ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~ Extra Stories. 作:アルタナ
ある日、GGO。
その中心ともいえる都市、SBCグロッケン。
「……」
シグレは一人、街の中を歩く。
目的があったわけではない。
なんとなく、少しフィールドにでも出てみようか、等と考えていただけ。
その途中。
「~♪」
その途中、どこか楽しげに歩く、見知った姿が向かいから歩いてくる事に気づく。
シグレは特に気にすることもなく、すれ違おうとする。
興味がなかったわけではないが、楽しみを邪魔する理由もない、という判断だった。
「あっ、シグレさん!」
と思ったのだが、相手…ユウキがそれを許さなかった。
若干距離こそあるが、ややオーバーリアクションで手を振ってシグレの名を呼ぶユウキ。
何事もなかったかのようにすれ違おうとしたシグレの目論見は失敗に終わる。
「…どうした」
とはいえ、声をかけられて無視するつもりもなかったシグレは立ち止まり、ユウキに応じる。
「シグレさんは、どこかにお出かけ?」
「…フィールドに出ようとしていただけだが」
「そうなんだ……」
シグレの言葉に少し考えるような素振りを見せるユウキ。
けれどすぐにシグレに向き直り。
「その…もしよかったら、少し付き合ってほしいんだけど…」
「…?」
どこか言い難そうにするユウキにシグレは何も言わず、続きを待つ。
「実は今日、新しい事に挑戦してみようと思って…」
「…新しい事?」
シグレの尋ね返しにユウキはうん、と頷き。
「…GGOっていろんな乗り物があるでしょ?そこで、バイクに乗ってみたいって思って!」
~人生の楽しみ方~
そんなこんなで、ユウキに先導され。
着いたのはバイクの練習場。
「あ、受付こっちだって!」
「……」
楽しそうに走り回るユウキにシグレはついていく。
とはいっても、見る物すべてが物珍しいかのように行ったり来たりするので、シグレは若干疲れ気味だったが。
「……」
シグレは辺りを見回す。
入ってきた扉と受付を挟んで反対側に出口があり、その向こうでは数台のバイクが走っていた。
コースがあるのだろうが、そのコースはどこか教習所のようにも見える。
「…ん~」
受付のNPCの説明を聞きながら唸るユウキ。
どうしたのかと近づくシグレ。
「…どうした」
「あ、シグレさん。あのね…借りられるバイクが3種類あって…小型か、中型か、大型か、だって」
どれがいいかな、と笑うユウキ。
別に好きなやつにすればいいのでは、とも思うが。
「…好きにすればいいんじゃないのか?」
「ん~…欲を言えば大型がいいけど、いきなりで大丈夫かなって…ちょっと不安で」
あはは、と困った様子で苦笑するユウキにシグレは一つ溜息を吐き。
「新しい事に挑戦するのなら、やりたい事をやってみればいいと思うがな」
「そっか…そうだよね。うん…そうする」
ありがと、とユウキはシグレに一つ礼を告げ、NPCに向き直り。
「二人とも大型でお願いします!」
「…おい」
俺もか、と内心思うシグレだったが、よくよく考え、もともとそういう話だったと思い返し、それ以上は何も言わなかった。
とりあえず、料金はシグレが二人分支払うのだった。
◇◆◇
そんなこんなで。
「…えっと…」
いざ大型、と銘打ったバイクを借りたはいいが、ユウキは現実でもバイクに乗ったことはない。
となれば、動かし方がわかるはずもない。
そして、現実の教習所とは違い、教官なんてものはいない。
あるのは手渡された説明書に相当する小さなテキストのみ。
そんな状態でバイクだけ預けられても、乗れるはずもない。
テキストとにらめっこをしながら唸るユウキに一つ溜息を吐くシグレ。
「……ユウキ」
「えっ?」
やれやれ、といった感じで声をかけるシグレ。
「…基本程度なら俺でも教えられる。まずはスタンドを払って跨ってみろ」
「あ、うん…」
そんな感じで、ユウキからテキストを取り上げるシグレ。
やや混乱気味のユウキだったが、言われたままにバイクに跨るユウキ。
若干小柄なのか、ユウキには手に余る大きさにも見えたシグレだったが、それに関しては何も言わなかった。
「えっと、これがクラッチで、こっちがギア、で、これがブレーキ…」
テキストで覚えたのか、一つ一つ確認するユウキ。
「…発進の仕方は分かるか?」
「あ、うん…さっきテキストを見たから。えっと…ギアを入れて、クラッチをゆっくり…」
言いながら、ゆっくり操作をするユウキ。
そうしていくと、やがて動き出し。
「う、うわわわっ!?うわぁっ!!!」
動き出す力が想像以上だったのか、ふらつくユウキ。
そのままバランスを崩し、その場にバイクごと転んでしまう。
「いったた…」
派手に転んだがふらふらと立ち上がるユウキ。
「んぎぎ………っ!!」
そのまま、倒れたバイクを引き起こすユウキ。
ユウキにとっては重いのか、ゆっくりと起き上がっていく。
「……」
見兼ねたシグレが起こすのを手伝い、あっけなくバイクは立ち上がる。
「あはは、失敗失敗。次こそはっ!」
ユウキにとっては重すぎるバイクだが、それでも楽しそうに再チャレンジする様子を見て、軽く苦笑するシグレ。
これ以上はお節介かと、シグレは自らが借りたバイクに近づくのだった。
…そんなこんなで、数十分の悪戦苦闘の後。
「あはは、楽しいー!」
ゆっくりとした速度で外周を回るだけ。
たったそれだけでも楽しそうに走るユウキ。
何度も転けはしたが、その度に起こすことでコツをつかんだのか、スムーズに起こせるようになっていた。
その後ろからシグレはついていく。
「…」
剣士としての勘の良さのようなものがあるのか、ユウキの上達は早く感じられた。
それでもさすがに疲れはするのか、やがてバイクを停める。
「…ね、シグレさんも、少し休まない?さすがにちょっと、疲れちゃった」
「あぁ…そうだな」
ユウキの提案に応じ、シグレもバイクを停め、休憩をすることにするのだった。
◇◆◇
そんなこんなでバイクを停め、片隅のベンチで並んで腰かけ、冷たい飲み物を飲む。
二人分をユウキが購入し、片方をシグレに渡していた。
シグレは自分のの分くらいの代金は渡そうと思ったのだが、ここの代金を払ったことのお礼、と押し切られ、奢ってもらう形になっていた。
「くぅー、冷たいのが効くっ!美味しいっ」
「……」
飲み物一つ飲むのも楽しそうなユウキにシグレは一つ苦笑し。
「…楽しいか?」
「うんっ!」
そんなやりとりをするのだった。
どっちが尋ね、どっちが答えたかは言うまでもないだろう。
「ね、ね。これならライセンスクエストもクリアできるかな?」
「……何だそれは」
「えっとね、バイクの操縦を見るクエストで、一定点数をとるとライセンスがもらえて、どこでもバイクが乗れるって」
NPCの人が言ってたよ、と続けるユウキ。
どうやら小型は銅色、中型は銀色、大型は金色のライセンスカードを重要アイテムとして貰うことができ、それがないと、乗り回すことができないエリアが結構あるらしい。
違反すると強烈なデバフがかかるらしく、フィールドに出て戦うどころではなくなるとか。
それを聞いて、現実の卒検か、とシグレは結論付ける。
「…まぁ、頑張ってみたらいいとは思うがな」
「あ、さてはクリアできないって思ってる?」
少しばかりジト目なユウキの視線から逃れるように。
「…そう思うなら、もう少し練習したほうがいいんじゃないのか?」
「もーっ!そんなこと言って、シグレさんだって同じ感じでしょ?」
お互いに頑張らないとね、とユウキはニッと笑う。
「……それにゴールドライセンスのやつはすっごい難しいらしいから、頑張らないとね!」
「…なら、外周はそこまでにして、いろいろやってみるか」
ユウキの決意表明に、シグレはそう続ける。
ユウキはう、と一瞬言葉を詰まらせるが、そこで妥協するほどシグレは優しくなかった。
◇◆◇
そんなこんなでシグレ指導の下の練習が続き、暫くした後。
「…うぎゅー」
「……」
傍らのユウキは伸びていた。
二時間程度ではあったのだが、いきなりなので転ける事も多く、その度に起こすのに体力を消費。
いくらHPが減らないとはいえ、疲労は溜まる。
シグレは少しやりすぎたか、とは思ったが。
「ぷっ、あははははは……」
仰向けになったまま、突然笑いだすユウキ。
突然のそれに、シグレはユウキを少し訝しげに見る。
「…疲れで気でも狂ったか」
「あ、ひどいなぁ…もしそうならシグレさんのせいだけどね」
冗談だけどね、とユウキは笑顔で続ける。
「…あのね、今ボク、すごく楽しい」
何か思うところがあるのか、少し声のトーンを落としながら言う。
「…その、さ。色々…シグレさんとはあったじゃない?」
「……それはもう終わった。俺はそう言ったはずだが」
「うん、わかってる。シグレさんに許してもらえて、今はこうして普通に過ごせてる」
だから、仮想の中とはいえ、こうして新しいことの挑戦もできる。
大変だと思うこともあっても、それが楽しくて仕方ない。
「…でも、今でもボク時々思っちゃうんだ。そうやって楽しいって思うのが、シグレさんに対して酷いことなんじゃないかって」
それがユウキ本人の意思ではなかったとしても、当事者である以上、そう簡単に忘れることはできないということなのだろう。
「何かをやりたいって思うのも、シグレさんを犠牲にしちゃったんじゃないかな…って」
「…それに関しては」
どんどん思考がネガティブな方向に向かっているのを察し、遮るようにシグレが言葉を発する。
それにユウキは驚き半分に言葉を止める。
「おそらく俺が何を言ったところで、そう簡単には変わらない…か」
「……」
シグレの言葉をユウキは否定しない。
あるいは、否定できない。
その様子にシグレは一つ溜息を吐き。
「……忘れろとまでは言わないが、お前に罪があるわけではない。もしそういう意識があるなら、それを忘れるくらいに人生を謳歌すればいい」
というより、そうしろ。
シグレはそう言い切り、やがて立ち上がる。
「…そろそろ休憩は終わるか?」
「え、あ…うん」
話は終わりだ、と言わんばかりの様子にユウキも立ち上がる。
「…よし、がんばろ。ライセンスクエストクリア目指して頑張る!」
よし、と気合を入れなおすユウキにシグレは苦笑する。
「それは結構だが…それならそれでまだ練習は必要だろうな」
「うぐ…じょ、上等だけど?」
あからさまな強がりだと分かると、少しだけ微笑ましく感じるシグレだった。
◇◆◇
それから更に練習した後。
「……ありがとうシグレさん、やったよ!」
「お前が頑張っただけだ」
ユウキと、ついでにシグレもライセンスクエストを受け、見事二人とも合格。
二人とも金色のライセンスアイテムを受け取り、ユウキがそれを嬉しそうに何度も見返していた。
シグレはついでだったこともあり、すぐにストレージに入れてしまったが。
「バイクに乗ってフィールドを駆け抜けたら楽しそうだよねぇ…こう、モンスターなんか振り切って思いっきり駆け抜けるとか!」
「…なら、それだけの速度を出せるようにならないと、だがな」
「今のボクの乗り方じゃ無理…かな」
「……」
「そこは何か言ってほしいんですけど!?」
終始楽しそうなユウキと、軽くあしらうシグレ。
「でも、そっかぁ。そしたら次は、それに挑戦、だね!」
「……それは構わないが、あのバイクだと最高速度は200はいくと思うが」
「ちなみにボクが出してた速度って…」
「…精々40だろう」
「……暫くは普通にツーリングかな」
少し冷や汗をかきながら言うユウキだが、振り返ってシグレを見る。
「その時はさ」
「?」
「…一緒にツーリング、してくれる?」
遠慮がちではなく、楽しそうにいうユウキ。
そんなユウキに。
「…分かった」
断るという選択肢はなかった。
それにユウキは楽しそうに。
「うん、約束だからね!」
そう、はっきりと約束を取り付けたのだった。
「そしたらさ、今度一緒にバイク見に行こうよ!」
「…買うのか?」
「うん!それで自分のホームに置いて、乗りたいときに乗って、ホームでも跨って気分だけでも…」
考えただけで楽しみ!と本当に楽しそうなユウキに引っ張られて、練習場を後にする。
「ね、バイク見に行こ!」
「……っ」
思い立ったかのように駆け出すユウキに引っ張られ、一瞬バランスを崩すシグレ。
急だなとは思いつつ、ここまで楽しそうだと、まぁいいか、と思わされるのだった。
…その後、SBCグロッケンや、フィールドを大型で颯爽と駆けるプレイヤーが話題になり、練習場の人が増えたりしたらしいが、それはまた別の話。
おまけ1:ゴールドライセンスの難易度
ユウキ「じゃーん!取っちゃった!」
シノン「へぇ…って、これゴールドじゃない。よく取れたわね……」
ユウキ「結構簡単に取れたよ?」
シノン「嘘おっしゃい。総督府で統計出てるわよ…それ持ってるの、全GGOプレイヤーの約2%よ?」
ユウキ「嘘!?」
シノン「本当よ。ただでさえかなり難易度高いのに、リアルマネーがかかってるとなると取る人なんて少ないもの…精々シルバーがいいとこよ」
ユウキ「そうなんだ…」
シノン「それに、GGOは銃のゲームだから、そっちにお金かける人が多いのよ」
ユウキ「へー…勿体ないなぁ。楽しいのに」
シノン「…まぁ、楽しんでるならいいんだけどね」
おまけ2:いいなぁ
キリト「よし、それじゃ行こうぜ」
アスナ「今日の目的地って確か…」
フィリア「…確か、転移した場所から結構遠かったと思うわよ。それもあってあんまり人の手が入ってないらしいから…まだ見ぬお宝ちゃんが…!」
ストレア「でも遠いのかぁ…弾薬とか大丈夫かな」
サチ「途中で倒されちゃったら、またここから…だもんね」
クライン「でも、行かなきゃ始まんねぇだろ?」
キリト「そりゃそうなんだが…」
ユウキ「まだ行かないの?」
キリト「これから行くところはちょっと距離があるから、色々と…な」
ユウキ「ふーん…それならボク達、先行って待ってるね!行こ、シグレさん!」(アイテムストレージからバイク出す)
シグレ「…どうする?」(アイテムストレージからバイク出す)
キリト「あ、あぁ…じゃあ先行っててくれ。後から追いかけるから」
ユウキ「また後でねー!」
クライン「…もう見えなくなったぞ。どんだけスピード出てんだあれ」
リーファ「ALOならあれくらいのスピード出せるのになぁ…」
クライン「まじかよ。つか…二人乗りとかできねぇの?」
ユイ「二人乗りには、ゴールドライセンスを取ったうえで、別のクエストをクリアして専用のライセンスを取らないとダメらしいですよ?」
アスナ「二人はそこまでは取ってないのね」
フィリア「少なくともユウキは移動手段というより、普通に走るのを楽しむタイプみたいだしね。シグレは…どうなんだろ。意外と走り屋?」
キリト「まぁ…俺たちも行こうぜ。二人を待ちぼうけさせるのも悪いしさ」
ストレア「そうだね。それに二人っきりにしたら…なんか危ない気がする」
シノン「あの辺りはモンスターも少ないけど……あっ」(察し)
おまけ3:シグレのライテク
シグレ「…?先に行かないのか?」
ユウキ「あ、うん…シグレさんに前に行ってもらいたいなって」
シグレ「…言っておくが、そっちのペースに合わせないで行くぞ?」
ユウキ「あ、うん。少しは慣れてきたし、今ならついていけるかなって」
シグレ「ならいいが…」
ユウキ「しゅっぱーつ!」
……数分後
ユウキ(速い、速いよシグレさぁん!←実際に喋る余裕がないため、心の叫び)
シグレ(←全く気づいていない)
……更に数分後
シグレ「……?」(後ろの気配がないことに気づき停車して振り返り、ユウキがいないことに気付く)
シグレ「…速すぎた……のか?」
……更に数分後
ユウキ「…はー、やっと追いついた。シグレさん速いよ…スピード速いし、合わせようとしたら急に思いっきり傾けて曲がるし…」
シグレ「……そっちが前行くか?」
ユウキ「うん…そうする」
おまけ4:挑戦してみた
クライン「くっそぉー…また落ちちまった」
エギル「…お疲れさん。つかこれで何回目だよ…」
クライン「10回目…」
エギル「ってことは、1日1回の制限があるから、少なくとも10日か…よくやるよなお前も」
クライン「うるせぇ。俺はライセンス取って可愛い子後ろに乗っけてツーリングするんだい!」
エギル「ま、頑張れや…つかシグレとユウキは、その試験に一発で受かったんだろ?」
クライン「やってみて分かった。あいつらすげぇ」
キリト「俺はブロンズライセンスとったけど、普通に走るならこれで十分だぞ?」
エギル「悪いことは言わないから…ランク落としとけ。それに、どうせ二人乗りする相手もいねえだろ」
クライン「ほっとけ!」
おまけ5:挑戦してみた、その2
エギル「おぉシノン。どうだった?」
シノン「…えぇ、なんとか合格したわ。ゴールド。さすがに先輩みたいに一発とはいかなかったけど…3回目でなんとか」
クライン「ごふっ」
シノン「…何?」
キリト「そっとしておいてやってくれ…それはそうと、よく受かったな」
シノン「先輩のおかげよ…色々教えてもらったから」
エギル「色々…ね」
シノン「えぇ、基本的なところから手取り足取り…幸せな時間だったわ(頬染め」
クライン「がはっ」
シノン「…だから何なのよ」(汚物を見る目)
キリト「まぁまぁ……」
エギル「で…どうするんだ?二人乗りのライセンスとるとか言ってたろ?」
シノン「えぇ。二人乗りのライセンス自体はそこまで難しくないらしいし…挑戦するつもり」
キリト「誰乗せる…って、聞くまでもないか」
シノン「…本当は私が後ろがよかったけど、先輩に抱きしめてもらいながらっていうのもありかなって」(頬染め+トリップ)
エギル「乗せる相手はシグレ限定か」
シノン「えぇ…でも実際やったらどきどきして、運転どころじゃないかも」
エギル「…事故るなよ?」
シノン「分かってるわよ。そんなことになったら先輩にも迷惑かかっちゃうじゃない」
クライン「…」
キリト「おーい、クライン?…返事がない。ただの屍のようだ」