新訳のび太のバイオハザード ~over time in Gensokyo~ 作:たい焼き
博麗神社で霊夢達がのび太について話している頃
のび太は鈴仙と人里に食料の買い出しに来ていた。あの後、殆どの作業を二人で行うようになった。最も、そうするように指示したのは永琳なのだが、彼女にも何か考えがあるのだろう。
里の人は、外の世界から来たのび太を受け入れてくれた。中にはのび太の事をよそ者扱いし、敬遠していた里の人達も、のび太や鈴仙達と話しているうちに、のび太を受け入れてくれた。
永琳の狙いはこれだけではない気がするが、とにかくのび太が人里の人達と仲良くなったのには変わりない。
「さあさあ、新鮮な野菜だよ~。里で一番安いよ~!!」
八百屋の店主の大きな声が広場に響く。すると、のび太達に気がついたのか、声をかけてきた。
「おっ、薬屋の嬢ちゃん達。野菜買っていかんか?安くしておくぞ。」
「じゃあ、人参下さい。」
あいよ、と店主は気前の良く注文した量よりも多くの人参を袋に詰めてくれた。
「こんなに注文していませんよ?」
鈴仙が中身を確認する。袋の中には注文した分の倍近い数の人参が入っていた。それに加え、ジャガイモや玉ねぎ等頼んでいない物も入っていた。
「いいんだ。あんたらの薬のおかげでこっちは何事もなく暮らせてるんだ。これはそれの恩返しってことで受け取ってくれ。」
「そう言うことなら、有り難く頂きます。」
「おう、先生によろしくな。」
その後も他の店に行くたびに、店の人達がサービスしてくれた。里の人達は心から永遠亭の人達に感謝しているのがわかる。
そのため、予定よりも荷物が重くなってしまった。持ち上げると前が見えないくらいの量だった。
「大丈夫ですか?半分持ちましょうか?」
「いいですよ。これくらいなら大丈夫です。」
だからといって、のび太が持っている荷物の重量は30kgを超えていた。とても十歳の子どもが持てる重さではないのだが、のび太は20世紀でバイオハザードの被害を受けたときに、T-ウイルスが体の中に入った。
その後、脱出してから急激に身体能力が向上したのだ。おそらく、体の中のT-ウイルスがのび太に上手く適合して、のび太の体に働きかけ、筋肉を増やして身体能力を向上させたのだろう。
「そうですか・・・それならいいんですが・・・」
のび太は永遠亭の住民達と一定の距離をとっていた。自分はやがてこの必ず幻想郷を去る時が来る。そのため、彼女達との別れがつらくならないように一定の距離を置いているのだ。また、これは彼女達、特に鈴仙のためでもある。自分と関わってきた者は必ず不幸になる。
のび太は何も言わずに歩くスピードを早める。
「ちょっと、待ってくださいよ~」
鈴仙が慌てて後をついていく形になった。
買い出しから戻っててきた時は既に日も沈んで来ていて、暗くなり始めていた。
のび太達は永琳に買い出しから帰ってきたことを報告しに行っていた。
「ご苦労様。うどんげはちょっと残ってね。」
「それでは、失礼します。」
のび太は永琳の部屋から出て行った。そのとき、永琳が微かににやけたように見えたが、のび太は気に留めなかった。
部屋には永琳と鈴仙が残った。
「うどんげ、単刀直入に聞くわ・・・」
部屋の中に緊張が走る。
「ワイリーのことをどう思ってる?」
部屋の中の緊張が一気に解ける。
「・・・え?」
鈴仙が疑問の意を浮かべる。どういうことかと鈴仙は永琳に問う。
「そのままの意味よ。彼のことが気になっているのでしょう?」
永琳の意図が理解したらしく、
「えぇ!?何を言っているのですか?」
焦りながら怒鳴っていた。
鈴仙は愉快そうな表情で、鈴仙の肩を叩く。
「いや、まさかとは思っていたけど、うどんげにもやっと気に入った相手ができたのね。隅に置けないわね。」
「話を勝手に進めないで下さいよ!!」
普段は落ち着いている鈴仙が、こうも取り乱している。
「冗談はここまでにして・・・本当はどう思っているの?」
永琳が真剣な顔に戻る。
「え・・・そうですね・・・。普段は誰にでも優しいのですが、戦闘のときのあの冷静で寡黙なところの両方を持っているところが好きで・・・って何言わせるんですか!!」
鈴仙の顔がいつの間にか赤くなっていた。
「いいじゃない。むしろ私は応援するわよ。」
「え・・・?」
自分が始めて抱いた恋心が否定されるのではないかと内心恐れていたが、返って来た答えはその逆だった。
「でもまだダメね。」
「え?どうしてですか?」
「貴方、彼のことを殆ど知らないでしょう?」
あの観察眼だ。彼は自分の事をよく知っているかもしれないが、逆に鈴仙は彼の重要なことを殆ど知らなかった。
「そう言われてみたらそうです・・・でもどうやってそれを知るんですか?師匠が自白剤でも作るんですか?」
「それもいいけど、それが知りたかったら貴方が直接彼に聞きなさい。協力はするわ。」
「ふぅ・・・ようやく落ち着けるな。」
湯が自分の体によって波立つ。あれから時間が経ち、日が完全に沈んで夜になった所でのび太は、永琳に加え輝夜やてゐの計らいにより、永遠亭にある風呂に一番に入らせてもらっていた。
「今日も一日何事もなく終わったか。」
のび太は今日一日の行動を思い出していく。背負った疲労は、湯に体を浸すと同時に流れていくような感覚になった。
(ここの皆には悪いけど、これが最善の道だと思うんだ。)
・・・・・・・僕は帰れるのだろうか。
あの日あの場所であんなことやこんなことがいっぱいできた頃が懐かしい。
やがて、頭の中で次々と仲間の顔が浮かんできた。
ジャイアン、スネ夫、しずかちゃんに出木杉くん。そして、僕に夢と希望をくれた青いロボットであり、一番の親友だったドラえもん。
自分一人で行ってくるとは言ったが、自分だけが見知らぬ土地に飛ばされてしまうことがここまで恐ろしい物とは考えた事もなかった。
「何を考えているんだ僕は。弱気になってどうする。」
暗くなった心を振り払うように顔に湯を掛ける。しかし、湯は流れても、己の心に渦巻く不安や恐怖は流れなかった。
(頭でも洗おうかな。)
のび太は体を起こし、風呂の縁に置いてある洗面器を取りに行こうとする。
すると、背後から扉が開く音がした。
迫り来る悪寒を感じ、のび太は跳び込む形で大きな水音を発しながら浴槽に入る。
恐る恐る後ろを振り返ってみると、タオルを巻いた鈴仙の姿があった。
「れ、鈴仙さん!?え!?なんで!」
普段は冷静なのび太がここまで取り乱すことは珍しい。
のび太は焦りと疑問に押しつぶされそうになりながら、鈴仙から目を背ける。鈴仙は今、タオル一枚しか巻いていなかったからだ。
・・・・・・まさか!?
先程別れたときの永琳の顔を思い出す。
(そうか、あの時の先生の顔はこういうことか!?ってことはてゐも姫様もグルか!!)
「すみません鈴仙さん。すぐに出ますから。」
のび太はすぐに風呂から出ようとする。
「待ってください!!」
そう言って鈴仙は浴槽に向かって歩いて行く。顔を赤らめているが、鈴仙は歩みを止めない。
「折角ですし、一緒に入りませんか・・・?もっとワイリーさんのことを知りたいですし。」
言葉だけなら平静を装っているように思えるだろう。
だが、鈴仙は明らかに過度に緊張しながらのび太に告げていた。
・・・・・・どうしてこうなったんだろう。
のび太は軽くため息をついて、考えた挙句。
「わかりました。」
と、短く返事をした。
「その代わり、さっきからそこで覗いている人達が全員帰ったらの話ですけどね。」
のび太は脱衣所の方を見てそう言った。覗いていた者達も空気を読んだのか、気配が消えた。
「は・・・はい、それでは。」
のび太の背後にまわる形で鈴仙が風呂に入る。
二人は背中合わせで湯に浸かっていた。
「温かいですね・・・」
「そうですね・・・」
二人は静かに会話する。のび太も鈴仙も顔に上気させていた。
「ワイリーさんがいた時代ってやっぱり未来って言うだけあって、豊かな生活を送れるのですか?」
鈴仙が本題に入る。のび太がいた未来についての事だ。
「そうですね・・・確かに豊かと言えば間違いはありませんね。」
のび太は鈴仙の方を横目で見ながら答える。それを聞いて鈴仙がのび太の前に回り込みながら聞く。
「本当ですか!?もっと教えてください!!」
何故かわからないが、鈴仙がいつも以上に積極的である。
「ですが、それと引き換えに人はつまらない生き物になってしまったんですよ。」
のび太は遠い目で天井を見る。
「例えばどんなふうになってのですか?」
「毎日を決まったように生きて、その次の日も全く同じように生きる。夢も希望もない世界です。」
のび太は顔を鈴仙の前に戻す。
「ですが、幻想郷は違う。僕が目指した世界のように夢や希望に満ちている。」
のび太は気合が入ったのか、拳を顔の前で握る。
「幻想郷は本当にいいところです。僕もいつか、こんな世界を作りたい。」
のび太は風呂から上がり、脱衣所の方へ向かう。鈴仙は風呂から出ようとするのび太に最後の自分の気持ちを伝える。
「私達のことも頼ってください!!この永遠亭のみんなは家族ですよ!!」
のび太は鈴仙のその言葉が聞こえたのか、扉の前で立ち止まる。
「・・・ありがとうございます。」
鈴仙はのび太が風呂から出る前にそう聞こえた気がした。
思い切って本気で書いてみました。お前らこういうの好きだろ?
これで一章的なものは一応終わりです。次回からは戦闘シーンが増える予定です。
それでは、また次回お会いしましょう。