新訳のび太のバイオハザード ~over time in Gensokyo~   作:たい焼き

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完全勝利に拘らせてよ。0か1かの賭けじゃない。

YOU&Iを永遠にしてよ 煌めくeyesで


最凶の人工災害

 研究施設に幾つかある資料室の内の一つから何かを探るような音が聞こえる。

 

 棚にある今までアンブレラが研究してきた実験や検体の資料を片っ端から取り出しては机の上に置いていった。

 

 のび太はその中から医療に転用出来る情報が書かれた物だけを選び、紫が用意したスキマの中に入れていった。

 

 元々軍事目的でT-ウイルスを使って実験を繰り返していたアンブレラだ。膨大な資料があっても、平和利用出来るものはごくわずかしかなかった。

 

 「あんまりありませんね・・・」

 

 対象の資料を探している鈴仙が無意識に呟いた。別に全部持って帰れば楽なのだが、幻想郷に外の世界の負の遺産とも言えるT-ウイルスの資料を必要以上に持ち込みたくなかった。もしもこの資料を拾った者が一からT-ウイルスやB.O.Wを作ったらと思うとこれ以上に恐ろしいものはないだろう。それだけの可能性がこの幻想郷にはあると考えていた。

 

 「まあ先生なら一からでもT-ウイルスを使った治療法を見つけると思いますよ。」

 

 ひと通りの資料に目を通したのび太は使えない資料を全部ゴミ箱に捨てる。

 

 「それじゃあ、そろそろ終わらせようか。この戦いを。」

 

 のび太は立ち上がって核爆弾を止めるためのコンピューターがあるこの研究所の最重要区域へと足を向けた。

 

 鈴仙もそれに付いていこうとするが、部屋の奥から自分を見ている視線に気が付く。

 

 「っ!?」

 

 鈴仙は即座に銃を抜き、振り返って視線の方に銃を向けるがそこには何もいなかった。

 

 「ワイリーさん。今そこに・・・」

 

 「はい。気がついていますよ。」

 

 学校に入ってから、自分達を監視している者がいるということに、のび太は気がついていた。

 

 「監視されている・・・?」

 

 何者がこちらの様子を監視しているのかはわからなかったが、少なくともこの部屋に監視カメラはないのでにとり達の仕業ではない。

 

 だがゾンビのような知能のない者が監視といったある程度知能が必要な行動を行うとは考えにくい。

 

 (今はそんなことを気にしている場合じゃないな。一刻も早くここから脱出した方がいいな。)

 

 のび太達は研究所の最深部、かつてアンブレラが開発した生物兵器としては最強の存在だった『タイラント』が眠っていた場所へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エレベーターでさらに地下深くまで来たのび太達は、重々しい扉の前に立っていた。この扉の向こうがこの施設で一番権限があるコンピューターがある部屋である。

 

 「さて、これが最後の戦いになるのかな。」

 

 「なるといいですよね。」

 

 今このの瞬間が自分の最後の戦いであって欲しいとのび太は心の中で思う。それは鈴仙も同じだった。

 

 鈴仙は脱出した後何がしたいか考えていた。

 

 この後で行われるであろう異変解決を祝う宴会の事や、また5人で一緒にご飯を食べたり、のび太ともっと色々な事を学びたいという思いもあった。

 

 だがそんな楽しい事もこの場では生き残るためには邪魔な物となってしまう。

 

 鈴仙はのび太が部屋の中に入っていくのが目に入ったので、後に続いた。

 

 中には生物を培養するための溶液が入ったカプセルが幾つも置いてあった。おそらく上のエリアでは完成した生物兵器の実験や飼育を行い、ここで生物兵器の開発を主に行っていたのだろう。

 

 部屋の中でも特に大きい培養カプセルの中は空っぽだったが、中に入っていた物体の大きさは容易に想像できた。

 

 「よし、これで・・・」

 

 のび太は素早くパソコンを操作して核爆弾を起爆するために必要な指令を全てキャンセルするように設定した。

 

 「これでもう核が起爆する心配もない。生存者も救出したし、これで滅却処理ができる。」

 

 のび太が考えた作戦。それは偶然発見した四次元ポケットの中のひみつ道具によって成り立った。この街そのものを地底の灼熱地獄跡に投入して完全に焼却するという物だ。もちろん街一つが入る程灼熱地獄が大きいわけでもなく、また街を運ぶこともできない。

 

 だがドラえもんの22世紀に存在したひみつ道具、『スモールライト』を使えばそんな不可能とも言える作戦を可能にできる。

 

 スモールライトで街ごと小さくして、後はそれを研究施設も残さず掘り起こし、灼熱地獄の中に放り込めば終わる簡単な作戦だ。

 

 「さあ、帰ろうか。」

 

 「そうですね。」

 

 これでとてつもなく長い間続いた戦いが終わると思うと心からホッとする。しかし、そんなのび太の思いは惜しくも虚空に消えた。

 

 (ソウハ・・・サセンゾ。)

 

 『緊急事態発生。ドアをロックします。』

 

 突如入ってきた部屋の入り口が閉まり、ロックされた。

 

 「!?一体何が・・・」

 

 部屋から出ようとしていた鈴仙は突然閉まったドアに行く手を阻まれる。手動で開こうとするが、ロックされているドアはびくともしない。

 

 「くそ・・・このコンピューターから解除出来るはずなのに・・・」

 

 のび太がコンピューターを通して発したロック解除命令を扉は無視した。それよりももっと優先度が高い命令がこのドアにかかっているのだろう。

 

 「それって・・・閉じ込められたってことですよね。」

 

 「はい。ですがここのコンピューターからの命令を受け付けていないだけみたいですし、にとりさんに頼んで開けてもらいましょう。」

 

 そう言ってのび太は陰陽玉を取り出すが、何者かの攻撃によってそれを手からはたき落とされてしまった。

 

 「しまった!!」

 

 陰陽玉はすぐ近くにあった機械の下に落ちた。手を伸ばせば届きそうだが、目の前の敵はそうさせてはくれないだろう。

 

 「コウモリ・・・?」

 

 目の前には大量のコウモリらしき生物が飛んでいた。それらは統制のとれた動きでのび太達に一斉に針を飛ばして攻撃してきた。それを見たのび太達はそばにあった機械に隠れて盾にする。

 

 「こいつら・・・あの時の奴か!?」

 

 のび太はこいつら見覚えがあった。かつてこの街からの脱出を図ったのび太の前に二度立ちふさがったB.O.Wが使っていたコウモリにそっくりなのだ。だがあの時よりも数も多いし、一体一体の攻撃力と素早さが桁違いに上がっていた。前戦った時は壁には刺さらなかったが、今対峙している奴らは壁や機械に突き刺さる程の威力を持った針を連射してきていて、反撃する隙もなかった。

 

 「このままじゃ押し切られるわ。どうしますか!?」

 

 「これを使います。目と耳を塞いでください!!」

 

 のび太は拾った閃光手榴弾のピンを抜いて、タイミングを計ってコウモリの群れの中心に投げる。コウモリの群れの中心に到達した手榴弾は、大きな音と閃光を同時に発した。それによってコウモリは気絶し、次々と床に落ちた。

 

 「倒した・・・のよね?」

 

 辺りを見る限り、気絶して動けなくなったコウモリ達しかいなかった。のび太は念入りに全てのコウモリに止めを刺した。

 

 「いえ、こいつらは敵の一部。本体は・・・」

 

 のび太が言い終わる前に何処からか現れたコウモリ達が一箇所に集まって行く。数秒もしない内に本体が姿を現した。

 

 ドラゴンにも犬にも似たそいつはのび太達の目の前に立つと、自分の存在を示すかのように大きな雄叫びを上げた。

 

 『グォォォォォォ!!』

 

 あまりにも巨大なその雄叫びは大して広くない部屋で反響することで更に大きく聞こえる。

 

 のび太達も思わず耳を塞がずには居られなくなり、耳を塞ぐ。

 

 雄叫びが収まった時にはそいつは既に死んだ己の一部だった物も取り込んでいた。

 

 「やっぱりお前か。」

 

 のび太は過去に二度こいつと戦い、傷付きながらもこいつを撃退して来た。

 

 「ワイリーさん。こいつを知っているんですか?」

 

 「はい。こいつは・・・おそらくB.O.Wの中で一番強い。」

 

 ポスタル

 

 1986年8月20日に発生した米国のオクラホマ州・エドモンドの郵便局内での職員による銃乱射事件の名前を与えられたそいつは、コウモリ状の分離体に体を分解し、四方八方から襲いかかって体液を凝固させた刺激毒の針を獲物に向かって撃ち、相手が弱ったところでドラゴンのような姿に結合し捕食するという残忍かつ狡猾な狩りを行う。

 

 その性質上、制御不能になると収拾のつかない広範囲のウイルス汚染を引き起こすと危険視され封印されていたのだが、研究所で起きた事故の際にその封印が解け、獲物を求めていたところにのび太と鉢合わせして戦った。

 

 「だけどあの時の戦いで僕はこいつに致命傷を与えたはずだ。どうして生きているんだ?」

 

 「ソノ問イニ・・・答エテヤル」

 

 のび太達は驚きを隠せなかった。B.O.Wであるポスタルが言葉を使ったからだ。今まで人の言葉を発するB.O.Wについては聞いたことがあるものの、人の言葉を使って会話が出来る程知能を持ったB.O.Wのことは聞いたことがなかった。

 

 「貴様ニ殺サレカケタ後、我ニハ殆ドチカラガ残ッテイナカッタ。」

 

 ポスタルが今までの事を語り始めた。

 

 「辛ウジテオ前カラニゲタ先ニアッタノハ大量ノ死骸ダッタ。」

 

 ポスタルが言っているのは恐らくジャイアンが敵に閉じ込められた時にジャイアンが仕留めた大量のB.O.Wの死骸の事だろう。ジャイアン一人で何百もの敵を倒したときは味方ののび太も恐ろしく感じた。

 

 「ソノ死骸ヲ食ベテ我ハ蘇ッタ。オマケニ更ナルチカラヲ得タ。」

 

 実際ポスタルの体が一回り大きくなっていたり、先程のコウモリの戦闘力が上がっていることも納得がいく。

 

 「だがお前が人の言葉を使える程の知能を得たことの説明にはなってないぞ。」

 

 「死ノ底カラ這イ上ガッテ来タ時、身体ノ中ノT-ウイルスガ我を進化サセタノダロウ。オカゲデ我ハ我ヲ作ッタ者達ヲ超エル事ガ出来タ。」

 

 「最後に聞く。お前の目的は何だ?」

 

 のび太は弾が残り少ないハンドガンを抜いてポスタルに向ける。

 

 「目的カ?貴様等人間ノ上に立ツ事ダ!!我ハ貴様等ニ代ワッテ世界ヲ支配スル!!」

 

 「そうまでして、お前は自分の顔を見せたいのか!!」

 

 「何トデモ言エ。貴様等人間ニ復讐スルノモ我ノ目的ノヒトツダ。」

 

 ポスタルも自らの身体の一部を分離させ作ったコウモリを展開する。

 

 「私も加勢しますよ。」

 

 鈴仙も同じくハンドガンを構えるが、それをポスタルは許さなかった。コウモリを鈴仙の周りに幾つか配置した。動いたら撃つとでも言いたそうだ。

 

 「我ハ貴様トノ一騎打チヲ所望スル。」

 

 「そうまでして僕との決着をつけたいってことか。」

 

 実際まだのび太の周りにはコウモリが配置されていない。

 

 「我ハ唯一我ニ勝ッタ貴様ニ勝タナクテハ、頂点ニ立ツ事ガ出来ンカラダ。」

 

 のび太とポスタルが同時に床を蹴って決闘を始める。ポスタルは高速で移動しのび太に噛み付こうとするがのび太は回避する。反撃しようとのび太が懐に潜り込もうとするが、ポスタルはそれを許さない。コウモリによる遠隔攻撃によって近づくことも出来ない。

 

 遠距離から安全に攻撃出来ればいいのだが、それはあいつのスピードによって回避されるため、無駄弾を増やすだけだった。

 

 ポスタルに接近するにはまずコウモリを撃ち落とす必要があった。

 

 「く・・・思いの外あいつの弾幕が濃い。これだけの力を得るためにどれだけの生物があいつの犠牲になったんだ。」

 

 「教エテ欲シイカ?アノ場所ニ居タ死骸ダケデハ満足出来ナカッタ我ハ、ココニ放タレタ奴等モ全テ食ラッタノダ。我ノイイ糧ニナッタ。」

 

 「敵がいなくておかしいと思っていたが・・・お前達は仲間だったんじゃないのか!?」

 

 「仲間ダト?奴等ハ我ガ更ニ強クナルタメノ糧デシカナイ。奴等ハ中々イイ養分ニナッタ。」

 

 さっきからポスタルの話を聞いていたのび太だったが、例えB.O.Wと言えども簡単に命を奪える者の話を聞いて何も感じないわけはなかった。

 

 「そうやってお前は、全ての他人を見下すのか?ポスタル!!」

 

 「始メニ我ヲ実験動物ダトイッテ見下シテイタノハ貴様等人間ダ!!」

 

 のび太とポスタルの戦いは消耗戦になっていた。コウモリによる遠距離攻撃をひたすら躱しながらそのコウモリを落としてがら空きになって撃った所をポスタルが回避してまたコウモリを展開するの繰り返しだった。

 

 消耗戦になればのび太のスタミナが無くなるのが早いというのは火を見るよりも明らかだった。

 

 「これで!!」

 

 のび太は現在展開している最後のコウモリを撃ち落とした瞬間、膝を床につけて肩で息をする。

 

 体力が残り少なくなり、動きが鈍くなったのび太を見たポスタルは一気に勝負をつけるために自ら接近してのび太の首を狙う。

 

 「かかった!!」

 

 ポスタルの突進をサマーソルトで回避したのび太は、そのままデザートイーグルを構え、隙だらけとなったポスタルの背中に撃ち込んだ。流石にこれには堪えたらしく、大きなダメージを受けたことでバランスを崩し、そのまま壁に激突した。

 

 「どうやら僕の勝ちみたいだな・・・」

 

 のび太は体力を使い果たし、立っているのも限界の状態だった。

 

 「イヤ、コノ勝負は我ノ勝チダ!!」

 

 ポスタルがそういった瞬間、のび太の身体に激痛が走った。全て落としたはずのコウモリがのび太に向けて一斉に神経毒の付いた針を撃ち、それがのび太の体の至る所に刺さったからだ。

 

 (そうか・・・鈴仙さんの動きを止めていたコウモリを使ったのか・・・)

 

 体中を走る激痛に耐えかね、のび太は倒れ伏した。

 

 「ワイリーさん!!」

 

 のび太が倒れたのを見て、自分の周りにいたコウモリがいないことで今起きたことを全て理解した鈴仙がすぐに駆け寄った。

 

 傷口から流れる血と体を縛る神経毒のせいでのび太はもう指先を動かすことも口を動かすこともできなかった。

 

 鈴仙は急いで傷口を塞いだが、毒を抜くことは出来なかった。

 

 「無駄ダ。ソイツハモウ助カラン。我ガコノ場デ殺スカラダ。」

 

 こうなるなら、始めからのび太に加勢していれば良かった。二人で戦えば勝てない相手はいない。そうわかっていたはずなのにそうしなかった自分が恨んでも恨んでも恨みきれなかった。

 

 そういった負の感情が、鈴仙の中を満たした時、意識全身に電流が走るような感覚と共に全身に膨大な何かが流れたのだ。その瞬間、鈴仙本来の意識が消え失せて何か別の人格が現れた気がした。

 

 「抵抗シナイノカ?ナラバ二人共同ジ場所デ殺シテヤロウ。」

 

 ポスタルはいつの間にか展開していたコウモリ達を使い、のび太達に止めを刺すために針を放った。しかしその針はのび太達に届く前に鈴仙の撃った弾丸によって全て落とされた。

 

 「ナラ直接消シテヤロウ。」

 

 ポスタルはそのスピードを活かして鈴仙を喰らおうと接近するが、予想外の反撃を喰らっう。

 

 「グァ!?」

 

 床に着くことなく水平に吹っ飛ばされたポスタルが壁に叩きつけられる。ポスタルが受けた反撃、銃でも刃物でもなくただの『拳』でポスタルは鈴仙に殴られて吹き飛ばされたのだ。

 

 「バカナ!?我ヲタダノ拳デ吹キ飛バストハ。」

 

 ポスタルは鈴仙の方を向き直した。そこには別人ではないかとも思える程の殺気をポスタルに当て続けている少女がいた。彼女のトレードマークとも言える紅い瞳の紅が鈴仙の周りに殺気を具現化したようにオーラとして漂っていた。

 

 鈴仙はポスタルを見ていない。鈴仙のいつも以上に紅い双眼は正確に言うとたった一つの物だけを見ていた。

 

 「コレナラドウダ!!」

 

 いつの間にか鈴仙の後ろに配置されていたポスタルのコウモリは鈴仙の死角から攻撃できる位置にいた。死角から放たれた攻撃は鈴仙には捉えられない・・・はずだった。

 

 完全な奇襲は成功したはずにも関わらず、赤い双眼が振り返る。

 

 「ナッ!?」

 

 ポスタルが気がついた時には既に針が全て撃ち落とされ、自分のコウモリも真ん中を撃ち抜かれて転がっていた。

 

 ポスタルが次の行動に移る前に鈴仙はのび太のデザートイーグルを拾って腰のベルトに差し込みながら接近する。

 

 ポスタルはお得意のコウモリによるあらゆる方向からの攻撃を行うが、その攻撃は鈴仙の限りなく人間に近いが、限りなく人間から遠い動きが目に見えない程細い針の山の中を掻い潜ってポスタルの懐まで接近する。

 

 自らの目の前まで接近してきた鈴仙を見てポスタルは驚きを隠せなかった。先程まで全く感じられないかった殺意が、今では他に感じたことがない程の殺意を身に纏っていたからだ。

 

 だがポスタルも黙ってやられる程お人好しではない。コウモリによる援護がなくとも素での戦闘力も高い。スピードや身のこなしはハンターやケルベロスの比ではない。右腕の爪で鈴仙を迎撃する。しかし右腕は鈴仙に掠ることなく虚しく床に突き刺さる。

 

 「!?」

 

 確かにそこにいたはずの鈴仙が突如消えた。それと同時に身体の左側を強烈な拳で殴られる。吹き飛ぶと同時に鈴仙はポスタルの左腕を掴み、体全体を使って背負投げの要領でポスタルを地面に叩きつけた。

 

 「グッ!!」

 

 ポスタルは殴られるという今まで感じたことがない攻撃を受け続けて次第に焦りを感じ始めた。

 

 一方鈴仙はデザートイーグルを止めを刺すためにポスタルの頭に照準を合わせながら近づく。

 

 だがのび太と二度戦い、傷付きながらもここまで生き残ってきたポスタルは何重にも策を用意していた。先程鈴仙に殴られて壁に叩きつけられた時に既に新たなコウモリを展開しており、鈴仙の死角となる位置に待機させていた。後は完全にコウモリに気がついていない鈴仙の頭に針を撃ち込むだけでポスタルの勝ちとなる。先程と同じ手だが弱った自分を見せ、止めを刺せると思わせることに成功していたため今回は通用すると思われた。

 

 (モラッタ!!)

 

 完全に隙を付いた奇襲は鈴仙の頭を串刺しにする・・・はずだった。

 

 「!?」

 

 明らかに攻撃が見えていない死角からの攻撃に対して、鈴仙は横にステップして攻撃を回避・・・いや、攻撃する前に避けたように見えた。

 

 (何故ダ?何故アイツハ攻撃スル前ニ避ケル事ガデキル?何カヲ感ジテイルノカ?)

 

 黒いコウモリは当然目立ちにくいし、羽ばたいた時の音は進化してことによってたたなくなった。

 

 (ナラアイツハ何ヲ感ジテ避ケル事ガデキルンダ?直感カ?)

 

 音でもなければ温度を感じたわけでもないだろう。だがポスタルは一つだけ隠していない物があることに気がついた。

 

 「ソウカ殺気カ!!貴様ハ殺気ヲ感ジテ行動シテイルノダナ?」

 

 それなら今までの超反応にも説明がつく。実際に鈴仙はポスタルが出している殺気を察知して行動を起こす前に動くことができた。そのような超能力は鈴仙が元々持っている物ではない。その秘密は鈴仙が腕に着けているブレスレットにあった。

 

 (あれは僕が試験的に開発していた対生物用戦闘システム。どうして鈴仙さんが?)

 

 のび太は自分が作った偽物のゼロを絶対に負けない物に仕上げたかった。ロボットに対しては問題ない程の成果を上げたが、ゼロに搭載すべき生物に対しての戦闘システムは完全な物がなかった。今まで自分の野望を打ち砕いた者は全てロボットだったからだ。そこでのび太はロボット破壊プログラムを戦闘能力の高い人間に対しても発動するように別に作った。それがあのブレスレットだ。

 

 対峙した人間の脳波を電磁波として捉え、その中のいわゆる『殺気』を判別し敵の位置の特定や攻撃の瞬間を察知して回避するといった予知能力のような能力をロボット、またはブレスレットを装備した人間に与える物だった。

 

 しかしこのシステムは一度起動すると敵味方の区別なく攻撃したり、人の場合は脳に膨大な戦闘データを直接インプットするわけだから、後遺症が残ったり廃人になったり、最悪の場合死に至ると予想された。ロボットの場合は発動すると、ロボット自体がオーバーヒートするまで無差別な殺戮を行ってしまうという問題が残った。それまでの間に敵を殲滅出来ればいいのだが、オーバーヒートまでに五分と掛からなかった。

 

 そのためのび太はこのシステムの開発を断念、及び封印せざるを得なくなり、ゼロにはロボット破壊プログラムだけを取り付けた。

 

 (なんてことだ・・・あれも幻想入りしていたのか。)

 

 だが鈴仙の様子を見る限り明らかにポスタルだけを攻撃し、こちらへの攻撃を自らの意思で抑制しているように見えた。

 

 いくら妖怪と言えども、直接脳に電磁波を流されたら正気を保っていられない。それを防ぐために鈴仙は己の能力『波長を操る程度の能力』を併用して発動、電磁波が脳に与える影響を極限まで抑え、システムを完全に使いこなしていた。

 

 (やはり彼女こそ僕が求めていた最強か。)

 

 のび太は自分など疾うに越していた鈴仙の後ろ姿を見て任せていいと思い始めた。鈴仙の背中を見た時、鈴仙に違和感を感じた。

 

 (背中の狙撃銃がない?)

 

 背中にあるはずの狙撃銃がないのだ。代わりにのび太のデザートイーグルを持っていたが、落とした様子は見られなかった。

 

 その時、鈴仙が背中で左手をポスタルから隠して何かをしていた。

 

 (なるほど、そういうことか。)

 

 それはのび太と鈴仙が遊びの一環として決めていた指を使った簡単な合図だった。現在のび太は完全にポスタルの意識から外れていた。今の鈴仙相手にのび太の方に集中力を割ける程の余裕は残っていないのだろう。

 

 のび太は体の中の神経毒が抜けていることを確認して、自分の体のすぐ隣に置かれた、正しく言うと鈴仙が置いた対物狙撃銃、バレット M82を手に取ってポスタル相手に一撃で仕留められる隙を鈴仙が作るまで息を潜めて待った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「フハハハハッ!!イイゾ!!貴様ヲ取リ込メバ我ハ更ニ完全ナ存在ニナレル!!」

 

 目の前の敵わない相手を前にして絶望したのか、それとも勝てる自信があるのか、ポスタルは高笑いを繰り返す。

 

 「サア、我ト同化シロ。ソシテ更ナル高ミヘ!!」

 

 「言葉は通じても、話も思想も理解できないわね。」

 

 システムを起動して以来、ずっと口を閉じていた鈴仙が口を開いた。

 

 「貴方如きに簡単にあげられる命なんて持っていないわよ。私も、あの人も!!」

 

 デザートイーグルが火を噴きポスタルの両手両足を撃ち抜く。ポスタルは体を支える物が負傷したことによって床に這いつくばることになる。

 

 「コノ程度デ我ハ死ナン!!マタ再生スルダケダ。」

 

 デザートイーグルで開いた穴が塞がり始めていた。後一分も立たずにポスタルは完全に復活するだろう。

 

 「その程度では死なないでしょうね。でもね、私一人で勝負を決める必要なんてありませんよね?」

 

 鈴仙は射線を開けるようにその場から後ろに引いた。鈴仙がその場から退くと、その後ろにはバレット M82をポスタルの頭に照準を合わせて待機していたのび太がいた。

 

 「貴様!?モウウゴケ・・・」

 

 ポスタルが話し終えるよりものび太が引き金を引いてポスタルの首から上を吹き飛ばす方が早かった。指令を出していた頭が吹き飛んだことでポスタルの指示でのび太達を攻撃していたコウモリが完全に動かなくなった。放っておいても死んでいただろうが、これでポスタルが完全に死んだ事が確認出来たことに代わりはない。

 

 「その傲慢さを償え・・・ポスタル。」

 

 完全に動かなくなったポスタルの死骸を一瞥しながらのび太はそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「脅威の排除を確認。ドアのロックを解除します。」

 

 部屋から出たのび太達は真っ先ににとりに連絡する。

 

 「にとりさん。こっちは目的を達成しましたよ。」

 

 「ワイリーか!?連絡が遅くて心配したよ!!カメラも映らなかったし。」

 

 すぐににとりが大声で返事を返して来たため返って安心した。

 

 「ちょっとしたアクシデントがありまして・・・それよりそこから今僕達がいた部屋の扉ってロック出来ますか?」

 

 「出来るけど、どうして?」

 

 「この部屋から出したくない物がありまして。」

 

 「なるほど、もうやっておいたよ。」

 

 振り向くと今さっき出て来たドアが音を立てて閉まり、ロックを知らせる音がなった。

 

 「それより、もう帰ってくるんだろう?帰りは気を付けてね。学校の保健室に紫がスキマを用意しておくだってさ。」

 

 そう言い残してにとりとの通信が切れた。

 

 「さて、帰りましょうか。」

 

 「はい・・・」

 

 鈴仙から返事が返ってくるがその返事に元気がない。脳に直接影響を与える電磁波を弱めながら戦っていたのだ。身体的にも精神的にも妖力的にも限界だということがわかる。

 

 「先に行っていてください。後から行きますから。」

 

 鈴仙はそう言っているが、今にも倒れそうな表情で言われても説得力がない。

 

 「どっこいしょっと・・・」

 

 のび太は歩くのも辛そうな鈴仙をお姫様抱っこで運び始めた。

 

 「えっ?ちょっと!!」

 

 鈴仙は顔を赤くしながら慌てていた。先程までのクールな彼女はそこにはもういなくなっていて、代わりにか弱い少女が一人いるだけだった。

 

 「降ろしてください!!一人で歩けますよ!!」

 

 「まあまあ。今回鈴仙さんが一番頑張ったんですから僕にもこれくらいさせてくださいよ。」

 

 (うぅ・・・恥ずかしい・・・)

 

 のび太と鈴仙は互いを信頼し合ってるからこそ、常に死と隣合わせのこの街の中で冗談を言い合えるのだろう。

 

 二人は元来た道を戻ることに対して恐怖は感じなかった。根拠は何も無かったのだが、何故か二人でいれば絶対に死なない。のび太も鈴仙もそう思い始めていた。

 

 二人は地獄からの脱出と異変の解決という修羅場を生き残った。




異 変 解 決

鈴仙が今回使ったブレスレットの能力の元ネタは『機動戦士ガンダム外伝 THE BLUE DESTINY』の主人公機に備わっている『EXAMシステム』を元にして書きました。

鈴仙とブルーディスティニーを始めて見た時から「あれ?この二人の共通点多くね?」と思いまして今回いい機会だったので書いてみました。

ほら、どちらも目が紅いし、鈴仙は元は『狂気を操る程度の能力』とEXAMシステムも人が作った狂気の一つだし、目以外は蒼いという共通点もあるしね。

(え?鈴仙の髪は薄紫色だって?言わなきゃバレないって)
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