上手く説明出来ないのですが、以下の文章で伝われば良いなと思います(既出情報だったらすいません)。
(1)6.66を四捨五入して6.7→嫌われ者(悪魔)にされて仕舞う要素を持っている
(2)6.66≠6.7且つ6.6≠6.7→必ずしも嫌われ者(悪魔)にされて仕舞う訳でもない
因みに獣の数字は666の他に616等の異説も有ります。
口先でなら幾らでも言える。気持ちだけなら何処迄も大きくなれる。理想を掲げ、夢を誦じ、正義を信じ、其でも結局、身体は何時かは付いて行けなくなる。気持ちばかりが先走り、大なり小なり瑕疵を負い、理に嵌り、果ては悪意に囚われる。そんな非力な人間との対比の為に、態々全能の神様が居るのならば、其は酷く嫌味たらしい条理だと思った。
隣町迄の交通手段として、丁度良い塩梅に鉄道が敷かれていた事は幸いと言う他無い。徒歩での移動を加味すると、時間的には自転車と余り変わらなそうだとは言え、雨天時の手段として見れば、随分魅力的に感じた。多分に懐事情に余裕が有り、加えて小児価格が適応される事が併されば、回数券の購入に然して抵抗は覚えなかった。
硝子の誕生日前日に当たる金曜日、自分は早速回数券を使って、隣町に来ていた。
分厚い雲に覆われた空からは、何時雨粒に襲われるとも知れない。仮令其が俄雨であれ何であれ、こんな日に迄、水を差され、気持ち迄も台無しにされるのは、是非とも避けたかった。
折畳傘、ノート、筆記用具の他は、近場の店で見繕った御菓子とフィタの入れた紙袋。此等を詰めた鞄を手に電車に揺れる事数分、改札を抜け、前回の記憶を頼りに歩いていると、前方に硝子らしき姿を発見した。
「硝子?」
否、紛れもなく硝子に違いない彼女は、然し乍ら以前とは異なる印象を醸していた。
心有らずとばかりフラフラとした足取りの後姿には、手を離れ何処かと飛んで行って仕舞う風船が重なって見えた。
堪らず気持ち急ぎ気味に歩み寄るに従い、始め濃淡も疎に千々散開と足元を湿らせていた水滴の跡は、次第に一本の、まるで黒い糸かの様に連なり、色濃く認められる迄になっていった。
「硝子!」
未だ雨も降ってもいない中での、最早水滴と称すのも憚られる程の水量からは、相応の状態に彼女が置かれている事を理解させた。
掻き立てられた不安の前には、迚も平静ではいられなかった。此の儘では漠然とした何かが手遅れとなって仕舞うと言う予感が、自分を一層急かし駆け寄らせた。
矢っ張り、硝子は濡れ鼠だった。過分に水分を含んだ頭髪と衣服は肌へと張り付き、肌を伝い零れ落ちる水滴の勢いは尚も衰えを見せない。或いは此の全てが彼女の涙に因る物なのだと言われても、屹度自分は疑わずに受け入れられる気がした。
「硝子っ!!」
丸めた背を向け、此方に未だ気付かぬ彼女の右手を、構わず掴み引き止めて漸く、其の双眸が此方へと向き、捉えた。
一人だけ酷い暴風雨に遭遇したかの様に全身ずぶ濡れの姿で、亡者の様な虚ろな目をしていた彼女は、自分を認めると、驚き、其から気不味そうに顔を伏せた。きつく握り締められた両の手が、行き場も無く込められた力に只管震えていた。年上としての矜持を脅かす姿だけは見られたくなかったと言わんばかりの、そんな彼女の様子にたじろいでもいられない。
馬鹿な自分でも、彼女が虐めを受けたらしいと言う事、何より今此処で彼女を決して一人にしてはいけない事だけは、漠然とした直感からも把握出来た。
「ばっな、じでおぉ」
再度身を翻し逃げ様とする硝子を如何にか引き寄せる。其の儘服が濡れる事も構わず抱き留める事暫く、漸く硝子は抵抗を止めた。
じっとりと服に広がる染みに比例する様に、彼女の泣き声も荒く大きな物となる。
「うぐぅっ、びゃ、ふっれ!どおひゃいれ、わばぢ、だぁがいら!」
自分には彼女の純粋な問いにすら、返す言葉は思い付かなかった。
何故彼女が非道い目に遭うのか?周りと違うからだろうか。だとして其処に彼女を攻撃する何の正当性が有るのか。
馬鹿な自分に投げ掛けるにしては、其は酷く生々しく、大きく、何より重い問答に感じた。無力感に只虚しい気持ちで一杯になる。
「…でも、自分は硝子の味方だよ」
窄む声を出すのが漸とだった。自分の不甲斐無さを誤魔化そうと、彼女の頭を努めて優しく撫でて見る。
嫌がられたらとかそんな事は不思議と如何でも良いと思えた。今は何もしないでいる方が余っ程怖いと感じた。其でいて、何をして良いのかすらも見当は付かず、結局腫れ物に触れる様に宥めるのが精々だった。
如何してこんな目に彼女が合わないといけないのか?如何してこんな状態でも放置されているのか?何故誰も助けなかった?何故誰も声を掛けかった?如何して?何故?疑問ばかりが頭を過る。
短髪では隠し切れずに覗いた、右耳付根に走る痛々しい裂傷の痕は、彼女に対する周囲の認識を包み隠さず反映している様に感じた。
『貴女、家、一緒、行く、か?』
ゆっくりと両腕を解き、硝子から距離を取ると、未だ並々湛えた涙の中を光が揺れ踊るに任せた、稍赤らんだ瞳が此方を見上げた。馬鹿な自分は彼女から笑顔を引き出す言葉を知らない。気の利いた言葉も浮かばず、只硝子の家に行こうかと伝えれば、彼女は稍遅れて首肯した。
たった数日前は、必死に背伸びしていた三週間ばかり年上の御姉ちゃんも、今日ばかりは自棄に小さく感じた。尚時折嘔吐く様に声を漏らす硝子の手を引き、彼女の家へと一緒に帰った。