夢は、自分自身の手で破ってしまった。

 

 あの日から、ベルは守るという言葉を簡単に使えなくなってしまっていた。

 今度こそ救って見せるという決意の影で、英雄になれなかった僕ができるのかという疑念が湧いてくる。

 そんな葛藤を繰り返して、いつか完全に動けなくなることが怖かった。

 

 もう、発する言葉も思いつかなくて項垂れる。

 そんなベルの涙をアルテミスは優しく拭った。

 

「すまない。貴方をこんなにも思いつめさせてしまった。」

 

 女神は悲し気な表情で膝をついた僕に目線を合わせた。

 

「怖いんですっ、僕は守りたいって想いを抱く度に、また失うんじゃないかって!そんな僕がこの光を持っていていいのかって……」

 

 仲間の言葉は前を向く力をくれた。

 しかし、ベルは前を向いたことで、心の傷と向き合わなければならなくなった。

 

 漠然とした恐怖だった頃のように夢は見なくなっても、弱い自分の声は消えない。

 守る、なんてたいそうな言葉を使う資格はお前にあるのか?と自分を苛む声がもう一歩進む勇気を奪うのだ。

 

 自己嫌悪に打ちひしがれるベル。

 そんな彼にアルテミスは『エボルトラスター』を握らせた。

 そして、突然の行動に戸惑うベルにアルテミスは言った。

 

「………オリオン。貴方とその光は似ているのかもしれない。」

 

「………え?」

 

 言葉の意味を量り損ねる。

 似ている?

 僕と光が?

 

「数多の世界、マルチ・バースには人々を守る巨人。『ウルトラマン』と呼ばれる光の戦士がいる。」

 

 その中でも特に強力な力を持った戦士がいた。

 その名は『ウルトラマンノア』。

 

「彼に守られた人々は、やがてその力を再現した『ウルティノイド・ザギ』と呼ばれる守護者を生み出した。」

 

 当然、神に等しい力の再現などその高度な文明をもってしても一朝一夕でできるものではない。

 その開発には気が遠くなるような時間が費やされ、その過程で、様々な失敗作が生み出された。

 

「そんな歴史に消えた失敗作。それがお前の中にある光の正体だ。」

 

 人々を照らす希望であれと願われ、その期待に応えられなかった英雄のなり損ない。

 それがベルの変身する【ウルトマンネクサス】。

 

「ウルトマンの模造品の失敗作……」

 

 ヤプールの言葉の意味をようやく理解した。

 だが、ベルにはある疑問が浮かぶ。

 

「どうして僕にそんな光が……?」

 

「失敗作として破棄された彼は宇宙……虚無の空間の様なものを彷徨っていた。そして、無限の漂流の中で僅かに再現されたノアの権能を通してウルトラマンたちの戦いを知ったんだ。」

 

──始まりのウルトラマンがいた

──地球人より地球人を愛したウルトラマンがいた

──夕暮れに照らされて、人を信じたウルトラマンがいた

──地球人に変わらぬ願いを託したウルトラマンがいた

──地球人を愛し、その中で生きていくことを選んだウルトラマンがいた

──悲しみを越えて戦い抜いたウルトラマンがいた

──地球人の可能性を信じて、心を導こうとしたウルトラマンがいた

 

「そして思った。自分もこんな風に生きたいと。」

 

──超古代の力を持って、人々の力を束ねたウルトラマンがいた

──持ち前の明るさで、未来を示したウルトラマンがいた

──大地の力で地球の使者として降り立ったウルトラマンがいた

──調和を信じ、宿敵とすら分かりあったウルトラマンがいた

──最大限の力を持って、未来につないだウルトラマンがいた

──地球人と新たな関係を築き、無限の可能性を見せたウルトラマンがいた

──ゼロからのスタートを切り、突き進むウルトラマンがいた

 

「彼らのように、人と絆を紡いで生きたいと。」

 

──銀河の覇者として、未来からやって来たウルトラマンがいた

──地底の国から勝利をもたらすウルトラマンがいた

──地球人と心を繋ぎ、共に戦ったウルトラマンがいた

──宇宙の風来坊として旅を続けるウルトラマンがいた

──運命を覆し、ヒーローになったウルトラマンがいた

──兄弟の力を一つにして戦うウルトラマンがいた

──父の威光と向き合い、仲間と共に燃え上がったウルトラマンがいた

 

「……ウルトラマンになりたいと。」

 

──適合者たちに受け継がれる絆と共に、戦うウルトラマンがいた

 

「英雄になれなかった光が、貴方(オリオン)を見つけたのはきっと必然だった。」

 

 あぁ、本当に僕たちは似ている。

 なりたい自分になれなくて、それでも夢を諦められない。

 愚かな子供。

 だけど──

 

「光はウルトマンになろうと再び歩みだした。」

 

 それが、僕との違い。

 立ち止まってしまった僕と違って、光はまだ諦めていない。

 

「人間は不完全な存在だ。絶対の誓いなど背負うことはできない。」

 

「………そう、ですね。きっとそうだ。」

 

「でも、それでもきっと貴方たちはまた誓いを立てるだろう。何度打ちのめされても。」

 

 握った『エボルトラスター』が熱を灯す。

 それは、光が共に戦おうとベルを鼓舞しているように感じられた。

 

「………私が貴方に伝えたいのはこの言葉だけだ。ベル────」

 

 

 

 

「「────諦めるな!!」」

 

 二人の女神の声が夢と現実を繋ぐ。

 『エボルトラスター』の刀身から発せられた光が復活への道を示した。

 

「……っ!」

 

 全身を覆う倦怠感が払しょくされる。

 失われていた光が自分に蘇ったとベルは確信した。

 『エボルトラスター』を構えて右手で引きぬく。

 瞬間、発せられる暖かな光を確認すると、抜刀した刀身を左肩に当てた。

 宝具から発せられる鼓動を自分とリンクさせたベルは、『エボルトラスター』を勢いよく空に掲げた。

 

「うおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 ベルの身体は暖かな光を発し、その波紋はモンスターや怪獣を吹き飛ばす。

 モンスターと怪獣に囲まれていた【ヘスティア・ファミリア】は突如発生した光の波紋に驚き、振り返った。

 そして、彼らの視線の先には立ち上がった少年の姿があった。

 

「「「「ベル(様、殿)!!!」」」」

 

 仲間の歓声に応えるように空高く跳躍するベル。

 光は一層力を増し、彼を変身させる。

 闇が轟く異空間で、銀色の輝きを放つ巨人。

 ウルトマンは復活した。

 

「ヘアアア!!!」

 

 ジュネッス・ホワイトに姿を戻し、その目に仲間と神様を捉える。

 絶対に守る。

 誓いを再び胸に秘め、ウルトラマン(ベル)は力を解き放つ。

 

『ボードレイ・フェザー』

 

 空中で回転したウルトラマンの両手から12発の光の刃が打ち出される。

 光の刃はカイザードビシたちを切り裂き、消滅させた。

 攻撃の手は止まずに、そのまま『パーティクル・フェザー』で無数のモンスターたちをウルトラマンは屠っていく。

 

 猛威を振るった怪獣を次々と撃破する姿に【ヘスティア・ファミリア】は奮い立つ。

 

「ベル様‼ベル様が復活しました‼」

 

「良かった……」

 

 リリが普段の冷静さをかなぐり捨てて喜び、春姫は帰ってきた彼女の英雄の姿に目を輝かせる。

 

「さぁ‼行くぞ!ベルに……俺たちの団長に続け‼」

 

「応!!」

 

 先ほどまで疲労困憊だったヴェルフと命がその光を見て、活力を取り戻す。

 

 ベルの活躍が危機的状況に希望の光を灯したのを見たヘスティアは理解した。

 これが【ヘスティア・ファミリア】の冒険。

 これが冒険者ベル・クラネル。

 

「っ!いっけえええぇぇぇぇ!!!ベル君!!!!」

 

 少年の成長に滲む涙を振り払って、愛しい眷属(こども)に精一杯の声援を届ける。

 きっともう見ることのない、銀の巨人を脳裏に刻みながら。

 

 

 

 

『何故だ何故だ何故だ何故だ!何故、貴様は復活した!?』

 

 あと一息のところで、盤上をひっくり返されたヤプールは怒り狂う。

 狐人(ルナール)の魔法は完成していない。

 ウルトラマンが復活する要素など何もなかったはずだ。

 

『あの暗闇の中でみんなの声が聞こえた。だから、僕はまた変身できたんだ!!』 

 

『ふざけるなあああ!!』

 

 愛、友情、絆。

 すべてヤプールが嫌う言葉だ。

 そんなものは人間の勘違いに過ぎないと、嗤ってきたものに計画を狂わされた事実に怒髪天を衝く。

 

『何なんだお前は‼』

 

 目の前のウルトラマン……いや、そう呼ぶのも烏滸(おこ)がましい紛い物は決して脅威ではなかったはずだ。

 今だって、押せば倒れそうなほどにボロボロで、コアゲージは点滅したままではないか。

 なのに、何故ここまで圧倒される!?

 

『やれ、ナイトファング‼もう一度奴を地獄に叩き落とせぇ!!!!』

 

 ナイトファングは再び悪夢を見せようと音波攻撃を放つ。

 それをウルトラマンは華麗な飛行術で躱して見せた。

 そして、最後の音波攻撃を『アームドネクサス』で切り払うとベルは叫んだ。

 

『僕はベル‼ベル・クラネル‼神ヘスティアと契りを交わし、不滅の炎を貰った偉大な眷属(ファミリア)の一員‼絶対に、諦めたりしない!』

 

 『マッハムーブ』で距離を詰め、ナイトファングの腹に『アームドネクサス』の刃を突き立てる。

 絶叫する怪獣は、怒りのまま『ファングヴォルボール』でウルトマンを焼き尽くそうとする。

 しかし、ウルトラマンの変身者はベル・クラネル。

 彼には誰よりも早い魔法があった。

 

『【ファイアボルト】!』

 

 刃を伝った炎がナイトファングの体内で炸裂する。

 しかし、炎を発する怪獣であるナイトファングは火に対する耐性を持っている。

 よろめきながら、ウルトラマンを睨みつけて反撃を試みるナイトファング。

 しかし、ウルトラマンはそれより早かった。

 

『【ファイアボルト】‼』

 

『【ファイアボルト】‼』

 

 怒涛の3連撃で爆散させると、『アームドネクサス』を振り切る。

 触手を叩きつける間もなく倒されたナイトファングを尻目に、ベルは【ファイアボルト】を乱射した。

 次々と炎雷に飲み込まれるモンスターたち。

 【ヘスティア・ファミリア】の仲間たちも負けじとモンスターを屠る。

 

 やがて、銀の巨人が魔法を打ち終えた時、敵はいなくなっていた。




 ダンメモの一周年イベントは燃えましたね。
 ダンまちはベルの逆転劇も注目のポイントの一つだと思います。
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