ダンジョンで受け継がれる絆と出会うのは間違っているだろうか 作:逢奇流
a-鍛冶師の問い
迷宮都市オラリオ。
富と名声、この世のあらゆるものがここにあるといわれる、世界で最も活気あふれる都市。
そんなオラリオも、月光に照らされる丑の刻には日中の喧騒を忘れ、透き通るような静寂に包まれる。
そんな静止した世界の中で、寝静まる人々は気づかなかった。
こうした日常の裏で、闇と光の戦いが行われていることに────────
都市南西部の地下、都市の下水・汚水、そしてダンジョンから流れる水を排出する地下水路。
その中でも、もう破棄された旧貯水槽で誰にも知られない戦いが行われていた。
「ヘァ!」
ウルトラマンは渾身の打突を繰り出した。
岩山ですら粉砕する一撃は、しかし、甲高い金属音により弾かれる。
手に走る痛みに、思わず後退してしまうウルトラマン。
そんな、ウルトラマンに黄金色の影が迫る。
「────────」
キングジョー
ペダン星の驚異的な科学力によって生み出されたロボット兵器である。
鋼鉄の兵士は雄たけびを上げることもなく、淡々と
とっさに両腕で頭をかばうウルトラマンだが、キングジョーの腕部は徐々に頭に近づく。
『このままだとやられる!』
キングジョーの怪力には勝てないと判断した
『オーラミラージュ』
光の効果で硬直したキングジョーを蹴って距離を取り、『クロスレイ・シュトローム』を放とうとするウルトラマンだったが、背後を襲った衝撃に技を中断してしまう。
「グアア!! …………!?」
振り返ると、そこにはキングジョーとは対称的な銀色の金属に覆われた鉄人の姿。
三門の砲台を頭部に取り付けた新たなロボット兵器──インペライザーは両肩のホーミングレーザーを照射する。
回避しても追ってくる光を懸命に回避していると、復活したキングジョーの体が4つに分離、
これには、たまらずに吹き飛ばされたウルトラマン。
『ぐっ……まだだ!』
しかし、ベルは怯まず戦意を奮い立たせる。
体勢を即座に立て直し、右腕を突き出す。
ウルトラマンとロボット兵器の射撃戦では、当然ロボット兵器に分がある。
しかし、今代の
キングザウルスとの戦いで【スキル】を纏ったように、【魔法】もまたウルトラマンは行使可能となった。
ベル・クラネルを支える、彼だけの魔法を。
『【ファイアボルト】!!』
10条の炎雷は、人の時とは比べ物にならない圧倒的破壊力をもって、二対の鉄人に着弾する。
薄暗い貯水槽を照らす魔法は、キングジョーとインペライザーを吹き飛ばした。
そして、反撃などさせないとばかりに、青白く光る美しい鞭を繰り出す。
『セービングビュート』
全身に巻き付く糸を引きちぎろうと、キングジョーが暴れるが頑丈な糸はびくともしない。
大質量の鋼の塊がふわりと宙に浮いた瞬間、ウルトラマンは重力に引かれようとするキングジョーに突貫した。
『スピニングクラッシュキック』
ウルトラマンが回転すると炎の竜巻がその身を包み、光輝く蹴りが突撃槍のように繰り出される。
──
金色の城壁は爆散し、貯水槽を揺らす。
そして、傍に着地したウルトラマンを攻撃しようと、インペライザーが頭部の三門の砲台を回し始める。
しかし、ウルトラマンのほうが早かった。
既に、空中で次の技の用意をしていたウルトラマンは十字に構えた両腕を突き付ける。
『クロスレイ・シュトローム』
【
ゆっくりと立ち上がり、残心する。
もう起き上がる気配がないと確認すると、ウルトラマンは変身を解いた。
「で? なにか言い訳があるなら聞くぞ」
僕は現在、ヴェルフの鍛冶工房で正座をしていた。
ごつごつした石の床が痛いです。
なんでこうなっているかと言うと、僕が夜な夜なホームを抜け出していることをヴェルフに気づかれてしまったのだ。
しかも今日は、変身後の疲労で注意散漫になったところを、下水道にいる魚のモンスター『レイダーフィッシュ』にかすり傷を負わされていた。
見つかった途端、首根っこ掴まれて工房に叩き込まれたのである。
「か、怪獣がいるなら時間なんて関係……」
「もう一週間以上徹夜しているだろうが、【ステイタス】があるから平気とか抜かしたらぶっとばすぞ。大体、前に怪獣が出たのは5日前、4日間まるまる消耗して終わりだっただろうが」
グゥの音も出ない。
本当に4日間はただ街を
「近所で噂になってるぞ。歓楽街で騒ぎを起こした件と関連させて、【リトル・ルーキー】が女に飢えて夜な夜な街を徘徊してるってな」
ひどい風評被害だ。
そんなに女好きと思われているのだろうか。
確かにオラリオに来たばかりの頃に、ダンジョンに出会いをホニャラララとか、ハーレムを求めて云々とか言ってたけど。
……うん。誤解されても仕方ないかも。
「しかも無茶なパトロールして、集中切れてレイダーフィッシュごときに負傷は笑えねぇぞ」
レイダーフィッシュはそう強いモンスターではない。
前にアイズさんやシルさんと猫探しをしたときに戦っているが、第一級冒険者がそばにいたとはいえ、ランクアップ前の僕でも戦えた相手だ。
レベル3かつ、【ヘスティア・ファミリア】のエースを任されている僕が、簡単に傷つけられていい相手じゃない。
「ごめん……確かに、迂闊だった。気を付けるようにする」
怪獣にばかり気を張って、冒険者としての役割を疎かにするのは違う。
反省しよう。
そうヴェルフに伝えると、ヴェルフは険しい表情で僕を見続けた。
こ、これじゃダメだった……?
「ああ、しっかり休むのはいい。けどなベル、それだけか?」
「え?」
「
「……………………………………………………………………………………………………………………」
ヒヤリ、と背筋が凍った。
思わずこぶしを握り締める。
その反応が、ヴェルフに気づかせる材料になると分かっていたけど、過剰な反応を抑えられない。
前から気になっていたんだ。と、ヴェルフは言う。
「俺たちに嫌われるのが怖かった。それは本音だろう。お前と同じ状況なら俺もそう思っただろうしな」
声が出せない。それを言われたくないのに制止できない。
「けどな、お前のみた悪夢の話を聞いた時にそれだけじゃないとも思った」
手が震える。抑えようとするけど止まらない。
「夢の中のお前は、俺たちに嫌われていたわけじゃない。俺たちを誤って攻撃に巻き込んでいた……お前が言ったことと微妙にずれている」
脂汗がにじみ出る。灰色の床を水滴の跡が汚す。
「ベル、お前が怖がっていることはまだあるんじゃないのか?」
あの無茶はそれを紛らわせるためではないか、と。
ヴェルフは問いかける。
そこに厳しさはない。
ただ、長兄が弟に問いかけるような真剣さがあるだけだ。
「言ってくれ。このままお前が一人で苦しむのは俺もつらい」
その温かさに、
その温かさにひかれてすべてをさらけ出したいという思いと、みんなに迷惑かけたくないという思いが葛藤する。
しばしの沈黙の末、僕は恐る恐る口を開いた。
「神様が言ったんだ。僕には何か、使命みたいなものがあるんじゃないかって……」
その言葉を聞いた後、心臓を掴まれるような思いをした。
神様が出ていくときにポロリとこぼした言葉で助かった、とあの時は思ったんだ。
神様なら、きっと僕の表情に気づいたから。
「僕はその時、
ずっと忘れられないあの
自分の無力に打ちひしがれて、生まれて初めて運命を呪った、涙の記憶に。
「アルテミス様が槍を僕に託した、あの時に」
その言葉だけでヴェルフはすべてを理解した。
同時に、ベルの心に残る傷の大きさに悔しくなる。
出会った少女の名はアルテミス。ベルをオリオンと呼び、ある依頼を持ち掛けた女神。
依頼の地であるエルソスの遺跡までの旅路で、絆を深めた女神。
そして……ベルがその手で殺めた女神。
「僕がアルテミス様に託された槍は、彼女を……殺す、ためのものだった……」
ひどい話だ。
槍の力を引き出すために、アルテミスに似た魂の持ち主であるベルが選ばれた。
『存在』と『存在』が惹かれ合う二人の繋がりを強くするために、仲良くなるようわざと仕向けたという。
ヘルメス様にこの話を聞いた時、僕は怒ればいいのか泣けばいいのか、燃え盛る感情の出し方が分からなくて、途方に暮れてしまった。
彼の狙い通り、数日だけの旅路は、ベルにとって一生忘れられない美しいものになった。
そうしてたどり着いた遺跡で、アルテミスの本体を取り込み、世界を崩壊させる脅威『アンタレス』と遭遇する。
世界の理すら覆すモンスターを止められるのは、神殺しの権能を宿す槍、『オリオンの矢』に選ばれたベルだけだった。
そうして
「与えられた力で、また、大切な人たちを
「ベル……」
思いを告白するベルの痛々しい姿をヴェルフは哀れに思う。
下界の住民にとって、神殺しは絶対の禁忌だ。
生まれながらの悪人も、理性のタガが外れた復讐者も、それだけは犯さない。
そんな、禁忌を望まずして背負ってしまったベルを前に、思わず立ち竦みそうになる。
(……っふざけろ!!)
怯んでしまった自分を罵倒する。
傷ついている
「ベル、お前の苦しみを全部わかってはやれない。お前の使命の重さも理解はできないだろう」
ビクリ、とベルの背中が跳ねる。
ベルの苦しみは重過ぎる。
心苦しいが分かってやれるとは嘘でも言えない。
それでも、ヴェルフはいつもの笑みを浮かべた。
「だがな、俺はお前の専属鍛冶師だ」
冒険者と鍛冶師が専属契約するという行為には強い信頼が必要だ。
常に命がけの冒険者が最後まで頼りとする武器。
それを打つ鍛冶師の腕と覚悟は生半可なものでは務まらない。
「俺はお前に打ち続ける。過酷に耐え抜く防具と運命を切り開く武器を」
どこまでも駆け抜けるベル・クラネルが途中で倒れないように、
彼にふさわしい武器を打つのがヴェルフの使命だ。
「大丈夫だ。俺もお前をずっと追い続ける」
──だから、一人で背負おうとするな。
──傷を抱えていたって、お前は自分の目指す未来に向かって走り抜けられる。
ヴェルフが語る精一杯の言葉に、ベルは泣きそうになって顔を逸らした。
暗闇の中から、異形の影たちが現れる。
「奴が動き出すまでに時間もない。邪魔なウルトラマンを排除し、先に仕掛けるぞ」
両腕に多機能アームを装着した異形の影が話し始める。
漆黒の体を走る白い網目状のライン。
赤い単眼が闇に不気味に輝く。
ワロガと呼ばれる怪人は他の影を見渡し指揮を執る。
「しかし、ウルトラマンは強力だ。一筋縄ではいかんぞ」
そう指摘する影に、ワロガは案ずるなと自身の背後に青い玉を出現させる。
「こいつを出す」
球体が罅割れると黄色の光が漏れ出た。
中に潜む存在はその存在感に圧倒される影たちを虚ろな表情で見据え、小さく唸り声をあげた。
ピポポポポッ…………ゼッットオオオォォォォォン……………………………………………………
劇場版を観た後にずっと書きたかった話でした。
ダンメモで続きは描かれたけど、それはずっと先の話ですから。