最低最悪の魔王が征くのわゆ世界   作:バロックス(駄犬

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ブゥンッッ!!


07.死を呼ぶdisease

 

 

 常磐SOUGOは夢を見る。

 

 

 夢の中で、かつて『平成という時代をやり直す』という野望の為に、王として君臨しようとしていた世界にSOUGOは居た。

 

 

 そこは荒野が永遠と続いていた。

 ダイマジーンによって『平成』に生まれた全ての建造物、人が吸い上げられ尽くした結果だけが残っていた。

 いくつか劣化したビルや昭和に建造された物は辛うじて残っているくらいだろう。

 しかし寂れ、ひび割れ、崩れかけているその建物は遠くから見ても、ただの廃墟にしか見えない。

 

 

 

 古代の王族の古墳の上からその光景を眺めていたSOUGOは何故か心の中に何かを感じ取る。それがなんなのか、SOUGOには分からなかった。

 

 

『よぉ……』

 

 

 気配、そして背後からの声にSOUGOが振り返るとそこには玉座があった。

 四本の柱に囲まれたその中心にある真紅の玉座に虎の毛皮を敷くという「なんかソイツの趣味が分かりそうな」感じに一人の男、仮面ライダーバールクスが鎮座していた。

 

 

「……俺か?」

 

『そうだ。俺だ……常磐SOUGOだ』

 

 

 バールクスの変身者、同じ常磐SOUGOがこちらを見据えている。

 肩の金の装飾、未だ健在のバイオライダーのライドウォッチ。見間違えること無い、まさしく常磐SOUGOが変身した仮面ライダーバールクス。

 

 

『平成という時代のリセットは完了した』

 

「……成し遂げたと言うのか、お前は」

 

 

 そうだ。とバールクスは言う。

 

 

『平成ライダーの全ての力を奪い、消滅させ、平成と言う時代がそこに″あった″という事すら、認識されなくなりつつある……この夢の世界は、″お前が成し遂げられなかった平成リセットを成し遂げることが出来た世界″だ』

 

 

 見ろ、とバールクスが腕を掲げて指をさす。その先は荒野。

 平成と言う時代が刻んでいた証があったはずの大地。

 

 

『舗装され直され、文字通り、平坦でまっさらな地面だ……

 平成を象徴する人、物、仮面ライダーは何一つ残っていない。

 これから新しく、俺達によって作られていく……

 

 ″空っぽになったこの星で、時代は再びゼロから始まる″のだ……

 

 

 お前は、どう思う?常磐SOUGO……今この世界を見て、何か思うことはないか?』

 

 

 ふとバールクスに問われたSOUGOは再び荒野を見た。

 大地の荒れ具合はこれから良質な種と水を用いたとしても芽がでる可能性すら見当たらない、死んだ荒野だ。

 『時代が進み、栄える』という繁栄の芽を一方的に摘まれてしまった世界。

 

 

 故に、新しく何かを始めるには最適な初期状態と言えるだろう。その世界を見て、SOUGOは呟く。

 

 

「美しいな……だが、同時に虚しさを感じる」

 

 

 それは確かにSOUGOが感じたものであった。

 そして、以前のSOUGOならば決して得ることがない感情だった。

 

 

「お前は……己の野望を成し遂げたはずだ……

 だから、王として君臨したお前の今の姿には『強さ』も感じるし、『威厳』も感じる……

 

 なのに、なぜ俺は満たされていない……自らの悲願を成就させたというのに、この景色にも、お前を見ても、虚しさを感じてしまうのは……何故だ?」

 

 

 玉座に座すバールクスは燃え尽きたような雰囲気があった。

 歴史を変え。

 平成ライダーを消し。

 時代をリセットさせた。

 醜い凸凹の道を舗装し直して、新しく時代をやり直す機会を得たというのに。

 

 

 自分がこれまでしたことが、成し得たことが、『所詮こんなものだったのか』と、言い表せないような虚無感に囚われているように見えた。

 

 

 

『今お前がそう感じることが出来ているのなら……間違いなく、俺とは違う未来を造ることが出来る』

 

「は?」

 

 

 咄嗟のバールクスの言葉を皮切りに、SOUGOの視界がぼやけ始める。夢から覚める時が来たのだ。

 視界を覆うような砂嵐とモヤが同時にSOUGOを包み込んでいく。遮られつつあった視界の中で、バールクスの赤い瞳が妖しく輝いていた。

 

 

『過去は変えられない……だが、未来なら変えられる』

 

 

 

 

 その言葉を最後に、SOUGOの夢の世界での繋がりは途絶えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

「夢……、か」

 

 

 微睡から目覚めたSOUGOの目に移り込んだのはとあるホテルの一室であった。

 椅子に腰かけていたまま、眠りこけていたらしい。

 

 その寝泊まりしているホテルは大社が管理しているホテルであった。

 施設全般、金がかかっているのがよくわかる作りで、大社という組織が国の大臣よりも上の権力を持っているという事がよくわかる。

 

 

 

 薄型テレビの電源は入ったままで、今日も四国には″勇者と仮面ライダーが共闘し四国を守った″というニュースが報道されている。

 

 

 天災後、心に病を患った者たちは少なくなく、外出も拒む市民もいるほどで、誰しもが世界の終わりを予期したという。

 

 

 勇者と神樹がこの地で戦い守られているからか、四国はノアの箱舟だの、希望の地だの言われているらしい。

 そこに仮面ライダーという得体の知れない存在だが、勇者と共に戦い、バーテックスを倒してくれているという事実が活気を与えていた。

 

 

 大社の都合の良い情報操作によって。さぞかし、四国市民は希望に満ち溢れていることだろう。

 

 

「ちッ……痕が広がっているな……」

 

 

 服を着こんでいたために籠った熱を介抱すべく上着を脱いで、SOUGOは舌打ちした。

 上半身、心臓の部分を起点に広がるそれは痣。

 

 

 禍々しく、円を描く様に広がる紋様は次第に広がりつつある。

 

 

 天の神がSOUGOに最初に与えた祟りだ。

 

 

 

 天の神がSOUGOを従える為に施したその祟りは、一年を経過してもなお残り続けている。

 神が人を戒める為に、意にそぐわないものを律する為の祟りはSOUGOに痛みを与えていた。

 

 

「ぐ……っ、か……ぁ!!」

 

 

 左胸を掴むようにして、心臓を握るようにして、身体を襲う痛みにSOUGOは耐える。

 まるで焼き鏝を与えられたかのような、灼熱を孕んだ痛み。常人であれば恐らく立ってはいられないほどのものだ。

 

 

「ふーっ……ふー……い、以前より……痛みが増してきているな」

 

 

 暫くして痛みが引いていく。

 大きく深呼吸をしながら、SOUGOはゆっくりと胸に置いていた手を離していった。

 額からは尋常ではない汗。まるでフルマラソンをしてきたかのような疲労がSOUGOを襲う。

 

 

 天の神が発現させた祟りを消すには、現状は天の神を打倒す以外方法はない。

 しかし、SOUGOはいまだ天の神に迫れるほどの力を持っておらず、その命の灯すらも次第に弱まりつつあった。

 

 

 

 ものすごく単純な仕組みで説明すると、祟りによる痛みは日数を重ねるごとに増していくが、SOUGOが変身しても祟りは進行していく。

 これまでの変身にはなんとか表情に出さずに堪えることが出来ていたが、今の痛みが常時訪れ、更に増していくのだと考えれば――――、

 

 

「い、いつか……間違いなく、俺は死ぬ……その前に、天の神を……」

 

 

 天の神の祟りはいずれ人を殺す。誰からも、天の神ですら伝えなかったその真実にSOUGOは直感的に気づいていた。

 戦いの最中でも、この痛みは何度も襲ってくるし、それが致命的な隙になって窮地に陥ってしまうことは何度もあった。

 

 

 彼は、命を消費する運命にあった。

 ライダーとして戦い、命を削り。

 変身するだけでも命を削り。

 こうして時間が過ぎていくだけでも命を削っていく。

 SOUGOの生命のリミットは刻一刻と近づいて言っているといいだろう。

 

 

 よく、一年も耐えたものだなとSOUGOは思った。

 何度も何度もこの痛みのせいで死にかけたことはあったし、道中、動けなくなることもいくらかあった。

 

 

 そんな痛みに見舞われていたのに、未だ命があることにSOUGOは自身でも驚いている。

 恐らく、自身に宿る天の神への復讐心が消えかけの命の火を燃やしているのだ、と勝手に自己解決していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 SOUGOはホテルにあるカフェテリアである人物と出会う約束をしていた。

 窓際の席で一人コーヒーを飲んでいたSOUGOは後からやって来た白い仮面の男に視線を向ける。

 

 

 仮面には神樹を模した樹のマーク。大社の神官だった。

 神官は深々と頭を垂れると、SOUGOと対面するように腰かける。

 

 

「遅れてしまい申し訳ありません、SOUGO様」

 

「……ふん」

 

 

 そう言って、然程気にしていないという意志を伝えたのかSOUGOはそっぽを向いた。

 神官はSOUGOと同じくコーヒーを頼むと運ばれてきたそれを仮面を少しだけ持ち上げて、その隙間から器用に飲んでいく。

 

 

「こんな時くらい仮面は外したらどうだ」

 

「仕事柄です、お気になさらず」

 

「いや、普通に飲みにくいだろ、ソレ」

 

 

 大社の神官とは皆こうなのだろうかとSOUGOが思う一方。

 ごく、ごくんと飲み干した神官はコーヒーカップをテーブルの上に置いてから話を始める。

 

 

「生活で困ったことはありませんか」

 

「不自由はない、それよりもあの勇者達が俺に付き纏ってくる。早く止めさせろ」

 

「はっは、SOUGO様も随分と慕われているようですね……その御歳で中学生女子を侍らせるとはなんと罪作りな」

 

「……張っ倒されたいか?」

 

「御冗談です。

 大社の方には報告済ではありますが、勇者達へ外出禁止処分を与えることもしなければ、口頭による注意だけで済まされております。

 

 しかし、単独で行動しないこと。

 SOUGO様と接触する際は常に端末と勇者の武器を所持しておくようにと、口を酸っぱく言われていたらしいですね……SOUGO様もこの意味はお分かりで?」

 

 

「……俺への監視だろう。大社も『仮面ライダー』をそこまで信用してはいないという事だ。

 そして、いざというときは勇者の力で俺を拘束、もしくはいつでも無力化する準備をしている」

 

 

 ここ数日、SOUGOを取り捲く環境は一変していた。

 大社側からSOUGOに対して、衣食住を提供するという案を出してきたのである。無償で。

 このホテルも、その際に提供されたものであった。

 

 

 最初は何かしらの罠だとふんでいたSOUGOであったが、使者として遣われたこの男が言うには勇者と共に人類を守護してくれる仮面ライダーに何も礼をしないわけにはいかない、というものらしい。最初の提案とは打って変わったものとなっていた。

 

 

「敵のバーテックスも強くなってきた。勇者達の精霊という切り札が通じなくなってきた……しかし、最強精霊なら通じる。

 高嶋友奈のような、酒呑童子のような精霊ならば敵を倒すことが出来るが、今度は勇者に負担がかかりすぎる。

 

 あの精霊は使用すれば使用するほど使用者に危険が及ぶらしいからな。

 現状、勇者という人類の戦力が一人でも欠けてしまえば、戦況が不利になり、四国の市民が不安になる。

 大事な勇者を減らすことなく、戦力を維持したまま四国を防衛したい」

 

 

 一息。

 

 

「だから大社は俺に少しでも恩を売って、共闘の材料にしようとしているのだろう。最初は関わるなと言っておきながら、勝手な奴らだ。 俺が約束を勝手に反故にする可能性もあるだろうに」

 

 

「……大社は高嶋様からSOUGO様のことを色々と聞いておりました。

 

 どんな会話をしたのか。

 どんな性格なのか。

 他の勇者達の事はなんと言っていたのか、などです。

 

 恐らく大社はそれらの情報をもとにSOUGO様が勇者様達を、麗しき乙女たちを見殺すような冷血漢ではないと踏んだ。そして、その優しさにつけ込んだのでしょう」

 

 

「ふん、俺は魔王だぞ。そんな優しさは持ち合わせていな―――――」

 

「高嶋様が″SOUGOさんは樹海で死にかけてた私を助けてくれて、一緒に戦ってくれたんです!本当はとても優しい人なんです!だから信じてください!″と仰ってましたから……」

 

「高嶋ァ!!」

 

 

 怒り交じりにSOUGOの拳がテーブルを叩いた。

 

 

 正直、他者の命などどうでも良かった。

 ただ天の神へ復讐する事さえできれば、他者が隣で死ぬことなど気にも留めることはない。

 常磐SOUGOとはそういう男だ。一年くらい前は、そういう男だった()

 

 

「私も、SOUGO様には誰かを見捨てるような非情さを持ち合わせていないと考えております。勇者様達が懐いているのがその証拠です」

 

「お前はアレを、懐いているというのか……?」

 

 

 眉間に皺を寄せてSOUGOは答える。

 高嶋友奈は一方的に仲間に成ろうとしている感じだ。当の本人であるSOUGOは迷惑している。

 乃木若葉はどちらとも言えない、中間を維持している状態だ。

 郡千景に関しては明らかな敵意を向けている。

 

 

 よくこれで懐かれていると言われるものだとSOUGOは思う。

 それを見てか、神官が小さくほくそ笑んだ気がした。

 

 

「ですが、SOUGO様からは不思議と『嫌だ』、という感じがしないのは何故でしょうかね」

 

「……なに?」

 

「本当に煩わしいのであれば、熾烈な言葉を使ってでも、手を出してでも追い出そうとするはずです。

 コミュ力お化けの高嶋様でも、あなたに全力で否定されれば、察してそこから離れていくはずです。

 

 人は明確な拒絶を示す相手には無理に踏み込もうとしないですから……でも、貴方はそれをしなかった」

 

 

 神官は言った。

 

 

「それは、賑やかさも煩わしさも大切な日常の一つなのだとSOUGO様が理解しているからではないでしょうか。

 そして、SOUGO様はそれが気に入っている……嫌いではないのでしょう。勇者様達の事は」

 

 

「……ふん」

 

 

 好きではない、だが嫌いでもない。 

 だけど、彼女たちが作り出す空間は悪い気はしない。それがSOUGOの真意だった。

 

 

 友奈と若葉と千景。

 友奈一人だけでもあの五月蠅さだというのにさらに合流する勇者が二人もいる。

 これ以上変なことに巻き込まれるのは御免だとSOUGOが思う一方で。

 

 

 諏訪もたしかこんな感じだったよな、と懐かしさを感じているSOUGOも居た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 程なくして、会合は終わりを迎えた。

 

 

 

「では」

 

「待て」

 

 

 

 この大社神官との会合はSOUGOと勇者の連携を密にするためのものである。

 主に巫女による神託で次の襲来がいつなのか、と言ったものだ。

 最低限の情報共有だけがこの会合の目的と言ってもいい、そのはずなのに。

 

 

「最低限の情報共有が目的のクセに大社と勇者の近況をぺらぺらと喋ったり、果ては俺の健康状態まで細かに管理しようとしている……

 お前、大社の業務から大分逸脱しているぞ。上が知ったらその内消されてしまうんじゃないか?」

 

 

 怪訝そうな表情のSOUGOはこの大社神官もまたSOUGOを罠に嵌めようとする輩ではないかと警戒していた。

 

 しかし、神官はふふ、と笑って、

 

 

「大社としての私ではなく、個人としてSOUGO様の人柄に惹かれたまでのことです。

 だからついつい、余計な情報を喋ってしまうかもしれませんがお気になさらず。

 ま、信じるも信じないもSOUGO様次第ですが……」

 

「だからって、去り際にいつも健康食品さらっと置いていくのはやめろ。あまりにも多すぎて部屋の棚から溢れ出したぞ」

 

「にぼしは偉大です。偉い人にはそれが分からんのです。

 SOUGO様もちゃんと身体の健康には気遣いをした方がいいですよ。

この時期花粉酷いし肌も荒れます……ビタミンは摂取してます?ちゃんと睡眠はとってますか?」

 

「お前は俺のお母さんか」

 

 

 食生活にあまりこだわらないSOUGOを見かねてか、この神官はいつも帰ろうとするときにサプリやらにぼしなどの片手間で補給できる健康食品を置いていく。

 お陰でSOUGOのホテルの部屋には未開封の健康食品たちが棚のスペースを占領していた。

 

 

 聞けば、大社の中でもそれなりの地位にいて誰しもが認める健康オタクらしい。

 自身の名を彼は三好(みよし)と言った。

 

 

「こうして情報共有をしている時は大社神官という立場ではなく、魔王の従者としてあろうかと。

こう呼んでも宜しいでしょうか―――――ン我が魔王」

 

 

「おいやめろ」

 

 

 頭を垂れ、身を屈める三好のその所作に組織を裏切ったウォズの姿がSOUGOの頭の中では何故か浮かんでいたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 その日の夜、郡千景は自室にてゲームをしていた。

 窓のカーテンを閉め、灯りはテレビ画面の光のみ。

 傍らのテーブルの上には夜更かし用のブラックコーヒーが煎れたばかりなのか小さく湯気を立たせている。

 

 

「……っ!くそっ!このっ!このっ!」

 

 

 そう言葉を漏らす千景の様子はいつもと違っていた。

 手に握ったコントローラーのボタン、スティックの操作により指がせわしなく動くのは仕方がない事だが、今日の千景のプレイスタイルは一言で表すと『荒れていた』。

 

 

 最近発売された新作のゲームを始めて、ウキウキ気分の筈がプレイしてから数時間、千景の脳内はイライラでいっぱいだった。

 

 

 原因は最近になって現れた仮面ライダー、常磐SOUGOの件。

 

 

「アイツのこと考えてると……プレイに集中できない」

 

 

 SOUGOが現れて、球子と杏を救ってくれたことは認める。

 高嶋友奈を救ってくれたことには感謝すらしている。

 

 だがここ最近、勇者達と一緒にSOUGOのところに行くようになって、友奈が親し気にSOUGOに話しかける光景を目の当たりにしてから、胸の奥が痛む感覚があった。

 

 

 

(なんで……なんで見ず知らずの男に、そんな笑顔を向けるの……?)

 

 

 高嶋友奈の笑顔は郡千景にとっての光だ。

 彼女と隣にいるだけで、その笑顔を見るだけで千景は救われ、今こうして勇者を続け、生き続けている理由になっている。

 生涯の友を得た。

 親友以上に大切な存在、それが千景にとっての友奈である。

 

 

 その友奈の笑顔を向ける相手が得体の知れない男に向けられていると分かって、千景が嫉妬するのは時間の問題だった。

 精神のゆらぎは彼女の本来のプレイスタイルを阻害し、操作は乱れ、思うようなゲームを展開することが出来ない。

 

 

 これがただの小さな嫉妬であれば良かっただろう。しかし、無視できない問題が存在する。精霊の『穢れ』だ。

 

 

「どうして、どうしてっ、どうして―――――!!」

 

『決まってるじゃない……あなたから奪い取るためよ……』

 

 

 頭につけていたヘッドフォンを通して聞こえてきた声に、はっとなった千景は真横を見る。

 

 

 千景は驚いて思わずコントローラーを落としていた。

 自分とまったく同じ容姿をしたもう一人の自分がそこに居たのだから。

 

 

「どういう、ことよ……」

 

 

 気味の悪い夢だと思った。

 夢だと思ったから、疲れているのだと思ったから千景はもう一人の千景に尋ねた。

 

 

『あなたから奪い取る為に恩着せがましく、彼女を戦いで救った。そして、高嶋友奈は優しい。

 そして人に懐きやすい。自分を救ってくれた恩人なら尚更に……それはあなたも分かっているはず……

 

 結果的に、高嶋友奈はずっとSOUGOという男にかかりっぱなし、あの笑顔を欲しいままにしている……』

 

 

 わざとなのよ、全ては。

 と、もう一人の千景が千景の身体を抱きしめてきた。両腕を背に回して離れないようにし、耳元で囁く様にかかる薄い吐息にこそばゆさを感じる。

 

 

『思い出しなさい、私。

 私、郡千景の周りにいる大人や学校のクラスメイトが私に何をしてきたかを』

 

 

 千景の脳内で虐められてきた記憶が蘇る。

 両親に生まれたことすらも疎まれ、クラスメイトから執拗に虐げられてきた忌々しい記憶が。

 

 

『服を脱がされた上で、身体にバケツいっぱいの水を掛けられたわよね。

 体育館シューズ、焼却炉に投げ込まれてたわよね。

 男からも女からも囲まれていっぱい蹴られたり、殴られたりしたわよね』

 

 

 もう一人の千景の手がつぅ、と右耳をなぞった。

 

 

『耳だって切られたわよね、ハサミで』

 

 

 最悪の中の最悪。

 一生傷に残った右耳に触れられたことでトラウマを刺激された千景は心臓を鷲掴みされたように息苦しさを感じる。

 

 

 全ての人間がそんな憎悪をぶつけてくるだけの畜生なわけではない。

 友奈のような優しい子もいる。

 若葉のようなまっすぐだけれど、千景を仲間だと言ってくれる子もいる。

 

 

 だけど、だけど実際に過去に出会った郡千景の周りの人々は――――。

 

 

『ただひたすら奪い続けてきた……郡千景の居場所を。

 家も学校も、どこの場所に行っても自分の居場所なんて何一つなかった……

 

 そして、高嶋友奈の笑顔が見れる隣すらも、今奪われつつある……』

 

 

「やめて!!」

 

 

 もう一人の千景を振り払い、千景は耳を塞ぐ。

 己の内面の激情を駆り立てる精霊の穢れが生み出した幻覚の声を逃れるために。

 しかし、その声は耳を塞いでも意味がない様に脳内に響く様に伝わる。

 

 

『奪われる前に、奪いなさい……

 消される前に、消しなさい……

 あの男は、常磐SOUGOはあなたの敵よ……』

 

 

 半月状に弧を描いた口をしてけたけたと笑う自分の姿があった。

 それは時間にして数十秒ほどの出来事。

 気づいたころにはもう一人の自分は消え失せ、テレビ画面はポーズした状態で停止していた。

 

 

 気持ち悪い夢を見た。

 気持ち悪い感覚があった。

 心をぐずぐずに腐らせるドス黒い感情があった。

 

 

―――――あの男は、常磐SOUGOはあなたの敵よ……。 

 

 

 夢で見た、もう一人の千景の言葉が耳に残る。

 言葉にできない不安が千景の心を揺らし、目尻からはいつの間にか溜まった涙が流れている。

 

 

「いや、いや……奪われる、高嶋さんが奪われる……私の居場所が……そんなの、いや……!!」

 

 

 動悸が激しくなり、呼吸が荒くなる。

 嗚咽が混じりの咳をする千景は高熱にうなされるような眩暈を感じた。

 くらり、くらりと身体を振ってベッドにもたれ掛かった時―――――、

 

 

「……え?」

 

 

 

 千景は見た。

 ベッドにもたれ掛かった自分の腕が『ノイズが掛かったように乱れていた』のを。

 腕だけでなく、″全身″にもそれが行き渡っていたのを。

 

 

「あ、あ…ああ……いやぁあああああああああ!!」 

 

 

 テレビの画面が砂嵐のように乱れていく自分の身体が次第に存在を失い、透けていくのを見た。

 郡千景と言う存在が消失しそうになっている現象を目の当たりにした千景は震える手を見つめて、絶望の叫びを響かせる。

 

 

 

 

 

 

 それは神樹が生み出す恵みのサイクルに割り込んできた極小のバーテックス型のウィルスだった。

 天の神が四国を攻めるために生み出したそれは神樹の結界を超え、樹海化も起こさせないまま四国に侵入してきたのである。

 

 

 

 人に感染するコンピューターウィルス、『バグスター』。

 それは人の脳に寄生し、宿主の存在を奪う『ゲーム病』を発症させる。

 

 

 『ゲーム病』を発症した患者が行き着く先は自身の『存在の消失』……すなわち、『死』である。

 

 

 

 

 

 潜伏期間を経てゲーム病はこの日を境に四国で発症した。四国でゲーム病を発症したその人数、初日で『300人』。

 

 

 

 それは神樹と勇者と仮面ライダーを酷使する過酷な消耗戦の始まりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




アイガタビリィ……郡千景ェ!!


ゲーム病
・仮面ライダーエグゼイドに登場する病気。
人に感染し、脳に寄生するコンピューターウィルス、バグスターがこの病気を発症させる。一度発症させると感染者はめまい、高熱などの一般的な病気の症状がみられるようになるが、病状が悪化すると感染者を取り込み、3D形態バグスターユニオンとなって現実世界に実体化する。ユニオン形態から患者を切り離すのがエグゼイドにおける初期段階におけるゲーム病患者に行う処置だが、患者とバグスターを切り離すと怪人とバグスターウィルス(戦闘員)分離する。 この時のバグスターは患者との繋がりを保ったままであり、患者はバグスターに『存在力』を吸われ続け、身体が透明になっていく症状が現れる。全ての『存在力』を吸われてしまうと、その世界から患者は消滅し、寄生していたバグスターは人間への寄生を介さずに永久に存在できる完全体へと進化する。この病気を完治させるためには完全体に至る前に分離状態のバグスターを撃破する必要がある。なお、エグゼイドはゲームをモチーフにした敵怪人が出てくるため、そのゲームにちなんだ特定勝利条件を満たすことで怪人を倒さなくてもゲーム病が完治する例もある。この作品におけるゲーム病は天の神がSOUGOの魂の記憶から仮面ライダーエグゼイドの情報を抜き取り、作り出したもの。天の神が『何らかの方法』で四国へもたらし、神樹のデータベースから四国にもたらされるリソースに侵入し、特定のソーシャルゲームをプレイした者に感染する仕組み。バグスターウィルスは実体化した時点で怪人体となって現れる。その時点で樹海化発生、しかし怪人体が現れる頻度は異なるため、樹海化発生の頻度は上がる→24時間の厳戒態勢による疲労蓄積→戦闘長期化による恵みの一部に不具合発生→住民が不安に陥る→内ゲバ発生のコンボ。最悪、戦闘終了後、五分毎に出撃とかありえる。過労死不可避。


天の神「戦闘で神樹にたくさん樹海化起こさせて、勇者とライダーと神樹を疲れさせようぜ作戦」


三好さん
・健康オタク。元祖ニボシ好き。ウォズっぽいけどウォズじゃない。大社とSOUGOのパイプ役。

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