罪人の軌跡   作:恋の又二郎

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ブクマをなさって下さった方々、またご感想をお書きになられて下さる方々、誠にありがとうございます!この場をお借り致して、深くお礼を述べさせていただきます。
これからも罪人の軌跡とレギの活躍をお楽しみになさって下されば幸いであります!
それでは本編をどうぞお楽しみ下さいませ。
※15/1/24(土)レギの台詞を全文修正、全文に改行を追加しました。


第4話~特別オリテンテーリングと実戦開始~

旧校舎の中へ入ると、そこはステージがある。ここで何を始めるか、訝しげに当たりを見回す一行の中、レギも同様のことを考えていた。大方、赤色の制服を着せられた理由やここに連れて来られた理由などを説明するに違いない。

そんなことを考えている最中、前方にあるステージ上へ上がった教官らしき女性は、自分達に向かって説明を始める。

 

「サラ・バレスタイン。今日から君たち七組の担当を務めさせてもらうわ。よろしくお願いするわね」

 

サラと名乗った女性が、きりっとした表情ではきはきと述べた内容には、全員が驚いていた。何故なら今までの学院制度とは違っているからである。事前に調べた限りでは、貴族と平民とでクラスが分けられていたようだが。

 

(それよりもサラ・バレスタインと言えば、最年少でA級遊撃士に上り詰めた凄腕ではないか。風の噂によると帝国に点在するギルドの大半が畳まれた際に、辞職してどこかへ去ったようだが、まさかここで教官を勤めていたとは驚きだ)

 

だが、レギはサラと呼ばれる女性が仕官学院の教官を勤めていることに、どこかしら納得の意を持った。何せ最年少でA級遊撃士まで上り詰めた猛者だ。武術に関してはもちろんのこと、他の分野に対してもずば抜けた能力を持ち合わせているに違いない。そうでなければ、最年少でA級まで上り詰めることなど有り得ないからだ。

 

以前の彼女と同じ遊撃士を勤めている自分の義姉は、二年近く前に発生した異変事件を解決した功績で、16~17歳という若さでC級にまで昇格していた。正直ランクの多さを考えるとかなり異例の昇格速度と言えよう。

だが、義姉の腕を持ってしてもC級止まりなのだ。A級と言ったら、どれほどの能力を有しているのか想像もつかない。お手並みを拝見しようと決めるレギだった。

 

「な、七組!?」

 

メガネの男子が素っ頓狂な声を上げる。その声にしばし考えにふけっていたレギは、我に返って話を聞くことにした。同様にメガネをかけ、髪を三つ網状にしている少女が、恐る恐る女性教官に問いかけていく。

何でもこの学院は一組から五組までのクラスで、それぞれ身分や出身に応じて振り分けられるそうだ。帝国全土となると広大な上に身分制度も相まって、相当細かく分類されていそうである。

 

「お、流石は主席で入学しただけのことはあるわね。よく調べているじゃない。

そう、5つのクラスがあって貴族と平民で区別されていたわ。あくまで去年まではね」

 

女性教官は、メガネの少女の言葉に我が意を得たりとしたにこやかな表情で褒め称え、前年度までは、従来の制度だったと説明する。その説明を聞きつつ、ちらりと横目でメガネの少女を見やるレギ。主席入学だと言われた少女が、どのような者なのか気になったのだ。

 

(何と言うか、スタイルが良いな。さしずめ、メガネを取ったら美女になるに違いない。

……自分で思っていて難だが、この子なら見た目からして普通に有り得そうなのが怖いな)

 

だが、このような少女が意外と腹に一物持っていたりするのが世の中だ。人は見かけで判断してはいけないと昔から散々思い知らされてきたのだから。

とりあえず、安全で平穏な学院生活を送るためにも、怪しまれない程度に全員の素性をあらうことを決定。裏を取るために母国に設立されたリサーチ社へ調査依頼を申し込もうと決意する。

 

こうしてみると身分も出身もまるでバラバラだ。レギに到っては帝国人ですらなく、外国人の有様だ。それでも入学を許可されるのは、学院長ら上層部の思惑が複雑に絡んでいることが容易に見て取れる。

 

「今年からもう一つのクラスが、新たに立ち上げられたのよね。

すなわち君たち―――身分に関係なく選ばれた特科クラス《七組》が」

 

サラ教官が告げた言葉に驚く一同。身分に関係なく一つのクラスに所属するということは、上層部は平民と貴族との融和を望んでいるということだろうか。それとも交流を通してお互いの価値観に触れて見識を広げ、物事を多角的な視野から見られるような人材を求めているのだろうか。どちらなのか、あるいは両方なのか現時点では判断し難いものだった。

 

「身分に関係ない!?そんな話は聞いてませんよ!?」

 

冗談ではないとメガネの男子が声を荒げて教官を問い詰める。

 

「えっと、たしか君は…」

「マキアス・レーグニッツです。それよりもサラ教官、自分はとても納得しかねます。まさか貴族風情と一緒のクラスで、やっていけって言うんですか!?」

 

マキアスと名乗るメガネの男子が不服の声を上げるも、同じ若者同士だからすぐに仲良くなれるだろう、と軽くかわされてしまう。そこは人生経験豊富で大人の余裕を見せ付けたサラ教官に軍杯が上がった。流石元A級遊撃士の肩書きは伊達ではなく、中々の曲者っぷりである。

何となくレギの故郷に居る有望な若手女性遊撃士、“銀閃”の遊撃士を想起させる立ち振る舞いだ。

 

(レーグニッツと言ったら、初の平民出身で帝都庁長官に任命されたカール・レーグニッツ氏だな。と言うことは、この御方が氏のご子息なのか。なるほどな)

 

たしか四年前に数々の企画を成功させ功績を挙げたとして、帝都庁長官に任命された筈だ。清廉潔白を地で行くことで貴族平民問わず多くの支持を集めてると専らの評判である。

 

「別に。平民風情が騒がしいと思っただけだ」

 

教官に抗議の声を上げ続けるマキアスを、ふんと鼻を鳴らして笑う金髪の男子がいた。何か文句でもあるのか、とジロリとマキアスが金髪の男子を睨むと関一番その言葉が出て来る。売り言葉に買い言葉とは、正にこのことを指すのではないだろうか。どんどん雰囲気が悪くなっていく。

 

「これはこれは、大貴族のご子息殿が紛れ込んでいたようだな。その尊大な態度、さぞ名のある家柄と見受けるが」

 

煽られた方も趣旨返しのつもりなのか、嫌味ったらしい口調で家柄と出身を尋ねていた。

 

「ユーシス・アルバレア。貴族風情の名前ごとき、覚えてもらわなくても構わんが」

 

ユーシスと自分の名前を告げた男子は、帝国でも有数の大貴族“四大名門”の一つであるアルバレア公爵家のご子息だったらしい。東のクロイツェン州を治める公爵家で有名な故にほとんどの者が驚いていた。

 

(アルバレア公爵家と言えば、かの貴族派きっての貴公子と言われるルーファス様がいらっしゃったな。もしや、この御方はその弟君に当たられるのか。これは全く持って奇遇なこともあるものだ)

 

帝国に入国するまでに調べた情報を元にアルバレア公爵家の家族構成を想像した上で、目の前に居るユーシスの素性を考察するレギ。その間にもユーシスとマキアスのやりとりが繰り広げられていく。

 

「だ、だからどうした!?その大層な家名に誰もが怯むと思ったら大間違いだぞ!」

 

ユーシスの余裕たっぷりの態度に一度はたじろぐも負けじと声を張り上げ、対抗心と拒否反応を見せているマキアスだった。

他の者らは、この先どうなるかという表情で二人の様子を見ているが、何故だろうかレギには二人のやり取りが微笑ましく見えてしまう。自分の感情を素直に吐き出せるのは、一種の美点とも言えるだろう。これも青春の一環だと思えるのは、やはり自分が相当に歳を食ったせいだろうな、と寂しい想いに駆られるのだった。

とは言え、そろそろいい加減に止めないと話が進まない上に、今はまだ口喧嘩の範囲で治まっているが、そのうち殴り合いにでも発展しかねないため止めるべきだろう。

 

「いいか、僕は絶対に―――」

「お二人とも、そこまでにされては如何でしょうか」

 

まだ尚続けて言葉を紡ごうとするマキアスの機先を制して、レギはユーシスとマキアスに述べた。え、とアリサ達がきょとんとしているが、レギからは見えていない。

 

「お互いにご事情があると思われますが、熱くなり過ぎではありませんか。まずはサラ教官のご説明をきちんと最後までお聞きになられては如何でしょう。ご意見を仰るのは、それからでも遅くはありません」

 

責める訳でもなく煽る訳でもなく淡々と告げるレギにマキアスが何かを言いたげな表情で睨みつけるも、渋々ながら矛先を下ろしたようだ。とりあえず、この場は双方引き下がったようで何よりだった。これでサラ教官に話を促すことが出来る。

 

「ありがとう、助かったわよ。ええと―――」

「レギ・オルフィーユですサラ教官。それよりもご説明を続けて下さいませ。わざわざここへお招きなさったのは、ここで授業を行うわけでもないのでしょう」

 

ええ、とレギの問いに頷き、色々と文句はあるだろうが、それは後でまとめて聞かせてもらうと告げて何故か後ろに下がっていく教官。アリサとメガネの少女の質問にも答えずに…。

レギはそれを見て取った時、猛烈に嫌な予感を感じ取り内心身構えてた。それは物の見事に的中する。

 

「っ!この振動は……」

 

僅かに床全体が振動した後、床が傾き全員を闇の底へ誘い込もうとする。言うまでも無く落とし穴だった。皆次々と奈落の底へ落ちて行く。かろうじてふんばっているのは、リィンとレギの二人だけだ。

 

「きゃぁっ!」

 

悲鳴の声に顔を向けると、予想した通りにアリサも落ちて行く真っ只中だった。レギは一瞬考えた後―――

 

「アリサ、しっかり掴まっていろ!」

「え、レギ……!?」

 

已む無くアリサに向けて跳躍した後、彼女を抱きかかえながらて二人とも奈落へ落ちて行く。やはり今の状態では複数の人数を助けることなど咄嗟には出来ない。

 

(ちっ…あまりにも身体が鈍り過ぎてる。ラウラ、エリオット様、リィン様達は無事か!?)

 

床が傾いた時点で、レギに最も近かったのはリィン・ラウラ・アリサ・エリオットの四人だった。

しかし、レギは救出候補からリィンとラウラを即座に除外した。何故なら、二人とも立ち振る舞いや今までの会話で武道を嗜んでいた事が発覚していたからだ。

またレギとは違って張りぼての物ではなく本物のと言うべき筋肉の付き方である。何度も実戦を積み重ねて出来た物だと看破出来た。

よって、実戦をある程度積み重ねたのならば、受け身も自然と習得出来ているのではないかと考えたのだ。師から修行の一環として身につけさせることもさして珍しくは無い。故に落ちたとしても受け身をきちんと取り、大事無いようにするのだろう。下手にレギが行っても余計なお世話になるだけだ。

逆にアリサとエリオットは、立ち振る舞いから明らかにそういう経験を積んでるようには見えなかった。だからこそこちらの方を救出した方が怪我をさせなくて済むと判断したのである。

 

「~~~~っ!!」

 

咄嗟にアリサの下にくるようにしたので、背中に強い衝撃がひびく。幸い当たり所が悪くなく無事に何とかなった。しかし、背中に直撃したおかげでしばらくの間、身体全体が痺れて身動きが出来なくなってしまう。

 

「レギ!?大丈夫!?」

 

アリサが心配そうに顔を覗き込んでいる。どうやら本気で心配しているようだ。

 

「……何とかな。アリサの方こそ無事か、どこも怪我はしていないか」

「ええ、レギが守ってくれたおかげで無事だったわ。ありがとう」

「気にするな、礼など必要ない。むしろこちらの方が、謝らなくてはならない。着地が上手く行かなかったからな」

「それでも守ってくれたじゃない。その…ごめんなさい」

「ああ、何度も言うようだが気にするな。こちらこそ心配してくれてありがとう」

 

アリサに礼を述べる傍ら、密かにちっと舌打ちすると同時にぼやいた。鈍ってるとは思っていたが、まさかここまで鈍っていたとは…正直予想以上だった。日々素振りなどの鍛錬を欠かさず行っていたので、かなりマシであろうが。

舌打ちを聞いたのか、え…と怪訝な表情になりながら仕草の真意を測りかねているアリサ。申し訳ないと思いながらも、そんな彼女を脇にどかして立ち上がり、ラウラとリィン…それからエリオット達の安否を確認する。三人とも無事なようだ。更にリィンに到っては、自分と同じくメガネの少女を助けていた。お互いに謝り合っている光景が目に映っている。

それとは別に後でラウラとエリオットに謝らなくてはいけないなと覚えておく。仕方が無かったとは言え、男だからと武道の心得があるからと見捨てるような行動をしてしまったのだ。された方は嫌な気分になるのは間違いない。言わなければそれで良いのだが。

そんな時、全員の懐から通信音が鳴り響いてきた。どうやら各々のアークスに何者かが連絡を入れてきたらしい。と言っても相手はあの教官以外にいないだろう。

 

『それは特注の戦術オーブメントよ』

 

案の定、開いた導力器から教官の声が聞こえてきた。やはり同世代のエニグマとは違い、多少機能が向上しているらしい。エニグマはスピーカーモードにしないと周囲にまで声が聞こえなかった筈だ。このアークスは初めからある程度離れていても声が聞こえるようだ。

部屋の照明が付き、辺りが明るくなると各自正門で預けた荷物とその前に一つの小箱が置かれているのが見えた。

 

『君たちから預かっていた武具と特別なクオーツを用意したわ。クオーツを装着することで魔法が使えるようになるから、各自確認したうえでクオーツをアークスにセットしなさい』

「特別なクオーツ…まさかマスタークオーツですか」

 

特別なクオーツと聞いて、真っ先に声を上げて質問するレギ。財団に所属していた頃に、何度か耳にしたことある内容だった。ご名答よ、と教官が答える。

これこそ正にアークスの欠点をある程度解消してくれる優れものである。ただし生産できない為か数に限りがあり、それ故に貴重品になっているのが難点だ。

教官の指示を受けて動いたラウラを筆頭に、各自置かれている自分の武具に向かって歩いて行った。

 

「おれのは…ここか。どれどれ何が入っているのやら……」

 

己の得物が置かれてある台座の正面に立ち、手前に置かれてる小箱を手にとって開ける。すると中から予想通りマスタークオーツがあったのだが、それは青色をした珠だった。しかるに水系統のマスタークオーツだと予想する。

早速アークスに装着して同期させるとこれに反応するように身体から仄かな光が灯る。レギ以外も同様のようで、皆アークスに装着させたらしい。ともかくこれでアーツが使えるようになった訳だ。

サラ教官がアーツを使えるようになったことを皆に知らせ、他にも機能があるも追々知らせると言って切り上げた。

 

『それじゃあ、さっそく始めるとしますか』

 

すると正面にある扉がひとりでに開いた。続いてこれから行うことについて、サラ教官から説明が入る。

 

『そこから先は、ダンジョン区画になっているわ。わりと広めで入り組んでいるから少し迷うかもしれないけど、無事終点までたどり着ければ一階に戻ることが出来るわ。

ま、ちょっとした魔獣なんかも居るんだけどね』

 

そして、スピーカー越しから一呼吸する音が聞こえて、宣言する教官の声が皆に響き渡った。

 

『それではこれより、仕官学院・特科クラスのオリエンテーリングを開始する!各自、ダンジョン区画を抜けて、旧校舎一階まで戻ってくること。文句があったらその後に受け付けてあげるわ』

 

なんだったらご褒美に頬にキスしてやるぞと冗談交じりの言葉を最後に通信が切れた。後には呆然とする一同がいるだけだった。

 

「え、えっと……」

「どうやら冗談という訳でもなさそうね」

 

どうすれば良いのか分からない中、エリオットとアリサが発した一声を皮切りに何人かグループを組んで行こうということになったのだが……。

 

「待ちたまえ。いきなりどこへ……。まさか一人で勝手に行くつもりか」

「馴れ合う気はない。それとも“貴族風情”と連れ立って歩きたいのか」

 

一人で勝手に行こうとするユーシスをマキアスが呼び止める。それに対しユーシスが馴れ合う気はないと片意地張った物言いをした後、助けが欲しいなら共に行ってやると言い出す。こう見えても剣術は嗜んでいる身で、高貴なる者の務めとして力無き民を守護してやると明らかに煽る物言いをマキアスに向かって言い放った。

 

「だ、誰が貴族ごときの助けなど借りるものか!もう良い、だったら一人で先に行くまでだ!旧態依然とした貴族よりも上であることを証明してやる」

「……フン」

 

当然、そこまで言われて黙っているはずも無く、かっと頭に血が上ったらしいマキアスは、ユーシスと張り合うように、これまた一人で先へ行こうとする。貴族であるユーシスに負けじと……。

 

「お二人ともいい加減にされた方がよろしいかと思われますよ。」

 

そこへ声を低くしてマキアスとユーシスの二人に告げた者が居た。全員がその者へ視線を向ける。そこには目を細めて無表情なレギが居たのだった。心なしか空気が冷たく重くなっている。

 

「ユーシス様、お気持ちはお分かりになりますが、あまりあおる言動をなさるのは如何かと思われます。それではマキアス様が引くに引けない状態になるのでは?」

 

恐らくはユーシスがマキアスに向かってあおるのは、先ほどの説明中にマキアスが貴族を貴族風情と述べて罵ったせいだろう。偏見に凝り固まった言動を述べ続けるマキアスに、ユーシスは内心辟易していたに違いない。

 

「マキアス様もご立腹なのはお分かりになりますが、すぐ喧嘩腰になられるのはご自身の品格が問われますよ。少々自粛された方がよろしいかと。

それに先走りなされた後、魔獣に取り囲まれて致命傷を負われたら如何されますか」

 

口調こそ敬語なものの物怖じしない毅然とした態度、およびはっきりとした物言いで切り込んでいく。思わずたじろいでしまうマキアスの姿があった。

 

「だ、だったらどうすればいいって言うんだ!まさか貴族風情と一緒に行けって言うのか!?」

「フン、こちらはそれでも構わんが。これもまた高貴なる者の責務、背中を守ってやるぐらいのことはしてやろう。もっともそこの“平民風情”が同行を許すのであれば、な」

 

相変わらず頭に血が上っているのか、レギに向かってマキアスが怒鳴る。それに油を注ぐかの如く、さらにあおる事を述べて遠まわしにマキアスに対して物を言うユーシス。どんどん剣呑な空間になりつつある。ますます周りの者達も心配なってきたようで、何人かの者達が止めようと機を伺うまでになっていた。

だが、次の瞬間レギが突拍子も無いある提案をしたことで、二人も周りもど肝を抜かされることとなる。

 

「いいえ、ここは私がマキアス様に随伴致します。この方が戦力バランス的にも釣り合いが取れるでしょう。それでよろしいでしょうか…マキアス様、ユーシス様」

「なっ!」

「なんだと…?」

 

予想もしない彼の発言に、二人は鳩が豆鉄砲を食らったかのような表情になった。他の者達も同様である。褐色の肌をした青年と銀髪の少女だけは別で、さしたる動揺もせずにことの成り行きを見守るだけだ。銀髪の少女に至っては、全く興味が無い様子で呑気に欠伸なんぞしている。

驚く中でも特にリィンとアリサは、彼の職業を前もって知っていた為に止めようかどうかと考える。

 

「私は国外から参りました留学生です。幸い私の母国は、既に貴族制度が廃止されまして身分などありません。ですから、マキアス様がご心配されることはないかと存じます」

「そういう問題じゃない!何で君が僕と一緒に来るんだ!?そっちの貴族と行った方が安全だろ!本人曰くかなりの手練らしいからな」

「貴様に言われる筋合いも無いが、それなりに剣術は使えるつもりだ。時折兄と手合わせも行っている。少なくとも、“貴様”よりは戦えるぞ」

「な、なんだと!?」

 

レギの突飛な提案に目を剝くマキアス…レギが述べることに、そういう問題じゃないと突込みを入れながら何故自分を選んだのか理由を訊いた。ユーシスの方向を指しつつ、そちらへ付いた方が安全だと述べることも忘れない。

 

「ええ、それは私も考えました。ご自身も仰るようにかなりの卓越した剣術の使い手と存じます。きっと魔獣との実戦なども幾度か経験されて習得なされたものでしょう」

 

ユーシスに向かって問うとそうだと頷き、何故分かったと今度は逆に彼から訊ねた。目を細めて、レギの素性を探るかのような視線を送る。

それも当然のことで、あんなに見抜いてるかのように言っていたら、怪しまれるのは不自然ではない。彼からの追求から矛先をかわすべく、きちんと真正面から向き合って己の見解を言った。

 

「さして難しいことではありません。鍛錬だけをお積みになられた方と実践を経験なされた方とでは、体格や身のこなし…さらに身にまとう雰囲気に違いが現れますから」

 

幼い頃から達人級の猛者達に囲まれていたので、自然にそういうのが分かるようになったのも大きいだろう。老練の将軍、優れた剣術の使い手だった元大佐、皆伝に至るほどの腕前を誇る養父などだ。

どうやらまだ疑いの視線を向けつつも、一旦は信じることにしたらしい。ある程度の納得の表情をしているユーシスを見届け、尚も続けてマキアスを説得するべく言葉を重ねる。

 

「よって鍛錬だけを行った私如きが、ユーシス様に随伴致しても足手まといです。

それに先ほどちらりと拝見しましたが、マキアス様は導力銃を携帯されてますよね」

「ああ、君の言う通り僕の武器はこの導力銃だ。これが一番僕に合っているからな。それが今の話と一体どう繋がるんだ」

 

レギは先ほど目に留まった導力銃を指してマキアスに訊く。銃筒や全体の形を見る限り、ショットガンタイプの導力銃のようで、案の定マキアスも自分の導力銃がショットガンタイプだと述べる。

ショットガンタイプは、通常の導力銃と比べて弾が遠くに飛ばず、しかも貫通力が低いことから間合いを離せないという欠点がある。だが、構造が単純で重大な事故も起き難いことから初心者でも扱い易く、17の男子が扱う武器としては適確なものだと言えよう。

 

「ならば、前衛から中衛の間合を主とする戦闘スタイルでしょう。私はユーシス様と同じく剣術で前衛タイプなのですよ。

ですから、マキアス様に随伴致す方が戦術の幅も広がり、安全性が格段に高まると存じます。如何でしょうか」

 

何故ユーシスでなくマキアスに同行するのか一通り説明と考察を述べた後、マキアスの返答をひたすら待つ。ふっと目を閉じたマキアスは、しばしの間考える様子を見せた後、提案をのむ旨を伝えた。

 

「……分かった。そこまで言うなら、ついてきてくれ。

ただし、ここまで大口を叩いたんだ。遅れずに着いてきたまえ、いいな!?」

「かしこまりました。未熟者ですが全力を尽くす所存です。よろしくお願いしますマキアス様」

 

毅然とした態度で立て続けに理詰めで説得された末、ついにマキアスが折れて同行を許した。内心マキアスが譲歩してくれたことに少なからず安堵し、同行を許可してくれたのにも感謝するレギ。即席ではあるが、今ここにレギとマキアスのコンビが結成された。

 

 

「それでは皆様、終着点でお会いしましょう。御武運をお祈りしております」

 

ここに集まった皆の者に一礼をし、マキアスと一緒に奥へ進むことにした。中へ足を踏み入れるとなるほど、これは中々どうして通路が入り組んでいる。もっとも妙な仕掛けやトラップがないだけまだマシな気がするが、隠されてるだけかもしれない。何ともまぁ厄介な所だ。

 

「待ちたまえ、僕は君の名前をまだ聞いてないぞ。一緒に行動するなら教えてくれないか」

 

先へ進もうとするのをマキアスは引き止める。たしかにまだ名前を述べていないことに思い至り、失敗したという表情を浮かべた。ゴールまでの道のりに起こるであろう戦いを潜り抜けるためにもお互いの名前と武器、それから戦闘スタイルを確認した方が良いだろう。改めてお互い自己紹介と、どこから来たのか言い合う二人だった。

 

「それから私の武器と戦闘スタイルも紹介致します。お互いの武器と戦闘スタイルを把握するのは、戦闘において戦術を組み立て易く、尚且つ迅速な連携を行えますから」

 

既にマキアスの武器などは、あらかた見当がついていることから今度はこちらの番と言わんばかりに携えてある約八十リジュ状のロングソードを抜き、もう片手に三十リジュ状のダガーを逆手に持って構える。この姿に一瞬呆気に取られるもすぐにマキアスは、彼の戦闘スタイルを看破した。

 

「武器が長剣と短剣の二本だって…まさか君の戦闘スタイルは二刀流なのか」

「ええ、一般の剣術よりも扱うのが遥かに難しいですが、少々込み入った事情がありましてこのスタイルを取っております」

「はぁ~さっき君はどこぞの貴族様と同じで剣術を扱うと言っていたが、まさか二刀流だとは思わなかったな。それならそうと早く言ってくれ」

「ですから、魔獣と交戦状態になる前に、こうして申し上げたのですよマキアス様」

 

はぁ~と苦笑いをしているマキアスを見て、少々偏見じみた言動をするものの根は悪い者ではないのかと失礼ながら微笑ましい気分にかられるレギ。やはり実際に接して話してみないと、その者の本質や性格は分からないものだ。他人から聞いた話や観察するだけで分かった気になるなということだろう。きっとユーシスもそうだろうなという考えがレギの頭をよぎる。もしマキアスにばれた途端、ジト目で見られること請け合いだが…。

その時、カサカサと何かがうごめく音と視界の端を何かが動いていることに気づいた二人。魔獣か!?と振り向いて身構えると予想通り、昆虫型魔獣が十匹近く群れを成してこちらへ向かってくる。この区間に入って最初の戦闘だ、視線を交わして気を引き締めて行くぞと合図を送る。

こうして二人にとって人生最初の戦闘が始まるのだった。




調べて見たところ、1リジュは“0.01メートル”つまり“1cm”らしいので、80cmと言ったら80リジュになるのでしょうが、この計算でよろしかったでしょうか。万が一間違えておりましたら、ご指摘をよろしくお願い致します。
因みにレギの得物は、ロングソードとダガーの二刀流になりました。これもレギの過去に多大な関係がございます。言ってしまえば、ラウラとアリサを通して感じてしまう幻影の少女剣士が大いに関係して参ります。
ここまでお読み下さって大変ご感謝致します。本当にありがとうございました!!
よろしければご感想などを下さると幸いです。よろしくお願いします。
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