窓と扉に手をかける   作:もけ

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高町家にて

 17時の時点で1度翠屋にケーキを買いに行って、その際にアポイントメントを取った。

 

 そして20時、高町家のリビング。

 

 テーブルを囲むのは高町家の面々。

 

 なぜかニコニコしてる母の桃子さん、ピリピリした空気で眼光鋭い兄の恭也さん、それに苦笑しながらも興味深そうな視線を僕に向ける姉の美由希さん、それに不安そうななのはちゃんと僕だ。

 

 出された紅茶で舌を湿らせてから話を始める。

 

「それでは改めて自己紹介を。加藤真です。家は孤児院で上に4人、下に3人の真ん中で、海鳴市立第一小学校3年生です。趣味は実益も兼ねたジャグリングと手品」

 

 孤児院の件で相手方の表情に反応が出る。

 

 まぁ事実として両親がいなく社会的にもハンデだけど、僕としては隠す事でもない。

 

 壁や偏見は困るけど、同情や気遣いなら有り難くいただく。

 

 実際問題として寄付や援助なしに立ち行かない問題なわけだし。

 

 お土産にケーキとか大歓迎ですよ?

 

「土日は大きな公園で大道芸を披露して稼いでるんですけど、そこで今日なのはちゃんに知り合って、午後のパフォーマンスに協力してもらったんですよ」

 

「まぁ♪」

 

「凄いじゃない、なのは」

 

「そ、そんな事ないよ。ちょっとお手伝いしただけだし」

 

 喜ぶ桃子さんと美由希さんに慌てて照れるなのはちゃん。

 

「それで仲良くなって聞いてみれば、お父さんが入院してしまって、お店の事で家族みんなが大変なのに自分は何も出来ないと酷く落ち込んでまして」

 

「ま、真さんっ!?」

 

 さっきとは違った意味で慌てるなのはちゃん。

 

「なのはちゃん、我慢するのもいいけど、言わなくちゃいけない事も家族にはあるんだよ」

 

 前世の記憶が頭を過ぎる。

 

 いつ死ぬかもしれない不安を抱えた自分とそれを支える家族。

 

 色々あったけど、結果だけで見ればやっぱり本音でぶつかるのが正解だった。

 

「まぁ、それは後で家族だけの時にやってもらうとして」

 

 高町家の視線がなのはちゃんに集まり、なのはちゃんも観念した表情になった。

 

「なのはちゃん、ノート出してくれる?」

 

 なのはちゃんがマト姉と書いたチラシの原案が数点書かれたノートを広げる。

 

「これは?」

 

 代表して桃子さんが聞いてくる。

 

「なのはちゃんが考えた翠屋のチラシです。これを僕となのはちゃんのパフォーマンス後に配ったり、パフォーマンス中に宣伝を入れたりしようと考えてます」

 

 3人がノートを見終わるのを待ってから

 

「それで質問とか提案になるんですが、」

 

 桃子さんを正面から見て

 

「そもそもの話になるんですが、喫茶店の売り上げはどうですか?宣伝は必要ですか?」

 

「ちょっと黒字ってくらいかしらね。だから宣伝してくれるなら有り難いわ」

 

 子供の前では答え難い質問だろうと思ってたら、即答された。

 

 何となく負けた気分だ。

 

 まぁ、答えてもらわないと始まらないわけだからいいんだけど。

 

「実際にチラシを配るとして、持ち帰りの看板商品を割引するとか、そういう割引券の要素を入れるのはアリですか?」

 

「いいかもしれないけど少し考えてみたいし、とりあえず保留でいいかしら」

 

 仕入とか作る量とかあるんだろう。

 

 よどみない返答だけど、さすがに内容は慎重だった。

 

「これはさらに余計なお世話かもしれないですけど、お店と看病、慣れない仕事とみなさんお疲れでしょうし、なのはちゃんも1人で寂しそうですし、良かったら中学生の女の子を臨時の短期バイトで雇う気はありませんか?姉の伝手で何人かやってみたいという人がいるんですが」

 

 3人ほど色よい返事が返ってきている。

 

「それは……後でみんなで話し合ってみるわ」

 

 先ほどまでとは違い、答えに詰まる。

 

 やっぱり母親としてなのはちゃんを放っておいてる現状に思う所があるみたいだな。

 

 前世の知識でもそうだったけど、しっかりと愛されてるんだよね。

 

「最後はかなり趣味に走った内容なんですけど、夜に予約制でマジックショーとかやってみませんか?もちろん、なのはちゃんにも協力してもらって」

 

「わ、私もっ!?」

 

 驚いて声を上げるなのはちゃん。

 

「それは素敵ね♪」

 

「うん、私もいいと思う」

 

「お母さんっ、お姉ちゃんまでっ」

 

 少し暗くなっていた表情が一気に明るくなる桃子さんと美由希さん。

 

 この家の女性陣はなのはちゃんをイジルのが好きみたいだな。

 

「じゃあ、これについては前向きに検討するということで」

 

 それに僕も乗っかると、なのはちゃんが口をとがらせ

 

「真さんて実は意地悪なの」

 

 言い掛かりです。

 

 目指せ看板娘だよ。

 

 そして将来的にはチャイナ服とか着て美人アシスタントとかどうだろう。

 

 なんて事を企んでいると、ずっと黙っている恭也さんが気になったので

 

「とりあえず公園の方の話に戻りますけど、なのはちゃんには脱出系のパフォーマンスをしてもらおうと考えてるんですけど、その際、恭也さんに道具を運んでもらいたいんですが」

 

 話を振ってみると、ようやくといった感じで重い口を開いて

 

「加藤真君と言ったね」

 

「はい」

 

「なのはの事はどう思ってるんだい?」

 

「はい?」

 

 いきなりシスコン発言してきた。

 

「恭ちゃん、何言ってるのっ!?」

 

「だってな、美由希。おかしいだろ。今日たまたま会っただけなのにこんなに親切にしてくれるなんて。これはなのはを狙ってるとしか」

 

「お、お兄ちゃんっ」

 

「止めるな、なのは。父さんが倒れている以上、俺は長男としてなのはの相手を見定める義務があってだな」

 

 暴走する恭也さんに慌てる美由希さんとなのはちゃん。

 

 僕も呆気にとられたけど、よく見ると恭也さんの口元が悪戯に成功した子供の様に上がっているみたいだった。

 

 『これは冗談でしょうか?』という意味を込めて桃子さんに目を向けると

 

「どうなの?真君」

 

 満面の笑みで質問を返された。

 

 分かってて乗っかってますね?

 

 いい性格してんな、この人。

 

 というか、いくら前世の記憶と生い立ちのせいで周りより精神年齢高いと言ってもまだ僕9歳ですから。

 

 正直恋愛とかよく分かりませんよ。

 

 それにこのチビッ子、もといランドセルもまだな幼女相手にどうしろって言うんですか。

 

「そんな気はありませんし、ただのお節介です。孤児院で生活してると1人ぼっちで寂しがってるのに敏感になるんですよ。だから放っておけなくてですね」

 

 軽く答えたつもりだったのに、最初の布石が効いてるのか、一瞬で浮ついた空気が凍りついた。

 

 そして深々と頭を下げる恭也さん。

 

「すまなかった」

 

「いえ、お構いなく」

 

 誠実な恭也さんの態度にちょっと後ろめたい気分になり、何でもない様に軽く返す。

 

 せっかくの明るい空気を……冗談で返せばよかった。

 

 失敗したな。

 

「それで、どうですか」

 

「うむ、いくらでも協力しよう」

 

「ありがとうございます」

 

 落ち込んでても仕方ない。

 

 気分を切り替えてまとめよう。

 

「じゃあ、後はご家族でよく話し合ってみてください。別に全部なかった事になっても構いませんので。なのはちゃん、遠慮しないで本当の気持ちを言った方がいいよ」

 

「…………うん、頑張ってみるの」

 

 これもいわゆる原作ブレイクというやつになるのかな?

 

 まぁ後悔も反省もしないけど。

 

 この言い回しちょっと好きだな。

 

「これ僕の携帯番号とメールアドレス、話が決まったら連絡して」

 

 前に友達とゲームセンターで遊びで作った名刺を渡す。

 

「ありがとなの」

 

「明日は今日と違う場所でパフォーマンスするから、もし手伝ってくれるならその時も連絡してね」

 

「いいの?」

 

「何が?」

 

「お手伝いして」

 

「もちろんだよ。なのはちゃんが手伝ってくれた方がお客さん受けいいからね。お家の事がなくても助手として今後も手伝ってもらいたいと思ってるんだけど」

 

 言い終わっても固まって反応のないなのはちゃん。

 

 不審に思って声をかけようと思ったら、その頬に一筋の涙が流れる。

 

「な、なのはちゃんっ!?」

 

「あ、あれ、おかしいな。嬉しいはずなのに涙が勝手に」

 

「なのは」

 

「お母さん…………う、うわぁぁぁぁぁぁん」

 

 桃子さんに抱かれると関を切ったように号泣するなのはちゃん。

 

「えっと……。」

 

 よ、よく分からないけど、感動のシーンなのか?

 

 嬉しいって言ってたからネガティブな涙ではないだろうし、恭也さんと美由希さんも何か優しい表情してるから大丈夫か……な?

 

 明らかに部外者の僕が空気だけど、さっき失敗したから今回は空気読もう。

 

 でもそろそろ帰って寝たいんだけど。

 

 




うちの恭也さんは過度なバトルマニアでも重度のシスコンでもないのですよ。
ベタなギャグは回避しました。
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