ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~ Extra Stories.   作:アルタナ

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KUROMI様、リクエストありがとうございました!


Extra Story
先輩という名の、私のヒーロー / Sinon


―――これは、デスゲーム開始から、少しばかり前のお話。

 

 

 

 

 

―――後に、仮想現実で死神の異名を手にする少年と、そんな少年を先輩と慕うようになる少女のお話。

 

 

 

 

 

 

 

~先輩という名の、私のヒーロー~

 

 

 

 

 

 

 

その日、私はお母さんと一緒に、郵便局に来ていた。

 

用事は…何だっただろう。

 

私の用事…じゃなかったと思う。

 

 

 

 

 

「…」

 

 

 

 

 

どちらにしても、私が何かをするでもなく、お母さんが何かをするのを待っているだけ。

 

今は順番待ちで一緒に座って待っているけど。

 

やがて順番が来て、お母さんが呼ばれて、用事が済んだら一緒にここを出て、帰る。

 

それだけ。

 

そのはずだった。

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 

少しして、私と同じくらいの年だろうか、男の人。

 

年上?年下?

 

いまいち分からない。

 

別に顔見知りでも何でもない。

 

ただ、学校の男子しか知らなかった私には、その人の雰囲気に異質なものを感じていた。

 

 

 

 

 

学校の男子は、休み時間になるとバカみたいに友達と騒いでいる。

 

私は休み時間でも読書をしていたりして、その騒ぎ声が酷く迷惑に思ったこともある。

 

しかし、この人はどうだろう。

 

…とてもそんなことをするようには見えないほど落ち着いているように見えた。

 

 

 

 

 

学校の男子は、友達と遊びながら、楽しそうにしている。

 

まぁ、楽しいからバカ騒ぎをするのだろうけれど、そんな彼らに溜息を吐いたことを覚えている。

 

しかし、この人はどうだろう。

 

…無表情に見えるはずなのに、その視線に、直感的に恐怖を感じたのは何故だろう。

 

 

 

 

 

ただ、一目見ただけ。

 

それだけでも、彼の印象は、少なくとも私にとっては強烈だった。

 

周りの大人の人たちは、違っていたようで、少し彼を訝しげに見るだけで終わった。

 

 

 

 

 

彼を訝しげに見た理由。

 

それは、おそらく彼が手に持っていたもの。

 

布に包まれた……木刀、だろうか。

 

柄の部分が覗いていたが、学校の遠足で見た、お土産品のそれに近いように見える。

 

その大きさは、彼には不釣り合いなほどに大きなものに見えた。

 

それでも、大切なものを抱えるように、大事にそれを持っていた。

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 

何故だろう、彼から視線が外せなかった。

 

私が知っている男子とは、まるで異質。

 

その物珍しさだろうか。

 

彼が受付で整理券を受け取り、席に座るまでを自然と目で追っていた。

 

 

 

 

 

「…?」

 

「っ……」

 

 

 

 

 

やがて、視線に気づかれ、ハッとして視線を逸らす。

 

気づかれたのだろうか、妙な気恥ずかしさがあった。

 

 

 

 

 

…今度は気づかれないよう、視線だけを彼に向けてみる。

 

彼は、もうこちらを見ていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

それから数分。

 

やがて、お母さんが持っている整理券の番号の一つ前の番号が呼ばれた頃。

 

ふと、自動ドアが開く。

 

 

 

 

 

…バッグを持った、男の人。

 

涎を垂らしながら入ってくる、見るからに異常な人。

 

 

 

 

 

「…この鞄に金を詰めろ!警報ボタンを押すなよ!?」

 

 

 

 

 

お客さんを突き飛ばして鞄を置いて、中から拳銃を取り出して構えながらお金を要求する。

 

銀行強盗、だということはすぐに分かった。

 

だけど、何かを出来るわけもなく、従うしかなかった。

 

 

 

 

 

「は、はい…」

 

 

 

 

 

そうして、お金を詰めだす郵便局の人。

 

これからどうなってしまうのだろう。

 

ここで、殺されてしまうのだろうか。

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 

すると、座っていた彼が、立ち上がり、包んでいた布を取る。

 

そうして彼が手に取ったのは、木刀だった。

 

 

 

 

 

「っ…」

 

 

 

 

 

危険だ、と伝えようと、手を伸ばしかけ、やめる。

 

彼の冷たい目は、静かな怒りの感情を伴って、銃を構える男の背を見ていた。

 

やがて、彼は男の背後に近づき。

 

 

 

 

 

「っ…がぁっ……!?」

 

 

 

 

 

木刀を片手で横薙ぎに一振り。

 

男のふくらはぎに打撃を与え、ふらつかせた。

 

よろめきながら振り返り。

 

 

 

 

 

「こ、のガキいいぃぃ!!」

 

 

 

 

 

振り返り、狂ったように叫びながら子供相手に銃を向ける。

 

けれど、彼はそれに怯むことなく、持っていた木刀を振り上げ。

 

 

 

 

 

「っ…!」

 

 

 

 

 

相手の手首に衝撃を与え、照準をずらさせる。

 

手元が狂い、右手から放たれた銃弾が左腕に打ち込まれる。

 

 

 

 

 

「がああぁぁっ!!?」

 

 

 

 

 

左腕を庇うために銃を落としながら、必死に右手を止血する男。

 

それでも、あの人は止まらない。

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 

一言も言葉を発することなく、横薙ぎして、男の脇腹に一撃。

 

 

 

 

 

「ぐふっ…」

 

 

 

 

 

息が詰まるように吐き出しながら、その場にうつ伏せに倒れこむ男。

 

その左腕から止まらない血が、その場に血だまりを作る。

 

 

 

 

 

「ひっ…!?」

 

 

 

 

 

非現実と思いたくなる光景に、思わず声を漏らす。

 

 

 

 

 

「いやあぁぁぁっ!?」

 

 

 

 

 

誰かが、悲鳴を上げる。

 

けれど、彼は変わらず無表情に男を見下ろす。

 

その手には木刀を持ったまま。

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 

ふと、視線をずらし、男が落とした銃を拾い上げる。

 

けれど、男も左腕を負傷したものの重傷ではなかったのか立ち上がり。

 

 

 

 

 

「こ、の…返せ、ガキいぃぃ!!」

 

 

 

 

 

足のダメージが消えないのか、よろめきながら右手を彼に伸ばす。

 

銃を奪い取ろうとしているのは見ればわかる。

 

だけど、彼は冷静に銃を持った手を男に向ける。

 

 

 

 

 

「っ…だめ……!!」

 

 

 

 

 

止めようとしたけど、遅かった。

 

彼の放った銃弾が、正確に相手の腹を撃ち抜いた。

 

 

 

 

 

「ぐはぁっ!?」

 

 

 

 

 

彼は銃の反動で後ろに下がりながらも、視線は男に向けたまま。

 

男も、まさか撃たれるとは思っていなかったのか、驚き半分苦痛半分で、倒れこむ。

 

右手で押さえるその指の隙間から、血が漏れる。

 

やがて、男は再度うつ伏せに倒れる。

 

そんな男に。

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 

彼は、男の頭に銃口を押し付ける。

 

そのまま撃ち抜けば、おそらく死んでしまう。

 

その恐怖を悟ったのか。

 

 

 

 

 

「や、やめてくれ、う、撃たないで…死にたくねぇ…頼む、俺が悪かったから…!!」

 

 

 

 

 

狂ったように命乞いをする男。

 

けれど、彼はそんな男の言葉を聞いても、眉一つ動かずに見下ろし。

 

 

 

 

 

「…お前は、その台詞を言う相手に…何をした」

 

 

 

 

 

静かに、そう呟く。

 

その声は、学校の男子とそれほど差はなかったけど。

 

言葉は驚くほど冷たく、傍観者になった私ですら、一瞬息を呑む。

 

 

 

 

 

「ひ…っ!!!」

 

 

 

 

 

彼は、無情にも引き金を引く。

 

飛び散る血飛沫が、彼の頬を赤く濡らす。

 

それを意に介することもなく、彼は頭に穴を開けた男を見下ろしていた。

 

そんな彼に向けられるのは、畏怖の感情だった。

 

方法はどうあれ、助けてくれた彼に向けられる感情ではないのでは、と私は思った。

 

けれど私自身、少しだけ怖いと思ってしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

やがて、銀行員の誰かが警報ボタンを押していたのか、警察が到着した。

 

そして、犯人が血に伏している状況。

 

頬だけでなく、着ている服を血に汚しながら、木刀を持った子供。

 

 

 

 

 

「…これは、君がやったのか」

 

 

 

 

 

警察の一人が尋ねる。

 

けれど、彼は答えない。

 

代わりに、彼は溜息を一つ。

 

 

 

 

 

「君!どうして殺した!どうして私たちの到着を待たなかった!?」

 

 

 

 

 

若い刑事さん。

 

きっと正義感に溢れた、いい人なのだろう。

 

けれど、彼は。

 

 

 

 

 

「……なら」

 

「っ…」

 

 

 

 

 

木刀の切っ先を警察に向ける。

 

子供相手だと高を括っていた部分があったのか、突然の事に息を呑む。

 

 

 

 

 

「ならあんたは、到着するまでにコレが人を殺していたら、その命を諦めろと言うのか」

 

「っ…だとしても殺す必要はなかっただろう。彼は法が裁く…君ではない」

 

 

 

 

 

命を奪われる前に、奪おうとした男の命を奪った彼。

 

誰かの命を奪うことを許さない警察。

 

警察の人は、犯罪者を見るように彼を見る。

 

 

 

 

 

「……くだらない」

 

「何だと!?」

 

「殺さなければ、ここにいる誰かは死んでいただろう。誰も殺さずに、見事解決…そんな小説や物語みたいな空想を押し付けないでもらいたい」

 

 

 

 

 

けれど、溜息を吐きながら、彼は呟いた。

 

いつのまにか、手に持っていた木刀も下ろされていた。

 

 

 

 

 

「な…」

 

「…夢を見るのも結構。けど、これが現実…まして事が済んでから駆け付けるようなことしか出来ないのに、偉そうに言うな」

 

「くっ…」

 

 

 

 

 

実際、通報が遅れたとはいえ、警察の人が来るのが遅かったのは事実。

 

そこを突かれ、言葉を失う警察の人。

 

 

 

 

 

「…とにかく、君には話を聞きたいから警察まで来てもらう。それとその木刀…証拠品として押収する」

 

「っ………」

 

 

 

 

 

血が付いた木刀を証拠品と考えたのか、そう告げられ、彼は一瞬息を呑んだように見えた。

 

けれど、彼はそれに応じ、木刀を警察に渡す。

 

そのまま、彼は警察に連れていかれることになった。

 

 

 

 

 

「っ…あのっ!」

 

 

 

 

 

彼が出口に差し掛かった瞬間、私は声を出せた。

 

彼が私に振り返る。

 

助けてくれた、お礼を言いたかった。

 

 

 

 

 

「…ありがとう」

 

 

 

 

 

何か、は言わなくてもきっと伝わると思っていた。

 

けれど、彼は視線を戻し、何も言わずに歩いて行った。

 

その視線は変わらず、冷たかった。

 

けれど何故か、その視線に、寂しさが含まれているような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

私はお母さんに手を引かれ、その郵便局を後にした。

 

その後、彼がどうなったのか、私は分からない。

 

けれど、その時の強烈な記憶は、私の心に刻み込まれた。

 

もしあの場に彼がいなかったらと考えるだけでぞっとする。

 

 

 

 

 

「っ…」

 

 

 

 

 

もし、あの銃口を向けられていたら。

 

狂った表情を、向けられていたら。

 

私はこうして、普通に生活できていただろうか。

 

お母さんは、あの時のことを忘れなさいと私に言うけれど。

 

 

 

 

 

「…」

 

 

 

 

 

私は、忘れない。

 

たとえ他の人が貴方を拒絶したとしても。

 

私は、私を助けてくれた貴方を受け入れる。

 

たとえ日本の…違う。世界の誰もが貴方を受け入れなかったとしても。

 

私だけは、彼を受け入れる。

 

 

 

 

 

今はまだ、名前もわからない貴方。

 

私はいつか、また、貴方に会いたい。

 

けれど、彼のことをどう呼べば良いのだろう。

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 

口元に手を当てて考え、やがて一つの言葉が思いつく。

 

 

 

 

 

「…先輩、かな」

 

 

 

 

 

年上かどうかも分からないけれど。

 

私はいつか必ず、また会って、伝えたいことがあるから。

 

 

 

…守ってくれて、ありがとう。

 

 

 

…怖がってしまって、ごめんなさい。

 

 

 

…それから。

 

 

 

……思いつかない。

 

けれど、何かを伝えたい。

 

そうして、今度は私が、貴方を助けたいと思う。

 

私にできることは、ないのかもしれないけれど。

 

 

 

 

 

…いつかは、貴方の隣に立てるように。

 

 

 

 

 

「先輩…」

 

 

 

 

 

そう、勝手に決めた名前を呼ぶだけで、心が満たされるような気がする。

 

先輩が隣にいてくれれば、一人じゃない気がして。

 

いつかの再会を楽しみに、私は過ごしていく。

 

 

 

 

 

―――この時はまだ、あんな形での再会になるとは、思っていなかった。




シグレとシノンの馴れ初め話でした。

あまり甘くない感じになっていますが、連載当初からこんな感じの想定でした。
…この話を書く上で、本編をこっそり一部手直ししたのは、ここだけの話。
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