ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~ Extra Stories.   作:アルタナ

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狂わされた人生は、非凡なる過去と共に - III

そこから、歩いてどのくらいだっただろうか。

 

 

「…父さん」

「時雨か…」

 

 

少し離れた所から父を呼べば、父もまた、時雨の名を呼ぶ。

手に持った刀からは血が滴り落ちており、それが父が戦っていたことを物語っていた。

 

 

「…」

 

 

時雨はそのまま歩きだし、父に近づこうとする。

しかし。

 

 

「ぐっ…」

 

 

父が突然よろける。

 

 

「っ…?」

 

 

時雨は突然の父の反応に一瞬足を止める。

そのまま、父は力なくこちらに向かって、俯せに倒れる。

その背中には、袈裟型の大きな傷があった。

その背後には、フードを被った人影があった。

 

 

「っ…!」

 

 

時雨は抜刀し、相手を見るが、フードの男は何をするでもなく、ただ去っていった。

まるで、目的を果たした、と言わんばかりに。

 

 

「…時雨」

 

 

背後から呼ばれる声に時雨は反応し、刀を納めて駆け寄る。

 

 

「……父さん」

「…すっかり取り乱さなくなったな。あんなことをさせれば無理もない…か」

 

 

自嘲するような感じとはいえ、時雨は父が笑うのを、この時初めて見た気がした。

 

 

「本当なら…お前は、普通に育てたかった。こんな事をさせることもなく…母さんが言うように、普通に学校に通わせ、普通に就職して…」

 

 

しかし、家柄がそれを許さなかった。

代々、政府、あるいは国の公にできない部分からの依頼で、そういった事を何代にも続けてきた。

終わらせようにも、終わらせ方が、分からなかった。

だからせめて。

 

 

「せめて…お前が強く、生きていけるように。この先…私にとっての母さんのように、大切な存在ができた時に、守るだけの力を……与えてやるくらいしか、思いつかなかった」

 

 

普通に生きることができないのなら、せめて。

普通じゃない世界でも強く生き抜けるように。

そう、父は言った。

 

 

「っ……」

 

 

…正直なところ、この家が、嫌いだった。

なぜなら、自分は家族に嫌われていると、そう思っていたから。

だから、こんな事を強いられているのだと、そう思っていたから。

しかし。

 

 

「……もう、お前に教えてやれることは…何もない。これからは…時雨。お前が自分で…自分の強さを、見つけなさい…」

「自分の、強さ……」

 

 

背中の傷は、致命傷だった。

この状況でも、時雨はそれを冷静に悟る。

 

 

「……お前を、守ってやりたかった。お前の成長を見届けたかった……もう、叶うことはないだろうが…な」

「…父、さん」

 

 

時雨が父を呼べば、どこか嬉しそうに目を閉じる。

 

 

「もし、叶うのならば……母さんと、お前と…普通の家族というものに、なってみたかっ……」

 

 

父の言葉は最後まで紡がれることはなかった。

何度も死を見てきた時雨には、直感的に分かってしまった。

…父は、命を落としたのだ、と。

しかし、時雨には十分だった。

 

 

「ぅ……」

 

 

…彼が、いかに家族から愛されていたかを知るには。

ただ、その表現方法が捻くれていただけだという事を知るには。

 

 

「ぅ…ぁっ……!」

 

 

ただ、それを知るには、あまりに遅すぎた。

もし、時雨が父を守ることができていたのなら、それを叶えることが出来たかもしれない。

まだ、やり直すことができたかもしれない。

 

 

 

…けれど、それはもう、叶わない。

 

 

「ぁ、あっ…!」

 

 

…それは、何故か。

 

 

「あぁっ、うぁ……」

 

 

……守るだけの強さを、持っていなかったから。

 

 

「うああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

 

時雨はただ、激情に任せて声を上げる。

視界が歪み、前が見えなくなる。

その場に膝をつき、宙を見上げ。

やがて眼を開いていられず、瞼を閉じても、肩が震える。

 

 

「……っ!」

 

 

涙が、頬に固まった血を溶かし、混ざり合って地面に落ちていく。

時雨はそれを拭いもせずに、ただ宙を見上げていた。

歪んだ夕暮れを見て、時雨はようやく、自らが泣いていることを悟った。

 

 

 

…正直なところ、この家が、嫌いだった。

 

…けれど、それは自分が子供だったから。

 

…本当は気づいていないだけで、愛されていた。

 

…どれだけ後悔しても、もうやり直すことは適わない。

 

…だとしても。

 

 

 

「…」

 

 

時雨はゆらりと立ち上がり、刀を抜く。

その佇まいは、すっかり平静さを取り戻しているように見えた。

 

 

「っ…!」

 

 

何もない場所で、刀を振り上げる。

風を斬ったはずの刀から、金属音が鳴る。

時雨の足元には、歪んだ銃弾が一つ、落ちていた。

 

 

「…!?」

 

 

何語かわからない言葉で、驚いている様子の兵士が再度銃を構える。

時雨は構える兵士に、距離を詰めるべく駆け寄る。

 

 

「っ…」

 

 

途中、射撃を受けるも、3発のうち2発は刀で叩き落しながら、数秒で距離を詰め。

 

 

「あああぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 

冷めやらぬ激情と共に、刀を振り下ろす。

体に染みついた動きが、相手の命を容赦なく刈り取っていく。

 

 

 

…自分が守るべきものはすぐ身近にあったとしても。

 

…失って、もう取り戻せないとしても。

 

…それでも、強く。

 

 

 

「っ……!」

 

 

もうこれ以上、こんな思いをしないために。

一度守ると決めたものを、守り通すために、もっと、強く。

 

 

「……今まで、有難うございました」

 

 

時雨は、父の元に戻ることなく、背を向けたまま、歩き出す。

思い切り感情を吐き出したからだろうか、無表情の中にも、時雨の視線にはどこか力強さが宿っていた。

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