罪人の軌跡   作:恋の又二郎

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申し訳ございません。説明描写が多くなってしまいました。次回からの反省点に致しまして、説明描写を削ってテンポ良く致します。本当に申し訳ございませぬ!
閃の軌跡は、アリサとエマとラウラ、リィン、ユーシス、サラ教官、ナイトハルト教官が好きです。
しかし、ナイトハルトと打つとつい教官ではなくて殿下と打ってしまいそうになります。ミンサガのやり過ぎですな。
※15/1/24(土)レギの台詞を全文修正、及び全文に改行を追加しました。


第3話~出会いと幻影(おもかげ)~

―――最後に諸君にドライケルス大帝の遺した言葉を伝えたいと思う―――

 

ふとレギが起きる時、この言葉が聞こえてきた。述べているのは、己が入学した士官学院の学院長ヴァンダイク学院長その者だった。かつては、帝国正規軍の元帥として、武勇を国中に轟(とどろ)かせた偉人であり、今日までの帝国を守ってきたと言っても過言ではない人物だ。

既に退役しているが、鍛え上げた武術は、衰えを知らないようで、一際高い背丈と鍛えられた身体がその様を如実に物語っている。

機会があるのであれば、手合わせと教えを乞いたいものだと、レギは心の中でそれを願って止まない。その道を長年歩んできた者にしか分からない些細な違いや着眼点、及び観察眼などは、やはり一朝一夕では身に着かないからである。亀の甲よりも年の功というやつだ。

 

ましてや、レギは長い間研究生活を営んで来たために、それらの能力が凄まじく衰えている。研究生活でも筋肉トレーニングや素振りなどは行っていたのだが、実戦を全く行っていない故に、判断力や勘等の方面で問題を抱える有り様だ。言うなれば張りぼてその物である。極力早く実戦の勘を取り戻さないと怪我では済まないだろう。

尤もそれまでは、周囲から足手まといと見られるのを甘んじて受けなければならないが…。

 

(また寝ていたのか。列車内であれだけ寝たのに、まだ寝不足なのか。これは失敗したな)

 

よくもあれだけ寝たのにまだ寝れるものだと、我がことながら感心してしまう。考えるに、昨日早朝に成るまで夜更かしをしていたのが原因だろう。そうとしか考えられない。

無論、入学出来た喜びや入学後の学院生活に胸を含ませていた故に、寝れなかったのではない。ならば何故かというと、研究データをレポートに取りまとめてたからである。本来ならば、適合者の少女が行う筈だったが、別の作業に手を取られて気を回す余裕なかったからだ。

また彼女に夜遅くまで作業させるのは気が引けたのもある。夜更かしは乙女の敵と言ったところだ。これを言うと周りから過保護だと笑われるのが目に浮かぶのだが…。

 

「若者よ、世の礎たれ」

 

世と言うのを何と捉えるのか、何を持って礎とするのか、各々深く熟考して互いに切磋琢磨しつつ、これからの学院生活を謳歌してほしいとの学院長の言葉で、入学式は無事終了した。

これは中々難しいことである。これには答えなどないからだ。人それぞれの答えがあり、人に教えられて持つのではない。様々なモノに触れ色んな出来事を通して、己の価値観を築き上げた末に、見出すものだから。明確な目標が無い故に難しいが、生徒達の自立心を育てる意味でも適切な表現だと言えよう。考えること、学ぶこと、調べること……これらは何事においても基本であり、最も重要な要素なのだから。

 

「失礼。もしや、そなた眠っていたのか」

「ええ、どうも昨日は充分に熟睡出来ず、いつの間にか船を漕いでました」

「ふむ、寝ているようには見えなかったが、呼吸で分かった」

 

青い長髪をポニーテール状に結い上げている少女が、レギに話しかける。結い上げている髪を下ろしたら、さぞや東方に伝わる“大和撫子”という美女のイメージになるだろう。それほどの凛々しさを兼ね備える少女のようだ。口調も女性のわりには、若干堅苦しくどこか武士道、否この場合は騎士道と言うべきなのか、それを感じさせた。

 

「そうでしたか。あ、もしや煩わしいでしょうか、でしたら深くお詫びします」

「いや、それには及ばない。だが、居眠りとは感心せぬな。学院長殿の話は聞くものだぞ」

「仰せの通りですが、本日の早朝まで作業を行いまして、就寝が遅くなりました」

「ほう、それではあまり寝ていないのではないか」

「仰る通りで、ここに参る途中にて列車内で就寝しましたが、まだ睡眠不足のようです」

 

この一連のやり取りで判断するのも早計だが、人当たりが良く気軽に付き合える雰囲気を感じる少女だ。リィンと同じく長く付き合っていける者かもしれない。僅かながら期待感を胸に抱いた。

どこから来たのかと尋ねる彼女に、レギは東にあるクロスベルから来たと告げる。流石に貿易都市だけはあり、帝国にも知られているようだ。すぐに国際銀行や貿易都市としての側面を言い当ててきた。日常生活に欠かせない導力器を製造する財団の支部があることも大いに関係あるだろう。

 

レギが話す内容を熱心に聞き入る少女の姿。と同時に自身が知っていることを述べていくが、これがまたどうして詳しい。新聞社などで報道された出来事等は、大方知っているらしい。

本人曰く幼い頃からの生活環境の影響で、世の中のことに疎いと述べていたが、充分に詳しく謙遜だとレギは指摘したくなる。少なくとも、帝国内における一般常識以上の知識を有してると言っても過言ではない。

 

こうして話が進んで行く中、少女がはっと気づいて頭を軽く下げて謝って来た。お互い自己紹介がまだだったことに思い至り、失礼だったと考えたらしい。レギも話に夢中になるあまり失念していたので、お互い様ですよと微笑みながらフォローする。

 

「ラウラ・S・アルゼイドだ。ラウラで構わない。そなたの名前を訊きたいのだが、いいだろうか」

「ええ、よろしゅうございますよ。私はレギ・オルフィーユと申します。どうかよろしくお願いしますラウラ様」

「うん、こちらこそ宜しく頼む」

 

お互い微笑み合いながら、ぎゅっと強く握りあって握手を交わす。

ふとアルゼイドの名前に心当たりがあるレギは、不躾ながらも思い切って尋ねてみることにした。

 

「もしや、アルゼイドとは、美しい湖畔がある帝国南東のレグラム領をお治めする子爵家ではございませんか。

たしか皇族の方々を代々守護なさるヴァンダール家と武の双璧を成していると言われておりますよね。」

「ほう、そなたよく知っているな」

 

国外から来たにも関わらず帝国のことを詳しく知っているレギに、少しばかり感嘆する彼女の姿がある。それに関しては、帝国内にある士官学院に入学する以上、一般常識程度は予め学んでから来たと告げて納得させた。これもまたレギの目的の一つに大いに関係するのだ。軽々しく口に出せるものではない。

 

「それから現領主のヴィクター・S・アルゼイド子爵は、光の剣匠と呼ばれるほどの凄腕だとお聞きしました」

「うん、私の父に当たる人だ。私も幼い頃から、父達に憧れて剣を修めている身だ」

「これはとんだ無礼を働きました。この通り深くお詫び申し上げます。申し訳ございません」

「いいや、構わぬ。こちらとしても、あまり堅苦しく接されても困るからな。気楽に接してくれ」

「寛大なご処置、痛み入ります。それでは以後そのように…」

 

案の定、ラウラはアルゼイド子爵の令嬢だったようだ。問題ないとは思うが、念のために頭を深く下げて謝罪の言葉を口にする。別段取り繕うでも慌てることもなくごく自然に振る舞った。昔は慣れずに四苦八苦していたが、今では手馴れたものだ。このような所でも時の流れと生きてきた年数を嫌でも実感させられ、レギの心にちょっとした小波が流れた。

 

ラウラの言葉を受けて、砕けた物言いに変更するレギ。先程までの騎士然とした雰囲気からは読み取れにくいが、意外と柔らかい物腰のようだ。これは将来、士官学院内部で秘密裏に彼女を慕う集団が出来上がるだろう。

レギはラウラの立ち振る舞いに、どこか懐かしさを感じていた。これはそうだ…彼女に似ているな、と目をつむって過去に想いを馳せる。

優れた剣士を代々輩出してきた家系だった少女剣士、自分が最期に想いを寄せた女性…それが隣に座っているラウラと重なるのだ。何かしら因縁を感じるものだと内心嘆息する。

ただ駅前で出会ったアリサの方も、どことなく似ているのではなかろうか。そのような感じはするなと思い返す。

これも縁なのか、もしくは“世界”が自分に課した試練(ばつ)なのか…それは誰にも分からない。例えレギであっても……。

 

―――ようこそ、ゆがみの世界の少女剣士―――

―――ふふふ、それはとんだウサギがいらっしゃいますね。タナトスさん―――

 

かの少女剣士と初めて出会った時のやりとりが思い起こされる。彼女から想像される動物はウサギだったな、とたった今理由が分からないがそれを思い出した。

彼女は歌が好きで、将来剣士になるか歌手になるか迷っていた。そんな彼女が晩年に歌った曲は、それまで歩んできた道のりを象徴するかのような素晴らしくも誇り高き歌だった。正に聖歌と呼ぶに相応しいだろう。

少女剣士は、自分という障害及び幻影とトラウマを無事に乗り越えて一人前の剣士となり、多くの者達を救ったと聞いている。晴れて父や兄達と同じように歴史に名を残る立派な剣士になったのだ。

今も尚その生き様は自分の憧れであり、乗り越えるべき壁となって立ち塞がっている。

 

「どうしたのだ?レギ」

 

不意に隣から呼ぶ声に誘われて、現実に意識を戻される。見るとラウラが、不思議そうにこちらの表情を伺っているのが見える。

レギは、そんな彼女の意識を別の方向へ向けさせるべく、今まで考えていたことをさわりだけ口に出した。世の中の奇特さを人の縁の不思議さというものを……。

 

「ん、ああ…これも何かの縁かと思ってな」

「縁?」

「ああ、ラウラやアリサ様、それからリィン様とこの士官学院で出会うのは、何らかの意味がある。そうではないか、と考えてしまうのだよ」

「え?」

 

ふと彼等の背後から、呆気にとられた声が聞こえてきた。レギ達が振り返ると面食らってぽかんとし、二人を見るアリサの姿がある。

そう言えば後ろには駅前で出会い、一緒に正門まで同行したアリサがいたことをレギは今更ながらも気づいた。

 

「ああ、アリサ様はその席にご着席なされましたか。気付かずに話題に上げてしまい、申し訳ございません。無礼でした」

「え?!ううん、いいのよ。」

 

頭を下げて謝罪しようとしたレギを、アリサは慌てて制しながら言葉を続ける。どうやらレギに何か物申したい事があるようだった。それが何なのかとアリサが発するであろう次の言葉をレギは待つ。

 

「ねぇレギ…その言葉遣いと堅苦しい態度、止めてもらえないかしら。」

「よろしいのですか」

「ええ、私もあなたと対等に話したいし、さっきこの人に話したみたいに、普通に喋っていいわよ」

 

アリサが出した要求は、その堅苦しい態度と口調を止めろというものだった。レギは、アリサの立ち振る舞いから高貴な身分の者だと予想していた故に、失礼のないように礼儀正しい態度を取っていただけなのだ。

だが、考えてみれば高貴な身の上というのは、周りから敬われて一線引かれるものだ。それは生まれてから亡くなるまで、ずっと続くものである。同世代の者達からも一線引かれて、気軽に話せて対等に接する友人が、どうしても少なくなりがちだ。もしかすると、アリサもその口なのかもしれない。

レギは自分の実父がそうだったのを思い返し、彼女の為に砕けた口調になるのも良いかもしれないと思い直した。

 

「かしこまりました。それでは仰せのままに……。それでどうしたアリサ」

「あ、うん…さっきその人に言ってたことは何なのかなと思っちゃったの。私達が出会ったのは、何かしらの意味があるとか言ってたわよね」

「ふむ、それは私もぜひ聞きたいと思っていたところだ。聞かせてもらえぬか。レギ」

「なに大した事ではない。このエレボニア帝国は鉄道技術が発達し、帝国全土に敷かれているとは言え、元々国土が広大な故に辺境には鉄道が通ってないからな。同じ国民同士でも場合によっては、一生出会わないこともざらだ。

それを踏まえると、おれ達がこうして巡り会えたのは、何かしら意味があるのではないか、と考えてしまうのだよ」

 

やれやれと言ったポーズで、おどけながら言う。むろん、これは嘘である。先ほどの感情を悟られないようにだ。

見ると二人とも呆気に取られた表情になっている。少々と言うよりもかなり臭い台詞だったようだ。穴があったら、思わず入りたくなるほど赤面満載の言葉である。誤魔化すならもっと上手い言い方があるだろう、と内心で項垂れた。

 

「ふ…ふふふ、そのように考えられるとは、そなたは面白いやつだ。私でも思い付かないぞ」

「本当よね、見かけによらずロマンチストなのかしら」

「なんかおれは二人に不名誉な言葉をいただいた気がするが。

あとアリサ、ロマンチストとは心外だな。こう見えてもおれは現実主義者だ」

 

ジト目で二人に問い詰める裏腹、レギは先ほどの自身が発した言葉に驚いていた。以前の自分からは、決して考えられない発言なのだ。

これも天真爛漫な義姉と心優しい義兄のおかげなのかと思うと、くすりと笑いたくなる。やはり義姉達は、周りの者達を良い方向に変化させるとんでもない者のようだ。

 

「それは誤解だ。これでも誉めてるぞ」

「ふふ、そうね。疑うなんてひどいわよ。それに自分から現実主義だなんて、普通言わないわよ」

「悪かったな」

 

そんなレギの追求に誉めてると何食わぬ顔で応え、あっさりと追求を交わすラウラとアリサだった。

会話を通して、穏やかな時間が流れるのをレギは感じ取る。ああ、なんて平和なのだろうとじーんと来るものがある。こうやってのんびり出来るのが、平和というものなのだ。

養父・養母に愛され、義姉や義兄に引っ張られて年頃らしい生活を営み、同世代の者達と穏やかな空間で談笑を思う存分楽しむ。これが生前ではほとんど得られず、生涯かけて追い求めていたものなのかと思うと、無性に感慨深くなった。思わず目尻が熱くなる。生前、生きた年数を足すと既に三十路になるからか、すいぶんと涙脆くなっているようだ。

 

その後、アリサとラウラはお互いに自己紹介を行い、よろしくと挨拶を交わしていた。その様子にレギは、言い知れぬ懐かしさと温かさを感じていた。本当にどことなく二人は、かつて生死と苦楽を共にした少女剣士に似ているのだ。生い立ちや立振る舞いはラウラに、喋り方や性格などはアリサに、それぞれ分かれたかのように錯覚してしまう。

十七年以上もの歳月を経て、面影が見え隠れする人物と巡り会うことになるとは、これも運命の悪戯なのだろうか。思わず泣きそうになるのを目一杯こらえるレギの姿がそこにあった。

 

(だが、この二人は違う。この二人は彼女ではない。ラウラはラウラ、アリサはアリサだ。そう彼女ではないんだ。彼女は天寿を全うし、もう…どこにも居ないのだから)

 

理屈で心と頭を納得させようとしても、感情がそれを受け入れてくれない。一度そうと認識してしまうと、どうしても、二人に面影を探してしまう。彼女の幻影を通して、二人を見てしまうのだ。

人とはそういうものなのだろうか。もしそうだとしたら、とても業が深い話である。いい加減いつまでも、彼女の幻影を追いかけるだけでは、先に進めやしないというのに……。

 

「はいは~い。赤い制服の子たちは注目~!」

 

大半の生徒達が教頭の指示に従い、講堂から出て行った。それに伴い、赤い制服の者達だけが残った時、自分達の前に躍り出た女性が居た。入学式にも他の教官らしき者達と並んでいた女性だ。

クラスが分からなくなって戸惑っているのではないか、と自分達の内面を見透かすような発言をする女性。続けて少々事情があってこのようなことになったのだと説明し、自分達にはこれから特別オリエンテーリングへ参加してもらうから、全員自分について来いと促した。訳も分からずに、大半の者達が教官らしき女性の後へついて歩いて行く。

レギ達も同じく呆然としていたリィンともう一人背丈が皆より小さめで、中性的な顔立ちをした男子生徒と合流して後を追いかけた。

 

 

「そちらの方は、初めましてですね。私はレギ・オルフィーユと申します。レギとお呼び下さいませ」

「う…うん、僕はエリオット・クレイグだよ。エリオットって呼んでね。よろしく」

「こちらこそエリオット様、よろしくお願いします」

 

教官らしき女性の後について行く最中、エリオットと名乗る男子生徒は、レギ達に向かって自己紹介を行う。背丈も周りとは若干低く、およそ仕官学院に入るには不向きであろう線の細さをしていた。

仮にもここは仕官学院で、どちらかと言えば身体を酷使させられる場所なのだが、よく入学する気になったものだ、とレギは己を棚に上げて考えた。何か深い事情があるのかもしれないし、こう見えても実は武道方面で優秀な才能を持っており、それが評価されて自分のように入学を許されたのかもしれない。

どちらにせよ一筋縄ではいかない事情がありそうな男子生徒だ。

 

「私はアリサ・R、アリサでいいわよ。よろしくねエリオット」

「こちらこそよろしくねアリサ」

 

レギが思考する最中に、アリサとエリオットもお互いに名前を名乗り、挨拶を済ませている。リィンとラウラも同様に自己紹介を言い合っていた。

 

「ところで、見たところ駅で見かけた人達が一通りいるな」

「あ、たしかにそうだよね。僕も駅から降りてここに来るまでに見た人が何人かいるよ」

「一名二名……私達と同じ制服を着た方々は、拝見するに九名程度のようですね。私を含めても十名ですか」

「大方、同じクラスになる人達なんでしょうけど、学院における一クラスにしては、人数が少な過ぎるんじゃないかしら。日曜学校でももう少しいたわよ」

「そうなのか。私にはよく分からないが、ふむ…」

 

リィンがふと駅で一通り見た顔ぶれが集まっていることを示唆し、エリオットもそれに付随するかのように、駅で降りた際に見かけた顔ぶれがいることを述べる。

さらにレギが見る限り同じ制服を来た生徒が十人程度だと推測。アリサも学院における一クラスにしては人数が少ないのではないかと疑問を呈した後、日曜学校でももう少しいると述べた。

ラウラは、そのことに関しては、あまり知らないようだが、思い当たる所があるらしく四人の発言に同調するかのような仕草をしていた。

 

「アリサの言う通り、同じクラスなのは確実だろうが、何故このように人数が少ないのかは、検討が付かないな。

しかし、我らが緑でも白でもない制服を着せられたのは、何か理由があるようだ。」

「ああ、白色の制服は貴族出身の生徒が、緑のは平民出身の生徒が着る規則だって案内書に書いてたけど、俺達はどっちでもないんだよな。赤色の制服があるなんて書いてなかったんだが…。

それから制服と一緒に送られてきたこれも分からないな」

 

リィンがラウラの発言に続くように、懐から手の平より一回り大きな導力器を取り出して言った。大陸に徘徊する魔獣や対人戦に使用する戦闘用導力器“戦術オーブメント”の一種かと考えているが、根拠も何もないことから特定出来ずじまいだった。

 

「あ、それ僕にも送られて来たよ。リィンにも入ってたんだね」

「ふむ、そなた達もか。私の所に送られてきた入学案内にも入っていたな」

「私もよ。どうも戦術オーブメントのようだけど、こんなモデル見たことないわ」

 

エリオットもアリサもラウラもリィンに続き、懐から同じデザインの小型導力器を取り出して見せた。形も色合いもデザインも全く同じだ。どうやら同じタイプの導力器らしいことは明白だ。

しかし、仕官学院の備品にしては、あまりにも凝り過ぎた物で余計に分からなくさせる。

たしかに戦術オーブメントは、その規格の関係で一人一人内部構造に若干の違いがあり、必然的に特注品になるが、この小型導力器はまるで最新鋭かと思わせるほど凝った物だと認識させられる。

尤もまだ戦術オーブメントだと確定したわけではないのだが。

 

「第五世代戦術オーブメント“ARCUS(アークス)”…同世代に当たる純エプスタイン製の“エニグマ”と違い、エプスタイン財団とラインフォルト社が共同で開発した戦術オーブメントか。」

 

四人が共に小型導力器を取り出して考えている最中、誰ともなしにつぶやくレギ。

その発言を聞きつけた四人は、驚きのあまり彼の方を思わず見た。

 

「え、レギ、これのこと知ってるの」

「それにラインフォルト社とエプスタイン財団が共同開発したってどういうことよ」

 

エリオットが知っているかと訊き、アリサも二社の共同開発と聞いて眉をしかめて表情を険しくしつつ、詳しい経緯を訊ねる。

しかし、自身の管轄ではない故に伝聞と財団内に配布された公文書による知識しかレギは有してない。あまり詳しいことを訊ねられても答えられないのが実情である。

 

「……どうやらこの導力器についてそなたは何か知っているようだな。」

「聞かせてもらってもいいか、レギ」

「ええ、よろしいですよ。もっとも噂程度でしか拝聴してませんし、カタログスペック上でしか存じ上げませんが、それでもよろしいでしょうか」

 

念のため、噂程度でしか聞いてないことと、財団内外に公布された公文書上のスペックしか、このオーブメントを知らないことを伝える。だが、それでも構わないと四人は了承した。それを聞き届けた彼は、まずざっとカタログスペックを告げる事にする。

 

純エプスタイン財団製のエニグマとの相違点は様々にあるが、一番大きく異なるのは、この戦術オーブメントが集団戦用に仕様が変更されていることだろう。具体的にはアーツとクオーツの単一化が該当する。

従来のオーブメントとは違い、アークスでは初めからアーツを行使できるクオーツが創られており、それを装着することで面倒な手順を踏まずに、手軽で即座に行使できる利点を備えるようになった。

つまり、遊撃士あるいは公務機関の警察における捜査官などの比較的単独行動を強いられる職業よりも、軍人を初めとした基本的に集団行動を第一とする職業に適した物である。

対して純エプスタイン財団製のエニグマも集団行動に配慮した機能を内蔵しているが、どちらかと言うと単独行動向けに比重をおいた仕様になっている。アーツを行使する仕様も従来のままだ。

この違いは、開発に携わったラインフォルト社が、代々兵器などの製造を通して古くから軍事と深く関わってきたせいである。長年軍事に携わってきた企業ならば、軍事が個人の力量ではなく、集団行動やチームワークが何よりも物を言うことは、理解出来ているのだろう。

もしかしたら、過去ラインフォルト社製の銃火器が試験導入される際、退役した軍人達を雇い入れ、モルモット部隊を結成してテストプレイを行わせ、実際に使用した感想ないし意見を通じて学んで行ったのかもしれない。

 

かくして、今まで培われたノウハウを最大限に活かして製造されたアークスは、集団戦に特化したオーブメントに仕上がった。

ただし、身体強化とアーツを別々にしたおかげで両立することが困難になり、結果従来のオーブメントよりも余計にクオーツを装着する必要があるため、必然的に嵌める穴が足りなくなるといった弊害が早くも発生している。また無理に身体強化とアーツの双方を両立させようとすると、身体強化の恩恵とアーツの充実度が中途半端になる欠点も露呈した。

弊害と欠点を補う為の策として、マスタークオーツなる新規仕様が施されているが、また別の話である。

 

「……とまぁざっとこのようなものでしょうか。あとは…」

 

アークスと呼ばれるオーブメントを取り出し、何やら操作を行い始めるレギ。すると次の瞬間、四人のオーブメントから音が鳴り出した。

 

「わぁっ、何か音が鳴ってるよ!?」

「ふむ、この音は我らの物からのようだ」

「まさか、これって」

 

四人ともオーブメントを開き、ボタンらしきものを押すと中から聞き覚えのある声が聞こえる。

 

『四名とも聞こえますか。ふむ、通信状態は良好のようですね』

 

レギの確認する声が聞こえた時、アリサとリィンは合点が行ったかのような表情になった。直後、彼に確認の意味を込めて二人は訊ねる。

 

「なるほど、このオーブメントは通信機能が備わっているのね」

「ああ、お互いに今いる場所や置かれてる状況などを連絡する為の機能なんだろうな。そうだろレギ」

「ええ、お二人ともご明察です。リィン様の仰る通り、より柔軟な行動と円滑な集団行動、及び連携行動を取るのを目的として通信機能が内蔵された模様ですね。」

 

リィンとアリサが述べた内容に対して、二人の推測が正しいことだと応えるレギだった。

更に戦術リンクなる機能も搭載されているようだが、それが何なのか、実際にどのような効果をしているのかは分からない。どうもチーム連携を促進する為のもののようだが…。

 

「でも、レギの説明でますます分からなくなったな。そのアークスが、どうして俺達に支給されるんだ」

「ふむ、我らはあくまで仕官学院生だからな。謂わば軍人の卵に当たる者達だ。故に軍事教育の一環として持たせられるのではないかリィン」

「それもそうなんだが、よく考えてみれば不自然じゃないか。レギの話を聞くに最新鋭の戦術オーブメントらしいし、こういうのは領邦軍か帝国軍に優先的に配備されるのが普通だろ」

「言われてみればそうよね。リィンの言う通りだわ。

う~ん…。あ、もしかして試験段階だから不具合や欠陥をあらい出させるのを目的に、帝国軍じゃなくて私達士官学院生に配備させたんじゃないかしら」

「え!?そうなのアリサ」

 

彼女の口から思いも寄らない言葉が発せられ、驚きのあまりエリオットは聞き返してしまう。彼女からそんな推測が出たのもエリオットを驚かせた。

 

「ええ、こういうのってたくさん作って売り出す前に、普通は試作型を幾つか作ってから実際に使ってみて、予期しない不具合や欠陥を洗い出すものなのよ。その欠陥をなくして安定性を上げる為に、ね。

そうしないと安全性と信頼性に欠けるし、もし万が一売り出した後に、致命的な不具合が見つかっちゃって、それが噂になっちゃったら企業への信用がなくなるわ。

そうなると客足が遠のいて、長い目で見ると売り上げにも大きな影響が出るわね」

「へぇ~それは知らなかったな。でも、よく考えてみればそうだよな。軍と言ったら戦場に行くことが大前提だし、少しのミスが命取りになりかねない仕事だ」

「そのような時に、予想もしない欠陥が表に出るとなれば、最悪の場合、致命傷になりかねんな」

「そっか、だから僕達士官学院生に使わせて欠陥がないかどうか調べるってことなんだね」

 

アリサの説明に三人とも合点が言ったように頷く。

だが、エリオットとリィンは、アリサの意外な一面を見て内心呆然としていた。第一印象からは想像も出来ない一面である。何故彼女がこのようなことを知っているのか甚だ疑問だった。見かけからするに、あまりこういう方面に詳しくないような感じなのだ。

先ほどの説明を聞いて、エリオットはアリサの素性に初めて疑問が芽生え、同様にリィンも更なる疑惑が深まることになった。一体彼女は何者なのだ、と。

 

二人がアリサの素性に疑問が湧いた時、前方を歩いて居た生徒達の足が止まっていることにリィン達は気がついた。眼前には古びた校舎がそびえ立っている。と言っても、建物自体はしっかりした構造になっているようで、これなら今直ぐに分館として使用しても何ら問題は無い様に思える程だ。

しかし、建物自体から漂ってくる神秘的な雰囲気なども相まって、幽霊が現れる場所として紹介されても何ら違和感が無い。

突然このような所に連れて来られ、大いに困惑する生徒達を尻目に、教官らしき女性は鼻歌交じりで扉を開き、中へ踏み込んで行く。困惑する中には、何が何だか訳が分からないと歯噛みするメガネの男子もいた。そんな呟きを各々が言いながらも、女性教官の後に続いて入って行った。この建物が見える高台から自分達を見つめている者達がいるのも知らずに…。

期待と波乱に満ちた学院生活は、今この時をもって幕を開けたのだった。

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