最低最悪の魔王が征くのわゆ世界   作:バロックス(駄犬

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何箇所かの地域で緊急事態宣言が解除されるみたいですね。
まだまだ戦いは続きますが、粘り強く、身体を大切に頑張っていきましょう。


約束通り、Xデーという事で千景編スタートです。


08.始まる四国のunhealthy

「うぉおおおおお!!!勇者ぁパアアンチッッ!!!」

 

 

 四国が結界に包まれた樹海の中で、友奈の叫びが木霊する。

 

 

 精霊『一目連』を身に纏った暴風の如き手数の拳が人の形をした異質な存在達へ放たれた。

 ドゴッドゴッドゴッという連続的な衝突音と共に異質な存在達は奇妙な声を上げながら空へと殴り飛ばされていく。

 

 

 

『ウィッ!?』

『キーッ!?』

『ヒヒヒッ!?』

 

 

 などと、奇声の類を口にして地面へ落ちていく人の形をして、頭部はオレンジのタコのような姿の者たちは小さく爆発して消えていく。

 

 そこに生物の死体というのは何一つ残っていなかった。

 

 人に感染するコンピューターウィルス、『バグスター』それが、彼らの総称である。

 

 

 『仮面ライダーエグゼイド』の世界に存在するこのウィルスは人に感染し、脳に寄生するウィルスだ。

 時間を経過する毎にウィルスは活性化し、先ほどのような戦闘員や怪人態を引き連れて患者の身体から現実世界に実体化する。

 

 

「SOUGOさん!!こっちは終わりました!!そっちは手伝ったほうがいいですかぁ!?」

 

『必要ない』

 

 

 友奈と少し離れた場所でバールクスに変身したSOUGOはウィルス群の中でも一際異質を放つ存在と相対していた。

 

 

 青の肉体に黒のマント、そして貴族を思わせる白のシルクハットを被るのは怪人バグスターと呼ばれる者、『ソルティバグスターLv3』。

 

 

『フハハハッ!人間よ、塩漬けにしてやるぞ!!』

 

 

 高らかで、尊大さを滲ませた声を上げながらソルティバグスターが右腕を振る。

 脇を締めた、鋭いラリアットにも似た動作。しかし、それはバールクスの目に追えないほどのスピードではない。

 

 

 バールクスが行ったのは左腕を畳み、それをソルティバグスターが繰り出した攻撃に肩を向けるように翳しただけだ。

 

 肩、腕、手甲の三点による防御がソルティバグスターの攻撃力を削ぎ、威力が分散した事によってバールクスに与えられるダメージはほぼゼロとなる。

 

 

『!?』

 

『フンッ!!』

 

 

 

 攻撃を防がれた事で一瞬気取られたソルティバグスターの胸部装甲にバールクスの右正拳突きが叩き込まれる。

 たとえ『BLACK』のライドウォッチを不使用のパンチでもライダーのパンチは平均でもtクラスの重さを誇る。

 

『なに……?』

 

 怪人一体を殴り飛ばすなど訳がないはずなのだが、ソルティバグスターの身体は吹き飛ぶどころか数センチ動くだけで、本体もほとんどダメージを負っていなかった。

 

 

 その殴られた部分には白の結晶体が代わりに粉々に砕かれ、地面へ落ちている。

 

 

 

『―――――ほぅ……岩塩を身体に纏い、防御力を上げたか……面白い』

 

 

 

 ソルティバグスターの特色は力と格闘攻撃。

 岩塩を素材にしたシルクハットが及ぼす特殊能力によって、防御能力と格闘能力が強化されている。

 生半可な打撃能力は意味をなさないという事だろう。

 

 

『フハハハッハ!塩辛そうな顔をしている割に察しがイイな、人間!!』

 

 

 ソルティバグスターは高らかに笑い、突っ込んできた。

 友奈の拳に似た少し大きめの手甲の『左腕』をまるでバットで殴りつけるように振るってくる。

 

 そこにはまるで″とりあえず当てればなんとかなる″ような意思が垣間見えた。

 

 

 乱暴に振るわれる左腕がメインの攻撃手段なのか特別、一発一発が重みがある。

 まともに受けてしまえばただでは済まないだろう、バールクスは慎重にソルティバグスターの一手一手を対処していく。

 

 バールクスの体にヒットする軌道を予測し、ソルティバグスターの攻撃に対してナックル部分の側面に自身の拳を叩き込んではナックルを空振らせ、最低限の回避に徹した。

 

 

(ここか……!)

 

 

 腕を振り上げた際に生じ空間を縫うように、バールクスが踏み込む。

 

 それは数瞬の間に見つけたソルティバグスターの隙だった。翳された左腕の力が最大に作用する直前、振り上げ直後を狙ってバールクスが左腕を掴み、技の威力を殺す。

 中途半端に動きを止められたソルティバグスターの左腕は完全にバールクスに阻まれ、停止されていた。

 

 

『リボルケイ―――――』

 

 

 必殺の間合い、バールクスは長剣・リボルケインによるトドメを行おうと手をベルトへ翳す、しかし。

 

 

 

 

『そのしょっぱい防ぎ方……失敗だったな!』

 

『なに……うぉッ!?』

 

 

 ソルティバグスターの左腕から青白い光が迸る。

 その者が持つ本来の攻撃手段『ソルティナックルⅢ』の電撃攻撃に仮面の下でSOUGOの顔が苦痛に歪む。

 電撃攻撃こそが、ソルティバグスターの真骨頂だ。

 それは身が引き裂かれてしまうのではないかと程の威力。

 

 

 左腕のアームパーツから放たれる雷撃は触れなければ効果は無かったと、バールクスは防御手段を間違てたな。と呑気に思考する。

 

 そうやって、呑気に思考するほどに暇があるバールクスを尻目にソルティバグスターはくつくつと笑った。

 

 

『人間よ、更なる味付けが必要だな。 私が塩もみしてや―――――え?』

 

 

 勝利を得た、そう思っていたソルティバグスターがそんな声を上げた。

 視線の先、自身の左腕が手首から先にかけて消えていたのが分かったからだ。

 

 

 直後、ぽとり、と真後ろに″斬り落とされた″自分のアームパーツが落ちるのを見た。

 

 

『舐めるなよ、ウィルス風情が』

 

 

 電気攻撃の発生源であるアームパーツを斬り落としたバールクスの長剣・リボルケインがエネルギーを纏い、輝く。

 

 

 バールクスはそのまま駆け、間合いを詰めるとソルティバグスターの左肩から左腰までに掛けてリボルケインを袈裟懸けに振り下ろした。

 岩塩を纏う強固な鎧など意にも介さず、敵を焼き斬る為のエネルギーを纏うリボルケインは容赦なくソルティバグスターの肉を斬りさいていく。

 

 

 それはまさしく必殺。

 読んで字の如く、対象を『必』ず『殺』す一太刀であった。

 

 

『がッ―――ギッ!?』

 

『その程度の電撃で、俺を殺せると思ったか……俺を殺すなら、今の電撃の三倍は用意して来い』

 

 

 敵を両断したバールクスが捨て台詞と共に背を向ける。

 完璧なタイミングと言うべきか、ソルティバグスターは天に両の腕を上げながら盛大に爆散した。

 

 

 敵の殲滅が完了したのか、樹海に包まれた空間が次第に白んでいく。 

 四国を守る樹海化の結界が解かれ、現実世界へと戻る際に起きる現象だ。

 

 

「くッ……」

 

 

 他の勇者達が勝利を喜んでいる中、SOUGOが変身を解除し、膝を着いていた。

 ソルティバグスターの不意を突いた電撃攻撃、自身に広がる天の神の与えた祟りがSOUGOの体力を加速的に奪い取っていく。

 一度の戦闘でこれだけの疲労を見せるようになったのはつい最近のことだ。

 

 

 時間がない。

 自分の命が消えていくを、痛みを以て実感させられているようだ。

 

 

・・・・・まだ、まだ俺は死ねん。

 

 

 今こうして膝を折り、息を荒くしている姿を他の勇者達に見られていないことにSOUGOは安堵する。

 

 死期が迫り、時間が無いことを悟っても彼には死ねない約束がある。

 

 そうやって自分を奮わせて立ち上がったSOUGOはただひたすら前を向き、現実世界へと変化していく樹海の景色を目に焼き付けていた。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 現状の説明をしよう。

 四国には今、ゲーム病が蔓延している。

 

 

 原因はソーシャルゲームアプリ『C・シャドウ』というゲームにあった。

 それはバグスターウィルスを蓄積させたウィルスアプリで、アプリをプレイした者は問答無用でバグスターウィルスに感染する仕組みだ。

 

 

 それは壁の外、天の神が作り出した恐ろしい贈り物であった。

 

 

 これまで神樹は四国結界の外からやって来るバーテックスを探知し、神託として巫女に伝えていた。

 

 しかし、今回のウィルス来襲が事前に察知できなかった。それは、このウィルスが神樹の探知から逃れる能力を身に付けていたからである。

 

 

 ウィルスとは、進化する生物である。

 

 

 インフルエンザウィルスが毎年形を変えて、新型が生まれ、流行するように。

 とある肺炎は哺乳類のウィルスと鳥類のウィルスが合体してこれまでの治療が意味を成さず、世界中に爆発的に感染を起こした例もある。

 

 

 そしてこの世界のバグスターウィルスは神樹のレーダーに探知されない能力を持つように進化していた。 

 神樹のレーダーの目を掻い潜ったバグスターウィルスはあろうことか神樹の恵みのサイクルに侵入する。

 

 

 神樹の恵みはこの四国を機能させるのに重要なものだ。

 四季変化や、良質な水、電気、石油などの資源は神樹が生み出している。

 

 

 その中でもウィルスが入り込んだのは電子系統のサイクル。

 

 

 ソーシャルゲームのアプリとしての形を作り、自動的に四国の全域に飛び回ったウィルスたちは人々の身体に寄生し、潜伏期間を経て『ゲーム病』を発症させた。

 結果的にウィルスは神樹の目を逃れ、四国全土へ爆発的に感染してしまう。

 

 

 ここまで感染が拡大してしまった故に隠し倒せないと踏んだのか四国全域にゲーム病の存在を発表。

 

 民衆にバグスターウィルスは他者から他者へ感染するものではない、故に今存在するバグスターを勇者たちが対処できればそれで戦いが終わると告げて民衆を安心させようとした。

 

 が、気づくにはあまりにも遅かったと言っていい。

 

 

 

 潜伏していたのはおよそ1か月。つまり1か月間、四国にはアプリを通じてバグスターウィルスが流れてしまっているのだ。

 つい先日、初の『ゲーム病』患者が確認されたその数は300人。

 連日のように発症していくゲーム病患者は次第に増え、3日目になるとその人数は500人を超えていた。

 

 

 

 四国でゲーム病が明るみになってしまってからは爆発的な速度で発症する。

 

 

 次は自分も『ああ』なるかもしれない。

 もしかしたら、もう自分は感染してるかもしれない。

 その恐怖とストレスは人々に潜伏しているゲーム病を発症させるには充分であった。

 

 

 

 四国結界と言う閉鎖された空間に押し込まれた感染済みの市民とそうでない市民たちは逃れることが出来ないという現実に恐怖に駆られ、不安に陥る。

 

 

 大社は日々増加するゲーム病患者から不安を抱く四国市民たちの対応に追われる毎日だ。

 

 

 いつ頃になったら落ち着くのか。

 特効薬は見つかっていないのか。

 大社と勇者と仮面ライダーは何をやってるんだ。

 

 

 

 

 市民からそんな声が挙がっている中、もっとも問題となっているのは―――――。

 

 

 

「……また(・・)か」

 

「これで今日は三回目……」

 

 

 若葉と友奈の端末から『樹海化警報』が鳴り響く。

 勇者達の出撃回数が今まで以上に増えていた。

 

 

 これまでのバーテックス襲来は巫女が神樹から受け取る神託で、ある程度の時期を予測出来ていたため勇者と大社である程度準備が出来ていた。

 

 

 しかしバグスターウィルスの場合、宿主から現実世界へ実体化すると同時に樹海化警報が発令される。

 それは通常のバーテックスと違って神託による予知が出来ず、万全な対策を打てないまま戦闘を行わされる事を意味していた。

 

 加えて、バグスターが患者から分離する過程で『ストレスや負の感情』による進行の具合が患者によって異なるため、樹海化の発生に誤差が生じ一度では全てのバグスターを倒しきれない。

 

 

 

 早い話がウィルスを討伐中に増援が呼び出されて戦闘が継続したり、戦闘終了してから数時間、もしくは数分後にバグスター出現、樹海化警報、出撃という状況があるのである。

 

 

 よって大社は四国に厳戒態勢を布き、ゲーム病患者の早期発見と隔離と管理を24時間体制で行うことになり、それを迎え撃つ勇者も常に出撃できる状態を維持しなければならなくなった。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

 

 大社が管理する病院施設、高嶋友奈はこの場所で隔離されている一人の友人に面会に来ていた。

 

 

「ぐーんちゃん!お見舞いにきたよ!」

 

「高嶋さん……ありがとう」

 

 

 個室で一人ベッドに座る千景は体調が優れないのか覇気に欠ける声色だった。

 しかし、友奈のやんわりとした笑顔を見て同じように笑って見せてた。

 

 

 勇者・郡千景はゲーム病を発症し、隔離されてしまった者の一人だった。

 

 

 千景は自室にてゲームをしていた所、身体が突然ノイズが掛かったように透け始めるゲーム病を発症。

 その後体調不良を訴え、大社職員に連れられた病院で隔離されることになった。

 

 

 隔離中は外禁、そして端末には勇者に変身する機能にロックを掛けられている。勿論、戦闘には参加できない。

 症状は軽度だがゲーム病が引き起こす体調不良のため、万全でない千景が戦闘で万が一の場合があった事を危惧した大社の処置だ。

 

 

「ごめんなさい……私がこんな事になっているばっかりに、皆に負担を……」

 

「気にしなくていいよ!今日だって出撃も6回しかなかったし、ぜーんぶばっちし倒したから平気平気!」

 

「6回、しか……?」

 

 

 『6回』。

 その回数は本来のバーテックスとの戦いで行う1日の戦闘頻度を明らかに超えている。

 

 短い間隔で発生し続ける樹海化はこの一週間で合計86回。一日で平均10回以上戦闘が発生している事を意味していた。

 

 

「さっきもね!ずごーんって殴って、一発でバビューンって終わらせてきたの!」

 

「ちなみに高嶋さん、最近はちゃんと寝れてるの?少しだけ目元にクマが……」

 

「あっ、だ、大丈夫大丈夫!時間が余った時にぐんちゃんから借りたゲームをして徹夜になっちゃっただけだから!」

 

「む、無理はしないでね高嶋さん……ちゃんと寝れるときは寝てね?」

 

「う、うん!もちろんだよ!」

 

 

 慌てたようにそう返す高嶋の目元にあるクマは果たしてそういった理由なのだろうかと千景は勘繰った。

 しかし、多くを問い詰める事は友奈を困らせると思ったからか、それ以上聞くことを止めた。

 

 

 ゲーム病はその病を発症してもバグスターが実体化するまでは熱や眩暈など、一般的な風邪のような症状が現れる。

 そして患者の心身状態が良好であればそれらの症状が現れることはなく、健康体そのものだ。

 

 

 他者から他者に感染しないこのゲーム病の特性と千景が友奈と会う事により生まれる安心感が千景のストレスを緩和し、ゲーム病の進行を遅らせることが分かったからか。大社は千景と友奈の面会を許可していた。

 

 

 二人は時間が許すまま面会を続ける。

 病室では暇ではないかと心配した友奈がボードゲームを持ってきて一緒にやったり。

 小腹が空いた千景に友奈が持ってきていたリンゴを剥いて上げて食べさせてあげたりと。

 

 

 他愛もない話もしたりしたが、それは千景にとって幸せな時間だった。

 

 友奈との会話、彼女の存在こそが千景の特効薬であった。

 

 

「すやぁ……」

 

 

 数十分後、友奈は千景のベッドにもたれ掛かるように健やかな寝息を立てていた。

 

 

「高嶋さん……やっぱり戦闘で疲れてるのね……」

 

 

 友奈が眠るその様子はまるで今日初めて眠りについたかのような深さがあった。

 そして長袖を着ているうっすらと見える友奈の肌には絆創膏や包帯が見える。

 

 

 友奈が言うほど、バグスターとの戦闘は簡単なものではないということだ。

 

 

「ごめんなさい……私が、私が戦えれば……皆が大変な時に私だけ休んでるなんて……」

 

 

 肝心な時に、人が最も欲しい時期に勇者が一人いないことで仲間に迷惑をかけてしまっていることに千景は申し訳なく思った。

 連続して戦闘する勇者達の疲労からくる負担は相当のものだろう。そして、こちらに心配を掛けないように平気なように振舞う友奈の優しさには千景は頭が上がらなかった。

 

 

「ぐんちゃんは……わるくないよぉ……」

 

「あ……」

 

 

 不意に発した友奈の言葉に千景は面を食らう。

 

 

「わるいのはぁ……びょうき、なんだからぁ……ぐんちゃんはぁ……すぴー……」

 

「高嶋さん……」

 

 

 そう続けて、夢の中でも友奈は現実で気落ちしている千景のフォローをしてくれていた。

 それだけが、一体千景にとってどれほどの救いになってくれたか。

 

 

 

 

『フフ……綺麗な顔して寝ているわね……そう思わない?』

 

 

 だから自分の隣に突然現れた、もう一人の千景(・・・・・・)を見て、千景は心底嫌な気分になった。

 

 

「出てこないでよ……」

 

『幸せそうね、″私″。そんなツレない言葉を言わないでよ、人の言葉に打たれ弱いのは″私″自身がよく知ってるでしょう?』

 

「黙って……」

 

 

 短く拒絶の意を示す千景に対して、幻覚の千景がくすりと嗤う。

 そのまま幻覚は千景の耳元まで近づいて囁くのだ。

 

 

『襲っちゃえばいいのに……』

 

「なっ……!!」

 

 

 驚愕する千景に幻覚の千景はまた小さく笑って見せると、続けて甘い言葉を放つ。

 

 

『これだけ深く眠ってるんですもの……何されたって気づかないわよ。

それに気づかれたって、高嶋さんはあなたの事を拒絶したりなんてしない……高嶋さんは優しいから。

何をしても、友情を超えた行為をしても、貴女の事を受け入れてくれるわ……絶対ね、ふふ……』

 

 

「そんな、こと……」

 

 

 千景は想像してしまう。

 今眠りに落ちている友奈を自分のモノにしてしまう行為を。

 瑞々しい薄紅色の唇。

 邪魔な衣服を脱がし、その白い柔肌を手にしたときの感触を。

 例え拒否するような行動を見せても、その場で強引に押し倒して―――――

 

 

 

『――――って、想像したでしょ?』

 

「―――!!」

 

 

 その双眸が見たのは目の前で妖しく笑う自分。

 滑稽なものを見たように、やっぱりそうだよね、と確信を得たような笑み。

 

 

『それが郡千景の本質よ……あなたは友達が眠っている事を良い事に彼女を手にするために何でもする……手段を選ばない卑しい女』

 

「違う……違う…ッ!!」

 

『違わないわよ、″淫乱女″』

 

「やめろッ やめろッ やめろッ!!」

 

『否定できないわよね?あの(ヒト)の娘だものね……父親と幼い貴女を放って別の男を誑かして家を出ていった……阿婆擦れの母の娘、それが郡千景』

 

「それ以上言うなッ 私は……私は……!!」

 

『そうね、貴女は勇者。だけど忘れていない?貴女は今勇者として戦う事すら出来ていない……それが何を意味しているか分かる?』

 

 

 もう一人の千景は言う。

 人を狂わせる毒の針のような言葉を。

 

 

『今の郡千景は勇者ですらない。

 周りの皆は貴女が化け物と戦える勇者だから惜しみない賞賛を与えてくれた。

 

 友達だと答えてくれた。

 特別扱いをしてくれた。

 神を崇めるような目で見てくれた。

 

 それは貴女が勇者だから。

 分かる?勇者でないただの郡千景は無価値。

 戦えない貴女なんて、必要のない存在なのよ』

 

 

「あ、あぁ……う、うそよ……四国の皆は私の事を凄いって評価してくれて……っ、認めてくれてて……っ!!」

 

『掲示板の事?フフ……そうね、今はそうかもしれない、今はね……』 

 

 

 常に余裕を見せ続け、千景を煽るもう一人の千景。

 その言葉は毒。

 精霊の穢れが生み出す、幻覚がもたらす千景の内なる本来の不安やストレスを形にしたもの。

 

 

 その毒を全身に行き渡らせるようにもう一人の千景の言葉はゆっくりと千景の精神を穢していく。

 

 

 気がおかしくなるくらいに。

 不安と欲望を引き出させるように。

 心の傷(トラウマ)を抉り出す様に。

 

 

「消えてッ 消えなさいよッ 私の目の前からッッ!!」

 

 

 頭を抱えて、両の手で耳を塞いで千景は瞳を閉じる。

 五感をどんなに遮ってももう一人の千景の嘲笑うかのような声が脳内に直接響き渡っていた。

 

 

「いやぁ……いやぁ……っ!!」

 

 

 その時の千景は自分の身体がノイズが掛かったように透け始めている現象が起きている事に気付いていない。

 千景に寄生したバグスターウィルスがストレスを糧に活性化している証だった。

 

 

「ぐんちゃん!」

 

 

 そんな千景を。 

 下手をしたら症状が悪化してウィルスを実体化させてしまう一歩手前の千景を抱きしめる者がいた。

 

 

 

「高、嶋さん……」

 

 

 高嶋友奈が震える千景を抱きしめる。

 どこか遠くに行かせないように。

 その場から消えてしまわないように。

 

 

「大丈夫……大丈夫……ぐんちゃんは悪くない、悪くないから……!!」

 

 

 力強く、しかし優しく。

 千景が抱く不安を解す様に。

 

 

「高嶋さん……うぅ…うあぁぁっ!!」

 

 

 千景は泣いた。友奈の腕の中で。

 子供らしく、声を出して泣いた。

 たくさん涙を流して、千景が落ち着くまで友奈は一緒に居てくれた。

 

 

 面会時間が終わって、友奈が居なくなるころにはゲーム病による進行も収まり、千景を笑っていたもう一人の千景はいつの間にか居なくなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

「おい」

 

「?」

 

 

 千景の精神が落ち着いて、病院施設を後にしようとした友奈はその出口を通った所、そこに何故か(・・・)いたSOUGOの言葉に足を止めることとなった。

 

 

「SOUGOさん?」

 

「高嶋。お前はここで何をしている」

 

「えーと、ぐんちゃんのお見舞い、ですけど……」

 

 

 腕を組んで、壁に寄りかかっていたSOUGOの目はやけに険しい。

 壁から離れたSOUGOは友奈のところまで歩み寄ってくる。真紅の外套が男の歩幅に合わせて揺れ動く。

 彼の歩み、向かう道筋が彼の通る道だと言わんばかりに、その周囲には人、障害となる物がまったくもって寄り付かない。

 地面から革靴特有の音を打ち鳴らして悠々と歩くSOUGOの姿に友奈は彼が〝歩くだけでも絵になる男〟だという事を理解する。

 

 

「……うわぁ」

 

「……」

 

 

 半身ほどの間だけ残して、友奈の目の前にSOUGOの身体があった。

 もともと背自体高く、整った西洋風の男の顔には人を魅了する力を感じる。

 

 

 

 顔も良くて、普段の身体能力があったのなら。

 別の世界でアイドルでもやれていたんじゃないかと友奈が思ったくらいだだ。

 

 

 そういった別に異性としてではなく、個人の視界の中では〝なんかよくわかんないけどテレビの歌手みたいでカッコイイな〟と呆けている友奈に対してSOUGOは。

 

 

「フンッ」

 

「あぅ」

 

 

 ぺしん、と友奈の頭をチョップで軽く叩いていた。

 

 

「お前は乃木と仮眠中じゃなかったか?様子を見に来た大社職員が〝高嶋様が居ない〟と慌てていた」

 

「で、でも!ぐんちゃんのことが心配で!!」

 

「バカか。寝れないで死んだ人間はごまんといる。バグスターとの戦いはいつ起きるのか分からない……休めるときに休んでおけと大社からも言われているだろうが」

 

 

 SOUGOが眉間に皺を寄せながらため息をついている。

 バグスターウィルスの処理に追われる勇者達は戦闘後はそれぞれの宿舎に戻り、休憩・仮眠を取るのだがバグスターが実体化する頻度が多いために睡眠時間も削られがちだ。

 

 

 一日の出撃回数は6回から13回。

 この時の勇者達の仮眠時間は大きく上下するが、最低でも3~4時間、最大でも5~6時間だ。

 意外に多く仮眠が取れていると思うだろう。

 しかし、この仮眠時間以外は全て出撃・戦闘に充てられているという事を考えて欲しい。

 

 

 仮眠はあくまで仮眠だ。

 

 

 本当の睡眠ではなく、本当に事件が起きた時の為に即座に起きれるようにベッドに寝て、戦闘を意識して横になっても精神的にも肉体的にも何も休んだことにはならない。

 

 

 疲労だけが蓄積されていく、『夜勤』という仕事に就いたことがある社会人は経験があるのではないだろうか。

 

 

 大人なら、社会人は色々と踏ん切りをつけて『仕事だから』、と頑張れる。

 だけど、勇者たちは子供。十代そこらの少女。

 仕事とか、そんな事は考えずに友達と遊んでいたいと考えるのが普通。

 

 

 一般的な女子中学生の一日のスケジュールなんて授業開始の8時から下校時刻の17時。帰宅後ちょっと勉強するなりテレビを見るなり、明日の準備をして、22時ぐらいには寝る。プラスαで友達と長電話で24時から2、3時くらいの就寝ではないだろうか。

 

 

 だけど、彼女たち勇者たちは違う。休みの最中に戦いが急に起きる。

 24時間、戦いを意識しなければならない。 

 休憩中でも、寝ている時でも、風呂に入っている時でも平気で樹海化警報が鳴り響いて、出撃させられる。

 

 

 一度バスタオル姿で慌てて四国の樹海で変身しようとした若葉と友奈をSOUGOは偶然目にしたことがあった。

 

 

 その時は持っていた風呂桶を顔面目掛けて投げつけられた。

 SOUGOは不可抗力だと思った。滅茶苦茶痛かった。

 

 

 友奈や若葉などの勇者は戦闘時はそれぞれの武器を持参しなければならないという特徴がある。

 故に常日頃から武器を携帯しなければならないため休憩を第一優先と考える大社の意向で勇者達には極力外出を控えるように言われているらしい。

 致し方がないが、それでは身も心も煮詰まってストレスが溜まってしまうだろう。

 

 

「昨日は何時間寝た?」

 

「え……えと、ご、5時間……」

 

「んん?」

 

「さ、3時間……です。ごめんなさい……」

 

 

 ものすごい剣幕で睨むSOUGOに臆した友奈が目線を逸らしながら言った真実にSOUGOは深くため息をついた。

 

 

「今のお前たち以外に勇者はいない……戦線離脱した3人分の負担をお前と乃木で補っていくしかないのは分かっているな?」

 

「はい……」

 

「バグスターウィルスは患者の数だけいくらでも湧いてくるが、お前たち勇者の代わりは居ないぞ。

 お前が無理して大けがで長期離脱にでもなれば、今度は4人分の負担を乃木が負うことになる。

 

 そうなればいくらあの野武士がクソ強くてでも数の暴力で死ぬ。

 分かったのならさっさと宿舎に戻って寝て休め。

 郡の事もなるべく気に掛けるな。

 もっとちゃんと―――――――」

 

「……」

 

 

 俯いて、視線を下へと向けながらスカートの端をギュッと握っている……友奈の姿を目にしたSOUGOが言いかけた言葉を一度飲み込んで、自分の頭をぐしゃぐしゃと掻いて、言った。

 

「……もっと、お前は自分の身体を、自分の事を大切にしろ」

 

「!!SOUGOさん……!!」

 

 

 少しだけ、パァと顔が明るくなったのを見てSOUGOが目を逸らした。

 熾烈な言葉を言い切って、友奈に対して非情に徹するはずがただただ彼女を労るだけの言葉に代わってしまってSOUGOは気恥ずかしさを覚える。

 

 

 だけど、対照的に友奈は嬉しかった。

 SOUGOがただ怒るだけでなく、自分や他の勇者の事を案じてくれていたから。

 SOUGOは理由のない怒り方はしない。それが友奈には分かっていた。

 

 

 不器用だけど、人の事を大切にするSOUGOの姿は年端もいかない子供を守り、導く年上としての風格があった。

 

 

 その時、和やかな雰囲気をぶち壊しにする音が友奈の端末から鳴り響く。

 

 

「―――――あ!」

 

「チッ、もう来たのか……そら見たことか。

 ほぼ休憩なしで戦うことになる。自分のツケくらいは自分で払え」

 

 

 本日『7回目』の樹海化警報。

 バグスターが実体化したことによる勇者出撃の合図だ。

 

 

 友奈は正直な所、眠い。

 寝不足ではなく、超寝不足。

 今すぐ布団があったら秒で眠れる自信があるし、身体もどこか怠く、重い。

 

 

「大丈夫です!今の私、すーっごく負ける気がしないんです!」

 

「……ん?まぁいい、俺も眠いからな。 10分以内で蹴りを付けるぞ」

 

「はいッ」

 

 しかし、拳を握って、そう笑って答えた友奈の心は翅のように軽かった。

 

 

 

 

 

 

 




天の神「トロイの木馬作戦やで」

いつもの解説後書きは後日に載せます。
ソルティさんなどの一部のバグスターのキャラは癒し要素です。

バーテックスがいないから多分平和フェイズだね。
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