最低最悪の魔王が征くのわゆ世界   作:バロックス(駄犬

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仮面ライダーアマゾンズ見てたら遅れました。
しれっと最新話投稿しておきますね。


17.諏訪daybreake ①

 幾つもの隆起した森の隆起した道を駆け抜けていく者がいた。

 重々しく、しかし力強く、地を蹴って宙を舞う地表の残骸からその者の尋常ではない脚力が窺える。

 

 

 身なりは人の形を、その全身は鎧で覆われていた。

 重厚な肩には黄金の装飾。

 腰にはベルトとドライバーを身に付け、顔には誰もが見れば「どうして?」と思うほどに目立つ『ライダー』という文字。

 右手に持つ光り輝く剣のような武器を眼前の目標へと振り下ろした。

 

 

 

『ウオォォォォッッ!!!』

 

 

 発せられる怒号は男の声。

 まるでナマスの如く両断された白の異形は死に際の叫びを上げることすらも許されず地に落ちて絶命する。

 

 

 だが、白き異形は一体ではない。

 鎧の男が切り伏せたその周りには十体は超えるだろう数が居たのだ。

 白き異形の口のような器官は大型の人間の歯を思わせる物でカチカチと打ち鳴らしている。

 目も無ければ鼻もなく、相手を捕食するという行為に特化したであろうソレは人の身体など、ましてや男の鎧ですらも容易く噛み砕いてしまうだろう。

 

 

 

 縦横を白の異形に固められ、まさに四面楚歌という状況。

 異形達は捕食する獲物をいかに噛み殺そうかと周囲を浮遊し、タイミングを計っていた。

 数に物を言わせれば、たかだか一人を葬る事など造作もない事を異形達は理解している。

 

 

 しかしだ。

 常人ならば否応なしに『死』連想させるこの状況で、男は仮面の下で口角を吊り上げて笑った。

 まるで獲物を見つけたのは貴様らではなく、自分なのだと言わんばかりに。

 

 

『アアアアアアッッ―――――リボルケインッッ!!!』

 

 

 右手の光剣を構え、男は嬉々として異形達へ向かっていく。

 まるで台風の目の中から自らの力で飛び出そうとするように力強い進行を以って。

 出鼻を挫かれた様に一拍を置いて異形達が襲い掛かるが視界を埋めてしまうほどの数を前にしても、男は怯むどころか増々獰猛な肉食獣のように攻め続ける。

 

 

 連続して振るわれる光剣が描く軌跡は芸術と思わせるかのように乱れることなく、地空に蔓延る異形を切り伏せていく。

 

 

 その男、仮面ライダーバールクス――――常磐SOUGOは復讐の為に戦っていた。

 己をこの世界に放逐し、この身に呪いを授けた天の神への怒りの炎を胸に抱きながら。

 

 

『天の神ッィィィ!!どこだァッ!!俺はここにいるぞッッ』

 

 

 人としての尊厳を踏みにじられ。

 歴史の管理者としての顔に泥を塗られ。

 あまつさえ、敗北した己の命を敢えて生かし、屈辱を与えられた。

 

 

 だから、常磐SOUGOはこの神を断じて許さないと決めた。

 だから、自分をあの時殺さなかったことを後悔させてやると決めた。

 だから、天の神の喉元にこの刃を突き立てるまでは死んでやるものかと決めた。

 

 

 絶神絶殺―――――その誓いの元に、彼は、常磐SOUGOは戦っている。

 朝が明けて、夜が暮れるまで。

 疲れを知らない狂戦士は光剣を振い続けていた。

 

 

 SOUGOは葬った数など元より数えてはいない。

 ただ彼の通った道が白の異形の屍に覆われているくらいには倒されている。

 疲れが見え始めていたのか、その足取りは重く、剣は構えるどころか地面を引き摺りながら歩みを進める姿は幽鬼の如くだった。

 

 

『ハァッ、ハァッ――――どう、した……こんなものかァ、天、の神ぃ――――ウグッ!!』

 

 

 戦闘が終わり、静けさを取り戻す頃は夜が明け掛けていた。

 SOUGOが自身の身体の異変に気付くのは直ぐであった。

 

 

 胸を中心に焼けるような痛みが走る。

 身体の内側に痛みが沈みこんで全身へと派生させるかのようだ。

 天の神がSOUGOに与えた呪いが、その身体を蝕んでいるのだ。

 SOUGOが戦えば戦うほど、生きれば生きるほど、その呪いは強まり続ける。

 その呪いが掛けられたものが辿り着く最後は、間違いなく『死』であろう。

 

 

 戦闘中は怒りとアドレナリンで痛みを感じないが、戦いを終えると激痛が走り、それは自分でも立っていられなくなるほどだ。

 両膝が落ち、次は身体が前のめりに倒れ、受け身もままならないまま大地に伏せる。

 まるで糸の切れた人形のように、身体は動かなくなった。

 

 

 変身が解除され、全身から力が抜けているSOUGOは粗い息をしながら呻く。

 

 

「ウゥ……俺は、まだ…戦え、る……死んで、やるものか……神を、天の神を…殺すまでは―――――」

 

 

 あまりの痛みに、意識が遠のく。

 さっきまで明瞭だった視界がぼやけ始める。

 こうして戦闘後に倒れるようになったのもごく最近の事だ。

 

 

 ここは異形が住まう敵地のど真ん中。

 SOUGOがここで眠っている間は完全に無防備で、下手をすれば異形に食い殺される可能性もある。

 だからこの数日なるべく寝ないようにして7日目の事、遂に限界が訪れたのか力尽きる。

 

 

「まだ、まだ―――」

 

 

 戦い足りない。

 敵を殺し足りない。

 そんな憤慨に満ちた言葉がいくらでも浮かんでくる。

 

 

 身体に宿る熱も、草から零れた朝露が頬に掛かっては温度を下げていく。それが少しばかり心地が良い。

 いよいよ意識を手放そうとしたその間際、朝日が顔に差し込もうとした時に常磐SOUGOの瞳にはうっすらと少女の姿を見た。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――ここは……?」

 

 

 次に目を覚ました時は同じく地面を這いつくばっている自分がいることだろう、常磐SOUGOはそう思っていた。

 だが、実際はどうだろう。

 SOUGOが意識を取り戻した時に感じたのは雨風を凌ぐ閉鎖的な空間と、己を包み、床に敷かれている布団一式の存在。

 布団は少しばかりカビ臭かったが、ちゃんとした布団で寝たのはいつぶりだろうか。

 

 

 畳や古臭い屏風、やけに広いスペース。

 誰かの家にしては大きすぎる、どこかの土地の公民館だろうか。

 

 

 少しばかり冷静に思考する。戦うだけであったSOUGOにまともな思考能力が戻ってきていた。 

 この場所は、一体どこで、今は何年何月何日なのか。

 敵は……天の神とその尖兵たちはどこにいるのか。

 

 

 そんな事を考えている内に、閉じられていた引き戸が静かに開かれた。

 

 

「あ、目を覚ましましたか」

 

 明るい声。

 しかし、トーンはやや落とし目でやんわりとした寝起きの相手を労るかのような声。

 中学生の制服に身を包んだ少女がSOUGOの前に現れた。

 

 手には水の入った桶と一枚の布。

 よく見れば、SOUGOの枕付近に同じような形の湿った布が落ちている。

 

 

「身体の方は大丈夫ですか。ここに運び込まれた時、凄い熱でうなされていましたから―――あぁ、動いちゃダメですって」

 

「俺は……どれくらい寝ていた?」

 

 

 SOUGOが身を無理に起こそうとしたのを目にした少女は桶を床に置く。

 少しばかり身体に痛みの走るSOUGOだがその痛みを堪え、少女に聞いた。

 

 

「3日は寝ていましたよ。今日の朝に漸く熱も下がって、今は昼の13時です」

 

「そうか……どうやら、世話になったな――――」

 

 

 3日も戦っていない。

 3日も敵を殺していない。

 その事実に気付かされて、内心で急かされるように身なりを整えた。

 この場所に留まる理由は特にない。 

 敵が待っている。

 天の神を引きずり下ろすためにSOUGOに残されている時間はあまり多くはないのだ。

 

 

 

「そぉい!」

 

「ごふっ!!」

 

 

 そんな身を起こそうとしたSOUGOの両肩を少女は真上から押さえつけると力の限り真下へ押し込んでSOUGOを布団に叩き伏せた。

 

 

「お、お前!何をする!?」

 

「そんな身体でどこに行こうとしてるんです?熱が下がってもあなたがケガ人なのは変わらないんですから。

 この諏訪は他の地域に比べると安全な場所ですので、大人しくここで寝ていてください」

 

「そんな暇はない。俺は戦わなければならない。

 俺に屈辱を与えし奴から……天の神を地に引き摺り下ろし、この手で打ち滅ぼすまでは!!」

 

「……何か大きな事情があるのは分かりましたけど。死んでしまったら、意味がないと思いませんか?」

 

「なに?」

 

「大きな目標とか、夢とかがあれば、大抵の人はそのために無茶は出来るかもしれませんけど、それで命を落としてしまったら自分で成そうとしていた事すらも成せなくなってしまいます。

本末転倒ってやつです」

 

 

 だから、

 

 

「無理しないでください。私があなたを守りますから」

 

 

 真っすぐに見つめてくる少女の瞳はとても力強いものであった。

 思わずSOUGOがその口を詰まらせてしまうほどに。

 

 

 直後、天井に設置された放送装置からサイレンが鳴った。

 火災を知らせるようなものではない、過去の大戦時に使われていた空襲のサイレンによく似ている。

 

 

「この音は――――まさか敵襲か?」

 

「ええ、今日で連続三日目。でも安心してください。この私、勇者・白鳥歌野が諏訪の人には指一本近づけさせませんから!」

 

 

 にかっ、と少女、白鳥歌野は笑みを浮かべて言った。

 太陽か、花に例えるならば向日葵のような底抜けな明るい顔が特徴的だった。

 

 

 

 それが、仮面ライダー・常磐SOUGOと勇者・白鳥歌野の最初の出会いであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか、あの女……本当に一人で倒すとはな……」

 

 

 

 戦いは三時間に及んだ。

 諏訪の結界を担う御柱の破壊を目論む白い異形、星屑を白鳥歌野はたった一人で迎え撃っていた。

 金糸梅を思わせる黄色の装束に身を包み、神の力を宿した特殊な鞭、『藤蔓』を武器として振るう歌野の前に星屑達は屍の山を築いていった。

 

 

「――――強いな」

 

 

 鞭というリーチの長い武器だったとしても、数の優劣は覆らない。

 歌野が相手にしたのはこの日で500体。これはSOUGOが一日で相手にする数と同等だが、それよりも目を見張るのは白鳥歌野の戦い方だ。

 

 

 諏訪を取り捲く結界の元、御柱は全部で三つ。

 この内の一つが敵に破壊されてしまえば、諏訪への侵入を阻んでいる結界は効力を失い、それを機に大量の星屑が諏訪地域へ雪崩れ込んでくる。

 当然、御柱を攻撃する勢力は一つではない。

 諏訪を囲むように全方位から攻撃を受けてしまうと御柱の防衛が間に合わない。

 

 

 単に攻める戦いよりも、守りながらの戦いが最も難しいのだ。

 だが、歌野はそれを可能にしていた。

 敵を撃破してからの次へ移る行動が早いのである。

 一体一体を早く倒すこともさながら、戦況を見極めて敵がどう攻め込んでくるのかが感覚で分かるかのようだ。

 だから散開している敵が別の御柱を攻撃しようとしている事を察知し、タイムロスを極限まで減らして防衛に当たることが出来ている。

 

 

 あれが勇者。

 天の神が人類を滅ぼす為の弊害となっている若き少女たち。 

 2年以上、人類どころかこの小さな諏訪の地域を落とせないのは当然だな、とSOUGOは思った。

 

 

 あれほど『守りたい』という意志が強い者が相手なのだから。

 

 

 白鳥歌野の鉄壁さはまさしく『金城』。

 砂上の楼閣ではない、本物の硬さと純度を秘めた強さだった。

 

 

 

「はぁ……はぁ…、おわ、り……っと」

 

 

 敵を殲滅しつくした歌野は膝に両手を充てて、肩で息をしている。

 当然だ、三時間以上も戦いの中で休まずに全力疾走だ。フルマラソンしながら、命のやり取りをしているようなものである。

 

 

「―――っ、いったぁ……っぅ……」

 

「う、うたのん!大丈夫!?」

 

「えへへ……油断しちゃった。でも、今回も、凌ぎ切ったわ……ノープログレム」

 

「うたのん!血!頭から血ィ!」

 

「ノーノーノー、こんなのかすり傷だって。失った血はホウレンソウとニラで補給するわ。

 さて、今日も四国との定時連絡しなくちゃね、あと畑の手入れもしなきゃ」

 

「もう休んでようたのん!」

 

 

 当然無傷、という訳にはいかず。

 不意を突かれて星屑の突進を食らったり、噛みつかれたりしているので歌野の身体には生傷が絶えない。

 

 その日は初めてSOUGOがバーテックスを前にして戦わなかった日になった。

 一人の巫女の少女の肩を借りながら歩きながらも、笑みを浮かべる歌野の顔がSOUGOにはやたらと違和感を覚えさせた。

 

 

 

 戦い、傷ついているのに、どうしてそんな笑みを浮かべることが出来るのか、理解できなかったからだ。

 

 

 

 

 

 

「俺と一緒に……戦って欲しいだと?」

 

「は、はい……」

 

 

 SOUGOが目覚めて次の日の朝。

 

 

 付き人である巫女・藤森水都が持ち掛けたのは勇者とSOUGOで共闘して、この諏訪を守ってほしいという提案だった。

 自信なさげな発言をする水都の隣にはそんな彼女を見守るように歌野が同伴している。

 

 

「この地の土地神様がうたのん……えっと、白鳥歌野に勇者の力を授けている神様が、あなたを迎え入れるように私に神託を下しました。

 あなたがこの世界では勇者と並ぶ、もしくはそれ以上の力を持つ、特別な存在だという事は分かっています」

 

 

「敵を倒す為に俺の力を利用するように……だろ?

 なるほど、お前らの勇者一人の力ではこの土地を守るのには力不足、この俺に援軍となって貰いたいということだな」

 

「……!なら――――」

 

「だが気に食わんな。俺も一度は神に利用された身だ。

 ここが異世界だとしても、ましてや貴様ら平成の人間たちを守る為にライダーの力を使うなど……」

 

 

 SOUGOは天の神によって蘇らせられてから神というものが嫌いになった。

 己の魂を勝手に呼び寄せ、復活させ、意志とは無関係に戦いの手駒にしようとした身勝手さに嫌気がさしていた。

 だから、この諏訪と言う土地で天の神の勢力に虐げられている者達が助けを求めていても、神々に良い様に利用されて気がしていたのだ。

 

 

 そしてSOUGOは平成をリセットしようとした男。

 彼にとって醜さの象徴である平成の世界を護るなど、考えられないことだ。

 

 

「お、おねがい、です……諏訪を、うたのんを―――もう、うたのんは限界で……っっ!!」

 

「ふん、涙を流して助けを請うなど弱者の証だ。

 そんな情に訴えたところで、お前らの運命は変わらない……もってこの土地もあと数か月が限度だ」

 

 

 SOUGOは客観的な意見を述べる。冷徹にだ。

 

 

 白鳥歌野は強い、しかし人間だ。

 今のような戦い方には限度がある。

 勇者がこの地に数人いるならまだ持つだろうが、勇者は歌野一人らしく、援軍も見込めないらしい。

 加えて敵の数は星の数ほど存在する。

 歌野の防衛力を星屑達が上回る日は近いだろう。

 その時がこの諏訪と言う地の最後の日になる。

 

 

「この私、白鳥歌野の前でそのビッグマウス……聞き捨てなりませんね」

 

 

 涙目にながらも必死にSOUGOに話しかけようとしている水都の後ろから歌野が乗り出してきた。

 

 

「それに、みーちゃんは決して弱くなんてないわ。私なんかよりもずーっと強いんですよ」

 

「ほう……」

 

「うたのん!?」

 

「私の友達を、あなたは弱いと言った。

 傷つけられたみーちゃんの名誉を取り戻すためにも、私はあなたに勝負を挑みます」

 

「フン、面白い。やってみるか?」

 

 

 スッ、と懐からジクウドライバーを取り出したSOUGOだったが歌野がそれを見て待ったをかける。

 

 

「変身はお互いにナシ。競うのはお互いの純粋なパワー、腕相撲!」

 

「本気か?お前も変身しないのか?」

 

「ええ、マジです。その代わり、私が勝ったらみーちゃんへの発言を撤回してもらいます。

 ついでに、この土地で私達と一緒に戦ってください」

 

「おいおい、ついでなのか。この土地を護る約束を取り付けることが一番重要な気がするんだが」

 

「ふふ、どうしたのかしら。よもや、女子中学生である私に大人のあなたは負けることを恐れているのでは?」

 

「馬鹿にするな女。むしろ俺はお前を気遣ったんだが?

 いいだろう、その無謀な挑戦を受けてやる。Quartzerの首領として二言はない」

 

「決まりね。みーちゃん、適当なテーブルをここに持ってきてもらってもいいかしら」

 

 

 意気揚々と水都へ指示するSOUGOに対して、SOUGOはこれはなんという茶番だと内心で呆れていた。 

 それはSOUGOと歌野の間にある絶対的な体格と力の差に勝利への確信を持っていたからだ。

 

 

 仮面ライダーとして変身する前ならば、変身者は誰しもが生身の人間である。

 岩を蹴り飛ばしたり、怪人を倒すことは不可能である。

 

 

 あのGOD、葛葉紘汰も、生身で敵の攻撃をスタイリッシュに躱す身体能力があっても怪人撃破までは至らない。そういうことだ。

 

 

 

 勇者も同じだと思ったのだ。

 力を使う前の、しかも年端もいかない女子中学生の力などたかが知れている。

 仮にもSOUGOは男で、大人だ。負ける理由が見つからないのである。

 

 

 例え天の神による呪いが身体を蝕んでいたとしても、SOUGOが弱体化していたとしても、彼の勝利は揺るがない。

 

 

 

「ちなみに、俺がこの勝負に勝った場合はどうなるんだ?」

 

「そうね、諏訪名物である蕎麦をごちそうさせるわ。私の奢りでね」

 

「いや別に要らないんだが……というか中高生が休み時間にやる賭けジャンケン感覚で楽しんでないか、お前」

 

 

 水都が用意した机を挟むように歌野とSOUGOが姿勢を取った。

 互いに肘を置き、右手を握り合う。歌野の手のひらは小さく豆が出来ており、ごつごつとした感触があった。

 武器を振るった事で生まれたものか、武人のような手だな、とSOUGOは思いながらも勝負に専念する。

 

 

「後悔するぞ……俺に戦いを挑んだことを。

 身体的な差が戦いにおいては絶対の有利であるという事を、お前がただの女であることを分からせてやる」

 

「あら、少しイヤらしく聞こえますね、最後」

 

 

 減らず口を。こんな無意味な戦いなど秒で終わらせてやろう。

 睨むような視線を撥ね飛ばすような、歌野の不敵な笑みを、SOUGOは更に睨み返して威圧する。

 決して煽られたからその気になっているのではないのだ。

 子供にこの程度で煽られたからと言って本気で相手をするのはせいぜい万丈龍我くらいだ。

 

 

 俺はいずれ神を殺す者。

 女子中学生と腕相撲して勝利するなど、赤子の手を捻るようなもの―――――、

 

 

 

「れ、れでぃ……ごー!!」

 

 

 水都の合図により戦いのゴングが鳴ったと思った矢先――――、机の上には一秒にも満たない間にSOUGOの右手の甲が叩きつけられていた。

 

 

「なん、だと……」

 

 

 SOUGOは知らなかったのである。

 神から勇者としての力を与えられていた時点で、少女たちは生身の肉体すらも大人と同等か、それ以上に強化されていることに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 約束は約束、だ。

 

 

 SOUGOは白鳥歌野との勝負に敗北した。

 当初の約束通りに、彼は歌野の要求を呑まざるを得なくなる。

 

 

 

 ここでたかが腕相撲で負けたからと言って律儀に約束を守る必要はSOUGOにはないのだが、この状況で逃げ出すのは一番やってはいけない悪手だ。

 それは歴史の管理者であるQuartzerの首領として、何より大人としてのプライドが許さなかった。

 

 

 一杯食わされたとしても勝負は勝負だ。

 なので、SOUGOはちゃんと交わしていた約束を守るのだがここで一つ問題が発生する。

 

 

 彼女の親友である藤森水都への謝罪を顔を引きつらせながらもしっかりと行ったSOUGOはなんとか男としても首領としての面子を立てれた事だろう。

 

 

 とても不本意だが、この世界に来て通算3度目ともなる敗北を受け入れた。

 巫女の少女にきちんと謝罪をする、これはまだ分かる。

 

 

 当初の目的通り、一緒に戦う事も分かる。

 SOUGOとしてもバーテックスがこの諏訪目指して進行してくる頻度が増えている事はより多くの敵を倒す機会に恵まれる。

 ならば、形だけでも共闘をするように見せてここに居座るのも分かる。

 

 

 一つだけ理解できないのは、なぜ自分がこの炎天下で土に向かって鍬を振り下ろさなければならないのか、という事だった。

 

「なぜだ。なぜ……Quartzerの首領であるこの俺がこんな所で畑を耕しているんだ……しかも、朝っぱらから」

 

 

 

 SOUGOは白鳥歌野と一緒に日が登り始めた頃から畑を耕していた。Quartzerの赤い外套と黒の革靴と言う酷く場違いな格好でだ。

 普段慣れない鍬を使っているSOUGOの隣では嬉々として鍬を振う歌野の姿がある。

 

 

 

「SOUGOさん、気持ちの良い朝ですね!どうです?畑を耕すところから始まる諏訪の一日は最高でしょう?」

 

「最高な訳あるかッ 最悪だッ! 朝一なのに暑いし、汗は掻くし革靴だから足は蒸れるし乾いた土だから鍬で抉れば土煙が舞って息苦しいッ

 なんだこれはッ 最悪詰め合わせのてんこ盛りだッ 答えろ、白鳥歌野ッ 俺は何故畑を耕しているッ!?」

 

「それはもちろん、収穫の為です。私と一緒に戦うという事になった以上、SOUGOさんは諏訪の人です。

 基本的にはここで(諏訪)の生活に慣れてもらいます。

 諏訪の人達は基本的に自活で生計を立てています。

 川にいって魚を獲ったり、こうやって土を耕して畑にして時期になったら野菜を収穫するんです」

 

 

「そんな事、貴様らだけでやってろッ くだらんッ 俺は抜けるからなッ」

 

 

 やってられるとか、と鍬を投げ捨てたSOUGOを歌野は微笑を浮かべる。

 

 

「あ、ちなみに言っておきますけど『他の場所で食べる』、っていう考えは捨てたほうがいいですよ。

 バーテックスが襲来してから、諏訪以外との交通と物資の流通は停止しているのでコンビニやスーパーは機能してませんし、

 店の中にあった食料や水は非常食と一緒に保管しているので。

 少ない配給と自活でやりくりしているこの土地では他者にご飯を作ってあげるとか、そういう余裕は無いと思いますので

 ちゃんと働かないと、ほぼご飯にはありつけないと思ってもらって構いませんよ♪」

 

 

「……物乞いなんぞ、誰がするか」

 

「ふふーん♪ まぁ初めてで色々と戸惑うかもしれませんがこの私、農業王を目指す白鳥歌野が畑のイロハをレクチャーしますので!

 SOUGOさんに立派なファーマースピリットを学んでもらいますから!」

 

「そんな魂など要らん。学ぶ必要はない。俺に必要な魂は敵を討つ憎しみの心、それだけで十分だ――――というか、農業王ってなんだ。

 いやいや、それにしても、だ」

 

 

 自分の食べる物は自分で耕し、獲らなければならないのか。

 自活の面倒くささにため息を漏らしたSOUGOは、仕方なしと言った顔で手放した鍬を拾い上げると『自分が生きるため』、と再度畑を耕し始める。 

 その後、自称農業王を目指す少女、白鳥歌野は何かとあればSOUGOを見ては農作業に対してのレクチャーを欠かさなかった。

 

 

 今SOUGOが慣れない鍬を使って畑を耕しているこの瞬間にも。

 

 

「SOUGOさん。鍬の振い方が変です。なんで棒の先端掴んでるんですか?

 木こりじゃないんですから、そんな力任せに振っちゃうとすぐに腕が疲れちゃいますよ?」

 

「剣しか振ったことがないんだよ俺はッ」

 

「ちゃんとコツがあるんですから。

 いいですか、鍬を使う時は姿勢と持ち方に気を付けるんです。

 中腰で、鍬の刃の近くを持って前かがみになる。

 それで鍬の刃の重さを使って、耕すんです――――こうやって」

 

「――――――」

 

 

 ザシュザシュ、という土を砕く音がサク、サクと変わった。

 

 歌野は軽やかな動きで畑を耕していく。

 不思議だった。

 歌野が振るう鍬から発せられる音は心地よい物だったのだ。

 余計な力を使わず、刃の重さだけで土を砕く、それが鍬の正しい使い方だ。

 

 

「はーい、SOUGOさんもレッツトライ!」

 

「む、むぅ……こう、か…?」

 

「うーん、だいぶ良くなりましたけどまだ動きがぎこちないですね。

もう少し膝を柔らかく曲げて、腕も力まずに、えーっと……」

 

「おい、こら。 俺の身体を勝手にべたべた触るな」

 

「それだけSOUGOさんに教え甲斐があるという事です。

 あ、もしかして、私のような美少女に触れられて緊張しちゃってるんですか?意外とキュートな所があるんですね」

 

「美、少女……どこだそれは。サゴーゾみたいなパワーを持った女しか俺の周りには見当たらないな。

 おまけに戦闘前に人目を気にせず急に服を脱ぎだすし」

 

「あ、あれはいつもの癖です!普段はみーちゃんと一緒に居るときにしか着替えていなかったんで!

 も、もういいでしょう! 忘れてください! メモリーの彼方に!」

 

 

 思い当たる節があったのか、歌野の顔に羞恥からの朱が浮かんでいた。

 SOUGOが目覚めた直後に発生した戦闘の際、歌野は勇者装束を自分で着替えていたのだが、それをいつもの流れでSOUGOが目の前にいるのも関わらず行ってしまったのだ。

 慌てて水都が止めなければ上半身を全て曝け出そうとしていただろう。 

 

 

 勇者と言うのは大変なものだ。

 あの戦い為の勇者の服はせいぜいダメージを軽減させる程度の物で、それ以外の肉体の強化は施されない。

 土地神から力を貰っているとはいえ、それだけでは心もとない。

 仮面ライダーの変身とはまるで違う。

 ライダーの変身は全ての能力を引き上げるのだ。

 筋力、瞬発力、速度、視力、そして特異な能力、敵を葬る必殺技など。

 あらゆる点で人間を超越した能力が身に就くのが仮面ライダーの変身である。

 

 

 正直、SOUGOも必殺技とウォッチによる性能と少しの剣技を駆使してやってきたので、それらが封じられた状態で天の神の勢力と戦うのはキツイものがあるだろう。

 にもかかわらず、ライダーよりも遥かに劣る勇者の力で二年の間、この地を守り続けた歌野の力は凄まじいものがあると感じたのだ。

 

 

 

 

「ほ、ホラ!気を取り直して農作業の続きしますよ!」

 

「分かった、分かったからいい加減に離れろっ!!」

 

「SOUGOさんの意見は求めません!」

 

 

 二人しかいない畑で行われるコントの如き光景を誰にも見られなかったことをSOUGOはこの時、幸運だと思ったことだろう。

 

 

 

 慌ただしくも、穏やかな時が流れていく。

 

 

 

 歌野の指導もあってか、数日の間でSOUGOの農作業の手際は驚く程に成長していた。

 連日、鍬を振って畑を耕していたからかSOUGOの手には無数のマメが出来ていたが。

 当然、SOUGOがそうなること(・・・・・・)を既に察知していたみたいで。

 

 

「あら、SOUGOさん。この作業に随分慣れてきたみたいですね。

 鍬を振るって畑を耕す姿がサマになってきていますよ」

 

「ふん。俺を誰だと思っている……こう見えても、俺はQuartzerの――――とある世界で王になろうとした男だ。これぐらい造作もない」

 

「あ、ここに包帯置いておくんで、手のマメが潰れたり、痛くなったりしたら使ってください。

 しかし、王様……なるほど、いずれ農業王になる私の道を阻む者になるかもしれないのね、SOUGOさんは」

 

「……前から思ってたんだが『農業王』ってなんだ」

 

「ふふ、聞きたいですか?」

 

 

 SOUGOのふとした疑問に歌野の目が輝いた。

 

 

「いや、いい―――――」

 

「農業王は農業界の王様です!あらゆる農業を総べる者ッ ファーマーキングッ!

 そして私は王様という枠すらもいずれ超越するッ

 農業王の次は農業大王、次は農業神!農業の道は奥が深いの!それはまさにエンドレス!」

 

「お前、本当に農業が好きなんだな。前世は農業の妖精かなんかだったんじゃないか?」

 

「ふふ、公務員の娘である私が農業に目覚めるのはもしかしたら前世から決まっていた事だったんです!

 これは運命!そう、英語で言うならディスティニー!」

 

 

 白鳥歌野は謙遜もしない、自信家だ。

 

 

「よくもまぁこんな場所で畑をやりながら耐えたもんだ。しかも二年も」

 

「えっへん! えっへん! 超えっへん!もっともーっと、スーパー私を褒めてもいいんですよ!」

 

 

 そして、目立ちたがり屋でもある。

 歌野は腰に手を当てて胸を張って言った。

 普通、自信家で目立ちやがりという二つの個性を持っている人間と言うのは端から見れば「うざい」の一言に尽きるのだが白鳥歌野からはそれらが一切感じられない。

 

 

「歌野ちゃーん、今日も畑仕事に精が出るねぇ」

 

「今日、清水さんチのおばちゃんが昼頃に冷えたスイカ、持ってきてくれっからさ、皆で食べような」

 

「あっちいけども、歌野ちゃんに負けず、俺達もがんばんぞー」

 

 

 それどころか、畑を通りかかった者や同じ畑の上で作業をしている人々からの信頼は厚かった。

 これまで二年もの間、たった一人で犠牲者を出すことなく諏訪を守り続けてきた白鳥歌野の実力の証明でもある。

 

 

 SOUGOは素直に、凄いと思った。

 普通、孤立無援で化け物に周りを囲まれているという状況に放り込まれたのならば、一般の人間達は正気を保っていられない筈なのに彼らの顔は明るく、前を向いている。

 

 

 『彼女が頑張っているから、俺達も負けずに頑張ろう』という強い気持ち彼らから感じる。

 白鳥歌野が戦い続けるその背中が人々を自然とそうさせている。

 

 

 己の身一つで多くの人々の心を動かし、導く――――『王』としての資質だとでもいうのか。

 自分ではなれなかった、なることが出来なかった『王』に近い少女、白鳥歌野を常磐SOUGOにはどう映ったか。

 

 

 心が少しだけざわついた。

 癪に障る、という訳でもなく、住民たちから慕われている様子を見せつけられた怒りを抱く事もなく。

 高揚感のようで、寂しくなるような。 

 心に去来するこの気持ちは―――――、 

 

 

 ただ一つだけ分かる事があった。

 それは住民たちに応えようとする歌野の姿はいつもキラキラしていて、眩しかったという事だ。

 それが、SOUGOが諏訪に留まり続けるようになった理由。

 

 

 

 

 

 

 日常が過ぎていくのであれば、必然と戦いにも見舞われる。

 その日の午後は唐突に襲来したバーテックス達との戦闘になった。

 

 

 

『ゼェ……ッ…ゼェ』

 

 

 3時間に及ぶ戦闘はバールクスが突き刺したリボルケインが最後の星屑を貫いた事で終わりを告げる。

 勇者と仮面ライダーで二倍の戦力になったのは良いものの、それに合わせたかのように攻め込んでくる敵の数が増えていた。

 負担は分散されたが、それでも負担の軽減は僅かな成果しか期待は出来ない。

 

 

 敵は次回、今回を上回る数で攻め込んでくる事だろう。

 倒しても倒してもキリがない。終わりの見えない戦いだ。

 

 

「SOUGOさーん!おっつっかっれさーん!」

 

「い゛っだっ!!? 生身の背中に勇者パワー乗せた張り手をくらわすなッ」

 

 

 変身を解除したSOUGOの背中を不意に歌野がブッ叩いてきた。

 外套越しであっても、加護を受けた歌野の張りては大人の平均を超えるパワーを持つ。

 きっとSOUGOの背中には真っ赤な手形が出来ているに違いない。

 

 

「おー、ソーリーソーリー。叩きやすい大きな背中だったからつい……」

 

「おいっ、お前左肩なんかだらんとしてるぞ……脱臼してるんじゃないのか?」

 

「あら、そう言えばさっきからレフトショルダーだけ動かないわ。バーテックスから突進くらってからこうなんだけど……あとなんか痛いわね」

 

「なんでわざわざ英語に直す。というか、それもう脱臼確定だろ……もういいから、さっさと病院に行け」

 

「そうだわ。この時間帯は四国との定時連絡の時間だったわね、参集殿に行かなくちゃ」

 

「お前は人の話を聞けッ」

 

「その後は畑仕事の続きね!」

 

「いいからっ!もういいから休めっ!お前はっ!」

 

 

 本来なら、病院で治療を施さなければならない程に歌野の肉体は疲弊している。

 肩の脱臼だけでなく、身体中の擦り傷やあちこちに残る噛み痕は出血もしているのだ。

 自分が大丈夫だから怪我を軽視してよいという考えは持ってはいけない。

 

 

「あぁ……なんで俺はお前のような女の身を案じているんだ。

 別に自分が傷付いているわけでもないというのに」

 

 

 自分はたしか悪側の人間なのに。 

 何人もの命を奪おうとしてきた人間なのに。

 

 

 常磐SOUGOは周りの人間など、自分の目的を達成するための道具にしか見ていなかった。 

 ザモナスも、ゾンジスも、他のQuartzerのメンバーも必要とあらば命を投げ捨てさせる。そしてメンバーたちも、SOUGOの願いの為に自らの命を差し出す覚悟を持っている。

 

 

 邪悪で非道な人間の筈だ。

 他者を労るとか、怪我をしている少女の身を案じる『優しい心』など、安っぽくて、そんなくだらない感情など、持ち合わせていなかったハズなのに。

 

 

 SOUGO自身が気づかない内に、その心が少しずつ、変化をし始めていた。

 

 

 

 結局、歌野はSOUGOの制止も訊かずに病院に行くことも無ければ休むこともなく畑を弄りだすのだった。

 

 

 

 そうやって、また日にちを重ねて、数ヵ月。

 

 

「白鳥歌野、一つ聞きたいことがある」

 

「珍しいわね、SOUGOさんから私にクエスチョンなんて。

 なにかしら、この時期の旬の野菜のこと?それはトマトね」

 

「違う。野菜から離れろこの野菜魔人め……お前の事についてだ」

 

「ワッツ?私の事?珍しいわね」

 

「そうだ。 お前が戦う姿を見て、俺は思った。

 確かに、お前は強い。バーテックスの大群を前に一歩も引くことなく戦い続け、二年もの間この土地を守り続けている。

 この地に住まう全ての人間が、お前の事を支持し、認めている」

 

 きょとんとする歌野にSOUGOは続ける。

 

「なぜ、そんな事が出来る?お前はただ、人類が滅んでほしくないと願う土地神とやらに〝勝手に〟選ばれただけだ。

 自ら望んで、その力(勇者の力)を手に入れたわけではないだろう。

 

 化け物と無理やり戦わされる宿命を背負わされて。

 身を削って終わりの見えない戦いを繰り返して。

 

 痛い思いをしたはずだ。 

 死ぬような思いもしたはずだ。

 神はこれ以上、お前に何も施していないのだろう?与えたのは身体能力を上げる加護だけだ。

 

 なぜそこまで強く在れる?

 なぜそうまでして戦う事が出来る?」

 

 

 白鳥歌野は、強い人だった。

 だけど神様から選ばれて、力を与えられたただの少女だった。

 戦う技量があったとしても、心は少女のものである。それは変わらない筈なのだ。

 

 

 だけど、SOUGOがこれまで見てきた通り、歌野の強さは心技体を極めた武人の如き強さだった。

 人々の前に立ち、率いて進む、決して折れない心を持った『王』としての理想形を歌野は持っていた。

 それはQuartzerの首領として力を手にしたSOUGO自身が、唯一手にできなかったモノだった。

 

 

 その力の出所……つまり、戦える理由が何なのかSOUGOは知りたかったのだ。

 

 

「それは……私が、この日常を守りたいから」

 

 

 手にしていた鍬を地に突き立てて、歌野は言った。

 

 

「SOUGOさんや諏訪の皆と一緒に畑を耕して、野菜を収穫して。

 みーちゃんと一緒に美味しい蕎麦を食べて。

 勇者通信で四国の勇者、乃木さんと〝うどん〟と蕎麦の話をして。

 終わったらお互いの無事を約束して、ちょっとだけ畑を世話して、また明日を迎える。

 

 そんな日常が、私は大好きで。

 そんな日常が、私はずっと続けばいいなって思ってて。

 だから、勇者としての使命感とか人類を護るとか、そんな大層な理由とかじゃなくて、

 

 『そこにある日常』をただ守りたいだけなんです」

 

 

「たったそれだけの事に、お前は命を懸けられるのか」

 

「はい」

 

 

 自分の大好きな『日常』を守ることが白鳥歌野の全てだった。

 

 友人、諏訪、農業、四国通信。

 全てが歌野にとってかけがえのないものだった。

 何億という星屑の前にはとてもちっぽけなものに見えるだろう。

 特別な強さとか、権力とか、そんなものを関係なしに、その〝ちっぽけなもの〟の為に歌野は戦う事が出来る。だから、歌野は負けないのだ。

 

 

「心の支えとなる日常を護る……お前の持つ勇者の力はその為にあるのか」

 

「ええ。私の心のオンリーワン、ずっとあるものです―――――SOUGOさんの、仮面ライダーの力もそうなんじゃないんですか?」

 

「いいや―――」

 

 

 ちがうな、とSOUGOは答えた。

 仮面ライダーの力、最初に仮面ライダーとなった1号は悪の組織、『ショッカー』によって生み出された改造人間だ。

 そのベルトは強固な装甲とパワーを与え、世界を征服するためにあった。

 

 

「ライダーの力は、悪の組織が作り出した……元々は力によって人々を支配するための、『悪を為す力』だ。

 友を護るためだとか。

 日常を護るためではない。

 この力が、そういうものだと知っていたから、俺も自分の欲望の為に使った」

 

「SOUGOさん……」

 

「フッ……何故だろうな。

 自分の進んできた道は何一つ間違っていない。

 どんな非道も、悪事も、俺の抱いた欲望も、全ては王になり時代をリセットするための事だと信じていたはずなのに。

 ……後悔なんてないはずなのに。

 

 お前を見ていると、自分のやってきた事がどんなにつまらない事だったか思い知らされる気がするな」

 

 

 白鳥歌野を見ていると、自分が小さく見えた。

 

 

 平成ライダーの歴史と平成という時代のリセット。

 それらを為そうとしたとき、王となろうとしたSOUGOの前に民は居なかった。

 

 

 自分から逃げ惑うだけだった。

 ひれ伏そうとするものなど、誰一人いなかったのだ。

 付いてくる者達はQuartzerのメンバーのみだった。

 

 

―――――行くぞッ ジオウに……俺達の王に続くんだッッ!!

 

 

―――――今こそ、我が王に勝利をッ!!

 

 

 そして最後は替え玉の常磐ソウゴが覚醒して、民を率いて、ライダー達を呼び出して、SOUGOはその力の前に打ち破れた。

 

 

 負けた理由は正直分からない。

 傍から見れば、『これが平成だから』と片付けられてしまうかもしれない。

 だが、なんだかあの時は、抗いようのない流れがあった。

 その場のノリと勢いでゴリ押しされた感があった。

 『その時、不思議な事が起こった』というナレーションが流れてもおかしく無かった。

 

 

 理不尽だ、とSOUGOが思う一方で。

 だけど、こういうノリも悪くないよな、と思うSOUGOも居た。

 

 

 常磐ソウゴが最後に見せた、ライダーと人々を率いて戦う勇ましい姿も『王』として間違っていない姿なのだから。

 

 

「私は違うと思いますよ?仮面ライダーの力が、悪を為すための力だっていうのは」

 

「違うものか……俺は確かにこの手で多くの平成の人々を消そうと――――」

 

「ノンノンノン!それは〝過去〟の話でしょう? 私が言ってるのは〝今〟! ナウの話なの! 

 確かに、SOUGOさんが言うように、その力で悪い事をしていたかもしれない。

 正直Quartzerとか平成のリセットとか、良くわからないんですけど」

 

 

 けど。と、白鳥歌野は言う。

 

 

「今ここにいるSOUGOさんは、私達と一緒に人を護る為にその力を使っているじゃないですか。

 私も、みーちゃんも、諏訪の皆も……SOUGOさんが一緒に戦ってくれて、守ってくれてるから今も生きていられるってことを誰もが知っています。 

 感謝だってしてるんですよ?ホントですよ?」

 

「俺が……守っているのか……お前たちを?」

 

「ええ。SOUGOさんは、自分で気づいていないだけでちゃんと優しい心を持っているんです。

 誰かを大切にするという気持ちがちゃんと胸にあるんです。

 私はSOUGOさんが悪い人ではないという事を知っています。

 

 最初は興味を示さなかった農作業に最近はやたら入れ込んでいるのも。

 朝は私よりも早く畑で野菜の様子を見に来てくれたり。

 野菜の収穫の時は自分達で育てた野菜を見て顔を綻ばせているのも。

 結界の外に迷い込んでいた子供とみーちゃんを助けてくれたことも。」

 

「多くの人を傷つけてきた……俺のこの手は、そういう手だ。罪人の手だ」

 

「違いますよ。あなたの手は、そんな手じゃない。

 倒れそうになった私の身体を引き上げてくれた手は、とても力強かった。

 手を掴んだ私は、燃え尽きそうな意志がまた息を吹き返すような勇気を貰えた。

 

 私だけが……いいえ、『私達』が。

 他でもない、常磐SOUGOさんに助けられた諏訪の人達は皆が、分かっている事です。

 あなたの力は、『人々と共にある力』です。 罪人の手なんかじゃないんですから」

 

 

 

 朗らかな笑みを浮かべて、白鳥歌野は言った。

 

 

 その時、SOUGOが思ったことがあった。白鳥歌野が発した言葉だ。

 その言葉は、かつてSOUGOがリセットしようとした元の世界の『ある男』が言っていたものと似ていたのだ。

 

 

 

 『仮面ライダーは、いつもキミたちの傍にいる』

 

 

 

 始まりの男。

 仮面ライダーの1号、本郷猛の言葉だ。

 悪の組織に改造され、本来なら平和を破壊する兵器として使われるはずだった仮面ライダーの力を、平和を守る力に変えた。

 

 

 彼は長く、長く、戦い続けていた。

 昭和という時代の1号として。

 平成という時代に繋げた1号として。

 

 

 例え戦いの日々に明け暮れようとも。

 例え人並みの人生を歩めなくとも。

 例え赤ん坊すらもあやせない身体に成ろうとも。

 

 

 人間の自由を守る為に。

 何十年、身体が老いても、病を患っていても、悪を滅ぼす信念の元に戦い続けていた。

 

 

 何があっても一緒だと。

 だから生きて、生き抜くんだと。

 昭和から平成へ、平成からその先の令和へ、その魂は受け継がれて。

 仮面ライダーが戦う姿は人々に勇気を与え続けている。

 

 

 

 歌野の言葉を聞いて、SOUGOは心の中で呟いた。

 俺はダークライダーだ、と。

 

 

 ダークライダーなんて、正義側のライダーを一度は負かすが最後は逆転をされてしまう存在だ。

 目的の為に手段を厭わないし、平気で人を殺めるからロクな死に方をしない。

 平成をリセットしようとしたSOUGOの行いはライダーとしては確実にダークな方面に堕ちているだろう。

 

 

 主人公を成長させるためのダークライダーは一度退場すればお役御免だ。

 誰も必要としないし、仮面ライダーの歴史の中に次第に埋もれていく事になる。

 それは常磐SOUGOとて、例外ではない。

 

 

 だけど、この世界なら。 

 仮面ライダーもいない、ショッカーも、Quartzerも、タイムジャッカーもいない。

 天上の神という、ただ理不尽な存在に人間達が虐げられているこの世界なら。

 

 

 

 この世界で暮らす人々の自由を守れる、『本当の仮面ライダー』になれるのではないかと。

 自分を負かした常磐ソウゴのような、最高最善の王になれるのではないかと。

 常磐SOUGOは思ったのだ。

 

 

 

「あ、ここSOUGOさんが植えた蕎麦の種……もう本葉が出ていますよ」

 

 

 歌野が指さすのは、SOUGOが自身で畑を耕し、歌野達の助けを貰いながら作り上げたSOUGOの蕎麦畑だ。

 

 

「本当だ、先週植えたばかりだというのに……早いものだな」

 

「どんな土地でも作れて、収穫も早くて、そして美味しいのが信州蕎麦の魅力ですよ。植えたのが9月の下旬でしたから、早ければ11月の中旬には実が成って、収穫が出来ますよ!

 そうしたら、またみーちゃん達や町の人達と一緒に蕎麦を打って、楽しく蕎麦パーティしましょう!」

 

 

 乾燥した土でも、酸性の土壌でも順応して芽を出す。

 湿地以外の環境なら、蕎麦はある程度の繁殖が可能である。

 例え逆境であっても、どんな困難にも負けない強さが蕎麦にはあることをSOUGOは知った。

 

 

 人間だって同じなのだ。

 

 

 それを知ることが出来た。

 歌野が、諏訪の者達がSOUGOに教えてくれたから。

 

 

「……あぁ、そうだな。ここの蕎麦は美味いから、な」

 

 

 自分で作り上げた畑の土を手で掬い上げて、その匂いを嗅いだ。

 最初は苦手だったが、今はもう嗅ぎ慣れた、自然のものだ。それをSOUGOは気に入っていた。

 

 

 守らなければならない、今ある命を。

 だが、それは決して自分の命にあらず。

 

 

 SOUGOが育んできた命を。

 SOUGOを信じてくれる者たちの命を。

 

 

 人間(ヒト)として。

 仮面ライダーとして。

 

 この命に代えても、守らなければならないと思ったのだ。

 

 

 

 

 SOUGOは変身し、戦い続けた。

 歌野も共に戦い続けた。

 水都も戦う二人を支え続けた。

 諏訪の住民たちも、違う場所でそれぞれの役割を果たし、日常を守り続けた。

 

 

 戦って、守って、傷ついて――――それでも懸命に生きていくSOUGO達は一人も死者を出さないまま、歌野にとってはバーテックス襲来後3度目、SOUGOにとってこの世界に来て最初の冬を乗り越えていく。

 

 

 

 誰もが、この日常を終わらせまいとしていた。

 敵は攻めてくるけど、なんとか凌いで、皆で畑を耕して、明日に繋げて、力いっぱい生を噛み締めて。

 辛いけれど、この日常が終わらず、ずっと続いてくれればと皆が願っていた。

 

 

 

 

 だけど、この世界にバーテックスが襲来して4年。

 SOUGOがこの世界に現れて約1年が経とうとした時に、やって来たのだ。

 

 

 

――――――諏訪に、終わりの時が。

 

 

 

 

 

 

 




SOUGOさんが天の神にボコボコにされてから四国にやってくるまでのお話と、その後のお話。常磐SOUGO編であり、ちょっとだけ乃木若葉編も含んでいる。


ウォズの話はあとで説明が可能ですので、予定通り常磐SOUGOがメインの諏訪daybreakeはっじっまるよー。
全部で3話、エクストラで1話追加の4話構成となっております。千景編よりすごく短い!読みやすい!(多分
なので1話ずつの内容が多くなってしまうのは当然の事なのです。
1話目で既に1万7千文字とかいってましたし。



この話はSOUGOがメインなので歌野との友情物語は多く描かれていませんが農業を通じて、蕎麦を通じて、戦いを通じて、互いにとって信頼できるパートナーとなっています。
諏訪住民とは最初は確執はあったものの、徐々に、徐々に慕われ、大人からは『面白い人だなぁ』と言われ、子供からは『妖怪平成醜いオジサン』から『仮面ライダー!』と呼ばれるようになりました。


歌野や水都とはこんな事がありました。
・歌野がSOUGOと一緒にいるだけ水都が嫉妬しだす。
・その結果、隠し味と称して水都がSOUGOの蕎麦に適量3倍の鷹の爪を投入させるトラップを仕掛ける。

ほんわか日常はどこへ行ったのか。
このお話が『daybreake』と謳っているからには、『another daybreake』編も作らないといけないですね……。







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