空の居場所   作:七九曜

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012-2008/06/06-子供二人、密室、片や初心、片や傷心、何も(ry

玄関を潜るや否や、硝子から荷物を奪い、部屋から適当に替えの衣類を繕わせると、其の儘自分は彼女を風呂場に押し込んだ。

序でにと、大分水分を吸い込んで仕舞ったズボンとシャツとを脱いで洗濯槽へと放り込み、其の儘乾燥に掛ける。軽快な電子音に続いて、物々しい駆動音が辺りを震わせると、拝借したタオルに申し訳程度に包まる他は、下着一丁の自分が残された。格好だけなら妖精標準仕様であれ、残念乍らタオルから覗く四肢は、如何見ても彼等の其では無い。只一方的に剥ぎ取られる側なのだと否応無く理解させられる。かと言い、何時迄も水気と不快感に浸った儘で居るのは、其以上に惨めで、迚も自分には耐えられなかった。

何れ、既に洗濯機は運転を始めている。乾燥が終える迄は貧相な身体を満足に隠す事は叶わない。洗濯槽の為すが儘に任せる衣類は、草臥れた様子で振り回されていた。碌な衝突音も上げずに何度と壁面に叩き付けられる衣類と対比して、けたたましい洗濯機の様子は過剰にすら思えた。

残り四十分、画面に表示された数字に軽く溜息を吐く。

未だ風呂場から散発して扉を抜けて漏れ出る悲痛な声は、無力な自分を責める様に耳を突き、脳を揺す振る。床拭きなり荷物の確認なり、合間合間思い付くに任せて何をして見ても、決まって何も全く気晴らしにもならなかった。

 

 

風呂から上がり幾分心身共にさっぱりした様子の硝子からは、稍充血の跡が残る瞳を除けば、本の一時間もしない先程迄の痕跡は、一見すっかり払拭された様に見えた。

でも其は矢っ張り見掛け上での事で、内側では深く根差した儘だったのだろう。

 

タオルを髪に擦り付け乍ら、ふと目に着いたと言った様子で、彼女は机の上に置かれた紙袋を手に取って見せた。

『此は?』

単純に見慣れぬ物に興味が惹かれただけの様子だった。余りの出来事に疲れていたのか、硝子は自身の誕生日と結び付けられずにいるらしい。

『誕生、日、贈物。自分、貴女、贈る、したい』

此の儘渡しても良いものかと、悩みはした。嫌な事等が有った直後に、何かに託け祝福されても、嬉しくないのではないか。今日は渡さずに持ち帰って仕舞った方が良いのではないか。そう悩んで、悩み抜いた末、其でも結局自分は自身の願望を優先した。

彼女は此方へ惚けた顔をして見せた。

 

〈こんな時に何て、如何かしてる事は分かっているけど、其でも自分は此を渡したい〉

〈矢っ張り硝子には笑っていて欲しいから〉

自分の糞雑魚手話語彙力を取り繕う為にノートに言葉を綴って見ても、矢っ張り其は例の先輩の擁護みたく、自己満足を思い遣りと宣う類の欺瞞でしかなかった。

 

そんな配慮に欠いた押し付けが実を結ぶ筈も無く、見る見る内に彼女の表情は苦し気な物に変わった。堪らずと言った具合に強張った口元や目元を見て、彼女の胸中に渦巻く感情を押し殺した末の皺寄せを目の当たりにして、漸と自分は申し訳無い気持ちになった。其が何に因る物で有るにしても、引き金になったのは明らかに自分の浅慮が招いた行為だった。

目元を掻いた彼女の指先には、確りと水滴が見て取れた。

 

 

『御免なさい』

其以外に一体何の言葉を伝えれば良いか見当も付かなかった。

何をしてでも許して欲しい。今更そう思い乍ら何をすれば良いのかすら分からないのは、其以前に彼女をこうも苦しませて仕舞うのは、自分が馬鹿だからに違いない。

謝罪にしても、只徒らに硝子に否定を促させる以上の意味は無くて、暫し後に此方へと向けた笑顔も感謝の言葉も、何れ違わず強要で漸く得た紛い物だと理解させられる。

然も感激したとばかりの抱擁にしても、彼女の本心が伴う物とは到底信じられなかった。咄嗟に浮かべた胸中を誤魔化す為の取り繕いなのだと、只此方を気遣う彼女なりの迫真の演技なのだと、そう馬鹿な自分なりに弁えて見せる。

其の癖、鼻腔を擽る薬剤混じりの芳香や、タオル越しに伝わる体温に包まれて居ると、其を不意に手放すのが惜しく感じた。爪先、指先から頭頂に至る全身で脈打つ動悸が、呼気を妨げる様に気管を締め付ける.彼女が今どんな表情をしているのか、其を目にするのが嫌で、一層強く右肩へと顔を押し付けた。息をするのも苦しくて、其が酷く心地良かった。

 

真っ当な友達関係で済ませるには不相応だと、今自分が抱く此の得体も知れぬ感覚を,そう嫌悪感交じりに可笑しく思い乍ら、一方で其の比較にする可き友達関係自体が他に無い事に思い至る。心臓だけでは収まらず、手首、鎖骨下、蟀谷迄も無視出来ない程に震わせる拍動に因って、血管が皮下を蠢き這い擦り回る。或いは此の喧しい心臓を掴み取り、皮膚共掻痒感を毟り取る事が出来たのなら、馬鹿な自分でも其の正体を抑えられる様な気がした。

そんな自分に対して自嘲を溢さずにはいられなかった。

硝子は何度も謝意を口にした。自分は何度と謝意を伝える機を逸した。

 

 

背後で洗濯機の鳴らす電子音が、自分には酷く間抜けに聞こえた。




木吉さんなら、「強くなりたい」、「結構速攻脱衣」、「ほらねぇナニしたらええやん!」等と言っていたのだろうなと思い乍ら書いていました。


個人的に好きな"6"と言う数字を抑えたいと言う為だけの、間に合わせの杜撰な内容で、後々大幅に改修されるとは思いますが、大目に見て貰えればと思います。
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