ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~ Extra Stories. 作:アルタナ
それから一年。
「嫌だ、やめ…あ、が…!」
「……」
その日は、1対10の刀を用いた稽古。
時雨は先ほどまで打ち合った相手の胸に容赦なく刃を突き立てる。
あの時、殺しを見て、吐き気を催した少年はもういない。
ただ、慣れた作業を行うように、人を殺せるようになっていた。
「…終わりました。父さん」
今では、稽古に防具を着けなくなっていた。
誰に言われてでもなく、自ら望んでそうなっていた。
頬を返り血で赤く染めながら、時雨は淡々と述べる。
そこには震えもなければ、何の感情もない。
「今日はここまで。明日は出かける…準備をしておきなさい」
それに返すのは、父の、やはり何の感情も見えない、ただ一つの言葉。
それに対し、時雨もまた、はい、と一言だけ返すのだった。
その日の夜。
「明日は…行くのよね」
「…あぁ。そろそろ頃合いだ…明日は時雨も連れていく」
「っ……まだ子供よ」
その日の夕食は、少しだけ暗かった。
考えてみれば、これまでずっと、家族が揃わない夕食というものはなかった。
だからだろうか、どれだけ稽古が辛いものであっても、この時間だけは、少しだけ癒しだった。
そう思う。
だからこそ、この暗さに、少しだけ違和感を感じた。
「……私は反対です。そもそも、こんな育て方は…いずれ世間から浮いてしまう」
「…そうかもしれん。だが、だからこそ…私は時雨を強くせねばならない。一人でも…強く生きていけるように」
「っ…」
母は常々、日頃行っていた『稽古』に反対していた。
普通に生活するうえで、これは必要ない、というのが常々の母の口癖だった。
けれど、時雨にはもう、普通が分からない。
6歳にして、普通とはかけ離れすぎた経験を得ていた。
だからだろうか。
あまりに捻くれていた、強く生きろ、という父の言葉の意味が、分からなかった。
その翌日。
「……」
時雨は、父と共に車で空港へ向かい、そこから飛行機で、どこかの国へと向かった。
そうして向かった先は、血の匂いと、硝煙の匂いが充満する、戦場だった。
「…時雨」
「……」
「こんなところに連れてきて言うことでもないが…死なないように。自らの判断で…動きなさい」
「…はい」
そうして、父は一振りの刀とともに、戦地へと突っ込んでいった。
初めての、戦場。
そこは、地獄のようだった。
竹刀を使っての戦いではない。
至る所で血が吹き、悲鳴が溢れ、人が倒れる。
「っ…!」
そんな中、時雨もまた、一振りの刀とともに、刀を振るっていた。
何人斬ったか、もう分からない。
振り下ろされる刀。
どこからともなく飛んでくる銃弾。
混戦の中、稽古で得た勘を頼りに、戦場で何とか立ち回っていた。
「ぅ…!」
そんな中で無傷でいられるほど、時雨とて強者ではない。
まして、年端もいかぬ子供なのだから、無理もない。
全身、着ている服すら誰のものか分からない血で濡らしながら。
髪を、誰のものか分からない血で固められながら、何十人も切り捨てていた。
「……」
周りが、子供だからと油断していたからだろう。
周りに転がる死体の中、時雨は一人、刀を持ったまま見下ろしていた。
「ぅ……!」
「……」
ふと足元から聞こえる呻き声。
時雨はそんな声に、ただ無表情に刀を逆手に持って、その切っ先を声の主の胸元に定め。
…無表情のままで、そのまま相手の胸元…心臓に突き立てる。
「ぅ…」
もう、すっかり慣れた肉を貫く感触。
慣れたように刀を引き抜けば血が噴き出し、それがまた時雨を汚していく。
「……」
辺りを見回す。
ある程度落ち着いたのか、匂いこそ残っているが、騒がしさは大分落ち着いていた。
立ち上る硝煙が視界を僅かに遮っていた。
「…」
時雨は一つ息を吐き、刀を納めて歩き出す。
死体を避けることもせず、自らが切り伏せた相手すら踏み越え、どこかで戦っているであろう父を探しに。