最低最悪の魔王が征くのわゆ世界   作:バロックス(駄犬

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のわゆ13話を見て絶望した者たちが望んでいたのではないかという光景。


03.勇者と大社と謎の魔王

――――――大社病院にて。

 

 

「あー、暇だ……杏」

 

「暇だねぇ……タマっち先輩……」

 

 

 窓を換気がてらに開けているからか、入り込んでくる穏やかな風で病室のベッドに吊るされている『千羽鶴』が小さく揺れている。

 

 

 千羽鶴は同じものが二つある。一つは、四国の住民たちが作り、負傷した勇者へ送ったもの。

 

 

もう一つは同じ勇者たちが作ってくれたものだ。

 千羽鶴だけでなく、傍には勇者・土居球子宛、伊予島杏宛とかかれた花束も数多く存在している。

 どれも二人の早期回復を願っての事であった。

 

 

 勇者・土居球子と伊予島杏は大社が管理する病院で絶賛治療中だ。

 腕にギプスを巻いた球子は全治1か月。

 頭と腕に包帯を巻いた杏は最も軽症らしく、3週間ほどの入院らしい。

 

 

「にしてもあのヒトガタバーテックス、なんだったんだよぉ……あんなの今まで出てこなかったって言うのに……」

 

「戦闘データは大社の人達が解析してるって話だよ。解析には相当時間は掛かると思うけど……」

 

 

 

 

 あの日、勇者たちがサソリを模した人型バーテックスと交戦したあの日。

 土居球子と伊予島杏は窮地に陥った。

 これまで以上に圧倒的な力を持つ敵。

 切り札を叩きつぶされ、死を突き付けられた二人は一度は死を覚悟した。

 

 

「強かったな……」

 

「うん、強かったね……」

 

 

 サソリ型の尾が振り下ろされた時はもう本当にダメかと思った。

 他の勇者達にお別れもすることもなく、こんなに人はあっけなく死ぬんだと。

 それほどまでにあの敵は、スコーピオンバーテックスは強かった。

 

 

 アレこそが、バーテックスの完成体。

 これまで相手にしてきた白い小さな敵はバーテックスですらなかったのだ。

 丸亀城の戦いで現れたのものよりも、明らかに強い個体。

 

 

 だからこそ、二人は今この場所で生きているという事には驚きを隠しきれない。

 彼女たちの死の運命は一人の男によって覆された。

 

 

 自身を『最低最悪の魔王』と称する、常磐SOUGOという男に。

 

 

 

「何者なんだろう……あの人。 フツーに樹海の中動き回ってたらしいけど……」

 

「勇者じゃなくて、魔王。それも、最低最悪の魔王って言ってたな……なんかヤベー奴なんじゃあないのか、アレ?」

 

「……タマっち先輩は本当にそう思うの?」

 

 

 いんや、と球子はやんわりと否定して見せた。

 

 

「タマたちは気絶してたからよく分からないけど、あのSOUGOってヤツがタマと杏を助けてくれたってのには変わりはないだろ?

 

 だったら、魔王だろうが最低最悪だろうが命の恩人だって」

 

「よかった。それくらいはちゃんと理解できてるみたいで」

 

「な、なにおぅ杏めぇ! ちょっとタマよりケガが軽いからってぇ!」

 

 

 球子の怪我は杏よりも重症だ。今は命に別状はないが、運び込まれた際は一刻も争う重体であったため、医師からは安静を言い渡されている。

 全身の打撲、右腕の複雑骨折、腕の裂傷、etc……上げればキリがないが彼女の身体は本来なら『樹海の大地を溶解させる毒』を注がれたはずであった。

 

 

 専門医の見解としては。

 

 

 『勇者としての力を発動している間は、身体能力が向上するのと同じに人が持つ“免疫”も向上するはず。

 ならば、結界化した四国の大地を溶解させるほどの毒液に五体が溶かされなかったのは一重に勇者としての防衛機能が生命を維持させる為に働いたお陰だ』、と。

 

 

 しかし、と専門医はこう続けていた。

 

 

 『それでも勇者様たちが戦闘を終えて、土居様が運ばれてきたときは危険な状態でした。しかし、その時の土居様の身体からはその“毒”が一切検出されなかったのです。

 もしあの危険な状態で毒を注がれたという要素が重なっていたのなら、土居様はおろか伊予島様も今頃は助かっていなかったハズ』、と。

 

 

 

 球子と杏の身体に注入されたサソリ型の毒は何故か一切体内から検出されなかった。

 まるで、『誰かが毒の部分だけ綺麗に吸い取ってくれたみたいだ』と。不思議で不思議で仕方がなかったらしい。

 

 

「とうっ!」

 

「ちょっ、タマっち先輩!ベッドに上がってこないで!」

 

 

 まるで大切断繰り出す戦士の如く飛び上がった球子が隣の杏のベッドに乗り移る。

 ケガをしている部分は腕の部分なので足回りには問題のない球子だが、この病室が完全個室だとしても杏としてはとにかく静かにしろと言ってやりたかった。

 

 

「ふへへへ、病室暮らしでひなたのようなけしからんデカメロンが味わえない間は、杏のメロンで我慢しないといけないからなァ!!」

 

「そ、そんな! 私がただの妥協案だなんて! タマっちってば最低だよ!!」

 

「問答無用だ杏ぅ!いざ、登頂マウンテン―――――――」

 

 

 覆いかぶさるように杏の身体に跨った球子の片手がわきゃわきゃと蠢く。

 ひっ、と恐怖を抱く杏に遠慮することなく、情欲に支配された小さき獣の手が杏の胸へと伸びて―――――、

 

 

 

「はしゃぐな!!」

 

「あぅっ!」

 

 

 

 ゴズッ、と球子の脳天に分厚い書物が叩き落された。

 相当重量のある書物の一撃に片腕で頭を押さえる球子は振り返って自分に鉄槌を下した人物を見て口を開けた。

 

 

「真鈴さん」

 

「ま、真鈴ぅ……」

 

 

「ふんっ!動いて傷が開いたりしたらどうすんのよまったく!まったくもう、まったくっ!」

 

 

 怒る少女の名は安芸真鈴(あきますず)

 上里ひなたなど、勇者達をサポートする巫女の一人だ。また、この真鈴という少女はバーテックスが愛媛県に襲来した際に杏と球子を勇者として導いた経歴を持つ。

 杏と球子の二人にとっては特別な存在の巫女なのである。

 

 

「べ、別にいいだろ真鈴ぅ……ここ勇者専用の個室だし、ほかの病室からは殆ど離れてんだからさぁ」

 

「球子ォ。そういう問題じゃないの、医師と看護婦さんからの言伝で“土居さんは落ち着きがないから怪我しないように見てあげて”って言われてるのよ?

 お医者様から絶対安静だって言われてるのよね?そのお約束を守らない守る気がない子には今後一切、差し入れでフルーツ持ってきてあげたりなんてしません!」

 

 

「う、うわぁメロン!タマのメロンがぁ! ひ、酷いぞ真鈴ゥ!鬼!悪魔!真鈴!」

 

 

 片手に持つバスケットの中、綺麗に包装されたメロンをひょいと持ち上げて球子から遠ざけた真鈴に球子本人から抗議の声。

 

 

「あ、あのぅ真鈴さん……もうそれくらいで……」

 

「杏ちゃんもちゃんと球子の事見てなきゃダメじゃない。 いつも暴走して他の勇者たちに迷惑かけてる球子にストップ掛けてるの、杏ちゃんでしょ?」

 

「うっ……なぜそれを……」

 

「巫女の子から聞いたわ」

 

 

 絶対にひなたさんだ。と杏はそう思った。

 球子と杏が仲の良い姉妹だとするのならば、真鈴という少女は何なのだろうか。

 巫女であり、一つ年上の先輩である。でもそれ以外に。

 

 

 勇者と丸亀城という学び舎で一緒にいることが多い巫女の上里ひなたとは違い、大社で暮らす真鈴。

 二人に会えない時間の方が多いので事細かに上里ひなたから近況を聞き、無事なのか、怪我がないのかと不安に駆られていた。

 こうして怪我をした二人の為に毎日(・・)お見舞いに来て面倒を見てくれるその姿は彼女たちの姉のようにも見える。

 

 

「ほら、分かったんならさっさと自分のベッドに戻る!そしたらメロンは二人の為に切ってあげる」

 

「へーいへーい、分かったよ……っと」

 

「あっ……」

 

 

 悪びれた様子の球子の身体が一瞬だけふらついた。

 日頃の運動不足が原因なのだろうか、落下することはなかったものの地に足がついていない状態の球子がベッドの上にへたり込む。

 

 

「もぅ、タマっち先輩。 無理しない」

 

「むぅ……やっぱ1週間も動いてないベッド生活だと筋肉が衰えるゾ、こりゃぁ退院後の復帰訓練には骨が折れるだろうなァ……」

 

「リハビリ、基礎体力作り、すぐに戦闘に戻れないのは皆に申し訳ないね……」

 

 

 杏と球子が二人して唸るような声を出していた。

 勇者としての戦闘訓練は自衛隊が行っていたモノを流用しているからか、内容がかなりハードなものである。活発な球子ですら時々息を切らすほどのもの。

 杏ですら最近になってやっと慣れてきたばかりだというに、こうして怪我をしてしまえばまた鍛えた体の基礎はゼロの地点まで戻る。また一から鍛えなければならない。

 

 

 

 体力、筋力、柔軟性、精神面などを踏まえた時、一流のアスリートに限らずケガから競技に復帰させるまでは時間が掛かるのだという。

 杏と球子は勇者として回復が早いかもしれないが、よほどの緊急時出ない限り手負いの戦士を戦いに出さないようにするのが大社の方針だった。

 戦線への復帰は最低でも2か月以上先になるだろう。

 

 

「ま、いざとなったら無理してでもタマが出てみんなを守ってやるさ、それまで―――――」

 

「だめよ」

 

 

 ベッドから漸く降りようとする球子の両肩を真鈴が抑えた。

 起き上がる支点を封じられたためにどんなに力を込めても球子は立ち上がることが出来ない。

 真鈴は球子を抑えたまま、杏へと視線を向けて。

 

 

「杏。 ちょっとこっちに来なさい」

 

「え」

 

「いいから球子も」

 

「な、なんだよぉ、自分のベッドに戻れっていったり、こっち来いって言ったり……」

 

 

 球子、杏の両の肩に手をやり、二人の間に割り込むように真鈴は身体を入れた。自身の胸に二人の頭部を抱き寄せる。

 ぽふん、と柔らかな感触に球子が『お?』と表情を変えるが真鈴のその行為に戸惑いを隠せないでいた。

 

「………」

 

「ちょ、真鈴……?」

 

「ま、真鈴さん………?」

 

 

 強く、でも優しく、遠くに行ってほしくないと願うように、真鈴は二人を抱きしめる。

 自身の胸に顔を埋めさせて二人の伝わる息と熱。

 間違いないく二人が生きているのだと、命の存在がここにあるのだということをその身に抱いて確かめる。

 

 

 

 戦闘が終わり、球子と杏が運び込まれたと聞いた時、真鈴は不安だった。

 杏も危なかったが、球子がもっとも重症で、医者から『もしかしたら……その時は覚悟していてください』と言われた時は目の前が真っ暗になった。

 

 

 手術室の待合室で真鈴は頭を抱えながら思う。もし球子と杏が死んでしまったら。

 嫌な予感が頭を過って、二人なら大丈夫だと言い聞かせても頭の片隅で、その『もしも』が現実になってしまったら、と悪い考えが止まらない。

 

 

 椅子に座って、『手術中』のランプが消えるのを待つ真鈴の胸中には後悔の念があった。

 

 

 もっと二人の傍に居てやればよかった。

 大社にその考えを否定されても無理にでも二人の様子を見に来て、声を掛けてやれればよかった、と。

 

 

 もはやそこには巫女と勇者という単一の関係ではなくなっていた。

 気づけばいつの間にか、球子と杏は真鈴にとってかけがえのない存在になっていたのだ。

 

 

 だから、こうして二人が目の前に元気な姿で居てくれることに真鈴は安堵したのだ。

 願わくば、もうこれ以上、命を危険に晒すような真似はしてほしくないというのが真鈴の本音である。

 

 

「あ、あなたたちに死なれちゃったら……わ、わたしが責任負うこと、に、なる…っ、のよ……い、一応、あなたたちを導いた巫女、なん、っだから……っ」

 

 真鈴は本心を伝えることがあまり得意ではない。特に身近で、本心を伝えたいと思っている人間に対して。

 

「だから、怪我が治るまで戦わない……怪我が治っても、無茶しない……他の勇者様たちに迷惑、掛けちゃうでしょ……っ」

 

 

 人が自分の感情を上手く伝えられないとき、表わせない時に様々な行動をとる。 

 

 

 泣いたり。

 物に当たったり。

 声を出したり。

 抱きしめたり。

 

 

 本心はすごく心配しているのに、肝心な二人を前にしたときに心配しないように振舞ってしまうのが安芸真鈴という少女の心理だった。

 言葉に出せないからこそ、真鈴は二人を抱きしめてしまうのである

 

 

 

「……」

 

「……」

 

 

 真鈴の胸に抱かれながら、二人は彼女がそんな言葉を紡ぐ一方で必死にえづくのを堪えているのを耳にして頬を緩ませる。

 真鈴の言葉が本心でないと分かってしまったから。その言葉の裏で今泣いてしまうほどに自分たちの事を心配してくれていたのだということが分かってしまったから。

 

 

「素直じゃないなぁ真鈴は」

 

「はは……」

 

 

「うぅ……うるさいぃ……これ終わったら二人に遅れてる分の勉強させるから……先生からは許可取ってるから。これからは私がアンタたちの面倒、付きっきりで見てあげるんだから……」

 

 

 真鈴自身が泣き止むまで杏と球子は捕まったままだったが、今だけはそれが嬉しく思えてしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――数十分後。泣き止んだ真鈴の指導の元、杏と球子は勉強をすることになった。

 

 

 

 

「はい、球子。 問題、八百屋で1箱1000円するリンゴの箱を10箱買いました。さて、金額は一体いくらになるでしょう?」

 

「ほ、ほんとに勉強するハメになるとは思わなかったゾ……こんなの楽勝だろっ! 答えは10000円だ!」

 

「違うわ! おばさんがオマケしてくれて9000円よ!!

 

 あなたの計算には“心”が入っていないわ! 

 血も涙もない数学なんてコンピューター内部の計算上でしか役に立たないものなのよ!」

 

 

「んん? タマは真鈴から数学を教えてもらってるんだよな?」

 

 

 あまりにも理不尽な答え。と二人が思う中、次の標的は杏へ。

 

 

「杏。私がこれから投げるボールに書かれている数字がなんなのか、当てて見なさい」

 

「もはや勉強じゃなくて、反射神経の特訓になってる……病室でははしゃぐなって真鈴さん言ってませんでしたっけ?」

 

「いいから行くわよ―――――――ふんッ!!」

 

「うわぁっ!? 滅茶苦茶に早いッ!!答えは――――――――3ッッ!!」

 

『6』

 

「デタラメヲイウナッ!!」

 

「ええぇっ!?」

 

「これ……身体が治るまで続くのか。キツイゾ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「……」

 

 

 その大社の管理する病院の屋上。

 中世風の顔立ちをした一人の男が静かに佇んでいた。

 

 

 屋上の手すりにもたれた男、常磐SOUGOの手には一つのウォッチが握られている。

 

 

 青のライダー、バイオライダーのライドウォッチ。

 表面がひび割れ、可変しても電子音を発さないライドウォッチだったもの(・・・・・)

 

 

 それはもうこれ以上、仮面ライダーバールクスがそのウォッチを使用できないという事を示していた。

 

 

「やはり、だめか……これで使用できるウォッチは――――――」

 

 

 所持していいるバールクスのライドウォッチを除いて3つ。

 BLACK。 

 BRX。

 ロボライダー。

 

 

 いずれも強力なことに変わりがないライドウォッチだが、使いどころが難しい。

 ジクウドライバーをもとに変身するライダーたちは素の戦闘能力が高ければ問題がないが、肝となる戦闘はライドウォッチによる変幻自在の対応能力にある。

 

 

 その中でもバイオライダーはSOUGOが所持するライドウォッチの中でもっともあらゆる状況下で対応が可能な万能なライドウォッチであった。

 ゲル化時の物質透過能力、物理攻撃無効、毒無効、冷凍、熱無効、電撃無効、状態異常に耐性を生み出す、ダメージリセットなどBRXの力の中でも多彩な能力を持つ。

 

 

 それを失ってしまったSOUGOのバールクスとしての戦闘能力は大幅にダウンしてしまったと言えるだろう。

 まさか『毒を吸いだしただけでウォッチが壊れてしまう』など彼自身も予想していなかったことだ。

 

 

 

「SOUGOさん」

 

「お前は……」

 

「乃木若葉です」

 

 

 背後からの人の気配。

 屋上へと通じる扉が開かれ、その人物が真っ先に自分のところへやって来たのを察したSOUGOが振り返れば一人の少女。

 勇者達を率いるリーダー、乃木若葉の姿があった。

 

 

「この度の助太刀……土居と伊予島の件、勇者を代表して感謝を申し上げたい……本当にありがとうございます」

 

 

 背を向けたままのSOUGOに対して、若葉が深々と頭を下げる。

 それは仲間を窮地から救ってくれたことに対して、四国を守ってくれたことに対するSOUGOへの感謝だった。

 

 

 首を少しだけ動かして僅かな視界に若葉を捕えると若葉は粛々とただひたすら真っすぐこちらへ頭を下げ続けている。

 

 

 真面目な奴だな、とSOUGOは思った。

 勇者とは違う、得体の知れない人間かもしれないというのに、仲間を助けたというだけでここまで感謝をされたことはSOUGOはここ最近の記憶にない。

 昨日の今日で、凛とした佇まいを崩さない。その在り方には武士のような気構えを感じる。

 図太い精神力の塊。そうでなければ、他の勇者を率いてバーテックスなどと戦えないだろう。

 

 

 

「我々の組織である大赦からSOUGOさんへ是非ともお礼をしたいとの申し出が……」

 

 

 だからだろうか、そんな少女が『大赦』の名前を口にしたことがSOUGOは一番癪に障った。

 

 

「いらん」

 

「え?」

 

「必要ないと言っている」

 

「ですが……」

 

 

 戸惑う若葉にSOUGOは構わず続ける。

 

 

「勘違いも甚だしいな。 俺は最初からお前たちを助けるつもりなど毛頭なかった。

 あの女たちを助けたのも、バイオライダーのゲル体にたまたま(・・・・)引っかかって結果的に助かっただけだ」

 

「なにを……」

 

 

「はっきり言おう、貴様ら勇者はあまりにも弱すぎる……今のままでは、また今回のような強敵が現れた際に何も出来ずに殺されるだろう。

 

 お前も、お前の親族も、お前の友と呼べる者たちも」

 

 

「SOUGOさんは、一緒に戦ってくれないのですか」

 

 

「俺は勇者ではない、魔王だ。 貴様らを助ける義理など塵一つとしてありはしない。

 第一、貴様らと戦うなど無駄なことだ、足手纏いになるだけだ……仲間だの、友達だの、所詮群れて戦うだけの女子供の勇者などに天の神の相手は務まらない。四国の命運は知れたものよ」

 

 

「ッ!! 撤回してもらう、その言葉!!」

 

 

 我慢の限界だったのか、若葉が憤った。

 

 

「確かに勇者一人は弱い。バーテックスという強大な敵に太刀打ちできないだろう……実際に私もそれを実感していた時期があった。

 だからこそ、皆で一丸となって戦うことが必要なんだと、その仲間が!友達が教えてくれた!

 

 球子も、杏も友奈も千景も!命を懸けてこの国を守ろうとしているッ 私の仲間を穢すなッ」

 

 

「ふんッ気に食わないか、この俺が」

 

「くッ!!」

 

「ならば勇者の力で俺に戦いを挑み、この場で成敗して見せろ」

 

「貴様――――!」

 

 

 くつくつと笑うSOUGOに若葉は何も出来ないでいた。その筈なのである。

 

 

「出来ないよなぁ。 俺を客人として大赦へもてなすように言われている大社の犬と化している勇者が……

 

 一度は四国とその仲間とやらを救った英雄様に斬りかかれるはずがないからなァ」

 

 

 若葉たちは大社によって管理されている勇者だ。

 そして若葉は今回の戦いで間違いなく恩人となっているSOUGOを連れてくるようにと大社から命令されている。

 

 

 言葉を違えない様に、何度も神官と練習した内容を。

 失礼のない様にと釘も刺されていた。

 SOUGOを若葉が攻撃する事など出来ないのである。SOUGOはそれを確信していた。

 

 

「俺に関わるな……いいな」

 

 

 SOUGOが悠々と若葉の真横を通り過ぎていく。

 屈辱に歪んだ若葉の横顔をその目で確かに見た。

 

 屋上から去っていくSOUGO。残された若葉はひたすら怒りを抑えながら、拳を握り続けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん?」

 

 

 病院を後にしたSOUGOは道を歩く中で只ならぬ気配を感じ立ち止まった。

 いつの間にか一人になっていたSOUGOの目の前には白い仮面をつけて素顔を隠す和服の者たちがいたのである。

 不気味な姿だ。

 顔が見えないというだけでその姿は異質となり本当に同じ人間なのかと思わされてしまう。

 

 

「大社か」

 

「その通りです。常磐SOUGO様」

 

 

 へりくだるように言葉を発する者たちは大社に所属する神官たちだった。SOUGOが不敵に笑う。

 

 

「なんの用だ。先ほどの勇者にも告げたが、俺は貴様らの下らん誘いに乗るつもりはないぞ」

 

「いいえ、今回はあなたに告げに来たのは……警告です」

 

「ほぅ?」

 

 

 顎に手を当ててSOUGOが眉を潜める。 顔色を窺えない神官は仮面の下でその内容を告げた。

 

 

「これ以上、勇者に近づかないでいただきたい」

 

「俺が勇者に近づくと、それだけで貴様らに不利益が起こるとでも言いたげだな」

 

「……」

 

 

 図星か。そうSOUGOは解釈する。

 

 

「俺は貴様らの命令を聞くつもりはない。だが、俺は勇者と関わるつもりは毛頭ない、その点は安心するがいい。

 

 俺が貴様らに望むのは、俺の邪魔をするなという事だけだ。

 戦闘に関しても、勇者とともに戦うことはないと思え……その間に勇者が死のうが俺の知った事ではない。

 天の神を殺せるのなら、俺はそれでいい」

 

 

「はい……それは分かっております。ならば、あなたもこちらのやり方には口をださないのが道理……」

 

「……好きにすればいい」

 

 

 SOUGOは感心する。大社の者たちが仮面の裏で何を考えているのか知りたくもなかったが。

 それでも、自分の目的を邪魔されなければそれでいいと、SOUGOは考えていた。

 

 

 SOUGOと勇者はこれから先何度も邂逅することになるだろう。

 その先先でトラブルを起こし、戦力である勇者にもしものことがあったら、それを防ぐためだ。

 

 

 大社は当初SOUGOと勇者の共闘を画策していた。

 あわよくば、バーテックスを屠る仮面ライダーの力と勇者の力を独占できれば。

 強大な力で四国を守護し、ひいては自分たちの身を守れる、と考えていたのだ。

 

 

 しかし、それは『神樹の意向により無理だ』という事が分かった。ならば、互いに不干渉を貫くことしかできないと確定付けていた。

 

 

 

 

 

「もし邪魔をしたのなら……」

 

 

 だからSOUGOは釘を刺す。大社が若葉にそうしたように。

 大社が勇者や人民に対して行ってきた情報の隠蔽。大社にとって最も痛い部分へ突き刺すのだ。

 

 

 

「諏訪と同じ結末がこの四国に待っているぞ」

 

 

 その言葉に誰もが凍り付いた。

 何故SOUGOが諏訪の事を知っているのか。

 何故諏訪が崩壊しているという遠征にでた勇者達しか知りえない情報を彼が知っているのか。

 

 

「どけ……俺の通る道だ」

 

 

 大社神官たちの思惑を気にすることなく、SOUGOは力強く前へと歩みを進める。 

 誰も彼の歩みを止めることが出来なかった。モーセが海を開くかの如く、神官が道を開ける。

 

 

 もしかしたら彼が諏訪を滅ぼした魔王なのかもしれないという恐怖心と勇者達にすら明かしていない諏訪を囮に四国の守りを万全にするという情報を知っているかもしれないという懸念が、自然と神官たちにそうさせたのだ。

 

 

 

 

 

 

 この日を境に、SOUGOと大社は互いに深く干渉しないことを約束する。

 SOUGOと勇者は仲間という関係になることなく、討つべき敵が共通だということだけで戦いを行う。

 勇者とSOUGOは勝手にバーテックスを掃討するし、それだけの関係でそれ以上のことはない。

 

 

 SOUGOも他者に自身の目的を脅かされること無く戦いに集中できる。

 大社としても無理にお願いすることなく、結果的に勇者と一緒にバーテックスの数を減らしてくれるので願ったりかなったりだった。 

 

 

 大社もSOUGOもそう思っていた。

 ただ一つ、大社とSOUGOに誤算があったとすれば。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あのッ!常磐SOUGOさんですね!私、高嶋友奈って言います!」

 

「あ?」

 

「アンちゃんとタマちゃんを助けてくれたお礼がしたいんです! 一緒にうどんを食べませんか!」

 

「は?」

 

 

 

 大社の言う事を『はいはい』と聞くだけの犬だと思っていた勇者が――――、SOUGOと大社の思惑を高跳びして飛び越えてくる規格外な勇者がいたという事くらいだろうか。

 

 

 

 

 

 




不可侵条約回(なお次回)。
サブタイはオーズ風。

バイオライダーウォッチちゃんは退場でございます。理由、強すぎるっぴ!


会話のネタは島本ZOとブレイド。
真鈴さん、何気に初めて書いたのにこんなネタセリフを吐かせて申し訳ない。
主人公が主人公なのでファイズっぽいタイトルとか、セリフが多くなるかもしれないけれど、それはそれで美しくないか?


次回、高嶋友奈のゲゲルが常盤SOUGOを追い詰める。(殺しはしない)

誤字報告、ありがとうございます。
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