窓と扉に手をかける   作:もけ

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今話は場面転換が多いので、あまり良い方法ではないですが線で区切ってみました。
お見苦しくて申し訳ないです。


今度こそフェイトとコンタクト

「尾行に、監視に、不法侵入か。これじゃあこっちが犯罪者だよね」

 

 住宅街が主体の海鳴市とは違い、高層ビルが立ち並ぶお隣の遠見市中心街。

 

 その中でもひときわ目を惹く高級高層マンションの最上階の一室。

 

 本来ならセレブと呼ばれる階層の人が住むはずのその場所は、現在わずか9歳の黒衣の露出魔法少女フェイト・テスタロッサとその使い魔アルフ(素体である大型の狼形態、または人形態なら16歳くらいのグラマーな野性的美女)が潜伏場所、現地拠点として使用していた。

 

 二人がジュエルシード探索に出かけたのを見計らって侵入し、テーブルの上にミッド語で書いた手紙と重石代わりにプリペイド携帯を載せて、一人ごちる。

 

 交渉の余地なしと切って捨てられた露出魔法少女とのファーストコンタクトから一週間、当初のストーキング案は破棄し、どうせなら協力者、せめて交渉人として同行できる様に手を打つ事にした結果、やっている事はやっぱりストーキングであったという不思議。

 

 どうせなら毒を喰らわば皿までと開き直り、探偵の真似事で寝室、クローゼット、キッチン、冷蔵庫、脱衣所、お風呂場、ゴミ箱を調べる。

 

「料理はしてても食べてなさそうだな」

 

「ドックフードは使い魔か……狼じゃなくて実は犬?」

 

「医療行為の形跡は無しっと」

 

「シャンプー、リンス、洗顔フォーム、ボディソープはミッドチルダの市販品か。使用感とかちょっと気になる」

 

「洗濯機と乾燥機は日本製みたいだけど、ちゃんと使えてるのかな? 取説とか読めないだろう」

 

 などと独り言を言いながらも、匂いを残さないために認識阻害結界を展開しつつ、ブッキングしないようにワールドウィンドウでターゲットの現在位置の確認も忘れない。

 

 にわか探偵による家宅捜査の収穫は

 

「これがプレシア・テスタロッサ……」

 

 写真立てからプレシアの人相が分かった事くらいだが、試しにワールドウィンドウで調べた結果は芳しくなかった。

 

「古い顔写真だけじゃ情報不足か」

 

 一緒に写っているのがアリシア・テスタロッサだとするなら、これは26年前に起きた例の事故よりも前の写真と言う事になる。

 

 ジュエルシード探索をサボってミッドチルダで調べて来た資料によれば現在のプレシアは59歳。

 

 幸せな生活から一転、狂気と妄念に憑りつかれた半生でどれだけ変わっている事か……。

 

「でもまぁ、とりあえずはこんな所かな」

 

 そんなにすぐ帰って来るとは思えないから、一旦帰って、後はワールドウィンドウで監視してよう。

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

【置き手紙の内容】

 

 突然の手紙で失礼する。

 

 我は7日前に貴様が会った現地の魔法使いを従えている者だ。

 

 ここでは便宜上『白い悪魔』と名乗っておこう。

 

 この7日間、ジュエルシードの探索に精を出していたと思うが成果はいかほどのものだった?

 

 などと持って回った言い方をしているが聞かなくても分かっている。

 

 1個も見つからなかった。

 

 そうであろう?

 

 それもそのはず、7日前に使いをやった時点で既に落ちているジュエルシードはなかったのだからな。

 

 つまりこの7日間の貴様等の活動は完全に無意味なものだったと言うわけだ。

 

 おっと、ただし勘違いはしてくれるなよ?

 

 7日前にこちらは交渉を持ち掛けているのだ。

 

 それをにべもなく断ったのは貴様だ。

 

 つまり責任の所在は貴様自身にあり、その原因は貴様の短慮に帰結すると言うわけだ。

 

 猛省し、付き合わされた使い魔に謝罪するがいい。

 

 その際は、言葉と一緒に特上の生肉を詫びの印として与えるのが良かろう。

 

 さておき、それを踏まえた上で、こちらからもう一度だけ交渉のテーブルを用意しよう。

 

 手紙と一緒に置いてある機械はこの世界の通信端末だ。

 

 交渉に応じるつもりがあるのなら別紙のマニュアルに従って、今夜ないし明日の21時に連絡をして来い。

 

 貴様も使い魔を統べるマスターなら、それに相応しい思慮と度量の深さを示してみよ。

 

 最後に手間をかけぬために事前に釘を刺しておくが、使いの者を人質に取ったとしても人質交換には応じぬので予め断っておく。

 

 手駒が減るのは惜しいが、さすがにロストロギアほどの価値はないのでな。

 

 付け加えて、使いの者に危害を加えた時点で交渉は中止。

 

 以後そちらを敵と識別し、二度と歩み寄る事はないと肝に銘じておいてもらおう。

 

 お互いにとって有益なる判断が下される事を期待している。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「どうするんだい、フェイト」

 

「応じて、みようと思う」

 

「いいのかい」

 

「うん。この7日間、暴走もなければ広域探査に引っ掛からなかったのもこれで納得した。もう白い悪魔に全部集められちゃってるんだ」

 

「そうだね」

 

「それにここにこの手紙があるって事は、私達が気付かない間に監視されてた……ううん、今も監視されてるかもしれない」

 

「今もかいっ!?」

 

「うん、だから状況はこちらが圧倒的に不利。ジュエルシードも全部抑えられた。拠点もバレた。行動も監視されてる。正直、交渉に乗るしか手がない」

 

「アイツ、鬼婆に連絡しなくていいのかい」

 

「母さんには、相手の出方が分かってからにしようと思う。もし相手の要求が私の出来る範囲の事ならそれで大丈夫だから」

 

「でも、もし無茶な要求でもされたら」

 

「私が出来る事なら何でもやってみせるよ」

 

「何でもって、フェイト」

 

「大丈夫、アルフ。心配してくれてありがとう。母さんはジュエルシードを必要としている。私は何としても母さんの役に立ちたいんだ。そうしたらきっと前みたいに笑ってくれると思うから」

 

「フェイト……」

 

「21時までまだ時間があるし、ご飯でも食べてゆっくりしようか」

 

「うん。それがいいよ。こっち来てからずっと休んでなかったからね」

 

「それにアルフには特上のお肉をプレゼントしなさいって手紙にも書いてあったし」

 

「肉っ♪」

 

「ふふ、アルフはお肉大好きだね」

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「断られたらどうしようかと思ってたけど、大丈夫そうだね」

 

 高層マンションの屋上で夜景を眺めながらひと安心と胸をなで下ろし、耳からイヤホンを外す。

 

 え? イヤホン? もちろん盗聴してましたが、何か?

 

 魔法文化圏の相手に機械による盗聴って盲点だと思うんだ。

 

 なんて、それっぽく言ってみたけど、実際は盗聴する魔法を知らないだけなんだけどね。

 

「とりあえず僕も帰って夕飯食べよ」

 

 増えた罪状には気付かない事にして、ワールドドアで自室に転移した。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 21時ジャスト、僕の方のプリペイド携帯にフェイト・テスタロッサに渡した携帯から呼び出しがかかる。

 

「時間ぴったりだね。一応確認しておくけど、交渉に応じるって事でいいのかな?」

 

「はい」

 

「分かった。それじゃあ」

 

 僕が言葉を切った直後、受話器の向こう側からインターホンの音が聞こえる。

 

「……」

 

「……」

 

「出ないの?」

 

「出ません」

 

「いや、えっと」

 

「今、私にはこの会話以上に重要な事はないので」

 

「そ、そう」

 

「はい」

 

「……」

 

「……」

 

 演出失敗。

 

 諦めて、何事もなかった様に転移魔法でリビングに飛ぶ。

 

「お邪魔するよ」

 

「何者だいっ!!」

 

「っ!? どうぞ」

 

 僕と面識のないアルフ(人型)は一気に警戒態勢に入るが、ご主人様であるフェイトがバリアジャケットも纏わず平然としているせいか、飛びかかっては来ない。

 

 きっと念話で止めてくれてるんだろう。

 

 アルフが露骨に目配せ、と言うか顔ごと動いてるし。

 

「まずは改めて自己紹介から。僕は加藤真。現地の魔法使いで、白い悪魔の使いって事になってる」

 

「私はフェイト・テスタロッサ。この子は私の使い魔でアルフ」

 

「フェイトとアルフね。そっちも僕の事は気軽にマコトって呼んでくれていいから」

 

 アルフは相変わらず鋭い目つきで睨んで来るけど、フェイトは頷きを返してくれる。

 

「じゃあ、交渉を始める前にいくつか質問をしたいんだけどいいかな? もちろん答えたくないものは黙秘や拒否でいいから」

 

 返事は再度の頷き。

 

「最初の質問から一番気になってた事なんだけど、フェイトはどうしてこの星のこの場所にジュエルシードがあるって知ってたのかな?」

 

「それは……」

 

「それは?」

 

「……」

 

 黙秘か、まぁそう簡単には答えてくれないよね。

 

「この星は管理局の言う所の管理外世界、魔法文化のない世界だ。本来ならジュエルシードなんてロストロギアがあるわけがない。今回のこれは完全にイレギュラーで、運搬中の事故が原因だと当事者から話を聞いている。被害者側に他に回収を主導する立場の人間はいない。たまたま事故を観測してた第三者がいたとしても、その場合はジュエルシードの事を知る事はできない。じゃあフェイトは誰から聞いたんだろう。どんな立場の人間ならジュエルシードが管理外世界であるこの星にある事を知れたんだろう」

 

 一旦言葉を切りフェイトの様子を窺うと、良くない事に気付いた様な驚きと戸惑いの表情を浮かべる。

 

「そう、今フェイトが考えている通りだと思うよ」

 

 揺れ動いていたフェイトと目が合う。

 

「それは加害者。ジュエルシード運搬中の輸送船に攻撃か何らかの工作をした人物だけが、知る事が出来るんだ」

 

 図星かな? フェイトの表情がこわばった。

 

「フェイトやアルフが僕より優れた魔法使いって事は分かるけど、今回のそれはさすがに荷が勝ち過ぎてる。だからフェイトにジュエルシードを探させている人物がいるはずだ。それが誰か教えて欲しい」

 

 しかし返ってくるのは沈黙。

 

 まぁ、予想通りな反応だけどね。

 

 なら、こっちも考えておいた揺さぶりをかけよう。

 

「このままだと、フェイトが輸送船を襲撃した上に危険なロストロギアを管理外世界にバラまいた凶悪犯って事になるんだけど、それでもいいのかな?」

 

「違うよっ!! フェイトはあの鬼婆に言われて探しに来ただけで――――――」

 

「アルフっ!!」

 

「だって、フェイト」

 

「黙って」

 

「わ、分かったよ」

 

 耳も尻尾もペタンと倒れるアルフ。

 

 不謹慎だけど、ちょっと可愛いじゃないか。

 

「鬼婆……鬼婆、ね。つまりフェイトの母親が黒幕って事?」

 

「ち、違うっ!! 母さんはそんな人じゃないっ!!」

 

「そんな人って、じゃあどんな人?」

 

「ど、どんな?」

 

「子供を右も左も分からない世界に送り込んで、命の危険もあるロストロギア回収を指示する様な?」

 

「それは、アルフもいるし、」

 

「使い魔がいなかったら行かせられなかったと思う?」

 

「で、でも、それは私を信頼してくれて」

 

「信頼?」

 

「そう、だから私は母さんの信頼に応えないといけないの」

 

「よく分からないな。フェイトと一心同体である使い魔のアルフは鬼婆とまで言ってたけど」

 

「それは、アルフと母さんがちょっと上手く仲良くできてないだけで」

 

「じゃあ、娘であるフェイトの視点からお母さんの話を聞かせてよ」

 

「え……?」

 

「このままだと状況証拠とアルフの印象だけで、こっちのイメージが出来ちゃうからさ。それはフェイトにして見れば不本意でしょ?」

 

「う、うん、じゃあ――――――」

 

 フェイトの話は温かい思い出話から始まり、途中からアルフも語りに加わるがどんどん雲行きが怪しくなって、最後は自分を騙すかの様にフォローを入れながらのものになった。

 

 二人暮らしで一緒にいられる時間は多くなかったけど温かった生活、ピクニックに行ったこと、引っ越しと共に厳しく笑わなくなった母、リニスという先生であり姉のような使い魔のこと、アルフとの出会い、訓練の日々、リニスとの別れ、母から頼まれる様になった危険なおつかい……。

 

 何て言うか、孤児院で育ってきた僕にとっては「そんなに珍しい展開じゃないな~」と言うのが正直な印象。

 

 親がいて生活ができればいいって問題じゃないケースってくらいかな。

 

 母性の強い山猫から作った家政婦兼教師の使い魔リニスを付けた辺りはむしろ好ポイントだし、体罰以外の育児の他人任せと子供の私物化に関しては、お金持ちや伝統ある家だとわりかし普通のレベルじゃないかと思う。

 

 別に食事や服、ベッドを与えられなかったわけじゃないし、雪が降る中に放置されるとか命の危険があったわけでもない。

 

 体罰は見てないから何とも言えないけど、お尻を叩くとかゲンコツを落とすくらいの常識的な範囲でなら賛成派なんだけど、アルフが言うには鞭らしいからな。

 

 その点は完全に幼児虐待でアウトだ。

 

 と言うか、わざわざ鞭と言うチョイスに恐怖を覚えるよ。

 

 よっぽどの嗜虐心がない限り、その選択肢はない。

 

 人間は素手で殴られただけでも当たり所が悪ければ死ぬ。

 

 でも鞭にそういう事はない。

 

 鞭は表面を浅く傷付けるだけで、骨折もさせず、大量の出血もさせず、障害も残さず、ただただ痛みを与える事だけに特化した最もシンプルな拷問器具だ。

 

 同じ人間にそれを振い続けられる神経が僕には理解できない。

 

 そういう意味で、僕はプレシア・テスタロッサが怖い。

 

 でも、前世の知識からも、調べた資料からも、僕はプレシア・テスタロッサに肩入れしたいと思っている。

 

 だから出来るだけ頑張ろう。

 

 だから、まずは目の前の二人を言い含めないとな。

 




手紙の『白い悪魔』はもちろんなのはですが、なぜか口調はディアーチェと言う不思議。
いや、特に意味はないんですが、悪魔っぽいかな~と思いまして。

探偵には尾行も監視も盗聴も家宅侵入も仕事の内なんだよっ!!
もちろん言い訳です。

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