窓と扉に手をかける   作:もけ

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原作開始の3年前継続中。

もうちょっとお待ちを……。


下校時、暑さに負けてコンビニに寄ってみれば

 ジメジメした梅雨が明け、夏休みまでもうすぐという7月頭。

 

 下校途中、15時を過ぎても一向に弱くならない日差しに負け、コンビニに避難でもしようと寄り道をする。

 

 漫画雑誌を汗が引くまで立ち読みし、けれど何も買わないで涼んだだけという罪悪感に勝てない小市民的な発想からアイスを選んでいると、栗色の髪をショートカットにしたなのはちゃんと同じくらいの年の女の子が温めたお弁当を受け取るのが目に入った。

 

 この暑いのにお弁当か……僕だったら蕎麦とか素麺がいいな。

 

 なんて取り留めもない事を考えながら何となくそのまま目で追っていると、お弁当とは逆の手で持っていたリッターサイズのペットボトルが重いのか少しよろけている。

 

 『大丈夫かな』『家が近いといいけど』と思っていると、

 

「あっ」

 

 つまづいて転んでしまった。

 

 そして夏場のアスファルトは熱いだろうになかなか立ち上がらない。

 

 足でも捻ってしまったのかと心配になって、コンビニを出て駆け寄る。

 

「君、大丈夫? 立てる?」

 

「えっ、あ、だ、大丈夫です」

 

 この辺では珍しい関西弁のイントネーションで返事をし、立ち上がろうとした女の子は、しかしバランスを崩してよろけてしまう。

 

「おっと」

 

 それを体ごと受け止めて支える。

 

「ご、ごめんなさい」

 

「ううん、いいよ。それより足でも捻った? それとも熱中症かな? 水分補給はちゃんとしてる?」

 

「えっと、足が痺れて……」

 

 そう言って足に手をやる。

 

 顔も赤くないし、意識もしっかりしてる。

 

 熱中症ではないみたいだな。

 

 でも歩いてて足が痺れるって……。

 

「とりあえず、日陰で休もうか」

 

 疑問は一旦脇に置き、コンビニの屋根の下まで連れて行って座らせ、道端に置き去りになっている彼女のレジ袋を回収してから

 

「ちょっと待っててね」

 

 コンビニでスポーツドリンクを買って戻る。

 

「どうぞ。念のために水分補給」

 

「あ、ありがとう」

 

 表情に戸惑いは見えるけど、とりあえず一口。

 

 喉が渇いていたのか、そのままゴクゴクといい音をさせながら半分くらいまで一気に流し込み

 

「ぷはぁぁぁぁ、生き返るわ」

 

 いい笑顔で口元を拭う。

 

 うん、幼女に言うのはどうかと思うけど

 

「オヤジ臭い」

 

「お父ちゃんのマネやねん」

 

「知らないよ」

 

「つれないな、兄ちゃん」

 

「とりあえず女の子がマネするもんじゃないと思うよ」

 

「それ、お母ちゃんにも言われたわ」

 

「なら止めとこうよ」

 

「でも2人とも笑ってくれてん」

 

「あぁ、関西の人って自分とか身内を落として笑いにするよね」

 

「そうなんか?」

 

「自覚ないんだ」

 

「そんな残念な人を見るような目で見んといてぇぇぇぇ」

 

 幼女、頭を抱えて左右に振りながら絶叫。

 

 とりあえずこれだけ叫べれば元気って事でいいよね。

 

「それで足の調子はどう?」

 

 漫才のような会話を打ち切り質問すると、幼女の動きがパタッと止まり

 

「あっ、もう終わりなん? 人と話すの久しぶりやったから楽しかったのに」

 

 素に戻る。

 

 ノリがいいと言うか何と言うか……って、

 

「久しぶりってど……」

 

 つい疑問から反復してしまったけど、イジメにでも遭っているなら聞かれたくないだろうと思い途中で言葉を止めるが

 

「私、一人暮らしなんよ」

 

 予想外の言葉が返って来た。

 

 驚きが顔に出ていたのだろう。

 

 そのまま補足説明を入れてくれた。

 

「えっと、お父ちゃんとお母ちゃんが事故で死んでもうて、私一人ぼっちやねん。お父ちゃんの友達って人が世話してくれてるんやけど、その人外国に住んでて、しかも家に滅多に帰れないくらい忙しい人らしくてな。私はそばにいてあげられないし、言葉も通じない知らない場所で暮らすより家族の思い出のある家で暮らす方がいいだろうって、お金の心配はしなくていいって言ってくれてな。だからこの年で一人暮らしやねん」

 

 久しぶりに人と話せたのが嬉しいのか笑顔で一気に捲し立てる幼女だったが、その内容は重かった。

 

 でも同時に孤児院で暮らす僕にとっては馴染みのある話でもあった。

 

 そしてこの境遇と幼女の話し方から一つの心当たりが浮上する。

 

 この幼女『八神はやて』か?

 

 車椅子ではないし、名前も聞いてないけど、これだけ分かり易いキーワードだ。

 

 その確率は高いだろう。

 

 でも、それを確認する前に言わなくちゃいけない事がある。

 

「君もして欲しくないだろうし、君の境遇に変な同情はしない。僕も似たようなものだから」

 

 そう前置きしてから

 

「でももし一人暮らしが寂しいって言うなら、良かったらうちの孤児院に来なよ」

 

「えっ……」

 

 いきなりの申し出に固まる幼女。

 

 そりゃそうだ。

 

 自分でも唐突だったと思う。

 

 だけど、同じ天涯孤独な身としては放って置く事はできない。

 

 目の前の幼女が誰であれ、未来に何が待っていようと、今この時に彼女が一人ぼっちの寂しさに晒されているのは事実なのだ。

 

 できればどうにかしてあげたい。

 

「まぁ、いきなりそんな事言われても困るよね」

 

「う、うん」

 

 なんとか頷きを返してくれる。

 

「そうだな~~、よし、まずは自己紹介をしよっか。僕は加藤真、9歳。家は孤児院。海鳴市立第一小学校の三年生。よろしくね」

 

 そう言って握手を求めると

 

「や、八神はやて。6歳です」

 

 慌てて自己紹介して手を出してくれる。

 

 やっぱりかと思いつつ、その可愛らしいリアクションにクスリと笑みをこぼしてから

 

「この後暇だったら、良かったらうちに遊びに来ない?」

 

 軽い感じに誘ってみた。

 

 まだ小学校に上がる前の幼女が、即断即決で決められる事じゃないのは分かってる。

 

 家のこと、お金の援助をしてくれているお父さんの友達のこと、僕もよく知らないけど法律のことだってあるだろう。

 

 その辺の難しい事はこの際一旦横に置いてといて、とりあえず一度来てもらって人との触れ合いを取り戻してもらいたい。

 

 だからまずは友達として招待しよう。

 

 はやてちゃんはそんな僕の顔をまじまじと見つめてから

 

「なんかナンパみたいやな」

 

 と不届きな事を言った。

 

 うん、まぁ否定しづらいかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなわけでうちに遊びに来るようになったはやてちゃんは、最初のうちこそ昼過ぎに来て夕飯前に帰っていたけど、すぐにご飯を一緒に食べるようになり、誘われるままにお泊りするなど順調に打ち解けて行った。

 

 そして夏休みも終わりに差し掛かる頃、孤児院に自分の部屋を持つことになった。

 

 ただし、正式に引き取られたわけではなく生活基盤をこちらに置くだけという中途半端なもので、書類上は未だに一人暮らしとなっている。

 

 その経緯は大雑把にまとめると、孤児院に入れるのを渋るはやてちゃんの後見人という人物を園長先生があの手この手で脅は……もとい説得したらしい。

 

 日本で上手くいくかは分からないけど、育児放棄で訴えるとかなんとか……。

 

 さすが園長先生。

 

 これで晴れてはやてちゃんはうちの家族の一員になった。

 

 恥ずかしそうに『真お兄ちゃん』て呼んでくれたしっ!!

 

 僕からの呼び方も幼女相手の『はやてちゃん』から妹相手の『はやて』に変更。

 

 書類上とか関係ないね。

 

 というか、6歳で一人暮らしとか行政の方は大丈夫なんだろうかと疑問に思うんだが、わざわざそんなチェックなんてしないんだろうな。

 

 または、一応葬式やら遺産相続やらは代理人としてその人がやってくれたみたいだし、もしかしたらその人と住んでる事になっているのかもしれない。

 

 ちなみに、機を見てはやてに突っ込んで聞いてみたところ、そのお父さんの友達というのは前世の知識通り『ギル・グレアム』その人だった。

 

 という事は、まだ確認してないけど、あるんだろうな『闇の書』。

 

 はやての足の麻痺も徐々にではあるけどその兆候が出てきてるし。

 

 闇の書事件か……。

 

 一応の解決策は前世の知識にあるけど、楽観視はできない。

 

 前世の知識には僕と言う存在はいないし、ここは現実で、未来は不確定だ。

 

 同じように解決できるかは分からない。

 

 でもはやては僕たちの家族だ。

 

 みすみす死なせたり、ましてや闇の書ごと封印なんて絶対にさせない。

 

 これは決定事項だ。

 

 前世の知識を過信するのではなく参考にしながら、自分でも解決策を、または少しでもいい状態を作れるような方法を考えよう。

 




主人公の背景から、話のテーマに家族や生い立ちがあるので、こういう展開になりました。
別にフラグとかハーレムとかではありません。
ヒロインはまだ未定ですし(一応候補はいますが)ポジションとしては兄を想定していますので。
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