最低最悪の魔王が征くのわゆ世界   作:バロックス(駄犬

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もうすぐ長期休暇なのでうまく行けば終わる頃に千景編終わらせれるかもです。


09.焦燥のMentalBreak

 樹海化した四国の大地を駆ける者がいる。

 

 

 乃木若葉は精霊・『義経』を身に宿した姿で刀を地に触れか触れないかの位置を維持しながら、半身を晒す様に怪人と並走している。

 

 

 その怪人は若葉がこの樹海化した結界の中で何度も相対した事のあるバグスター怪人であった。

 顔全体を覆うほどの笠を被り、顔に当たる正面には鬼のお面。右肩に天狗、左肩には犬らしき動物の装飾がある。

 二つの太刀を手に持ち、その鮮やかな足さばきは腕に覚えがある剣豪を思わせる。

 

 

 ゲーム・『ギリギリチャンバラ』の登場キャラ、『カイデン』。

 それがウィルスによって変異した『カイデンバグスター』と呼ばれる者だ。

 

 

『斬り捨てぇ―――――――御免ッ』

 

 

 機を見て、切り返しを図るべく停止した若葉の思考を読んだカイデンバグスターが同時に切り返しを行い、二刀を構え突っ込んできた。

 一撃、即死技にも至る威力を持つ『カイデンスウォード・双』の重ねるように振るわれた刃が若葉の胴を切り裂こうとする。

 

 

 だが、八艘飛びの逸話を持つ『義経』の力を持つ若葉はその速さを凌駕する。

 源氏と平氏が争った『源平合戦』、迫る敵軍を物ともせず船から船へと身軽に飛び去っていく姿から生まれた伝承。

 

 

 『義経』を宿した若葉の戦闘能力は『加速』にある。

 大地を蹴ることで生まれた爆発的加速は、少女の華奢な肉体から到底考えられないものであった。

 それは瞬間的にカイデンバグスターを置き去りにする。

 

 

『な――――なに!?』

 

 

 消えた。

 そう錯覚したカイデンバグスターは若葉を見失い、周囲を見渡す。

 前方に二つの太刀を交差するように防御の姿勢を取った。

 

 

『臆したか剣士!隠れ身など小細工を弄せず、姿を表わせ!!』

 

 

 苛立ちを覚え叫んだ時、背後から僅かな殺気。

 カイデンバグスターの背に若葉は居た。

 

 

 自身とカイデンバグスターの背を合わせ、生太刀を右肩に担ぐように構え、腰を落とし気味にしている。

 身を守る為に前方のみに両の太刀を構えているカイデンバグスターの背後はガラ空きで、即座に防御に移るには致命的に時間が足りなかった。

 

 

 

「―――――ふっ!!」

 

 

 短く息を吐き出すと同時、若葉が反転。

 空気を裂く様に生太刀が振るわれる。

 迷いなく真横に滑る白銀の刃がカイデンバグスターの胴を肉から、背骨に掛けて剣閃が走りその身体を両断した。

 

 

 若葉の必殺の一撃はカイデンバグスターを仕留めている。

 あまりにも切れ味が鋭く、そして早い太刀筋にカイデンバグスターの胴は不思議と繋がっていたままだった。

 事実、肉体は斬られている。しかし、少しでも動いたり、風で煽られてしまえばすぐに胴と腰は離れ落ちるだろう。

 

 

『見事だ……剣士よ』

 

 

 カイデンバグスターは若葉を賞賛した。

 その顔は『死』を悟った顔だった。

 しかしそれは、どこか晴れやかさを感じる死顔であった。

 

 

『位30段の己から逃げもせず、隠れもせずその一太刀で戦う姿……己は武士道を見た』

 

「ぶ、武士道……そ、そうか」

 

 

 胴体真っ二つにされてよく喋れるなぁ、と思いつつ。

 敵から賞賛を送られた若葉はまんざらでもないように頬を掻く。

 

 

『だが、己らバグスターは敗北から学び、更なる進化を遂げ、再び立ちはだかる……その時こそ、己とお主との決着よ……首を洗い、待つがいい』

 

 

 力が入らなくなったのか、カイデンバグスターの手から太刀が零れ落ちる。

 それとカイデンバグスターの肉体が消滅したのは同時であった。

 

 

「だんだん手強くなってきた……復活する度に今までの戦闘能力を凌駕するようにレベルアップする……バグスターとは厄介な……」

 

 

 レベルアップ能力。

 これがゲームという要素を含んだバグスターの特殊能力だ。

 元々がデータであるバグスターはそのデータを再利用することで能力を強化し、新たな能力を身に宿す。

 

 いままでよりも固く。

 いままでよりも速く。

 いままでよりも特異に。

 

 

 この性質は現代における細菌、インフルエンザの性質とよく似ているとされている。

 

 

 インフルエンザウィルスが毎年流行するのは少しずつ抗原性が変化し、その年で獲得した抵抗力では防げないほどに進化するからだ。

 

 

 『連続抗原変異』、『小変異』と呼ばれ、その変異の幅が大きければ大きい程、感染し発症した場合の症状も強くなる。

 バグスターの場合、復活を重ねるごとに変異し、進化し、より強化され、新しい能力を獲得してきた。

 

 

 当初のレベル5だったカイデンバグスターは若葉の『義経』のスピードに全く付いてこれず秒殺されるのが普通であった。

 しかし、位30段……レベル30になったカイデンバグスターは『義経』を纏う若葉のスピードと同等。太刀捌きも気を抜いていたら若葉は殺されていた可能性もあった。

 

 

 

『戦闘は終わったか……乃木』

 

「SOUGOさん……そちらは?」

 

『今片付いた』

 

 

 仮面ライダーバールクスが顎で示す先、樹海の木の上で勝利のピースをしている高嶋友奈の姿が見えた。

 同時に彼女の纏う勇者服がボロボロであったのを見るに、相当苦戦したのだろう。

 

 

「……最近、戦闘時間が長くなってきましたね」

 

『やつらバグスターはレベルアップする……しかも一度に相手にする数も多い。

 毎回50体以上……これで時間が掛からない方がおかしい……むしろ、今までよくあの時間内で解決することが出来たものだ』

 

「時間を掛けすぎてしまうと『ゲーム病』の患者がバグスターに『存在力』を奪われ、患者が消失してしまう……私達の神樹様防衛にあまり時間を掛けられないことと似ていますね」

 

 

 ゲーム病を発症した患者は実体化したバグスターに存在力を奪われ続け、最悪患者の肉体は消滅し、バグスターは宿主を介さなくても現実世界に永遠に存在することが出来る完全体へと至る。

 

 

 故に勇者と仮面ライダーはバグスターを迅速に排除する必要があった。

 樹海化でバグスターと患者を現実世界から分離することが出来ても、その間もバグスターと患者は繋がったままであり、存在力は奪われ続け、ゲーム病は進行する。

 

 

 最初は余裕があった。敵もレベルが低い個体ばかりだったから。

 数だけ多く、力だけは大した事もないので真正面から切り崩して蹴散らせばそれで済んだ。

 しかし、レベルアップを繰り返し勇者達の力に追いついて、数も増えてくるとなると戦況はガラリと変わる。

 

 

(もし精霊の力も凌駕されてしまうことになったら……どうなる?友奈の酒呑童子も、大天狗も通用しなくなったら……勇者の精霊降ろしも足元に及ばないくらいにレベルアップしてしまったら……)

 

 

 

 若葉が暗い思考に陥った時だった。

 自分の隣で、うつら、うつらと頭を左右に振りながら瞼を半開きにしている友奈を見た。

 

 

 

「友奈、眠いのか?」

 

「んへ? ら、らいじょうぶだよ若葉ちゃん、昨日はばっちし2時間寝たかりゃ……ふぁ」

 

「そ、それは寝たとは言えないぞ友奈。 戦いも終わった、座れ。

 なんなら寝てもいい、そのまま私が友奈の部屋まで送ろう。前線で頑張ってる友奈は少し多めに休め」

 

「わ、若葉ちゃんだって前で戦ってるし……大丈夫大丈夫」

 

「私は得物があるからな。

 しかし友奈は素手が主体の戦いだ。

 勇者の中で攻撃をするに至って、お前が一番敵との距離が近い……敵からもらう傷だって一番多い」

 

 

 連戦連戦で休む暇がない勇者達と仮面ライダー。

 レベルアップを繰り返し、膨大な数で湧き上がるバグスターウィルス。

 戦闘に時間が掛かれば神樹の負荷と患者のゲーム病が進行する板挟み状態。

 

 

 積み重なる疲労と相まって、四国防衛はかなり過酷なものになりつつあった。

 

 

 

「ほら、背中に来い友奈。 運んでやる」

 

 

 樹海化が解け、現実世界へと戻ってすぐに若葉は友奈を背負うべく彼女に背を向けしゃがんだ。

 だが、その行為を。友人の気遣いを素直に受け取れないのが友奈である。

 

 

 なかなか若葉の背に移ろうとしない。

 気遣い屋として、他者を労る塊の友奈だからか。

 

 

「……」

 

「うわわぁ!!」

 

 

 予め読んでいた展開であったが、こうして目の前で見ていると『しょうがない』、と言う感情よりも『さっさと行け』と言う苛立ちの感情が強くなる。

 故に、その光景を見ていたSOUGOが背後でもじもじとしている友奈の背中を押した。

 荒々しく、力士がやるようなツッパリで押された友奈の身体がつんのめり、否応なしに若葉の背にもたれ掛かる。

 

 

「その馬鹿をちゃんと休ませろ、乃木」

 

「SOUGOさん、少しやり方が乱暴すぎでは?」

 

「ふん、だが見ろ。もうソイツは寝てる」

 

「え?あ、は、はやいッ!!寝付き良すぎるだろ!!」

 

「すやぁ……」

 

 

 粗暴な扱いを受けた仲間の為にジト目を送った若葉であったが背中に乗った友奈は静かに寝息を立てる程に眠っていた。

 余程疲れが溜まっていたのだろう、なんせ今までの睡眠時間は平均で2~3時間だ。目覚めたときは大抵樹海発生のアラームでたたき起こされ戦闘に出撃を余儀なくされる。

 

 

 戦いが終わって、寝て、起きてまた戦って。

 少しだけ生まれた自由な時間で小食を取り、身なりを整え早めに寝て、戦って。

 そんな人としての最低限を生きるような、余裕がない生活サイクルで身も心も休まるはずがないのだ。

 

 

 ましてや、友奈は普段辛い事や、悲しい事は感じることはあっても仲間の前では口にしない。

 自分の負担は二の次で、常に若葉や千景たち、仲間の心配をしてしまう少女だ。

 

 

「私がもっとしっかりしていれば……仲間の負担を考えることが出来ていれば……

 杏のように上手くはいかない、リーダー失格だ……」

 

「乃木……お前の背中はいいな」

 

 

 SOUGOが突然そんな言葉を口にした。

 

 

「他者の背で寝る行為が出来るは、お前の背中が安心して自身を預けることが出来る場所だという事だ。

 それは信頼の形だ。

 

 乃木若葉を、高嶋友奈が全面的に信じているという証だ。

 お前は自分を誇っていい。それは紛うこと無きリーダーとしての素質だ。

 だからお前と高嶋は互いの背を預け合う仲間と、友と呼べるのだろうな」

 

 

「のび太くん並みに寝つきが良すぎるだけでは。いや、しかしSOUGOさん‥‥なぜ、私にそんな事を……」

 

 

 その光景SOUGOが、微笑ましく思えているように感じた若葉は思わず聞き返した。

 

 SOUGOはバツが付いたかのように視線を逸らしながら、言った。

 

 

「なに。お前のような心にブレない『優しさ』と、『正しさ』と『強さ』を持つ人間を見ているとな……色々思い出すんだ」

 

 

 若葉はSOUGOの瞳が、誰かの姿を重ねているように見えた。

 それは、二つの感情が見え隠れしている。

 

 

 自分の知らない誰かを羨むような、例えるなら羨望。

 遠くの友を思い浮かべるような、例えるなら懐古。

 そう語ったSOUGOはくるりと踵を返してその場を去ろうとする。しかし一度立ち止まって。

 

 

「いや……昔の事だ。あまり気にするな」

 

 

 そう意味深に言葉を残して去っていった。

 友奈を背負い、起こさないように気を使って若葉は言葉を発さず、頭の中で疑問を残す。

 

 

(友奈は、過去にSOUGOが私達ではない他の勇者の話を聞いたと言っていた。あの人の言う、″昔〟とはその勇者の事が関係しているのか?)

 

 

 常磐SOUGOという男の出自は不明だ。大社でさえもつかめない男の素性。

 しかし、大社は敢えて口に出さず若葉に隠している線があった。過去にSOUGOの事について聞いた若葉に対して大社の者の返答は『勇者様は知る必要のないことです』というものだった。

 大社がSOUGOの事について何かを知っているのは明白である。

 

 

 四国以外の土地でも、勇者はバーテックスと戦っているという可能性を知っていた若葉はSOUGOがそれら勇者との関係を予想していた。

 そして、何故か若葉はSOUGOを見ていて長野県の諏訪との繋がりがあるのではないかという希望を持っていた。

 

 

 破壊されつくした諏訪の土地で見つけた『手紙』の存在がSOUGOと諏訪を関連付ける重要なものであると若葉は認識する。

 それが、若葉がSOUGOが自分を〝最低最悪の魔王〟だと自称しても背を預けられる存在だと認識している理由だった。

 

 

「いつしか、真実を教えてくれる日がくるのだろうか」

 

 

 そう呟く複雑な若葉の心境とは裏腹に四国の空はやたらと青かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 もし真実を語る日が来るのならば、それは自分に審判が下される時だろう。と、常磐SOUGOは思う。

 

 

 出来るだけ語ることなく四国の勇者に手を貸していたSOUGOであったが、友奈に勇者のことを語った事がきっかけで自分が諏訪と接していた事が若葉に明らかになるのは時間の問題だ。

 

 

『SOUGOさん聞いて!今日の勇者通信をエンジョイしてきたわ!乃木さんってなんか武士みたいな人でね、お話していると話題が尽きないの!!』

 

 

 勇者通信。

 四国と長野を繋ぐ、決まった時間と決まった場所で行われる定時報告。

 相手の顔が分からない故に、勇者という神聖な立ち位置の者たちが行うそれは簡単に言えば、超マジメな雰囲気だった。

 

 

 そして通信を終えた五秒程で、いつもの口調に戻る少女が語っていたのは決まって通信機越しの四国の勇者のことだ。

  

 

 今の四国と諏訪の状況がどうなったのか。

 この時期の旬な野菜はどんなのがあるのか。

 うどんと蕎麦、どちらが優れてるとか。

 

 

 それらを語る少女の満面の笑みが、四国の勇者に抱いている頼もしさと心強さを表していた。

 

 

『乃木さんみたいな人がいれば、四国に敵が行っても絶対にやっつけてくれるわ。

 

 私は嬉しい。ずっと一人だと思ってた勇者がまだ別の地域にいたんだって。

 人類はまだ諦めず、後に遺せる、託せる人がいるんだって。

 絶望しなくていいんだって。

 希望のバトンを繋げれるんだって』

 

 

 バーテックスに囲まれ、切迫しつつある状況の諏訪の大地で希望を捨てない少女は荒野に咲いた花のようだった。

 

 

 気高い花だった。

 命の大切さを知っているし、辛い時に諦めなければ道は続くという事も知っている。

 だから駄目なことが分かっていても最後まで戦い、負けるときは潔く、それでも後の世界存続の為に希望を託そうと彼女なりに何かを残そうとしていた。

 

 

 

『諦めないッ 挫けないッ 託してくれた人たちの願いを叶えて、皆が笑って暮らせる明日を作るんだ!!』

 

 

 その遺志は確かに四国の勇者に伝わっていた。

 高嶋友奈が、その身で。その拳で証明してくれた。

 

 

 だから常磐SOUGOは手を貸す。

 彼女が残した……白鳥歌野が信じて繋げたいと言っていた四国の勇者達を。

 

 

(これは贖罪だ)

 

 

 SOUGOは心の中で決めている事がある。

 もし、諏訪の事を勇者達に聞かれる際は隠さずにすべてを語ることを。

 

 

 『諏訪の崩壊に常磐SOUGOが関わっている』ことを。

 

 

 それを聞いた四国の勇者がどう感じ、どう考えて、どう行動するのか。

 

 

 憐れむのか。

 死を以って償えと断罪されるか。

 

 

 いずれにせよ、SOUGOはその身の行く末を四国の勇者に委ねるつもりである。

 彼の―――――常磐SOUGOの審判の時は近い。

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 バグスターウィルスの対応に追われるのは勇者だけではない。

 過酷な戦闘背景の裏側に人類側の、一般人たちの戦いもある。

 

 

 今日も大社会議室では重役たち数十人を集めさせてのゲーム病対策会議が行われ、怒号が飛び交う。

 

 

「ゲーム病患者の容体は?一番進行している患者のリストは把握しているのか!?」

 

「患者を収容させる病院施設、ベッド、医療器具と医療従事者がまるで足りない!

 このままだと重症患者の治療に手が回らなくなり、医療崩壊を起こすぞ!!」

 

 

「それよりも薬だ!ゲーム病の治療薬はまだ出来ないのか!

 これまでの、四国に現存する薬品ではゲーム病の完治は愚か、進行を抑制することすら出来ない!!」

 

「神樹様の力を使って、一時的にでも特効薬を造ることは……」

 

「度重なる樹海化の影響で力を大量に消費しているのに、更に浪費でもさせてみろ……四国の生活サイクルに支障が出る。

 停電や雨が降らないとかの水不足ならまだいい、だが最悪なのは四国の結界を維持できなくなるまで消耗させられることだ。

 

 真実を知った四国市民が暴動を起こしかねない……これ以上不安を煽ってどうする!?」

 

 

「む、娘がゲーム病に!? す、すみません!私はこれで失礼する!!」

 

「おいコラ!逃げんな!!」

 

「お前独身の童貞だろ!!」

 

「しかし、なぜゲーム病患者が減らないんだ。

 ウィルスの感染源であるゲームは削除して、四国にはないはずなのに……連日のように感染者が増えている!!!」

 

 

 誰しもが苛立ち、意見を言い、そしてその都度争う。

 対応する策も思いつかないまま、時間だけが過ぎている空間。

 

 

 

 医療体制が崩壊する時はとはどんな時か。

 過度な医療費抑制政策と医師の士気低下、防衛医療の増加、病院経営自体の悪化などの他に上げられる例がある。

 

 

 

 それは、爆発的ウィルス拡大の際に病状が悪化している患者が治療を受けられない状態が続くことである。

 

 

 

 医療の現場には患者を診る医者(ドクター)がいる。

 医者が従事する施設がある。

 患者を治療する医療器具がある。

 患者を隔離する部屋がある。

 患者を休ませるためのベッドがある。

 

 

 これらが成立している限り、医療の崩壊が起こることはない。

 しかし、現在の四国はどうだろう。

 

 

 人類にとって未知の病、ゲーム病。当然、特効薬などもない。

 エグゼイド世界のようにゲーム病を感知するような特殊器具もなければ電脳救命センター『CR』もない。

 患者はストレスなどを原因として突如発症し、その数は初期症状者と重症者を含んで現在で1000を超えている。

 当然、四国の病院に搬送されても病院の数が足りない。

 

 

 収容する部屋が足りない。

 ベッドが足りない。

 医療器具が足りない。

 医療従事者が足りない。

 

 

 24時間で対応することに尽力していた医師は力尽きて体を壊して現場を離れ、医療において絶対不可欠な医者が不足するという事態を引き起こす。

 

 その結果、ゲーム病患者を診察することが出来なくなり、現場に負担がかかるという悪循環が成立する。

 

 

 そして四国を守護する神樹も樹海化を発生させる頻度が増えたことで異常なまでに力を消費し、本来四国にもたらされる恵みに悪影響が及ぶようになっていた。

 

 

 人も疲弊すれば、神も疲弊する。

 疲労が溜まればまた違う病気にかかる可能性もある。

 実際、医療の現場では医者が体調不良で倒れ、市民はストレスとゲーム病の症状で苦しみ。

 勇者達も戦闘による疲労を隠せない。

 

 

 四国は全体的に見て、不健康という状態だった。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「とまぁ、このように四国を蝕むゲーム病の脅威はいまだ収束を見せず、

大社職員一同、医療従事者も打つ手がない……そんな状況ですよ、ン我が魔王」

 

 

「だからその呼び方やめろ」

 

 

 大社仮面、三好から告げられた四国の現状をSOUGOはホテルのカフェで定時報告として受け取っていた。

 

 

 カフェオレを仮面を浮かせた隙間から飲んでいる三好は相変わらずのようだ。

 SOUGOも椅子の背もたれに身体を預け、足を組み、不遜な態度でコーヒーを飲んでいる。天の神の呪いが時折痛みだすという事を除けば、いつも通りだ。

 

 

「人類は詰んでしまったのでしょうか」

 

 

 悲観するように三好が呟いた。

 

 

「勢力を増すゲーム病。

 

 対応策も見つからなまま、神樹様は樹海化によって次第に力を失っていく――――不安に駆られ、世界の終わりを予期し暴動を起こそうとする者もいます」

 

 

 三好は資料として持参していた新聞の一面をSOUGOへ見せつけた。

 そこに書かれていたのは『四国初、ゲーム病患者・死亡』、という一面。

 

 

「ゲーム病患者が病棟を抜け出し、交通道路で車両に撥ねられて死亡。

 

 しかし、妙なことにこの患者からはバグスターが誕生しませんでした……これは一体?」

 

 

「バグスターウィルスは宿主である人間が死亡すれば現実世界に現れることはない。

 ウィルスはそのまま死滅し、患者の遺体もそのままだ。

 

 それはバグスターと人間の命がリンクしている事を意味しているからだ」

 

 

「ほう、あの怪物たちも〝生きている〟と?」

 

「そうとも言える。しかし、相手が化け物であることに変わりない。

 例えどんな姿をしていても、だ……しかし―――――」

 

 

 

 カップの中のコーヒーを飲みながらSOUGOの中には疑問が残る。

 それは、いままでSOUGOたちが相手にしていたバグスター達は『復活したデータ』だという事。

 

 

 バグスターウィルスというのは不完全な状態で倒された場合、その場で消滅してしまう。

 『バグヴァイザー』という特殊な機械を通して倒されたデータを回収されなければ、今回のようにレベルアップして樹海に現れるはずがないのだ。

 

 

 導き出される答えはただ一つだ。

 四国の中に、敗北したバグスターのデータを回収し再びまき散らしている者がいる。

 

 

 だからSOUGOは戦闘中、樹海でそのデータを回収しているであろう誰かを探していた。が、結果として未だに見つけることは出来ていない。

 

 

 神樹の探知能力を躱し、目視でも確認できない能力を備えた敵、か。

 だとしたら、厄介だ。そう考えていたSOUGOを前に三好が口を開く。

 

 

 

「我が魔王、一つばかり質問を……」

 

「許す」

 

「なぜ、バグスターは生まれたのでしょうか」

 

「さぁな、だが奴らの存在理由はただ一つ。

 自分達ゲームキャラが人の都合で勝手に生み出され、ストレスの発散の為に倒されるのが我慢ならんらしい」

 

 

 ゲームを開発するのはゲーム会社。

 ゲームをプレイするのはプレイヤーである。

 敵キャラはシナリオに沿ったセリフと行動でプレイヤーを惹きつけ、ヘイトを溜め、戦闘でぶつけさせる為のサンドバッグのような存在だ。

 

 

 現実(リアル)のストレスを仮想(バーチャル)の敵キャラに充てることでプレイヤーは嬉々とした表情で敵キャラを倒していく。

 

 

 無双系や格闘ゲーム、RPGの手のゲームをプレイした者ならば分かるかもしれないが。

 レベルを上げる。

 武器を強くする。

 範囲技で雑魚敵を蹴散らしていくことでプレイヤー側は爽快感を得るのだ。

 

 それが結果的にストレス発散となっていく。

 

 

 しかし、バグスターたちは自分達も生まれた命なのだと主張する。

 彼らは無機質に行動するのではなく、プログラミングされた存在であるにも関わらず、彼らには個性があった。

 

 色んなバグスターがいる。

 

 

 塩に拘ったり。

 速さを求めたり。

 武士道を志したり。

 高い所が苦手だったり。

 ハンバーガーが大好きで。

 皆と音ゲーをやるのが大好きで。

 

 

 

 感情があり、己の信念を持つ。

 その姿は知性があり、感情を持って行動する人間と大差がない。

 故に人間の勝手で生み出され、無残に殺されるだけの確定した人生を強いられることを許すことが出来なかった。

 

 だから一番世界で偉いと思い込んでいる人間への怒りがあるのだ。

 

 

 その直後、天井の灯りがぷつん、と音を立てて光を失った。

 昼間なので辺り一面が真っ暗になることはないがカフェテリアが若干薄暗い雰囲気になる。

 

 

「む」

 

「停電ですね……すぐに非常電源に切り替わります」

 

 

 三好が言うや否や、電気が復旧して薄暗いカフェテリアがぱぁっと明るくなった。

 四国に恵みをもたらす神樹の力が立て続けに起きる戦闘と樹海化によって徐々に消費されている証だった。

 

 

 

 既に一部の地域では雨が降らない地域が出てきたり、水質が悪化し、農作物に栄養が行き渡らず充分に育たないといった影響が出始めている。長引けば水不足などの資源不足にも陥ってしまうだろう。

 

 

「神樹の力が枯渇してしまったと仮定して、四国の結界はあとどれくらい持つ?」

 

「敵襲のペースが今まで通りなら2カ月。

 これまで以上に規模が増し、樹海化の頻度が上がり続けるのであれば1カ月……

 

 しかし、その前に神樹様の恵みが機能を停止し、あらゆる生命のサイクルが破綻します。

 そうなれば四国市民から大社と神樹様への信仰心が薄まり、神樹様の力が弱体化するでしょう。

 わざわざ結界の一部に穴を開けて出現位置を固定しなくても、奴らは弱体化した壁なんて容易に突破してきます」

 

「俺達が考えていることなど、あまりアテにしない方がいいという事だな。

 2~3週間……それが四国の崩壊までのリミットだと思ったほうがいい。敵も、そう考えているだろう」

 

「まさか、敵の本命は外のバーテックス……神樹様の力が弱まる機会を待ち、四国を滅ぼすための準備をしているというのですか」

 

「流石に勇者や俺も四国全土の人間を守れない。物量は明らかに向こうの方が上だ。

 奴らは物量こそが個で力を持つ存在を突破する有効な戦術だと理解している」

 

 

 SOUGOのひじ掛けの先端を握る力が強くなった。

 人を滅ぼす為に群体レベルで進化するバーテックス。

 形を変え、何がもっとも人に対して有効なのか、その能力を獲得する。

 

 

 そして、バーテックス達は特殊な能力を持つ個体だけでなく、空を覆うほどの数がある。

 勇者5人に仮面ライダー1人、対してバーテックスは無量大数。

 戦力の差は歴然だ。

 これで一般市民を守りながら敵と戦うなど無理に等しい。

 間違いなく四国は滅亡するだろう。

 

 

 かつてSOUGOが見た、長野県の諏訪のように。

 

 

 

「未来を鮮やかになぞるその慧眼、見事でありますン我が魔王」

 

「その呼び方、やめろ……それより、お前も休んだらどうだ、三好」

 

 

 SOUGOの言葉に、え?と不意を突かれたような声を漏らす三好。

 事実、彼はこのゲーム病事件に寝る暇もなく対応に当り、大社内でも会議にも必ず参加していて、車中泊が続き疲労が溜まっていた。

 疲れていた事など、口にしないように悟られないようにしていた三好はSOUGOにそれを見透かされたことにに驚いたのである。

 

 

「貴様の姿勢が最初見た時よりもだいぶズレが生じている。

 肩も随分と左右で違うし、お前がちゃんとした寝具で寝ていないことの表れだ

 他者の健康を気遣うならば、まず己の健康に気を使え」

 

 

「ン我が魔王!!」

 

 ふるふると肩を震わせて、三好が両の手を広げた。

 

「私のような従者を労る慈愛の心……もったいなきお言葉でございます!!

 この三好、一生御身に仕えようと心を決めました!!

 なんなりと申し付けくださいン我が魔王、どこまでも付いていきます!たとえこの身が砕け散ろうとも!!」

 

「今さっき自分の健康に気を使えって言ったばっかだろう」

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――

 

 

 一方、大社の病院で隔離されている千景は。

 

 

「なんで……なんでなのよ……っ!!」

 

 

 わなわなと、怒りと驚愕を交えた表情で。

 狂気に駆られた視線は自身のスマホの画面へと注がれていた。

 

 

 部屋にはテレビもあり、新聞も配達されているため外の情報を大まかに把握することが出来る。

 それでも携帯を使ってまで調べているのはメディアや新聞などの一般的な情報媒体ではなく、ネットの中の情報。

 

 

 千景は藁にも縋る想いでインターネットの匿名掲示板を開いていた。

 自分が勇者として戦えないこと。

 ゲーム病感染の事実は表沙汰になっておらず、事情を知らない者からすれば、勇者・郡千景はどこへ行ったと騒ぐだろう。

 だが、若葉やSOUGOが切迫した戦闘を凌げてしまっているために、消えた千景の事よりも若葉たちの活躍が注目されやすい。

 

 

 そして結果的に本来5人で行う戦いを、その半数の3人で四国を防衛できてしまっている。

 

 

 戦えない自分に価値がない、思い込みの激しい千景は勇者としての存在理由を失い始めていた。

 仲間と会えない時間は不安でしかなく、せめてもの想いでネットの掲示板の書き込みや過去の記事を見て、『自分が勇者である』という賞賛の声だけを千景は心の支えとしていた。

 

 

「どうして……どうして…!!」

 

 

 しかし、現実は違った。

 ネットの掲示板に書かれていたのは以前の賞賛の声で溢れていた時はまるで逆の誹謗中傷の声だった。

 

 

『最近停電とか多くね?』

 

『川の水もなんか濁ってる……水質悪くなったから魚の死骸が浮かんでたな』

 

『噂だと、勇者の戦闘が影響しているみたいだよ』 

 

『勇者の戦闘と四国の今の現状がリンクしてるってマジ?』

 

『ゲームのオンライン対戦中に停電起きたから強制敗北でレート下がったわ~マジ萎えるわ~』

 

『竜巻もこの前起きたよな、あれももしかしてソレが原因?』

 

『勇者使えな。俺らの事守れてねぇじゃん。今まで持ち上げてたのがバカみてぇ』

 

『でも今勇者って2人しかいないんだろ?あと仮面ライダー。よく持ちこたえてるよな』

 

『仮面ライダー、そもそもアイツも怪しくね?』

 

『アイツが来てから戦闘激しくなってるんじゃないの?ゲーム病とか、今までこんな事起きなかったじゃん』

 

『実は外の敵の仲間だったとか』

 

『全身スーツで素顔見たヤツ誰もいないからな、人間かどうかも分からんからその説有望』

 

『マジかよ、仮面ライダーのファンやめます』 

 

『ってことは大社と勇者、ひいては仮面ライダーすらもバーテックスのグルだったという可能性が微レ存?』

 

『じゃあ神樹様も人類の敵だな!!』

 

『ロリコンクソウッド!』

 

『四国オワタ』

 

『あーもうめちゃくちゃだよ、とりあえず負傷した土井とか伊予島、あと郡とかいうヤツらも肝心な時にいないから無能な』

 

『そういえばどこいったんだあの大鎌の勇者』

 

『知らないうちに死んだんじゃない?』

 

『そっか、勇者様の死は民衆に響くからな』

 

『つーかあの子影薄くね?』

 

『だな。まぁ今の今まで話題に出なかったからな四国市民全員忘れてんじゃね?』

 

『クソワロタ』

 

 

 

 一部勇者と仮面ライダーを賞賛する声もあったがそれらが霞む程に膨大な数の負の声。

 

 好意的な声も、悪意のある声も自由に飛び交うネットの匿名掲示板は一言で表せば『無責任な発信広場』だ。

 誰も気兼ねなく書き込みが出来てしまうために起きてしまうソレはまさに人間の心の闇を映し出している。

 

 

「うぅ…っ…うぐ……ぇっ」

 

 

 千景の嗚咽が響く。

 数日食欲が落ち込みがちで朝から何も口にしていなかったことが幸いしたのか、何も吐くことは無かった。

 

 

 だが確実に、千景の心は闇に染まっていった。

 

 

「はぁ…はぁ……ふざけるな……ふざけるなぐざけるなふざけるな」

 

 

 誰しもが、なりたくて勇者に選ばれたわけじゃないのに。

 誰しもが、戦いたくて化け物と戦ってるわけじゃないのに。

 

 

 最初に持ち上げてきたのは民衆(そっち)だったはずなのに。

 

 

 命を懸けて戦った結果がこの様ならば。

 守ってきた先にこんな仕打ちを受けるのならば。

 この世界を守る意味なんてあるのだろうか。

 

 

「皆必死なのに……!私だって戦いたいのに!なのに、こいつら……何も分かってない癖に!」

 

 

 勇者全体の批難の声と千景個人を中傷された事、負傷して離脱せざるを得ない杏と球子の事を穢された事に千景は激しく怒りを覚えた。

 目の前に元凶が居たならば、勇者としての力が使えるならば迷わずに大葉刈で手を下していた事だろう。

 

 

「うぅ…ぁ……ぁ、あぁ……!!」

 

 

 突如、千景を果てしない頭痛が襲った。 

 身体が熱を発し、気怠さと嘔吐感からベッドに倒れ込む。

 

 

 過度なストレスによって、体内のバグスターウィルスが活性化してしまっている証だ。

 

 

「ぁ、いやっ……私の身体、消えて……る」

 

 

 バリ、バリ、と全身が光となって次第に霧散していくのを千景は感じ取る。

 ゲーム病患者が行き着くのは自分の存在の消失。すなわち、死。

 

 

 ネット掲示板の負の声は千景のゲーム病を悪化させるに十分な効果を持っていた。

 幻覚の千景もそれを分かっていたのだろう。

 そのストレスは千景が受け止め切れる許容量を超えている。

 発光する自分の身体が粒子になって消えていくのを千景は恐る恐る眺めることしかできなかった。

 

 

「高嶋さん……!高嶋さん……!

 いや、私、消えたくない!

 助けて高嶋さん、高嶋さん!高嶋さん!高嶋さん!」

 

 

 千景にとっての救い象徴である友奈の名前を叫ぶが、本人はこの場に居ない。

 ナースコールを押して、誰か呼ばなければいけない状況だったが自分が消失するという最中、気が動転している千景にはその思考すら頭に無かった。

 

 

「やだぁ……」

 

 

 やがて、諦めたように両の腕がだらんと下がると、白い天井を見上げた。

 

 

 

 

「なんで……なんでなのよ……私は、ただ――――――――」

 

 

 皆に認められたかっただけなのに。

 皆に愛されたかっただけなのに。

 

 

 ぽつりとした呟きと共に千景の頬を涙が伝って、全身が強く輝いた。

 それは灯した蝋燭の火が最後に眩い光を放って燃え上がり、消え去る前の現象に似ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『はい、お疲れさま。もういいわよ』

 

 

 脳内に響き渡った声と千景の身体の発光が止まるのは同時だった。

 

 

「あ、あれ……私、消えてない……」

 

 

 息がある。

 体温がある。

 身体が動く。

 心臓もちゃんと鼓動している。

 死を悟った自分の身体が健在な事を不思議に思った千景はその事実に困惑していた。

 

 

『不思議そうな感じね、自分が消えなかったことに』

 

 

 直後、聞いたことのある声が目の前からした。

 ふと視線を上にあげると自分と似た少女が薄く笑みを浮かべて立っていた。

 

 

「あなた……なんで……」

 

 

 否、それは似ていた、ではなく。郡千景と同一の姿。

 しかし、妙に余裕があり、本来の自分とは思えないような違和感を持つ別の千景がいる。 

 

 

 これまで何度も心を闇に引き摺り込もうとしていた千景の姿をした幻覚だった。

 

 

『実体化するには充分なストレスを得たわ……もうあなたの身体に一々戻る必要もないわね』

 

「うそ……あなた、幻覚だったんじゃ……」

 

『ふふ、残念。 私は確かに幻覚だった。

 少し前までは、あなたにしかえ見えない、精霊の穢れが生み出した影響で生まれた幻覚だったのは事実。

 

 ……ここにいる私は、精霊の穢れとバグスターウィルスが合わさった事で持って生まれた実体』

 

「バグスターが……私から生まれた……?」

 

『そう。だからめでたい生誕のお礼に、あなたの中にあるウィルスの活性化を身体の中から抑制してあげたわけ。だから身体が完全に消滅しなかった……それに、今までより症状は軽いはずよ?』

 

 

 そう言われて千景は自分の身体が軽くなるのを感じた。

 これまで抱いていた倦怠感、発熱、めまいなどがまるでない。健康な体に戻ったようであった。

 

 

「あなた……私のバグスターなんでしょ……宿主を消して、完全な存在になるのが目的じゃなかったの?」

 

 

 そうよ。と、千景の姿をしたバグスターが続ける。

 

『勿論、宿主の存在力を全て奪い、永遠の命を手に入れる完全体になることを諦めたわけじゃないわ。

 それに、これからあなたの事を消そうと思っているし』

 

「だったら、なんで……」

 

『本物の郡千景なんかより、バグスターである郡千景が皆から愛され、敬われ、畏れられる勇者であることを証明するためよ』

 

 

 氷のような、それでいて艶やかさを感じさせる表情に千景は寒気を覚えた。 

 バグスターの千景は口元を三日月型に吊り上げて、耳元でそっと囁く。

 

 

『バグスターである私は郡千景としての記憶も全て引き継いでいる。

 私はあなたの中でずーっと見ていたのよ、郡千景を。

 周りの目を気にして。

 他者を拒絶して自分の殻に閉じこもって。

 

 でも、本当は周りから愛されたいだけのあなたの心の弱さを』 

 

 

 

 一息。

 

 

『私なら、あなたよりもっとうまくやれる。

 人間としても。

 郡千景としても。

 勇者としても。

 私の方が優秀だってことを教えてあげる。

 

 それを見せつけた上で、あなたには最大級のストレスを与えて、消えてもらうから』

 

「さ、させない!」

 

 

 自分の姿をした別人が自分に成り替わろうとしているのを本人が黙って見逃すはずもない。

 当然、千景はそれを阻止すべく、立ち上がろうとする。しかし、

 

 

『無駄よ』

 

 

 バグスターの瞳が赤く光る。

 それに呼応するように千景の瞳も赤く光り、本体の千景の身体の自由が一切効かなくなった。

 まるで身体のコントロールを奪われたかのように再びベッドに倒れ込む。

 

 

『あなたの中で培養されたウィルスと蓄積された穢れが郡千景本人の意志を上回っている。

 この状況下であなたが私に抗う事は不可能……だからこうやって――――』

 

 

 バグスターの千景の身体が粒子になると、本体の千景の肉体に溶け込むように入り込んでいった。

 すると自由を奪われていたはずの千景の肉体がすくりと起き上がり始めて。

 バグスターの千景特有の、三日月形の笑みを浮かべている。

 

 

「あなたの肉体を操ることも出来るわ。

 

 さぁ、行きましょうか私。郡千景の人生というゲームに幕を下ろす記念すべき日よ、せいぜいあなたにとって良いエンディングになることを祈りなさい」

 

 

 くつくつ、とまた千景は笑ってロッカーに掛けられていた自分の制服を取り出して着替え始める。

 

 赤いカーディガンを着終えたロッカーの中にある、ゲーム機のような形状をの機械を取り出すと自身の腕に装着する。

 

 

「ふふ、GAME START……」

 

 

≪GACCHAN…≫

 

 

 バグスターウィルスを散布し、データを回収し復活させるアイテム・ガシャコンバグヴァイザーと勇者の力がロックされている端末を手に、バグスターに操られた千景の身体は病室から姿を消した。

 

 

 自身の肉体をデータ化して文字通り、光となって近くのテレビの中へと入り込んだのである。

 

 

 そのまま千景が隔離病棟に戻ることは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

NEXT GAME:『C・Shadow』

 

 

 




千景、ママになる。


・バグスター千景(???)
精霊の穢れとバグスターウィルスが混ざり合って誕生した特殊なバグスター。
千景の記憶を共有している。第二の千景と言っても差し支えない。
本来バグスターの人間態の姿はオリジナルの姿を持つが(エグゼイド本篇では沙耶とグラファイトのように女性から生まれたバグスターが人間態では男性になる例がある)このバグスターは自分が勇者、郡千景に成り替わる為に、敢えて千景と同じ姿になる事を強く願った。
その性格は残忍。でも前向きで、実行力がある。本体の千景とは真逆。
あと薄く笑った表情はとてもエロい。
(???)はストーリー進行で解放。




・ゲーム『C・shadow』
≪あらすじ≫
村のはずれで幼いころから忌避され続け、他者からの愛を求める少女が英雄の力を手に入れ、仲間と共に世界を滅ぼす魔王を倒すために戦うダークファンタジー。
誰もが自分を認めてくれるように、自分を見てくれるように少女は力を振るい続ける。



≪エンディング≫
この項目は一定のストーリー進行で解放されます。
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