窓と扉に手をかける   作:もけ

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もうちょっとサクッと書けると思ってたのに、気が付けば7000オーバー。
内容は厚くないのになぜ……。


魔法少女リリカルなのは誕生

 月村邸で20個目のジュエルシードを確保した日の放課後、翠屋でなのはちゃんと落ち合い、昨夜から何も食べていないだろうフェレット擬きへとシンプルなバタークッキーを購入してから帰宅する。

 

 道すがらなのはちゃんに昨夜変な夢を見なかったか聞いてみると「何で知ってるんですかっ!?」と驚かれた。

 

 適当になだめつつ先を促すと「えっと、ファンタジーのRPGに出てきそうな格好した私くらいの男の子が、大きな黒い煙りのモンスターにこう「ジュエルシード封印」て感じて赤い宝石を使って魔法で倒そうとするんですけど逃げられちゃって、男の子はそこで力尽きて倒れちゃうって夢でした」と身振り手振りを交えて教えてくれた。

 

 のはいいんだけど、道端でポーズ決めたりするのは止めとこうか。

 

 ほら、井戸端会議中のおばちゃん達から生温かい目を頂戴してるからね。

 

 「にゃはは」て照れ笑いは可愛いけど耳まで赤くなってるよ?

 

 結果、小走りに逃げ帰ったためいつもより少しだけ早く帰れた。

 

 うん、なのはちゃん、ドンマイ。

 

 孤児院に着き、小動物でも飲みやすいようにフチが低く底が平らで安定している皿を二つ用意して牛乳とオレンジジュースを注ぎ、部屋に向かう。

 

 自室という事もありノックせずに扉を開けると、音に反応したのか勉強机の上に置かれたタオルを敷き詰めた籠の中で顔を上げたフェレット擬きと目が合った。

 

「おぉ、目が覚めたのか。調子はどうだい?」

 

 当然の様に返ってくる返事はないが、気にせず続ける。

 

「先に状況だけ説明しておこうか。怪我して倒れてた君を保護して治療したのは僕。そしてここは僕の部屋。でも礼は言わなくていい。ギブ&テイク、報酬は勝手にもらってある」

 

 そう言ってポケットから赤い宝石、インテリジェントデバイス『レイジングハート』を取り出して光を通す様に目の前に掲げて見せると、フェレット擬きは目を大きく開き、何か言いたそうに口をパクパクさせ、指差す様に肉球の付いた丸い手をこちらに向けてくるが、追い討ちとばかりに

 

「命が助かったんだ。安いもんだろう?」

 

 と口元だけを皮肉っぽく上げてみせる。

 

「真さん?」

 

 そんな端から見たら動物に対して一人で語っているアレな僕に対してなのはちゃんは、犬屋敷のアリサちゃんや猫屋敷のすずかちゃんで慣れているのか可哀想なものを見る瞳ではなく純粋に「どうしたの?」と疑問の目を向けてくる。

 

「なのはちゃんは昨日変な夢見たって言ってたよね?」

 

「にゃ? う、うん」

 

「実は僕にも変な事があったんだ」

 

 突然の話題転換になのはちゃんの表情が戸惑ったものに変わる。

 

「それはね。この辺には僕となのはちゃんしか魔法使いはいないはずなのに、誰とも知れない男の子の声で助けを求める念話が聞こえたんだよ」

 

「それって、私達以外にも魔法使いがいるって事ですよね? ううん、そんな事よりその子は大丈夫だったんですか」

 

「これ」

 

 簡潔なセリフと共にフェレット擬きを指差すが、その意味を測りかね、なのはちゃんの顔にはクエッションマークが張り付く。

 

 人差し指を顎に当て小首をかしげるポーズが凄くキュートだ。

 

 若干天然さん入ったなのはちゃんはこういうのを狙わずに素でやるから凄い。

 

 まぁいつまでもこのままって訳にはいかないから補足を入れよう。

 

「その声の主がこのフェレット擬きだと思われる」

 

「え? えっと……」

 

 僕とフェレット擬きを数回交互に見てから、

 

「この子が念話を使ったって事は、この子は魔法使いって事なの?」

 

「そうだね。しかも喋れる」

 

 動物と話ができると聞いて目を輝かせるなのはちゃん。

 

 うん、その気持ちはよく分かる。

 

 もしも魔法の力と動物と話せる超能力とどちらか一方を貰えるとしたら、僕だったら後者を選ぶもん。

 

 そんな事を考えていると

 

「えっと、私、高町なのは。小学校三年生。家族とか仲良しの友達はなのはって呼ぶよ。あなたは?」

 

「ぼ、僕はユーノ・スクライア。スクライアは部族名だからユーノが名前です」

 

「わぁ、本当にお話できるんだ。ユーノ君か、可愛い名前だね」

 

「あ、ありがとう」

 

 二人の自己紹介が終わっていた。

 

「あぁ~~フェレット擬き君、今度はそっちの事情を説明してくれるかな」

 

「あっ、は、はい」

 

 ファーストコンタクトのイメージのせいか、僕には少し怯えた態度なんだな。

 

 まぁその方が都合が良いからいいけど。

 

「僕はある探し物のためにここではない世界から来ました。探し物の名前はジュエルシード。ロストロギアと呼ばれる僕らの世界の古代遺産です。本来は手にした者の願いを叶える魔法の石だったはずなんですが、力の発現が不安定で単体で暴走して使用者を求めて周囲に危害を加える場合もあれば、たまたま見つけた人や動物が間違って使用してしまってそれを取り込んで暴走する事もあります。僕は故郷で遺跡発掘を仕事にしているんですが、ある日古い遺跡の中でアレを発見して、調査団に依頼して保管してもらったんですけど、運んでいた時空間船が事故か何らかの人為的災害に遭ってしまい21個のジュエルシードがこの世界に散らばってしまったんです。僕らの世界の治安維持組織『時空管理局』にすぐ通報はしましたが大きな組織だし、ここは管理外世界だから到着までに時間がかかると思って僕だけでもと先行して来たんですけど……」

 

「あえなく暴走体に返り討ちと」

 

「……はい」

 

 バッサリ斬られしょんぼりとうなだれるフェレット擬き。

 

「あれ、でもちょっと待って。話を聞く限りではジュエルシードが散らばっちゃったのって別に全然ユーノ君のせいじゃないんじゃ」

 

「だけどあれを見つけてしまったのは僕だから。全部見つけて、ちゃんとあるべき場所に返さないとダメだから」

 

「なんとなく……なんとなくだけど、ユーノ君の気持ち分かるかもしれない。真面目なんだね、ユーノ君は」

 

 責任感が強いのは良い事だけど、自分の身の安全を疎かにするのはどうかと思う。

 

 もちろん誰かがやらなくちゃいけない事だし、放置は論外として、でも出来もしない事に命をかけるくらいなら少しでも成功確率の高い方法を模索するべきだ。

 

 だから今回の彼の行動は、結果から見ると、無謀か見通しが甘かったかのどちらになる。

 

 でもその心意気は嫌いじゃない。

 

「でも、僕一人の力では思いを遂げられないのは昨日で分かりました。だから迷惑だと分かってはいるんですが、資質を持った人に協力して欲しくて。お礼はします。必ずします。ジュエルシードを封印するのを手伝ってもらえないでしょうか」

 

 真摯な態度で頭を下げるフェレット擬きを見て、なのはちゃんが「手伝いましょう」と僕に視線を送ってくるけど、それを手で制し

 

「具体的にお礼は何をしてもらえるのかな」

 

 交渉に移る。

 

「えっと……」

 

「命を張るんだ。それ相当の報酬はもらわないと」

 

「真さんっ!!」

 

「そう……ですね」

 

 嘘ではないだろうけど勢いで言ったために言葉に詰まっているフェレット擬きと、僕の態度に不満の声を上げるなのはちゃん。

 

 放置すると後が怖いから先に説得かな。

 

「いいかい、なのはちゃん。困っている人を助けるのは良い事だけど、今回は道案内や荷物を持ってあげるのとはわけが違う。僕も実感はないけど、一生残る様な怪我をしたり、最悪命の危険もある。そんな危ない橋を渡るのにただ親切だけで付き合う、付き合わせるというのは、付き合う側には甘えを、付き合わせる側には多大なストレスを与えるものなんだ。なのはちゃんだって友達に何かしてもらった時に「ありがとう」以外に「申し訳ない」て感じる事があるでしょ?あれの拡大版だと思ってみてよ」

 

 一旦言葉を切り、なのはちゃんの理解が追い付いたのを確認する。

 

「だから、労働に対する報酬を決めて契約という形にするんだ。ただ「手伝って」てお願いするより「後でジュース奢るから手伝って」てお願いする方が言いやすいでしょ?契約という形は、付き合う側のモチベーションの維持と、報酬という言い訳がある事で付き合わせる側のストレスの軽減が見込めるんだ。OK?」

 

「……OKなの」

 

 頭で納得はしてるみたいだけど、心はそうもいかないみたいだな。

 

「大丈夫。ちゃんとなのはちゃんも納得できような条件考えてあるから」

 

 フォローのつもりで、なるべく優しい笑顔を作って頭を撫でてあげると

 

「真さん……」

 

 戸惑いの表情から、少し安心したものに変わり、頷いてくれた。

 

 さて、言ってしまった手前、彼にこっちから条件を提示しなくちゃな。

 

「フェレット擬き君、世界が違うということは金銭は通貨も違えば貴金属のレートも違うだろうから、ここは君の無償労働券10枚を二人分でどうだろう」

 

「無償労働ですか?」

 

 なのはちゃんも一緒に首をかしげる。

 

「そう。例えば、ある事柄について調べてきてもらう『情報提供』とか、どこかへ連れて行ってもらう『道案内』とか、ある物を入手してきてもらう『おつかい』とか」

 

 提示された条件を吟味する様に腕組みをし首を傾げるフェレット擬き。

 

 なかなか可愛らしく面白い絵図等だな。

 

 横を見ると、なのはちゃんも「うんうん」と納得のご様子だ。

 

「グレーゾーンは攻めてもらうけど、犯罪をしろとは言わないし、拒否権はもちろんアリで。どうかな?」

 

「それなら……まぁ、大丈夫……かな?」

 

「OK?」

 

「はい。それでお願いします」

 

 よし、話はまとまった。

 

「じゃあ、さっさく具体的な対策を話し合おう。なのはちゃんもそれでいいね」

 

「はいっ」

 

 いいお返事だね。

 

 やる気満々だ。

 

「とりあえずこちらの手札を話しておくと、僕は結界に転移と回復、なのはちゃんは飛行に射撃と砲撃が得意だね。さっき封印って言ってたけど、それは射撃や砲撃に分類されるのかな?」

 

「はい、そうなります」

 

「じゃあ、なのはちゃん、手出して」

 

「にゃ?」

 

 なのはちゃんの手にレイジングハートを載せる。

 

「これは?」

 

「ニケと同じデバイスだよ。とりあえず当面のなのはちゃんの相棒として貸しとくね」

 

「いいんですか?」

 

「僕にはニケがいるからね」

 

 胸元のニケを軽く指で撫でると、少し震えた気がした。

 

「そうじゃなくて……」

 

 チラチラとフェレット擬きに視線を送っている。

 

 あぁ、そういうことね。

 

「フェレット擬き君」

 

「は、はい」

 

 別段大きな声を出してるわけでもないのに、いちいち過剰反応だな。

 

「これを保護と治療の対価としてもらう事に問題はあるかい? ちなみにこの後なのはちゃんには主戦力として動いてもらうつもりだけど」

 

「それなら……問題ないです」

 

 本人がいいって言ってるんだからいいんだろうけど、確かインテリジェントデバイスって凄い高いんじゃなかったっけ?

 

 まぁ脅迫みたいな形で奪った僕が心配することじゃないけど。

 

「だって」

 

「じゃ、じゃあ」

 

 まだ少し抵抗があるみたいだけど、何だかんだ言って自分だけのデバイスが嬉しいのか、両手で大事そうにレイジングハートを包み、笑みがこぼれている。

 

「このデバイスに封印術式が入ってるんだよね?」

 

「はい」

 

「じゃあ起動ワードを教えてあげてよ」

 

「はい。じゃあ、なのはさん」

 

「あ、なのはでいいよ。ユーノ君」

 

「えと……」

 

「なのは」

 

「な、なのは」

 

「うん」

 

 ご機嫌ななのはちゃんと、フェレット形態で分かりにくいがきっと顔を赤くしているであろうユーノ。

 

 正直早くして欲しいが、まぁ急かすのも野暮と言うものだろう。

 

 この二人が将来結婚したりしたら、このシーンは回想で絶対入ってくる場面だからな。

 

 もちろんニケには部屋に入ってからの全てを録画してもらっている。

 

 いや、結婚式云々は冗談として、交渉するんだから記録は大事でしょ?

 

 他意はない――――――こともない。

 

「じゃ、じゃあ目を閉じて、心をすませて、僕の言った通りに繰り返して」

 

「うん」

 

 二人の間の緩んでいた空気が緊張感漂うものに変わる。

 

「我、使命を受けし者なり」「我、使命を受けし者なり」

 

「契約の下、その力を解き放て」「契約の下、その力を解き放て」

 

「風は空に、星は天に」「風は空に、星は天に」

 

「そして不屈の心は」「そして不屈の心は」

 

「「この胸にっ!!」」

 

 輪唱だった詠唱が重なる。

 

「「この手に魔法を。レイジングハート、セットアップーーッ!!」」

 

『stand by ready set up』

 

 レイジングハートから機械音ぽい女性の声がすると同時に、なのはちゃんを中心に部屋が桃色の光りに埋め尽くされる。

 

 うん、起動ワード中にこっそり結界張っておいて良かった。

 

 まだ日が出てるからって、これだけの光量が窓から漏れてたら不審がられるからね。

 

「落ち着いてイメージして、君の魔法を制御する魔法の杖の姿を、そして君の身を守る強い衣服の姿を」

 

「うん、それはもう考えてあるんだ。レイジングハートお願い」

 

 そう言ってレイジングハートになのはちゃんが口付けすると、なのはちゃんの体が宙に浮かび服、キャミソール、下着が順に消え一糸まとわぬ姿になり、次にコアを核として1m50cmくらいのメタルチックな杖が出現。

 

 それを掴むとそこから広がるようにバリアジャケットが展開され、杖を振り回し最後にポーズを決めて着地した。

 

 呆気にとられて数秒フリーズ。

 

 まさか魔法少女の生変身シーンを拝める日が来ようとは……。

 

 まぁその感動は一旦置いておいて、言わなくちゃいけない事がある。

 

「あ~~なのはちゃん、なのはちゃん」

 

「あ、どうですか、真さん? このバリアジャケット」

 

 なのはちゃんのバリアジャケットは基本的に白地に青いラインが入ったデザインで、上下がくっついたスパッツタイプのインナーに丈の短い長袖のジャケットを羽織り、両足の前に二本のスリットの入った足首丈のスカート、ニーハイソックスで絶対領域を出している。

 

「え? う、うん、凄く可愛いし、動きやすそうでいいね」

 

「そうなんですよ。最初は制服みたいなワンピースタイプにしようと思ったんですけど、キックが出しにくそうだし下着が見えちゃいますから、スパッツにしてスリットを入れてみたんです」

 

 バリアジャケットの出来に自画自賛でご満悦ななのはちゃんだけど、言ってあげる方が親切だろう。

 

「なのはちゃん」

 

「はい?」

 

「バリアジャケットで下着が見えない様に配慮した点は女の子として偉いけど、バリアジャケットを展開する過程で、その、裸が丸見えになってたよ」

 

「…………………………え?」

 

 あ、固まった。

 

 と思ったら、おぉ一気にトマトみたいに真っ赤になったぞ。

 

「にゃぁぁぁぁっ!! なななななんでっ、どうしてっ、レ、レイジングハート、どういうことっ!?」

 

『This is by design (仕様です)』

 

「にゃぁぁぁぁっ!! そんなアニメみたいな仕様ダメなの。か、変えてっ!! 変えられるよね!? アニメだって中盤以降は省略するんだし。ねぇ、レイジングハート、お願い」

 

『I'll do my best (善処します)』

 

「善処じゃダメなのっ!! 普段なら部屋で着替えればいいけど、もし外で急に着替えることになったら変態さんになっちゃうの」

 

『Don't worry (気にしないで)』

 

「気にするよっ!!」

 

 なんかレイハさん、なのはちゃんイジって遊んでないか?

 

 いや、真面目なレイハさんに限ってそれはないか。

 

 まぁ、あれだけいい反応されたらイジりたくなるのも納得だけどね。

 

 でも、話が進まないからこの辺で止めておこう。

 

「ニケ、レイジングハートの説得よろしく」

 

『Yes Master』

 

 この後、二機の間でピコピコと点滅しながらデータのやり取りが行われ、無事にお色気サービスの省略がなされた。

 

 安心したなのはちゃんと、目を合わせられない挙動不審なフェレット擬きと、この現状に呆れ顔の僕という微妙な空気も誰か直してくれないかな。

 

 あぁ、もちろん変身シーンも録画してありますよ。

 

 ただしオートでモザイクの光線が入ってますけどね。




レイハさん、ちょっとだけイジリキャラにしてみました。
なのははイジられてこそ光ると思う。

次回はテンプレのような暴走体とのバトルですが、なのはは魔法を覚えて既に丸二年が経過しているので楽勝予定です。
フェイトが出てくるは次回か次々回ですね。

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