ダンジョンで受け継がれる絆と出会うのは間違っているだろうか 作:逢奇流
「グ……クゥ……ウウウウゥゥゥゥ!!!!!!!!!!」
押し寄せる圧力に光の巨人が呻く。
滝のように絶え間なく聞こえる轟音が告げる。
あの光の壁を失った時がお前たちの最後だと。
「ベル様……」
苦悶の声を漏らす巨人の姿に春姫から少年の名が呟かれる。
彼が不自然な挙動を見せるようになった昨日から、この巨人に姿を変化させる術を手に入れたのだろう。
苦しかったはずだ。
御伽噺を見ればわかる。この世界の歴史は異形の存在との争いの歴史だ。
そんな歴史が積み重ねられてきた世界で、もしあの姿を晒してしまえば、この街に彼の居場所がなくなることは容易に想像できる。
昨日から、彼は自分が世界から隔離されたような孤独感に苛まれていたのだ。
(ですが……)
彼はそれでも戦った。
後先考えずに、顔も知らない誰かが、怪物の脅威に晒されないようにと。
あんな姿になっても何も変わってはいないのだ。
愚かで、危なっかしくて、だけど、とても尊い光を放つ。
──
なら、迷うことはない。
私たちが彼から離れることなんてありえない。
だから、伝えないと。
純白の心は霞を払うことで、何者よりも輝くのだから。
動けない。
筋繊維一本でも緩めれば、守りを維持できなくなる。
このままではジリ貧だと、ベルは思考を回すが逆転の策など浮かばない。
時間が経つごとに力は失われ、焦りが加速し、思考が空回りする。
『このままじゃっ』
刻一刻と近づく限界に屈しそうになったその時。
「【──大きくなれ】」
……
ゆっくりと背後を振り返る。
そこには、変わらぬ目で
「【
小さな頃、祖父に聞かせてもらった極東の英雄譚を思い出す。
物語の中で、英雄の無事を祈り、一晩中神楽を踊り続けたという巫女。
憧憬の景色と
薄暗いダンジョンの僅かな燐光に照らされて、彼女の
その輝きは、詠唱が続くにつれて、彼女自身から迸る魔力の光によって徐々に強さを増していく。
「【
霧状の魔力が上空に集い、光雲を形づくる。
その光景を覚えている。
あの日、彼女を救うために、命さんと二人で【イシュタル・ファミリア】に挑んだ日に、精一杯ぶつけた僕の言葉に応えてくれた。
あの、涙ながらの微笑みを。
「【──大きくなれ】」
全てが終わった月の夜の
彼女を縛っていた
『貴方を助けに来ました』
『……ありがとう、英雄様』
共に笑い合い、互いの温もりに身をゆだねた、あの出会いの物語。
あの日と変わらぬ親愛を乗せて。
怪獣の驚倒を置き去りにして、強大な柄のない光の槌が、あたたかな波動を発する。
彼女は自分に許された、とっておきの奇跡を召還した。
「【ウチデノコヅチ】」
光槌が巨人の全身を包み込む。
体と心を奮い立たせる光が彼に教えてくれた。
──恐れなくていい、あなたには
「ッ!! ……ハアアアアアアアァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!!」
万の言葉より響く、全霊の
『
制限時間内に限り対象をランクアップさせる、最強の妖術。
破壊の奔流を押し返し、バリアーごとルガノーガーに弾き返す。
「ピギャアアアァァァァ!!!!」
突然の逆転に絶叫する怪獣。
巨人は仲間たちに視線を落とす。
レベルだけで言えば、あの怪獣には、吹いて飛ばされるような力しか持たないはずの仲間たちが、こんなにも頼もしい。
心の
『もう誰にも負けない!!』
ベルは勝利の確信をもって、胸に輝く宝玉・『エナジーコア』に手をかざす。
そして、力強く手を振り下ろした。
神秘的な水の音があたりに響き渡る。
波紋のような輝きが巨人を包んだ。
「色が変わった……?」
現れた新たな巨人の姿にリリたちは驚愕する。
先ほどまでの銀を基調とした姿ではない。
目が覚めるような白に赤のライン、胸に輝くY字の宝玉には新たに楕円型の宝石が増えている。
身を覆う生体鎧も増え、ベルが普段着用する
それが、ベルの心の叫びに呼応したものだとリリたちも理解できた。
先ほどまでの姿を
敗北を重ね、屈辱にまみれながらも、バカみたいな白さを忘れずに駆け抜ける『
その名も『ジュネッス・ホワイト』!
「ハアァァァ……ヘァ!!」
『アームド・ネクサス』同士を接触させ、右腕に光を宿し、上空のルガノ―ガーに向け、光線を照射する。
『フェーズシフトウェーブ』
光はそのままルガノーガーだけでなく、巨人もファミリアも飲み込み円形のドームを形成する。
黄金の雨のようなエネルギーが彼らを包み込み、光が消えたころには縦穴には何もいなくなっていた。
ジュネッス最大の武器は必殺光線ではなく、異相、つまりは異次元空間を作り出す『フェーズシフトウェーブ』であるといっても過言ではない。
この技によって形成される空間は『メタフィールド』と呼ばれ、巨人が、自らが存在する可能性を拡散し、その他の要素を排斥することで成り立つ空間である。
この戦闘用不連続時空間に引きずり込むことで周囲への被害を防ぎ、かつ、自分を強化した状態で戦闘に臨める。
しかし、そんなことを一切知らないヴェルフたちは大いに動揺した。
「おい! ここどこだ!?」
「15階層にも17階層にもこんな地形はありませんよ!?」
「あの空の色……なんと面妖な……」
「じ、地面が光って……はううぅぅ」
赤土色の発光する地面、虹色のカーテンに包まれた空、どこまでも続く地平は或いは無限なのではないかと錯覚する。
この世
―ドォォン
しかし、少し離れた地点から鳴り響く轟音を春姫の獣人特有の聴覚がとらえると、パーティーは急いで、音のする方向に向かった。
「シェァ!!」
「グオオオオオォオォォ!!!!」
『メタフィールド』の展開には、自身の存在を周囲に拡散しなければならない。
すなわち、生命力を削るのだ。
展開可能な時間はおよそ3分、それ以上は人の体が持たずに、
距離を詰めることに成功した巨人は、ルガノーガーに格闘戦を仕掛ける。
その大きさを10倍近く増し、49
しかし、敵もさるもの巨大な両腕を、鈍器のように振り回し応戦する。
「フッ!」
だが、接近戦ならば
師事した
「ギャアアア!!!! ッガァァァ!!!!」
よろめく凶獣だが、ただでは終わらない。
怒りに瞳を燃やし、大振りで振った右腕の振り上げが巨人の腹部に命中する。
「グアアアァ!!」
大きく吹き飛ばされた巨人は即座に体勢を立て直す。
距離は破壊光線に長けるルガノーガーが有利。
しかし、一発外せばすぐに距離を詰められてとどめを刺される。
ルガノ―ガーが両腕の照準を合わせる。
巨人は『アームド・ネクサス』から光の剣を展開した。
お互いの間に緊張が走る。
「グルルル……」
「ハアア……」
先に動いたのはルガノーガーだった。
全エネルギーを込めて、惑星すら破壊できる破壊光線を発射する。
……その数瞬前に横っ面を爆炎が襲った。
犯人は彼が数分前まで矮小な獲物と侮った、ファミリアの持つ魔剣。
ルガノーガーにとって最悪の意趣返しによって、彼の命運は定まった。
爆炎で遮られた視界では敵を認識できず、放った光線は紙一重で躱され、巨人は地面を滑るかのような超スピードで接近してくる。
『マッハムーブ』
音すら置き去りにして迫る光の巨人に、ルガノーガーは、両腕の龍の頭で懸命に防御の姿勢をとる。
構わず振りぬいた光の剣は美しい軌跡を描き凶獣の首元に迫った。
『シュトロームソード』
まるで抵抗なく剣はルガノーガーの首を通過し、輝きをまとう巨人は怪獣を置き去りにした。
仲間たちが歓声を上げて
リリが、見た目相応の子どものようにはしゃいでいる。
ヴェルフはこちらに向けてサムズアップをしてきた。
命と春姫は手をつないで駆け寄ってきた。
巨人はそんな仲間たちに頷くと、光を解き小さくなっていく。
輝きが収まると、元の少年の姿に戻ったベルが仲間の下へ駆ける。
──ごめん、ありがとう
少年の言葉に笑みを浮かべる眷属たちは各々のやり方でベルを迎えた。
その瞬間、自分が切られたことに気が付いたようにルガノーガーが爆散し、同時に『メタフィールド』も溶けるように消失した。
「結局、みんなにはばれちゃったわけか~」
神様にダンジョンでの出来事を報告すると、神様は優しげに微笑みながら「よかったじゃないか」と声をかけた。
「リリはヘスティア様だけが知っていたことに納得いかないのですが……」
「まぁね! ボクとベル君の間には厚い絆があるわけだし? サポーター君が立ち入る余地なんてこれっぽっちもないからネ!」
「なんですって~!!」「なんだと~‼」といつものように喧嘩する二人を、周りがなだめる。いつもの光景が、こんなにも温かい。
すこし感傷に浸っていると、笑ってないで止めろと言われちゃったけど。
「そうそう! ベル君! 思ったんだけどさぁ、君の変身した姿をずっと巨人とか光の巨人って呼ぶのは味気ないと思わないかい?」
リリとの喧嘩が落ち着くと、神様がそんなことを言ってきた。
たしかに、巨人のままだとなんだかゴライアスみたいでいやかもしれない。
「どうだろう! せっかく一件落着したわけだし、僕たちで名前を付けてみないかい?」
「
「名前を考える……ちょっと自信ありませんが……」
「いいな! やろうぜそれ! 血が滾るぜ……あの巨人の頭は兜みたいだったよな、ベルが変身する巨人だから
「あーはいはい。ヴェルフ様は命名禁止です」
突然の申し出に少し戸惑ったけど、意外とみんな乗り気だ。
僕も、かっこいい名前を考えるのは好きだしいいかも。
【
「あ、ベル君も命名禁止だぜ」
なんで!?
(どう考えても、
「星の戦士なんていうのはどうでしょう、ダンジョンの中で輝く姿は星のようでしたから」
「確かにそうですね、では自分はカイジュウ? というものを倒したあの斬撃から、銀の流星という名前にしようかと」
「え、えっと、昔見た御伽噺ですが、槍と見紛う聖剣で竜を倒した話を思い出したので、光の勇者というのはどうでしょう」
「あ、最後の春姫さんの言ってる御伽噺分かった。シレイナの湖畔竜殺しのジェルジオだ」
「流石、英雄譚オタクたちだな……」
うーん、みんなの名前もいいとは思うんだけど……
もっと、こう、【
「じゃぁ! 最後はボクだね! 結構自信あるんだよ!!」
さ、流石は神様……!
きっと、僕たち下界の住民じゃとても思いつかないような素晴らしい名前なんだろう。
ごくり、と唾を飲み込み神様の発表を待つ。
「いやいや、そんな
―ウルトラマンなんて言うのはどうかな?
その名前を聞いたとき、トクンと『エボルトラスター』が反応した気がした。
なんだろう、これまでうんともすんとも言わなかった光がこうも反応するなんて……
「……いいと思います。光もそれが一番しっくりくるみたいです」
「そっか! よかったよ!」
―ただ、
「あの……神様、命名権はないですけど、少しいいですか?」
「ん? なんだい?」
「神様の名前に少しだけ足させてほしいんです」
僕はこれまで、何度も仲間に支えられてここまで来た。
この光との出会いはそれを再確認させてくれた気がする。
だから、あの戦士を示す名前はこれが一番いいんじゃないかと思った。
「ネクサス……絆の戦士、ウルトラマンネクサスがいいんじゃないかと思います」
『エボルトラスター』から淡い光が漏れる。
今日、改めて知ることができたみんなとの絆を忘れないように、僕はその名を胸に刻んだ。
ベル君は14歳。
思春期真っ盛りです。
あと、ヴェルフが言った兎耳形兜は、実在する兜の名前です。
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