ダンジョンで受け継がれる絆と出会うのは間違っているだろうか   作:逢奇流

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第2話「不安-アンイージネス-」
a-狐兎対話


 光の巨人が倒れ伏す。

 目の前で、闇を纏った怪獣が(わら)っている。

 

 お前には何も守れない

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 巨人は怒りに拳を震わせ、力を振り絞って最後の光線を放つ。

 

 ──瞬間、全ては閃光に包まれた。

 

 怪獣は倒され、巨人は確実に止めを刺したことを確認すると、後ろを振り向き愕然とする。

 そこには瓦礫の山と化したオラリオがあった。

 

(これを僕が……?)

 

 呆然と当たりを見渡す巨人は足元に何かを見つけた。

 

 ──それは、見覚えのあるものだった。

 

 無残に破けたバックパック、ぼろぼろの着流し、罅割れた刀、燃え盛る紅色の着物……

 そしてあの日、僕が神様に送った、青い花弁を彷彿させる髪飾りが風にあおられて…………

 

 

 

 

「──────────────ッ!」

 

 声にならない絶叫とともに目を覚ます。

 突如変わった視界に、混乱する頭は何とか悪夢を見ていたのだと理解した。

 ドクドクと、早まる鼓動が痛くて思わず胸を抑えた。

 

「大丈夫っ、あれは夢だから……大丈夫…………」

 

 必死に自分に言い聞かせて、心を落ち着ける。

 恐る恐る自分の両手を確認するが、そこには、産まれてからずっと見てきた手が変わらず存在した。

 夢の中のような、赤い籠手に包まれた銀色(人外)の両腕では決してない。

 

(全部が夢…………じゃないんだよね)

 

 寝台(ベッド)の傍に置いてある、宝具『エボルトラスター』に視線を向ける。

 昨日のように強烈な光を放つことはない。あれは変身する時だけの効果だ。

 ……そんなことが当たり前のように分かってしまうことが恐ろしい。

『エボルトラスター』に触れた瞬間、その使い方も、変身した後の戦い方も、あの怪物が怪獣と呼ばれることも、いつの間にか頭に入っていた。

 神様は悪いものじゃないって言っていたけど、それでも考えてしまう。

 この力は僕に破滅をもたらすんじゃないかって。

 理解できないことがこんなにも恐ろしいことだなんて思わなかった。

 

(ダメだ、暗いことばかり考えちゃう)

 

 少し早く起きたんだ。この時間を利用していつも以上に朝の鍛練に取り組もう。

 僕は、頭をぶんぶんと振ると、何も考えずもう一度眠りたいという誘惑を振り払い、中庭に向かった。

 

 

 

 

 

 人数が増えると役割が分担できて余裕ができる。

 始まりは僕と神様、二人だけだった【ファミリア】も、何人もの仲間ができてパーティで探索できるようになった。

 僕がレベル3にランクアップしたのもあって、かつては苦戦した中層での探索もスムーズに行えるようになっている。

 潜れる階層が深いということは、より良質な魔石をとることができるということで、当然、【ヘスティア・ファミリア】の資金繰りも楽になるということだ。

 ……2億の借金が判明した今、微々たる物な気もするが。

 神様は自分の借金は自分で返すといって、僕たちの成果には手を出さないけど本当に何もしなくていいのかな? 

 

「ヘルハウンド3頭! 北西の方角から来ます!」

 

 命さんの索敵(スキル)に反応があった。

 前衛は各々の武器を構え、荷物持ち(サポーター)は後方で援護の準備をする。

 

「オラァ!」

 

 大剣を振りかざすヴェルフは、裂帛と共に斬撃を狼のモンスターに浴びせる。

 ランクアップを果たした上級鍛冶師(ハイ・スミス)の前には、中層のモンスターであろうと相手にはならない。

 そして、モンスターを察知した命さんも負けてはいない。

 間合いを見図り、脱力する。

 それを、隙と捉えたのかヘルハウンドが飛びかかるが、

 

「はぁぁっ!!」

 

 迂闊にも間合いに入り込んだヘルハウンドに抜刀術を繰り出す。

 武神(タケミカヅチ)仕込みの技は伊達ではない。

 首元を切り裂かれた狼は、何が起きたのか理解することもできず息絶えた

 このまま、問題なく撃退できると思われたが、中層は上層とは比べ物にならない物量で冒険者の余裕を揺さぶってくる。

 

「東南の通路からアルミラージの群れが接近しています!」

 

「おい! こっちはヘルハウンドがまた来やがったぞ!」

 

 サポーターのリリの言葉通り、東南から血濡れの兎の群れが迫ってくる。

 北西からは元々残っていた1頭と、新たに来た2頭のヘルハウンドが加わる。

 

(どうする、先にヘルハウンドを確実に倒すか、それともサポーター2人の援護に向かうか)

 

 刹那の思考、しかしその瞬間、懐に入れた『エボルトラスター』が発熱する。

 

(!? 近くに怪獣がいる!)

 

 僕にしかわからない情報が、僕から冷静さを奪った。

 目の前にいるヘルハウンドを強引にナイフで突き殺すと、そのまま反転、魔法を連射してサポーターを襲おうとしていたモンスターたちを攻撃する。

 

「ベル殿!?」

 

「ベル様! 無茶をしすぎです!」

 

 命さんとリリが声を上げるが、答えてる余裕はない。

 ヘルハウンドはヴェルフたちに任せ、炎雷(ファイアボルト)に怯むアルミラージの群れに飛び込み、双剣(ダブルナイフ)でその首を撥ねていく。

 

「っ……!! 後退します」

 

 リリの指示に従い、僕たちは モンスターたちが集まる広間(フロア)から脱出した。

 

 

 

 

 その後、開けたルームで簡易的な休憩ポイントを整えて、一時休憩することになった。

 リリからはさっきの無茶な戦い方を注意されちゃったけど、まだ気を抜くことはできない。怪獣の反応は近くで確かにするけど、いまいち具体的な位置がつかめない。

 あちこちに移動しているのなら、運が悪ければ遭遇(エンカウント)するかもしれないと、気を張っていると、サポーターとして同行している春姫さんが二属性回復薬(デュアルポーション)を渡しに来た。

 

「お疲れ様です。ベル様」

 

「ありがとうございます」

 

 春姫さんはつい最近、ファミリアに入ったばかりのレベル1の狐人(ルナール)だ。

 移籍したばかりで、色々となれないことも多いだろうに精力的に働いてくれている。

 休憩の間、さっきはあまり活躍できなかった、もうファミリアにはなれてきたか、と言った軽い会話を挟みつつ体を休めていると、春姫さんは突然「ありがとうございます」とお礼を言ってきた。

 お礼をされた内容に心当たりがなかった僕は、ちょっと混乱しつつ意味を聞くと、春姫さんは静かに語りだした。

 

(わたくし)はイシュタル様に拾われてからずっと、誰にも助けを求めることはできませんでした」

 

 元はサンジョウ家という貴族の箱入り娘だった春姫さんは、あるパルゥムの(はかりごと)によって実家を勘当されたところを、奴隷商に捕まってしまう。そこでイシュタル様に魔法の才能を見込まれ、抗争の道具として利用されていた。

 やがて、狐人(ルナール)の魂を封じ込めることで、妖術を自動で発することができるアイテムを作るための儀式が行われることになった時に、僕と出会った。

 

「アイシャ様のように親切にしてくれる方もいましたが、私は自らの運命に絶望し、心を閉ざしていました」

 

 ──そんな時に、あなたに出会った。

 

 ひとときの夢を見せてくれただけでなく、諦めた想いを紡いでくれる。

 あの満月の調べ。

 

「私はあなたに出会って救われました」

 

 だから、ありがとうと。

 そう伝える彼女の言葉は、感謝だけではなく、こう読み取ることもできた。

 

 ──ずっと、押し殺してきた想いをあなたが解き放ってくれたように、

 ──私もあなたの苦悩を共に背負いたい。

 ──一人で抱え込まないでください。

 ──仲間(私たち)を頼って。

 

 リリに呼ばれ、立ち去る春姫さんの背中を見て、僕は情けなさでいっぱいだった。

 

(気を遣わせちゃったな……)

 

 よくよく考えたら、気を遣うに決まってる。

 僕は昨日、突然玄関で倒れていたんだ。

 それなのに、いつも通りに振る舞おうとすれば誰だって違和感を感じるだろう。

 春姫さんはそんな僕を心配して、あんな話をしたんだ。

 

(春姫さんだけじゃない。リリも、ヴェルフも、命さんも……みんな僕に注意を向けていた)

 

 僕と命さんは隠し事ができない。なんて、前にリリに言われたことがあった。

 いつも通りの行動をとってたつもりだったけど、僕の拙い演技は最初から筒抜けだった。

 ファミリアの団長になったというのに、みんなに心配かけて、自分の情けなさに赤面しそうだ。

 

(こんな人たちを僕は疑っているんだ……)

 

 罪悪感に打ちひしがれる。

 だけど、もしも、みんなに嫌われたら。

 そう考えると、とても怖くて言い出せなかった。

 

(だけど、このままじゃだめだ)

 

 神様は他の神様にバレてはいけないといったけど、仲間(ファミリア)にまで隠せとは言ってない。

 いつか、ちゃんと言わないと。

 今はまだ勇気を出せないけど、いつか。

 

『エボルトラスター』がトクンと、淡い熱を持った気がした。

 

 

 

 




 ふと思ったけど、怪獣の解説もあったほうがいいでしょうか?
 アンケートを設置したので、皆さんの意見を教えてください。

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