ダンジョンで受け継がれる絆と出会うのは間違っているだろうか   作:逢奇流

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c-英雄終極

『えぇい!往生際が悪いぞ‼人間ども‼』

 

「貴方が言わないでください……‼」

 

 ヤプールと【ヘスティア・ファミリア】の戦い。

 否、それはもう戦いと呼べるものではなかった。

 ヤプールがウルトラマンを抹殺しようと放たれる光線。

 それを必死に眷属たちが防いでいるだけなのだ。

 

 人間は決して劇的成長はできない。

 冒険者の力の源である【恩恵(ファルナ)】はそれまでの人生の積み重ねだ。

 土壇場で覚醒すること等、あり得ない。

 

 人間と怪獣の格差は変わらないのだ。

 冒険者に怪獣は倒せない。

 ましてや、闇の力を増幅したヤプールには抗うことすら出来ない。

 

──なのに何故!?何故仕留めきれない!?

 

 ヤプールが攻撃するたびに、冒険者たちはボロボロに傷ついていく。

 能力(ステイタス)の低い荷物持ち(サポーター)など、余波だけで吹き飛びそうではないか。

 

 しかし、ウルトラマンはまだ健在だ。

 ヴェルフと命はヤプールからウルトラマンを守り続けていた。

 

 クロッゾの魔剣といえどもヤプールの攻撃を相殺することはできない。

 だが、光線を僅かに逸らすことはできる。

 二人はヤプールの光線に飛び込み、光が当たる直前で魔剣を自壊させることで一時的に火力を向上させていた。

 少しでもタイミングを見誤ることがあれば、人間など一瞬で蒸発する。

 そんな綱渡りをしても、成果はヤプールの数ある光線を1つ逸らすだけ。

 リスクとリターンの合わない自殺めいた遅延行為にヤプールは苛立ちを募らせる。

 

「道連れだとか言っておいて、倒れているウルトラマンに近づかないのは何故です!?反撃が怖いんでしょう!?どうせすぐに死ぬのに、今更ダメージを怖がるなんて馬鹿なんじゃないですか!?」

 

 なによりも苛立たせるのは小人族(パルゥム)の挑発だ。

 ヤプールも頭では理解している。

 あれは僅かでも勝機をつかむための揺さぶり。

 自分を苛立たせて隙を作ろうとする猿の浅知恵だと。

 

「あんな数の怪獣を取り込んでも頭は良くならないのですね!?無駄なことしてないで、一人でさっさと地獄に落ちてればいいんです!リリたちを巻き込まないでください‼ドブネズミにだってもう少しはまともな分別がありますよ!」

 

 だが人間、それもその中でも最弱と蔑まれる小人族(パルゥム)の侮辱にヤプールは怒りを抑えられない。

 頭が悪い?

 人間をはるかに凌駕する科学力を誇るヤプールに対する発言に、リリの思惑通りにヤプールの意識がウルトラマンから人間たちに向く。

 

『俺に対するその侮辱……‼後悔することになるぞ!』

 

「さっきから、私とか俺とか一人称が定まってないんですよ!何なんですか!?まさか、自分は種族の集合体とか言い出しませんよね!?一つの種族が集まった頭がソレなんて、喜劇を通り越して悲劇ですよ!!」

 

『……楽に死ねると思うな!』

 

 意地になって、単発の光線で仕留めようとするヤプール。

 ヤプールの(おぞ)ましい悪意に、正直腰が抜けそうなリリだが気を確かに持つ。

 冷静にさせてはいけない、気取られる。

 命の迎撃の頻度が僅かに減り、口元がかすかに動いていることを。

 

「【()けまくも(かしこ)きいかなるものも打ち破る我が武神(かみ)よ……尊き天よりの導きよ……卑小のこの身に巍然(ぎぜん)たる御身の神力(しんりょく)を……】」

 

 そして、こうしている間にも春姫が先ほどまで待機させていた詠唱を進めていることを。

 

「【神饌(かみ)を食らいしこの体……(かみ)(たま)いしこの金光(こんこう)……】」

 

 

 

 

『まだだ……‼』

 

 懸命に拳を握り、腕に力を入れる。

 深手を負ったとは言えベルも冒険者。

 戦争遊戯(ウォーゲーム)の時に負傷時の戦い方も訓練はした。

 

『もう、ジュネッス・ホワイトは保てない……』

 

 元々消費が激しかった強化形態を解除し、通常形態(アンファンス)に戻る。

 ただでさえ強力な今のヤプールと戦うには心許ないが、あのままではすぐに干からびていた。

 

『ウルトラマンとしての力がだめなら、僕自身の力で……‼』

 

 蓄力(チャージ)を開始する。

 ベルを信じて戦う仲間たち。

 その期待に応えるために、少年は英雄の一撃を用意する。

 

 この【スキル】は蓄力(チャージ)中は音と光が発せられる。

 そのため不意打ちには致命的に向かない。

 既にヤプールにも気づかれているだろう。

 

 だが、今は都合がいい。

 かつて新種のモンスターと戦った時、エルフの魔導士の詠唱にモンスターを反応させることで単調な攻撃を誘発し、前衛(ベル)の負担を減らしたことがあった。

 この【英雄願望(アルゴノゥト)】の脅威を知っているならば、無視はできないはず。

 

 冒険者としての技と駆け引きで、満足に戦えない体でも今やれることをする。

 往生際の悪さこそ、冒険者の強さだ。

 それをあの悪魔に見せつけてやる。

 

「ハアアアア……‼」

 

 【英雄願望(スキル)】の引き金(トリガー)を思い浮かべる。

 その憧憬の名はウルトラマンネクサス。

 適合者(デュナミスト)たちと絆を結び、人知れず邪悪から世界を守り続けた、光の巨人。

 共に戦ってきた誰も知らない英雄を幻想し、ベルは勝利の鐘を奏でる。

 

 やがて、鐘の音は大鐘楼の音に変わり。

 収斂する光の粒は、右手だけではなく全身に広がった。

 

 かつて黒いゴライアスとの戦いで到達した境地──限界解除(リミット・オフ)

 

 【神の恩恵(ファルナ)】すら超克する想いの丈が、常を超えた力を引き出す。

 

『今度こそ……誰も失わない!!』

 

 

 

 

『何だ!?あの光は!?』

 

 轟く大鐘楼の音色にヤプールが狼狽える。

 透き通るような神聖な音の波。

 生きとし生けるものを祝福するかのような福音は、人の悪意を糧とするヤプールを苦しめる。

 音が響く度に『ダークフィールド』の闇が晴れ、正常な『メタフィールド』に戻っていくのを感じたヤプールは再び立ち上がろうとするウルトラマンを悪魔のような形相で睨みつけた。

 

『何と忌々しい……闇を払う音色など、ビクトリーナイトのようなものではないか‼』

 

 小人族(パルゥム)の罵倒が続いていたが知ったことではない。

 あれは危険だ。

 あの光を生かしておいてはならない。

 体から怪獣たちの負のエネルギーを消すあの鐘は、ウルトラマンと同じヤプールの天敵だ。

 

 こだわりを捨て、光線を乱射する。

 一つ一つに突撃する先ほどまでのやり方では防げない。

 勝利を確信したヤプールは消し炭となったウルトラマンを幻視した。

 しかしその幻想は重力の檻に押しつぶされる。

 

「【天より(いた)り、地を()べよ。神武討征(しんぶとうせい)──────【フツノミタマ】】!!!!」

 

 全てを捉える重力の結界。

 それは怪獣の光線も例外ではない。

 ウルトラマンにたどり着く前に、ヤプールの攻撃は全て地に落ちた。

 

『何だと!?』

 

 まさかの防ぎ方に愕然とするヤプール。

 春姫はその隙を見逃さない。

 

「【(つち)へと至り(つち)へと(かえ)り、どうか貴方へ祝福を──大きくなれ】」

 

 両手を伸ばした先に見えるウルトラマンに微笑む。

 祈るようにささげられた光槌。

 ウルトラマンは彼女の視線に頷くと気力を振り絞って立ち上がり、魔法に手を伸ばす。

 

「【ウチデノコヅチ】!!!!」

 

 光の柱がベルを包み込む。

 これまでのダメージを吹き飛ばすような万能感に少年は雄たけびを上げた。

 

 

「オオオオオオォォォォォォ!!!!!!!!」

 

 そして、蓄力(チャージ)が完了した。

 放つは一撃必殺。

 ウルトラマンネクサスが最も信頼する技に全てを賭ける。

 

『クロスレイ・シュトローム』

 

 十字に組んだ両腕から放たれる光波熱線。

 ウルトラマンネクサスの代名詞ともいえる必殺技はヤプールに直撃した。

 

『何だ……この力はあああああぁぁぁぁああああぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!』

 

 英雄の一撃は過剰に強化されたヤプールをもってしても防ぎきれず、ジリジリと勢いに押され後ろに押し出される。

 チャンスは今しかない。

 残るすべての力を絞り出すため、ウルトラマンは声を上げた。

 

「ハアアアアァァァーーーー‼」

 

『おのれぇ……ヤプールの憎悪を舐めるなぁぁ!!!』 

 

 しかし、ヤプールはただでは終わらない。

 可視化できるほどの闇のオーラを発し、光線を受けながら一歩ずつウルトマンに近づき始めた。

 異様な執念に動揺するウルトマン。

 思わず悪魔の尋常ではない殺意に飲まれ始める。

 だが、

 

「頑張ってくださいベル様ァ‼」

 

「ここからだ!根性見せろ‼」

 

「あと少しです!」

 

「信じています‼」

 

 魔剣もアイテムも全てを使いつくした仲間たちからの声援が怯えた心に活をいれた。

 皆が必死に叫んでいる。

 喉を枯らさんばかりに、想いだけでも届けようと声を出していた。

 その声援に応えなくて何が英雄だ。

 何がウルトラマンだ。

 

「頑張れえええええ‼」

 

 最後に神様の声が聞こえた瞬間。

 ベルの中の光が覚醒する。

 エナジーコアが眩い光を放ち、ウルトラマンの底力を引き出した。

 

『コアファイナル』

 

 ベルと【ヘスティア・ファミリア】の絆が奇跡を呼び起こした、ウルトラマンネクサスの最後の切り札。

 エナジーコアから流れ出る光はウルトラマンの背後で形を成し始める。

 それはウルトラマンよりも大きな銀の巨人。

 それはベルの中に住まう光のオリジナル。

 それは決して希望を捨てない人々の心の力の体現者。

 

 諦めなかった彼らに世界を超えて光のエネルギーを与えるそのウルトラマンの名は……

 

『あり得ない……ウルトラマンノアが何故ここに!?』

 

 並行世界(マルチ・バース)のウルトラマンの出現に驚愕するヤプール。

 ウルトラマンの背後の幻影(ヴィジョン)として現れた神秘の勇者はウルトラマンと同じように十字を組む。

 時空を超越した援護によってアンファンスのまま、本来は不可能な究極最終形態(ウルティメイト・ファイナル・スタイル)の力、その一端を再現する。

 

『ライトニング・ノア』

 

 勢いを増し、稲妻超絶光線に進化した一撃により、ついにヤプールの足が止まる。

 

『ガッ……グ…おのれウルトラマン‼おのれベル・クラネル‼忘れるな!何度滅ぼうともヤプールは必ずこの世界に戻り、再び貴様らの前に……』

 

「いいや、そんな未来は来ない」

 

 ヤプールの言葉をヘスティアは切って捨てた。

 そこにいたのは普段の天真爛漫な少女ではない。

 威厳に満ちた、不滅を司る偉大なる神としての顔でヤプールの言葉を否定する。

 

「君はやりすぎた。神々(ボクたち)は異邦人と眷属(こども)たちの出会い(クロスオーバー)は認めても、君のような侵略者は認めない。さっきの融合怪獣のエネルギーで天界の神たちも君に気が付いた。神の力(アルカナム)が今後君のこの世界への来訪を禁ずることになるだろう。」

 

『おのれ……おのれええええええええええぇぇぇぇ』

 

 ヤプールは断末魔と共に爆散し、それと同時に異世界の戦士が作り上げた光の空間も消失した。

 

 

 

 

 縦も横もない世界。

 ベルとウルトラマンしか存在しない空間で二人は向き合っていた。

 ベルは穏やかな表情で銀の巨人に言葉を送る。

 

「貴方のお陰で僕は仲間を守れました。……ありがとうございました。」

 

 そんな言葉にウルトラマンは静かに頷いた。

 きっと、こうして顔を会わせるのは最後になるのにウルトラマンは無口なままらしい。

 つい、苦笑してしまう。

 でも、僕たちはこういう関係でいいのかもしれない。

 言葉はなくても、彼の温かい心を確かに感じたから。

 

「いつか別れなきゃいけない時が来るとは思っていたけど……いざその時が来ると何から言えば良いのか……」

 

 彼と共に戦った時間は驚くほど短い。

 精々数十年しか生きられない僕でもそう思うんだ、悠久の時を存在するウルトラマンにとっては瞬きの間の出来事なのかも。

 それでも僕も彼もこの短い物語を忘れることはないだろう。

 

 溢れ出る感情に振り回されないように自分を律する。

 情けない所をいっぱい見せたけど、別れの時くらいは格好を付けたい。

 

「貴方はこれから色んな所に向かうんですね」

 

 彼のウルトラマンになるための旅は始まったばかり。

 ここから受け継がれる絆の物語が紡がれていくんだ。

 きっと色んな人に出会いながら、長い長い時間を歩んでいくんだろう。

 彼の行く末を見届けられないのは残念だけど、僕はその旅路を応援したい。

 

「でも、貴方に変身できるのが僕だけじゃないのはちょっと悔しいかも」

 

 そう冗談を言ってみた。

 ウルトラマンの表情はお面みたいに変わらない。

 だけど何でか、彼が笑った気がした。

 だから僕も笑う。

 別れにはこの顔が一番だ。

 

 満ち足りた時間。

 このまま時が止まればいいのに、なんて未練が湧いてしまう。

 でも人に時の歩みを止める術はない。

 これが最後なんだ。

 

──あぁ、夢は終わりだ。

 

 意識が覚醒しようとしている。

 名残惜しけど、ここでお別れだ。

 

「さようなら。貴方に出会えて良かった。」

 

 僕の言葉にウルトラマンが頷いた。

 巨人の姿が遠くなっていく。

 そして現実の仲間たちの声に引かれて、僕もその姿に背を向けた。

 バイバイ、ウルトラマンネクサス。

 僕の、僕たちの英雄(ウルトラマン)

 

 

 

 

 世界の命運を賭けた戦いが終わり、日常が戻ってきた。

 街行く人々はこの世界で闇と光の決戦が行われたこと等、気づくそぶりもない。

 未だ市中に流れる怪奇現象の噂は存在するが、既に黒幕(ヤプール)は討たれた以上はそれも緩やかに収まるだろう。

 

 僕たちの生活もあの後何か劇的に変わったかと言われれば、そんなことはなかった。

 拍子抜けするくらい簡単に【ヘスティア・ファミリア】はウルトラマンのいない世界に慣れてしまった。

 何年もしたら、この思い出のことも夢だと思ってしまうのかもしれない。

 

 でも、あれから僕の肩から少し力が抜けたとみんなに言われる。

 僕は意識していなかったけど、今まではどこか無理をしているようで仲間たちに心配をさせていたらしい。

 

 アルテミス様のことを忘れたわけではない。

 むしろ彼女の思い出は絶対に忘れられないだろう。

 だから僕はその記憶をつらいだけのものにするのはやめる。

 あの無力感はなかったことにならないけど、あの女神(ひと)との出会いをつらいだけのものにしたくない。

 

 彼女との約束。

 一万年後に会うときは、笑顔でいたいから。

 

 だから、僕は走る。

 この先に待ち受ける運命を恐れず、受け止めるために。

 

「ベル様~。そろそろ出発ですよ~。」

 

「今日はウルトラマンの力なし、正真正銘【ヘスティア・ファミリア】のみの力で18階層を目指す日です‼気合を入れていきましょう‼」

 

 大丈夫。

 僕には仲間(ファミリア)がいる。

 みんなが一緒なら、どんな困難も乗り越えられると思えるから。

 

炎鳥(ファイアーバード)が大量発生しているらしいぞ。19階層のモンスターとはいえ、警戒は必要だな。」

 

「び、微力ながらお力になれるように頑張ります。」

 

 扉の前で待つパーティーの姿に笑みを浮かべる。

 今度はどんな冒険が待っているだろうか?

 どんな景色を見られるだろうか?

 

「気を付けて言ってくるんだぞ!みんな‼」

 

 どうか、ホームで僕たちを待つ神様が笑い転げるような物語であってほしい。

 それが一番僕たちらしいから。

 

「みんな、行こう!」

 

「「「「はい!!!(おう!!!)」」」」

 

 冒険しよう。

 またダンジョンで、新しい出会いが待っている。




──ダンジョンで受け継がれる絆と出会うのは間違っていくだろうか
──結論。絶対に間違いじゃなかった

 作者の逢奇流です。
 まずは本作を最後まで読んでくださったことに感謝を言わせてください。

 本当に、本当にありがとうございました。

 ダンまちとウルトラマンと言うちょっと無理のあるクロスオーバーでしたが、何とか完結できて一安心と言ったところです。

 劇場版でつらい経験をしたベル君。
 ダンメモのアフターストーリーである程度の救済はありましたが、彼が心の傷と向き合う話が見たいと思ったのが本作を考えたきっかけです。
 本当はキャラクターとしての怪獣やモンスターの脅威などプロットから泣く泣く削った部分も多く、小説を投稿することの難しさを実感しました。

 皆様のご期待に添えた内容だったかは分かりませんが、一人でも多くの方に楽しんで読んでいただけたならそれ以上の喜びはありません。

 それではまた、次の作品を書くことがあればよろしくお願いいたします。 

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