ジュエルシード探索、レアスキルの本領発揮ですよっ!!
ただ地味なんでそこはサラッと流しますが……。
探査のレアスキル『世界の窓』。
この能力は、対象に対して有している知識や自分との距離などに応じて精度が変わる。
例えば、なのはちゃんの居場所なら「あっ、家にいるな」とかなり正確に分かる反面、名前しか知らず他次元にいるであろうクロノ・ハラオウンの居場所を探そうとしてもぼんやりとしたイメージが浮かぶだけだ。
でもこの不確かな情報こそが今回のケースでは有効に働く。
なぜなら探査に反応があるという事はジュエルシードが存在している事の証明であり、不確かな反応はジュエルシードがまだ海鳴に落ちて来ていない事を示しているからだ。
と言うわけで、四月になってから毎晩と言わず暇を見つけては日に何度も『世界の窓』を使ってジュエルシードの動向を調べていた。
一日一日と動きがない事に気をはやらせること十数日、
「…………来たっ!!」
今までただ漠然と一塊にその存在を感じていたものが、今は正確な位置までは分からないまでもここから十数kmの範囲内に点在しているのが感じられる。
部屋着から運動用のジャージに着替え、その上にウィンドブレーカーを重ね着する。
時計を見ると時刻は夜の十時を回ったところだ。
「まだこの時間だと人目があるか」
飛べば目撃される危険があり、かと言って徒歩ではランニングに見せかけてもお巡りさんに職質ないし補導される可能性がある。
ならば、
「ニケ、認識阻害結界」
『Yes、認識阻害結界Standby』
自分で纏う分だけの魔力を流し、速度は変わらなくても障害物を無視できる分だけ効率の良い飛行魔法で捜索に出る。
「まずは神社だな」
前世の知識にあるジュエルシードが暴走する場所の中で一番場所の特定がし易くかつ移動が楽なのが神社だ。
月村邸の庭、と言うか山も候補の一つではあるけど、あそこは無断で侵入したら警報とか鳴りそうだから日が出てから堂々と正面から訪問させてもらうつもりだ。
そんな後の流れを考えているうちに神社に到着。
「さてと、じゃあサクサク行きま……って、マジか」
『世界の窓』を使うまでもなく社をくぐった参道のド真ん中に堂々と月明かりを反射し青く光る宝石が鎮座していた。
「ま、まぁ手間が省けたと言う事でOKかな。うん、一つ目のジュエルシード確保っと」
僕の資質と魔力量じゃジュエルシードを封印なんて出来るわけもないので、そのままニケの中に収納する。
よく分からないけど、デバイスの形態変化にしても収納力にしても量子変換レベルと言うか、異次元に繋がってると言うか、まぁ通常空間でない事は確実なのでそこにある分には安全だろう。
そこからはジュエルシードを直に見た事で精度の上がった『世界の窓』と転移の『世界の扉』でチャッチャと集めていく。
しかしその途中で探査に引っ掛かっていたジュエルシードの一つがロスト……とまでは言わないけど酷く曖昧なものに変化した。
これはと思い試しにユーノ・スクライアで探査をかけると漠然とだけど同じ様な範囲に反応があったためジュエルシードが暴走し状態が変化、戦闘に入ったものと判断する。
ちなみに僕は戦闘なんてまっぴらごめんなので『世界の窓』で注意しながらユーノを探す。
「確か下校中のなのはちゃん達が塾に向かう途中の公園か何かだったはずだから」
と当たりを付けてフラフラすること十数分、歩道から分け入った茂みの奥で倒れているフェレット擬きを何とか発見。
「ニケ、バイタルチェックお願い」
『Yes、呼吸脈拍共に安定、体温も正常範囲内です』
「そう」
ふぅと安堵の息を吐いてから、出血している外傷を治癒魔法で治していく。
「さすがにこのまま放置……はないか」
さっきのジュエルシードの暴走体や野犬にでも襲われたらひとたまりもない。
しょうがないから一旦家に連れて帰り、治療と保護の駄賃としてレイジングハートを回収した上で部屋に放り込んでおく。
この時点で時刻は日付をまたいだ。
明日の朝練は休ませてもらうとしても代わりに月村邸に行く事を考えると睡眠時間がヤバい事になるので、急いで残りのジュエルシードを回収して回る。
そして何とか暴走体と月村邸以外のジュエルシードを確保し終え、布団に入ったのは午前二時。
「睡眠時間三時間か、明日は辛いな」
ボヤキながらもまずはジュエルシードがちゃんと降ってきた事、それを無事に確保できた事に安堵しながら意識を手放した。
無情なる目覚ましの音で意識が浮上する。
夢なんて微塵も見ない眠り。
「うぅぅ、眠い」
習慣で目は覚めるけど睡眠不足で頭がクラクラする。
このコンディションで念話は無理っぽいと携帯に手を伸ばす。
『なのはちゃんへ。今日は朝練休みます。ごめんなさい。放課後会わせたいフェレット擬きがいるんだけど予定大丈夫かな?』っと。
ついでにユーノのお色気写真を送付しておこう。
まぁただ丸まって寝てるだけだけど。
あ~~、とりあえず昨日は帰って来てそのまま寝ちゃったから潮風も浴びたしシャワー浴びよ。
(シャワーシーン?誰得ですか?)
熱いシャワーのおかげでとりあえず目は覚めたけど、走るのは面倒だしバスを待つのもな……うん、『世界の扉』で転移してしまおう。
思い立ったが即行動。
能力の発動と同時に家の何の変哲もない玄関の扉が、左右に延々と壁の続く豪邸の門に変わる。
転移してからもっと人目を気にした方が良かったかなと思ったけど後の祭りなのでスルー。
インターフォンを押し、急に下がった外気に頭の芯が冴えてくるのを感じながら待っていると朝から元気いっぱいの月村家ドジっ娘メイドのファリンさんが応対してくれた。
「おはようございます、真君。こんな朝早くにどうしたの?」
「おはようございます、ファリンさん。多分なんですけど訓練場に落とし物しちゃったみたいで学校前にちょっと探したいな~~なんて思いまして」
「真君が私みたいな事するなんて珍しいね。手伝う?」
「いえいえ、自分だけで大丈夫なんで、入れてもらっていいですか」
「あっ、ごめんね。はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
「真君、朝食はもう食べた?良かったら準備しておくから探し物の後にでもどう?」
「ぜひ、お願いします」
出会った当初はメイドとして年下の僕にも様付けで話してくれてたファリンさんだけど、根っからの庶民の僕には居心地がよろしくなかったので「お友達からお願いします」と勢いで友達になってもらった。
ちなみにしっかりした方のメイドさん、ノエルさんの懐柔には失敗。
メイドと言う職業にプライドがあるそうな。
まぁそれはさておき、ジュエルシードの方は10分程の捜索で無事確保。
巨大にゃんこでもふもふの夢は非情に、ひっじょぉぉぉぉに残念だけど断腸の思いで断念しました。
封印のために攻撃されるのは可哀想だからね。
にゃんこは愛でるものですよ。
ちなみに僕は犬派か猫派と聞かれれば断然猫派だ。
ちょっとつれない時もあるけど甘える時のあの可愛さと言ったらもうたまりません。
奴らは絶対確信犯だ。
だが、そこがいい。
さておき、
「んじゃ、ブルジョア階級の朝食をご馳走になりに行こうかな」
部屋数がいくつあるか分からない冗談みたいなサイズの洋館の月村邸。重厚な扉を開け足音のしない毛の深い絨毯を進み二年間も通っているため勝手知ったる何とやらでお手洗いで手を洗ってから食堂に入る。
「おはようございます、忍さん、ノエルさん」
「おはようございます、加藤様」
「あら、おはよう、真君。こんな時間にどうしたの?」
十人が一緒に食事を取れる歴史を感じさせる木製の長テーブルの一番奥の家長席で英字新聞を広げながら優雅に紅茶を飲んでいる忍さんとその側で一歩引いて控えているノエルさんという映画のワンシーンの様な絵図等。
何て言うかこれだけで雰囲気に圧倒されるな。
ちなみに忍さんとすずかちゃんのご両親は既に他界されていて、忍さんは18歳にして月村家の現当主をしている。
一見冷たい印象を受ける美貌に紫がかった長い髪と抜群のプロポーション。
でも話してみるとお茶目で悪戯好きだったり、趣味がゲームに機械いじりと意外と親しみやすい人だ。
「ちょっと訓練場に落とし物しちゃって登校前に探させてもらってたんですよ」
「わざわざ?」
「えぇ、わざわざ」
「……危険物?」
「そうですね」
「魔法関係?」
「みんなには内緒で」
「高くつくわよ?」
「出世払いでお願いします」
「あら、ニケを分解させ――――」
「ダメです」
「それは残念」
今のやり取りで分かる通り、すずかちゃんだけでなく月村家の面々にも魔法について話してある。
大所帯のアリサちゃんのバニングス家と違って月村家は忍さん、すずかちゃん、ノエルさん、ファリンさんの4人しかいないし、多分だけど吸血鬼2人に自動人形2体と、ある意味魔法使いよりよっぽど特殊だ。
しかも将来的になのはちゃんの義理の姉妹になるかもしれないと言う事で話してしまった。
まぁ恭也さんもなのはちゃんも内緒事に向かない性格してるから遅いか早いかの違いだったろうけどね。
ただ今回はユーノに知られずにジュエルシードを確保していたかったので、隠し事が下手ななのはちゃんに伝わらない様に周りにもなるべく秘密にしておく。
「真君、お待たせしました」
席に着くとすぐにファリンさんがカートを押して食事を持ってきてくれた。
トレーじゃない事に安心したのは内緒だ。
「ファリンさん、ありがとうございます。では、いただきます」
さてさて期待に胸膨らませるブルジョアジーな朝食はと言うと、クロワッサンにバターロール、ふわふわなスクランブルエッグにコーンスープ、グリーンサラダにフルーツと絵に描いた用な洋風ブレックファースト。
意外と普通だなと思ったけど、うん、一つ一つのクオリティが家庭のそれじゃなかった。
きっとスーパーで売ってる6個入りの丸パンとかインスタントのスープとか食べたことないんだろうな。
そんな事を考えながら舌鼓を打っていると、
「ふあ~~、みんなおはよ~~」
薄い灰色に水色の水玉、スウェットタイプのパジャマ姿でまだ半分寝ていそうなすずかちゃんが登場。
「おはようございます、すずかお嬢様」
「おはようございます、すずかちゃん」
「おはよう、すずかちゃん」
「おはよう、すずか」
とっさに忍さんと目配せして、口々に何食わぬ顔で普段通りに挨拶する。
すずかちゃん付きのファリンさんは椅子を引いてあげてから朝食を取りに、忍さんは新聞の続きを、ノエルさんは自己主張少なに紅茶を入れ直し、僕は食事を継続。
僕に気付かず船をこいでるすずかちゃん。
「お待たせしました。さぁすずかちゃん起きてください」
「うん、いただきます」
食事を持ってきたファリンさんに肩を揺すられ少しだけ覚醒したすずかちゃんは可愛く手を合わせてからリスの様にパンをもきゅもきゅしだす。
うん、微笑ましい光景だな。
「ご馳走様でした、ファリンさん。凄い美味しかったです」
「お粗末様でした。食後の飲み物は何がいい?」
「じゃあ、紅茶を」
「了解、了解」
ドジっ娘を発動させないファリンさんにちょっと感心しながらその背を見送っていると
「忍様、そろそろご準備を」
「そうね。すずか、ちゃんと目を覚まして遅刻しないようにね」
頭を振るだけでコクコクと返事を返す寝坊助さん。
それを「仕方ないわね」と一つ苦笑して席を立った忍さんは食堂を出る所で振り返り、悪戯っ子の微笑みを浮かべて
「そのままだと真君に笑われちゃうわよ」
爆弾を投下して行った。
「…………………………え?」
時間をかけて現状を理解したすずかちゃんと正面から目が合う。
「真君、紅茶お待――――」
「えぇぇぇぇぇぇっ!!」
「きゃっ!?」
絶叫するすずかちゃん、それに驚いて躓きトレーを投げ出すファリンさん、とっさに『世界の扉』でトレーごと転移させてキャッチする僕。
危うく大惨事だったな。
さすがファリンさんだ。
このドキドキ感がたまらない。
「ま、真君、大丈夫だった?」
「えぇ、ギリギリセーフでした」
「良かった~~。ありがとう、真君」
「いえいえ、ファリンさんこそ大丈夫でした?」
「うん、私は頑丈に出来てるからね。このくらいへっちゃらさ」
「つまり転けること前提で頑丈に出来ていると」
「そんなことなっ……いよね?」
「聞いちゃった!!」
「えへへ~~」
うん、ファリンさん可愛いな。
ドジっ娘は危ないから直して欲しいけど、ハニカんでるメイド姿は百点満点だね。
いつかご主人様と呼ばれてみたいかも。
「なんで真さんが普通にウチで食事してるんですかっ!?」
おっと、フリーズ&放置のすずかちゃんが再起動したみたいだ。
「ちょっと訓練場に落とし物しちゃってさ。取りに来たらファリンさんにお呼ばれしてね」
横でうんうんと頷くファリンさん。
「そ、そうですか……」
「ところで、すずかちゃん」
「な、なんですか?」
慌ててパジャマの裾を伸ばしたり髪に手櫛を入れているすずかちゃんに対して、僕はテーブルの上で手を組み若干下から伺うようにして真面目な雰囲気を出してからフッと笑顔を作り
「意外と朝弱いんだね」
「っ!?」
「パジャマ姿も可愛いよ」
衝撃を受けたすずかちゃんに追撃。
すずかちゃんは段々と視線が下がって行き俯いた所でプルプルと振動を始め絞り出すようにして
「ま」
「ま?」
「真さんのイジワルぅぅぅぅぅぅ」
全力で逃げ出した。
その子供らしい振る舞いにファリンさんと微笑み合ってから
「じゃあ、私はすずかちゃんのフォローに行ってきますね」
「僕はせっかくだから紅茶一杯飲んでからお暇させてもらうのでお構いなく」
「はい。じゃあ、行ってらっしゃい、真君」
「行ってきます、ファリンさん」
その辺のティーパックじゃ出せない香りを楽しんでから学校に向かう。
何か通いたくなっちゃうな、月村邸。
現在12歳の主人公は、3つ年上15歳のファリンさんのメイド姿に萌えております。
別にヒロインってわけじゃないんですけどね。