てっきり黒なのかと思ってたからちょっと驚きでした。
元々の名前も夜天の書で夜空だから黒でいいと思うんだけど……。
まぁ何色でも困りませんけどね。
派手な色の時はお手製のブックカバーでも作ってかけとけばいいですし。
あの後泣き疲れたはやてがそのまま寝てしまったため、なのはちゃんには悪いけど詳しい話は翌日に持ち越しとなった。
泣くと言う行為は意外とエネルギーを使うものだし、ため込んでた分余計に疲れたんだろう。
出会ったから約半年、はやては徐々に進行していく足の麻痺にも涙見せなかったからね。
まぁ悲しくて泣くんじゃなくて、嬉しくて泣く辺りが実にはやてらしい。
辛いのは我慢すればやり過ごせるけど、嬉しいのを抑えるってのは普通やらないから抵抗値低いんだろうね。
これを機にもう少し頑張り過ぎない様になってくれたらいいんだけど、それはそれで美点だから難しいところかな。
何かはやてが遠慮しないで、しかも気軽に息抜きできる手段でも考えよう。
それはさておき、まずはきちんと中断しちゃった続きの話をしておかないとね。
という事で翌土曜日。
いつもなら公園に行ってジャグリングや手品のパフォーマンスをしに行く所だけど、今日はお休みして八神家で問題の闇の書を確認しつつ昨日の続きを話すことにした。
「お邪魔します、はやてちゃん」
「いらっしゃい、なのはちゃん。ゆっくりしてってな」
「はやてちゃんのお家ってマイホームって感じで可愛いお家だね」
「それは暗に小ちゃいって言われてる気するな」
「ち、違うよっ!?」
「なのはちゃんの家は道場とかあって凄いもんな。あれと比べたらウチなんて」
「そ、そんなこと」
「いやいや、皆まで言わんと分かってるで。なのはちゃんの基準は道場のあるなしやって」
「誤解なのーーっ!!」
まだ玄関先だと言うのにさっそくなのはちゃんイジリに精を出すはやて。
昨日泣いた事の照れ隠しの様な気もするけど、とりあえず楽しそうだったので放置して先に中に入る。
はやてが孤児院で生活している事で実質空き家状態の八神邸だけど、はやてが孤児院のメンバーを連れて定期的に空気の入れ替えや掃除をしているので部屋は汚れていない。
今日もなのはちゃんを迎えに行く前に、僕と先に来て換気とお茶の準備なんかしている。
はやて、6歳にして既にしっかり者だな。
今度お墓詣りに行った時にご両親にちゃんと報告してあげよう。
お墓は、お盆の時の掃除と、はやてがうちの家族になる際に園長先生と子供たちを代表して僕が一度挨拶に行っている。
さておき、
先に中に入った僕は、リビングとキッチンの状態を確認してから、はやての部屋に向かう。
はやての部屋は二階にあるため、車椅子のはやてでは闇の書を取りに行けないのでその代わりだ。
勝手に入ってしまうのはこの際目をつぶってもらおう。
ドアを開け、部屋に入る。
小物なんかを孤児院の部屋に持って行ってしまっているために生活感がない。
気にせず、本棚の前にかがむ。
空いたスペースが目立つ本棚の下の段にそれはあった。
茶色の装丁に金色の模様、中心にクロスが描かれ、それに重なる様に十字に鎖で封印されている。
「これが闇の書か……」
見た目も前世の記憶と一致する。
はやての足も現代医療では原因の分からない麻痺を起している。
レアスキルの探査魔法『世界の窓』もこれが僕の前世の知識を基準にして探した場合の闇の書だと言っている。
だけど、それがイコールで前世の知識通りの未来を約束してくれるわけじゃない。
ここが肝心だ。
現段階での楽観視は危険。
僕がいるいないの話ではなく、単純に判断するには情報不足。
せめて、ミッドチルダで図書館に行くなりデータベースにアクセスするなりして過去の事件が本当に起こっているか。
起こっているなら、それは前世の知識通りなのかの確認。
その上で、実際にヴォルケンリッターが出てきて、やっと一安心という所だろう。
それでも未来が確定するわけじゃないから油断はできないけど……。
そんな事を考えていると階下から僕を呼ぶ声が聞こえた。
どうやら玄関での漫才は終わったみたいだな。
闇の書を手にリビングに戻る。
「上で何しとったん?」
「ん? これ取ってきた」
質問するはやてに闇の書を掲げて見せる。
「それって私の本棚にあった……って、真お兄ちゃん。私に断りもなく乙女の部屋に入ったんかっ!?」
「え、うん、まぁ」
「真さん、それは駄目なの」
はやてならまだしも、なのはちゃんから駄目出しが……。
「なのはちゃん、私、私、汚されてしもうた。もうお嫁に行けへん」
「にゃっ!? は、はやてちゃん」
横に立つなのはちゃんに泣き真似をしながらすがり付くはやてに、びっくりしながらも抱きしめてあげるなのはちゃん。
「もうこれは真お兄ちゃんに責任取ってもらわな」
「責任って……」
お嫁にでももらえって?
「翠屋のケーキ。一人三つ」
「えらく具体的だなっ!!」
「なのはちゃん、今月のおススメはなんやったっけ?」
「え? えっと、今月のおススメは甘酸っぱいフランボワーズと甘みを抑えた大人のチョコレートのケーキになります」
空気を読んだのか、営業スマイルになるなのはちゃん。
パフォーマンスで助手をするようになってからこの手の質問はよくされるから慣れたもんだ。
「まぁ、冗談はさておき」
「それは私の台詞やっ!!」
はやて、ツッコミも淀みないな。
せっかく切り替えようと思ったのに。
「じゃあ、将来もらい手がいなかったら結婚してあげるから」
「それもうフラグやんっ!! てか、なに? 私恋人できひんのっ?」
イヤイヤと頭を抱えて暴れるはやてに
「は、はやてちゃんっ」
なにやらやる気溢れる感じで話しかけたなのはちゃんだけど
「なのはちゃん?」
「ウェディングケーキと二次会の会場は任せて。私頑張るからっ!!」
「裏切られたっ!?」
天然な追い打ちが炸裂。
あの子、たまにズレてるんだよね。
まぁそんなアホな会話をしばらく続け、一段落ついた所でリビングに腰を落ち着ける。
テーブルの上には問題の闇の書。
「それじゃあ昨日の話の続きを始めよう」
さっきとは違い二人とも真面目な表情になっている。
「改めて、はやて、君の足の麻痺は魔法が原因だ。具体的にはこの本のせいで」
闇の書をはやての前に押し出す。
「この本のせいで私の足は……」
はやての目に攻撃的な色が差すが慌てて止める。
「はやて、ストップ。原因は確かにこの本だけど、この本もしたくてしてるわけじゃない。むしろ無理矢理やらされている被害者でもあるんだ」
「どういうこと?」
「いい? これはまだ憶測の話で、これが真実ってわけじゃないんだけど」
違う可能性を捨てきれないための前置き。
「この本は『夜天の書』。朝昼夜の夜に天空の天で、夜空って意味ね。最初は魔法を研究、保存するために作られた魔導書で、分かり易く言うと自分で作る魔法の図鑑みたいなものだったらしい。でも持ち主が変わるうちに少しずつ改造されていって、そのせいで壊れてしまった。今では持ち主に無理矢理魔力を集めさせて、集まったら暴走。持ち主ごと周りを壊しまくって、本自体は再生して次の持ち主の所に飛んでいくっていう性質の悪いものになっちゃってるんだ」
二人にも分かり易いように、なるべく難しい言葉を使わないで説明する。
「この本の中には管制人格って言う……なんて言えばいいかな?図書館の受付みたいな……合ってるかな?とりあえず使い方を教えてくれる人がいて、でもシステムが壊れちゃってるからその人にもどうしようもなくて、でも本は勝手に動いて止まってくれない。そうだな。例えばはやてが料理を作ろうと思って包丁を持ったら、勝手に包丁が動いて孤児院のみんなを傷つけ出して、でも包丁を持ってるはやてには止められなくて……。そんな事になったらはやてはどう感じる?」
はやては視線を落とし、僕の例え話を真剣に考えてから答える。
「怖いし、悲しいし、きっと耐えられないと思う」
「そうだね。僕も耐えられないと思う。でもこの本の中にいる人はそんな気持ちを何回も何回も味わってるんだ。だからはやてのためだけじゃなく、この人のためにも今回でこんな悲しい事は終わりにさせたいと僕は思ってる」
暗い表情のはやても涙目のなのはちゃんも頷いてくれる。
「でもね、悪い話だけじゃないだ。もし問題が上手く解決できたら、はやてには新しい家族が増える事になる」
「家族が増える?」
まぁ、これだけじゃ分からないよね。
「この本には守護騎士システムっていうのがあって、守護騎士っていうのは本の持ち主を敵から守ってくれる人の事ね。それが多分はやてが9歳の誕生日くらいに4人、本から出てくるんだ。彼らははやてのためだけの存在で、はやての気持ち次第で、はやての大切な家族になってくれるはずだ」
ここで家族になるのが5人と言えない事に後ろめたさを感じる。
「それは素敵やな」
暗かった表情が少しだけ明るくなる。
「それで、彼らにもはやての麻痺を治す手伝いをしてもらう予定。というか、むしろメインかな。本から出てきた時は、はやての世話をするために外国から来たグレアムさんの親戚とでも言っておけばいいよ。孤児院で暮らすかこの家に戻るかは園長先生次第かな。大人の女性2人にちびっこ1人、それに大型犬1頭だと思うから手伝ってくれるなら孤児院的にはウェルカムな感じだと思うけど」
そんなこと言いつつ、ファーストコンタクト、召喚された時に上手く説得できるか激しく心配なんだけどね。
はやての家族だって言えばいきなり斬られる事はないだろうけど、証明できるように写真とか用意しといた方がいいかもしれない。
闇の書の間違った知識も訂正しなくちゃいけないし、情報集めしなくちゃな。
そのためには時空管理局のある第一管理世界ミッドチルダに行かないといけない。
前世の知識通りのタイムテーブルなら問題ないんだけど、そうじゃなかった場合は……。
あれこれ考えながら冷めてしまった紅茶を飲み干し、気分を変えようと全員分の紅茶を入れ直して一息入れる。
はやてとなのはちゃんはお茶菓子を摘まみながらヴォルケンリッターがどんな子たちなのか想像しながら楽しそうに話している。
それを眺めながら、この妹と妹分の笑顔のためならちょっとくらいの無茶なら十分割に合うだろうと浸ってみたりして。
僕って兄バカかな?
まぁそれにはやてにとって家族って事は、ヴォルケンリッターは僕にとっても家族って事になるから余計に頑張らないとな。
2話使って、まだなのはちゃんに魔法の話ができてないっ!!
次こそはその話と、それだけじゃ足りないから練習風景とかかな。
ところでまだ小学校入学前なんですよね。
展開遅くて申し訳ないです。