最低最悪の魔王が征くのわゆ世界   作:バロックス(駄犬

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諏訪編、無事に書き終わりましたで御座候。
気付いたら平成33年にタイムスリップしていたで御座候。
ジオウディケイド早くみたいで御座候。
うちの兄貴が仮面ライダービルドを仮面ライダーWの続編だと勘違いしていたで御座候。
あ、『風都探偵』面白かったです。ファングトリガーがマジかっけぇんだこれが御座候。

焼肉と仮面ライダーと言ったらビルドしか浮かばなかったんだ……。



④  

 

 高嶋友奈は肩で息をしながら走る。

 SOUGOと丸亀城で会ってから飛び出して、10分と掛からない時間で友奈は市街地まで移動していた。

 

 

「はぁ…っ!…ぁ、はぁ……っ!」

 

 

 腕を振り、必死に走る。

 勇者である彼女には神からの加護があるため、一般人よりも基礎体力が高い。そのはずなのに、全身は疲労を感じていた。

 全身に極度に緊張が走っている。

 心が重い。

 なんでだろう。

 

 

「あれ、もしかして勇者様?」

「走ってる。トレーニングかしら」

「でもなんか泣いているような」

 

 

 

「……っ!!」

 

 

 街の道路を走る友奈は周囲からの視線を感じて、我に返った。

 勇者である以上、四国を守る存在として民衆から認知されている友奈は街に出れば芸能人並みの知名度がある。

 変装の一つでもすれば良かったと改めて思ったのだ。

 

 

 胸を締め付けられる感覚に抗いながら友奈は市民からの視線を躱す為、角を曲がったところで路地へと入り込んだ。

 少し薄暗くて、太陽の光も遮るような場所で、湿気が多いが人々の目には留まらないようにするには充分である。

 

 

 漸く足を止め、息を整える。

 思えば、何故自分は常磐SOUGOから逃げてきてしまったのだろうと。

 そもそも、彼に話しかけようと思ったのは何故だったのかを考えた。

 

 

 始まりは、ただの興味本位だった。

 

 

 若葉とSOUGOが、丸亀城の本丸から天守閣まで向かって行った光景を目にして。

 多分、その時SOUGOが見せていた表情は言葉に言い表せない程に真剣で。

 

 

 聞いてはいけない事なのかもしれないけれど、(SOUGO)の事を知りたいと思ったから。

 

 

 (SOUGO)と離れている距離を、少しでも縮められるかもしれないと思って。

 (SOUGO)が心を開かない理由があるなら、それに対して自分が何か出来ないか考えたくて。

 彼《SOUGO》が少しでも前を向いて、王様になる事を目指して欲しくて。

 

 余計な事だと、言われるのを覚悟で友奈は二人の会話を聞いた。

 

 

 だから、聞いて、後悔した。とても。

 そして自分の行ったことが、間違いだった事に気づいた。

 

 

 諏訪での出来事を。

 そこで経験したSOUGOの悲しみを。

 その心に抱く、彼が王を目指さない理由を知った。

 

 

 友を亡くした。

 故郷と呼べる場所を失った。

 救うべき者達を救えない、そんな自分に無力さを覚えながらこの場所(四国)に来た彼の心中は計り知れない。

 

 

 自分なんて、王を目指さなければよかった。

 自分なんて、王を目指す資格などない。

 自分なんて、最悪を齎した魔王という名こそ相応しい。

 

 そう思っても仕方がないだろう。

 

 

 だから、自分や他の勇者たちと協力すれば彼の心を支えてやれると思っていた友奈は、あの時言っている。

 

 

『なれますよ!王様に! なってください!いいえ、なるんです!』

 

 

 という、無責任な言葉を。

 大丈夫、貴方なら王様になれる。

 友奈の心からのエールはSOUGOにとって、辛い過去の蒸し返しでしかない筈なのだ。

 

 

 

 高嶋友奈は人間関係において、一番大事にしている事がある。それは『距離感』だ。

 

 

 相手と自分との距離感。

 ここまでは踏み込んでほしくないという事には大きく触れず、相手を肯定し、受け入れる。

 相手から距離を縮めてくれたのなら、徐々にこちらからも距離を縮めていく。

 その気遣いの心は丸亀城の勇者たちの人間関係が円滑に回っている。

 だけど友奈は他の勇者たちの話に耳を傾けることはあっても、他の勇者に自ら相談、意見をすることは苦手である。

 

 

 友奈が友奈自身の事は語ろうとしないのは、自分がふと話したことで周りが険悪になるのが嫌だから。

 直接的な原因でなくても、自分がきっかけで誰かが嫌な思いをしたりするのは、嫌だから。

 

 

 だから、自分では臆病だと思っている友奈は人との距離感を大事にしてきた。

 だから、今回の常磐SOUGOへの干渉で自分が初めて人の心の距離を測り間違えてしまったのだと思った。

 

 自分がしたことは他者の心の中に土足で踏み込むような、心を傷つける行為だと思った。

 胸がキツく締め付けられるのを感じて、友奈は逃げてきたのだ。

 

 

 

「ごめんなさい……ごめんなさい…私は、私は……!」

 

 

 嗚咽が漏れ、暗いコンクリの床に少女の涙が落ちる。

 今の友奈は心が罪悪感で押しつぶされそうになっていた。

 

 

 

「フン……高嶋友奈、一体誰に謝っている」

 

 

「……!?」

 

 

 ふと、耳に聞こえた声に友奈が周囲を見渡した。

 視界には人など見当たらず、蓋付きのごみ箱のみがあるだけだ。

 聞き間違いか、と友奈が思ったのも束の間―――――、

 

 

「俺はここだ――――!」

 

「うわぁああああ!!!」

 

「見つけたぞ高嶋ァ――――ぶっ!!」

 

 

 目の前のごみ箱から蓋を舞い上がらせて飛び出してきたのは、常磐SOUGOだった。

 しかし、体制が不十分だったのかごみ箱を飛び越えるほどの跳躍を見せることが出来ず、膝部分がごみ箱の内側に引っ掛かり、そのまま前のめりにSOUGOの身体はコンクリの床へと倒れこんだ。

 額を思いっきり床と衝突したSOUGOはゴッという鈍い音と共にしばらくの沈黙を見せる。

 

 

「え、あ、の……SOUGOさ、ん」

 

 

 流石に心配した友奈が近寄ろうとして、SOUGOの身体がむくっと起き上がった。

 腕を使って立ち上がっては何事もなかったかのように服の埃を落として、

 

 

「どうだ高嶋。お前が俺を追い回していた時に使用されたゴミ箱による待ち伏せだ。かつての己の技で不意打ちを食らった気分を聞かせてもらおうか」

 

 

「いや、あの、頭から血……」

 

 

「しかし、何故俺から逃げた?よもや、乃木との会話を聞いてしまっていたか。だがそれがお前の逃亡と何の関係がある?」

 

「恥ずかしいのかもしれませんけど一旦会話ストップしてください!血が凄い出てますから!」

 

 

 意地でも転倒による話題に触れさせない、そんな鋼鉄の意志と鋼のような強さを感じた友奈だったが、頭部から出血しているSOUGOを大人しく放置して話を進めることなど出来なかった。

 

 

 数分後、たまたま友奈が所持していた絆創膏を使ってSOUGOの出血は止まった。

 

 

 

「それで?なぜお前は泣いていた?」

 

 

「どうしてもさっきのケガなかったことにしたいんですね……もう大丈夫ですよ、気付いたら泣くどころじゃなくなってたんで……」

 

 

 大人としての、またはQuartzeの首領としてのプライドなのだろうか、SOUGOは呆れ顔の友奈を他所に話を続けていく。

 

 

「フン、お前の考えていることは分かるぞ。大方、俺と乃木の会話を聞いて、俺に掛けた言葉に罪悪感を感じてしまっている……そんな事だろう」

 

「……」

 

「最初に言ったはずだ。『あまり俺に関わるな』、と」

 

「でも……」

 

「ああ、お前に悪気が無かったのは分かっている。だが、話を聞いていた通り、俺は王となり守ろうとした場所を守れず、失ってしまった男だ。

 そんな俺には、今更最高最善の王様になろうとする、資格なんて無い筈なんだ」

 

「そんなこと、は……」

 

 

 SOUGOの言葉に否定をしたい友奈はその言葉を最後まで言い切らない。

 一度失敗しているからか、それが尾を引いているからか。いつものように自信を持って言うことが出来なかった。

 ただ申し訳ない、という謝罪の想いしか浮かんでこない。

 

 

「ごめん、なさい……私はSOUGOさんの事、何も考えずに、嫌な想いまでさせてしまって――――辛い事まで思い出させてしまって……」

 

「ん?」

 

「え?」

 

「いや、諏訪での事は今でも辛い事だが……俺は別に嫌な想いはしてはいない」

 

「で、でも!私が無理に関わってきたせいで、SOUGOさんは嫌な想いをしたんじゃないんですか?」

 

「たしかに最初の俺は無理に俺を追い回してくるお前を鬱陶しく思っていた。恐怖すら感じたくらいだ。

 だが、それだけだ。

 しかも、最初は勇者などの力を借りずに俺一人で戦うつもりだったのに、気付いたら自分の意志を曲げて共闘することが当たり前になってしまった……お前のせいだぞ、高嶋」

 

「え、わ、私ですか!?」

 

 

 そうだ。

 と、SOUGOが腕を組んで言う。

 

 

「傷つきながらも決して折れず、諦めず、散っていった者達の遺志を継ぎ、未来の為に戦うお前の姿を見ていたら自然と力を貸してしまった。

 もう一度、勇者の力を信じてみようと思った。

 もう一度、勇者と共に戦ってみようと思った。

 お前達なら最後まで神に抗い、天の神を倒す事が出来るかも知れない、と。

 お前の言葉と行動は、俺の戦いに復讐すること以外の理由をくれたんだ」

 

 

 かつての常磐SOUGOは王へ至る為ならば、卑劣非道を厭わない男だった。

 しかし、諏訪での環境を経て、人々を守る王への道を見出した。

 諏訪を失い、四国に来るまではただ神に復讐することを考えていた。

 だけど、もう復讐することだけに囚われていない。

 孤独になっていたSOUGOを、一人にさせないようにしたのは高嶋友奈だ。

 

 

「俺も、今を生きる人々の為に戦いたい。

 この世界の人々が生き残れる為に、俺が出来ることをしなければ。

 俺は自分を、まだ許すことが出来ていない。

 俺が諏訪の人々を守れなかったのは、事実なのだから――――けど」

 

 

 だけど。

 

 

「もしこの戦いの先で、俺は俺自身を許すことが出来たのなら……俺はもう一度、王を目指すことが出来るかも知れない。

 なんか行ける気がする……ああ、そうだな、こういう感じだ……アイツも、そう言っていたな。

 高嶋友奈、ここに常磐SOUGOは宣言する。

 いつしか、いや……必ず、再び王として君臨する事をッッ!」

 

「SOUGOさんっ!」

 

 

 自分を破った常磐ソウゴが自信満々に言っていたように、どこから得たかも分からない謎の確信があった。

 だがその謎の確信こそが、SOUOGを動かす原動力となった。

 

 

「だから俺は信じることにした。

 俺自身のこれから先の未来を。

 もちろん高嶋だけでなく、他の勇者も。

 お前が俺を信じたように、ライダーとして再び勇者とともに戦うことを。

 俺が王に相応しい存在だと認めさせて、選ばせてやる。

 この時代に、この世界にだ。

 だが忘れるな……俺がもし王ではなく間違った魔王になると確信したのなら、迷わず戦え、そして倒せ。

 お前になら、お前たち勇者になら、俺は倒されてもいい」

 

 

「もちろん、そんな結末にはさせませんよ!

 目指しましょう!皆で笑いあえる、素敵な未来を」

 

 

 誰もが夢を見れる世界を。

 暖かな日々を送れる日常を。 

 理不尽な神の目に怯えることのない日々を。

 

 

 この世界を良くするために、SOUGOは再び王になる決意をした。

 

 

 

 

 

 

 数週間後、その日の丸亀市は晴天だった。

 それまでの間、バーテックスによる侵攻も無く、機を見計らったSOUGOと若葉は兼ねてより企画していた勇者勢とQuartzer勢で合同の食事会を行うことになった。

 開催場所は丸亀城付近、勇者たちが鍛錬で使用しているグラウンドで、内容はバーベキューだ。

 

 

「おお、肉!肉だあんず!バラ、モモ、ロース、タン!何でもあるぞ!」

 

「私は脂っこいものは少しずつ食べていこうかなぁ、あまり多くは食べれないし……」

 

 

 じゅうじゅう、と網の上で肉が焼ける音を聞きながらさながら肉食動物のような目つきで土居球子が口の端から涎を垂らしている。

 隣の伊予島杏は肉はあまり好みではないのか、紙皿にはサラダと焼き魚、肉が少量と盛られていた。

 

「かーっ!あんず!もっと勇者として戦うためにスタミナをつけなきゃならんだろ!女なら、勇者なら肉を食え!肉を!ベジタリアンは今日をもって卒業しろー!」

 

 

(こ、これがバベキューハラスメント……!)

 

 

 肉を食べられない者に無理に肉を食べる事を強要させる非道。

 昨今ではあらゆる観点からハラスメントの定義が広がり、様々なハラスメントが生まれているという。バベキューハラスメントもその一つだ。多分。

 

 

「でもどうせなら、校庭のグラウンドじゃなくて丸亀城で焼き肉出来れば良かったのになぁ」

 

「花見のように作った料理を持ち寄るのはまだしも、流石に丸亀城内で火を使うのはマズいだろう。

 拠点である丸亀城付近で融通が利きそうな場所はこのグラウンドくらいだからな」

 

「若葉は真面目だなぁ、まるで真面目博士だ」

 

「誰が真面目博士だ」

 

「ドクター若葉ちゃん!白衣に身を包んだ凛々しい若葉ちゃんですね!あと、丸亀城は基本場内での火器使用は厳禁とされていますので、良い子はしないでくださいね?」

 

「上里さん……今日も絶好調ね。しかし、ドクター乃木さん、か……白い塔の院内で権力者争いでもやるのかしら」

 

「このお肉おいしい!」

 

 

 白のトレイにどっさりと肉を盛る友奈と球子と若葉に千景とひなたは野菜中心である。

 

 

「ん?あ、おーいパパイヤ!焼きそばくれー!」

 

「パパイヤじゃない。俺はカゲンだ……潰すぞ」

 

 

 鉄板で焼きそばを焼く担当であるふくよかな体型で縮れの癖毛が強い男、カゲンが球子に睨みを聞かせる。

 しかし、その間にも手を止めずにへらを操っては予めテーブルの上に置かれている紙皿へ手早く載せていく。

 あっという間に二人分の皿に焼きそばを盛ると球子と杏へ手渡した。

 

 

「お、おおおぅ。見事!」

 

「あ、ありがとうございます……カゲンさん」

 

「……食え、伊予島」

 

「は、はぃ……」

 

「あぁ!?こらぁ!杏をあまり怖がらせるなァ!」

 

「フン……貰ったならさっさと行け、潰すぞ」

 

 

 カゲンの言葉に杏は委縮する。

 パワー系戦闘スタイルを駆使する彼の威圧感はライダーへ変身する前からでも十分に感じられる。

 なにせ、カゲンは常磐SOUGOにウォッチを託されたQuartzerきっての戦士だ。普段の寡黙さとガタイの良さ、そして鋭い眼光は杏を射すくめるには十分だ。

 勇者となって多少の度胸がついた杏でもその見てくれてに圧倒されていた。

 

 

「まぁっったくぅ!鈴木の奴めェ!行くぞあんず、向こうで食べような」

 

「うん……あれ?」

 

 

 杏が自身の更に盛られた焼きそばの違和感に気づく。思わず隣の球子の焼きそばと見比べた。

 明らかに肉が多めの球子の焼きそばに対して、杏の焼きそばは肉は少なめで野菜が多めの配分となっていた。

 

 

(もしかして、さっきのタマっち先輩との会話……聞いてたのかな)

 

 

 さりげなく、小食である自分と肉を多く食べたいという球子の要求を叶えてくれていた事に杏は感謝した。

 普段は言葉足らずで、端的にしか言葉を介さないカゲンではあるが、彼なりの気遣いなのだろうか。

 杏は少し離れた所から振り返って、カゲンの方を見た。変わらず焼きそばを調理する彼とふと目が合って、

 

 

 

(お野菜……ありがとうございます)

 

 笑みを浮かべて小さく会釈しながら、心の中で彼に感謝を述べた。

 

「……フン」

 

 

 杏の会釈の意味を理解したかは定かではないが、カゲンは一度手を止めてからややあってヘラを動かし始めてこちらの方を見なくなった。

 だけど、その視線の戻し方が照れを隠すためのものではないだろうかと、杏は思った。

 

 

 

 

 焼きそば係はカゲンと明確に役職が決まっていたが、肉焼き係というのは特に決まっていなかった。

 網の上に個人が好きなだけ好きな肉を焼いて、自分で好きな量を食べるという比較的に自由な場が構築されている。

 郡千景は、紙皿に乗せられている二切ほどの肉を箸で摘まむと焼き肉のタレを掛けながら白飯と一緒に口へ運んだ。

 

 

(焼肉のタレをかけたお肉と白飯ってどうしてこんなに合うのかしら……)

 

 

 肉の脂とタレの甘酸っぱさが染み込んだ白米を咀嚼する千景はそれだけ多幸感に包まれる。

 ずっと食べていられる感じがして、ハマってしまいそうだ。

 でもこんな偏った食生活は絶対に良くはないだろうなぁ、と思いながら千景は眼前の焼肉たちに群がる勇者達の動きを見た。

 それは若葉と球子と友奈のもので、

 

「いいかお前達。焼肉はバランスよく食べるんだ

 肉を食べたら野菜、次に肉、そして野菜、時々魚、肉、野菜……これを繰り返す、偏食は良くないものだ」

 

「そんなの関係ないぞ!タマは自由に肉を食べる!野菜も食べる! 

 肉肉肉肉野菜肉肉肉肉だ!オセロなら!肉に挟まれた野菜は裏返る!つまり肉だ!」

 

「肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉!!」

 

 

 球子が謎の屁理屈を言いながら肉を食べ、友奈に至っては20文字に及ぶ肉の呪文を唱え続けて肉を食い続けている。

 オールミート20(トゥエンティ) タイムブレイクとはこのことだろうか。

 一心不乱に肉メインを捕食する友奈と球子に対抗するかのように若葉もまたこの乱戦を制するべく、肉取り合戦に参加し始めた。

 

 

(この不毛な戦いは……私には縁のない話ね。前線に立つ人ってやっぱり大食いなのかしら)

 

 

 若葉も友奈も球子も勇者の中では前線に立つ者達だ。

 千景もバリバリの近接型であるものの、あそこまで獣のように肉をかっくらう事はない。

 食事は大切だと思うが、千景にとっては最低限身体の活動を維持できるのであればゼリーとかでも構わないと思っている。

 あいつら絶対明日の朝には胃もたれでも起こしてそうだな、と千景思っていた時だ。

 

 

「はいはーい勇者ちゃん達、肉は大社からたんまり貰ってるから遠慮しないで食べてもらっても構わないけど、俺の分まで取らないでほしいねぇ」

 

 咄嗟に肉を焼く網の上にトングが割って入ってきた。

 若葉たちの食を遮るように現れたそのトングの持ち主はウルフヘアーが映える優男の風貌、ジョウゲンである。

 

 

「こう見えて、俺も肉とか、タンパク質にはちょっと煩くてさ……人の金で食う焼肉は格別だってワケ

 ちゃんと自分たちの肉を焼く陣地は決めてさ、それぞれ好きなモノ食べようよ。お互い干渉ナシでさ」

 

 

 優し気な口調とは裏腹に冷ややかな視線でそう言われた勇者たちは肉にがっつく己の行いを恥じたのか一度箸を止めて、

 

「す、すまなかった。どうやら我を失っていたらしい……球子、友奈、ここはジョウゲンさんの言う通りに」

 

「くぅ~、自分のペースでがっつり食べたいところだが、しょうがないなァ!」

 

「うん!やっぱ焼肉も皆で楽しく食べれなきゃだね!」

 

「うんうん、皆イイ子だね。んじゃ、こっからここ、今箸で線引いたとこから後ろが俺の陣地だから」

 

 

 いや、半分以上肉取られてんだけど。

 と、後ろで千景が内心で一言を入れて当然だが球子たちが納得いかずにまた網の上では肉の取り合いになった。

 そしてその時は何故かジョウゲンもどさくさに紛れて一緒に楽しんでいた。

 

 

「俺が持つ〝アマゾン細胞〟のせいでさ、ちゃんとタンパク質を摂取しないと暴走する身体になっちゃってさ。

 これも歴史背負っちゃった業かもねェ。

 今は市販の豚肉とか牛肉とか鶏肉とかで我慢できるけど、そのうち()()()()じゃないと我慢できなくなっちゃうかもねェ……

 まぁ冗談だけど。

 そんな設定ないんだけど」

 

 

 冗談かよ、というか設定ってなんだよ。

 

 

 今度は千景だけでなく、若葉たちの方からもツッコミが入っていた。

 Quartzer、というか平成ライダーというのは無茶苦茶な人たちばかりのようだ。

 

 

 

「あ、あの……こ、郡様」

 

 

 千景の元に歩み寄ったのは、眼鏡をかけた二本の三つ編みを揺らす少女だ。

 かしこまった口調の彼女は千景を勇者として見出し、導いた巫女で名前を花本美佳(はなもとよしか)と言う。

 

 四国に来てから直ぐに彼女は大赦の方に務めることになってしまったので千景と美佳は初めて出会った日からそれまで会うことが出来なかった。

 しかし、ゲーム病事件を機に上里ひなたから連絡先を入手したらしく、以来メールでのやり取りを行っている。

 

「花本さん……どう?ちゃんとお肉は食べられてるかしら?もし足りなかったのなら遠慮せずに言ってね?ちょっとあそこで戦争しているアホな人達を止めてくるから」

 

「郡様からそのように気遣いを頂けるとは……ありがとうございます。ですが、今食べている分だけで充分です。もともと私自身はそんなに食べられる人間じゃないので」

 

「そ、そうなんだ……」

 

「安芸先輩くらいですよ。勇者とタメ張って焼肉大食い勝負してるのは……もう、ほんと、私達の先輩が申し訳ありません」

 

 

 安芸真鈴、という球子と杏を導いた大赦の巫女は腕まくりをして意気揚々と肉取り現場で、

 「うぉおおお!!!他人(大社)の金で焼肉最高ォ!ヒャッホウ!」と言いながら肉を食い漁っているのが見えた。

 安芸は千景と同じ年齢だと聞いた。この後、もし時間があったら話かけてみたいものである。

 

 

「あ、そういえば郡様からお借りしたアクションゲームなんですが……」

 

「あら、どうしたの?」

 

「少し困った事がありまして……毎回稲作途中で稲包虫(いねつとむし)が沸いてきてしまい、他の病気にもかかりがちで収穫量が減ってしまう事が多くなってしまっているんです……」

 

 

 見た目とは裏腹に美佳は千景のやるゲームに興味を持っていた。

 後から知った事だが大赦に居るときは密にゲームを購入し、プレイしているのだという。

 美佳がプレイしているゲームの種類が千景の持つゲームと傾向が似ているためか話題も合うこともあり、ゲーム仲間としてソフトを貸したりもしているのだ。

 普段のメールなどでゲームの攻略法などを聞いてきたりもする。

 

 

 やはり、同じ趣味の人がいるというのは嬉しいものである。

 ゲーム道を征く先人として、彼女がゲームを楽しんでもらえるために有意義なアドバイスをしなければ。

 

 

 

「育て方に問題があるかもしれないわね……あのゲーム、本格的な稲作要素が詰め込まれてて、結構難しいから。

 ソフトは持ってきてる?もし焼肉が終わった後時間があったら、私の部屋で一緒にゲーム進めてみる?いろいろと教えれると思うのだけれど」

 

「え、ええ!? こ、ここここ郡様の部屋で!?」

 

 なんと恐れ多い事か、と美佳は驚きを隠せなかった。

 

「勇者様である郡様の部屋でい、いい一緒にゲームを!?」

 

「あ、あの……嫌だったかしら……?」

 

「い、いいえ!そんなことは……むしろ、嬉しいくらいです!」

 

 

 頬を染め、そう言い放つ美佳の瞳はまっすぐ千景を捉えていて、それは尊敬のような畏怖のような色を浮かべている。

 生真面目な性格も相まって、常に勇者よりも巫女は下であるという意識が教えられているからか、美佳は時折千景を神様にでも会ったのかのような扱いをする。

 それが、千景にとっては嬉しくもあり、もどかしくもあった。

 

「巫女である私が勇者様のお部屋で一緒に過ごす事が出来る……恐悦至極です!

 勇者様のご厚意、ありがたく受けさせていただきます。

 郡様、食べたいお菓子や飲み物が欲しかったら今のうちに私に言って下さい。

 時間があるときに買い出しに行ってくるので!

 ご安心を、お金は勿論全て私が―――」

 

 こんなに近くにいるのに、実際の距離はかなり離れている気がした。

 

「花本さん」

 

「ひ、ぴゃい!」

 

 

 可愛い反応するわね。

 と、コホンと一度間を置いた千景は美佳を見て、言った。

 

 

「私だからそこまで硬くなる必要はないの……私たちの違いって、勇者と巫女とかを省けば一学年違うってだけじゃないかしら。

 上里さんや安芸さんまでとはいかなくていいから、少しずつでいいから、学生っぽく気軽に話し合えるようにしていきましょう?あなたとは、対等な関係でいたいの」

 

「ど、努力します……」

 

「うん、私も頑張るから……あとお菓子の買い出しなら焼肉終わったら一緒に行きましょう。

 コーラとポテチはもう残っていなかったと思うし、こういうのも二人で一緒に選んで持ち込んだ方が夜は盛り上がるわよ?」

 

「夜にコーラとポテチ……!なんて、なんて背徳的な……っ!

 くっ……!高知名物、カツオ料理を馳走しようと考えていたのに!」

 

「お菓子とジュース類で足りるわよ……しかし、何故カツオ?」

 

 

 彼女(花本美佳)との縁を大切にしたいと千景は思った。

 勇者と巫女というだけの関係で終わらせたくないと千景は思った。

 友奈や若葉との生活の中で様々な困難を乗り越えてきた千景は積極的に他者に関わっていこうとしている。

 どうすれば、この子と仲良くできるのか、距離を縮めることが出来るか考えている。以前の自分では考えられない事だった。

 心身共に成長していると実感できている。

 

 

(これが心の余裕!今の私はハイパームテキ!)

 

 

 勿論、今の千景は自分のこの状態が自らだけの手で齎されたものではないという事を理解している。

 若葉や友奈、杏や球子の勇者たちの心の支えがあったからこそ今

 そして、Quartzerの首領である、常磐SOUGOにも同じくらいの感謝の気持ちを持っていた。

 

 

「タマちゃん、だっけ?運動得意なんだよね?

 あそこにいるカゲンとダンスで勝負して勝てたら、欲しいモノなーんでも買ってあげる」

 

「オイオイ、ジョウゲンまじで言ってるのかぁ?このアスレチックダンサータマが、あんなお腹ポッコリ鈴木に負けるわけないだろう?」

 

「潰すッッ」

 

「な、なにィ!?」

 

「か、カゲンさんが対抗してキレのあるダンスを!?なんて身軽な動き……しかも体が大きい分、タマッち先輩より断然映える!?」

 

「おい勇者達よ、締めの蕎麦を持ってきてやったぞ」

 

「肉と焼きそばの後に締め蕎麦とはこれいかに……私、伊予島杏は思います」

 

「そ、SOUGOさん……正気か!?

 うどん国である香川県で、蕎麦を出すとは……どうかしている!!」

 

「乃木、どうかしているのはお前の方だ。

 蕎麦こそ、うどんを凌駕する最強の麺類だ……忘れたか?俺は死ぬまで一生諏訪派なのだ。

 うどんの美味さは認めるが、毎日毎日うどんうどんうどんばかり……お前たちのうどんって、醜くないか?

 俺がこの醜いうどんに塗れた香川を、蕎麦で綺麗さっぱり作り直してやろう」

 

「……いいだろう、諏訪の意志を継いだ貴方となら歌野との論争の続きを行う相手に足りる!

 すぐに先ほどの言葉を撤回させてあげましょう!うどんは四国だけでなく、全国最強なのだと!

 ひなた!うどん玉の用意だ!香川と諏訪の全面戦争だ!」

 

「はい!若葉ちゃん♪」

 

「うどんも蕎麦もとってもおいしいから楽しみに待ってるね!」

 

 

 

 カオスだわ。

 千景はその一言に尽きる光景を目にして、先ほどまでの感謝の念が少しだけ薄れた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「終わったな」

 

 

 勇者達との焼肉会が終わり、後片付けも終わった後で皆が帰路についた頃、SOUGOは大社より与えられていたホテルの部屋で椅子に座り、身体を休めていた。

 

 色々と上手くいったと思う。

 今後の勇者とQuartzer達が連携してバーテックス達を迎撃できるように互いを知ってもらう為に、今回の催しを企画したのだ。

 勇者とこれまで接点が無かった大社側の巫女達も接点が出来た。

 Quartzer側もジョウゲンはあのマイペースだが、全体をしっかり見ていて、勇者達と打ち解けていたから大丈夫だろう。

 カゲンに関してはまずまずだが、時間が解決してくれるだろう。

 伊予島や球子との関係がどれだけ彼を進展させてくれるかだ。

 

 

(俺の戦力はBLACKのライドウォッチのみ……そうなると、現状は巨大化ができるゾンジスが最強戦力だ。

 だが、それだけでは足りない……ウォズや大社の報告にもあった壁の外での奴らの動きも気になる)

 

 

 つい先日の事だ。ウォズからの報告によると、壁の外でバーテックスの活動が活発になっているとのこと。

 巫女による神託からすると、大規模な数と巨大な個体が既に『複数』程、存在しているらしい。

 巨大個体はゾンジスの巨大化対策なのだろう。

 先に完成させれる前にゾンジスは「潰す」と意気込んでいたが群体は四国から大分離れた場所で作成されているらしく、その周りの強固な守りがあることから迂闊に手を出すことが出来なかった。

 

 こちらから打って出ることが出来ない分、その時が来るまで味方同士で連携が出来るようにしなければならない。ゾンジスによる巨大化だけで勝てるほど天の神との戦いは甘くはない。

 人類側の団結力を高めるためにも今日という日は必要な日で、とても有意義だったとSOUGOは確信した。

 

 

「まぁ、最後は相当ヒドイものになったが」

 

 

 乃木若葉と常磐SOUGOのうどんVS蕎麦は苛烈を極めた。

 見るにも耐えない、醜い……もとい、死闘であった。

 文字に起こせば数十万文字という膨大な情報量はまさに平成が溢れ出す事態となった。

 天にはうどんが、地には蕎麦が溢れて、四国は麺類で満たされた。

 天地開闢の瞬間を誰もが目撃したことだろう。

 

 あらゆるうどんと蕎麦にはそれぞれの勇者が持参した具材が乗っかる。

 肉が。

 衣が。 

 泥鰌が。

 サラダが。

 どこぞの大鎌の勇者はうどんの上から更にインスタント麺を被せるという愚行を犯した。

 そして最後は果物缶から大量のパ イ ンを流し込んで闇鍋化とかしたので、収拾がつかなくなり全てのうどんと蕎麦をカゲンが食い尽くしたところで戦争は終結した。

 結果は両者ともに引き分け。

 SOUGOとしては納得がいかないので、もう一度正式に行いたいものだ。

 

 

「もう一度……あぁ、そうだな」

 

 

 ひじ掛けに肘を乗せ、頬杖をついて彼はふと、笑みを零していた。

 いつぶりだろうか、酷く、懐かしく感じる光景を見た気がした。

 

 

 諏訪での日々を思い出す。

 

 あの時も、自分が企画してキャンプファイヤーを囲みながら夜中騒ぎ立てたのだったではないか。

 

 

 

『SOUGOさーん! こっちで肉食べましょう肉!サンチュを好みで巻いて食べるとなお美味しい!今日は朝までナイトオブファイヤー!』

 

『うたのん、何言ってるか分かんないよ。あ、SOUGOさんの分取り分けておきましたよ?え?なんでこんなに赤いかって?

 やだなぁSOUGOさん、好きですよね鷹の爪。え?なんで肉全体に掛けてるのかって?だってSOUGOさん、辛いの好きですよね?』

 

 

 火を囲んで語り合った時間が、人々の面影がさっきまでの勇者達と重なって、あぁ……、とSOUGOは思った。

 あんな日々も、あったんだっけ、と。

 たった数か月の事なのに、もう何年も経ったような気がして。

 胸が小さく締め付けられるような気がした。

 この痛みを、苦しみを、感情で表すならば、なんと呼べばよいのか。

 

 

 もう、戻ってこない日々をSOUGOは思い浮かべていた。

 

 

「歌野、水都……俺は、俺は――――」

 

 

 何かを、言葉にしようとして瞼が重くなった。

 今日は何かと労力を使う日々だったから、身体に疲労が蓄積されていたのだろう。

 眠気が凄まじく、魂が飛んでいきそうな気分だ。

 

 これなら、本当に死んでしまうのではないか、そう思えてしまうくらい。

 それで本当に死んでしまっても、それならそれでいいか、と思えてしまうくらい。

 その先で、もし彼女たちに出会うことが出来るならば。

 だからSOUGOはいとも簡単に、その意識を手放した。

 

 

 

 そしてその日、常磐SOUGOは夢を見る。

 




その後のぐんちゃんと花本さん。


「それじゃあ花本さん、さっそくだけど稲の様子を見せてもらってもいいかしら」

「はい!郡様に直接指南していただけるなんて……なんと恐れ多い!」

「気にしないで……ちなみに、土の養分は―――」

「はい。季節秋の1から収穫時期まで肥料は欠かさず撒いて、常に根・穂・葉のグラフはマックスまで満たして稲に栄養を隅々まで行き渡らせるようにしております……」

「こ、これはまさか……トライフォース農法……!」

「そして防虫・防草・防病には肥料に塩を混ぜるとおおいに役立つと聞いたので、常時プラス30の値になるように塩を投入しております」

「トライフォース農法とカルタゴ農法のコラボレーションッ!!」


 サクナヒメ、楽しいです。
 次回、諏訪編クライマックス。
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