ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~ Extra Stories.   作:アルタナ

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For the past
狂わされた人生は、非凡なる過去と共に - I


…正直なところ、この家が、嫌いだった。

 

 

「……っ!」

 

 

もう何度目かの、竹刀の素振り。

回数は、もうよく覚えていない。

3桁に入ったあたりで、数える余裕がなくなった。

 

 

「…」

 

 

そんな様子を、父は腕を組んで立ち、じっと見てくる。

もちろん、ただ見ているだけではない。

だが、そちらを気にする余裕などない。

何故なら。

 

 

「あぐっ!?」

 

 

素振りをしていた竹刀が弾かれ、手から離れる。

その衝撃と、溜まった疲れでその場に倒れこんでしまう。

 

 

「…157回目から、姿勢が乱れすぎだ。150からやり直し。回数は50追加だ。続けなさい」

「ぅ…っ……」

 

 

息を整えることすら許されず、竹刀を手に立ち上がる。

 

 

「…やぁっ!」

 

 

気合を入れようとしたのか、自棄だったのか、声を張って素振りを続ける。

しかし。

 

 

「あぐっ!」

「…余計な声は出すな。それでは自分はここにいるから殺せと周りに伝えているようなものだと、教えたはずだ。やり直し」

「は、ぃ…っ」

 

 

腹に竹刀の一撃を叩き込まれ、息を詰まらせながら素振りを続けた。

只管に続く、終わりすら見えない素振り。

それを始めたのは、いつ頃だっただろうか。

何歳で初めて竹刀を、剣を握ったかなんて、覚えていない。

 

 

 

…それから、何時間経っただろうか。

 

 

「…そこまで。今日はここまでにする」

「……ありがと、う…ございました…」

「明日は、相手をつける。ゆっくり休みなさい」

 

 

息も絶え絶えな感謝に、父は何を思うか、あるいは何も思わずか。

道場を出ていく父の背を、薄れゆく意識と共に見ていた。

華月時雨、年齢、5歳の時の思い出。

 

 

 

~狂わされた人生は、非凡なる過去と共に~

 

 

 

翌日。

 

 

「あぐっ!?」

 

 

今日は、素振りではなく、相手がいる稽古だった。

同年代ではない、年が一回りは離れていそうな大人の人だった。

相手が手練れているせいか、まともに太刀打ちできなかった。

簡単に倒されてしまい、その場に竹刀を落としてしまう。

 

 

「うぁっ!?」

 

 

しかし、相手の攻撃は止まない。

 

 

「…膝をついても、相手が攻撃を止める理由はない。やらなければやられるだけだ」

「っ…」

 

 

父の言葉に、何とか立ち上がろうとする。

防具をつけてはいたが、痛くないわけではない。

痛みに耐えながら、何とか竹刀を拾い。

 

 

「っ…!」

 

 

なんとか、攻撃を竹刀で受け止める。

声を出すと叱られることを分かっていたからか、声は出さない。

竹刀で受け止めながら、必死に相手を見る。

 

 

「……」

 

 

父は何も口出しをしない。

ただ、じっとこちらを見ているだけだった。

すぐに意識を相手に戻す。

防具のせいで体が重いが、それでも動けないほどではない。

 

 

「……」

 

 

相手が竹刀を振り下ろす瞬間を見て軌道を読み、横に体をずらす。

体の脇を振り下ろされた竹刀が抜けていく。

それを見届け、竹刀を振り上げ、勢いよく振り下ろす。

振り下ろされた竹刀は、身長差があったため、胴に攻撃が当たる。

 

 

「…止め!」

 

 

父の一喝するような声。

その声を聞いてか、相手が時雨に向かって一礼をする。

時雨もまたそれに倣い、一礼を返す。

 

 

「……?」

 

 

見れば、相手は震えていた。

時雨には、分からなかった。

ただ、練習試合を終えただけ。

疲れて息を切らすなら分かる。

しかし、そうではなく、何かに、怯えているような。

そんな彼に、父が近づき。

 

 

「…7分31秒。私は始める前に言ったな。10分持ち堪えられなければ…」

「ま、待ってください。少し…油断しただけなのです!もう一度、もう一度機会を…!」

 

 

冷酷に、携えた刀を抜きながら構える父と、必死に訴える、先ほどまで打ち合った相手の人。

混乱をする時雨に、父はただ一言。

 

 

「……時雨、よく見ておきなさい。次からはお前にもやらせる」

「ひっ!」

 

 

父の鋭い眼光に、相手の人は悲鳴に似た声を上げる。

しかし、それ以上の言葉を発することすら許さず。

 

 

「が、ああぁぁぁっ!!!!!」

 

 

父は容赦なく、刀を袈裟型に振り下ろす。

木造の道場を、吹き出す鮮血が、紅く、染めていく。

よろける相手の胸元に、父は容赦なく刀を突きさす。

突き刺した刀は根元まで相手の体を深く突き刺していた。

背中からは刀の先が出ているであろうことは容易に想像できてしまった。

やがて刀が引き抜かれ、力なく床に沈み込んだ、先ほどまで打ち合っていたはずの相手の顔は絶望に染まり。

 

 

「っ…!」

 

 

目からは涙が溢れ、口元からは舌が力なくはみ出していた。

背中から噴水のように噴き出す血が、彼の道着を紅に染めていく。

先ほどまで打ち合っていた相手の、変わり果てた姿に。

 

 

「…うっ…あ、あぁっ!」

 

 

時雨はその場に蹲り、嘔吐する。

喉の奥、あるいはさらに奥から何かが込み上げてくるような、嫌な感覚だった。

 

 

「……武器を持つということは、相手か自分がこうなるということだ。よく覚えておきなさい」

 

 

父は短く言い、片付けをするように指示を出しながら去っていった。

明日は、自分がこれをやらされる。

そのことに対する、恐怖、嫌悪。

そんな負の感情が、時雨をさらに追い詰める。

 

 

 

…その翌日、時雨は、初めて人を殺した。

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