ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~ Extra Stories.   作:アルタナ

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#7秒ハグ / Strea

22層の、ある小屋にて。

ギルドホームであるかのように、キリト、シグレ、アスナ、サチ、ストレア、ユイが過ごす一軒の家。

昼食を終え、アスナとサチが食器を洗い、他の皆は思い思いに過ごしていた。

食事当番は基本的にローテーションの為、彼女らが毎日、というわけではない。

 

 

そんな昼下がりの、リビングにて。

 

 

「ねぇ、シグレ」

「?」

 

 

ストレアに話しかけられ、シグレは食後に淹れてもらったコーヒーを飲みながら視線を向ける。

視線を向けられたストレアは、屈託のない笑顔で。

 

 

「ハグしよ!」

 

 

さぁ来い!と言わんばかりに両手を広げてシグレを受け入れようとするストレア。

 

 

「……」

「ぶっ…」

「パパ!?」

 

 

シグレはすんでのところでコーヒーを吐き出さずに済んだが、近くにいたキリトはコーヒーを驚きとともに吐き出す。

ユイは驚いてキリトを呼ぶ。

一方で台所では食器を落としたのか、ガシャンと音がしていた。

 

 

 

#7秒ハグ

 

 

 

キリトが口元を拭い、アスナとサチが混乱の中で洗い物を終え。

 

 

「……急に何だ」

 

 

当事者のシグレが代表してストレアに尋ねる。

 

 

「?…アタシ、何か変なこと言ったかな?」

「…自覚がない、か」

 

 

本気で疑問符を浮かべる表情のストレアにシグレは一つ溜息。

 

 

「ええと、とりあえず…何で急に?」

 

 

溜息を吐くシグレに変わり、キリトが尋ねる。

口元が少しコーヒーで黒く湿っているのは愛嬌といえるかどうか。

 

 

「最近知ったんだけど、大切な人とのハグは絆を深める効果があるっていうから」

「…から?」

「だからシグレとって思って」

「どうしてそうなった」

 

 

シグレの溜息に。

 

 

「だって、足りないでしょ?アタシ達の絆」

「十分だと思うけどな…」

「えー、足りないって」

 

 

ストレアが不満を述べる。

キリトが宥めるも聞く耳持たず。

 

 

「…ストレア、貴女疲れてるのよ」

「シグレ君と一緒だったんだもんね。仕方ないよね…」

「え、あれ?なんでアタシ、可哀そうな人を見るような目で見られてるの?」

 

 

アスナとサチの遠回しな表現にストレアは疑問符を浮かべる。

シグレからすれば嫌味を言われたようなものだが。

 

 

「…一応聞くぞ。どういう意味だ」

「単独行動」

「ボスのソロ攻略、もしくは二人での撃破」

 

 

シグレの問いに、アスナとサチはジト目でシグレを見る。

事実だけに言い返せず、ぐ、と言葉に詰まる。

 

 

「…すまん、そればっかりは援護できない」

「お前も人の事言えるのか?」

「お前よりはマシ」

「……」

 

 

どうマシなのか問い詰めようと思ったが、面倒になったシグレはそれ以上言わなかった。

 

 

「その無茶を無茶と思わせないシグレ、素敵です」

「…ストレア、エラーを起こしたの……?」

 

 

真面目な顔で言うストレアに姉にあたるユイが頭を押さえる。

その一言に、さすがのストレアもむぅ、と頬を膨らませる。

 

 

「……だって、二人だった時、殆ど戦ってばかりで、ゆっくり過ごしたり、出来なかったから」

 

 

街でゆっくりするのは、ストレアに誘われたときくらい。

それ以外で街の用事といえば武器の調達と修理、宿での休憩。

宿での休憩といっても夜遅くに戻り朝早くに出るので、実際は寝に戻っているようなもの。

 

 

「…え、なにそのブラック企業」

「それはさすがに可哀そう…」

 

 

ストレアの訴えに、さすがにそれは、と皆が今度はシグレを非難するように見る。

 

 

「…シグレさん!」

「っ…」

 

 

そんな中、少し強く名前を呼ばれ、シグレは驚いて声の主を見る。

その先には、私怒ってます、な表情を隠しもせずにシグレを見上げるユイ。

姉として、思うところがあったのだろう。

 

 

「今日は、ストレアと一緒にいてあげてください。それと、出かけていいのは街の中だけで、フィールド、迷宮区は一切禁止です…いいですね?」

「……」

「い、い、で、す、ね!?」

 

 

ユイの普段からは想像がつかない強い口調に圧倒されたか。

 

 

「……わかった」

 

 

さすがのシグレも、それには反抗しなかった。

 

 

「…シグレ?」

 

 

どこか不安げにストレアはシグレに近付く。

そんなストレアにシグレはやれやれ、と一つ息を吐き。

 

 

「……つまらなくても知らんぞ」

「っ…大丈夫、アタシがエスコートするから!行こ行こ!」

 

 

シグレの言葉に笑顔を見せながら引っ張っていくストレア。

その様子を見ていた皆は微笑ましさに思わず笑みを零していた。

そんな中。

 

 

「…そういえば」

 

 

キリトが何かを思い出したように言葉を発し、皆が疑問符を浮かべてキリトを見る。

 

 

「…ストレア、ハグしたいって…言ってなかったか?」

 

 

どこでやる気なのだろう、と疑問を投げかけるキリト。

まぁ流石に人中ではやらないだろう、とは皆思っていたが、いざとなると確信が持てない一行だった。

 

 

………

 

……

 

 

 

そして、そんな一行の予想通りというべきか。

 

 

「んー…」

「……」

 

 

22層の街中、大きな通りのど真ん中でハグを実行していた。

人通りも当然のように多く、注目の的になっていたのは言うまでもなく。

 

 

「は…恥ずかしいね」

「……」

 

 

ストレアの真っ赤になりながらの言葉にシグレは無言。

その頬が赤く染まっているあたり、シグレも羞恥心で言葉を失っているのは明らかだった。

周りから妬み嫉みの野次や冷やかしが聞こえてきていた。

 

 

「…なら、やめたらどうだ」

「んー…」

 

 

シグレの提案にストレアは顔を埋め、すぅ、と匂いを嗅いでいた。

 

 

「…シグレの温かさ、すごく感じるよ。すごく、安心できる…」

 

 

だから、ね?

そう言葉にするストレアに、シグレは溜息を吐き、白旗を上げる。

 

 

「あとちょっと、ちょっとだけだから…」

 

 

体感で、もう数分はこうしている。

ストレアの言う、ちょっと、がどの程度かは分からない。

とはいえ振り払う事も出来ず、抱き着かれていて動く事も出来ず。

 

 

「……」

 

 

とりあえずこの状況から逃避しようと、青空を見上げるシグレだった。

 

 

 

それから一旦離れる二人だったが、その後もストレアに引っ張られ。

 

 

「ねぇねぇ、この服とこの服、どっちがいいかなっ」

「…俺にそのセンスがあると思っているのか?」

「いいじゃん、シグレの意見が聞きたいの!」

 

 

買い物をしたり。

 

 

「はい、シグレ、あーん」

「……」

「…あれ、もしかして…口移しの方がよかった…?」

「どっちもやめろ…」

 

 

食事をしたり。

まるで、付き合いたての恋人同士のデートのように、互いに離れることなく、一日を過ごす。

最初は恥ずかしさもあり、早く終わらないかと思っていたシグレだったが、楽しそうなストレアを見ていると、偶にはいいか、と考えを改めていた。

 

 

………

 

……

 

 

 

そんなこんなで。

 

 

「もう夕方かぁ…」

「…戻るか?」

 

 

拠点にしている小屋は森の中にあり、暗くなると戻るのに若干骨が折れる。

それを考えシグレはそう、提案する。

その提案にストレアは少し考え。

 

 

「…ん、今日は…ここで、宿…とろ?」

「……」

「ちなみに、皆には連絡済です!」

 

 

言いながら、ユイにメッセージを送ったのか、そのやり取りのログをシグレに見せる。

そこには。

 

 

『Strea > Yui : 今日は一日、シグレと二人きりで過ごします。後のことは宜しくね!』

 

『Yui > Strea : 分かりました。明日はお赤飯ですね。皆さんには伝えておきます』

 

 

そんなやりとりがあった。

 

 

「……」

 

 

色々と言いたいことがあったシグレ。

まず了承していいのか、姉として。

何が赤飯か。

そもそもSAOに赤飯という料理があるのか。

そんな事を考えながら。

 

 

「…行こ?」

「……」

 

 

ストレアに、昼間とは打って変わって弱々しく手を引かれ、シグレはそれに従うのだった。

 

 

………

 

……

 

 

 

一方その頃。

 

 

「シグレ君とストレアさんが…朝帰り…」

「……」

 

 

メッセージのやり取りの内容を皆に伝えたユイ。

アスナとサチが、ショックを受けたような反応を見せ。

 

 

「…え、ど、どうしたんですかお二人とも?」

 

 

その理由が分からない、と言わんばかりに二人に声をかける。

 

 

「いや、だって…なぁ」

「?」

 

 

キリトが言葉を濁すが、ユイは本気で分からないようで。

 

 

「…ユイ。じゃあなんで、明日はお赤飯、って思ったんだ?」

「え?それは…情報をサーチして、仲のいい男女が朝帰りになったらお赤飯が定番だと…何か間違ってましたか?」

「……いや、いいんだ。ユイはそのままで…うん」

「パパ?え?」

 

 

キリトも知らぬが仏、を貫き、それ以上の事はユイに告げなかった。

 

 

………

 

……

 

 

 

そんなやり取りがあったことも知らず、街中の宿の一室で。

 

 

「ん…」

 

 

今度は周りの視線がない状況で、再びハグを実行していた。

ちなみに、部屋は明かりが灯っておらず、暗い。

 

 

「…なんか、昼の時より、恥ずかしくは…ないんだけど」

 

 

顔を埋めたまま、少し籠ったような声でストレアが言う。

 

 

「なんでかな……その時よりずっと、ドキドキしてる」

 

 

それでも、全く離れる素振りを見せない。

 

 

「…シグレ」

 

 

唐突に、名前を呼ばれ。

 

 

「何だ」

 

 

シグレは先を促す。

 

 

「……ん…何でもない」

 

 

ストレアは楽しそうに言葉を続ける。

そのやり取りを、何回しただろうか。

 

 

「…ね、シグレ」

「……何だ」

 

 

また、何でもない、と返されるかもしれなくても律義に返事をするシグレ。

ストレアはそんなシグレの反応を嬉しく思いながら。

 

 

「今日は…一緒に、寝よ……?」

「……添い寝、か?」

 

 

顔を真っ赤にしながら、懇願するようなストレアに、シグレは確認するように尋ねる。

 

 

「…その答えを言うのは…さすがに、恥ずかしい……かな」

 

 

どっちともつかないストレアの答え。

その後、二人に何があったかは、また、別の話である。

 

 

………

 

……

 

 

 

翌朝。

 

 

「……お、おはよ…シグレ」

「…あぁ」

 

 

言葉数少なく挨拶を交わす。

 

 

「…そろそろ、戻るか」

 

 

いい加減何を言われるか分からん、とシグレは続ける。

平静にこそ見えるが、どこか慌てているな、とストレアは直感的に感じていた。

 

 

「ん…そうだね」

 

 

とはいえ、ストレアとてそれは同じで、反対する理由もなかった。

けれど、二人の時間の終わりを惜しんでか。

 

 

「…ね、今日の最後の思い出に……ぎゅって、して?」

「……最後だ」

「ん…」

 

 

身を寄せるようにストレアが、やれやれといった様子のシグレの腕の中に収まる。

 

 

「……ねぇ、シグレ」

「何だ」

「アタシ…これが最後なんて、やだな」

「……」

「また…二人の時に、してくれる?」

 

 

シグレはストレアの問いに少し考え。

 

 

「……気が向いたら、な」

 

 

そう、苦し紛れに返す。

けれど、ストレアはその返事で十分と言わんばかりに。

 

 

「うんっ!」

 

 

嬉しそうに、満面の笑顔で、そう頷いたのだった。




おまけ

・帰宅後の一幕(男性陣)


キリト「お、おう…お帰り。昨夜はお楽しみでしたね…?」

シグレ「……?」(←意味が分かっていない)

キリト「い、いや…わからないならいいんだ、うん…」

シグレ「…??」

キリト「本当に何でもないから。まぁ…あれだ。また模擬戦でもやらないか?」

シグレ「構わないが…俺が勝った場合、さっきの言葉の意味を教えてもらおうか」

キリト「やっべ…負けたら死ぬ、いろんな意味で」



・帰宅後の一幕(女性陣)


サチ「す…ストレア?昨日は、その…」

ストレア「うん、すっごく楽しかったよ!」

アスナ「そ、そう…」

ストレア「お昼もいっぱいぎゅっとして、お買い物したり、一緒に食事したりして…」

サチ「普通のデートっぽい…?」

ストレア「あ、この服シグレが選んでくれたんだよ!どう、似合うかな?」

アスナ「う、うん…似合うんじゃ、ないかな…?」

ストレア「その後もいっぱいぎゅってして、幸せだったなぁ…これで絆が強くなった気がする!」

ユイ「ストレアが嬉しそうで、私も姉として嬉しいです!」

ストレア「日が暮れて、宿をとって、そこでも…」

アスナ「…」(←息を呑む)

サチ「……」(←息を呑む)

ストレア「…ここからは、アタシとシグレだけの秘密、かな」(←頬赤らめ)

二人「!?」

ユイ「今日はお赤飯を作りましょう!レシピを検索して、私頑張っちゃいます!」

二人「!?」



・その日の情報新聞


『仮想世界だからこそ?昼間の大通りで人目を憚らず抱き締めあう カップル出現!』

ストレア「おぉ、アタシとシグレだ」

シグレ「……」(←予想こそしていたが、現実になって頭を抱える)

ストレア「もう、アタシとシグレがこういう関係って広まっちゃえば、どこでハグしても問題なし、だね。シグレ?」

シグレ「…新聞のタイトルに、バ、がつかなくて良かったな」

ストレア「?…少しスペースあるし、書いちゃおっか?」(←ペンを持ち出し)

シグレ「やめろ」
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