しかも、挙句の果てには一話飛ばしている有様で、本当に言い訳のしようもございませんが、こちらの方が先に出来上がりましたので、載せさせていただきます。六話の方は八話と平行で執筆致して行こうかと考えております。何卒御理解とご承知のほどをよろしくお願い申し上げます。
また毎度の事ながらブクマをなさって頂いた方々、誠にありがとうございます。この場をお借りして深くお礼を申し上げます。よろしければ今後とも今作品をよろしくお願いします!!
ラウラの渾身の一撃による斬撃で首を刎ね落とされた怪物は、たちまち色を失っていき地に倒れ伏した。途端、淡い光を発しながら瞬く間に消えて行く。ほっと安堵のため息を付き、皆武器を鞘に納めたりして戦闘態勢を解いたようだ。とりあえず重傷を負っている者は幸いにして居ない。このことに安堵の波が押し寄せた途端、どっと身体に疲労が重く圧し掛かるも、とりあえずお互い無事に生き残れたことを実感しあう。
それにしても、先ほど消えて行った魔物は、彼女が呟いたように暗黒時代に創られたあるいは生まれた魔導による生命体なのだろう。やっとの思いで魔物を倒したにも関わらず、憂鬱とした感情が表面上に表れないよう極力努めた。
自分達が倒した魔物は、かつての自分達を思い起こさせた。この場を守護する為だけに創られ、世界がどうなろうと己の同族が全員死のうと、ただひたすらに主から課せられた使命を果たす為だけに生き続ける者達。そう死ぬまで“使命”という形を成さないものに永遠に縛られたまま生き続ける存在なのだ。機から見ていると哀れとしか言いようがない。
これが飼い主がペットにエサを与えるかの如く、上から下へ施すのと同じ不愉快な厚意だとしても、レギは願わずには居られない。これで呪いにも等しい使命から解き放たれてくれれば良い、と…。
(創られた存在、か…。果たしてこの世界にも“物言わぬ人形達”や“人形兵器”に感情が芽生え、自我が形成されて魂が生まれたという事例はあるのだろうか)
それを為せそうな者をレギはただ一人知っている。アンティークドール業界において、その名を知らない者はいないと称されるほど有名な御仁だ。その道に長年深く携わっている影響で最も精通していると過言ではないほどの腕利きの職人である。
あの御仁ならもしかしたら、そうした奇跡を成し遂げられそうな気がするのは、決して自身が肩入れしているだけではないだろう。尤も本人曰く未だにそういった事例に出くわしていないとのことだが…。
いつかは自分も御仁のように、いや御仁を超えるような者に成れるだろうか。物言わぬ人形に生命を魂を吹き込めるほどの卓越した技術を得ることが出来るのか。それは現在において尚分からずじまいだ。
「それにしても、最後のあれ何だったのかな?」
先ほど起った現象について、エリオットが疑問を投げかけた事によってアリサとマキアスを始めとした皆が、それぞれの意見を語り合って行く。全員が淡い光に包まれていたのを見て、何かに包まれた感触も実感したという。かく言うレギ自身もそうであり、皆の行動が手に取るように見えていた。
「皆の動きが手に取るように“視えた”気がしたが…」
ラウラが先ほどの現象について、皆の動きがはっきりと視えた…いや予測出来たと言った方が正しいのだろうか、そう感じたと述べるのに追従するかの如く、血の匂いをまとう小柄の少女…フィー・クラウゼルが気のせいじゃないと同意する。
(精神感応…ということか。あるいは思念伝達の類とも言えるかもしれないが)
精神感応や思念伝達…それは人間の精神や思考が、口や耳・もしくは手紙などの合理的な通信手段に頼らずに他者へ伝わる現象のことを指す。一般的には読唇術や読心術などが該当する。
数多の世界では、超能力ともテレパシーとも念話とも呼称される能力を用いて秘密裏に相手に伝達する場合もある。かつては、レギも前世において所有した能力がそれに該当する。
「ああ、もしかしたらさっきのような力が―――」
「―――そう、ARCUSの真価ってワケね」
リィンの言葉を紡ぐかのように、それこそがアークスの真価だと告げたのは自分達を階下へ落として強制的にオリエンテーリングを開始させたサラ教官その人だった。最後は友情とチームワークの勝利がやはり鍵を握るものだ、感動したぞと白々しく感動した素振りを見せながら、オリエンテーリングの終了を告げるサラ教官。
当然このことに喜びや達成感を味わう者達なんぞ居る筈も無く、皆文句を言いたげな表情と疑惑や不信の眼差しを送りつけていた。
(それはそうだろう。何の説明も無く階下へ落とされ、無理矢理魔獣と戦わされ、危うくケガどころか死ぬ思いまでしたのだからな)
よくもまぁ怒らないどころか殴りかからないものだ。それだけ人間が良く出来ているということだろうが、悪い見方をすればお人好し過ぎる性格だとも言える。
だが、逆にそこが自分には眩しく美しく見えた。教官の所まで胸倉を掴みかかりに行かないだけでも心優しい者達なのが伺える。何の準備もなしにいきなり魔獣が出る場所に放り込まれ、無理矢理戦わされた挙句、一歩間違えれば死ぬかもしれない目にあったのだ。
ならば、その原因を作った張本人に対して嫌悪感や殺意を抱くのが普通の感覚ではないか。少なくとも自分一人だったならば、確実に胸倉を掴んで問いただそうとしただろう。それが無いということは、相当人が良いことの裏返しでもある。
「単刀直入に問おう。特科クラスⅦ組、一体何を目的としているんだ?」
金髪の青年ユーシスが、目を細めて険しい表情をしながらサラ教官に問い詰める。それに続いてエマとラウラも思ったことを言葉にしていた。身分や出身に関係ないのは分かったが、どうして自分達が選ばれたのか疑問ではあると……。
(いや、特科クラスⅦ組の設立理由と運用目的は、今までの出来事である程度絞れるな)
レギはある程度、特科クラスⅦ組の設立目的について推測していた。と言っても根拠が薄いので、とても胸を張って言えるものではないのだが…。
さて、肝心の設立目的についてだが、今までの出来事から推察すると、様々な身分や出自を集めて、物事を多角的な視野から見られるような人材を…ひいては部隊を創り上げることではないだろうか。何故ならば、ざっと見ても公爵家・子爵家・帝都長官、それから猟兵と思わしき者もいるからである。
また聞いた時はピンと来なかったが、エリオット・クレイグの苗字にも聞き覚えがあった。それは帝国正規軍でも猛将と謳われるオーラフ・クレイグ中将だ。
彼の率いる部隊は帝国正規軍において、最大の打撃力を誇ると言われるほど帝国正規軍内で有力な師団だ。その中将と同じ苗字からしてご子息かそれに近い関係なのだろうと想像するに容易い。
それとは別にガイウスと名乗った青年はノルド高原から来たと言ったが、そこはたしかドライケルス大帝が獅子戦役時に挙兵した所縁ある土地だと前もって調べている。
アルバレア公爵家のご子息、アルゼイド子爵家のご令嬢、帝都知事のご子息、帝国正規軍の関係者、大帝所縁の土地からの留学生、猟兵らしき血の臭いをまとった少女、そして異国からの留学生である自分…ざっと挙げるだけでもあまりにバリエーションが富んだ面子だ。もはやここまで来ると偶然と考える方がおかしいだろう。どう考えても上層部の意向が働いているとしか思えないメンバーではないか。
「ふむ、そうね。君たちがⅦ組に選ばれたのは、色々な理由があるんだけど…一番分かり易い理由はそのアークスにあるわ」
「この戦術オーブメントに……」
サラ教官の言葉に反応したのか、自然と言葉をもらすリィン。他の者達もアークスを見ながら若干呆然としているようだ。
エニグマと並ぶ第五世代型オーブメント“アークス”、その真価は先ほど皆が体験した現象にあるらしい。
それは“戦術リンク”と言われるもので、先ほど全員が繋がったかのような感覚が該当するとのこと。精神感応や思念伝達に限りなく近い現象を意図的に引き起こさせるもののようだ。
それを用いてお互いの行動を如何なる状況下でも把握出来る精鋭部隊、そんな部隊が存在すればあらゆる作戦行動が可能になり、まさに戦場における革命をもたらすだろうとサラ教官から説明された。
「ふむ、たしかに……」
「……理想的かも」
ラウラとフィーがサラ教官の説明に納得する言葉を発した。恐らく教官の言葉の裏にある意図を何となく察したのではないだろうか。
―――情報収集かつ情報共有を制するものは、戦争(たたかい)を制する―――
たしかに戦争や戦場に置いて、勝敗を決する大きな要因の一つとなるのは、数と部隊連携及び情報伝達の練度だ。そういった観念から通信技術の発達は、戦場に置いてもひいては戦争(たたかい)においても、最も重要な部分の一つとされている。
どのような状況下に置かれても、お互いの位置や行動を把握出来るということは、即ち指揮官が戦場における正確な情報を集め易くなり、指令を下し易くなるのを意味する。それは的確に部隊を動かせることでもあり、遊兵を減らすことが出来て部隊の力を最大限に発揮出来る環境が生まれるのだ。
しかも思念伝達の利点は、通常の通信手段と違って通信妨害を全く受けず、確実に情報や指令を相手に送れるということにある。更に相手の裏をかいた奇襲をも可能にするといったところだろう。
しかし、現時点でのアークスには個人的な適正に差があり、新入生の中で自分達は特に高い適性を示したのだと言う。これが身分や出身に関係なくⅦ組に集められた理由の一つなのだと説明された。
「トールズ士官学院は、このアークスの適合者として君たち十名を見出した。
でも、やる気のない者や気が進まない者に参加させるほど、予算的な余裕があるわけじゃないわ。それと本来所属するクラスよりもハードなカリキュラムになるはずよ」
それを覚悟したうえで改めてⅦ組に参加するかどうか聞かせて貰うと言ってくるサラ教官。今ここで怖気づくようなら初めから要らないということを、暗に仄めかしているようでもある。それだけ厳しい授業や武術訓練を強いられるのか。言わばこれは“振るい落とし”に近い行為だ。
因みにサラ教官曰く辞退したら、貴族出身ならⅠ~Ⅱ組に平民出身ならⅢ~Ⅴ組へと本来所属する筈だったクラスへ行ってもらう、今ならまだ初日なのでここで辞退して入ってもそのまま溶け込めるだろう、と…。
集められた生徒は、レギを除いてお互いの顔を見合わせていた。どうするか決めあぐねているといったところだろう。そんな中レギだけは目を伏せて腕を組み、静かに事の成り行きを見守るかのように沈黙を保っている。
痛いほどの静寂が場を支配すること一分余り―――
「リィン・シュバルツァー、参加させてもらいます」
関一番に名乗りを上げたのは、リィンだった。その姿は恐れもせず悠然と立ち向かっていく勇気と若さに満ち溢れているようだ。
「一番乗りは君か、何か事情があるみたいだけど?」
「いえ、我儘を言って行かせてもらった身です。自分を高められるのであれば、どんなクラスでも構いません」
リィンは、真っ直ぐに教官を見据えて毅然とした態度で願い出ていた。厳しいカリキュラムになると言われても物怖じせずに、自分を高められるならばと積極的に願い出る姿に向上心にも満ちあふれているのが見て取れる。
改めてリィンを通し、若者の情熱あふれる姿勢の眩しさを感じ取る。若いというものは良いものだな、とレギは柄にも無く、そのようなことを思ってしまう。
若さというものは過去を振り返らないことだ、と誰かが説いたが、正にそうなのだろう。それに当てはめると、何度も過去を振り返ってしまう自分は、もはや老成の域に達してしまってると断言しても過言ではない。
どんなに頑張っても自分は、既にこの者達と同じ目線で物事を見れなくなっているのだ。そのことに一抹の寂しさが込み上げて来たが、表に出さぬよう懸命に胸の内にしまった。
「そういう事ならば、私も参加させてもらおう。元より修行中の身…此度のような試練、望むところだ」
リィンに続き、ラウラも名乗りを上げた。続いて褐色肌の青年ガイウスも異国から来たのだから、やり甲斐のある道を選びたいと名乗りを上げる。
またエマも奨学金を頂いている身なので、少しでも学院に貢献出来ればということで参加を表明したようだ。ここに赴くまではレギに対して疑いの眼と険しい表情をしていたエマだったが、今は柔和な頬笑みを絶やさない表情に戻っている。
厳密に言えば、マキアスと連絡を取り合った時から険しい表情と疑いの眼を向けるようになった。いったい何故なのか見当がつかない。気のせいだと良いのだが、警戒しておくべきかもしれないなと心に留めておく。
「魔導杖テスト要員も参加、と。ARCUSと同じくまだテスト段階だから運用レポート、期待してるわよ」
エリオットも参加を表明し、魔導杖のテスト要員候補であった二人のどちらとも参加することになって、含み笑いを浮かべたまま言葉を紡ぐサラ教官。
それだけなら大して取りとめのない言葉だったのだが、次の瞬間…サラ教官から爆弾発言が飛び出した。
「そうそう、そこに魔導杖の開発スタッフが居るから…分からないことがあれば、その子に訊けば教えて貰えるわよ」
「ぶっ!」
サラ教官の言葉を聞いた途端、思わず盛大に噴き出してしまったレギ。まさかここで指名されるとは思わなかった。
しかし、そもそも教官なのだから事前に入学する生徒の経歴ぐらいは把握しているのだろう。もっとも自分の過去を匂わせる発言をするのは予想外の一言に尽きたのだが。
なるほど、こうやって逃げ道を塞いで参加を促そうという策略なのだろうか、だとしたら中々のやり手である。伊達に元A級遊撃士ではないということだ。
生憎とその手に乗ってやる訳には行かないので、ある程度こちらの手札を公開しつつも隠せるところは隠しておこうと考えて口を開く。
「申し訳ありませんが、サラ教官。他人の経歴をそれとなく匂わす言動は、お控え願えませんか」
「あら、開発スタッフなのは否定しないワケね。てっきり誤魔化すと思ったんだけど?」
「たしかに教官の仰る通り開発スタッフですが、所詮現場経験を積んでない若輩者ですからね。中枢ではなく末端ですからアゴで扱き使われる立場なのです。
従って大したものではありませんから、さほど誤魔化す必要性が感じられません」
「ふ~ん、そういうことなのね。
でも、その中心メンバーに抜擢されながら蹴ったっていう話聞いたんだけどな~?私の聞き間違いかしら」
「それこそまさかでしょう。根拠の無いデマに振り回されるとお疲れになるだけですよ。
そもそも現場経験が少なくてイロハや細かな機微に精通してない若輩者に、重要な役職を任せる物好きな方々が居るとお思いで?」
どうやら色々と疑問及び不自然な点はあるものの、とりあえずこの場は納得するという形で、教官は引き下がることにしたようだ。何とかその場は切り抜けたものの、早速怪しまれるという事態に内心頭を抱えたくなるレギ。
だが、逆に上手く転べばラインフォルト側の魔導杖の開発スタッフへレポートを送るなり何なりして間接的に接触する機会を得たということになる。自分の見解やアドバイス、意見という形で技術提供を行っていけば良いだろう。
それにこの仕官学院の常任理事の一人は、たしかラインフォルト社の会長だった筈だ。よってレポートを提出していれば、嫌でも彼女の目に止まることは必至である。
こうなったら、逆に開き直って彼女達に存分に恩を売ってコネクションを作っておいた方が、将来何かと役に立つと前向きに考える方が良い。こういう積み重ねが案外馬鹿に出来ない結果を良い意味でもたらすことなんぞ社会ではザラにある話だからだ。
そうだと心から思いたいと考えている時、隣に居た金髪の少女…アリサがすっと一歩前へ出た。その表情には迷いが無くなっており意を決した表情に成っていた。なるほど、この者も特科クラスⅦ組に入るかどうか決心したようだ。
「私も参加します」
アリサも他の者と同じようにⅦ組へ参加することを表明すると、意外だったのか虚を付かれたサラ教官の姿があった。てっきりアリサは反発して辞退するかと思ったとのことで、それに対してアリサも半ば同意しながらも、この程度のことで腹を立てていたらキリがないとの旨を告げた。
今のやり取りでアリサが、ラインフォルトかエプスタイン財団に所属する社員の身内ではないかとの推測が立てられる。言うまでもないが、アークスはラインフォルトと財団の共同開発された物だからだ。
またこの建物へ来るまでに、アークスが仕官学院に配備された理由について、彼女が語った内容も素性を推測出来る材料になる。あれは経営分野をきちんと学んでいないと出て来ない内容だったからである。
(そう言えば、仕官学院へ歩いて来る途中でラインフォルトの話題が上がった時、彼女の表情が曇っていたな)
それらを併せて彼女自身がルーレから来たとの証言を合わせると、財団よりもラインフォルト社に関係のある令嬢とにらむ方が妥当だろう。もしかしたら、中間管理職以上の役職に就いている社員の娘なのかもしれないなと推測する。
とりあえずは、その線でリサーチ社に調査を依頼しようと頭の中で計画を練っていく。
(アリサ・R、か。まさかとは思うがラインフォルトの“R”ではないだろうな。幾らなんでも考え過ぎか…事実は小説よりも奇なりとはよく言うものだが、流石にそこまでは出来過ぎだろう)
第一それほどのご息女であるならば、必然的に会長の後を継ぐ将来になるので、わざわざ命の危険性がある軍人の道を志したりはしない筈である。
たしかに現役軍人たちの実情を把握するべく、現場を体験することも一理としてあるだろうし、そこから得られる経験を活かして企業をまわす事は、企業を維持していく上で必要不可欠だ。目下の顧客口である帝国正規軍及び領邦軍の要望に応えた兵器を造り出さなければ売れない故に、結局採算が取れず大赤字になるのが関の山なのだから。
しかし、それを視野に入れても会長の御息女ほどの者が、仕官学院に入学する動機にはならない。やはり自分の考え過ぎで、最近小説や新聞雑誌などを読み過ぎた影響から突拍子もないことを思い立ったのだろうな、と思案する。これからはあまり小説や童話及び新聞雑誌を読むのは控えようと決めたのだった。
因みに後日、リサーチ社を通して彼女の素性を知った際に、自身の予想が当たっていた事を知り、レギが盛大に頭を抱えるのはまた別の話である。
サラ教官が次に振ったのは、お互いに険悪な表情をしているユーシスとマキアスの二人だった。と同時に皆の視線が二人に集中する。それには気にも止めずに目を伏せて考えている二人の姿がある。一緒になって青春の汗でも流せばすぐに仲良くなれると、まるで若者向けの小説における一場面のようなことを言ってのける教官の言葉に、そんな訳がないだろうとマキアスが反発した。
「帝国には強固な身分制度があり、明らかな搾取の構造がある!」
その問題を解決しない限り帝国に未来はない、と険しい表情で堂々と言っているのだが、自分がどれだけ場違いな発言をしているのか、まるで分かっていない様子だった。
予想通り、サラ教官もそのようなことを自分に言われても困ると明らかに相手するのが面倒臭い様子で軽くあしらっていた。
(そもそもここは軍人を養成する“仕官学院”であって、政治家や官僚を養成する専門学校ではないのだがな)
幾ら近年は一般市民を幅広く受け入れている名門学校と知られてるにしても、あまりにもずれた選択ではないだろうか。法律や政治体制を変えるならば、軍人を目指して仕官学院に入るより政治家を目指して、政治経済学部の専門学校へ入学するのが筋だと言うのに…。
軍人とは下った指令や任務に対して、忠実であることを要求される言わば“歯車”かつ“駒”だ。規則や体制に則って動けば良い軍人がこれらを変える権限などない。そんなのを軍人ないし軍部に求めてないからだ。
さらに言えば官僚も軍人と同じで規則・体制に則った立ち振る舞いを何よりも要求される職業である。規則・政治体制を変える権限があるのは、原則的に政治家だけだと言っても過言ではない。
たしかに十数年ほど前に軍人であったギリアス・オズボーンは宰相に任じられたが、あくまでも異例中の異例であって、仕官学院を卒業してから官僚・政治家の道を目指して抜擢された話など今まで聞いたことがない。
よって軍人になる為の仕官学院に入学するよりも、政治経済学部のある専門学校に入学後、政治家を目指した方が、はるかに実現性が高いと言えよう。
(あるいは将来への布石として、自身の経歴に箔を着ける為に仕官学院へ入学したのか。もしくは、いずれ起こるだろう内乱に備えて自分の身を自分で守れる技術を身につけるべく入学したのか、はたまた周りから入学させられたのか。それは本人だけしか分からない深い事情があるのだろうな)
代々皇族が理事長を勤める習わしがあるこの仕官学院を卒業したとなれば、それだけで一種のステータスとなる上に、上流階級出の者達との間にコネクションが出来る。それは政治においても社会に進出するにしても何より代え難い強力な武器となるだろう。
その理由は政治業界へ進出するに当たって、一番大事なことが自分の考えなどを理解してくれる“味方”を作る事だからだ。そうした者達の信頼の下で立ち上げた政策などを周りに認めさせていくのが、政治業界における普遍的なやり方である。
果たして、それらを見越した上でトールズ仕官学院に進学したのかどうなのか気になるところだ。
(いずれにせよ現時点では知りようがないことだ。後ほどリサーチ社と協力して調べ上げることにして、今はあまり気にせずにおくか)
まぁ別に知ったからと言って己の益になりようがない。今はまだ頭の片隅に留めて置く程度でいいかとかぶりを振りつつ、マキアスの主張に耳を傾けていた。
すると同じくマキアスの主張に耳を傾けていたユーシスが、彼とは逆に参加を表明する。
「ならば話は早い。ユーシス・アルバレア…《Ⅶ組》への参加を宣言する」
これには流石のレギも意表をつかれて、思わずへぇ~と内心感嘆していた。てっきりマキアスと同じように難色を示すものと思っていたからだ。案の定、ユーシスの隣に居るマキアスが驚いた様子を見せている。流石に口を挟まずにはいられなかったらしく、今にも詰め寄らんばかりの勢いでユーシスへ疑問の声を上げる。
「何故だ?君のような貴族の子息が平民と同じクラスに入るなんて我慢出来ない筈だろう!?」
「勝手に決め付けるな、アルバレア家からしてみれば他の貴族も平民も同じもの。
勘違いした取り巻きにまとわり付かれる心配もないし、むしろ好都合というものだろう」
あまりにも大胆な発言に二の句が告げなくなっているマキアスの姿がそこにあった。自分以外の貴族と平民を一緒くたにするとは、大胆不適とは正にこのことを言うのだろう。
押し黙ったマキアスに対して、ユーシスが提案を持ち掛けた。無用な犬を傍に置く趣味は無い、ここで袂を分かった方がお互いの益にもなると思われるが、どうなのだと……。
ユーシスの上から目線による提案に、大声で否定したうえ、喧嘩腰になりつつマキアスも参加の意思を表明した。様子を見る限り、ユーシスの方は未だ余裕の表情でいるが、マキアスは完全に頭に血が昇っているようだ。恐らく目が凄い釣り上がっているだろう。
「古い体制にしがみ付き、時代に取り残された貴族達に、どちらが上か思い知らせてやる!!」
「……面白い」
一連のやり取りにおいて、マキアスの言動から挑発されるのに慣れていないのが、見て取れる。これは軍師かつ参謀官に位置づけるには若干無視出来ない弱点だ。まぁレギ自身もマキアスのような一面もあるので、あまり面と向かって指摘したり、上から目線であげつらう資格も無い。
そうレギもエレボニア帝国、ユーゲント三世皇帝陛下、帝国政府…及び伯爵家以上の上流階級出の者達に対しては、マキアスと同じく複雑な感情を胸の内に秘めているということだ。
これで九名の参加が決定した訳だ。残るはあと一名、言うまでも無くレギ自身のことである。
「これで九名の参加が決定したワケだけど、君はどうするのかしら。レギ・オルフィーユ君」
案の定、教官の問いかけがこちらにやって来た。これに応えるかのように、ふっと再び目を閉じて、しばしの間己自身の心に問いかけるレギ。
貴族と平民に分けられるという、未だ身分制度が色濃く残るこの帝国において、身分も出身もばらばらな者達。さらに一癖も二癖もありそうな個性が強い面々…思わずかつてのあの者達を想起してしまう。
(ピースセイヴァーズ~世界に平穏をもたらす英雄達~、か…)
今でも想わずにはいられない“かけがえの無い愛すべき仲間達”
―――やはり最後に立ち塞がるのは、お前達か!!―――
今はもう手の届かない世界へ旅立ってしまった者達…
―――お前達こそおれにとっての死神であり、今のおれのあり方を運命付けた“創造主の片割れ”!!―――
自分が一度失った感情をもう一度芽生えさせ、取り戻してくれた大切な仲間達。
―――お前達との戦いこそが、おれに課せられた最後の“真なる聖戦”!!―――
そして、自分に課せられた宿命…呪いと言うべき鎖からその身を救い上げてくれた英雄達…。
―――お前達を倒さぬ限り、おれは未来を変えられない。真の自由も手に入れられもしない。
だからこそお前達を倒す!己が望む未来を手に入れるために、宿命というこの身を縛る呪縛から抜け出すためにな!!―――
彼等の生き様と誇り高き信念は、今も尚…この胸の内に息づいている。目を閉じれば、いつでも思い出せる。彼等がどのような人間だったのか…どのような道を選び取って歩んで行ったのかを…。
―――おれとお前達、どちらが歴史を切り拓いていくのか。それは勝った方が決めれば良いだけのことだ!歴史は常に勝者によって創られて来たのだからな!!―――
そう決して忘れてはならない、風化させてはならない。忘れないことこそが、自分が彼等にしてやれる唯一の行為なのだ。
―――さぁ行くぞピースセイヴァーズ!お前達が運命を変えられるというのならば、このおれに示せ!!おれが望んでやまなかった己の道を己で切り拓く力…“英雄の力”をな!!―――
復讐鬼・反逆者という名の黒衣と仮面を脱ぎ捨て、超絶的な力も何もかも失い、ごくありふれた“人間”となった自分。翼をもがれ手足を縛られて冥府へ落とされた後、罰を受け続けた罪深き大罪人。
そんな自分が、革新派と貴族派、両陣営との対立が深刻なまでに高まるこの帝国内で何を見出すのか、また年若く無限の可能性を秘めた情熱あふれるリィン達に対して、現実という名の壁を前に膝を折ってしまった“老いた敗残兵”である自分に何が出来るのか、今はまだ分からない。
だが勇気を振りしぼり、初めの一歩を踏み出すことから全ては始まるのだ。例えこの先にどんな困難が待ち構えていようとも、踏み出さなければ何も始まらないのだから。
ならば―――
「レギ・オルフィーユ、特科クラス《Ⅶ組》の参加を希望致します」
怖がらずに踏み出してみよう。義父が義姉が、そうして義兄を闇の底から救い出し、多くの者達とキズナを育んで祖国を救う英雄になったように……。
自分に義姉達ほどの力があるとは考えられないが、それでも肩を並べられるよう尽力して見ても構わない筈だ。自分は自分なりの道を見出し、若者の情熱を取り戻せるよう踏み出して行こう。
「これで十名全員参加ってことね。それではこの場を持って特科クラス《Ⅶ組》の発足を宣言する!この一年間、ビシバシしごいてあげるから楽しみにしてなさい!」
サラ教官による発足宣言が、声高々に響き渡る。それを聞いたレギは―――
(義父さん、義母さん、義姉さん、義兄さん…そして、掛け替えの無い愛すべき仲間だった者達よ。おれは、貴方達のような存在になれるだろうか。
童話や小説に出てくる登場人物達のように、自分の道を自分で切り拓いて行ける…そんな存在に……)
遠き祖国に住まう養父と養母、貿易都市に在住する義姉と義兄……そして今は亡きかつての仲間達へ想いを馳せていた。
◆
「やれやれ、ここまで異色の顔ぶれが集まるとはのう」
そんな光景を見つめる二人の姿があった。一人はここの学院長であるヴァンダイクであり、もう一人はこの特科クラスⅦ組の発足を提案した理事長その人である。
「もしかしたら、彼等こそがこの帝国において“光”となるやもしれません」
「ほう?」
集まった顔ぶれを見渡して、これからのことを思い様々な感情が入り混じった声色で言葉を発した学院長。その人物へ希望を匂わせる言葉を述べた理事長。そんな彼が閉じる瞼の裏には、異国で知り合ったとある一組の男子と女子の姿が浮かんでいる。自身の素性が明かされても仲間だと態度を一切変えることなく認めて受け入れてくれた一組の歳若い男女。さらに国籍を気にもかけず、気さくに接してくれた共和国出身の熟練遊撃士や銀閃の遊撃士と呼ばれる女性遊撃士を初めとした多くの仲間達。
そして―――
―――私は今でも夢で見るのですよ。爆破された時計台の瓦礫の下敷きになり、血塗れになった義母さんと、そんな義母さんに抱きしめられ、呆然としている義姉さんの姿を…。
そのような光景を作り出したエレボニア帝国を…ひいてはユーゲント三世皇帝陛下を私は生涯許すことがないでしょう―――
自分達“帝国人”に向けて激しい憎悪の感情が入り混じる視線を送り続けた一人の少年。一組の男子と女子の義理の弟に当たる彼もまた最終的には、自分に対するわだかまりを氷解させて、感謝の言葉を述べて手を取り合うことが出来た。自分達に正当な侵略理由があったのにも関わらず、相手のためを思っての行動を行ったうえ、最後まで彼の義姉と義兄を手助けした姿勢に、心を打たれたのか胸のうちを吐き出してくれて、感謝の言葉を述べてくれたのだ。
―――ですから、私は貴方達に一人の国民としてお礼を述べさせて下さい。
私達の祖国を故郷を…何よりも大切な二人の家族をお守り下さって、誠にありがとうございました―――
そう言って頭を下げた彼等から一縷の希望を見出し、周りから悪あがきと取られようとも、到底実現が困難な理想論じみた目的と鼻で笑われようとも…若さの裏に秘められた無限の可能性と、純白故の大いなる希望が同居する未だ歳若き帝国の少年少女達に賭けてみようと決めたのだ。
「動乱の足音が聞こえるこの帝国において、対立を乗り越えられる唯一の光に…。そして様々な“壁”を乗り越える力を持った掛け替えのない希望に…」
出自も身分もバラバラな者達…そこから築かれた異なる価値観は、いずれ大きな壁となり対立の原因にもなるだろう。
―――汝、隣人を愛せ―――
遥か古来から語り継がれる格言を用いたとしても、人間の全員がそう在れる訳ではない。そのように社会も身分も、ましてや人間すら単純ではないのだ。正論や理想論だけで物事が進むほど世の中は甘くは無いもの。
しかし、幾つもの壁を乗り越えることによって、その繋がりはやがて強固なものとなっていく。そして強固な絆で結ばれた暁には、お互いの価値観や視線から物事を多角的な視野で判断できるようになるはずだ。それにより理不尽という壁を乗り越えられる力も、着実に着けられるはずなのだ。今の自分のように……。
だからこそ今しか出来ない時期に様々な経験を積み重ねて行って欲しい。ゆくゆくは異国の民達のように、誇り高く在れるような者達に育って欲しい。それが理事長である自分が生徒に望む願いだ。
もっともこれらは自分達が彼等へ勝手に期待を寄せているだけで、彼等には自分達だけの道を見出して欲しいとは思っているのだが……。
少しずつ動乱の足跡が近づいてくる帝国、その皇帝の長子であり士官学院の理事長を務めるオリヴァルト・ライゼ・アルノール皇子は、帝国を変えるだけの可能性を秘めた若者達を自らの恩師と共に見つめていた。
如何でしたか。この後、幕間を挿入致してプロローグは完全に終了となります。伏線貼りまくりで大丈夫なのか、正直不安で一杯です。
幕間では白兎がお越しになられます。さらにはもう次で保険教師の素性が明かされることでしょう。急遽変更になるかもしれませんが、このエピソードは本当に大事なので、尺が足りなかろうが、きちんと描写致していきたいものです。
さらに言いますと、次章(?)の初っ端からレギが、生徒会長以下、生徒会承認の下…学院内で精力的にとある活動を行って参ります。それは何かは、さらにはその活動を行う理由につきましては、かなり後の方で明かされます故、乞う御期待下さいませ。
それでは、ここまでお読み下さり、どうもありがとうございました!!よろしければ今後ともよろしくお願い申し上げます。
※8月2日(日)活動報告にて没場面を載せました。
※以下にレギの初期ステータスを載せておきます。
・レギ・オルフィーユ
イメージC・V:福山潤様(ルルーシュ・ランペルージ、天空侍斗牙)、中村悠一様(森次玲二、ジョシュア・ラドクリフ)
初期LV:3
HP:540
EP:130
STR:50
DEF:45
ATS:55
ADF:53
SPD:54
DEX:28
AGL:17
MOV:6
RNG:1or4(????装備時)
マスタークオーツ:初期カノン(水属性)→終章パンドラ(幻属性)
武器:グラヴァルド&フォニカス(それぞれ形状がロングソード及びダガー)
武器2:護符
服:レザーガード
靴:レザーブーツ
アクセサリー1:ぬいぐるみ(専用装備&外せない)
DLC(ダウンロードコスチューム)1:私服
DLC2:旅装(生前着ていた日常生活における衣装)
DLC3:死装束(生前における最終決戦時に着ていた衣装。フルフェイス状マスクのアタッチメントも含む)
※外見はCまんま、あるいはコードギアスにおけるゼロの衣装。
ある意味で、閃の軌跡Ⅱにおける…リィンの『人には言えない衣装』、アリサの『人には見せられない衣装』に続くネタ衣装。