最低最悪の魔王が征くのわゆ世界   作:バロックス(駄犬

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後半、スタート


②

(駄目だよ……ぐんちゃん!)

 

 命を懸けた千景の決断を、高嶋友奈はただ眺めていることしか出来ない。

 

 

 既にジェミニの鎌は千景に向かって振り下れていた。

 その軌道は袈裟懸けに沿っていて心臓を目指している。

 生身の千景がその身に受ければ絶命は免れない。

 

 

(私、守れないの……?)

 

 

 友奈を無力感が襲う。

 大切な友達の危機に何も出来ず、あまつさえ、その少女に命を懸けて守られることしかできないという無力感に。

 

 

 守ると誓ったこの決意は今も友奈の中にある。

 しかし、身体は無情なことに一切動かない。

 

 

 友奈は自分の手が、酷く小さく、短く見えた。

 何物を破壊する為に、これ以上誰も悲しませない為に宿した酒呑童子の手が。

 

 それはそうだろう。

 酒呑童子(この手)は誰かを救うには、歪すぎた。

 きっと可愛らしいと思った花を摘むことも、誰かを抱きしめることも出来ない手。

 

 

 自分は、壊すことしか出来ないのか。

 そんな絶望が友奈の顔に濃く現れる。

 

 

(やだ……そんなのやだっ!!)

 

 

 それでも。

 自分が壊す力しか宿していなかったとしても、友奈はその手を伸ばし続ける。

 最後まで、決して諦めないのが友奈だ。

 

 

「がっ…ぁ……ああああああ!!!」

 

 

 時間の停止を受けた指が僅かに動いた。

 足が、腕が、身体が少しずつ動き始める。

 魔法による絶対支配を、友奈の想いが覆そうとしていた。

 

 

「あ……」

 

 

 

 だが、そ(・)れ(・)だ(・)け(・)だ(・)っ(・)た(・)。

 

 

 僅かに、少しだけしか、友奈の身体は動かなかった。

 千景を助けるために必要な距離を数センチだけ縮めただけであった。

 

 

 

『バカな―――――――』

 

 

 ジェミニが自分を滅ぼす刃を止めようとしていたが、既に手遅れだった。

 動き出した鎌は止まらない。C・Shadowは止まれない。

 

 

 友奈の身体から力が抜けていくのを感じる。

 心臓が止まり、息が止まり、その一瞬が長く感じる。

 

 

 走馬灯のように。

 自分が死ぬわけでもないのに、千景が死ぬことが自分の心の死と同義だからかなのか。

 

 

 

(このまま、止まっていて……ずっと……)

 

 

 

 

 そんな少女の願い虚しく、樹海に千景の彼岸花を思わせる真紅の鮮血が散ら――――無(・)か(・)っ(・)た(・)。

 樹海に響いたのは、血が飛び散る水音ではなく、確かに金属音であった。

 

●

 

 

 

 

 その場に居た誰もがこの光景を奇跡と言わずとして何というのだろうか。

 千景も、友奈も、ジェミニでさえも、大鎌を受け止めた存在に奇跡を感じていた。

 

 

「これは……刀……?」

 

 千景の目の前で鎌を受け止めているのは、一本の刀。

 か細い刀でありながら、質量で勝る鎌に押し負けることなく、その刀身は光を浴びて輝いている。

 

 それは日本神話において、須佐之男(スサノオ)が所持していた三種類の神器の一つ。

 この世とあの世を繋ぐ、生命を司る神の刀。

 

 

 刀の名を『生太刀』と言った。

 

 

「ああ……私の友を護る為にある一太刀だ」

 

 

 その刀の主である、桔梗を思わせる勇者装束を身に纏う少女……乃木若葉が凛とした声でそう呟いた。

 若葉が息を吐き、力を込めると生太刀が大鎌を押し返し、ジェミニごと弾き飛ばす。

 

 

「若葉ちゃん!」

 

「乃木さん!」

 

「友奈、千景、遅れてすまない……千景の元に早く辿り着きたかったが、如何せんバグスターが邪魔をしたものでな。

 義経の力をフルに使って押し通らせてもらった」

 

『馬鹿な……アナタの方角にはレベル80代のバグスターを500体は置いていたはず……その中を単身で突っ切って無事って……鉄でも食ってんのアナタ』

 

「鉄ではなく、うどんなら毎日食べている」

 

『そういう事を言ってんじゃないのよ!!』

 

 

 勇者服は赤く染まり、肌には生傷が絶えない。

 強化形態を維持できないほどにダメージを負ったのか、定かではないがその身体は既にボロボロだ。

 

 然程ダメージを負っていないように見えるのは単に若葉が頑丈すぎるだけなのだろう。

 それだけで片付けるにはあまりにも常軌を逸していることに、ジェミニは突っ込まずにいられなかった。

 

 

(乃木さん……やっぱりすごい……)

 

 

 生太刀を構える若葉の姿には戦闘の最中であるというのに常に余裕が見て取れた。

 その背中が、大きく見える。

 あの背中に、自分は憧れていたのだ。

 他者を引き上げる力と、その姿に千景は眩しさを感じた。敵わないな、と思うほどに。

 

 

「そうだ……千景」

 

「え……え?」

 

 

 その若葉が、生太刀を仕舞いジェミニに背を向けるとまっすぐ千景の方へ身体を向け、すたすたと歩み寄ってくる。

 両の手が千景の肩を力強く、がっしりと掴んでいた。

 

 

 いつになく真剣な表情で。

 若葉の瞳には千景の姿しか映っていない。

 熱い眼差しを向ける若葉に千景の胸が高鳴りを覚える。

 

 

 数秒程見つめ合い、若葉が口を開く。

 

 

「すまない……私には…私にはひなたがいるんだ……」

 

「は?」

 

「千景の事はもちろん好きだ!大好きだ!

 だが、私は人生で何よりもひなたの為にいつでもどこでも駆け付けると幼い頃から約束をしている!だから……すまない!」

 

「なんで私がいつの間に乃木さんに告白して、フラれてる立場になってるの?」

 

「違うのか?」

 

「いや、あれだって私のバグスターが勝手にやったことだし……」

 

「え゛っ゛」

 

 

 若葉は公園でのあのやり取りを未だに覚えていたのだろう。

 それがバグスターが主導で行われていた事とは露知らず。

 その事実を知った若葉の顔に明らかな動揺が見て取れた。

 

 

「そ、それじゃあ私の事が〝大好き〟とか〝憧れている〟というのも全てバグスターが私を騙す為に仕組んだ罠かッ おのれッ……おのれバグスターッ!!」

 

「それは……嘘じゃないんだけど……」

 

「え?なんだ千景?もう一回言ってくれ、聞き取れなかったんだが」

 

「この……ド天然ッ いいから前向きなさい、戦闘中でしょ!?」

 

「えぇ!?な、なんで怒られてるんだ私は!」

 

「うーん、今のは若葉ちゃんが悪いと思う」

 

「友奈まで!?」

 

 

 このスルースキルと鈍感さ。

 若葉本人に悪気はないのだが、如何せん、それらの天然故に起きる事象は全て千景のストレスを促進させるだろう。

 

 

 だが、ストレスを感じている筈なのに、千景の肉体はゲーム病による進行を確認できなかった。

 

 

「でも、来てくれたんだ……」

 

「当たり前だ……お前は私の仲間だ。見捨てるわけがないだろう」

 

 

 

 何故か。

 それは『若葉に会いたい』、と千景自身がそう願っていたから。

 正しさを宿し、真っすぐな少女。

 その背を、顔を見るだけで悔しいが希望が湧いてくるほど。

 嘘偽りない、とまではいかなくても彼女と、乃木若葉とこんなやり取りをするだけで千景は自分の日常に少しだけ戻れた気がしたのだ。

 

 

 若葉もまた、千景の人生に色を与えた少女の一人であった。

 

 

『フン、一人勇者が増えた所で……数の優劣は覆らないわ!!行きなさい、DANGEROUS ZOMBIE!』

 

 

 ジェミニの指示に、ゾンビゲーマーが瘴気の中から湧いてくる。その数100体。

 死も恐れぬ、死ぬこともない不死身の軍団とバグスター達が若葉たちを囲んだ。

 

 

「確かに、数ではバグスターであるお前たちが勝るだろう」

 

 

 その劣悪な状況でも、若葉は毅然としていて、且つ笑みを浮かべていた。

 

 

「だが、私達にも仲間がいる!

 守るべき友が!

 助け合える存在が!

 

 私達勇者は、一人で戦っているのではない!

 力を合わせ、喜びと悲しみを共に分かち合うからこそ、どんな苦境を乗り越えることが出来るのだ!」

 

 

 

 

 瞬間、樹海の大地を荒れ狂う炎(・)の(・)円(・)盤(・)が駆け抜けた。

 円盤の周りを炎が常に漂いながら高速で移動し、若葉たちを囲うゾンビゲーマーを焼き尽くしていく。

 

 

 その円盤は炎だけでなく、大地を凍(・)て(・)つ(・)か(・)せ(・)る(・)冷(・)気(・)を振り撒いていた。

 放たれた冷気は吹雪となって吹き荒れ、残りのゾンビゲーマー、バグスター達を氷の結晶の中に封じ込める。

 友奈を魔法で拘束していたアランブラが巻き添えを食らい、友奈が自由に動けるようになった。

 

「これって……もしかして!!」

 

 

 見覚えのあるその攻撃方法に友奈が気づいた。

 友奈だけでなく、その隣に居た千景も。

 100体以上居たはずのゾンビゲーマー達は燃やされ、凍らされ、その数を瞬く間に減らしていく。

 

 

 円盤の上には、勇者服を纏った二人の少女。

 

 

「はっはっはぁー!タマ達を差し置いて盛り上がろうとするなよ!」

 

「タマっち先輩、あまり無理して動かない方がいいよー!まだ退院できてないんだからぁ!」

 

 

 精霊・『輪入道』の炎を宿した土居球子が。

 精霊・『雪女郎』の冷気を宿した伊予島杏が。

 

 

 千景の窮地に黙っても居られず、先の戦いで負った傷が癒えていないのにも関わらず、無理を承知で駆けつけて来ていたのだ。

 

 

 

「土居さんに……伊予島さん……」

 

「おう!千景!泣きそうなツラしてンなぁ!?そこまでタマに会えて嬉しいか! そうかそうか! 

 タマが来たからにはもう大丈夫だ!旋刃盤Ver2でぶっ倒してやるぞ!

 安心してタ(・)マ(・)に(・)任(・)せ(・)タ(・)マ(・)え(・)!!」

 

「武器の修復も急造だから出力は期待ないけれど、あれくらいの敵なら私の雪女郎の力でもやれます!」

 

「杏、病み上がりのところで悪いが、指揮を頼む。

 やはり、作戦の立案は杏でないとしっくりこないからな」

 

「ふふ……病み上がりの指揮官、まるで竹中半兵衛になったみたい!なんだろう、凄くテンション上がる!……分かりました!」

 

 

 若葉の言葉に戦国時代の天才軍師の生い立ちを重ねた杏は一人気持ちを昂らせ、今の状況を分析し、即決で指示を出す。

 

 

「若葉さんは人型バグスターとの戦闘を続けてください!指揮系統を混乱させます!

 私とタマっち先輩でバグスターの軍団を処理します!精霊の性質上、私達が適しているので!

 友奈さんは千景さんの付近に迫るバグスターを倒してください!

 

 千景さんから出来る限り離れすぎず、守りながら、敵指揮官を軍団と分断して各個撃破します。

 皆さん、無(・)事(・)に(・)勇(・)者(・)五(・)人(・)全(・)員(・)で(・)元(・)の(・)世(・)界(・)に(・)帰(・)り(・)ま(・)し(・)ょ(・)う(・)!……ご武運を!」

 

 

 千景を除いた全員が「了解」と口にして、戦闘を開始した。

 一番戦闘力が突出した若葉が指揮官であるジェミニと相対し他のバグスターに指示が行き渡らないように距離を取らせ、樹海に発生した大量のバグスターとゾンビゲーマーの処理を精霊の能力で広範囲で攻撃できる球子と杏が行う。

 千景に迫ろうとするバグスターを友奈が応戦し、殴り飛ばしていく。

 

 

「私……ずっと気付いてなかったんだ……」

 

 

 友が戦う姿に心が温まるのを感じた千景はぽつりと呟いていた。

 

 

 そして、気づいたのだ。

 自分が一人ではなかったことを。

 いつの間にか、こんな頼もしい仲間が傍に居てくれたことを。

 

 

 共にうどんを食べ。

 温泉宿に泊り。

 バーテックスと戦ってきた。

 

 

 一年という短い期間ながらもその中身は濃密だ。

 何気ない日常の中で育まれてきた絆が、積み重ねてきた時間が今ここで実を結び、

 

 

 千景の窮地に、勇者四人が駆け付けるという奇跡を起こしたのだ。

 

 

(なら、私は……?こんなところで、いつまでも守られてるだけの存在でいいの?)

 

 

 この心優しき友たちが守ってくれることには感謝しかない。

 だけど、やはり自分は彼女たちと共に戦いたい。

 この気持ちは本物だ。

 穢れを溜め込んでいた時と今抱く気持ちは変わらない。

 

 

「私も……戦うんだ……!」

 

 

 違うのは、何の為に戦うのか。それだけである。

 

 

(神樹様……私に、もう一度、もう一度だけでいいんです。力をください……

 自分の名誉の為とか、自分が愛される為ではなく、私の大切な友達を護る為の力を……)

 

 

 千景は祈るように、自身の端末を握った。

 

 

 過去の千景が己の為に戦っていたのであれば。

 現在の千景は大切な仲間を護る為に戦う事を望んでいた。

  

 

 その想いが神樹に届いたのかは定かではないかが。

 千景が勇者の姿へと変わった。

 光を宿した、彼岸花のような色合いの深紅の姿に。

 

 

「千景!」

「千景ェ!」

「千景さん!」

「ぐんちゃん!」

 

 

 勇者としての力を取り戻した千景の姿に、勇者一同が声をあげた。

 いつもよりも自信に、決意に溢れた千景の顔はなんと頼もしい事だろうか。

 

 

『馬鹿な……こんな話(ストーリー)、私のゲームにはないッッ……どうして……どうしてッ』

 

 

「ジェミニバグスター……あなたは私が――――――攻略するッ!!」

 

 

 千景が大鎌を掲げた。

 毒々しく、しかし人を惑わす色香を漂わせる瘴気が千景の身体を包み、新たな姿へ変貌させる。

 赤を基調とした衣服は華々しく、髪が伸び、頭部から妖狐を思わせる耳、目元には赤の隈取が浮かび上がる。

 

 

 精霊・『玉藻前(たまものまえ)』。

 美しき美貌と博識さから、国全一の賢女とされる。

 

 

 その正体、日本三大妖怪の一角。

 九尾の狐、またの名は白面金毛九尾の狐(はくめんこんもうきゅうびのきつね)。

 中国では『妲己』となりて、王を誑かし、諸国を滅亡に追いやった大妖怪。

 

 

 しかし、愛情を求め運命に翻弄された憐れな女とも呼ばれる。

 強力な力故に、大社から使用を禁じられた精霊を千景はその身に宿していた。

 

 

「千景ッ これを使えッッ!!」

 

「乃木さん――――ッ!!」

 

「大社で開発された、ゲーム病に対抗する勇者の新しい力だ!

 人類の希望だ……お前に託す!!」

 

 

 若葉が投げられたアイテムは不思議な形をしていた。

 白を基調とした色合いに鍵(・)の(・)よ(・)う(・)な(・)形(・)をしたそれを千景は手にする。

 握り部分にはそのアイテムを起動するためのスイッチが付いていた。

 

 

 千景は知らない。

 そして、西暦の全人類はそのアイテムを知るはずがない。

 本来なら、この世界には存在しない筈のアイテム。

 

 

 それは『ライダーガシャット』と呼ばれる物。

 エグゼイド世界における仮面ライダーが変身する際に使用する必須アイテム。

 スイッチを押せば、高らかな電子音が鳴り響く。

 

 

 

 

【Doctor Mighty Action X(ドクターマイティアクションエックス)!!】

 

 

「私の運命は……私が変えるッッ!!!」

 

 

 それは様々な想いが集まって起きたも(・)う(・)一(・)つ(・)の(・)奇(・)跡(・)。

 

 医療が。

 大社が。

 勇者が。

 

 決して人類を諦めなかった者たちが作り上げた、対バグスターシステムを搭載した新たな勇者の力である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 片割れのジェミニがいる方角でゾンビゲーマーと戦闘を継続していたバールクスは樹海で一際伸びた光を見た。

 光の根元、そこには勇者として変身を果たした千景の姿がある。

 

 

『あの光……あの女が持っているのは……ガシャットか?』

 

 

 千景が淡い光を放つ姿と、その手に持つアイテムにバールクス変身者、常磐SOUGOが感じ取る違和感。

 ガシャット。

 仮面ライダーエグゼイドの世界にしか存在しないその変身アイテムがこ(・)の(・)世(・)界(・)にあることに。

 

 

 この世界に仮面ライダーの概念はない。

 イレギュラーなSOUGOを除き、勇者とバーテックス、そしてSOUGOの記憶をもとに天の神が作り出した怪人達。

 それだけだ。

 タイムマジーンも無ければ、ライドウォッチも生まれない筈だ。

 

 

 

 恐らく、大社が開発したそのアイテムは彼らからすれば勇者端末をアップデートするためだけのモノなのだろう。

 そのアップデートアイテムがた(・)ま(・)た(・)ま(・)、SOUGOの知るガシャットの形になっただけなのだ。

 

『本当に……?』

 

 

 偶然の産物なのか。

 SOUGOが思ったのは、この世界に起きつつある異変の事である。

 大社の記録によれば、これまでバーテックスだけの戦いだった四国防衛において怪人のような異形が現れることは無かったという。

 

 

 大きな変化が見受けられたのは一年前、諏訪からの定時連絡で奇妙な新型が多くいるという事が告げられてからだった。

 

 

 一年前……それは、SOUGOがこの世界に来た年の事である。

 そこから異変が始まったのだとすれば、考えられることはこういう事だろうか。

 

 

(俺の存在が……この世界に影響を与えているとでも言うのか)

 

 




次回、アゲていきましょう。このレース、乗らない手はない。
千景編、残り2話にて終了予定。
誤字脱字報告、ありがとうございます。見直しが足りませんねぇ。





まずい、平成が具現化する……。
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