窓と扉に手をかける   作:もけ

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原作の公園のサイズが分かりませんが、海沿いに大きな公園があるってことでここは一つ……。


海沿いの大きな公園にて

 学校が休みの土曜日と日曜日、僕は趣味と実益を兼ねた活動をしている。

 

 人の集まる大きな公園での大道芸だ。

 

 輪っかでのジャグリング、ディアボロ、シガーボックス、シャボン玉などなど、小学生の大道芸は珍しいから集客も良くて結構な額のおひねりがもらえる。

 

 具体的な数字をあげるのは品がないから、多い日で万を越える事もあるとだけ言っておこうかな。

 

 ちなみに、この時魔法の修行も兼ねてこっそり身体強化の魔法を使ってるんだけど、苦手なためあんまり効果がなく、でもそれがかえって常識の範囲内な動きになってて丁度良かったりする。

 

 うん、嬉しいやら悲しいやら複雑だ。

 

 それで、その稼いだお金を本当なら園長先生に渡して孤児院のために使って欲しいんだけど、園長先生は『自分のために使いなさい』と子供からお金を受け取ってくれない人なので、代わりにみんなにオヤツを買っていったり、欲しがってる物をプレゼントしたりしている。

 

 孤児というだけでも負い目があるんだ。

 

 せめて普通に欲しい物を欲しいと言える環境でいたいし、他のみんなにもいて欲しいと思う。

 

 ちなみに僕はお金を稼ぐ手段があってそういうサプライズの役回りをしてるけど、もちろん他のみんなも各自で孤児院の生活の助けになる事をしている。

 

 中学生陣は特別に許された先でアルバイトをさせてもらい、その中から出し合って子供全員が会議を開いて使い道を決める子供基金を作ったり、小学生以下は炊事に洗濯、掃除にお使い、野菜畑の世話なんかの園長先生の手伝いをしている。

 

 こうやってみんなが協力して家族として生活するのがうちの孤児院の流儀なのだ。

 

 と、そんなわけで今日も午前中から人の集まる海沿いの大きな公園に来ていて、既に1回パフォーマンスを終えた所なんだけど、人だかりが散っていく中、小学校に上がるかどうかくらいの女の子が1人でポツンといるのが目に留まった。

 

 最初は迷子なのかなと思って困っているようなら声をかけようと目で追っていると、近くのベンチに座ってお弁当を広げ始めた。

 

 どうやら迷子の心配はないみたいだけど、1人でお弁当を食べる姿が寂しそうに見えて、何となく放っておけなくなってしまった。

 

 これも孤児院での生活のせいかな。

 

「こんにちは」

 

 思い立ったが即行動。

 

 近付いて正面から声をかける。

 

「っ!? こ、こんにちは」

 

 女の子は話しかけられたのが余程予想外だったのかびっくりした顔をしている。

 

「初めまして、僕は加藤真。さっき僕のパフォーマンス見てくれてたよね。ありがとう」

 

 そう言って握手を求めて手を出すと、おっかなびっくりといった感じで握り返して

 

「た、高町なのはです。凄く楽しかったです」

 

 と、言ってくれた。

 

 うん、しっかりした良い子だな。

 

 決して褒めてくれたからそう思ったわけじゃないので勘違いしないように。

 

「良かったらお昼一緒に食べてもいいかな」

 

「あっ、えっと、ど、どうぞ」

 

 体をずらして場所を空けてくれたので隣に座り自分のお弁当を広げる。

 

 中学1年生、4つ上の律姉のお手製サンドイッチ弁当だ。

 

 玉子サンドを手に取り一口。

 

 うん、美味しい。

 

 なのはちゃんのお弁当を見てみると、俵型の小ぶりなオニギリにから揚げ、ソースのかかった温野菜にフライドポテト、玉子焼きと並んでいる。

 

 色味も綺麗で手の込んだお弁当みたいだ。

 

「美味しそうなお弁当だね」

 

 見たまま褒めると、なぜかビクッとした後

 

「お母さんが作ってくれたの」

 

 と、俯き加減でボソボソとお返事。

 

 手の込んだお弁当なのに、その作ってくれたお母さんがいなくて、この反応。

 

 遊びに行く予定だったのに急用でも出来たのかな。

 

「お母さん、忙しいの?」

 

 そう聞くとさっきよりも大きく体を震わせ、たっぷり10秒ほど沈黙してから

 

「お父さん怪我で入院してて、お店、お母さんだけで、お兄ちゃんとお姉ちゃんが手伝ってて、みんな忙しくて、でも私、まだ何もお手伝い出来なくて」

 

 泣きそうな顔で事情を教えてくれた。

 

 あ~~~~、うん、駄目だ。

 

 こういう子は放っておけない。

 

 みんな忙しくて、自分だけ除け者で、寂しさから逃れるためだとしても、家族のために何かしたいと言うなら応援してあげよう。

 

「なのはちゃん、お店は何やってるのかな」

 

「え? えっと、喫茶店です。ケーキのお持ち帰りも」

 

 それは好都合だ。

 

 呉服屋とかじゃなくて良かった。

 

 まぁ、それならそれでやりようはあるけど。

 

 さておき、

 

「そっか、じゃあなのはちゃん、お店の売り上げに貢献したくないかい」

 

「売り上げに、貢献?」

 

 貢献って表現がまだ分からないのかな。

 

「そう、お店の事は手伝えないかもしれないけど、お父さんが入院中にお店が潰れないようにお客さをたくさん呼ぶお手伝いならなのはちゃんにも出来るかもしれないよ」

 

 そう提案すると

 

「やりますっ!! やらせくださいっ!!」

 

「うおっ」

 

 身を乗り出して凄い勢いで食い付いてきた。

 

「じゃ、じゃあ、まずは僕のパフォーマンスを手伝ってもらうから、ご飯食べ終わったら少し練習しようか」

 

「はいっ!!」

 

 元気いっぱいのお返事、大変よろしい。

 

 それが終わったら律姉に確認取って、それからお店か家にお邪魔させてもらってお話だな。

 

 やっぱり閉店後がいいよね。

 

 喫茶店て何時に閉まるか分からないけど、明日の仕込みとかもあるだろうし、まぁこっちが合わせればいいか。

 

 眠くなる前だといいな。

 

 9歳の子供らしく21時には眠くなるんだよね。

 

 夜更かしは、身長伸ばしたいからしませんよ。

 

 将来的に175くらい欲しい。

 

 そんな益体もない事に思考が流れていると

 

「真さん、早く食べて練習しようなの」

 

「おぉ、ごめんごめん」

 

 やる気満々のなのはちゃんに怒られてしまった。

 

 まぁ、元気になったみたいで良かったよ。

 




小学校入学前のなのはとの遭遇でした。

あと3話くらい続きます。

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