ダンジョンで受け継がれる絆と出会うのは間違っているだろうか   作:逢奇流

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b-僕らのネクサス

 体が軽かった。

 夢の中で何故アルテミスが現れたかは分からない。

 自分の心が生み出した幻想かもしれないし、ベルの中にある光が、彼女の姿を模して語りかけていたのかもしれない。

 或いは、本当に奇跡の再会だったのか。

 真実はどれだけ考えても辿り着けないままだろう。

 

 ただ、もうベルは立ち止まらない。

 きっとこの先も誓いを守れないときが来る。

 どうしようもない現実に直面することも。

 

 だけど、どんなに打ちのめされても、また誓いを新たに進み続けよう。

 人は……冒険者はみんなそうやって生きてきたのだから。

 だから、僕はまた誓う。

 絶対にみんなを守り抜くと。今度こそ失わないのだと。

 心の傷を受け入れて未来に進んでいくんだ。

 

 ベルの決意に呼応するように、ウルトラマンは雄々しい掛け声と共にヤプールに対して構えた。

 

「ヘア!!」

 

 

 

 

 状況は逆転した。

 ウルトラマンは復活したのだ。

 対してヤプールにはもはや(しもべ)はおらず、残るは本人のみ。

 

『おのれ……おのれ……!』

 

 しかし、ヤプールはその怒りを糧に力を生み出す。

 脆弱な人間に負けるなど闇に生きる者としてのプライドが許さない。

 

『光の国に対する備えだが……仕方あるまい‼』

 

 ヤプールの周囲に闇の波動が集まる。

 リリはその小人族(パルゥム)の優れた視力でそのエネルギー体がモンスターの形をしていることに気が付く。

 

 否、それだけではない。

 小人族(パルゥム)でなくても形をはっきりと視認できる異形、怪獣の姿をしたものもあった。

 これまで【ヘスティア・ファミリア】が戦ってきた怪獣がいた。

 一度も見たことがない怪獣がいた。

 そのどれもが、心なしか悲痛な顔で叫んでいるように春姫は感じる。

 

『絶望しろ‼ここからはウルトラマンと人間に敗北したすべての殺戮者たちがお前たちの敵だ‼』

 

 ヤプールを中心に重なりあった怪獣とモンスターが巨大な体を形作っていく。

 

「──────────────でけぇ」

 

 怪獣すら矮小に思えてしまう巨体。

 目測で大きさを測ろうとしても、ただ大きいとしか感じられない。

 あまりの大きさにヴェルフは自身の遠近感が狂ってしまったことを自覚する。

 

「こんなもの、どこを攻撃すれば……?」

 

 命の声は途方にくれていた。

 これまで戦ってきた怪獣ですら手に余る強敵だったのに、それを軽く越える化け物を相手にどう立ち回るべきなのか。

 完全に人間が戦っていい相手ではない。

 クロッゾの魔剣であっても、痛みを与えることすら出来ないだろう。

 

『ふはははは!!!!これこそ我が究極の切り札! 百体怪獣ベリュドラだ‼』

 

 嘗て、光の国の最悪のウルトラマン、ウルトラマンべリアルがギガバトルナイザーにより生み出した最悪の合体怪獣。

 ヤプールはこの世界に引き込んだ怪獣や宇宙人、そしてダンジョンのモンスターを生け贄にこの大怪獣を再現していた。

 

「何と戦うことを想定しているんだ……過剰戦力も良いとこだぞ‼」 

 

 ヘスティアの叫びは【ヘスティア・ファミリア】の偽りなき本音だ。 

 この世界の水準を嘲笑うかのような規模の戦力は、たちの悪い冗談の様だった。

 モンスターや怪獣(人類の天敵たち)が歪に継ぎ接ぎされた冒涜的な姿も相まって、ベリュドラは異様な威圧感を放ち冒険者たちを怯ませる。

 

 ベリュドラがその巨腕を挙げた。

 技もなにもない力任せの叩き潰し。

 しかし【ヘスティア・ファミリア】は悲鳴を上げながら、形振り構わずその回避に全霊を注いだ。

 

 世界に亀裂が走ったかのような轟音。

 衝撃によって体が空高く投げ出される。

 

「ハッ‼」

 

 このままでは地面に叩きつけられてヘスティアたちが危ないと、ウルトラマンは『セービングビュート』で仲間たちを自身の手のひらに保護した。

 

『馬鹿め!自分から手を塞ぐとは‼』

 

 その行動をヤプールが嘲笑う。

 ベリュドラを構成する怪獣やモンスターたちの目や口が一斉に光る。

 

──まさか……

 

 嫌な予感を感じた瞬間、ウルトラマンは上空に飛び立つ。

 それと同時に、ベリュドラの全身から光線が発射された。

 

『ベリュドラインフェルノ』

 

 赤、青、黄、緑、紫、白、黒。

 光線、電撃、火炎、爆発、毒撃。

 

 (おびただ)しい攻撃が瞬く間に空を埋め尽くす。

 ウルトラマンはそれらを最小限の動きで見切り、回避を試みる。

 空を自在に飛び回り、『アームドネクサス』で躱しきれない攻撃を防ぎ続けるが、少しづつ傷が増えていく。

 

『不味い……あんな大きさならどこかに死角があると思っていたけど、そんなもの何処にもない!体中に目と攻撃手段がある……!』

 

 階層主との戦闘経験から巨体故の弱点を突こうとしたベルは、どの角度からもベリュドラを構成する怪獣が威嚇し、攻撃してくるのを見て作戦を変えなければならないと悟った。

 復活したとはいえ、今の自分は紙風船のようなもの。

 本当は空っぽなのに、虚勢を張って外面だけを取り繕ってるだけだ。

 突けばあっという間に倒れてしまうだろう。

 

『無駄にエネルギーは使えない……でも、攻めるしかない!』

 

 怪獣を一体一体潰していては、間違いなく先にこっちが音を上げる。

 少しでも消耗を減らすように気を付けて戦わなければならない。

 ただでさえエネルギーを大量に失う光線技は、確実に仕留められると確信できるまで封印しなければ。

 『ジュネッスパンチ』や『ジュネッスパンチ』で脆いところを探っていく。

 何度も接近し、表面の怪獣たちを殴るがベリュドラはビクともしない。

 

『馬鹿の一つ覚えだな‼』

 

 鳩尾に『スピニングクラッシュキック』を放つ。

 しかし、ヤプールはその行動を読んでいた。

 キックが当たった瞬間、近くの怪獣や宇宙人たちがウルトラマンに絡みつく。

 動きが止まったウルトラマンに光線が雨あられのように襲い掛かった。

 

 咄嗟に手の中のヘスティアたちを庇う。

 そして背中にヤプールの攻撃が突き刺さり、ウルトマンは絶叫すら上げられず全身の痛みにもがく。

 手の中で轟音に揺らされるリリはヴェルフに指示を出した。

 

「ヴェルフ様‼魔法です‼」

 

「………っ‼【燃え尽きろ、外法の(わざ)‼】────【ウィル・オ・ウィスプ】‼」

 

 ヴェルフの対魔力魔法(アンチ・マジック・ファイア)はウルトラマンに攻撃を加える怪獣やモンスターに集約し、効果をいかんなく発揮した。

 ヤプールは言った。ダンジョンのモンスターを生贄に様々な強豪怪獣を再現したと。

 このベリュドラを構成する怪獣たちもそうだというのなら、怪獣たちの光線にはこの世界由来の力──魔力が含まれているのではないかとリリは予想した。

 ならば、豊富な光線が武器のこのベリュドラには、ヴェルフは天敵となる。

 

 魔力暴発(イグニス・ファトゥス)で光線が止まった隙に、ウルトラマンは『アームドネクサス』で拘束を切り裂き脱出する。

 そして、エネルギーをさほど消費しない【ファイアボルト》で怪獣を焼き払う。

 多くの怪獣が倒されるが、さらに連撃を畳みかける。

 『ダークフィールド』の闇を『アームドネクサス』に収斂。

 闇を光に変換し、拳から撃ちぬいた。

 

『ナックレイ・ジェネレード』

 

 エネルギーはベリュドラの体を貫通したが、百体怪獣は揺るがない。

 無駄だとヤプールの嘲笑う声と共に、再び剛腕を振るった。

 それを躱すウルトラマンに、追尾効果のある光線が無数に放たれる。

 それを肩で息をしながら『サークルシールド』で防ぐ。

 

『ダメだ、表面の怪獣やモンスターをいくら焼いてもキリがない……』

 

 吹き飛ばした怪獣たちの奥にもウジャウジャと犇めく怪物の姿に、ベルは全身の疲れを隠せない。

 敗北の二文字が脳裏にちらついた。

 

「ベル殿!この怪獣の核はヤプールです!奴を討てば、無理やり継ぎ接ぎされた怪獣たちは自壊するのではないでしょうか!?」

 

 その時、命が声を上げる。

 ウルトラマンの手の中でベリュドラを観察していた命は違和感を覚えていた。

 ()()()()

 ウルトラマンになったベルの【ファイアボルト】は確かに強力だが、蓄力(チャージ)せずにここまで簡単に怪獣を屠れただろうか?

 大勢の怪獣やモンスターの融合、それは明らかに不自然な出来事だ。

 命は決して頭は良くない。

 しかし不自然なことを強行すると、必ずその代償があることはこれまでの人生で理解していた。

 

「妙に脆い怪獣……不自然な融合による拒絶反応が原因ならば、この原因であるヤプールを討つだけでこの怪獣は倒せるはずです!」

 

 ヤプールを倒せば、ベリュドラは倒せる?

 でも、それには問題がある……

 

「し、しかし、肝心のヤプールは何処に?」

 

 春姫の言う通りだ。

 表面上にヤプールはいない。

 ベリュドラを生み出した瞬間は頭部の辺りにいたと思うけど、今もそこに留まっているかは分からない。

 

『多分、腹部にはいない……さっきの攻撃で全く動揺がなかった。』

 

 何処を攻撃すればいい?

 思考が堂々巡りする。

 コアゲージの点滅が尚更焦りが加速させた。

 

『一か八か、頭を狙うしかない……!』

 

 もう時間がない。

 焦燥感に押されて、破れかぶれな考えが頭を離れない。

 残るエネルギーで技を繰り出そうとした瞬間、

 

──大丈夫。

 

 ふと、弓の女神の声が聞こえた気がした。

 親愛に満ちた穏やかな声で、荒れていた心が凪のような穏やかさを取り戻す。

 

 手に保護していた仲間たちをそっと地面に降ろすと、『アームドネクサス』を胸のエナジーコアに(かざ)した。

 生み出された光の弦が『ダークフィールド』の闇を照らす。 

 でも、これじゃ足りない。

 矢を番えろ、邪悪を貫く光の矢を。

 二つの必殺技、光の弓(アローレイ・シュトローム)光の剣(シュトロームソード)の融合。

 体内のほとんどのエネルギーを使い、撃ち出すウルトラマンネクサス最強の必殺技。

 

ファイナルモード『オーバーアローレイ・シュトローム』

 

 何処を狙えばいいのか、(やじり)に導かれるように答えは自然と出てきた。

 神技を体現する彼女(アルテミス)もこんな感覚で矢を射っていたのだろうか。

 そんな場違いな考えが脳裏を掠める。

 矢を引く左手に、蜃気楼の様なアルテミスの手が添えられている気がした。

 

 必中を確信して腕を引き抜く。

 光の矢は一直線にベリュドラの胸部を貫き、中に潜んでいたヤプールを両断した。

 

『ギャアアアァァァ!?ば、馬鹿な……何故……』

 

 手応えを感じた。

 先程体を貫いた時には感じなかった、会心の感触が。

 ヤプールの苦し気な声と共に、ベリュドラが崩壊していった。

 

 

 

 

 勝った。

 そう確信する【ヘスティア・ファミリア】だったが、ヤプールのしぶとさは彼らの予想をはるかに上回っていた。

 

『まだだ……まだ終わらん!!』

 

 崩壊していた怪獣やモンスターたちが闇のエネルギーに変換され、致命傷を負ったヤプールに吸収される。

 無数の怪物のエネルギーを取り込んで、強引に傷を癒したのだ。

 

「それだけじゃねぇ……奴の威圧感が増している!?」

 

 ヤプールの体から感じる闇の波動が強まった。

 その身に取り込んだエネルギーを我が物にしたのかと、ヘスティアは気づく。

 

「でも、そんな無茶は一時しのぎだ!すぐに力に器が耐えられなくなるだけじゃないか!?」

 

『ハァッ、ハァッ、流石だな全知の神……この身もそうは持たん。私の打倒光の国の野望は叶わないだろう。』

 

 ヘスティアの言葉を肯定する。

 死を前にしても、ヤプールは変わらない。

 底なしの悪意の体現者は、その体から血しぶきのように漏れ出す闇を意に介さず、その瞳に憎悪を燃やし続ける。

 

『だが!せめて貴様らも道連れにしていくぞ!ウルトラマンネクサス‼ベル・クラネル‼』

 

 ヤプールの業火が力を使い果たし、満足に動けないウルトラマンを襲う。

 為すすべなく炎に包まれたウルトラマンが悲鳴を上げる。

 

「ヘアアアァァァ!?」

 

『死ね!紛い物‼貴様のせいですべてが狂った!』 

 

 ヤプールの右手の鎌がウルトラマンの胸を滅多切りにする。

 そして、ついに片膝をついたウルトラマンを容赦なく踏みつけた。

 何とか反撃しようとするウルトラマンの攻撃を空間を歪めて回避し、ウルトラマンの背後から再び斬撃を食らわせて地面に叩きつけた。

 倒れたウルトラマンを何度も、何度も、鬱憤を晴らすように蹴りつけたヤプールは右鎌に闇のエネルギーを集中させる。

 

『この一発で……地獄へ行け!』

 

 【ヘスティア・ファミリア】から放たれた魔剣にビクともせず、止めの光線を放つ。

 ウルトラマンを貫いた光線が後方の岩山を砕き、爆発した。

 凍り付く仲間たち。

 ウルトマンの瞳は輝きを失い、最期まで抗おうと伸ばされた腕がトン、と軽い音と共に地に落ちる。

 

『これだけやってもまだ消えないのか……冒険者と言うのは本当にしぶとい。』

 

 ヤプールはウルトラマンの変身者であるベルの恩恵(ファルナ)が、辛うじて命をつなぎとめていることに気付き、うんざりとした様子で倒れ伏すウルトラマンを見下ろす。

 そして、確実に仕留めるために腕を振り上げた。

 

「させるかああああぁぁぁぁ‼」

 

 ベルを殺されてなるものかと、既に罅が走り始めている魔剣を手にヴェルフたちが立ちふさがる。

 止めを刺そうとするヤプールに対する【ヘスティア・ファミリア】の無謀な抵抗の声。 

 それを聞いたウルトラマン(ベル)の拳が固く握り締められた。

 

『絶対、諦めるもんか……っ』




 ヤプールのしつこさはウルトラファンなら誰でも知っていること。
 そして次回、いよいよ最終回です。
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