ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~ Extra Stories.   作:アルタナ

2 / 11
クリスマス短編です。

本編を読んでくださってる方はどの時間軸だよ、と思うかもしれませんが、こまけぇこたぁいいんだよ!の精神でお楽しみください。


静かになれない聖夜の物語

12月25日、アインクラッド第76層。

 

新たにオープンした、エギルの店にて。

 

 

 

 

 

『メリークリスマース!!』

 

 

 

 

 

程度の差はあれど、皆がグラスを交わす。

 

その場にいるのは、キリト、アスナ、サチ、ストレア、フィリア、リズベット、シリカ、リーファ、シノン、ユイ、アルゴ、クライン、ケイタ、テツオ、ササマル、ダッカー。

 

楽しそうにグラスを鳴らす者もいれば、付き合い程度に軽く鳴らす者もいる。

 

エギルによれば、グラスにアルコールは入っていないらしいが。

 

 

 

 

 

「…平和な事だ」

 

「だな。まぁ、いいんじゃないのか?」

 

 

 

 

 

それをカウンターから見ながら、コップに注がれた水を飲むシグレ。

 

店主の仕事をしながらシグレの話に付き合うエギル。

 

いつもなら営業をしている時間だったのだが、貸し切りにして、仲間内でのパーティをする事になっていた。

 

 

 

 

 

「…というか、お前は混ざってこないのか?」

 

 

 

 

 

エギルに問われ、シグレは集団を見る。

 

乾杯を終え、皆がアスナ監修の料理に思い思いに手を付けながら、談笑をする様子が目に入る。

 

皆が思い思いにこのパーティを楽しんでいるようで。

 

 

 

 

 

「わざわざ水を差すような真似をすることもないだろう」

 

 

 

 

 

視線を手元のコップに戻す。

 

残った水が、シグレの顔を映す。

 

コップの中で揺れる水の波紋が顔を若干歪ませて映していた。

 

やがて、見飽きたのかコップの水を飲み干す。

 

 

 

 

 

「…それ以前に、楽しみ方というものが分からん」

 

「別に普通に楽しめばいいだろ。小さい頃に親とかとやらなかったのか?」

 

「……」

 

 

 

 

 

エギルの問いに、シグレは一瞬黙る。

 

ほんの一部のみに話した、過去の話。

 

その境遇で、明るく生きる余裕がなかったシグレはどう答えたものかと言葉に詰まっていたが。

 

 

 

 

 

「…親が厳しくてな」

 

「……そうか」

 

 

 

 

 

そう、一言だけ返す。

 

その反応にエギルも僅かに違和感を感じこそしたが、それ以上の詮索はしなかった。

 

 

 

 

 

「それに、さっきも言ったが、水を差す必要はないだろう」

 

「…ま、お前さんがそれでいいならいいけどな」

 

 

 

 

 

頑なとしたシグレに苦笑するエギル。

 

シグレはコップを見ていたためにエギルの顔を見ていなかったが、エギルもまたシグレを見ていなかった。

 

 

 

 

 

「…向こうは、お前さんを放っておくつもりは、なさそうだぞ?」

 

「……?それはどういう…」

 

 

 

 

 

ことだ、と続けようとしたが、その言葉は続かなかった。

 

というより、カウンターの隣の席に腰かけた人物によって、続ける必要がなくなった。

 

 

 

 

 

「はい、料理。先輩も食べない?」

 

「……シノン」

 

 

 

 

 

自分の前に置かれる料理が乗った皿。

 

その皿を差し出し、隣に腰かけた人物の名を呼ぶシグレ。

 

 

 

 

 

「…こっちにいても暇だろう」

 

「いいのよ。私もそこまで人混みが得意というわけじゃないから…それに、先輩の傍にいたかったから」

 

「……そうか」

 

 

 

 

 

はっきりと言われ、戻れと言うに言えず、言葉に詰まるシグレ。

 

 

 

 

 

「…折角のこういう場で話し相手にすらなれないと思うが?」

 

「言ったでしょ?私は先輩の傍にいたいだけ。それに先輩の話術に期待はしてないから」

 

 

 

 

 

暗に、ここにいる必要はない、と諭したつもりのシグレだったが、それは全く通用せず。

 

 

 

 

 

「…というより、話し上手だったりしたら、偽物を疑うけど」

 

「……」

 

 

 

 

 

酷い言われようと思いつつ、事実なので何も返せないシグレ。

 

その様子が可笑しく映ったのか、口元に手をやりながらクスクスと、どこか楽しそうに笑うシノン。

 

 

 

 

 

「…ねぇ、先輩」

 

「?」

 

「私…今すごい幸せなの。こうして、先輩の傍にいて、話が出来て…それだけで、温かく感じる」

 

「……随分安い幸せだな」

 

 

 

 

 

溜息を吐きながら、お代わりをもらった水を飲むシグレ。

 

けれどシノンは心外だと言わんばかりに口を開く。

 

 

 

 

 

「あら、本当にそう思う?何年もの間ずっと想い続けて、やっと再会できたと思ったらナーヴギアに捕われてて、2年間、向こうで先輩に死なないでほしいって想い続けた事が、安い?」

 

「……現にこのデスゲームに無理やり入ってきてるしな」

 

「安全に向こうで待ってて、それで万が一先輩が死んだら私も自殺を考えたかもしれないわね」

 

 

 

 

 

シノンとエギルの会話。

 

一連の言葉を総合して考えると凄いことを言っている。

 

 

 

 

 

「…ま、頑張れ」

 

「……」

 

 

 

 

 

エギルの心無い応援にシグレは一つ溜息。

 

それ以上考えるのをやめようと、料理に箸をつけようとしたところで。

 

 

 

 

 

「あー!」

 

 

 

 

 

後ろ、つまり皆が集まっている場所から、聞き慣れた声の主が近づいてくるのを感じていた。

 

それが誰かは言うまでもない。

 

尤も、今この場には顔見知りしかいないので、誰かわからない、ということはないのだが。

 

 

 

 

 

「シノンばっかりずるいよー。アタシだってシグレと一緒がいいのに!」

 

「こういうのは早い者勝ちだと思わない?…そんなことより」

 

 

 

 

 

近づいてきた声の主、ストレアがシノンと反対側に座り、身を寄せてシグレの腕を抱き寄せる。

 

その様子を見て、シノンはシグレ越しにストレアを軽く睨み。

 

 

 

 

 

「…貴女、なんで先輩に抱き着いてるのよ」

 

「早い者勝ち、なんでしょ?」

 

 

 

 

 

シノンの言葉にふふん、と勝者の笑みを浮かべるストレア。

 

間に挟まれたシグレは、疲れからまた一つ、溜息を吐く。

 

 

 

 

 

「…一人に戻るか」

 

 

 

 

 

そう、ぼんやりと呟くが。

 

 

 

 

 

「無理だろ」

 

 

 

 

 

エギルにあっさりと返される。

 

シグレは何かを言い返そうとするが。

 

 

 

 

 

「…そうね。少なくとも、私は先輩を追いかけてここにいるわけだし、追いかけない理由はないわね」

 

「まさか、ここまできてアタシがシグレから離れると思う?」

 

「……」

 

 

 

 

 

シノンとストレアに言い返され、言葉に詰まる。

 

 

 

 

 

「な?」

 

「………」

 

 

 

 

 

言った通りだろ?と言わんばかりのエギルに、シグレは何も言い返せなかった。

 

 

 

 

 

「それじゃ、シグレ。こんな所で寂しくしてないで、皆のところに混ざろ!」

 

「っ…おい…」

 

 

 

 

 

シグレの腕を抱きしめたまま立ち上がり、引っ張るストレア。

 

シグレは一瞬バランスを崩しそうになるが持ちこたえるも、引っ張られていく。

 

勢いで椅子を倒してしまうが、それを直す余裕もなく、なすがままだった。

 

 

 

 

 

「あっ…もう…!」

 

 

 

 

 

ストレアの行動に出し抜かれながら、シノンも二人を追いかける。

 

カウンターは静かになり、シノンが持ってきた料理の皿が寂しく残っていた。

 

 

 

 

 

「…貰うか。あいつらが食いに戻ってくることもないだろ」

 

 

 

 

 

皿に残った料理は、エギルが美味しく頂きました。

 

 

 

 

 

 

 

~静かになれない聖夜の物語~

 

 

 

 

 

 

 

12月24日。

 

アークソフィアには雪が降り、一面銀世界、とまではいかずとも所々に雪が積もっていた。

 

広場の草木には電飾が施されており、いつもより華やかに彩られている。

 

ゲームクリアを急ぐ攻略組ですらやや浮足立っており、今日は攻略を休むことが決まっていた。

 

そんな中。

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 

シグレは一人、雪で所々白くなった草原のフィールドで狩りをしていた。

 

この日は街の雰囲気もあってか外に出ているプレイヤーは殆どおらず、見渡す限りモンスターだらけだった。

 

そんな中で狩りをしているシグレだが、特にドロップ品などの目的があるわけではなかった。

 

強いて言うなら、レベル上げ。

 

とはいえ、ホロウ・エリアを突破するほどのレベルに達していたシグレにとっては、ここでのレベル上げは非効率だった。

 

それでも狩りを続け、何時間経ったかというところでようやく、レベルが上がる。

 

 

 

 

 

「…戻るか」

 

 

 

 

 

シグレは刀を納め、街に戻ることにする。

 

この辺りのモンスターは大人しいタイプらしく、刀を納めたシグレに襲い掛かってくることもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

そうして戻った先。

 

 

 

 

 

「よう、シグっち」

 

「……」

 

 

 

 

 

戻った先、広場でアルゴに声を掛けられる。

 

呼ばれ慣れない呼び方に一瞬黙るが、すぐに横を抜け、転移門へと向かうシグレ。

 

 

 

 

 

「…お前は相変わらず、といったところか」

 

「まぁナ…どこかいくのか?」

 

「あぁ…ホロウ・エリアに」

 

「そうカ」

 

 

 

 

 

そんな会話を交わすと、アルゴはメニューの操作を始める。

 

メニューの操作音が聞こえ、どうしたのかとアルゴを見ると、メッセージを打っているようだった。

 

 

 

 

 

「ホロウ・エリアに一人で向かうらしい、と…」

 

「……ちょっと待て」

 

 

 

 

 

あからさまに聞こえるように言うアルゴに、シグレは聞捨てることができず、眉間を指で押さえながらアルゴに近づく。

 

 

 

 

 

「誰にメッセージを送る気だ」

 

「それは言えなイ。こっちには守秘義務があるからナ……送信、と」

 

「…嫌な予感しかしないが」

 

「ま、がんばレ」

 

 

 

 

 

何かを言う余裕もなく、アルゴにメッセージを送信され、シグレは頭が痛くなる。

 

どこか楽しそうにシグレの肩を叩くアルゴ。

 

 

 

 

 

「っシグレ君!」

 

「……」

 

 

 

 

 

そうしているうちに駆け寄ってきたのはアスナ。

 

どこから走ってきたのか、息を切らしていた。

 

 

 

 

 

「っもう!アルゴさんに頼んでおいてよかったよ…危ないところに一人で行っちゃダメ!心配するでしょ!?」

 

「…」

 

 

 

 

 

暇潰しをしようとしただけだったのだが、言うに言えなかった。

 

というのも。

 

 

 

 

 

「危ないこと、しないで。心配…するから。本当は…フィールドに一人で出るのも反対だったんだから」

 

 

 

 

 

正面から縋るようにシグレの服を掴み、身を寄せて肩を震わせるアスナ。

 

俯いていて、その表情は窺えない。

 

 

 

 

 

「もう…シグレ君が死ぬところ、見たくないの」

 

「…死ぬ瞬間なんてそう見れないと思うが」

 

「シグっち。そういうことじゃなイ」

 

 

 

 

 

シグレの言葉を否定するアルゴに、シグレは溜息。

 

アスナが言っているのは75層での事だとは分かっていた。

 

あの時の二人の戦いは、アスナの心に傷を残したままだった。

 

 

 

 

 

「あー、お二人サン?そろそろ離れないと、目立つゾ?」

 

「……」

 

 

 

 

 

男女比で男性率が高いこの世界で、実力、見た目ともにレベルの高い女性が男性に抱き着いて泣いている状況。

 

まして、街の雰囲気もあって人数が多いこの場で周りの視線が痛くなり始める頃。

 

 

 

 

 

「…行くぞ」

 

「どこに?」

 

「……エギルの所だ」

 

「うん…」

 

 

 

 

 

アスナの了承をもらい、離れさせて歩き出すシグレ。

 

それでもアスナはシグレの服の袖を掴んだまま離さなかった。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

そうして、エギルの店に入る。

 

 

 

 

 

「っあんた、またアスナを泣かせたわね!そこに直りなさい!」

 

 

 

 

 

その様子にリズベットが怒りと共に近づく。

 

その手にはハリセンが握られており。

 

 

 

 

 

「…待て、なんだそれは」

 

「あんたへの鉄槌用に作ったのよ!」

 

 

 

 

 

そんな武器もあるのか、などと思うシグレだが、それ以上の思考をする時間を与えられず。

 

 

 

 

 

「っ天誅!」

 

「っ……!」

 

 

 

 

 

頭上から真っすぐ振り下ろされ、バシン、と景気のいい音が店に響く。

 

マスターメイサーを名乗るだけあり、力の入れようは見事で、綺麗にハリセンの一撃が決まる。

 

なんだ、と周りのプレイヤー達が驚いて見るが。

 

 

 

 

 

「まぁたやってるよ」

 

「全く…懲りないよなぁあいつも」

 

 

 

 

 

やれやれ、といった感じですぐに向き直る。

 

知らない人ですら何度も見た光景。

 

シグレがアスナ絡みでリズベットに天誅を貰う光景は、それほどまでに日常化していた。

 

 

 

 

 

「し…シグレ君。大丈夫……?」

 

「……」

 

 

 

 

 

圏内ということもあり、HPこそ減っていないが、頭を押さえるシグレにアスナが尋ねる。

 

シグレは答えを返さなかったが、それが何よりの答えになっていた。

 

 

 

 

 

「し…シグレ。大丈夫…?アルゴからメッセージもらって、話を聞いたらここにいるって聞いたんだけど……」

 

 

 

 

 

恐る恐る入ってきたのはサチだった。

 

リズベットの気迫に慄きつつ、シグレを気遣って近づく。

 

アスナだけでなく、サチにもメッセージが送られていたという事実。

 

ここまでくると、何人にメッセージを送ったのかが気になるところだった。

 

 

 

 

 

「…心配、したんだよ?…あの時だって、あと少し遅かったら、こうして一緒にいられなかったなって思うと…今でも怖いの」

 

 

 

 

 

サチが言っているのは、27層のトラップの事だろうと察する。

 

確かに、あの状況ではサチが助けを呼ばなければ取り残された皆は、今こうして生きていなかっただろう。

 

 

 

 

 

「ずっと安全な場所にはいられないのかもしれない。でもせめて…不必要な危険に飛び込む真似はしないで」

 

 

 

 

 

サチの懇願に、シグレはすぐには返せない。

 

安心させるために何かを言ってもいいのかもしれない。

 

しかし、サチがそれを信じるかどうかという問題もある。

 

上辺だけの言葉を返すということは、シグレもするつもりがなかった。

 

 

 

 

 

「…約束、してくれないんだね」

 

「……あぁ」

 

「いいよ。簡単に約束してくれたら…そっちの方が信じられないから」

 

 

 

 

 

全くもう、といった感じのサチだが、本気で怒っている様子もなく。

 

…隠しているだけで実際は本気で怒っているのかもしれないが。

 

 

 

 

 

「とりあえず今日は、もう狩り場に出るの禁止!」

 

 

 

 

 

いつもの調子に戻ったアスナに言われ、う、と言葉に詰まる。

 

ちらり、とリズベットを見れば、怒りの形相でこちらを見ていた。

 

視線が、逆らったらどうなるかわかってるわよね?と言っている。

 

そうなれば。

 

 

 

 

 

「……分かった」

 

 

 

 

 

両手を上げ、降参の意を示すシグレ。

 

とはいえ、今の時間は昼過ぎ。

 

そこそこ広い街並みとはいえ、どうやって過ごしたものか。

 

部屋に戻って休むには少しばかり早すぎる時間だった。

 

 

 

 

 

「…それに、シグレ君は少し戦いに明け暮れすぎだよ。少しは休まないと」

 

「それは私もアスナに賛成」

 

 

 

 

 

アスナとサチに強く言われ、半ば不本意だがシグレは街の中で暇を潰すこととなった。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

……のはいいのだが。

 

 

 

 

 

「…どうするか」

 

 

 

 

 

店に入り浸るのもどうかと外に出たはいいが、別に用もなく、行き先がないのでどうしたものかと考えながら歩く。

 

いつもは石畳になっている場所も、うっすら積もった雪で変わった足音がする。

 

吐く息が白いのは、無駄にリアルだと感じる。

 

 

 

 

 

「…シグレ?」

 

 

 

 

 

ぼんやり歩いていると、声を掛けられ、そちらを見れば。

 

 

 

 

 

「…フィリアか」

 

「シグレが街にいるなんて珍しいかも。どうしたの?」

 

 

 

 

 

フィリアに尋ねられ、シグレは今までにあった事を掻い摘んで話す。

 

 

 

 

 

「…それで、これからどこか行くの?」

 

「いや…特段目的はない」

 

 

 

 

 

シグレの答えに、フィリアはふぅん、と頷く。

 

フィリアも予定があるのだろう、とシグレはその場を去ろうとするが。

 

 

 

 

 

「…あ、あのさ!」

 

「っ!?」

 

 

 

 

 

少し大きな声で呼び止められ、少し驚きながらフィリアの方を見る。

 

 

 

 

 

「じゃあ、今は暇ってこと…だよね?」

 

「…あぁ」

 

「そ、それなら…さ」

 

 

 

 

 

フィリアは少し考え、けれど何かを決心したように頷いて。

 

 

 

 

 

「この先にスイーツが美味しそうなカフェがあるんだけど…一人じゃ入りにくくて、ね。その……」

 

「……」

 

 

 

 

 

それでも言い淀むフィリア。

 

シグレは何となく察していたが、言葉の続きを待つ。

 

 

 

 

 

「…よかったら、だけど。一緒に…行ってくれない?」

 

「別に俺は構わないが……」

 

 

 

 

 

フィリアの言葉にシグレは少し考え。

 

 

 

 

 

「……ストレア辺りでも誘ったらどうだ?」

 

 

 

 

 

フィリアとストレアがホロウ・エリアにいた頃からそれなりに仲が良かったのを思い出し提案する。

 

しかし。

 

 

 

 

 

「…ううん、いい。シグレと一緒に行きたいんだ…ダメ、かな?」

 

 

 

 

 

少し頬を赤くしながら、そう言ってくるフィリアに、それ以上の拒否をする選択肢がなかった。

 

そして、二人はフィリアがいうカフェを目指すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

そうして着いた先。

 

 

 

 

 

「では、ご注文がお決まりの頃にお伺いいたします」

 

 

 

 

 

NPCの店員が定型文な挨拶をして去っていく。

 

何を頼むかメニューを見る二人。

 

 

 

 

 

「このお店、ショートケーキがお勧めみたいで、私はそれにしようと思うけど、シグレは?」

 

「…同じで」

 

 

 

 

 

楽しそうに決めるフィリアに、シグレは合わせるように言う。

 

そして店員を呼び、注文を告げるフィリアに。

 

 

 

 

 

「…かしこまりました。よろしければ、こちらのお飲み物はいかがでしょうか?」

 

 

 

 

 

店員が一つの飲み物を勧める。

 

そこには、少し大きめのグラスに、ストローが刺さった、それだけであれば普通の飲み物なのだが。

 

 

 

 

 

「これって…」

 

 

 

 

 

フィリアが顔を真っ赤にしながら声を漏らす。

 

ストローは真ん中あたりでハートの形に枝分かれし、吸い口が二つある。

 

所謂カップルドリンク、というやつらしかった。

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 

フィリアは少しばかり写真を見て、少し考え。

 

 

 

 

 

「…お願い、します」

 

「かしこまりました。では、少々お待ちください」

 

 

 

 

 

注文を受け、NPCの店員は下がっていった。

 

 

 

 

 

「……」

 

「……」

 

 

 

 

 

店に来た時の二人の雰囲気からは一転、二人はほぼ無言だった。

 

それから結構時間が経ったのか。

 

 

 

 

 

「…お待たせ致しました。こちら、ご注文の品になります」

 

 

 

 

 

と、NPC店員がショートケーキ2つと、例のドリンクを置いて。

 

 

 

 

 

「では、ごゆっくりどうぞ」

 

 

 

 

 

言いながら、自然な動作で去っていく。

 

そうしてテーブル中央に置かれたドリンクは、周りの誰も注文しておらず、それだけで注目を集めていた。

 

 

 

 

 

「…誰も、頼んでないね」

 

 

 

 

 

フィリアの言葉に、シグレはそうだろうな、となんとなく思う。

 

女性率の低さと、女性同士で来ている客が多いという点から、男女で、というのは珍しいのかもしれない。

 

 

 

 

 

「…飲んでみよっか」

 

「俺は別に…」

 

「私とじゃ…嫌?」

 

 

 

 

 

どこか寂しげに言うフィリアに、シグレはう、と言葉を詰まらせる。

 

 

 

 

 

「……ん」

 

 

 

 

 

抵抗があるのかないのか分からないフィリアはストローに口をつけ、シグレを見る。

 

その様子に、シグレは一つ大きく溜息を吐き。

 

 

 

 

 

「…目は閉じておけ」

 

「ん…」

 

 

 

 

 

シグレの言葉にフィリアが頷き、シグレが口をつけるのを見てフィリアは目を閉じる。

 

目を閉じているが、ストローの距離が思ったより近く、先端に口をつけていても軽く額が触れる。

 

飲み物を吸うが、どれくらい減ったか、あるいはどれくらい残っているかが二人には全く分からない。

 

それから、どのくらいの時間そうしていたかは分からないが。

 

 

 

 

 

「……ねぇ、シグレ」

 

「何だ…」

 

「味…分かった?」

 

「……」

 

 

 

 

 

シグレもフィリアも、何味の飲み物を飲んでいたかは全く分からなかった。

 

周りからはおぉ、という歓声と小さな拍手。

 

それが更に二人の羞恥心を煽っていた。

 

 

 

 

 

「……ケーキ、たべよっか」

 

「…」

 

 

 

 

 

二人の前には、皿に乗せられた、まだ一度もフォークを指していないケーキが乗っていた。

 

 

 

 

 

「ね、ねぇ…シグレ」

 

「…?」

 

 

 

 

 

名を呼ばれ、シグレがフィリアの方を見れば、フォークにケーキの一部を載せて、差し出すフィリアの姿。

 

 

 

 

 

「あ、あーん…っ」

 

「っ……」

 

 

 

 

 

何故余計に羞恥を煽るような事をするのか、と言いたくなったシグレ。

 

結局、フィリアに流されるまま食べさせあいっこをした二人だったが。

 

 

 

 

 

「…全然、味、分からなかったね…」

 

「……だろうな」

 

 

 

 

 

顔を真っ赤にするフィリアに、シグレも眉間を押さえながら答える。

 

そんなシグレの頬も、軽く赤くなっていた。

 

 

 

 

 

「…ね。また行きたいって言ったら…付き合ってくれる?」

 

「……」

 

 

 

 

 

フィリアの問いに、シグレは今度こそ意識を手放しそうになったが、どうにか持ちこたえていた。

 

普段の狩り、あるいは一人でボスモンスターを倒した時より色々な意味で疲れたと、シグレは後に語っていた。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで、やがて夕暮れの時間になり、適当に宿を探そうと思ったところで。

 

 

 

 

 

「おぉ、シグレ丁度よかった」

 

「…キリトか」

 

 

 

 

 

キリトに声を掛けられ、振り返る。

 

買出しに出ていたのか、両手には荷物を抱えていた。

 

ただ、荷物がそれなりに多いらしく、クラインとリーファも手伝っていた。

 

 

 

 

 

「…随分多い荷物だな。食材が多いようだが…」

 

「ん?あぁ、明日クリパをやろうって話になってな。その準備だ」

 

「…クリパ?」

 

 

 

 

 

シグレは言葉の意味の理解が及ばず、オウム返しにキリトに尋ねる。

 

その様子が面白かったのか、キリトは軽く噴き出しながら。

 

 

 

 

 

「クリスマスパーティだよ。明日はクリスマスだろ?」

 

「……あぁ」

 

「忘れてたのかよ。寂しい奴だな」

 

 

 

 

 

キリトの言葉に漸く思い出したような反応のシグレ。

 

そんなシグレに少し呆れ気味のクライン。

 

 

 

 

 

「お前が寂しいとか言えた義理か、クライン。どうせ俺たちが誘わなきゃ一人寂しく飲んでただろ」

 

「うるせーやい。ギルドメンバーで騒ぐつもりだったっつの!」

 

「…でも、ほかのメンバーの皆さんは予定があるって」

 

「リーファ。それ以上言うな…可哀そうだろ?」

 

「あっ…」

 

「ちっくしょう!おかげで一人じゃなくてよかったよ、誘ってくれてありがとうなキリト!」

 

「悔しいのか嬉しいのかどっちだよ」

 

 

 

 

 

クラインが自棄な感じだったが、それでも本気で怒らないあたり、仲の良さが見て取れた。

 

ある意味、シグレはこれが彼らの距離感なのだろうと察し。

 

 

 

 

 

「…それで、丁度よかった、とは?」

 

「いや、お前も誘おうと思って。良かったら来ないか?明日エギルの店を貸し切って騒ぐ予定なんだけど」

 

 

 

 

 

キリトの誘いに、シグレは少し考える。

 

やがて、元々そういったものが苦手なシグレは。

 

 

 

 

 

「いや、俺は…」

 

「おぉそうか来るか。分かったじゃあ明日迎えに行くから!」

 

「…おい」

 

 

 

 

 

断ろうとしたが、有無を言わさぬ様子のキリト。

 

 

 

 

 

「おに…キリト君。シグレさんにも予定はあるだろうし、さすがに無理に誘うのは悪いんじゃ…」

 

「大丈夫だよ。どうせ、予定ないんだろ?」

 

「……」

 

 

 

 

 

リーファが気遣うように言うが、キリトは調子を崩さない。

 

実際予定がないのだから何も言い返せなかった。

 

 

 

 

 

「それに、お前を一人にしたら心配する奴が多いからな。パーティを楽しむためにも、お前には参加してもらうからな?」

 

「…なら初めから参加するかどうかを聞くな」

 

 

 

 

 

溜息交じりのシグレ。

 

 

 

 

 

「…逃げるなよ?」

 

「分かっている」

 

「じゃあ、俺たちはエギルの店に行くから、またな」

 

「…あぁ」

 

 

 

 

 

そう言いながら、三人は去っていく。

 

明日も面倒なことになりそうだ、などと思いながら。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

そうして、シグレが向かったのは小さな宿。

 

エギルの店に部屋を借りることも誘われていたのだが、断った理由が。

 

 

 

 

 

「あ、おかえりシグレ」

 

 

 

 

 

いつだか半ば強引に約束させられたストレアとの約束だった。

 

半ば無茶苦茶なものだが、それでも律儀に守るシグレ。

 

当時はただ一緒の部屋というだけで、確かな線引きはあったのだが。

 

 

 

 

 

「えへへっ、ぎゅー」

 

「……」

 

 

 

 

 

正面から遠慮なしに抱き着くストレア。

 

ホロウ・エリアで告白をされてからというもの、その線引きが薄れつつある気がしていた。

 

毎日のようにこうしているとはいっても、シグレに慣れはなく。

 

 

 

 

 

「…とりあえず、離れろ」

 

「むー、相変わらずつれないなぁシグレは」

 

 

 

 

 

シグレが言うと、ストレアは抗議をしつつもあっさりと離れる。

 

 

 

 

 

「ところで、ご飯にする?お風呂にする?それともアタシ?」

 

「……俺が答えると思ったか」

 

「ですよねー」

 

 

 

 

 

シグレが慣れたのは、悪乗りするストレアをあしらう事だった。

 

ストレアも別にそれが不満というわけではなさそうだったが。

 

 

 

 

 

「まぁいっか。ご飯にしよ?アスナに作り方教わったから自信作!」

 

「……」

 

 

 

 

 

そんな感じで食卓を囲むことになり、宿の一室に据えられたテーブルに向かい合って座る。

 

 

 

 

 

「…ところで」

 

「?」

 

「この同居はいつまで続ける気だ…?」

 

 

 

 

 

シグレの問いにストレアは少し考え。

 

 

 

 

 

「…ゲームクリアまで?」

 

「……ここまで来たら、別に死に急ぐつもりはない。お前が俺を監視する理由はもうないと思うが」

 

「理由なら、あるよ」

 

 

 

 

 

シグレが言うと、ストレアは少しだけ真剣な表情になる。

 

その様子に、シグレも言葉を挟まず、ストレアの言葉を待つ。

 

 

 

 

 

「…前も言ったでしょ?アタシは…シグレが、好き。一緒にこうしているだけで、いつものアタシでいられる……ううん、違う。一緒にいなきゃ、アタシはいつものアタシでいられない」

 

 

 

 

 

それはもはや依存に近いのでは、とシグレは思うが、真剣なストレアの表情に言うことを躊躇う。

 

 

 

 

 

「本当は、ね。このゲームが終わっても、ずっと…シグレと一緒にいたい。でもそれは出来ないから…せめて一緒にいられる間だけでも、たくさん思い出を作りたいっていうのは…ダメ?」

 

「……仮に、駄目だと言ったら諦めるのか?」

 

 

 

 

 

どこか悲しげな笑みを浮かべながら言うストレアに、シグレはそう尋ねる。

 

その質問に一瞬だけ呆けたような顔になるが、すぐにいつもの明るい笑みを浮かべ。

 

 

 

 

 

「んー、諦めないかな?だって、シグレはアタシを傷物にしたわけだし…そこはしっかり責任取ってもらわないとね!」

 

「………」

 

「ドンマイっ」

 

 

 

 

 

楽しそうなストレアに、誰のせいだ、と言いたくなったが、すんでの所で言葉を飲み込むシグレ。

 

その代わりに溜息が出るのだが、その程度はストレアにとってはどこ吹く風だった。

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで食事を終え、湯浴みも終える。

 

時間も丁度よくなってきた所で、明かりを消し、就寝の準備をするのだが。

 

 

 

 

 

「~♪」

 

「………」

 

 

 

 

 

仰向けになるシグレの腕を抱きしめるようにして横になるストレア。

 

はじめはただ並んで、少し距離を置いて眠る程度だったのだが、徐々に距離が詰まっていき、手を繋ぐようになり。

 

今となっては告白でどこまで吹っ切れたのか、と言わんばかりで、もはや完全に密着していた。

 

ストレアもさすがに防具は外しており、その所為もあって腕が女性特有の温かさに包まれ、寝付けない。

 

…戦いにどれだけ明け暮れても、その手の耐性はついていないシグレだった。

 

 

 

 

 

「…ね、シグレ。明日のパーティ、楽しみだね」

 

「……さて、な」

 

「もう、素直じゃないなぁ…って、今更かな。シグレだからね」

 

 

 

 

 

どこか静かな声での会話。

 

そんな他愛もない会話だが、暖かさを感じる会話。

 

 

 

 

 

「…楽しみなら、もう寝ろ」

 

「ん…おやすみ、シグレ。また明日……」

 

 

 

 

 

シグレが言うと、ストレアはそのまま眠りに就く。

 

この状態で眠れるか不安を感じるシグレだったが、布団の温かさと、腕に感じる温かさが相まって、眠りに落ちるまでそれほど時間はかからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで、クリスマス当日となり、パーティが始まり冒頭に戻る。

 

 

 

 

 

「シグレ連れてきたよー」

 

「……」

 

 

 

 

 

元気に言うストレアに溜息を吐きながら引っ張られるシグレ。

 

その後を追うようにシノンが続き、店番でカウンターにいるエギルを除いて皆が揃ったところだった。

 

 

 

 

 

「やっと来たか…ったく、これだけ可愛い子に囲まれてんのにそこにいないとか、おめぇそれでも男かよ!」

 

「…なら代わるか?」

 

 

 

 

 

クラインの言葉にシグレがそう提案するが。

 

 

 

 

 

「うーん、でもアタシ、シグレ専用だから…ごめんね?」

 

「…あんたはそこの観葉植物で十分でしょ」

 

「ひでぇ!?こうなったら自棄食いだ畜生!」

 

 

 

 

 

ストレアとシノンの却下にクラインは軽く涙目で料理を平らげていく。

 

とはいっても人数が人数で、それを考慮して料理を作っていたためにそう簡単には減っていないが。

 

 

 

 

 

「アタシ、シグレに料理持ってくるね?」

 

「…私はストレアを見張ってるわ。先輩に無理な量食べさせるわけにはいかないもの」

 

 

 

 

 

ストレアが離れ、シノンが追う。

 

なんだかんだで楽しそうな二人を見て軽く苦笑しながら、どうしたものかと考える。

 

料理に手を付けるのも一つの手かもしれないが、取りに行くと言っている以上、待った方がいいかと考える。

 

するといよいよ、することがなくなるシグレだったが。

 

 

 

 

 

「…楽しそうだね、ストレアさん」

 

「……」

 

 

 

 

 

アスナに言われ、シグレは肯定も否定もしない。

 

ただその視線の先には、皿に嬉々として料理を盛るストレア。

 

盛りすぎる手前でシノンに制され、頬を膨らませたりしているが、客観的に見ればアスナの言う通り楽しそうだった。

 

 

 

 

 

「シグレ君は知らないかもしれないけど、シグレ君がいないときのストレアさんといったらもう…」

 

「本当にね…」

 

 

 

 

 

思い出しているのか、どこか悲しげに笑うアスナに、苦笑で同意するリズベット。

 

 

 

 

 

「…いつだか、ストレアにシグレの事どう思ってるか聞いたのよ」

 

「そ、そう…それで、ストレアさんは……何て?」

 

 

 

 

 

リズベットの言葉に興味を引いたのか、アスナが先を促す。

 

するとリズベットもストレアに視線をやりながら苦笑し。

 

 

 

 

 

「詳しくはあの子のために黙っとくけど…一つ言うなら、砂糖を吐きそうになったわ。甘ったるくて」

 

「うぅ…」

 

「敵は強いから……本気で頑張んなさいよ、アスナ」

 

 

 

 

 

アスナを励ますリズベット。

 

その様子をそれ以上見るのはどうかと思った事と、このままここにいると面倒なことになりかねないという直感。

 

そんな理由で、シグレは少しだけ距離を開けることにしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

とりあえず椅子に適当に座るシグレ。

 

見ればいくつかのグループが出来上がって談笑していたり、料理に舌鼓を打ったりしている。

 

そんな中に割って入る理由がなかったこともあり、シグレはただ静かに過ごす。

 

コミュニケーション能力が高ければどこかのグループに混ざることができたのかもしれないが、その力がシグレには不足していた。

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 

そんな皆を、ただ水を飲みながら眺める。

 

これではカウンターで水を飲んでいるのと変わらないではないか、などと思っていたが、戻ったら戻ったで引き戻される気がしていたので動く気もなかった。

 

 

 

 

 

「あんまり水ばっかだと飽きないか?」

 

「…」

 

 

 

 

 

キリトに声をかけられるが、シグレは答えない。

 

否定ができなかっただけともいうが。

 

振り返れば。

 

 

 

 

 

「よっ」

 

 

 

 

 

キリトと、リーファ。

 

シリカと、その彼女の使い魔のピナも一緒だった。

 

皆、片手に料理を持っており、何だかんだで楽しんでいるようだった。

 

 

 

 

 

「…なんつーか、暇そうだったから声かけたんだけど…あんまり楽しんでないのか?」

 

「……というより、楽しみ方がわからない」

 

 

 

 

 

キリトの質問に少し考えて答えながらコップの水を飲むシグレ。

 

ふと。

 

 

 

 

 

「…どうした?」

 

「ひっ!?」

 

 

 

 

 

キリトの背中に僅かに隠れる様子のシリカに声をかけると、軽い悲鳴のような声を上げられ、言葉に詰まる。

 

シグレからすれば驚かすつもりはなかったのだが。

 

 

 

 

 

「あ、あー…前にシグレの話をしたとき、シグレが怖い人、ってイメージが出来たらしくてな」

 

「…そうか」

 

 

 

 

 

キリトの言葉に、シグレは頷く。

 

どういう説明をしたのかはシグレが知るところではないが、何にしても恐怖心があるのなら、話す必要もない。

 

そう考え、シグレは会話を打ち切る。

 

 

 

 

 

「…まぁそれはそれでいい」

 

「いいのかよ」

 

「原因を作ったお前が言うか」

 

「…そりゃそうだが、なんかすまん」

 

 

 

 

 

そんな感じで苦笑して言葉を交わすキリトとシグレ。

 

友人といえるかどうかは微妙だが、決して仲が悪くないという距離感だった。

 

 

 

 

 

「…あ、そういえばシグレさん。シグレさんって…剣道、やってたんですよね?」

 

「?…あぁ、少しな」

 

「今度、私と試合してくれませんか?ちょっと興味があります」

 

 

 

 

 

突然のリーファからの試合の誘い。

 

突然のそれに少し言葉を失いながらも。

 

 

 

 

 

「……あぁ、そのうちに、な」

 

 

 

 

 

シグレはそれを承諾した。

 

そんな感じで二、三言葉を交わし、キリトとリーファが去ったところで。

 

 

 

 

 

「あ、あのシグレさん!」

 

「…?」

 

 

 

 

 

残ったシリカに声を掛けられ、そっちを見る。

 

少し大きな声だったが、店内の喧騒に掻き消され、それほど目立ってはいなかった。

 

 

 

 

 

「そ、その…怖がっちゃってごめんなさい。せめて普通に話せるようには頑張りますから…!」

 

「…程々にな」

 

「……え?」

 

 

 

 

 

シリカはシリカなりに人をただ怖がってしまったことに対する罪悪感があったのだろう。

 

シグレに謝罪をするが、シグレはシリカが予想していなかった返しをしていた。

 

その返しに、少し気の抜けた声を出すシリカだった。

 

 

 

 

 

「……好き嫌いがあるのは当然だ。それを克服するのを止めるつもりはないが…無理はする必要もないだろう」

 

「はぁ…」

 

 

 

 

 

無理をするな、という意で伝えたつもりだったシグレだが、どうやらシリカにはあまり伝わっていないようだった。

 

とはいえ、これ以上言うつもりもなかったシグレは。

 

 

 

 

 

「それはそうと…いいのか?キリトの近くにいなくて」

 

「え?…あっ、す、すみません、失礼します」

 

 

 

 

 

言いながら、キリトさーん、と言いながらキリトを追いかけていくシリカを見送る。

 

そうして少しばかり落ち着いたところで、シグレは席を立つのだった。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

玄関から外に出る。

 

外はいつの間にか雪が降っており、このままいけばいずれ雪が積もるであろうといった様子だった。

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 

普通に考えれば寒いはずで、実際寒さを感じている。

 

しかし、店内の火照った空気で、同じく火照った体を冷ますには丁度良かった。

 

軽く息を吸えば、冷たい空気が内から冷やしていくような、そんな感覚。

 

 

 

 

 

「…」

 

 

 

 

 

通りに設置されたベンチに腰掛ける。

 

降った雪がベンチを濡らしていたのか、服越しとはいえ、少し冷たさを感じるシグレ。

 

それでも、ただそこに座り、ぼんやりと宙を見上げる。

 

現実で雪を見上げる機会などそうそうなかったからか、仮想と現実の区別がつかなかった。

 

 

 

 

 

「…シグレ?」

 

「……サチ」

 

 

 

 

 

名を呼ばれ、振り返るシグレ。

 

そこには、恐る恐るな様子のサチがいた。

 

しかし、名を呼ばれ安心したのか、シグレの隣に腰を下ろす。

 

 

 

 

 

「……どうした?向こうは終わっていないようだが」

 

「それはこっちの台詞。シグレが外に出るのが見えたから」

 

「…体を冷ましに来た」

 

「そっか」

 

 

 

 

 

シグレの答えに、笑みを浮かべるサチ。

 

 

 

 

 

「…なんか、こうして二人で話すの…久しぶり」

 

「そうか」

 

「そうだよ…だってシグレ、ずっとストレアと一緒じゃない」

 

「……」

 

 

 

 

 

サチに言われ、思い返すシグレ。

 

いわれてみれば、という感覚だが、確かに最近一人の時間は減っていた。

 

それだけストレアの押しが強いということか、それとも。

 

 

 

 

 

「…正直、ね。私…こんな上の層に来る前にどこかで死んじゃうって…覚悟してたんだ」

 

「……」

 

 

 

 

 

語りだすサチに視線を向けることも、何か言葉を返すこともしないシグレ。

 

その視線は、ただ前を見ていた。

 

 

 

 

 

「あのトラップで、シグレが私を押し出して助けてくれた時。きっとシグレなら大丈夫だからって自分を信じ込ませて…逃げることも、一瞬だけ考えた」

 

 

 

 

 

彼女が抱える、己の弱さ。

 

人はそう簡単に変われるかといえば、変われないことの方が多いのかもしれない。

 

 

 

 

 

「…でもね。もし、私が助けに行かなくて…シグレが死んじゃったらって思ったら、自然に足が動いてた。自分だけじゃ無理だからって…キリト達に、助けを求めてた」

 

 

 

 

 

まだまだ弱かったね、と自嘲するサチ。

 

けれどシグレは表情を変えず、ただ目を伏せる。

 

 

 

 

 

「そんな私でも、今こうして皆と楽しく…過ごせてる。シグレのおかげだよ?」

 

 

 

 

 

ありがと、とサチは言う。

 

それを聞いていたのかどうか、シグレはただ目を伏せる。

 

少しの間、二人の間を静寂が包んだ後。

 

 

 

 

 

「……昔。自分の親すら守れない…弱い子供がいた」

 

 

 

 

 

シグレが静かに口を開く。

 

サチはそれが誰の事を指しているのか、すぐに察した。

 

 

 

 

 

「守れなかった代償として…独りになった。そう思い込むあまり心を閉ざす、馬鹿な子供だ」

 

 

 

 

 

シグレは空を見る。

 

闇の中から降り注ぐ粉のような雪がただ映る。

 

 

 

 

 

「……何年経って、仮想世界にいてもその背を追い続けて、出会った誰かを守ろうとした」

 

 

 

 

 

だが、とシグレは続ける。

 

サチはただ、無言でシグレの言葉を待つ。

 

今度は立場が逆になっていた。

 

 

 

 

 

「それはその誰かのためではなかった。ただ…誰かを守ることで、守れなかった事実を消そうとした……できるはずは、ないがな」

 

 

 

 

 

そうやって今も、逃げ続けている、とシグレは続ける。

 

それがシグレ自身の事だとは言わなかったが。

 

 

 

 

 

「そんな自分勝手な奴が、誰かに感謝などされる筋合いはない…そうは、思わないか?」

 

「……それでも」

 

 

 

 

 

シグレの問いかけに、サチは答える。

 

 

 

 

 

「それでも…その誰かに助けられた人は、その人に感謝すると思う。だって…その人のおかげで、諦めてた未来が、見れるんだから」

 

 

 

 

 

私みたいに、とサチは続ける。

 

 

 

 

 

「だから…もしその人に会ったら、伝えてあげて?貴方には本当の強さがあるから。きっとご両親もそれを誇ってるから、胸を張っていいんだよ、って」

 

「……」

 

 

 

 

 

サチの言葉が、その誰かに届いたかは分からない。

 

それでも、シグレの口元に僅かに浮かぶ、シグレを知らない人が見れば気づかない程度の微かな笑みが、その誰かにはきっと届いただろうと思うには十分だった。

 

 

 

 

 

「……そういえばシグレ。ストレアさんが探してたよ?」

 

「…様子は?」

 

「心配と大激怒、かな」

 

 

 

 

 

頑張ってね、と笑いながら店の中に戻っていくサチに、シグレは眉間を押さえた。

 

この後に待ち構えているであろう困難をどう切り抜けるか。

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 

諦めたように、空を見上げる。

 

吐く息は、相変わらず白い。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

そうしてサチから少し遅れて店の中に戻るシグレ。

 

 

 

 

 

「むぅ…」

 

 

 

 

 

そんなシグレを待っていたのは、シグレの腕を捕まえて、不機嫌そうに頬を膨らますストレアだった。

 

その様子をニヤニヤしながら見る者。

 

嫉妬の眼差しを向けて見る者。

 

意に介さず料理に舌鼓を打つ者。

 

三者三様とはこの事だった。

 

そうして引っ張られながら、どうしたものかと考えていると。

 

 

 

 

 

「おーっし、さてそろそろちょいとゲームでもしようぜ皆!」

 

 

 

 

 

そんな風に声を上げたのはクライン。

 

その様子に、その場にいた皆がクラインに目を向ける。

 

見れば、クラインは箱のようなものを抱えている。

 

それを見せながら。

 

 

 

 

 

「この中には、『王様』って書かれた紙と、番号が書かれた紙が入ってる。皆で一枚ずつ引いて、王様を引いた奴が好きな番号のやつに命令をできるって寸法だ」

 

「相変わらずだな、お前は」

 

 

 

 

 

所謂、王様ゲーム。

 

クラインと付き合いが長いキリトはやれやれ、といった感じでクラインを見る。

 

クラインを少なからず知る女性陣は一歩引く。

 

なにかよからぬことを考えているのではという直感からだった。

 

 

 

 

 

「シグの字、キリの字…お前さん達は参加するだろ?」

 

「……」

 

 

 

 

 

クラインの問いかけに、シグレは何故名指しなのかと考える。

 

真意が見えず、シグレはクラインに視線をやるが、頼む断るな、といった縋るような視線が見て取れた。

 

シグレは理解をしていなかったが、態々この空気に水を差す必要もないと思い、溜息を吐き。

 

 

 

 

 

「…分かった、参加する」

 

「同じく。まぁ偶にはいいかな」

 

 

 

 

 

キリトも同じ気持ちだったか、二人揃って参加を表明する。

 

そう言うと、一部からは意外だったのか、おぉ、と声が上がる。

 

 

 

 

 

「へへっ、サンキューな!後でお礼はするからよ、精神的に」

 

 

 

 

 

言いながら右腕でキリトの肩を、左腕でシグレの肩に腕を回すクライン。

 

 

 

 

 

「そんなわけだけど、どうだいお嬢さん方?」

 

 

 

 

 

そんな風にクラインが尋ねると、一人、また一人と参加を表明し。

 

やがて、その場にいる全員が参加することとなったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで。

 

 

 

 

 

「お、俺が王様だな。そうだなぁ…」

 

 

 

 

 

ケイタが王様の札を引く。

 

周りを見回しながら、ケイタは思いついたように。

 

 

 

 

 

「…なぁ、クライン。これって何番が何番に、っていう感じの命令ってあり?」

 

「おう、いいぞ」

 

「じゃあ、次の命令まで5番と10番が手を繋ぐ、で」

 

 

 

 

 

ケイタ王の命令に。

 

 

 

 

 

「5番は…私ね」

 

「…あ、私10番」

 

 

 

 

 

アスナとリズベットが笑いながら手を繋ぐ。

 

二人は何だかんだで親友同士、といえるほど仲が良かったこともあり、そこまで抵抗はなかったようだが。

 

 

 

 

 

「…な、なんか恥ずかしいわね」

 

「うん…」

 

「つっ…次行くわよ、次!」

 

 

 

 

 

気恥ずかしさを感じながら、紙の札を箱に戻し、次のゲームへ。

 

そんな感じでゲームは滞りなく進んでいた。

 

 

 

 

 

「…私ね」

 

 

 

 

 

シノンが王様になり。

 

 

 

 

 

「……ねぇ、先輩は何番?」

 

「ちょっ…それはさすがにダメだろ!」

 

 

 

 

 

シノンがシグレに番号を聞こうとして、クラインに止められる。

 

けれど、シノンはきょとんとした感じで。

 

 

 

 

 

「何でかしら」

 

「…いや、それじゃゲームが成り立ってないんだって」

 

「そう…まぁ、知ってたけど」

 

 

 

 

 

クラインが疲れたようにそうっすか…と言いながら引き下がる。

 

 

 

 

 

「…ちなみに、シグレに当たったらどんなことを命令してた?」

 

 

 

 

 

フィリアに尋ねられ、シノンは少し考え。

 

 

 

 

 

「そうね…少なくともハグ。許されるのならキス、あるいはそれ以上…」

 

「す、ストップストーップ!!」

 

 

 

 

 

指折り数えながら次々と考えを言うシノン。

 

話しながら徐々に頬を染めていく様子に、このまま放っておくと、公の場では話せないレベルに達しそうだったのを察知し、キリトがストップをかける。

 

その反応速度、さすが二刀流というべきか。

 

 

 

 

 

「…これは、強敵だわ」

 

 

 

 

 

フィリアは、まるでフロアボスに遭遇したかのような口調でシノンを見る。

 

 

 

 

 

「…大丈夫、シグレはアタシが守るから」

 

「……」

 

 

 

 

 

ストレアの少し真面目な口調の言葉。

 

けれど状況が状況だけに、どうにも真面目になりきれていない様子が、シグレの頭を悩ませる。

 

そんな状況を知らずか、ゲームは進行していた。

 

 

 

 

 

「あ、私が王様ですね」

 

 

 

 

 

次に引いたのはユイだった。

 

彼女ならば無茶な命令はないだろう、と誰もが安心していた。

 

しかし。

 

 

 

 

 

「では…5番の人が10番の人を30秒間抱きしめてください」

 

「ユイ!?」

 

 

 

 

 

ユイ王の命令にキリトが驚いたように言う。

 

まさかそんな命令が出るとは、と。

 

ただ一方で。

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 

シグレは少しだけ予想していた。

 

何故なら、彼女の妹に当たるストレアがあの性格だから。

 

 

 

 

 

「ま、王様の命令は絶対だしな。俺が5番で10番が女の子なら最高だったけどよ…俺は違ったわ」

 

 

 

 

 

クラインが呆れ半分、残念さ半分に言う。

 

その様子に、ほっとした様子の女性陣がいたのは言うまでもない。

 

そんな中。

 

 

 

 

 

「その…私、10番」

 

 

 

 

 

言いながら札を見せたのはアスナ。

 

どこか恥ずかしげだが、メンバーからして女性率が高い事から、そこまで緊張はなかったようだが。

 

 

 

 

 

「さて、5番は誰かしら?」

 

 

 

 

 

リズベットが見回す。

 

そんな中で手を挙げたのは。

 

 

 

 

 

「…俺だ」

 

 

 

 

 

シグレだった。

 

挙げたシグレの手には『5』と書かれた札。

 

当事者であるアスナはその意味を考え。

 

 

 

 

 

「っ…!!?!?」

 

 

 

 

 

一気に顔を恥ずかしさで真っ赤に染める。

 

 

 

 

 

「おーおー、よかったねアスナー?」

 

 

 

 

 

その様子にリズベットがアスナを肘で小突きながら揶揄うように言う。

 

しかし、それに言い返す余裕もないのか俯いて固まっていた。

 

それがシグレにはどう映ったのか。

 

 

 

 

 

「……無理はしなくていいのではないか?」

 

 

 

 

 

気遣うようにシグレが提案するが。

 

 

 

 

 

「…だそうだけど、そういうのはあり?王様?」

 

「ダメです」

 

 

 

 

 

リズベットの言葉にユイは両腕でバツを作り、拒否を認めなかった。

 

それにシグレは溜息を一つ吐き。

 

 

 

 

 

「ささ、どうぞごゆっくり~♪」

 

 

 

 

 

リズベットが恭しく下がり、シグレとアスナが中心になり、周りに観客といった感じになる。

 

逆にやりにくい気がしたが、どうしたものかと考えるシグレ。

 

とはいえ、命令は『5番が10番を30秒間抱きしめる』。

 

そのため、シグレが動かなければ話は進まない。

 

それを悟ってか。

 

 

 

 

 

「…我慢、できるか?」

 

 

 

 

 

シグレの言葉に、アスナは一つ、小さく頷いた。

 

それを確認し、シグレはアスナに近づく。

 

アスナは恥ずかしさで顔を上げられなかったため、表情を窺い知ることはできない。

 

しかし、一つ一つ聞こえる足音が、近づいてくるのを感じる。

 

あと何度聞いた後に、自分は彼に抱きしめられるのだろう。

 

そんな疑問がアスナを追い込んでいく。

 

同時に、仮想世界であるのに、それを忘れそうなほどに妙に心音が大きく聞こえる。

 

やがて。

 

 

 

 

 

「っ……!」

 

 

 

 

 

自分に密着し、背に回される腕を感じ、緊張で震える。

 

彼に触れたときの温かさは、現実の人肌のようで、それがアスナの思考を鈍らせる。

 

恥ずかしさから、早く終わってほしいという思い。

 

ただ一方で、自分の緊張を落ち着かせていってくれそうな温かさに、もう少し包まれたいという思い。

 

相反する二つの思いに翻弄されながら、アスナは温かさに身を委ねる。

 

自分の心音とは異なる、もう一つの音。

 

それが何かは、アスナはすぐに察する。

 

目を閉じると、与えられる温かさと、彼の音がが自分の緊張を和らげ、少しずつ安らいでいくように感じた。

 

とはいえ、その時間はやがて終わりが来るもので。

 

 

 

 

 

「…はい、30秒です。おっけーです!」

 

 

 

 

 

ユイの声に一瞬驚きつつ、アスナはハッとする。

 

それと同時に、シグレは抱きしめていた腕を解く。

 

 

 

 

 

「あ…」

 

 

 

 

 

名残惜しさにアスナは一瞬声を漏らすが、シグレにそれが届いたか届かずか、シグレは背を向けて観客の方へ戻っていった。

 

 

 

 

 

「なんだ、顔真っ赤だぞ?」

 

「…煩い」

 

 

 

 

 

ケイタの揶揄うような物言いに、シグレは一言だけ反論する。

 

そのやりとりが耳に入ったアスナは、この緊張は自分だけではなかった、と察する。

 

彼も、自分と同じだったんだ。

 

そう思うと、自然に笑みが零れた。

 

 

 

 

 

「くぅー、羨ましいなぁ!畜生、もう一回だ!」

 

 

 

 

 

クラインが札を集め、再度ゲームを開始する。

 

どれだけ続くかと思っていたが。

 

 

 

 

 

「うおっしゃぁ、王様来たぁ!!」

 

 

 

 

 

さーて、どうしましょうかねぇ?

 

そう辺りを見回しながらクラインは少し考え。

 

 

 

 

 

「よし、じゃあ8番が王様にキス!」

 

「ちょ…」

 

 

 

 

 

クラインの言葉に、誰が発したか止めようとした言葉。

 

しかし、先ほどのハグが羨ましかったのか、クラインは止まらない。

 

 

 

 

 

「……ん、俺だな」

 

 

 

 

 

辺りを見回しながら、8番を皆が探していると、その札の持ち主は名乗りを上げる。

 

筋肉隆々な、斧使いの商人、エギル。

 

その手には『8』と書かれた札があった。

 

 

 

 

 

「……………え」

 

「いや、俺もそんなことはしたくないが…王様の命令だしな、仕方ないな」

 

 

 

 

 

調子に乗りすぎた男、クライン。

 

彼に天罰を下す男、エギル。

 

その天罰の結果は、一つの断末魔と共に、仮想世界の闇へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

そうして、騒ぐだけ騒いだ、宴の後。

 

片付けも終わり、店主のエギルを含めた皆が休むために、部屋に戻っていく。

 

本来ならシグレとストレアは二人、借りていた部屋に戻るところだが、エギルの厚意に甘え、空き室を借りることになっていた。

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 

パーティーの火照った空気を冷ますために、シグレは外に出ていた。

 

日付が変わる時間帯、降っていた雪は止んでこそいるが、厚い雲は残っており、月は見えない。

 

うっすらと雪が積もっており、一歩歩けば足跡が残る。

 

ところどころ明るい部屋があり、そこは未だに騒いでいるのだろうか。

 

そんな街の中を、シグレは一人歩く。

 

 

 

 

 

「…」

 

 

 

 

 

先ほどまでの熱気が嘘なのではと感じるほどに冷め切ったシグレ。

 

それを、シグレはどこか懐かしいと感じていた。

 

この仮想世界に来る前には、それすらも寒いとは思わなかったのに。

 

 

 

 

 

「…冷えるな」

 

 

 

 

 

そう、感じていた。

 

今日…というより、昨日。

 

さらにその前。

 

もういつからか、忘れかけていた、一人という感覚。

 

いつしか、それが少しばかり寒いと、そう感じるようになっていた。

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 

もう少しばかり歩いたら、戻って休むか、などと考えながら歩く。

 

いずれはクリアされ、終わる世界。

 

あるいは、ここで命を落として、すべてが終わるかもしれない。

 

いずれにしても、この世界にいられる残り時間は、そう多くないだろう。

 

そうなれば、いずれ自分はまた、一人に戻る。

 

……そうあるべき、とも考えている。

 

そうなっても、こんな寂しさを感じることのないように。

 

 

 

 

 

「…シグレ?」

 

 

 

 

 

そんな事を考えていると、背後から聞き覚えのありすぎる声が、シグレの名を呼んだ。

 

振り返れば。

 

 

 

 

 

「ストレアか…」

 

 

 

 

 

武器を持たず、けれどいつもの服装のストレアがそこにいた。

 

ストレアはシグレの表情を見るやハッとした表情になり、一歩、また一歩シグレに近づき。

 

 

 

 

 

「っ…」

 

 

 

 

 

シグレの胸元に、倒れこむように身を寄せる。

 

突然かかる重さ。

 

けれど、シグレはよろけるでもなく。

 

 

 

 

 

「……?」

 

 

 

 

 

何の問題もなく、ストレアを支える。

 

どうした、とシグレが尋ねる前に。

 

 

 

 

 

「…ダメだよ、シグレ」

 

 

 

 

 

ストレアは少し籠った声で、そうシグレに言う。

 

 

 

 

 

「会ってすぐの頃みたいな……寂しい顔してた。ずっと一人だって自分に言い聞かせるような。それが当たり前、みたいな」

 

「……仕方がない事だ」

 

「仕方なくないよ…!そんなの、仕方ないで済ませられることじゃない……!」

 

 

 

 

 

ストレアに言われ、シグレは一つ溜息を吐く。

 

 

 

 

 

「…何故お前が辛そうにする」

 

「辛いからだよ…!シグレが辛かったら、アタシだって辛いもん」

 

「俺は別に…」

 

 

 

 

 

辛くはない。

 

慣れている。

 

そんな風に続けようとしたシグレだが。

 

 

 

 

 

「っじゃあ何で!……泣いてるの」

 

 

 

 

 

突然顔を上げ、じっと見てくるストレア。

 

シグレは抵抗しなかった。

 

 

 

 

 

「…気のせいだろう」

 

「……誤魔化せると思わないで。アタシだってユイと同じMHCPだったんだから…そのくらい分かるよ」

 

 

 

 

 

やれやれ、といった感じのシグレ。

 

こうなれば、何を言っても聞かないだろう、と思っていた。

 

 

 

 

 

「……この世界に来る前は、一人は当たり前だった。そしてこの世界が終われば…また一人に戻る」

 

「…」

 

 

 

 

 

その言葉に、ストレアはただ、聞くことしかできなかった。

 

シグレにそんな思いはしてほしくない。

 

けれど、自分は所詮、この世界のデータでしかない。

 

現実でのシグレを支えることはできない。

 

諦めたくなくても、諦めざるを得ない。

 

あまりに厚すぎる、世界の隔たりに、ただもどかしさを感じることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

「…だが、仮に一人だとしても…ここで過ごした事実がなくなるわけではないだろう」

 

 

 

 

 

それで十分だ、とシグレは言いながらストレアの髪を梳く。

 

ほんの少しウェーブがかった髪の感触がシグレの指を撫でる。

 

 

 

 

 

「……お前が無理についてきた事が原因ではあるが…感謝は、している。俺は確かに、お前に救われた」

 

「…そっか。シグレの為に何か出来たなら…嬉しいな」

 

 

 

 

 

少しだけいつもの調子に戻ったストレアに、シグレはやれやれ、と一つ息を吐き。

 

 

 

 

 

「……戻るぞ」

 

「うん……ね、シグレ」

 

「?」

 

「…何があっても、アタシはシグレの味方だよ?」

 

 

 

 

 

ストレアの言葉に、シグレはそうか、と一言だけ返す。

 

そんなシグレの言葉に、ストレアはいつもの笑みを浮かべて、シグレについていく。

 

必要以上どころか、必要な言葉すら返さないシグレ。

 

それでも、ストレアはただ、明るい笑みを浮かべる。

 

まるで、その何気ない返事が、ストレア自身が求めていたものであったかのようだった。

 

 

 

 

 

「今日のパーティー、楽しかったね、シグレ?」

 

「……俺は疲れたがな」

 

 

 

 

 

楽しげに言うストレアに、シグレは心底疲れたような声で返す。

 

その様子がおかしかったのか、ストレアは楽しそうな笑みを浮かべる。

 

 

 

 

 

…そうして、賑やかな聖夜は過ぎていくのだった。




おまけ


[1]その後のアスナさん

アスナ「……」

アスナ「っ…~~~!!!」(王様ゲームで抱きしめられたのを思い出しながら布団の上で悶え、枕をバシバシ叩いている)

リズベット「早く寝なさいよ…」(人数と部屋の都合で相部屋になったが、部屋を変えてもらおうか悩み中)


[2]パーティー中のフィリア

フィリア「うぅ…」(前日のカップルドリンクの恥ずかしさが抜けきっていない)

シグレ「…?」

フィリア「…シグレの馬鹿!」(いつも通りなシグレに謂れのない悪態)

シグレ「何がだ…」(呆れ)


[3]サチとのその後の話

サチ「…~♪」(シグレの弱音を聞けた事を不謹慎と思いながらも嬉しく思っている)

ケイタ「なんだかご機嫌だな、サチ?」(通りがかり)

シグレ「……」(同じく通りがかり)

サチ「へ…わわわわわっ!?」(自然に出ていた歌が聞かれていたことに気づき慌てる)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。