ただ啓蒙の低い私はおもむろに空いっぱいに手を広げた。
『十字架にかけられたイエスのポーズ』
死
「う、ああ、う……ここは?」
とても真っ暗なところに一人で立っている。
当然何かが見えると言うことはなく、彼にあるのは恐怖である。
「ああ、貴公、ここは何処だ?」
だからこそ、人影を見ると話しかけた。
だが、顔は酷く歪む。
頭にあの刺刺した虫を被っている。そして、なによりも太陽印の鎧をきている。
「うわぁ!」
「…俺が太陽だ…」
そして襲いかかってきた。
乱雑な一撃、きっと彼にとって倒せる簡単な相手だろう。
ーーーーー
「ひいっ」
だが、先ほどからただ避けたり逃げるだけで反撃をしない。
「何なんだぁ」
きっと彼には恐ろしいのだろう。
狂った自分の姿が。
深いこの深淵が。
何か蠢く物が湧く世界が。
だからこそ、
「ああ、貴公……!うわぁ!」
人の形に助けを求め、簡単に裏切られる。
次第にその数は増していき、彼の周りには8体もの狂った自分の姿がいる。
そのどれもが自分に襲ってくる。
ーーーーー
「ソラールさん!」
「ま、まるゆ⁈入渠は?って、ああ、そうか。まるゆだったな」
水面を駆けて走ってくる。
確かに今の彼を相手にするのでは、装甲よりも回避の方が重要だろう。
あのレ級と戦えたまるゆなら可能性は高いだろう。だが、
「お前、弱い状態じゃないか」
髪や瞳は黒く、通常の見た目だ。
「一発だけなら平気です」
「って、それじゃあ中破じゃないか」
「それに、私に責任があります」
「そうか。だが、その責任とやらに呑まれるなよ」
「?」
「いいや、昔の話だ。気にするな。行け!」
「はい!」
ソラールに向かって走っていった。
「軽巡棲鬼、まるゆの援護だ。あいつが囮になるらしい」
遠くで彼の剣をバックステップで躱している軽巡棲鬼に向かって戦艦水鬼が叫んだ。
ーーーーー
「ひぃ、いつになったらこの悪魔から醒めるんだ!」
彼の体力はもう底をつきかけている。
あの狂った自分達の波に呑まれる。
そして死んだ。
「な、なんで。ひぃ!」
しかし終わらない。初めからである。先ほどと変わらずひたすら逃げるだけである。
彼は気付くべきなのだ。
ーーーーー
「『再起動』」
後ろに滑りながら、屈んで力を巻き起こす。
「…なんだ。掴んだの?」
「ええ、過去は踏み台です。重りじゃないです。きっと皆んなそう願っています」
先ほどと同じく輝く粒子を纏いながら緋色の覚悟した目で拳を握った。
不意に隣の声が変わる。
「良い。実に良い。決してねじ曲げるな、まるゆ君」
「た、隊長⁈」
思わず隣を見る。しかし、そこに居たのは軽巡棲鬼だ。
「残念!ただ声真似しただけです」
「⁈このやろう。あとでとっちめてやる」
まるゆが海面を蹴って前に跳ぶ。
にしし、と軽巡棲鬼が笑う。ボイスレコーダーをスカートのポケットにしまいながら。
「はぁ、どいつもこいつもぶっ壊れ性能だな」
「お前が言う話じゃないだろ」
「戦艦水鬼!」
「サポートっても誤射しかねない。せいぜい危ない時の盾になるか」
「隙を見て叩き込みましょう。そんな事、あの子も分かってますよ」
「そうか」
じっと、まるゆを見つめている。底知れない何かをあの子も持っている。
それを見極める為に。
「とりあえず応急処置はしときますね」
「すまない」
気を利かせた軽巡棲鬼が簡易的な補強を施す。
その間もまるゆとあの男は激しい戦いをしている。まさしく、超人同士の争いといったところか。
太刀筋を見極めてギリギリで回避し、その先に殴る。距離を取ればあの雷とまるゆの腰にあるリボルバーで戦う。
砲を持って構える戦闘ではない。
「あれに、入る隙ってあるか?」
「ないと思う」
「はぁ」
二人はため息をする。
ーーーーー
「くそう。ここは何処なんだ」
必死に自分から逃げる。
腰につけた剣を抜かずに。
「…。え…」
背中から剣が突き刺さっている。
当たり前だ。敵に背後を見せるなとよく言われるだろう。
地面に振り落とされ、そこに沢山の自分が襲いかかってくる。一人を蹴り飛ばしても、群がる虫の如く押し潰された。
「何なんだよぉ!」
そして、初めから。
醒めることのない悪夢。
だからこそ、悪夢に向き合うべきだと。
ーーーーー
「ソラールさん!目を覚ましてください」
「ヒノヒカリハトドカナイ」
「ソラールさん!ソラールさん!」
「エエイ、ナニモイラナイ!」
まるゆは弾き飛ばされ、身体にあの太陽の光の槍をくらう。
そんな事は気にせず立ち上がり、再び男に飛びかかる。
「ヒノヒカリナンテ、タイヨウナンテナインダ!」
再びがむしゃらに暴れ始める。ひたすら後ろへステップして回避する。
「…ソラールさん」
まるゆは気づいてしまった。彼の背負ってきた過去に。
ならば…
「…」
もう言葉は出ない。
本当の真剣勝負が始まった。
ソラールの大振りの攻撃を、ナイフで弾いてその隙に殴る。
まるゆが殴る前に体勢を立て直し、後ろへステップする。
空かさずリボルバーを撃つ。
ステップで回避。から、太陽の光の槍を放つ。
横に避けた後、海面を蹴り、思いっきりナイフを突き立てる。
それを太陽の盾で防ぎ、直剣で突く。
直感的な力と短距離を素早く動く術が無ければこのような戦いは生まれないだろう。小柄な陸の艦だからこそ出来る動きであった。
ーーーーー
「ひぃ!まただよ。助けは、居ないのか…」
「ソラールさん!」
まるゆの声が不意に聞こえる。
「ああ!ここだ、助けてくれ!」
大声で叫ぶ。
しかし帰ってきた声は
「目を覚ましてください」
である。覚ます?目を?
「聞こえないのか?ここだ!ここだ!」
助けを求めるが返事は変わらない。
「ソラールさん!」
「お願いだぁ。助けてくれぇ」
「ソラールさん!」
「助けてくれぇ、真っ暗で、よくわからない自分が襲ってきて、だんだん増えて、何なんだよぉ。助けてくれぇ」
「ソラールさん」
先程の叫び声ではなく弱々しい声だ。
「見捨てないでくれぇ」
叫びは虚しく、深淵へと消えていった。
そして気がつく。
「…。そもそも何なんだ?ここは…確か、まるゆと島の外に出て…違う。その後に…」
ーーーーー
戦艦水鬼と軽巡棲鬼が双眼鏡を覗いている。
「…なんか、苦しみ出したぞ」
「うむ…謎、…じゃないですね」
「ああ。私達と同じだ」
「解放されたんですかね」
「どうだろうか?」
「そんな曖昧な回答じゃ無くてですね」
「そう言われてもな。私達とあの男、根本が違うかも知れないし、何より私達よりも深い域に達している。どうなるか分からないさ」
「まぁ、初のデータが取れます。少なくとも、今後、彼のような人が出た場合に」
「ああ、存分に取っておけ。お前の趣味だろう?メカニックさん」
軽巡棲鬼はそう呼ばれてニッコリと笑う。
ーーーーー
「その後沈んで…沈む?違う。大破だ。ならこの空間は…あの世ではない?」
そう考える隙に狂った自分が襲いかかってくる。
それを簡単にあしらって、また考え込む。
「あの後何を見た?違う。思い出したんだ。ああ!思い出した!」
切り掛かって来たやつを盾を使って攻撃し、体幹を崩させる。そこに素早く二連撃。
「廃都イザリスじゃない、太陽を手にしたわけじゃない。この手に掴んだのは」
おお、貴公!どうやら亡者では無いらしいな
俺はアストラのソラール。見ての通り太陽の神の使徒だ
不死となり、大王グウィンの生まれたこの地に俺自身の太陽を探しに来た!
…変人だ、と思ったか?まあその通りだ
気にするな、皆同じ顔をする
ウワッハッハッハハ
ーーーーー
「ソラールさん?どうしたんですか…もしかして、まるゆが轟沈させちゃった…」
「キコウ、私…オレ…」
鎧がチリとなり、風に飛ばされ消えていった。
不意に脚に力が入らなかったのか倒れ込む。
「ソ、ソラールさん!」
まるゆが慌てて抱え込む。
「ハハハハ、俺はやったんだ。なっていたんだ。タいヨ…う…」
「ソラールさん?ソラールさん!」
慌てて寄り掛かっているソラールを激しく揺らす。
「ちょ!おい馬鹿!」
そんなまるゆを後ろから押さえ込む。
「あんなに揺らしたら普通は死ぬぞ。特に今はお疲れのようだ。優しくしてあげて」
戦艦水鬼が優しく諭す。
まるゆは落ち着き、ソラールを戦艦水鬼に預けて前へ進んでいった。
今の彼女は残りHP 2。中破であった。
オリ設定
深淵(ソラール)
彼の過去が重なって産まれた場所。彼の深層心理。
とても暗く、冷たく、また狂った自分が襲ってくるのはまさに彼が彼自身の過去の怨嗟に呑まれた結果である。
だが恐れる事はない。この暗がりに蠢くものがあっただろうか!だからこそ、太陽の時だ。
特殊艦隊の特殊事情
特殊艦隊の深海棲艦部隊は深海棲艦でありながら人類の味方であり、他の深海棲艦の敵である。
本来、深海棲艦を艦娘が撃破する事で、肉体ごと怨嗟から解放され、再構築された体に解放された純粋な魂が入り込む事で艦娘になる事が時々ある。また、積もった怨嗟を純粋な思いに変える事で経験値となる。
だがしかし、特殊艦隊の深海棲艦部隊は某ヤンチャな人に倒され、怨嗟から解放されたものの、肉体と魂の再構築が行われ無かった為、深海棲艦でありながら、怨嗟に呑まれていない艦娘の魂を宿すに至った。純粋な物に再構築していない為、いくつかの艦娘の魂が入っている個体もいる。
これはごく稀なケースであり、総司令官でなければ無理だろう。