最低最悪の魔王が征くのわゆ世界   作:バロックス(駄犬

12 / 29
一万文字超えるけどまだ読みやすいはず…。


12.涙のcall

 高嶋友奈は傷だらけの身体に鞭を打って走っていた。

 樹海の地面に叩きつけられた打撲痕、顔に被さった泥を拭う事も無ければ、負傷個所を治療しようとも思わず。

 

 

「ぐんちゃん、ぐんちゃん!」

 

 

 走って。走って。息が続く限り走って。

 友奈は大切な友人、郡千景を探していた。

 

 

 ゲーム病の隔離病棟から抜け出したと聞いて、すぐに探したかったが直後戦闘が始まってしまった。

 バグスターたちが強化されてきたこともあり、対処に時間がかかってしまっため、既に四国の空は夕焼けに染まりつつある。

 

 

 時間を掛ければ時間を掛ける程、ゲーム病は進行する。 

 そして、その病が行き着くのは存在が消滅することによる『死』。

 

 

 ゲーム病患者の葬式は普通の葬式とは異なることを聞いた。

 肉体が消滅するゲーム病は遺体が残らないため、写真のみが飾られるという。

 

 

 

 死んだ千景の遺体のない棺桶を前に花を添える、空虚な葬式のイメージが友奈の脳裏を過った。

 

 

 

 嫌だ。嫌だ。と、友奈は歯を食い縛って走る速度を上げる。

 今は一秒でも早く、千景の元に辿り着からなければならない、その一心だ。

 

 

 途中、何度も転んで足を擦りむいた。

 周りが『大丈夫?』と声を掛けたが、友奈は答えもせずにすぐに起き上がって走り出した。

 

 

 友奈は千景に言いたかった。ごめん、と。

 千景が行動を起こすまでに心が追い込まれていたことに気付けずにいた。

 もっと傍に居てあげればよかった。

 辛い時に隣に居れば、こうなることを防げたかもしれない。

 

 

「私……、友達失格だ……!」

 

 

 もしこれで千景が消えてしまったら、自分は一生後悔してしまう。

 彼女を守ると言ったのに。

 約束してたのに。

 

 

 友達が喧嘩したり、いなくなったりしたりする。

 球子や杏が重傷を負った時の気持ちが再来した。

 

 

 身近な人が死の危険に晒され、そして暗くなる雰囲気。

 心に重しを乗っけられたかのように苦しくなった。

 あんな想いはもうしたくないし、誰にもさせたくない。

 

 

 だから友奈は走って、走り続けて……。

 

 ゲームセンターで大勢の人々に囲まれている郡千景の姿を見つけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、高嶋さん……どうしたの?」

 

 

 ダンスゲームの筐体から降りた千景が友奈を見やる。

 息を荒くしている友奈と対照的で焦燥感にも駆られていない、余裕のある表情だ。

 

 

「ぐんちゃん、どこ行ってたの!?帰ろう!!」

 

 自分の状況を掴めていないような仕草に友奈が言う。

 だが、すぐに違和感を感じた。

 千景は少なくとも、自分がゲーム病に感染している事を知っている筈だ。

 

 そして、その影響で戦えなくなりいつものような笑顔が無くなったのを友奈は覚えている。

 だが目の前の千景はどうだろう。

 その顔には自分が病気な事など、さしてどうでも良いというほどに吹っ切れたように見える。

 

 

 

 まるで別人のようだった。

 千景の姿をしているのに、千景本人ではない気がした。

 友奈は難しく物事を考えるのは得意ではない。

 故に、いつも直感的な動物的感性で行動する。

 

 

「あなた……誰?ぐんちゃんじゃ、ない……」

 

「へぇ……〝分かるんだ〟。アナタ」

 

 

 腰に手を当てて、千景が薄く笑う。

 友奈の直感は正しかった。彼女は千景であって、千景本人ではない。

 では、この千景のようで千景ではない少女の正体は?その問い掛けを行う前に答えが返ってくる。

 

 

「仕草も、顔も声も、全て同じなのに見破られたのは初めて……。

 安心しなさい、アナタの大切な友人はここよ、こ・こ」

 

 

 自らを指さす少女の意図を理解できない友奈が首を傾げる。

 

 頭弱い子ね、と呟くとスカートのポケットから何やら機械を取り出した。

 

 

≪GACCHAN……≫

 

 

 ゲーム機のA、Bボタンが左右にある機器を右腕に嵌める。

 重低音を響かせた音声が鳴ると少女は、

 

 

「ちょっと、場所を変えましょうか」

 

≪STAGE SELECT≫

 

 

 Aのボタンを押した瞬間、少女と友奈以外の景色が変貌する。

 一秒にも満たない間にゲームセンターに居たはずが、今は誰もいない公園の広場へと移っていた。

 

 

「急に場所が変わった……?なんで……」

 

「ゲームをするなら、それ相応に相応しいエリアが必要でしょ?あそこ、邪魔が多すぎるもの」

 

 

 視線を少女に戻すと、そこに居たのは千景ではなかった。

 千景らしき人物が立っていた場所には『人の姿をした異形』がいる。

 

 

 灰色の身体、細い足と腰回りとボディラインからして恐らく女性。

 両手首には元々嵌められていた鉄製の板を無理やりへし折ったかのような手枷。。

 神官のような帽子を目深く被っているためその瞳は確認できない。

 艶舐めかしく光る唇が妙に不気味。右手に持つその身体よりも大きな鎌が目を惹いた。

 

 

 魔法使い、祭祀の如き姿を思わせるが禍々しいその配色からは邪悪なる神官、『邪神官』という方がしっくりくる。

 

 

「バグ、スター……」

 

「ええ、私はバグスター。この身体の主、郡千景から生まれた者でありバーテックスとしての力を宿す者」

 

 

 B・千景、そのもとになったバグスターウィルスをこの世界に作り出したのは天の神である。

 本来ならただ一つの個体として存在するバグスターに天の神は混ぜ合わせるように、その少女に一つの星の名を与えていた。それは『双子座(ジェミニ)』。

 

 

 

 

 友奈たちが一度は樹海で相手にしているバーテックスだが、あまりにも当時の姿とかけ離れた姿の為に気付くことが出来ない。

 『バグスター』と『バーテックス・ジェミニ』の雑種(ハイブリッド)

 

 

 『ジェミニ・バグスター』と呼んだ方が正しいか。

 

 

「ゲームって……あなたはこの状況をゲームのように楽しんでるの!?」

 

「そうね」

 

「いっぱい苦しんで、辛い思いをしてる人がいっぱいるのに!?」

 

「ええ、だって私達バグスターにとって人間は、ゲームの攻略対象なんですもの」

 

 

 高嶋友奈は憤りを感じていた。

 四国の人が、知人や友人がゲーム病で苦しんでいるこの状況をバグスターはゲームと称した。

 

 バグスターにはゲームの数だけ色々な種類がいる。

 それぞれが意志を持っているために彼らが抱く価値観というのはその数存在する。

 彼女の……、ジェミニバグスターが持つ人間への価値観はゲームの攻略対象というものだ。

 

 

「遠い昔……いいえ、ここではない別の世界で生まれていた私達(バグスター)の存在理由はコレ。

 人類を滅亡させ、私達バグスターがこの世界の新たな人類として君臨する……。

 

 言うなれば、これは人類とバグスターの生存を賭けた最高のサバイバルゲーム!」

 

 

 かつて、常磐SOUGOの世界でもバグスターは人類に対して生存競争を仕掛けた。

 自分たちゲームキャラをプレイヤーによって倒されるだけの役割を与える人間が忌々しく仕方がなかったからだ。

 

 

「そんな勝手に……!」

 

 

「そう、『勝手に』。でもね、人間も『勝手』でしょう!

 

 私達のような敵キャラを作って、ただ殺して、クリアして、終わったゲームは倉庫に仕舞うかネットで売り飛ばされる。

 酷い奴なんて、嫌いな内容だったからってネットで酷評つけてディスクを割ったり、カラス避けとして外に吊るす奴もいる!

 この女(郡千景)も一緒!望まれなかった命、望まれなかった存在、利用するだけ利用され、最後は捨てられるのよ!

 私達、ゲームキャラみたいにね!」

 

 

 ジェミニバグスターはネット世界に入り込んではこの世界の人間の生態系をモニターしていた。

 人間達の手によってゲームが、ゲームキャラたちが雑に扱われる光景に果てしない怒りを覚えた。

 

 

 この世界のゲームには元々バグスターはいない。ただ人々の娯楽としてゲームが存在するだけだ。

 だが、クリエイターたちによって生み出された彼ら(ゲームキャラ)は確かに望まれて生み出された存在だった筈。

 

 それがプレイヤーのさじ加減で存在を否定される。

 

 作られた意味も。

 生まれてきた意味も。

 生きている意味も否定するような人間たちの暴挙を見過すことなど出来なかった。

 

 

 バグスター(彼ら)は、人間によって不当に虐げられてきたゲームとゲームキャラ達の代弁者なのだ。

 

 

「私が人類を攻略する」

 

 

「だからって……だからって!人を傷つけていい理由にはならない!」

 

 

 友奈が端末を使って変身する。

 眩い光と共に衣服が変化し、桜色を思わせる勇者装束を身に纏うと一目散にジェミニ目掛けて飛び上がった。 

 

 

「ぐんちゃんを返して!」

 

 

 友奈の拳が放たれる。

 大岩も砕く様な一撃が真上からジェミニに振り下ろされた。

 ゴッ、という破砕音とともに地面が抉れるがそこにジェミニはいない。

 

 

「ハッ……なかなかやるじゃない!」

 

 

 ひらり、と跳んで躱したジェミニは友奈の拳が作り出した地面のクレーターを見て、その威力を悟る。

 まともに食らえば、無事では済まないだろう、と。

 

 

「あなたの言う通り、世の中にはいろんな人がいるよ!

 人を大切にしない人!モノを大切にしない人!

 一番見勝手で、平気で人を蹴落としたりするような心を人間は持ってるかもしれない!」

 

「ぐっ……」

 

 

 高嶋友奈の拳が、追撃がある。

 飛び跳ねた先、着地するジェミニに繰り出される右ストレート。 

 打撃能力に優れる友奈のパンチがジェミニのガードするために交差した両腕と激突する。

 メリッ、と装甲が凹むような音と共に吹き飛ばされるジェミニ。

 

 

「でも、でも!

 やり直そうと、良くしようとするのが人間なんだ!

 私達人間は、失敗しながらも前に進んでいく!例え何度も過ちを繰り返すことになっても!

 最後には皆が笑って手を繋いでられるんだって!私は信じてるから!」

 

 

「理想論だッ そんなものッッ」

 

 

 吐き捨てるように叫んだジェミニは続く友奈の拳を真正面から受けて立った。

 友奈のパンチがジェミニの灰色の胸部装甲にモロにぶち当たる。

 

 

 しかし、直後奏でられる()()()

 

 

「な……ッ!?」

 

 

 己の全力の拳を直撃させた友奈が違和感を口に出す。

 確かに当たっている。目の前のジェミニは間違いなく実体。

 自分のたたき出した拳がこれまで数々のバーテックスを打倒してきたという自信が今まで友奈にはあったが、それが見事に崩さった。

 

 

 ジェミニがノックバックすることも無ければ、無傷であったという事実に。

 その姿は、今までの灰色とは少し異なり、金属(メタル)の如き輝きを放っていた。

 

 

≪鋼鉄化!!≫

 

 

「フフ……あぶないあぶない……ハァッ!!」

 

「あっ!?」

 

 

 気取られた友奈をジェミニが裏拳で弾き飛ばした。

 咄嗟に腕でガードするも、まるで重金属の如き硬さと重さの質量を持った威力に顔を苦痛で歪ませる。

 

 

 ジェミニバグスターが戦いの場として選んだこの場所は『ゲームエリア』と呼ばれる特殊な空間だ。

 

 その世界は現実とは異なり、『ゲームの要素を含んだアイテムや障害物』が混在している。

 そのアイテムの中には『エナジーアイテム』と呼ばれるものがある。

 これはゲームエリアのそこら中に転がっていて、使用したプレイヤーに様々な効果を与えるバフ、デバフアイテムだ、

 

 

 ジェミニが使用したのは『鋼鉄化』のエナジーアイテム。

 その効果は自身の防御力のアップだ。それが友奈の拳を受けてもものともしなかった理由だ。

 

 このエナジーアイテムはもちろん、バグスターのジェミニ以外にも友奈が拾って使用することも出来る。

 己の実力を試す為にアイテムを一切使用しない『縛りプレイ』をするも良し、アイテムを使って戦いを有利にする『トリッキープレイ』をするのもエグゼイドの世界ならではである。

 

 

 だがしかし、ジェミニバグスターは自分が圧倒的に有利な状況を作り出す力を持っていた。腕の装置を目の前に翳して、光を放出する。

 

 

「PERFECT PAZZLE……おいで」

 

「……こ、これって!?」

 

「このガシャコンバグバイザーはちょっと特別製でね、私があらかじめ用意していた完全体バグスターをストックし、好きな時に放出できる機能があるの。

 このゲームの名は『PERFECT PAZZLE』。 ゲームエリアのあらゆる物質を操るパズルゲームよ」

 

 

 

 腕に装備していた装置、ガシャコンバグバイザーからデータ化した粒子が形を成して現れたのは青の人型。

 ジェミニの掛け声に応えるかのようにPERFECT PUZZLEが手を翳すと、ゲームエリア内を転がっていたメダル……エナジーアイテムがジェミニの頭上に集まっていく。

 

 

 

 『PERFECT PUZZLE』。

 またの名を、パズルゲーマーLv50。

 

 その能力は、ゲームエリア内のエナジーアイテム全てを自由に管理する事が出来るというもの。

 パズルゲーマーが求めたならば、どんな遠くにあるエナジーアイテムも自身の手元に引き寄せることが出来る。

 

 赤、青、緑、黄色、紫、様々な色のエナジーアイテムがジェミニの頭上に展開される。

 パズルゲーマーが手を動かすのと連動して、エナジーアイテムが移動する。

 まるでソーシャルゲームのパズルゲームのように同じ色を連ならせ、位置を変え、同色を揃えていく。

 

 その中で選んだのは赤のメダル二枚と、白のメダル二枚と黄色のメダル。

 

 

≪マッスル化!≫、≪マッスル化!≫、≪鋼鉄化!≫、≪鋼鉄化!≫、≪高速化!≫

 

 

 攻撃力と防御力と素早さを底上げしたジェミニの身体が赤く、メタル色に輝く。

 

「勇者ァ!パァーンチッ!」

 

 

 何かマズイ予感がする。

 そう判断した友奈がジェミニが動き出す前に必殺パンチを繰り出す。

 しかし、それは遅かった。

 高速化による動作スピードによるバフを受けたジェミニは友奈の攻勢に瞬時に対応し、遅れていたタイミングを僅か0.5秒で修正する。

 

 

 友奈の放つ拳に合わせるように、ジェミニも拳を突き出す。

 衝突し、拮抗したのは少しの間、次に友奈の拳が押し負けた。

 純粋なパワー勝負では圧倒的にジェミニが上回り、その肉体を吹き飛ばしてエリアの障害物の壁に叩きつける。

 

 

 壁を半壊させた友奈は身を起こしながら、悲痛な叫びをあげた。

 

 

「ぐああああああっ!!!」

 

 

 拳に纏う手甲はひび割れ、その隙間から血が噴き出す。

 鋼鉄化により防御の底上げをされたジェミニの皮膚は頑強な鉄の塊と化した。

 ジェミニの拳の硬度に友奈の生身の拳が先に砕かれたのだ。

 

 

「いい鳴き声……たまらないわ」

 

『やめて!高嶋さんにそれ以上攻撃しないで!!』

 

 肉体の中で意識を封じ込められた本体の千景がジェミニの攻撃を止めさせようとする。

 しかし、彼女の身体の完全にジェミニの支配下にあった。

 制止する声など意味を為さず、ジェミニは攻撃を続行する。

 

 

 ジェミニバグスターは極端に戦闘能力が高いというバグスターではない。

 実際の肉弾戦になってしまえば、一目連や酒呑童子を宿した友奈には恐らく敵わないだろう。

 

 

 だが、それを戦闘能力の差を埋め合わせるのがパズルゲーマーのようなサポートキャラの存在である。

 本来なら、1枚のエナジーアイテムでも使用者側に破格のアドバンテージをもたらすのに、それを何枚でも、自由自在に手元に集めることが出来るパズルゲーマーの能力はまさに強キャラ以上に、チート能力と呼ぶに相応しい。

 

 

 味方のサポートによる『協力プレイ』がジェミニの戦闘能力を数倍に引き上げるのである。

 

 

 

 それはゲームに通じた者の戦い方であった。

 戦いにおいてゲームと言う要素を含んだゲームエリアでの戦いを熟知したバグスターにしかできない戦い方であった。

 

 その気になれば、パズルゲーマーが用意した攻撃バフのアイテムを何十枚も作成し、ジェミニに送ることで彼女は無限に攻撃バフを重ねることだって出来る。

 

 

 だが、ジェミニはそれを敢えてしない。

 苦痛に歪んだ表情で必死に抵抗するプレイヤーの姿が見たいから。

 

 

 すぐに終わってしまうゲームはつまらない。

 もっともっと、ゲームを楽しみたいから。

 

 

 バグスターであり、ゲーマーである彼女がもつ矜持であった。

 

 

 

 

「こ、来い……ッ 一目連ッッ!!!」

 

 

 泣き叫びたいはずの痛みをぐっとこらえた友奈が切り札を行使する。

 風の化身、『一目連』を身に宿し、姿を変えた友奈が暴風の如き拳の連打をジェミニに放った。

 

 

 その戦況の変化にジェミニの後方で待機するパズルゲーマーがエナジーアイテムを引き寄せ、ジェミニの身体へ放り込む。

 

 

 選択したのは緑色のメダル。

 

 

≪液状化!!≫

 

 

「身体が……溶けて…っ!?当たらない……っ!?」

 

「どんなに手数を増やしても無駄、無駄」

 

 

 エナジーアイテム、液状化によってその身体を文字通り液体へと変化させたジェミニの水の身体を友奈の100の拳が通過する。

 ぱしゃ、ぱしゃ、と高速で水を弾くような音とともにジェミニの肉体が削られるが削られてもダメージを負うことはない。

 液体化したジェミニの動きは目で追えないほどに素早かった。

 友奈の股下を潜り抜けた液体ジェミニは容易に背後を取る。

 気づいた友奈が振り向いたが、もともと前方で待機していたパズルゲーマーに背を向けたため、彼が行った動作に友奈は気付くことが出来なかった。

 

 

≪暗黒!≫

 

「え、あッ……あれ、み、見えないっ!!」

 

 

 紫のメダルをジェミニではなく、友奈目掛けて放り投げる。

 使用させた相手を暗闇状態にするアイテム。友奈の視界は一瞬にして真っ暗になった。

 

 その状態は視力と言うものを丸々奪われた、言わば「失明」という状態に近い。

 自分の姿も視認できない、周りが闇に覆われた世界で友奈の平衡感覚にすら影響を与え、足元がふらつく。

 

 

 そんな何も出来ないに等しい友奈をジェミニバグスターは容赦なく攻撃する。

 

「がっ……!」

 

 

 左側頭部にパンチを打ち込んだ。

 まともに回避運動もできない友奈はもろに受け、地面を転がる。

 

 

 起き上がっても、数秒後に別の方向からパンチを貰い、また転がる。

 足元を掬われ、地面に叩きつけられる友奈が攻撃を繰り出すも、拳は虚しく空を切り、代わりにジェミニからの攻撃を倍の数食らう。

 

 

「はぁ……はぁ…!ぐっ……ぁ…ぅ!!」

 

 

 相手の正確な位置もも分からぬまま攻撃を受け続けた友奈の身体はボロボロの状態だった。

 頭から血が流れ、勇者服は自分の血と地面の砂で汚れてしまっている。

 

 

『いや…っ! もうやめてッ!』

 

 

 大切な友達が痛ぶられる光景を、ジェミニの中から千景はずっと見せられていた。

 そんな友達を想う叫びすらも、友奈にもバグスターにも届かない。

 

 一方的なワンサイドゲーム。

 

 

「いいわ、終わらせてあげる」

 

 

 ジェミニがクスリと嗤うと、それに応えたパズルゲーマーがエナジーアイテムをセレクトする。

 

 

≪マッスル化!≫、≪マッスル化!≫、マッスル化!≫、≪マッスル化!≫、≪マッスル化!≫、≪マッスル化!≫、≪マッスル化!≫、≪マッスル化!≫≪マッスル化!≫、≪マッスル化!≫

 

 

 

 それはまさに終局、必殺の一手だった。

 攻撃力を上昇させる赤のメダル10枚がジェミニの身体に吸い込まれていく。

 マグマの如く真っ赤に発光するジェミニの攻撃力は一時的にも限界値に達した事だろう。

 

 そしてそれは、高嶋友奈の命を削りきる必殺の一撃となりえた。

 二枚の攻撃バフで勇者の拳が砕かれるレベルだ。それが10枚となれば、即死は免れない。

 

 

 ジェミニが正面から構える。構えていても、いまだにこちらの位置を把握できていない友奈に対して。

 

 狙うは頭。

 確実にジェミニは友奈の息の根を止める気であった。

 

 

(GAME OVERよ!)

 

 

 位置がばれないように声を殺しながら拳を突き出そうとする。

 最後の最後までジェミニバグスターは徹底する。

 そのモンスターを確実に仕留めるための狩人が行う用意周到な備えと似ていた。

 

 

 大きなテイクバック。

 狙いを定め、上段から振り下ろすかのような乱雑で、確かに死をもたらす一撃。

 

 

 死ね。

 と、ジェミニが勝利を確信した時。

 

 

『高嶋さん!!』

 

「……!!」

 

 

 友奈が声を聴いた。

 直接聞いたわけでもない、でも友奈の頭に響いた声。

 それは友奈を想った、友人の声だった。

 その声が、友奈を導いた。

 

 

 友奈の見えていない筈の瞳が確かに正面のジェミニを映していた。

 

 

(なッ……この子、目が見えてないはず!?)

 

 

「勇者ァ!!」

 

「くッ……!!」

 

 

 友奈が腕を引き、脇を締める。

 血にまみれた拳を握り、硬め、己を導いた声のままにそれを突き出した。

 

 

「パァァアンチッッッ!!!」

 

「ラァッッ!!!」

 

 

 拳は衝突することなく、交差した。

 友奈の伸びた拳が()()()()()()()()()、ジェミニの拳が数瞬遅れて友奈の顔に直撃する。

 

 

 それはまさしく、クロスカウンターの形。

 予期せぬ攻撃を食らったジェミニと、食らうべくして食らった友奈の身体が凄まじい速さで飛んでいく。

 物理法則を無視して、直線に、エリアの端まで飛び、壁を半壊させるほどの衝突を経てようやく止まった。

 

 

 身体に乗った瓦礫を押しのけて立ち上がったのは、ジェミニバグスターだった。

 その身体はボロボロで、ダメージはあったが、それ以前に自分の完璧な戦略を前に抗い、決死の一撃を見舞う友奈の反撃がジェミニ対して動揺を与えていた。

 

 

「はぁ……はぁ…ッ!何なのよ……何なのよコイツッ!!」

 

 サポートキャラであるパズルゲーマーが消え、データがバグヴァイザーに吸い込まれていく。

 防御能力を底上げする鋼鉄化の能力を、直前に使用していたためか攻撃バフの赤色に混じってメタルの色が消えていった。

 

 友奈の最後の拳は明らかに今までジェミニが見てきた中でも最も威力のあるパンチだった。

 もしアレをまともに食らっていたら……一目連ではなく、酒呑童子のパンチだったら、きっと身体は持たなかっただろう。

 

 

 自らが一瞬でも『死の危険』に晒されたことで、ジェミニは思わず己の腕を抱いた。

 

 

 

「ぁ……ぅ……」

 

 

 壁にもたれ掛かれる形で、友奈の肉体は無事だった。

 ちゃんと五体満足で、息があった。重症ではあったが。

 

 

 先にジェミニに友奈の拳が届いたことで、後から受けたジェミニの攻撃が半減した。

 決死の友奈のカウンターが自身の命を繋いでいたのである。

 

 

 だが、もう抵抗どころか、指一本も動かせない状態だった。

 意識が朦朧とする中で、自分の近くまでジェミニバグスターが大鎌を構えて立っていることも気付けていない。

 

 

「今度こそ……死ねッ」

 

『待って!!』

 

 

 大鎌を振り下ろそうとするジェミニの動きを本体の千景が止めた。

 

 

『お願い、お願い……その人は殺さない、で……!!』

 

 

 縋るように、媚び諂う様に、千景はジェミニに懇願する。

 

 

『私はどうなってもいいから……。

 あなたに私の存在をあげるから……死を受け入れるから……。

 なんでもするから……。

 だから、どうか……その人だけは……』

 

 

 自分の命よりも、大切な友の命を守ろうとする。

 それは潜在的に宿っていた、郡千景の他者を想う優しい心だった。

 自分はどうなってもいいから、という自己犠牲によるものであった。

 

 

『お願い、します……』

 

「……いいわ」

 

 

 思考を巡らせて、ジェミニが友奈の首元に突き付けていた大鎌を仕舞う。

 

 

「私が勝ったことに変わりはないのだし、今は殺さないでいてあげる。

 どうせこの後、四国全土にゲーム病が広がって、弱体化した壁が壊れて、外のバーテックスが侵略してくるんだから。

 

 このゲーム自体、もうエンディングが見えたも同然よ」

 

 

 ふふ、とジェミニが鼻を鳴らして倒れている友奈を一瞥する。

 そして、何か思いついたのかジェミニの身体から千景の身体が飛び出した。

 

 

「え……っ、え?」

 

 

 意識があって、実体のある自分の肉体を確かめる千景。

 一時的ではあるものの、ジェミニの肉体から本体の千景の肉体が分離していた。

 

 

『最期になるんだし、お別れくらいさせてあげるわ。

 せいぜい悔いが残らないようにすることね……』

 

 それが情けなのか、温情なのか、気まぐれだったのか千景が推し量ることは出来ない。 

 

 

 ただ言われたとおりに、友奈の傍に身体を寄せた。

 ボロボロの顔に触れ、手に触れて、耳を口元に近づけて息遣いが僅かに聞こえたのを確認して、彼女が『生きている』事を確認する。

 

 

「ごめんね、高嶋さん。私、死んじゃうみたい……」

 

 

 砂にまみれた友奈の頭を胸元に寄せて、抱きしめる。

 そのまま、千景は別れの言葉を切り出した。

 

「楽しかったわ……高嶋さんと過ごした全ての時間が。

 この世界で高嶋さんと出会えなかったら、今の私は無かったから……

 私は、生まれてすぐにでも貴女に会いたかったな……そうすれば、私の人生ももっと楽しくなっただろうし」

 

 

 千景は涙を堪えながら、今までの自分の人生を思い出す。

 

 

 勇者となる前、両親から疎まれ、村の人々から蔑まされた日々を。

 大人も子供も周りに至る全てが千景の敵で、自分が生きてる意味なんて無いんだと、ずっと思っていた。

 

 生きてる価値なんて()()()()()()()

 存在している価値なんて無いと思っていた千景を否定してくれたのは友奈だった。

 

 

 千景は友奈に「あなたは無価値じゃない」と言葉にして言われたわけではない。

 

 

 『一緒に遊ぼう』と声を掛けてくれた。

 『あったかい手だね』と手を握ってくれた。

 『こわくないよ』と『必ず守るよ』と抱きしめてくれた。

 

 

 今まで普通に生きていて、幼い子供が本来なら一度は掛けて貰えるだろう温かい言葉を、されるだろう行為を、千景が生きてきて何一つ与えて貰えなかった事を友奈はたくさん与えてくれた。

 

 もちろん、友奈だけじゃない。

 いつも節介をかけるように付きまとう土居球子や、小説とゲームを貸し合った伊予島杏、正しさと勇ましさの象徴で、自分の目標である乃木若葉にも同じくらいに感謝している。

 

 

 千景の目に映る世界が変わる程に。 

 闇に覆われた世界に光が差し込んだように、人生が美しく感じた。

 友奈は、それらと一緒に過ごした仲間とその日々は、千景にとっての光だ。

 

 

「最後だから言うわ、高嶋さん……ありがとう、大好きよ……」

 

「ぐん、ちゃん……だ、め」

 

 

 蚊の鳴くような声で友奈が呟く。

 

 

「だめ、だよ……いか、ないで……や、だぁ……」

 

「……ごめんね、さよなら」

 

 

 「さよなら」と抱きしめていた千景の身体が離れ。

 「いかないで」と伸ばした友奈の手が空を切る。

 

 

 ジェミニバグスターが再び千景の身体へ入り込み、その姿がジェミニに変貌する。

 涙を流しながら前のめりに倒れ込み、()()()()()()()に手を伸ばす友奈を一瞥して、ジェミニは去っていく。

 

 

 

 ゲームエリアが解除される光景は樹海化が解ける現象と似ていた。

 景色がゆっくりと変貌し、現実世界に戻ってきた友奈は誰もいない路地の上で倒れていた。

 

 

 『さよなら』。

 

「ぐん、ちゃん……っ!!」

 

 

 そう告げた千景の顔は今にも泣きそうだったのに、笑っていたのを友奈は思い出す。

 無理をして笑っていたのが分かった。

 本当は怖いはずなのに、必死に恐怖を押し殺して、友奈を気遣っていたのが伝わった。

 

 

 助けなきゃ。

 

 そうして動きたいのに、友奈の身体は動かない。

 必死に身体を這うように動かす。

 すると僅かに、僅かずつだが身体は進んだ。しかし、思った通りに動かないのがもどかしい。

 

 

「だれ、か……」

 

 

 手を動かす。

 握りしめたスマホから震える手つきで操作させ、電話をかける。

 

 

 着信履歴に残っていた名前を確認しない電話の為、()()()()()()()友奈には分からなかった。

 自分の意識がもう消えかかっているからか、誰かに、伝えなければならない一心だった。

 

 

 数回のコール音の後、電話が繋がる。

 

 

『……』

 

 電話の相手は無言だった。

 だが、友奈は構わない、と続ける

 

 

「おね、がい……です、たすけ、て……ください…」

 

『……』

 

 

 相手は答えない。

 か細い声に成りながらも、友奈は願いを口にする。

 

 

 

「ぐん、ちゃんを……わたし、の大事な友達を、たすけて、よぉ……!!」

 

 

 その言葉を最後に、友奈は意識を手放した。

 それは誰に繋がったかも分からない涙のcall(電話)

 

 

 

 

 友奈は知らない。

 誰がその電話に出ていたのかを。

 彼女の願いに誰が立ち上がっていたのかを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バグスターは自身の肉体をデータ化させることで様々な電子機器の中に入り込むことが出来る。

 

 

 その力を生かして、長距離の移動が可能だ。

 電子機器、例えばインターネットのネットワークを通じて他の地域へ瞬時に移動することが出来る。

 彼らバグスターに掛かれば、四国を数十分の内に旅行する事など造作もない。

 

 

 ジェミニバグスターは友奈との戦闘後、()()()()()ネットワークによる瞬間移動を経て香川から離れた場所へと身を移していた。

 

 

 小さな旅。

 郡千景が向かう人生終着の旅。

 

 

 その道中、列車から窓を覗くように、千景はジェミニの身体を通して電子の世界の景色を眺めていた。

 

 

 『サイバースペース』、そう呼ばれるものがある。

 コンピューター、ネットワークの中で広がったデータ領域内に情報を流し、得たりする仮想的な空間の事である。

 簡単な話が電脳空間の事だ。

 

 

 バーチャルMMO、VR、その手のゲームに興味があった千景はネットの世界というものに憧れていた。

 そして今自分は、夢にまで見ていた電子世界と言う空間にいる。

 

 

 千景が抱いた感想は綺麗、だった。

 電子世界をネットで検索すると、だいたい引っかかるのが『青色か、それに近い色の景色』である。

 実際に千景が見た電子世界も青色であった。

 

 

 明るい青を基調とした世界を彩るように無数の線と、上と下も横もない四次元空間は一つの芸術にも例えられる。

 

 

 『アブストラクト』。

 抽象芸術の一つで、描く対象に関する説明的要素を排除して、線と面と色の配合で造形的に構成された世界に近かった。

 そして青色は『ブルーな気分になる』などの理由で、マイナスイメージを持たれがちだが、心理学において青色の性質は『後退色』、『寒冷色』の他に『沈静色』というものがある。

 

 

 雨の時に集中力があがる、とか。

 食欲がなくなる、とか。

 興奮が落ち着く、とか。

 時間がゆっくりになる、とか。

 睡眠が促進する、とか。

 

 意外とプラス面に働くことも多い。

 

 

 千景は、『これから死ぬ』という事実を突きつけられたはずなのに恐ろしく落ち着いていた。

 鎮静色である青の景色が千景の心に働きかけたのか定かではないが不思議と恐怖も、激しい動揺も無かった。

 

 

 もしかしたら目の前の無限に広がる電子の海にくらべたら、自分の存在価値など、死など、ちっぽけなものなんだなと感じたからかもしれない。

 

 絶望も無ければ希望なく、ただ諦めがそこにあった。

 

 

 

『着いたわよ』

 

 

 ジェミニが目的地に着いたのか、その声が聞こえると千景の身体が現実の世界へと飛び出していた。

 

 

 そこは町の、商店街の店の中だった。

 千景の背後には自分がそこから出てきたのだと思われる電気屋のパソコンがある。

 

 

 電気屋から外へと出た瞬間、夕焼けの光が目にあたり、思わず目元を覆った千景は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「ここ、は……」

 

 

 だが、そんなことはどうでもいいと思わんばかりに千景は周囲を見渡した。

 そして気づいた。

 この場所は、千景が見覚えのある場所だと。

 

 

『やっぱり人生の終末を飾るなら場所はもちろん、()()()()()()の方がいいわよね?』

 

 

 そこは千景がもっとも嫌いな場所だった。

 

 

 千景にとっては最も醜悪で。

 最も下劣な悪意の吹き溜まりのような場所。

 

 

 ジェミニバグスターが用意した千景の終末地点、それは郡千景が生まれた高知県、その村であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




友奈ちゃんが地面で倒れて泣いてるシーンは勇者の章のクリスマスシーンを思い出しながら作りました。
次回、ハイパーストレス回。



・ジェミニバグスター
身長;188cm 体重:88kg パンチ力;88t キック力:88t ジャンプ力:88m 走力:1.8秒(100m)
バーテックスジェミニとバグスターのハイブリッド。
オルフェノクのような灰色のボディと千景の大葉刈のように大きな鎌が特徴的。
戦闘能力は極めて高くはないが、ガシャコンバグバイザーに複数の完全体バグスターをストックしていて、自由に放出できる。
サポートするバグスターは皆彼女の命令に逆らえない、というよりは自身の母のように懐いている。ママー!
ストックしている完全体バグスターは『PERFECT PAZZLE』、『ドレミファビート』、『DANGEROUS ZONBI』。
双子座の名を与えられた彼女らしい、もう一つの特殊能力がある。


・パズルゲーマーLv50
身長:200.5cm 体重:110.5kg パンチ力:59.0t キック力:68.5t ジャンプ力:62.0m 走力:1.9秒(100m) 
『仮面イダーエグゼイド』に登場するゲーム、『PERFECT PUZZLE』がモチーフとなったバグスター。
見た目は仮面ライダーパラドクスlv50の姿に似た存在。ゲームエリアの障害物、エナジーアイテムを自由に動かすことが出来る。
劇中では使用者に強力なバフ、デバフ効果をもたらすエナジーアイテムを自由に手元に引き寄せる性能を見せつけた。

・エナジーアイテム
ゲーエリアに転がっている特殊アイテム。色のついているメダルの形をしていて、使用すると使用者に様々な効果を与える。
今作で登場するエナジーアイテムは全部で30枚。全部ちゃんと使われるかは分からない。
 
ちなみにマッスル化×10と鋼鉄化×10で酒呑童子パンチをぶっ壊せる設定。




 
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。