窓と扉に手をかける   作:もけ

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僕は魔法使いだ

 夏の終わりにはやてが僕たちの家族になってから3か月が過ぎ、クリスマスがもうすぐという季節にはやての足は動かなくなった。

 

 出会った時にはもう痺れが出ていたし、夏から秋、秋から冬へと気温が下がっていくにつれその頻度も増し、病院で検査するも原因不明。

 

 そうやって少しずつ覚悟していったせいか、完全に麻痺した時も取り乱したりはしなかった。

 

 ただそれでショックじゃなかったかと言えばそれは別問題で。

 

 だから笑顔を浮かべていてもその表情に諦めが滲むはやてを見ていられなくて、僕は話すことにした。

 

 魔法と闇の書、ヴォルケンリッターについて。

 

「はやて、ちょっといい」

 

「どうぞ、鍵はかかってないで」

 

 何かあった時のためにはやての部屋には鍵がかけられていない。

 

 だからこれは彼女なりの皮肉なのだ。

 

 深読みかもしれないが、そう思うとやり切れない気持ちが胸に広がる。

 

「お邪魔するよ」

 

「こんばんは、はやてちゃん」

 

「真お兄ちゃんに……なのはちゃん?どうしたんや、二人して」

 

 魔法の話をするなら、どうせなら一緒にとなのはちゃんも呼んだのだ。

 

「これから二人に大事な話があってね。一緒に来てもらったんだ」

 

「そうなん?」

 

「うん、私もまだ何の話かは聞いてないんだけどね」

 

「じゃあ、とりあえず移動しようか」

 

「話ならここでええんやないの?」

 

「ん、百聞は一見にしかずって言うだろ。とりあえず見てもらってからの方が話が早いから」

 

 そう言ってはやてにコートを着せ車椅子に移動させて、部屋を出る。

 

 向かうのはいつも魔法の訓練をしている建物の裏手だ。

 

「さっむいなーー。真お兄ちゃん、わざわざ外連れ出して何を見せてくれるん?新しいマジックとかか?」

 

 12月の寒空、それも夜だ。

 

 風邪をひかないように、もったいぶらずさっさと進めた方がいいだろう。

 

「マジックと言えばマジックだけど、これから見せるのは本当の魔法だよ」

 

 一瞬キョトンとする二人だが、やはりと言うか新作マジックだと勘違いしたようだ。

 

 まぁ、さっさと見せて暖かい部屋に戻ろう。

 

「ニケ、セットアップだ」

 

『YES』

 

 首元の認識票が白く発光すると、次いで僕の全身も白い光りに包まれる。

 

「「きゃっ」」

 

 可愛く悲鳴を上げた二人が目を開くと、目の前にはさっきまでと違いタキシード姿の僕。

 

「わぁ、すごーーい」

 

 素直に歓声を上げるなのはちゃんと

 

「きっとコートの下にあらかじめ着てたんやね」

 

 タネを推理するはやて。

 

 じゃあそのコートはどこに行ったとツッコミたい所だけど、今は放置。

 

 このタキシードが僕のバリアジャケット。

 

 うん、まぁ、どう見てもマジシャンにしか見えないよね。

 

 狙ってやってるから別にいいんだけどさ。

 

 さっ、次行こ、次。

 

「封時結界」

 

『YES、封時結界展開』

 

 その瞬間世界から音がなくなり、僕は浮遊魔法で10mほど飛び上がる。

 

 戦闘に使うような高速の飛行魔法は使えないけど、普通に飛ぶだけなら問題ない。

 

「続いて、ディバインシューターセット」

 

『YES、ディバインシューター』

 

 僕の魔力光の色で白く輝く掌より二回りほど大きい光球を5つ展開し、

 

「シュート」

 

 自分の周りを旋回させる。

 

 そして

 

「ブレイク」

 

 号令と同時に弾けさせる。

 

 僕の唯一と言っていい攻撃魔法『ディバインシューター』。

 

 残念な事にどんなに訓練しても威力は全く上がらず軽く叩く程度にしかならなかったけど、その分操作性は頑張って向上させ、そして最後の『ブレイク』で目くらましに使えるようにした。

 

「こんなもんでいいかな」

 

 そのまま降りて行ってもいいんだけど、せっかくだからと二人の前に転移のレアスキル『世界の扉』で転移する。

 

「「きゃっ」」

 

 再度、可愛い悲鳴を上げる二人。

 

「どうだった?二人とも」

 

 さすがにこれは手品では無理だろうと感想を訪ねると

 

「真さんって魔法使いだったんですねっ!!」

 

 両手を胸の前で握りしめ、目をキラキラさせて飛び跳ねそうな勢いのなのはちゃんに対して、

 

「真お兄ちゃん、どうやったんやっ!!凄い手品やなっ!!これならTV出て有名になれんでっ!!」

 

 同じようにテンションは高いが内容が正反対のはやて。

 

「はやて……」

 

 おまえ、なんて夢のない幼女なんだ。

 

 残念過ぎるぞ。

 

 はやてに可哀想な子を見る目を向けてから、なのはちゃんに笑顔を向けて

 

「なのはちゃん、僕の妹にならないかい?」

 

 頭を撫でる。

 

「ふえぇぇぇぇ!?」

 

「私、いらない子なんっ!?」

 

 二人ともいいリアクションするな。

 

 とりあえず見せるものは見せたので、暖かい部屋に戻ろう。

 

 そして改めて、

 

「さっきの実演で分かってくれたと思うけど、僕は魔法使いだ」

 

 よっぽど魔法がお気に召したのかキラキラ目継続中で元気よく頷くなのはちゃんと、まだ疑っているのか渋々ながら頷くはやて。

 

「この世界には魔法がある。それを踏まえた上で聞いて欲しい」

 

 こちらは真剣なのだと示すために真面目な表情をはやてに向ける。

 

 はやても僕の変化に気付いたのか表情が引き締まる。

 

「はやて、おまえの足の麻痺は魔法が原因だ。だから現代医療じゃ原因が分からなかったんだ。そして魔法使いの僕にはその解決策に心当たりがある」

 

 一気に言い切りはやての反応を待つ。

 

 なのはちゃんもはやての事で心を痛めてくれていたので、急な話の転換に驚きつつも真剣な眼差しをはやてに送っている。

 

 そしてはやては

 

「えっと、な、何を言ってるや。真お兄ちゃん」

 

 事態を飲み込めずにいた。

 

「冗談にしては性質が悪いで」

 

 確かにいきなりこんなこと言われても信じられないのは分かる。

 

 僕にある前世の記憶の僕だって、『おまえの病気は魔法のせいで、でも治る見込みがあるんだ』って急に言われても到底信じられることではなかっただろう。

 

 そんなご都合主義な展開、そうあるもんじゃない。

 

 でも、今回はそうじゃないんだ。

 

 自然とはやての両肩に手がいき、至近距離から目を合わせ言い聞かせる。

 

「冗談なんかじゃない。クリアしなくちゃいけない事の難易度は高いけど、はやての足はまた動く可能性がちゃんとあるんだ」

 

 最後まで合っていた目は一旦外され、俯いた顔が再度上げられた時には

 

「私、ホンマにまた歩けるようになるん?」

 

 頬を涙で濡らしていた。

 

「あぁ、僕一人だけの力じゃ無理だけど、はやて自身の頑張りと」

 

 出来るかと視線で問うと、まだ少し戸惑いながらもしっかりと頷く。

 

「なのはちゃんの協力と」

 

 横に立つなのはちゃんに視線を送ると

 

「私に出来る事な全力全開で協力するよっ!!」

 

「なのはちゃん……ありがとうな」

 

 元気いっぱいの返事にまた涙がこぼれるはやて。

 

「そしてこれから出会う事になるみんなの力を合わせれば必ずまた歩けるようになるから」

 

 うん、うん、と泣きながら何度も頷くはやて。

 

「だから今は不自由で、何で自分ばっかりと悲しくなったり周りに当たり散らしたくなったり、本当に治るのか不安になったりするかもしれないけど、愚痴ったり、泣いたり、時には喧嘩してもいいから」

 

 決意が伝わる様にしっかりと瞳を見つめて告げる。

 

「一緒に頑張って行こう」

 

「真お兄ちゃんっ!!」

 

 言い終わると同時にはやては車椅子を倒す勢いで僕の首にすがり付いた。

 

「私……私……」

 

 形にはならないけど、いっぱい言葉にしたい事があるんだろう。

 

 まだ小学校に上がる前の子供が、温かかった両親をなくし、家事なんてお手伝いくらいしかした事ないというのに一人暮らしを余儀なくされ、なんとか孤独から解放されたと思ったら今度は足が動かなくなるなんて、自分は神様に嫌われているんじゃないかと絶望してもおかしくはない。

 

 前向きで頑張り屋さんなはやて。

 

 周りを気遣って弱音を見せないはやて。

 

 でも、辛くないわけじゃない。

 

 悲しくないわけじゃない。

 

 だから素直に泣けるこんな時くらいは、目一杯泣けばいいさ。

 

 まだ話せていない闇の書とヴォルケンリッターについては、それはまた落ち着いてからという事で。

 

 僕も今は腕の中で泣いている妹を愛でるのに忙しいからね。

 

 




原作設定を確認がてら記述しておきます。

・はやては闇の書にリンカーコアを浸食され魔力不足に陥っているため魔法は使えない。麻痺の原因でもある。

・ユーノを見れば分かる通り、デバイスはなくても魔法は使える。ただし術式を自分で組まなければいけないため大変ではある。

・なのはの魔力の初期値はAAAランク。

・なのはのレアスキルは魔力収束。

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